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2013年3月 文献タイトル
米国と日本の死因トップ10の比較 2010年・両国の公的統計から
仕事に関連するストレスはがんの危険因子ではない
糖尿病や喘息にも適用!? 広がるか糞便注入の可能性 「健康理解と疾患治療のパラダイムシフトで登場した治療法」
がん検診のやめ時,高齢者はどう受け止める? 高齢者施設インタビューに基づく米研究
加工肉の食べ過ぎで死亡リスク増大,EPIC研究 欧州45万人を13年追跡
鎌状赤血球に低酸素状態の固形腫瘍を選択的に攻撃する能力 マウス実験で明らかに

米国と日本の死因トップ10の比較
2010年・両国の公的統計から
 3月1日,米疾病対策センター(CDC)が2010年の米国における国民死亡統計を発表した(MMWR 2013, 62; 155)。第1位は心疾患,第2位は悪性新生物でこの2つが年間の死亡数の半数近くを占めていた。同統計と同じ2010年の日本における人口動態統計による死因トップ10を比較した。

 米国,日本の死因トップ10,総死亡を含む死亡数と人口10万人対死亡率は表の通り。

 米国では日本と異なり,アルツハイマー病,糖尿病が死因として登場している。なお,2011年の日本の人口動態統計では肺炎が死因の第3位となり,脳血管疾患は第4位に後退。不慮の事故が第5位,老衰が第6位に入れ替わっている。



Medical Tribune 2013年3月4日

仕事に関連するストレスはがんの危険因子ではない
 仕事に関連するストレスによってがんのリスクが高まるというエビデンスは認められないと,欧州の共同研究グループがBMJの2月23日号に発表した。

 同グループは,欧州で行われた12件のコホート研究のメタ解析により,登録時に評価した仕事に関連するストレスとがんリスク(全てのがんと大腸がん,肺がん,乳がん,前立腺がん)との関係を検討した。対象はがん既往歴のない17〜70歳の男女計11万6,056例で,追跡期間の中央値は12年だった。

 追跡中のがん発症は5,765例で,大腸がんは522例,肺がんは374例,乳がんは1,010例,前立腺がんは865例であった。解析では年齢,性,社会経済的状況,BMI,喫煙および飲酒習慣を補正した。

 その結果,仕事に関連するストレスと全てのがんの発症リスクとの間に明らかな関係は認められなかった(ハザード比0.97)。同様に,大腸がん,肺がん,乳がん,前立腺がんにおいても仕事上のストレスとの関連は見られなかった。

Medical Tribune 2013年3月7日

糖尿病や喘息にも適用!? 広がるか糞便注入の可能性
「健康理解と疾患治療のパラダイムシフトで登場した治療法」
 今年(2013年)1月にN Eng J Med(2013; 368: 407-415)で紹介された,再発性Clostridium difficile感染症に対するオランダでの糞便細菌叢注入(fecal microbiota transplantation;FMT)の成績は,奏効率の高さが話題となり,国内外を問わず多くのメディアに取り上げられた。

 しかし,FMTはこれまで医学の表舞台には登場しておらず,実施方法,効果,安全性に関するエビデンスは存在しないのが実情。そこで,米Montefiore医療センターのLawrence J. Brandt氏はFMTに関するレビューをAm J Gastroenterol(2013; 108: 177-185)に掲載。「FMTは代謝性疾患や免疫疾患に幅広く適用できる可能性を秘めている反面,安全な施行法の確立を急ぐ必要がある」と指摘した。同氏は,FMTは健康理解と疾患治療におけるパラダイムシフトが進行する中で登場した治療だと主張している。
 
腸内細菌叢 “至適化” の究極の手段が糞便注入

 腸内細菌叢(intestinal flora, microbiota)がヒトの健康維持に重要な役割を担っているとの見解は近年評価されつつあり,2007年に米国立衛生研究所(NIH)が立ち上げたHuman Microbiome Projectの成果も公表され始めた。このように,腸内細菌叢の解明作業は緒に就いたばかりだが,その一方で健康人の糞便注入というシンプルかつ大胆な治療の試みも始まっており,C. difficile感染症に対するオランダの臨床研究はその代表だ(既報)。

