広葉樹(白) 
          

ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2013年8月



2013年8月 文献タイトル
女性の高身長とがんリスクに関連 10cm高くなるごとに13%上昇,WHIの解析から
喫煙者の雇用で企業負担は年間約6,000ドル増加
医療費の増加や生産性の低下などによる損失額を算出
PSA検査 前立腺がんのタイプにより便益に差
職種や職位で見ると日本人の死亡はどうなる? 自治医大コホート研究
低用量アスピリンの長期隔日服用で結腸直腸がんリスク低下
水化物や動物性脂肪を植物性脂肪に置き換え
転移のない前立腺がん患者の死亡率低下に有効な可能性
無煙たばこ 煙なくとも害あり かみたばこ・かぎたばこ
学術会議が緊急提言

女性の高身長とがんリスクに関連
10cm高くなるごとに13%上昇,WHIの解析から
 米アルバートアインシュタイン医科大学のGeoffrey Kabat氏らは,Women's Health Initiative(WHI)に参加した14万人超の閉経後女性を対象とした解析を実施。

 女性の身長が10cm高くなるごとに全がんのリスクが13%ずつ上昇していたと報告した(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2013, 22; 1353-1363)。19のがん種別の解析においても,身長の上昇に伴い13〜17%のがんリスク上昇が認められたと述べている。

高BMIよりも多くのがんリスク上昇に関連

 欧米やアジアの一般住民を対象とした前向き研究で,高身長がさまざまながんの危険因子であることを示唆する報告が行われてきたとKabat氏ら。ただ,がんに関連する他の要因の影響を補正した報告はほとんどなかったと指摘する。

 同氏らは1993〜98年に行われたWHIに参加した閉経後女性(50〜79歳)14万4,701例の,身長と全てのがんおよび19種のがんの関連を検討した。

 中央値12年の追跡期間に2万928件のがんが発生。年齢,体重,教育レベル,喫煙歴,アルコール摂取状況,およびホルモン療法などの因子を調整し,解析を実施したところ,身長10cmごとの全がんリスクは有意に上昇していた。

 また,甲状腺,大腸,子宮,乳房,多発性骨髄腫や悪性黒色腫など19種のがんについても,同様に上昇していた。

 検診による発見が可能な乳房や子宮,大腸のがんについては,検診歴の有無による解析を実施したが,結果は同じだった。

 Kabat氏は米国がん研究協会(AACR)の公式ニュースで「多くのがんと高身長に正相関が見られたことは驚き」とコメント。

 「今回の研究では,高身長に関連するがんの種類は高BMIに関連するものより多いとの結果が示された」とも述べている。また,身長ががんのリスクを上昇させる機序については「究極的には,がんは成長に伴う1つの過程。つまり,身長の伸びがホルモンやその他の増殖因子による影響を受けるのと同様,がんの発生にも影響するということだろう」との見方を示した。

Medical Tribune 2013年8月1日

喫煙者の雇用で企業負担は年間約6,000ドル増加
医療費の増加や生産性の低下などによる損失額を算出
 オハイオ州立大学のMicah Berman氏らは「雇用主が喫煙者を雇用すると,非喫煙者を雇用した場合と比べて年間約6,000ドルの追加費用が発生する」とTobacco Control(2013; オンライン版)に発表した。
 
 同氏らは,喫煙者を雇用した場合,欠勤やたばこ休憩,医療費の増加などが雇用主にとって大きな費用負担となり,こうした負担は,職場に禁煙方針を浸透させるきっかけにもなるだろうと指摘している。
 
損失額を包括的に算定

 喫煙は,がんや心疾患,肺疾患などさまざまな疾患リスクの上昇と関連している。米疾病対策センター(CDC)の2011年の報告によると,米国では成人人口(18歳以上)の19%が喫煙しており,女性(16.5%)よりも男性(21.6%)の方が多いと推定されている。

 米国の企業では,喫煙者の従業員に対し,非喫煙者よりも高い医療保険料を課したり,非喫煙者のみを雇用する方針を定めるといった動きがある。中には規定の期間内に禁煙しない従業員を解雇する場合もある。

