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2013年5月 文献タイトル
炎症性腸疾患に対する生物学的製剤 高リスク患者への早期投与で解剖学的異常や合併症の予防が可能
女性の喫煙者は男性喫煙者より結腸がんのリスクが高い
第72回日本医学放射線学会 粒子線治療の発展・普及に向けて議論
アンジーの予防的乳房切除で日本乳癌学会が声明 日本での遺伝性乳がんの診療について情報提供
生活習慣病予防にマリファナが効く!? 米研究 常用者でインスリン値や腹囲が改善
ビタミンEによる抗がん作用の機序解明 γ-トコフェロールが最も有望

炎症性腸疾患に対する生物学的製剤
高リスク患者への早期投与で解剖学的異常や合併症の予防が可能
 慢性の炎症性腸疾患(IBD)の治療には,これまで症状を抑える対症療法しかなかった。しかし,生物学的製剤の導入により,IBD治療はここ数年で劇的に変化しており,粘膜治癒が可能なケースも増えてきた。このような状況を背景に,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン大学病院(独キール)第1内科のSusanna Nikolaus博士らは「高リスク患者には生物学的製剤を早期に投与することが重要である。また,合併症予防として投与したり,場合によっては他剤との併用も検討することで,長期的な寛解維持を目指すべきである」とDeutsche Medizinische Wochenschrift(2013; 138: 205-208)で述べている。

生物学的製剤の登場で治療目標が変化

 数年前まで,IBD(潰瘍性大腸炎,クローン病)の治療は臨床的重症度に基づいて行われていた。つまり,問診と身体所見により疾患活動度を評価し,治療目標は症状を抑えることであった。潰瘍性大腸炎ではClinical Activity Index(CAI),クローン病ではCrohn's Disease Activity Index(CDAI)といった活動性指数を用い,この値が低ければ“寛解”と見なされていた。しかし,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬の登場により治療法は大きく変わった。インフリキシマブ,アダリムマブなどのTNF阻害薬を使用することで,IBDの活動性を抑制することができ,これにより粘膜治癒が得られ,狭窄や瘻孔などの合併症を回避することができるようになった。

 こうした状況を踏まえ,Nikolaus博士らはIBDの治療目標として(1)狭窄や瘻孔など合併症の予防(2)予後不良リスクがある患者の早期発見(3)治療効果の最大化 を挙げている。

解剖学的異常の予防は入院や手術の回避につながる

 中でも重要なのは,解剖学的な異常の発生(クローン病では狭窄や瘻孔など)を予防することである。これは入院期間の短縮や手術の回避,またステロイド依存例やステロイド抵抗例の回避にもつながる。過去の大規模試験では,生物学的製剤による治療が解剖学的な異常の発生を予防する上でも有効であることが示されている。

 一方,潰瘍性大腸炎では,炎症が長期に及ぶと,結腸直腸がんの発生リスクが上昇するが,最近の複数の研究から,5-アミノサリチル酸(sulfasalazinまたはメサラジン)の定期投与により,同リスクが低下することが示されているという。

 実際には,IBD診断時に合併症を有する者はごくわずかで,進行が緩徐なことも多い。ただし,Nikolaus博士らは「合併症などの予後不良因子に十分注意し,そうした因子を有する高リスク患者の早期発見に努めるべきである」と忠告。予後不良因子として,クローン病の場合は上部消化管障害,狭窄,肛門周囲病変,若年発症,喫煙,早期からステロイドの投与が必要である病態などを挙げている。また潰瘍性大腸炎の場合は,病変の範囲が広いこと,早期からステロイドの投与が必要である病態などとしている。

 同博士らは,こうした危険因子が既に認められる患者には,厳密なモニタリングを行い,必要な治療を段階的かつ早期に開始するよう勧めている。また,生物学的製剤の使用は個々の患者の状態に応じて決定すべきとしている。

投与間隔を設けて長期間継続すべき

 一方,生物学的製剤への応答が不十分な患者では,アザチオプリンとの併用を考慮することも可能である。

 クローン病患者に対してアザチオプリンまたはインフリキシマブの単独もしくは両薬の併用治療を行い,その効果を比較したSONIC試験では,併用群で明らかに有効性が高いことが確認された。ただし,併用群では,重度の感染症に罹患するリスクが高いことも示されている。