 Brandt氏によると,外界への曝露による腸内細菌叢と食事・環境との密接な関連は誕生とともに始まり,腸内細菌叢と代謝活動,免疫機構との相互作用も生涯続く。腸内細菌叢の門レベルでの基本的構成は生後1年ほどでほぼ固まるが,種レベルでの構成は食事・外部環境により変化し続けるとの報告もある(Physiol Rev. 2010; 90: 859-904)。

適用患者の選択,至適注入経路や回数などは今後の検討課題

 FMTをC. difficile感染症以外の消化管疾患および消化器以外の疾患に適用する試みも始まっている。これまでにFMT治療が試みられた疾患のうち,改善(一時的なものも含む)もしくは治癒が報告されている疾患を列記すると,消化器疾患では特発性便秘,炎症性腸疾患(IBD),過敏性腸症候群(IBS),消化器疾患以外では自閉症,慢性疲労症候群(CFS),糖尿病およびインスリン抵抗性,線維筋痛症,特発性血小板減少性紫斑病(ITP),メタボリックシンドローム,多発性硬化症,ミオクローヌス・ジストニア症候群,パーキンソン病。パイロット的試みにすぎないとはいえ,実にさまざまな疾患に対してFMTの可能性を探ろうとする動きがあるようだ。

 上記に加え,胆石症,結腸直腸がん,肝性脳症,家族性地中海熱,胃がん・胃リンパ腫,さらに関節炎,喘息,アトピー性疾患,自己免疫疾患,湿疹,脂肪肝,花粉症,高コレステロール血症,虚血性心疾患,気分障害,肥満,シュウ酸カルシウムを主成分とする腎結石も,腸内細菌叢の変化との関連を認める疾患であるという。

 Brandt氏自身は,C. difficile感染症以外の消化器疾患では,潰瘍性大腸炎20例,クローン病4例,IBS 20例に対してFMTを適用し,一部の患者における症状の著しい改善を目の当たりにした。ただし,FMT適用患者の選択,ドナー糞便注入の至適経路や注入回数(頻度)については今後の検討課題であるという。

 また,消化器以外の疾患へのFMTの効果は偶然の発見によるもので,特発性血小板減少性紫斑病を併発している潰瘍性大腸炎患者1例にFMTを適用したところ両疾患とも寛解したとの報告,慢性便秘治療の目的でFMTを受けたMS患者3例で運動症状と排尿機能が改善したとの報告がある〔いずれも2011年の米国消化器学会(ACG)での報告〕。

 FMTの実施方法については,適正ドナーの選択,ドナー糞便の注入適性検査法,注入前の適切な調整法や注入便の量,レシピエントの腸洗浄のプロトコルや至適投与経路など,安全性を担保するために確立すべき項目が数多く存在するが,今は全くの手探りの状態。ドナー糞便の調整についても,研究者により懸濁液作成時に生食水の他,水,牛乳などが使用されたりもしているという。

 Brandt氏自身は,注入前日にドナーにはマグネシウム製剤を服用してもらい,軟らかめの便(その後の調整が容易になるため)をスムーズに提供してもらえるよう工夫。便50gを生食水250ccで希釈した懸濁液を十分に攪拌後,濾過して治療に用いているという。

 同氏は 「腸内細菌叢の解明が進むにつれ,必要最小限の微生物相に限定した“成分注入”による安全性の確保も可能となるのではないか。FMTは最初の一里塚にすぎない」と楽観的。「“細菌=悪”との定式化の下で “全ての疾患は腸内に起源を持つ”と考えたヒポクラテスが,もし今日の状況を知ったら“正常な腸内細菌叢こそが健康の鍵”と言うに違いない。健康理解と疾患治療におけるパラダイムシフトが現在進行中で,その中心にあるのが腸内細菌叢だ」と締めくくっている。

Medical Tribune 2013年3月12日

がん検診のやめ時,高齢者はどう受け止める?
高齢者施設インタビューに基づく米研究
 近年,検診によるベネフィットが得られにくい高齢者や重度の疾患患者にもがん検診が実施されているという報告が相次いでなされている。米国老年医学会は,検診をいつ終了するかについて,個々の意思決定を促すよう推奨した。しかし,高齢者が検診終了をどう受け止めているのかは知られていない。