 先行研究から,従業員の喫煙に起因する生産性の損失や医療費負担の増大により,雇用主には金銭的損害が発生することが示されているが,具体的な損失額については明確に示されていなかった。また雇用主,喫煙者の従業員,保険会社,納税者別に負担額が明確に分けられていなかった。

 そこでBerman氏らは,喫煙者の雇用にかかる個々の費用を推計した米国での先行研究をレビューし,民間企業が喫煙者を雇用した場合の負担額について,非喫煙者を雇用した場合との差として算出した。(1)喫煙者の欠勤による生産の低下(2)ニコチン中毒による生産性の低下(3)たばこ休憩による生産性の低下(4)医療費負担(5)退職後の年金支払いへの影響 が検討された。

医療費だけで約2,000ドル増

 その結果,欠勤の増加に伴う生産性の低下は,雇用主にとっては喫煙者1人当たり年間平均517ドル,ニコチン中毒による生産性の低下は同462ドル,たばこ休憩により3,077ドル,医療費の増加分により2,056ドルの追加費用がかかることが明らかとなった。

 一方,非喫煙者に比べ喫煙者では早死リスクが高いことから,喫煙者の従業員の退職後の年金費用は平均296ドル少なかった。

 これらを合計した雇用主の追加負担額は,年間5,816ドルと推計された。

 Berman氏らは「喫煙者は,雇用主に多大な追加費用負担を強いることになる。今回示された結果は,雇用主が従業員に対して喫煙に関する指針を周知させる一助となるだろう」と述べている。

 さらに「喫煙がもたらすのは単なる費用負担にとどまらない。喫煙により命を失ったり,疾患に苦しむことに値段は付けられない。従業員が健康的で長生きできるよう,雇用主には職場から喫煙をなくすさらなる努力が求められる」と結論付けている。

Medical Tribune 2013年8月1日

PSA検査 前立腺がんのタイプにより便益に差
 前立腺特異抗原(PSA)検査による前立腺がんスクリーニングの意義をめぐって議論が交わされているが,ドイツ医療サービス評価研究所(ケルン)のKlaus Koch博士らは「PSA検査には便益がある一方,過剰診断や過剰治療につながるリスクもあり,実施の是非についてはいまだ結論は出ていない。

 現時点では,患者に同検査の便益と害について十分説明し,患者とともに実施の有無を検討すべきである」とTherapeutische Umschau(2013; 70: 214-222)で指摘している。
 
 また同博士らは,前立腺がんを4つのタイプに分類し,各タイプによってPSA検査の意義が異なることを示している。

 Koch博士らは「腫瘍のタイプによっては,PSA検査による早期発見の恩恵が得られる」と説明している。同博士らは,前立腺がんを(1)転移前の初期の腫瘍(2)転移が早期に起こる腫瘍(3)転移が遅い腫瘍(4)非常に成長が遅い腫瘍 の4つに分類し,このうち(1)はPSA検査により早期に発見でき,大半の症例で治療可能なため,同検査で前立腺がん死亡率を低減させることができるとしている。

 これに対し,(2)は早期発見が治癒率の向上と前立腺がん死亡率の低下につながることはない。また(3)は,症状発現後にがんと判明しても治療が可能であるため,早期発見が必ずしも前立腺がん死亡率の低下につながるとはいえない。(4)はいわゆる潜伏がんで,PSA検査を行わなければ発見できないが,発見しても前立腺がん死亡率の低下にはつながらず,かえって過剰治療が行われることで,患者が重度の副作用に苦しむことも多いとしている。

 以上から,前立腺がんのタイプによってはPSA検査を実施することで前立腺がんによる死亡率や合併症罹患率,さらには総死亡率を低減させることが可能であるといえる。またPSA検査の結果を基に,より侵襲性の低い治療法を選択することができるなど,患者のQOL向上にも役立つ。

 しかし,その一方で,偽陽性や偽陰性の問題から過剰診断,過剰治療につながることもあり,かえって患者のQOLが低下する可能性もある。そのため,同博士らは「現時点では,PSA検査を実施する是非について一般的な推奨を行うことはできない。まずは,患者に対しPSA検査の便益と害について十分に説明をし,患者とともにPSA検査の有用性を検討した上で,判断することが重要となる」と結論付けている。

