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2014年10月 文献タイトル
細胞内の「鎖」役割解明 甲南大、RNAでウイルス制御
入院患者の自殺を防ぐ 米国には報告制度、日本の詳しい実態は不明
肥満で乳がんの危険増大
がん・ステージ4を生きる 笑顔で過ごしたい 反響特集 100人100通り、共感の声
がん治療薬の効果確認 米シカゴ大の中村教授ら
がん予防 食品編 サプリメント、確実な効果なく
病原菌の細胞攻撃を解明 北大など、がん新薬に期待
抗がん剤:がん細胞狙い打ちに カプセルで効率よく運搬 目印認識、副作用も軽減 岡山大、岡山理科大など開発成功

細胞内の「鎖」役割解明
甲南大、RNAでウイルス制御
 甲南大学先端生命工学研究所(神戸市中央区)は、生物の細胞内に存在するリボ核酸(RNA)の末端部分が、RNA自体の「2重らせん構造」をほどく役割があることを解明した。RNAは、がんやエイズなどに対する新しい治療薬としての利用が期待されており、研究成果が効果的な薬剤開発につながる可能性があるという。

 同研究所の杉本直己所長、建石寿枝助教による成果で、独科学誌に掲載された。

 RNAは、生命の“設計図”に当たるデオキシリボ核酸(DNA)の遺伝情報を基に、タンパク質を作る働きを持つ物質。DNAと同様、2本の鎖がらせん状にからんだ構造のものがある。

 グループは、RNAの末端にあり、鎖が1本になった「ダングリングエンド」と呼ばれる部分の働きを研究。細胞内に近い環境では、RNAを不安定化させ、鎖をほどくことを明らかにした。

 エイズウイルス(HIV)などの治療薬として注目されるRNA創薬は、RNAを標的となるウイルスのRNAに結合させ、働きを抑制する。その際、薬となるRNAの鎖をほどく必要があり、従来はタンパク質が用いられてきた。ダングリングエンドの機能を生かせばタンパク質が不要となり、より効率的な薬を低コストで開発できる可能性がある。

 杉本所長は「ダングリングエンドの役割が明らかになり、治療薬開発の指針ができるのではないか」と話す。

m3.com 2014年10月6日

入院患者の自殺を防ぐ
米国には報告制度、日本の詳しい実態は不明
 内閣府などの自殺統計(2013年)によると、国内の自殺者2万7283人のうち、原因や動機に病気など健康問題を含む人が半数を占める。このため、病院は自殺が起きる危険性が高い場所であるとして、入院患者の自殺を防ぐための取り組みが進んでいる。

●病院協が研修会

 「男性の病棟での様子を見て、自殺につながるサインを見つけてください」

 会場で上映されたビデオでは、体調不良で会社を休みがちという想定の40代男性が、病院のベッドでうつむいている。参加者たちは、男性の気になる行動を指摘し合い、「窓から下の方をのぞき込んでいる」「口数が少なく無気力な感じ」「妻がいるときと、一人のときの様子にギャップがある」などと、グループごとに発表した。

 日本医療機能評価機構の認定病院患者安全推進協議会が8月下旬、東京都内で病院内の自殺予防のための研修会を開いた。発表を聞いた講師の大塚耕太郎・岩手医科大特命教授は「患者の出すサインへの感度を上げることが支援の出発点になる。その情報を皆で共有し、検討することが大事だ」と解説した。

 研修会には全国の病院担当者約30人が参加し、2日間で自殺予防の基礎知識▽自殺の起きやすい場所の確認と対策▽患者の話を傾聴する実習▽自殺が起こった場合の遺族や医療スタッフへのケア――などを学んだ。講師は自殺対策や医療安全管理の専門家、精神科医らが担当する。2012年から年2、3回実施している。

 研修会開催のきっかけになったのは、同協議会が05年、会員1048病院(調査時点)に実施した病院内の自殺についてのアンケートだ。米国では、自殺を含む病院内の重大事故の報告制度があるが、日本では入院患者の自殺の実態は把握されていなかった。

●半数に予兆や変化

 「過去3年間に入院患者が自殺した」と答えたのは、精神科病床のある病院では、回答のあった106病院のうち70病院(66%)。発生数は計154件だった。一般病院(575病院)でも29%にあたる170病院で、計347件が発生していた。

 一般病院での自殺者の主病名で最も多かったのは「がん」(35%)。精神科疾患(13%)、整形外科疾患(9%)、脳神経疾患(7%)が続いた。自殺の場所は「病棟内」(42%)が多かった。「死にたい」と口にする▽心身の症状の悪化や不眠傾向が続く――などの予兆や変化が、自殺者の半数にあった。これらは、適切な対応をしていれば、自殺を防げた可能性を示していた。

