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2013年4月 文献タイトル
メラトニン分泌低下で糖尿病発症リスク2倍以上 米Nurses' Health Studyの症例対照研究
認知症は心疾患やがんよりも医療費がかかる! 米研究 1人当たり年間4万ドル超える
ビタミンD欠乏はがんや呼吸器疾患による死亡とも強く関係
頭を使うだけでDNAにダメージ,健康人はすぐ修復 米動物実験
テロメア長短縮によりがん診断後の生存期間が短縮
WHO ナトリウムとカリウム摂取量に関する新ガイドラインを発表
大腸がん疑い有症状例への放射線検査はCTコロノグラフィがバリウム注腸より優れる
早期乳がん患者への乳房温存術と放射線療法の併用 乳房切除術に比べて生存率高い可能性
アスピリンの継続服用で閉経後白人女性のメラノーマリスクが低下

メラトニン分泌低下で糖尿病発症リスク2倍以上
米Nurses' Health Studyの症例対照研究
 米ブリガムアンドウイメンズ病院のCiaran J. McMullan氏らは,女性看護師を対象とした米Nurses' Health Study(NHS)のコホート内症例対照研究を行い,メラトニン分泌と糖尿病発症リスクの関係を評価。メラトニンの分泌が低いほど2型糖尿病発症リスクが上昇することを明らかにした。メラトニン分泌能を3段階に分けた場合,最も低い群では最も高い群に比べ,2倍以上のリスク上昇を示した(JAMA 2013; 309: 1388-1396)。

 メラトニン受容体の突然変異は2型糖尿病におけるインスリン抵抗性に関連する。さらに、非糖尿病者で夜間のメラトニン分泌低下はインスリン抵抗性の増加と関連するという横断研究の結果もある。また,メラトニンが糖代謝にベネフィットをもたらすことが動物実験で確認されている。

 McMullan氏らは,NHS 試験参加者のうち,2000年(ベースライン)に尿と血液サンプルを提供した非糖尿病者の中から,2000〜12年に自己申告で2型糖尿病を発症した370人(患者群)を同定。年齢,血液サンプル提供時期,人種を一致させた370人を対照群とした。

 その結果,メラトニン分泌の指標とした早朝第一尿の尿中6-sulfatoxymelatonin/クレアチニン比の中央値は,対照群の36.3ng/mg(5〜95%範囲6.9〜110.8ng/mg)に比べ,症例群では28.2ng/mg(同5.5〜84.2ng/mg)と有意に低かった。 一方,尿中クレアチニンレベルは両群間で同等だった。

 この他,症例群は対照群に比べBMIが高く,身体活動が少なく,アルコールと穀物繊維の摂取が少なく,トランス飽和酸の摂取が多かった。また,夜間の睡眠時間が少なく,定期的ないびきの傾向があり,β遮断薬の使用が多く,高血圧,糖尿病の家族歴が多かった。

 McMullan氏らによると,過去の数々の研究が睡眠障害と糖尿病の関連を示唆し,睡眠障害はメラトニン分泌の減少を引き起こす。しかし,今回の研究では,睡眠時間やいびきで調整後もメラトニンは糖尿病発症に独立した関連を示した。

 なお,メラトニン分泌低下による2型糖尿病が発症する機序において,インスリン抵抗性が中間段階であると想定されるが,今回の研究では,インスリン感受性で調整後も結果は変わらなかった。理由は不明だが,インスリン感受性の測定法の問題により,メラトニン分泌のグルコース恒常性に対する影響を捉え切れなかった可能性があると考察している。

 以上の結果について同氏らは,因果関係の有無にかかわらず,メラトニン分泌低下と糖尿病発症リスクの間に独立した関連が示されたことは興味深いと述べている。今後は,一般人口において修正可能な因子であるかどうか研究を進める必要があるとしている。

Medical Tribune 2013年4月8日

認知症は心疾患やがんよりも医療費がかかる! 米研究
1人当たり年間4万ドル超える
 わが国をはじめとして,認知症は増加の一途をたどっており,大きな社会問題となっているが,いまだ根治薬は開発されていない。米ランド研究所のMichael D. Hurd氏らは,このほど認知症にかかる医療費を調査し,米国では認知症1人当たり年間,少なくとも4万1,689ドルの医療費がかかることを発表した(N Engl J Med 2013; 368: 1326-1334)。

 認知症は,医療費が最も高い疾患の1つとして知られているが,同氏らの報告によりそれがあらためて浮き彫りとなった。同時期に行われた他の調査と比べると,心疾患やがんと同等以上に高額だという。