Medical Tribune 2013年8月1日

職種や職位で見ると日本人の死亡はどうなる?
自治医大コホート研究
 自治医科大学(JMS)コホート研究グループが発表したわが国の職業人口における職種・職位別の死亡リスクの評価によると,男性ではブルーカラー群で全死亡が高く,女性では心血管疾患(CVD)死がホワイトカラーの非管理職の者に高い傾向が認められたという(BMJ Open 2013; 3: e002690)。

 ホワイトカラーに比べて社会経済的地位が低いブルーカラーの方が死亡リスクが高いとの西洋での報告があるが,わが国では必ずしもそれに該当しないとの報告が近年,発表されていた。

ブルーカラー男性の全死亡リスクはホワイトカラーの1.6倍

 JMSコホート研究は,国内12地域に住む男女におけるCVDなどの発症と死亡の追跡を目的に,1992年に開始されたコホート研究である。

 今回の解析に用いられた対象者は,1992〜95年に登録された65歳未満のがんやCVDがない男性3,333人,女性3,596人であり,2005年まで追跡した。

 全国統計指針(National Statistics Guidelines)に基づいて,職種(農業または森林業,漁業,警備,運輸・通信,技能職または労働者,専門職または技術職,事務員,販売員,サービス業,専業主婦,退職者,その他)を質問。「農業または森林業」から「技能職または労働者」までをブルーカラー群に,「専門職または技術職」からサービス業までをホワイトカラー群に分類し,職業や職位(管理職,非管理職)の違いが全死亡,CVD死およびがん死亡に与える影響を男女別に調べた。

 なお,専業主婦,退職者,その他は解析から除外した。

 結婚歴,学歴,アルコール消費量,喫煙歴,身体活動度,BMI,高血圧などで補正した結果,男性ではホワイトカラー群(854人)に対するブルーカラー群(1,950人)の全死亡は,有意なリスクの上昇が認められた。

 一方,女性では,ホワイトカラー群(1,425人)に対するブルーカラー群(1,524人)の全死亡,CVD死,がん死のいずれも有意な増加は示されなかった。

Medical Tribune 2013年8月7日

低用量アスピリンの長期隔日服用で結腸直腸がんリスク低下
 低用量アスピリンを1日置きに長期間服用することにより結腸直腸がんのリスクが低下すると,米ハーバード大学のグループがAnnals of Internal Medicineの7月16日号に発表した。

 アスピリンの連日服用によるがん,特に結腸直腸がんのリスク軽減が示されているが,隔日服用に関するエビデンスはない。

 同グループは,Women’s Health Studyに参加した45歳以上の女性で2004年3月までの中央値で10年間,アスピリン100mgまたはプラセボを隔日で服用した3万9,876例のうち,試験終了から12年3月までのさらに8年間の延長追跡調査が可能であった3万3,682例を対象に,低用量アスピリンの隔日服用とがん発症との関係を検討した。

 その結果,全期間中のがん発症は5,071例(乳がん2,070例,結腸直腸がん451例,肺がん431例など),がんによる死亡は1,391例だった。がん全体および乳がんと肺がんの発症はアスピリン群とプラセボ群で差はなかったが,結腸直腸がんの発症はアスピリン群で20%少なく,主に近位結腸がんの減少によるものであった。

 両群の結腸直腸がん発症の差は10年後に生じ,アスピリン群の延長追跡中の減少率は42%だった。

 一方,延長追跡中のがんによる死亡と大腸ポリープの発症には差は見られなかった。

 消化管出血と消化性潰瘍はアスピリン群で有意に多かった。

Medical Tribune 2013年8月8日

炭水化物や動物性脂肪を植物性脂肪に置き換え
転移のない前立腺がん患者の死亡率低下に有効な可能性
 カリフォルニア大学のErin L. Richman博士らは「総カロリーの10%を,炭水化物または動物性脂肪から植物性脂肪に置き換えることにより,転移のない前立腺がん患者の死亡率が低下する可能性が示唆された」とJAMA Internal Medicine(2013; オンライン版)に発表した。
 