●講習会実施は5%

 また、一般病院で患者の自殺予防の講習会を実施しているのは、5%にとどまっていた。このため、専門家が集まって研修プログラムや教材を作成した。

 中心になった河西千秋・横浜市立大教授(精神保健学)は「病院での自殺の問題はタブー視されがちであり、病院全体の取り組みが必要だ。研修の参加者が学んだことを病院全体に広めて、対策につなげることが大切。それが患者を守るだけではなく、医療関係者が精神的な衝撃によって心の病気に陥るのを防ぐ」と指摘する。研修を受けて、対策につなげる病院もある。同協議会は来年度、病院内自殺の実態や予防対策について、再調査を実施する予定だ。

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◇自殺を起こす恐れのある要因

▽訴えや態度

・死に傾く気持ち

・絶望感、無力感

▽既往歴・家族歴

・自殺未遂、自傷行為

・家族、親族の自殺

▽症状や病気

・精神疾患

・がん

・慢性、進行性の身体疾患

・身体機能の喪失

▽生活環境・出来事

・親しい人との離別や死別

・失職や経済破綻

・孤立

・自殺報道や情報への接触

 
(河西千秋・横浜市立大教授の資料を基に作成)

m3.com 10月9日

肥満で乳がんの危険増大
 閉経前、閉経後ともに、肥満が乳がんの危険性を増大させるとの研究結果を、国立がん研究センターの笹月静部長らのチームが欧州のがん専門誌に発表した。約18万人の日本人を平均12年間追跡したデータを解析した。

 体格指数(BMI)が中高年女性の目標値内である23以上25未満の人に比べ、閉経前でBMIが30以上の人は乳がんになる危険が2・25倍になった。閉経後の人ではBMIが1上がるごとに危険性が5%ずつ上がった。

 ただ、痩せすぎると栄養不足で感染症にかかりやすくなるなど別の心配が出てくる。チームは「健康のため、BMIは21以上25未満を目指してほしい」としている。

m3.com 2014年10月21日

がん・ステージ4を生きる 笑顔で過ごしたい 反響特集
100人100通り、共感の声
 進行がんを抱える患者が、より穏やかに日々を送るためにはどうすればいいのか。連載「がんステージ4を生きる」(8月19日から6回)に、読者から多くの反響が届いた。進行度が最も重い「ステージ4」でも通常の暮らしを送る患者の姿に「励まされた」という声や、がんを患う読者からは自らの悩みなども寄せられた。その一部を紹介する。

●壊れたおもちゃ

 「患者が100人いれば100通りのがんがある」

 ステージ4の乳がん患者である記者の実感をこう書いたところ、多くの患者やその家族から共感の声が寄せられた。部位や個人により病状は違い、抱える問題もさまざまだ。医療機関や医師に対する不信感も目立った。

 「今年、悪性リンパ腫を再々発。いつ死ぬのだろうと絶望感に襲われますが、私が治療を受けている病院には精神的ケア体制がありません。医師は患者の体しか見ていない。多忙とはいえ、まるで壊れたおもちゃを扱うような態度に、日本の医療とは何だろうと思います」=女性(68)

 「乳がんのステージ4です。いくつかの病院で診察を受け、今さらながら気づきました。治療の選択は医師がするものであり、患者側には選ぶ権利もないことを。根治不能なのであれば、ガイドライン(治療の指針)やエビデンス(科学的根拠)などより個々人の死にゆく姿を想像してほしいです」=長野県上田市、女性(51)

●早期でも悩み深く

 反響は、ステージ4以外の患者からも多く届いた。悩みや苦しみは、ステージが低ければ軽いというわけではない。

 「3年前に右胸、今年は左胸の大部分を乳がんで失いました。男ばかり4歳から12歳まで4人の子どもがいます。ステージでいえば1と0でも、体に大きな傷が残り、動かすたびに痛い。異形のものに成り果てた、というのが正直な気持ちです。周囲の人は『早期で発見されてよかったね』と。無神経だと思います。どんなにつらくても誰にも言えない。仕事、家事、子どもの世話。自分のための時間がない私に、患者会に参加する暇などありません。早期発見でも、術後に1人で悩むしかない。そんな患者もいることを知ってほしい」=女性(47)

 病を得たことを肯定的にとらえる声もある。

 「病気になったことで、当たり前だと思っていた日々の生活が、実は当たり前ではなく、いかにありがたいかを知ることができました」=東京都小金井市、清水映美子さん(55)

 「その時々の『今を生きる』を大切に、『あの時、こうしておけばよかった』ではなく、『やっておいてよかった』と笑顔で人生を終えたい」=奈良市、野村佳子さん(54)