 Nikolaus博士らは,生物学的製剤による治療について「基本的には,投与間隔を設けて長期間継続すべきであるが,無効例や効果消失が認められたり妊娠した場合には,投与を中止する必要がある。また副作用によっては,投与を中止せざるをえないこともある」としている。

Medical Tribune 2013年5月9日

女性の喫煙者は男性喫煙者より結腸がんのリスクが高い
 喫煙者では男性より女性の方が結腸がんを発症するリスクが高いと,ノルウェーのグループがCancer Epidemiology, Biomarkers & Preventionの5月号に発表した。

 同グループは,喫煙による結腸がん発症リスクには性差があり,男性より女性の方が喫煙の影響を受けやすいのではないかとの仮説を立て検証した。対象は1972〜2003年に登録した19〜67歳の男女60万2,242例で,2007年まで追跡した。

 平均14年間の追跡で3,998例(うち女性が46%)が結腸がんを発症した。解析の結果,非喫煙者と比較した喫煙経験者の結腸がん発症リスクの増大は男性の8%に対し,女性では19%とより高かった。

 喫煙開始年齢,1日の喫煙本数,喫煙期間,喫煙指数(pack-year)のカテゴリーが高い女性ほどリスクが高く,特に近位結腸がんのリスクは非喫煙者と比べ40%以上高いことが示された。

Medical Tribune 2013年5月23日

第72回日本医学放射線学会
粒子線治療の発展・普及に向けて議論
 わが国は粒子線治療の研究で世界をリードしているが,普及にはさまざまな課題が山積している。横浜市で開かれた第72回日本医学放射線学会(会長=九州大学臨床放射線科学分野・本田浩教授)の治療シンポジウム「粒子線治療の今後の展開:世界を視野に如何に展開していくべきか」〔座長=放射線医学総合研究所(放医研,千葉県)・辻井博彦フェロー,北海道大学大学院病態情報学講座・白土博樹教授〕では,エビデンスの形成やコストの低減,集学的治療の在り方,人材育成など陽子線・重粒子(炭素)線治療の現状と課題を報告し,今後を展望した。

陽子線治療の鍵握る3つのポイント
現時点で陽子線治療の利点大きい
重粒子線治療の普及を見据えた計画
次世代型重粒子線治療の展開に期待


陽子線治療の鍵握る3つのポイント

 わが国の陽子線治療施設は8施設に上る。筑波大学陽子線医学利用研究センターの櫻井英幸センター長は,陽子線治療の今後を3つのポイントに要約。装置の小型化・低コスト化と海外エビデンスの集積,さらに保険適用の動向について論じた。
建設費70億円が30億円以下に

 同大学は,1983年に国内でいち早く陽子線研究をスタートさせた。同センターで2012年までに行われた陽子線治療数は3,381例に上り,最多は肝細胞がん(HCC)などの原発性肝がんで33.6%を占める。これに前立腺がんと肺がんを合わせると半数を超えるが,最近は小児がんや食道がんが増えてきているという。

 X線では正常細胞に対する放射線障害の問題が大きく,特に小児がん患者は制限される。一方,陽子線ならば患部のみに効率的な照射が可能であり,櫻井センター長は副作用軽減などの利点を強調。また,同センターで行われた門脈腫瘍塞栓のあるHCCへの陽子線治療では,2年局所制御率91%,生存期間中央値22カ月,2年生存率48%と良好な成績が得られたことなども示された。

 同センター長は小児がんと肝がんに加え,局所進行性肺がんや食道がん,膀胱がん,肝内胆管がんも陽子線治療の利点が享受できるとし,外科手術や化学療法などと組み合わせた集学的治療の展開にも期待を寄せた。

 陽子線治療の効果は論をまたないが,建設費用などの課題が普及の障害となっていた。しかし,同センター長は同大学での建設に約70億円を要した陽子線治療装置が,現在は回転ガントリー1台ならば30億円以下で設置可能なことを解説。また,米国では10の陽子線治療施設が稼働中,もう10施設が建設中か計画中であり,欧米でのエビデンスがさらに増加する可能性が高まっている。陽子線治療の保険収載については,日本放射線腫瘍学会(JASTRO)や日本小児血液・がん学会などが,国に小児がんへの適用を要望していることも紹介された。

