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2013年9月 文献タイトル
感度6千倍のMRI造影剤開発 九大の研究グループ
がんペプチドワクチン専門の講座設立 和歌山医大
腹部を2カ所だけ切り胃など切除 減孔式腹腔鏡手術 傷痕目立たず患者の負担減
血液1滴で膵臓がん診断 神戸大など成功
内視鏡手術ロボット:「ダヴィンチ」、大腸がん摘出成功 60代男性患者、順調に回復し退院
男性シフトワーカーは前立腺がんの高リスク集団
微小カプセルで脳腫瘍治療 東大チーム、マウスで実験

感度6千倍のMRI造影剤開発 九大の研究グループ
 体を傷つけず体内を診断できる磁気共鳴画像装置(MRI)で、従来の約6千倍の感度があり、高感度の持続時間を約20倍に延ばせる「造影剤」(臓器や疾病などを見やすくするために用いる検査薬)を、九州大稲森フロンティア研究センターの山東信介教授らの研究グループが世界で初めて開発した。11日、英科学誌「ネーチャーコミュニケーションズ」(電子版)に掲載された。山東教授は「実用化できれば、がんや脳の疾患などの早期発見・診断ができる」としている。

 放射線を使わないMRIは、体を傷つけずに体内の疾患部分を画像化できる利点がある一方、感度が悪い欠点がある。

 造影剤を静脈に注射する従来の方法では感度があまり上がらず、欧米などで研究が進む高感度の造影剤を使っても、はっきり見える時間が40秒前後にとどまるなどの課題が残っていた。

 山東教授らは、がんの進行度や悪性度を診断できる酵素などを高感度で捉える造影剤の基本分子構造を開発。人の血液を使って実証実験を繰り返し、高い感度を長時間維持できることを確認した。

 実証実験では、既存の造影剤と比べ、感度が約6千倍に向上。感度は時間とともに低くなるものの、約800秒後でも、従来の約2千倍の感度を維持したという。

 山東教授は「今後は生体での実証実験を通して、副作用がなく安全な基本分子を開発していきたい」と話した。

m3.com 2013年9月12日

がんペプチドワクチン専門の講座設立 和歌山医大
 和歌山県立医科大学は今月、新しいがん治療法「がんペプチドワクチン治療」専門の研究講座を設立、製薬化に向けたデータを収集しながら患者を治療する臨床試験を開始した。既存の治療法では治らない「がん難民」から早期製薬化への期待が高まっている。

 講座は、県立医科大外科学第2講座の山上裕機教授ら医師3人を中心につくる。患者団体「市民のためのがんペプチドワクチンの会」(東京都国立市)が、ワクチンの開発研究を促進しようと、寄付による専門講座設立を依頼。県立医科大は昨年12月に準備室を設置、同会から開設資金500万円の寄付を受け、9月1日に正式に設立した。患者団体による寄付講座は日本初という。

 がんペプチドワクチン療法はもともと人が持つ免疫力を高める療法。体内には「キラーT細胞」(CTL)が、がん細胞の表面に目印として現れる「ペプチド」を標的にして攻撃する仕組みがある。しかし、CTLに情報を伝達して指令を出す「樹状細胞」がうまくペプチドを発見できない場合がある。そこで、人工的に合成したペプチドワクチンを投与し、直接的に樹状細胞にペプチドの情報を認識させる。免疫力を利用するため、抗がん剤のような即効性はないが、効き目が長く持続する上、副作用はほとんどないと考えられている。

 この療法は、世界で研究が進められており、特に「標準治療」と言われる手術、放射線治療、抗がん剤治療に続く第4の治療法として期待が高まっているという。一方で、ワクチン治療を受けたい場合、これまでは製薬化に向けた試験に高齢者(81歳以上)らが対象外とされる場合があった。

 今回の臨床試験では、高齢者も可能にする。これまでの試験では、日本人の6割しか該当しないペプチドワクチンが使われてきたが、今回は残りの2割が当てはまるものも含める。標準療法で治らないとされた人が対象で、がん種は、難治とされる膵臓がんと食道がん各40人ずつ。

 県立医科大だけでなく、近く、全国7ブロックに共同研究の拠点病院を置き、遠方の患者も試験に参加できる態勢をつくる。今後はほかのがん種にも臨床試験を拡大し、医師や看護師の研究者育成にも力を入れたいという。