 ◇常に「今」大切に 奈良市の野村さん

 野村さんはステージ4の膵臓がんで、闘病6年目の昨年、自ら患者会を作ったという。野村さんを訪ねた。

 「節目の日に取材を受けてうれしい」。野村さんは明るく口を開いた。前日に、薬剤師の仕事を辞めたという。治療を始めた際もいったん職を離れたが、まもなくパートとして再就職。自分の体調が悪い時も、薬局に来た患者に「お大事に」と薬を手渡すと、自然と笑顔になった。心から好きだった仕事に別れを告げるのが、つらくないはずはない。

 2008年に病が発覚。夫(57)や2人の息子に支えられながら、仕事以外にも生きがいを見つけようと、がん患者らが交流や相談ができる「がんサロン」に通い、同じがん患者の精神的サポートにあたる「ピアサポーター」の活動も始めた。手術後の抗がん剤治療で、がんの進行でたまった腹水や胸水もいったんなくなったが、3年後に再発。放射線治療を受けたものの腫瘍は残った。

 しかし、野村さんは歩みを止めなかった。同病の人にエールを送るべく、仲間とがん患者の手記を集めた冊子を発行。そして昨年3月、がん患者会「NCN(奈良キャンサーネットワーク)若草の会」を設立した。会報の編集に交流会、講演会の企画・運営のほか、会員からは治療の悩みももちかけられる。仕事や家事も含め、何役もこなす日々が続いた。

 今年に入り、緩和医療医から「限られた時間の中、あなたにしかできないことに絞ったほうがいい」と言われた。抗がん剤治療は、自宅から電車で約1時間の病院で受けているが、同時に、車で15分の緩和医療が受けられる病院を探し、通うようになった。今年5月から始めた抗がん剤は副作用が強い。自宅で寝ていると家族に心配をかけるため、投与後の数日は入院することにした。患者会の仕事も、実務の一部は他の役員に任せて、薬剤師の仕事も辞めた。

 今までこなしていたことが、徐々にできなくなる。夫や主治医からは「そんな自分を受け入れることも大切」と言われ、今はその言葉をかみしめている。野村さんは「いろいろなことが起こります。でも、常に今を大切にすることが大事だと思っています」と言い、前を見据える。

 ステージ4の患者の闘病は一様ではない。しかしどの患者にも必要なのは、医療者であれ家族であれ、気持ちを受け止め、時に道を示してくれる存在ではないだろうか。

m3.com 2014年10月23日

がん治療薬の効果確認 米シカゴ大の中村教授ら
 開発中のがん治療薬が、特定のタンパク質の働きを邪魔して肺がん細胞を消滅させる効果があるのをマウス実験で確かめたと、米シカゴ大の中村祐輔教授らのチームが22日、米医学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシンに発表した。

 このタンパク質は乳がんなどさまざまながん細胞の増殖を促していることが知られている。中村教授は「マウス実験でもこれほど効果があるのは珍しい」としており、来年秋にも人に投与した際の安全性を確かめるための臨床試験をシカゴ大で開始する予定だ。

 この治療薬は、川崎市のバイオベンチャー「オンコセラピー・サイエンス」が開発した「OTS964」。同社は中村教授の研究を受けた分子標的治療薬を開発している。

 チームは、悪性度が高い人の肺がん細胞をマウスに移植。ある程度の大きさまで増殖させた後で薬を投与すると、がん細胞が縮小して約4週間後にはほとんど消滅した。薬には副作用もあるが、投与方法を工夫することで軽減できるとチームはみている。

m3.com 2014年10月23日

がん予防 食品編 サプリメント、確実な効果なく
 がん予防に役立つとにおわせるサプリメント(栄養補助食品)は多数市販されているが、どこまで予防につながるのだろうか。

 がん予防とサプリメントを考える上で参考になるのが緑黄色野菜に含まれる赤い色素のベータカロテンの研究事例。がん予防につながる抗酸化作用があることから、フィンランドや米国、中国で、喫煙者や一般住民を対象に、通常の食事から摂取する10倍前後のベータカロテンのサプリメントを摂取してもらい、肺がん予防に効果があるかについての大規模な臨床試験が行われた。

 予想に反して、ベータカロテン単独では予防効果は認められなかった。フィンランドや米国の試験では逆にベータカロテンの摂取群で肺がんになる人が多かった。野菜摂取はがん予防になるが、野菜に含まれる抗酸化物質を通常より多く摂取しても、必ずしもがん予防にならないというわけだ。