 以上から,同センター長は「装置の低コスト化と海外エビデンスの集積,保険適用の行方が日本の陽子線治療の10?20年後を占う重要な鍵になるだろう」と展望した。

現時点で陽子線治療の利点大きい

 陽子線や重粒子線の治療では,各線種の特性を適切に把握しておかなければならない。世界で初めて両線種を導入した兵庫県立粒子線医療センターの不破信和院長は,放射線生物学の点では重粒子線治療がリードするものの,現時点では装置の利便性やコスト,治療成績の比較から陽子線治療に利があるとの考えを示した。
近い将来「標準的な治療選択肢に」

 2001年に開設した同センターは,2012年までに5,381例のがん患者に陽子線・重粒子線治療を行ってきた。不破院長は,最近では主に線量分布が優れているとの理由で重粒子線治療を選択する傾向にあることを明かした。

 一方,陽子線治療では回転ガントリーがあるため,脊髄を避けたり,さまざまな方向から照射が必要だったりする部位に用いている。また,近年は建設費が下がったとはいえ約140億円かかる重粒子線装置に対し,小型化した陽子線装置ならば半額以下で設置できる点も強調した。

 両線種の治療成績を後ろ向きに検討すると,ステージTの非小細胞性肺がんや頭頸部の悪性黒色腫,腺様嚢胞がん,肝がんの全生存率(OS)と局所制御率(LC)に有意差は認められなかった。陽子線治療のX線・化学療法との併用成績も示し,食道がん(ステージT・U 18例,同V 17例)では30カ月のOSが89%,LCは86%と良好なことを報告。その他,膵がん,舌がんでも高いOSやLCが示され,同院長は「ある種の進行がんでは,将来的に化学療法を併用した陽子線治療が標準治療になりうる」と話した。

 同センターで2012年に粒子線治療を受けた患者は672例に上るが,同院長は「重粒子線治療の採算ラインは年900例以上だが,達成は難しく重粒子線治療施設には採算性を望めない」と問題点を指摘。現時点では比較的コストが低い陽子線治療が勝るとし,「全国への普及を考えると陽子線の役割は大きい。特に小児がんや進行がんに対する化学療法との併用は重要になる」との見方を示した。

重粒子線治療の普及を見据えた計画

 重粒子線治療の問題の1つに巨大なコストが挙げられるが,治療効果の有用性は明らかであり,普及に向けた取り組みは徐々に広がりつつある。2010年3月に稼働したばかりの群馬大学重粒子線医学センターの大野達也教授は,重粒子線治療の特徴を生かした研究や人材育成など普及を見据えた取り組みを紹介した。

2012年は病院の前立腺がん治療で最多の適応

 同センターは大学病院に重粒子線治療の機能を備えた初の施設であり,建設費用や設置面積は放医研の医療用重粒子加速装置(HIMAC)の40%以下に抑えられた。放医研で集積された技術を基に2013年3月までの3年間で621例を治療した。成績は放医研と同程度で再現性も得られており,大野教授は「過去3年でクリニカルワークフローや手技が定着し,費用面でも良好な収支バランスを達成できている」と振り返った。

 同センターの治療患者の7割は前立腺がんで,同大学病院で行う前立腺がん治療でも重粒子線治療の割合は増えており,2012年は267例のうち180例に適応された。重粒子線治療の他施設への普及を視野に,マニュアルや治療プロトコルの作成と更新を進めている他,放医研と国際トレーニングコースを設置するなど国内外の人材育成に努めている。

 重粒子線治療の研究では,正常組織の線量低減を目的とした積層照射法が2013年1月に薬事承認を受け,本格的に運用されている。同センターでは今後,化学療法などを併用する集学的アプローチにおいて重粒子線治療の位置を高め,膵がんや子宮頸がん,肝細胞がん,脳腫瘍なども積極的に使用していく予定という。悪性腫瘍にとどまらず良性腫瘍の治療も検討する他,加齢黄斑変性症の治療にも応用する計画が明らかにされた。

 同教授は,希少がんはエビデンスの集積が乏しいため国際的なデータベースの活用が現実的とした一方,一般的ながんは国内外の多施設共同研究で対応すべきとの考えを示した。その上で「われわれの使命は,がん治療における重粒子線治療の役割の明確化と人材育成,技術革新にある」とまとめた。