 臨床試験参加希望者は県立医科大学がんペプチドワクチン治療学講座医局(073・441・0613)へ。

 また、同会は講座の研究資金として、今後3年間で計3千万円を寄付したいという。広く協力を呼び掛けている。問い合わせは、同会の会田昭一郎代表(042・843・0312)へ。

m3.com 2013年9月17日

腹部を2カ所だけ切り胃など切除 減孔式腹腔鏡手術
傷痕目立たず患者の負担減
 北大病院の消化器外科1は、胃や大腸の切除に、腹部を2カ所だけ切り開き、内視鏡(カメラ)などを体内に挿入して切る「減孔式腹腔鏡手術(RPS)」を行っている。通常の腹腔鏡手術に比べ、傷が少なくて小さく、傷痕はほとんど目立たなくなるのが特徴だ。

▼北大病院 保険適用、10日で退院も

 胃を担当する特任助教の川村秀樹氏によると、通常の腹腔鏡手術による胃の切除は、おなかを6カ所小さく切り開き、そこからカメラや鉗子、メスなどの器具を挿入。術者はカメラの映像を見ながら器具を操作していく。

 これに対し、RPSは、へそ部分を2.5センチほど縦に切り、右腹部上方に約5ミリの穴を開ける。へそにはカメラなどの器具3本が一度に挿入できる装置(マルチチャネルポート)を埋め込み、右腹部の穴から器具1本を挿入。計4本で手術を進めていく。

 体を1カ所だけ切り開いて腹腔鏡などの内視鏡を挿入する「単孔式内視鏡手術」がここ3〜4年、胆嚢(たんのう)や虫垂、卵巣や腎臓などの切除で徐々に普及してきた。RPSはこの単孔式を応用した手術法だ。川村さんは「胃の切除は、へそ1カ所だけの単孔式では極めて難しい。臓器を持ち上げたり、切る部分が見えるように補助するためのもう一つの穴(右腹部)が必要」と話す。

 北大のRPSの場合、胃の切除に要する時間はおよそ4〜5時間。保険が適用され、手術から約10日で退院可能だ。術後、へその傷はくぼみに埋没して目立たなくなり、右腹部の穴は体内にたまった水分や血液などを排出する管(ドレーン)を挿入するのに使う。「1カ月たつと傷痕もほとんど分からなくなる」という。

 だが、全ての胃の切除にRPSが適用できるわけではない。北大では、早期胃がんで、胃を全部摘出するか、胃の幽門側(十二指腸に近い部分)を切る手術が対象で、上腹部に手術歴のない患者に限っている。過去の手術で体内に臓器や組織の癒着があると、器具の操作が難しいからだ。

 通常の内視鏡手術で約700例の豊富な経験を持つ川村さんは2009年、前任地の札幌厚生病院でRPSによる胃の切除を始め、これまでRPSで約百例を執刀した。自身が行ったRPSと通常の腹腔鏡手術の比較では、手術時間、出血量、術後合併症の発症、退院までの日数などに差はなく「熟練した者が行えば安全な手術」という。

 同病院によると、RPSで胃の切除を実施しているのは、北大のほか大阪警察病院、横浜市立大など全国で十数施設。川村さんは「今後はある程度進行した胃がんにもRPSを広げたい」と話す。

 一方、消化器外科1では胃がんのほか、早期大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)に対しても、へそと下腹部の2カ所の切開で大腸を切るRPSを実施している。この手術にも保険が適用される。北大ではこれまでに、大腸がんで約40例、炎症性腸疾患で約20例を実施している。

 大腸担当の1人、助教の本間重紀氏によると、大腸は胃よりもRPSの手術がしやすく、道内では北大以外にも大腸切除で実施している病院が数カ所ある。ただし、「炎症性腸疾患の全摘手術を2カ所の切開で行える施設は、全国でも数カ所と少ない」という。大腸については今後、より傷の少ない単孔式手術の可能性や、手術支援ロボットの活用も検討していく。

m3.com 2013年9月20日

血液1滴で膵臓がん診断 神戸大など成功
 神戸大大学院医学研究科などのグループが、1滴の血液から膵臓がんの指標となる四つの物質を発見、それらを使った診断法の開発に成功した。

 従来の方法では診断が難しかった早期の膵臓がんでも見分けられ、治療につなげられる。グループは既に大腸がんでも早期診断法を開発。血液1滴で複数の主要ながんが見分けられる診断法を、3年以内にも実用化させたいという。

 膵臓がんは年間約3万人が死亡し、肺、胃、大腸、肝臓の各がんに続き死因の第5位。早期の膵臓がんは治療できる可能性が高いが、自覚症状に乏しい。がんが出す血中のタンパク質を調べる検査法や、画像による検査法もあるが、いずれも見つけにくかった。