介護による医療負担が増加

 対象は,51歳以上を対象とした米国の大規模長期追跡研究Health and Retirement Study(HRS)から抽出した856例。HRSでは認知症を直接評価する調査項目がないため,Hurd氏らは,加齢・人口統計・記憶研究(ADAMS)の一環として,856例に対しそれぞれ3〜4時間の在宅調査を行い,認知機能調査を行った。

 Hurd氏らは,856例を対象とした今回の認知機能のデータをHRSの5回の調査(2000〜08年)のうち70歳以上の全員に当てはめた。それを基にすると,2010年では米国の70歳以上の高齢者のうち14.7%が認知症であり,認知症にかかる医療費は1,090億ドル(無償介護の人件費を含むと総額1,570億〜2,150億ドル)にのぼると報告している。

 心疾患の医療費(2008年:960億ドル,2010年:1,020億ドル)や,がんの医療費(2008年:720億ドル,2010年:770億ドル)との比較から,同氏らは「認知症はこれらの疾患と比較して介護の必要性がより高く,無償介護の人件費も含めると心疾患やがんよりも医療費が高くなる可能性がある」としている。

 また,同氏らによると,1人当たりの医療費が同水準だと仮定すると,米国では2040年までに,高齢化による患者増のため,認知症全体の医療費が2倍近くまで増加する見込みだという。

Medical Tribune 2013年4月9日

ビタミンD欠乏はがんや呼吸器疾患による死亡とも強く関係
 ビタミンD欠乏は心血管疾患(CVD)による死亡の他,がんや呼吸器疾患による死亡リスクとも強く関係していると,ドイツのグループがAmerican Journal of Clinical Nutritionの4月号に発表した。

 一部の研究で,血清25-ヒドロキシビタミンD〔25(OH)D〕値が死亡リスクと関係することが示唆されている。同グループは,血清25(OH)D値と全死亡および原因特異的死亡との関係を検討した。

 対象は地域コホート研究であるESHERの参加者(登録時年齢50〜74歳)で,登録時に9,578例,追跡5年目に5,469例の血清25(OH)D値を測定。中央値9.5年間の追跡期間中の死亡を記録した。

 追跡期間中の死亡は1,083例で,うち350例がCVDによる死亡,433例ががんによる死亡,55例が呼吸器疾患による死亡だった。

 その結果,ビタミンD充足群〔血清25(OH)D値50nmol/L超〕と比較した欠乏群(30nmol/L未満)および不足群(30〜50nmol/L)の全死亡ハザード比(HR)はそれぞれ1.71、1.17と有意に高かった。

 また,充足群と比較した欠乏群のCVD死,がん死,呼吸器疾患死のHRはそれぞれ1.39、1.42、2.50といずれも有意なリスク上昇が認められた。

Medical Tribune 2013年4月11日

頭を使うだけでDNAにダメージ,健康人はすぐ修復
米動物実験
 これまで,神経細胞におけるDNA二本鎖の切断(DSB)によるダメージは,放射線や活性酸素などによって生じ,加齢に伴うDSB修復機能の低下により蓄積する結果,アルツハイマー病などの加齢性神経変性疾患の原因になると考えられてきた。

 しかし,米グラッドストーン研究所のLennart Mucke氏らは,Nature Neuroscience(2013年3月24日オンライン版)の中で,神経細胞でのDSBが正常な神経活動によって誘導され,神経変性疾患の場合,さらにその傾向が顕著になることを示した。つまり,頭を使うだけで神経細胞のDSBが起きるということになる。もちろん,健康人の場合,神経活動によって生じたDSBは速やかに修復されるため,頭を使えば使うほど早く認知機能が低下するというわけではないのでご安心を。
 
神経刺激でDSB増加

 Mucke氏らは,マウスを住み慣れた飼育籠から2時間だけ新しい籠に移し,見慣れない環境やにおい,感触などで刺激すると,脳のあらゆる部位,特に海馬歯状回の神経細胞で,DSBが3〜10倍程度増加することを見いだした。神経以外の細胞ではDSBがほとんど見つからず,また,マウスを元の飼育籠に戻すと24時間以内に刺激前と同程度の数に戻った。

 このような自然条件下の神経刺激によってDSBが誘導されることはこれまで知られていなかったため,同氏らは2種類のDSBマーカー(γH2A.X,53BP1)による検出と,マーカー検出とは原理の異なる分析法(コメットアッセイ)でDSBが誘導されていることを確認。より特異的な2つの神経刺激(視覚野,線条体)をそれぞれ行い,刺激された神経ネットワークでのみ,神経活動依存的にDSBが誘導されることを示した。