次世代型重粒子線治療の展開に期待

 放射線治療では,正常細胞に対する影響の低減が重要な課題の1つである。放医研重粒子医科学センターの鎌田正センター長は,腫瘍の形状に合わせてピンポイントに重粒子線を照射する3次元スキャニング照射システムの現状を報告し,より小型でさまざまな角度から照射できる次世代型重粒子線治療の可能性に言及した。

治療の短期化と効率化が進む

 放医研では,1994〜2012年に重粒子線治療を7,339例に施行した。例えば前立腺がんでは,先進医療の運用開始時に4週間で16回の照射を行っていたが,現在は3週間で12回まで治療期間が短縮されるなど,短期小分割照射が進んでいる。

 2011年に3次元スキャニング照射システムを臨床導入した結果,昨年の治療件数は約900例に上った。鎌田センター長は「より短時間で効率的な照射が可能になり,受け入れられる患者数の増加で収支バランスの改善が見込めるようになった」と分析した。

 従来法(拡大ビーム照射法)では,腫瘍断面の形状に合わせ幅の広いビームを整形する必要があり,腫瘍の奥行きに対してもビームの形を整える手間があった。また,腫瘍最大厚で照射線量が決まるため,正常組織への影響を低減できる余地が少なくなかった。

 3次元スキャニング照射システムでは,腫瘍の立体的な形に合わせ細長いペンシルビームでなぞるように照射でき,複雑な形状にも対応可能な他,ビームの利用効率も格段に上がった。現在は同システムでの呼吸同期照射を目指し,呼吸位相同期リペインティング法の研究を進めている。同センター長は「数年のうちに実現できれば,呼吸移動を伴う肺や肝臓などへの適応が可能になる」と期待感を示した。

 重粒子線の照射方向は上からと横からに限定されるが,放医研は早ければ2016年にも超伝導小型回転ガントリーの導入を目指している。最後に,同センター長は「より良い治癒効果と高いQOLを目指し,重粒子線治療を発展させたい」と話した。

Medical Tribune 2013年5月23日

アンジーの予防的乳房切除で日本乳癌学会が声明
日本での遺伝性乳がんの診療について情報提供
 日本乳癌学会は5月27日,「遺伝性乳癌に関する日本乳癌学会としてのステートメント」を発表。5月14日,米の人気女優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子診断により遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)のリスクが高いことが判明し,将来のがんリスクを低下させるために乳房の予防切除術を受けたことを公表したことを受けたもの。同学会は,ジョリーさんの事例を契機に日本でも遺伝性乳がんに対する関心が高まっているとして,日本での診療の現状について情報提供を行っている。

自由診療として専門施設でのみ検査が実施可能,料金は数十万円

 ジョリーさんは5月14日,自身の予防切除体験記を発表。乳がんの遺伝子診断に関する認知度は低く,高額な費用を必要とするなどの障壁があると指摘した。また,自分の体験を公表することで,自分のリスクを知らない多くの女性に遺伝子診断があること,もし,リスクが高いと判明した場合も(予防切除という)強力な選択肢があることを知ってほしいと呼びかけた。New York Timesに掲載された,この記事に対する読者からのコメントは本日(日本時間5月28日)現在で1,700件を超えている他,世界各国が連日,彼女や彼女の親戚の乳がんに関する報道を続けているなど,大きな反響を呼んでいる。

 同学会は声明でHBOC診療に対する保険適応はなく,HBOCに対する遺伝カウンセリングの体制が整った施設でのみ「自由診療として遺伝子診断を行うことが可能」と述べている。日本国内の実施施設の公式サイトでは,カウンセリングには1回当たり1万円前後,遺伝子診断には20万〜30万円程度かかるとの情報を見ることができる。

 日本では今年(2013年)1月に乳腺外科,産婦人科,臨床遺伝,遺伝カウンセラー,がん看護,分子生物学,臨床検査などの分野の専門家組織(HBOCコンソーシアム)が発足。現在,HBOC診療体制の充実に向けた活動が行われている。

 同サイトによると,全国で現在約30カ所の施設でHBOCの遺伝カウンセリングやリスク増加に関連する遺伝子(BRCA1,BRCA2)の変異を調べる検査が実施されている。一部報道などによると,日本でHBOC例に対する乳房予防切除を選択肢として正式に提供している施設はまだ少ないようだ。なお,同サイトでは,HBOCリスクの簡易判定表(下欄)も公開されている。