 しんきゅうや漢方も含めた代替医療とがんの研究に詳しい大野智・帝京大学特任講師(腫瘍免疫学)は「さまざまな試験報告の総合的な評価結果を見る限り、がん予防に確実に効果のあるサプリメントはない」と話す。

 厚生労働省の研究助成金を得て、約20人の専門家がサプリメントやしんきゅうなど代替医療の有効性などをまとめた「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」(2012年)では、「がん予防のために健康食品やサプリメントは推奨できない」と記している。

 同ガイドブックでは、このほか、サメの軟骨、メシマコブなどのキノコ類、プロポリス(ミツバチがつくる樹脂状の固形天然物)などのサプリメントについてもふれ、「人を対象にした過去の数々の臨床試験の総合評価では、確実にがんを予防したり、治したりする科学的な証拠は得られていない」と述べている。

 しかし、サプリメントの摂取が無意味なわけではない。代替療法の研究が進む米国では、がん患者の症状の改善に効果があるという研究報告が出ている。

 例えばアメリカニンジンのサプリメントの摂取は、がん患者の倦怠感を改善させることが分かった。

 大野さんは「抗酸化作用をもつサプリメントが、がんの再発や生存期間の延長には効果がなくても、抗がん剤の副作用の軽減に役立つという報告もある」と話し、まずは信頼できる情報を基に医師などと相談しながらサプリメントを利用するのがよさそうだ。

 サプリメントなど代替療法と健康に関する情報は、厚生労働省の「『統合医療』情報発信サイト(http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/about/)」▽国立健康・栄養研究所の「『健康食品』の安全性・有効性情報」などが役立つ。

m3.com 2014年10月29日

病原菌の細胞攻撃を解明 北大など、がん新薬に期待
 病原菌が狙った細胞に取り付き「膜孔」と呼ばれる穴を開けて攻撃するメカニズムを突き止めたと、北海道大や東北大などの研究チームが29日までに、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズの電子版に発表した。がん細胞などに的を絞って破壊する薬の開発につながる可能性があるという。

 研究を主導した北海道大大学院先端生命科学研究院の田中良和教授によると、今回の研究は黄色ブドウ球菌が毒素になるタンパク質を分泌し、赤血球に穴を開けて破壊する経過を解析した。

 毒素は赤血球の表面に取り付いた後、まずドーナツ形に変形し、さらに中央部から筒状の組織が下に伸びて赤血球の細胞膜に穴を開け始め、最後には貫通したという。

 今回の解析には兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」や、茨城県つくば市にある放射光施設「フォトンファクトリー」を使用した。

m3.com 2014年10月29日

抗がん剤:がん細胞狙い打ちに カプセルで効率よく運搬 目印認識、副作用も軽減
岡山大、岡山理科大など開発成功
 岡山大の妹尾昌治教授(生物工学)、岡山理科大の浜田博喜教授(生物化学)らの研究グループは、さまざまながんの治療に使われる抗がん剤「パクリタキセル」を小さな人工カプセルに封じ込め、がん細胞内に効率よく送り込む技術の開発に成功した。カプセルにはがん細胞を認識する抗体を付けており、がんの進行だけでなく抗がん剤の副作用も抑えられる、と期待されている。

 パクリタキセルは、乳がんや肺がんなどに対する代表的な抗がん剤として1990年代から使われている。だが、水にほとんど溶けず、ひまし油とエタノールに溶かさなければならない。また、吐き気や脱毛などの副作用も伴うという。

 こうした問題を受け、研究チームは、抗がん剤にブドウ糖の分子を付けることで、水に溶けやすくなるよう加工。加工された抗がん剤を、人工脂質膜の「リポソーム」という球状カプセルに封じ込めることに成功した。

 この脂質膜は、水に溶けるものしか入れられない特性を持ち、直径約100ナノメートル(ナノは10億分の1)と小さい。そのため、毛細血管が詰まるなどといった心配もないという。さらに、研究チームは、この膜の表面にがん細胞を見分ける抗体物質を付けることで、がん細胞だけを標的にできるようにした。

 ヒトの大腸がん細胞を移植したマウスで実験したところ、通常のマウスはがんが成長し、1カ月以内に全て死んだ。一方、抗がん剤入りのカプセルを投与したマウスは、致死量相当分を投与しても、半数が3カ月間生き延び、がんも大きくなっていなかったという。

 妹尾教授は「カプセルを過剰に投与すると、肝臓を介して胆汁として腸管へ排出される。そのため、カプセルに封じ込められた抗がん剤も分解・排せつされ、副作用を抑えられる」。浜田教授は「他の抗がん剤にも応用すれば、抗がん剤で苦しむ多くの人々を救う画期的なシステムになるはず」と話している。

m3.com 2014年10月30日