ストレスホルモンや活性酸素によるものでない

 副腎を摘出することでストレスホルモンを分泌できなくなったマウスでも,神経活動によるDSBの誘導が認められたことから,神経刺激によるストレスがDSBを誘導している可能性は否定された。また,活性酸素種を取り除いてもDSBの誘導に影響を与えなかったことから,活性酸素によるDSBの誘導も否定された。

 残念ながら,今回の研究によって,このような神経活動依存的なDSBの一過性の誘導が神経活動の単なる副産物なのか,神経活動に必要なものなのかは明らかにされていない。しかしMucke氏らは,アルツハイマー病モデルマウスで特に神経未刺激時のDSBが野生型マウスと比べて2〜3倍高く,刺激後のDSBの修復にも野生型マウスより時間がかかることを見いだしている。

 種々の遺伝学的,薬理学的手法により,アルツハイマー病モデルマウスで発現が上昇しているアミロイドβ蛋白質が,シナプス内外のNMDA型グルタミン酸受容体を経由した神経刺激伝達のバランスを乱すことによってDSBの誘導に影響し,さらには神経活動依存的な遺伝子の制御にも影響している可能性が示された。とすれば,やはりDSBの一過性の誘導は神経活動に必須ななんらかの役割を果たしているのだろうか。今後の研究に期待したい。

Medical Tribune 2013年4月17日

テロメア長短縮によりがん診断後の生存期間が短縮
 テロメア長の短縮化はがん診断後の生存期間短縮と関係すると,デンマークのグループがJournal of the National Cancer Instituteの4月3日号に発表した。*

 最近のメタ解析で,テロメア長の短縮はがん発症リスクと関係することが示唆されている。同グループは,テロメア長の短縮はがんの発症およびがん診断後の早死リスクと関係するとの仮説を立て,検証した。

 対象はコペンハーゲン市で行われた2件の前向きコホート研究(Copenhagen City Heart StudyとCopenhagen General Population Study)の参加者で,白血球のテロメア長を測定した4万7,102例。追跡期間は最長20年だった。

 テロメア長は加齢とともに線形の短縮を示した。追跡期間中のがん発症は3,142例で,1,730例が死亡した。

 解析の結果,テロメア長の短縮化はがん診断後の生存期間の有意な短縮と関係した。

*テロメア テロメアは染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。(参照:Wikipedia)

Medical Tribune 2013年4月18日

WHO ナトリウムとカリウム摂取量に関する新ガイドラインを発表
 世界保健機関(WHO)は,ナトリウム(Na)とカリウム(K)の摂取量に関するガイドラインをそれぞれ発表した。成人の1日推奨摂取量はNaが2,000mg(塩分5gに相当)未満,Kは最低3,510mgと明記された。
 
加工食品で高い塩分量

 現代人は一般的にNa摂取過剰,K摂取不足の状態にあるが,Na摂取量が多い人やK摂取量が少ない人は高血圧リスクが高く,心疾患や脳卒中リスクの上昇と関連している可能性が指摘されている。

 Naはさまざまな食品に含まれており,例えば牛乳やクリームには100g当たり約50mg,卵には同約80mgが含まれている。

 また,パン(100g当たり約250mg),ベーコンなどの加工肉(同約1,500mg),プレッツェルやポップコーンなどのスナック菓子(同約1,500mg),しょうゆなどの調味料(同約7,000mg),ブイヨンや固形スープの素(同約2万mg)などの加工食品ではNa含有量はさらに多い。

 Kを多く含む食品には豆類(100g当たり約1,300mg),ナッツ類(同約600mg),ホウレンソウやキャベツ,パセリなどの緑色野菜(同約550mg),バナナやパパイヤ,デーツなどの果物(同約300mg)がある。しかし,加工する過程で食品中のKが失われることも多い。

小児の推奨摂取量も明記

 WHO栄養部門のディレクターであるFrancesco Branca博士は「高血圧は心疾患や脳卒中の主要な危険因子で,世界の主な死因と障害の原因でもある」と指摘。「今回のガイドラインでは,小児(2〜15歳)用の1日推奨摂取量も明記された。高血圧の小児は成人後も高血圧であることが多いため,小児に対する指針は極めて重要である」と述べている。

 また,「今回のガイドラインは,心疾患や脳卒中,糖尿病,がん,慢性呼吸疾患などの非伝染性疾患対策に取り組んでいる各国の公衆衛生専門家や為政者にとっても重要なツールとなるだろう」とコメントしている。

 Na摂取量を減らすと同時にK摂取量を増やし,集団レベルでの高血圧や心疾患のリスクを低減させるための公衆衛生学的な手段には,食品の栄養表示や消費者教育,国の栄養ガイドラインの見直し,食品メーカーへの働きかけにより加工食品中の塩分量を減らすといった方策がある。