 日本乳癌学会は,今後さらなる診療体制の充実を図るための指針を策定中であり,内容が定まり次第公表すると述べている。


かんたんチェック

母方、父方それぞれの家系について、以下の質問にお答えください。あなた自身を含めたご家族の中に該当する方がいらっしゃる場合に、□にチェックを入
れてください。

□40歳未満で乳がんを発症した方がいますか?
□年齢を問わず卵巣がん(卵管がん・腹膜がん含む)の方がいらっしゃいますか?
□ご家族の中でお一人の方が時期を問わず原発乳がんを2個以上発症したことがありますか?
□男性の方で乳がんを発症された方がいらっしゃいますか?
□ご家族の中でご本人を含め乳がんを発症された方が3名以上いらっしゃいますか?
□トリプルネガティブの乳がんといわれた方がいらっしゃいますか?
□ご家族の中にBRCAの遺伝子変異が確認された方がいらっしゃいますか?

上記の質問に一つでも該当する項目があれば、あなたが遺伝性乳がん卵巣がん
である可能性は一般よりも高いと考えられます。


Medical Tribune 2013年5月28日

生活習慣病予防にマリファナが効く!? 米研究
常用者でインスリン値や腹囲が改善
 日本において大麻(マリフアナ)は,医療機関でも使用を禁じられているため,その意外なメリットはあまり知られていない。しかし,米国などではその効果を生かし,疼痛の緩和などに使用されている。

 そのような中,米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのMurray A. Mittleman氏らは,大麻が生活習慣病の予防に一定の効果をもたらす可能性を初めて明らかにし,Am J Med(2013年5月13日オンライン版)に報告した。大麻を常用している人では,空腹時の血中インスリン値,インスリン抵抗性,ウエスト周囲長(腹囲)が改善していたという。

多く使うほど効果があるわけではない

 Mittleman氏らは,2005〜10年に米国で行われた国民保健栄養調査(NHANES)で,現在も大麻もしくは大麻樹脂を使用していると答えた579例(常用グループ),過去に使用したことがあると答えた1,975例(経験グループ),一度も使用したことがないと答えた2,103例(未経験グループ)に対し,生活習慣病に関連した項目を検査した。検査項目は空腹時血中インスリン,空腹時血糖,インスリン抵抗性の指数であるHOMA-IR,HDLコレステロール,HbA1c,トリグリセライド,血圧,BMI,腹囲の各値。

 年齢,性,人種,学歴,収入,結婚歴,喫煙,飲酒などで補正した結果,常用グループでは,未経験グループと比べて空腹時血中インスリン値が平均14.9%減,HOMA-IRが平均15.4%減,HDLコレステロールは平均1.63mg/dL増に改善,さらに腹囲も平均1.89cm短いことが分かった。

 上記に加えてBMIや糖尿病の診断で補正しても,空腹時血中インスリン値,HOMA-IR,腹囲に関しては,常用グループと未経験グループ間の差こそ縮まったものの,依然として有意な差があった。

 経験グループ(30日間以上使用していない人たち)と未経験グループの差が小さかったことから,大麻の効果は使用しなくなると持続しないこと,また,常用グループで大麻の使用量との関連性が認められなかったことから,使うほど効果があるわけではないことも分かったという。

 同誌編集主任で米アリゾナ大学教授のJoseph S. Alpert氏は「こうした大麻の代謝改善効果のメカニズムを解明するとともに,がんや糖尿病などの患者,高齢者のQOL向上につながる効果を継続して研究することが必要」とコメントしている

Medical Tribune 2013年5月29日

ビタミンEによる抗がん作用の機序解明
γ-トコフェロールが最も有望
 オハイオ州立大学(米)医薬品化学・生薬学のChing-Shih Chen教授らは「これまで捉えにくかったビタミンEによる抗がん作用の機序を解明した」とScience Signaling(2013; 6: ra19)に発表した。ビタミンEのがん予防効果は長い間示唆されていたが,実際の作用は明らかにされていなかった。

Aktを阻害

 ビタミンEにがんの予防効果があることは,多くの動物実験から示唆されているが,それらの結果を確認するために実施された臨床試験では,同等の効果が認められていなかった。