前立腺がん患者4,577例を8.4年にわたって調査

 研究の背景情報によると,現在,米国の前立腺がん患者は約250万人に上るとされるが,診断後の食事と前立腺がん進行や全死亡との関連はほとんど分かっていなかった。

 Richman博士らは今回,Health Professionals Follow-up Study(HPFS)の登録者のうち,1986〜2010年に転移のない前立腺がんと診断された男性4,577例を抽出し,前立腺がん診断後の脂肪摂取と,致死性前立腺がん(遠隔転移または前立腺がん死亡)および全死亡のリスクとの関連を前向きに検討した。

 HPFSでは2年ごとに健康状態や生活習慣に関する調査,4年ごとに食事摂取頻度調査(FFQ)が実施された。なお,脂肪の摂取量は飽和脂肪酸,単価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,動物性脂肪,植物性脂肪別に算出した。

 その結果,追跡期間8.4年(中央値)の間に315例が致死性前立腺がんに進行し,1,064例が死亡した。

 致死性前立腺がんの1,000人年当たりの発症頻度について各脂肪摂取量の最高五分位群と最低五分位群を比較した結果,飽和脂肪酸で7.6対7.3,単価不飽和脂肪酸で6.4対7.2,多価不飽和脂肪酸で5.8対8.2,トランス脂肪酸で8.7対6.1,動物性脂肪で8.3対5.7,植物性脂肪で4.7対8.7であった。

 一方,全死亡の1,000人年当たりの頻度については,それぞれ飽和脂肪酸で28.4対21.4,単価不飽和脂肪酸で20.0対23.7,多価不飽和脂肪酸で17.1対29.4,トランス脂肪酸で32.4対17.1,動物性脂肪で32.0対17.2,植物性脂肪で15.4対32.7であった。

 さらに今回,総カロリーの10%が炭水化物から植物性脂肪に置き換わった場合に,致死性前立腺がんのリスクが29%,全死亡のリスクが26%低下することも明らかになった。動物性脂肪が植物性脂肪に置き換わった場合も同様,各リスクはそれぞれ24%,34%低下した。

植物性油やナッツの摂取が寄与した可能性も

 今回の研究から,心血管系に良い食事,つまり炭水化物や動物性脂肪を植物性脂肪に置き換える食事により,転移のない前立腺がん患者の死亡率は低下することが示唆された。

 Richman博士は,その理由について「植物性脂肪の多くは植物油とナッツから摂取されていた。これらの摂取により,血中の抗酸化物質が増加し,インスリン,LDLコレステロール,炎症性マーカー,酸化ストレスが低下することが報告されており,それが前立腺がんの進行抑制につながった可能性がある」と説明している。ただし,植物性脂肪が有効なのか,他のフィトケミカルなどの成分が関与しているのかについて知るためには,さらなる研究で検討する必要があると付け加えている。

Medical Tribune 2013年8月8日

無煙たばこ 煙なくとも害あり かみたばこ・かぎたばこ
学術会議が緊急提言
 日本学術会議の分科会が30日、使用者が増えつつある無煙たばこに関し、「害が少ない」といった誤解の解消など、健康被害を防ぐための緊急提言を発表した。

 提言をまとめたのは、脱タバコ社会の実現分科会(委員長、矢野栄二・帝京大教授)。無煙たばこは「かみたばこ」「かぎたばこ」などがあり、国内では最近、たばこの入った小さな袋を口の中にふくんで使うタイプの製品が販売された。使っていることが外見から分からないため、未成年者に広がる恐れもあるという。

 提言によると、無煙たばこは約30種類の発がん物質を含み、口腔(こうくう)がん、食道がん、膵臓(すいぞう)がんの原因となる可能性がある。紙巻きたばこと同様にニコチン依存を招き、心臓病などの危険性も高まる。

 禁煙や分煙の取り組みが広がり、需要が高まっているが、海外では、欧州連合などが口に含んで使う無煙たばこを禁止している。

 矢野委員長は「未成年者が授業中も使えてしまう」と指摘。教育機関、医療機関、行政などの関係者が、無煙たばこの危険性を呼びかけるよう求めた。

m3.com 2013年8月31日