 WHOでは,肥満や非伝染性疾患リスクの低減を目的とした脂肪や砂糖の摂取量に関するガイドラインの改訂にも着手している。

Medical Tribune 2013年4月18日

大腸がん疑い有症状例への放射線検査はCTコロノグラフィがバリウム注腸より優れる
 大腸がんを疑う症状がある患者の放射線検査法として,CTコロノグラフィ(CTC)はバリウム注腸X線検査(BE)より優れると,英国のグループがLancetの4月6日号に発表した。

 BEは精度と受容性に懸念があるが,大腸がんの診断に広く用いられている。一方,CTCは精度と受容性がより高い代替検査法になる可能性がある。同グループは,有症状患者の大腸がんまたは大きなポリープの診断における実地臨床でのCTCとBEの有用性を比較した。

 対象は21病院に登録された55歳以上の3,838例。いずれも紹介医により放射線検査が妥当と判断された患者だった。BE群とCTC群にランダムに割り付け,大腸がんまたは大きなポリープ(径10mm以上)の診断を比較した。

 BE群2,527例とCTC群1,277例を解析対象とした。

 その結果,大腸がんまたは大きなポリープの検出率はBE群の5.6%(141例)に対し,CTC群では7.3%(93例)と有意に高かった。大腸がんの見逃しはCTC群が45例中3例,BE群が85例中12例だった。

Medical Tribune 2013年4月25日

早期乳がん患者への乳房温存術と放射線療法の併用
乳房切除術に比べて生存率高い可能性
 デューク総合がんセンター(米)乳腺外科のE. Shelley Hwang博士らの研究グループは「乳房温存術と放射線療法の併用療法を受けた早期乳がん患者では,乳房切除術を受けた患者と比べて生存率が高い」との観察研究の結果をCancer(2013; 119: 1402-1411)に発表した。

全死亡率が19%低い

 今回の研究の背景情報によると,早期乳がんに対しては,これまで20年以上も,乳房温存術+放射線療法の併用療法を受けた患者と乳房切除術を受けた患者の術後アウトカムは同等であると考えられてきた。実際に全ての年齢の女性で人種・民族を問わず,乳房温存術と放射線療法の併用療法を選択する患者の割合は増えている。

 このような背景を受けて,今回の研究結果は,腫瘍とその周囲の組織のみを切除する乳房温存術と乳房切除術の効果を比較することで,新たな問題を提示するものである。

 筆頭研究者のHwang博士は「観察研究の結果ではあるが,StageTまたはUの早期乳がんでは,低侵襲性治療の方が,乳房切除術より生存率が良好であることが示唆された」と述べている。

 同博士らは今回,カリフォルニア州で乳がんと診断され治療を受けた女性の長期アウトカムデータ(カリフォルニアがん登録の14年間の蓄積データ)を解析した。

 その結果,年齢やがんの種類(ホルモン感受性か非感受性か)に関係なく,乳房切除術に比べて乳房温存術+放射線療法による低侵襲性治療の方が生存率が高いことが明らかになった。

 乳房温存術+放射線療法から得られる便益は「診断時に50歳以上だったホルモン感受性患者」で最も大きく,これらの患者では乳房切除術を受けた患者と比べて乳がんによる死亡リスクが13%,全死亡リスクが19%低かった。

Medical Tribune 2013年4月25日

アスピリンの継続服用で閉経後白人女性のメラノーマリスクが低下
 アスピリンの継続的服用により閉経後の白人女性のメラノーマ発症リスクが有意に低下することを示すデータが,米スタンフォード大学のグループによりCancerの4月15日号に発表された。

 非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用と胃がん,大腸がん,乳がんのリスク低下との関係が示されているが,メラノーマへの影響に関しては一致した結果は得られていない。同グループは,Women’s Health Initiative(WHI)のObservation StudyでNSAID使用とメラノーマ発症リスクとの関係を検討した。

 試験登録時に,50〜79歳の閉経後白人女性5万9,806例のアスピリンと非アスピリン系NSAIDの使用状況を評価。皮膚のタイプ,日焼け歴,他の交絡因子におけるNSAID使用の適応などを補正した。

 中央値12年間の追跡で548例にメラノーマの発症が確認された。

 解析の結果,アスピリンを服用していた女性は服用していない女性と比べメラノーマの発症リスクが21%低かった。服用期間が長くなるほどリスクの低下は大きく,服用歴5年以上の女性のリスク低下率は30%であった。

 非アスピリン系NSAIDとアセトアミノフェンは,メラノーマのリスク低下とは関係していなかった。

Medical Tribune 2013年4月25日