 人の細胞内では物質やエネルギーを作る代謝反応が生じることから、グループは、その代謝反応でできる物質を調べる「メタボロミクス」という手法を活用。

 ガムの甘味料などに使われる糖アルコールの一種「キシリトール」など膵臓がんの指標となる4種類の物質について、がん患者と健康な人の計85人を比べた結果、いずれも両者の間で量に大きな差があることを発見した。

 さらに、別の膵臓がん患者と健康な人で検証すると、従来、がんの指標としてきたタンパク質では早期がんの4〜5割程度しか診断できなかったが、4種類の物質を使った診断法では8割近くが診断できた。

 グループは実用化に向け、島津製作所(京都市)と共同研究を開始。今後、肺がんや胃がんなど主要ながんの指標となる物質も見つけたいという。

 メンバーで同科病因病態解析学分野の吉田優准教授は「指先の血液1滴を使い、従来の血液検査と同水準の1500円程度で、主要ながんが一気に早期発見できる検査法を実現させたい」と話す。

【メタボロミクス】 がんなどの病気の検査で指標となる物質は従来、体の設計図である遺伝子、遺伝子が作るタンパク質が中心だった。メタボロミクスが対象とする「代謝物」はタンパク質などが働いた後にできるもので、約4千種。遺伝子の約2万3千種、タンパク質の約100万種に比べて少なく、指標を絞り込みやすい。代謝物は動物の種による違いが小さいため、動物実験の結果を反映させやすいという利点もある。

m3.com 2013年9月24日

内視鏡手術ロボット:「ダヴィンチ」、大腸がん摘出成功
60代男性患者、順調に回復し退院
 日立製作所日立総合病院(奥村稔院長、日立市城南町)は20日、内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」による県内初となる大腸がん摘出手術に成功したと発表した。手術は今月に入ってから60代の男性患者に実施。患者は術後、順調に回復し、約1週間で退院したという。

 ダヴィンチは、メスや内視鏡などが付いたアームを患者の体に挿入し、医師が三次元画像を見ながら遠隔操作して手術ができる。患者に負担が少なく、早期の社会復帰が可能という利点がある。

 同病院は2011年9月、日立市医療機器整備事業費補助金による支援を受けて北関東で初めて導入。同年11月以来、前立腺全摘出手術に使用しており、今年7月には100症例を達成した。

 これまでの泌尿器科の前立腺全摘手術以外への活用を検討した結果、今回の大腸がん手術への適用となった。

m3.com 2013年9月25日

男性シフトワーカーは前立腺がんの高リスク集団
 シフトワーク(交替勤務)をしている男性は前立腺特異抗原(PSA)値が高く前立腺がんの高リスク集団であると,米ハーバード大学のグループがJournal of the National Cancer Instituteの9月4日号に発表した。

 これまでの研究結果は一致していないが,サーカディアンリズムの乱れが前立腺がんのリスクを高める可能性が示唆されている。

 同グループは,2005〜10年に行われた3回の米国国民健康栄養調査に参加した40〜65歳の就労男性のデータを統合し,シフトワークとPSA値との関係を検討した。日常的な夜間勤務者,または昼夜の交替勤務者をシフトワーカーとした。

 年齢補正後,非シフトワーカー群と比べシフトワーカー群は,総PSA高値(4.0ng/mL以上)の割合が有意に高く,前立腺がんのリスクが高いことが示された。

Medical Tribune 2013年9月26日

微小カプセルで脳腫瘍治療 東大チーム、マウスで実験
 抗がん剤を入れた小さな高分子のカプセルを注射し、膠芽腫(こうがしゅ)という悪性脳腫瘍の増殖を抑えるマウス実験に成功したと、東京大の片岡一則教授、三浦裕助教らのチームが25日発表した。

 脳の血管を構成する細胞はきつく結合していて血中の物質を簡単には外に出さない。薬を血中に投与しても、血管の外にある腫瘍にまでは届きにくく、大きな治療効果が期待できなかった。

 チームは今回、腫瘍と、それを取り巻く血管細胞の表面だけにある特定の分子にくっつく直径30ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどのカプセルを作製。人の膠芽腫を頭に移植したマウスの静脈に投与した。

 カプセルは腫瘍の血管の壁にくっついて通り抜け、血管の外に脱出。その後、腫瘍細胞に入って薬を放出した。抗がん剤だけを投与した場合に比べて大幅に増殖を抑えることができたという。

 膠芽腫に対しては現在、手術や放射線、抗がん剤を組み合わせて対処しているが、治療は困難で、有効な新しい治療法が待たれている。

 成果は米化学会が発行するナノテクノロジー専門誌に掲載された。

m3.com 2013年9月26日