 今回の研究では,前立腺がん細胞においてビタミンEの一種であるγ-トコフェロールが,がん細胞の生存に不可欠な酵素Aktを阻害することが示された。Aktが失われるとがん細胞は死滅した。また,このビタミンは正常細胞には悪影響を及ぼさなかった。

 筆頭研究者のChen教授は「がんの予防と治療におけるビタミンEのユニークな作用機序を,今回初めて明らかにすることができた」と述べている。

 ただし,同教授によると,がん予防のために通常のビタミンEサプリメントを摂取しても,少なくとも次の2つの理由から効果は期待できないという。まず第1に,手頃な値段のサプリメントは合成品で,それらはほとんどが今回強い作用が示されたγ-トコフェロールではなく,より弱い作用しか示さなかったα-トコフェロールである。第2に,人体は今回示された抗がん作用を発揮するのに必要な高用量のビタミンEを吸収できない。

強い抗がん作用を持つビタミンE誘導体を開発

 トコフェロールには,α,β,γなど化学構造の異なる多くの種類がある。今回の研究で検証されたトコフェロールのうち,γ型が最も強力な抗がん作用を示した。

 Chen教授らはこの構造を操作し,得られた誘導体の抗がん作用を評価した。その結果,培養細胞を用いた試験で,この化合物は元のビタミンEより20倍強い抗がん作用を示した。また,マウスを用いた実験でも,この化合物により前立腺がんの腫瘍サイズが縮小した。

 これらの結果から,この化合物はさまざまなタイプのがん,特にPTEN遺伝子(Aktの活性を保つ働きのある,よく知られているがん抑制遺伝子)の変異に関連するがんの予防と治療に有効であることが示唆された。

 同教授は「最終的には,がん予防を目的とした毎日服用できる安全な最適用量の錠剤を開発したいと考えている。ただし,至適な用法と用量を決定するには時間がかかる」と述べている。

 同教授は発明開示申請を同大学に提出し,同大学は今回開発された新化合物の特許を出願した。

AktとPHLPP1を細胞膜へ引き付ける

 Chen教授らは最初,α-トコフェロールとγ-トコフェロールの両方の分子を用いて研究を始めた。これらはいずれもAktを特異的に阻害したが,γ型の方が強力であることが分かった。

 また,トコフェロールが部位特異的なAktの脱リン酸化を促進することは,この機構がAktと別の蛋白質PHLPP1の細胞膜への動員を介していることも明らかになった(ビタミンEは脂溶性のため,脂質に富む細胞膜に吸収される)。腫瘍抑制因子の1つであるPHLPP1は動員後,Aktを失活させ,がん細胞の生存を不可能にする。

 同教授は「われわれは長年ビタミンEを摂取しているが,その抗がん作用の機序はこれまで解明されていなかった」と述べている。

 また,γ型が最も有効だった理由は,Aktを最も効果的に失活させる形で結合できるその化学構造にあることが分かった。

20倍の抗がん作用を有する新たな化合物を開発

 Chen教授らは,細胞膜におけるさまざまな分子の相互作用を検討し,γ-トコフェロール分子の頭部(クロマン環)から出る側鎖を短くすることで,これらの関係を増強できると予想した。そこでこの側鎖を約60%切り落とし,得られた新しい化合物の抗がん作用について2つの前立腺がん細胞株を用いて評価した。

 同教授は「側鎖を3分の2短縮することで,元のビタミンE分子頭部の完全性を保ちながら,抗がん作用が20倍強い分子が得られた」と説明している。この操作で抗がん作用が増強されたのは,側鎖の短縮によって細胞膜との相互作用が変化し,分子の頭部がAktとPHLPP1により結合しやすくなったためだった。

 この新しい化合物をこれら2つの前立腺がん細胞株を移植したマウスに投与したところ,腫瘍の増殖が抑制された。一方,プラセボでは抑制効果は認められなかった。また,新化合物を投与した腫瘍の化学的分析から,酵素Aktのシグナルが抑制されていることが示され,動物でも培養細胞と同じように機能することが確認された。

 動物実験では,今回の化合物が毒性を持たないことも示唆された。現在,同教授らはこの化合物の改良に取り組んでいる。

Medical Tribune 2013年5月30日