 米インディアナ大学加齢研究所のAlexia M. Torke氏らは,米都市部の高齢者医療施設の患者33例に聞き取りを実施。対象者の多くは,検診を義務的なものと捉えていた。さらに,検診の負担の大きさや体力不足が検診を終了する意志決定要因となることが示唆され,同氏らはリスクとベネフィットを含め検診について話し合うことで,不要な検診の数を減らせる可能性があるとしている(JAMA Intern Med 2013年3月11日オンライン版)。

 近年,ベネフットが得られにくい高齢者や重症疾患患者にもがん検診が実施されている実態があるという。そのため,がん検診によるベネフィットが少ない,またはリスクとなる一般住民の受診行動を減らす試みがなされている。

 例えば,米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は,大腸がん検診の中止年齢を75歳,子宮頸がん検診は65歳とするなど,年齢に基づくがん検診終了のポイントを公表し始めた。

 しかし,がん検診終了について患者がどう認識しているのかはあまり知られていない。

 そこで,米インディアナ大学加齢研究所のAlexia M. Torke氏らは,米都市部の高齢者医療施設の患者33例(平均年齢75.7歳,女性82%)を対象に,聞き取り調査を実施した。

 検診を終了する際の意志決定に影響するのはどのような因子なのか。

 医師が検診終了を勧めた場合,医師への信頼感が失墜し,セカンド・オピニオンを求めるとの声が聞かれた。これまで検診によってがんの早期発見ができると言われてきたにもかかわらず,突然,もう受けるベネフィットがないと言われることに,対象者は疑問を感じていた。

 さらに政府主導の委員会発表について,これまでがん検診ガイドラインや健康行動が変更されており,中には政府主導の委員会による推奨に懐疑的な者がおり,検診を推奨する政府の財政刺激に懸念を抱いていた。

 また,検診のベネフィットが少ないとされた統計データに対し,対象者はなんらかのベネフィットが得られるかもしれないと楽観的に捉えていた。

 しかし,大きな負担を伴う検診となると話は違うようだ。大腸内視鏡検査を例に挙げると,ベネフィットより負担の方が大きければ検診の終了に納得がいくというのが多くの反応だった。

 その他,若干例ではあるが,健康状態が悪い中での受診が負担となることや,医師が検診終了を勧めるならそうしてもよいとする意見もあった。

 つまり,検診を継続することより終了する決断の方が難しい高齢者において,検診のリスクとベネフットのバランス,合併症による病状,検診の負担について話し合うことが,不要な検診を減らすのに有効であるのかもしれない,とTorke氏らは結論している。

 なお,今調査対象は単一施設であるということや,あくまでがん検診終了は仮の話という認識が対象者にあったことなどの限界は否めない。

Medical Tribune 2013年3月13日

加工肉の食べ過ぎで死亡リスク増大,EPIC研究
欧州45万人を13年追跡
 スイス・チューリッヒ大学のSabine Rohrmann氏は,ハムやベーコンなどの加工肉の食べ過ぎが死亡リスクの上昇を招くとする研究結果をBMC Medicine 2013年3月7日オンライン版に報告した。

 欧州の大規模コホート研究の解析で,欧州住民45万人を平均13年近く追跡したもの。同氏らは,加工肉に含まれる塩や化学調味料,必要以上の脂肪が健康を損なう可能性を指摘している。

 赤身肉および加工肉をそれぞれ10〜19.9g/日摂取する群を基準に,摂取量別に総死亡の調整後ハザード比(HR)を求めた。その結果,高用量摂取群でリスクが上昇する傾向が見られた。

加工肉の摂取を20g/日以内にとどめると死亡率が3.3%軽減

 加工肉が死亡リスクを有意に高めている理由について,Rohrmann氏らは「加工肉は塩や化学調味料を添加している上,赤身肉よりも飽和脂肪酸やコレステロールなどの値が高い。赤身肉は,調理過程で脂身を取り除くことが多いが,ソーセージなどは50%以上が脂身であることも不思議ではない」と指摘。今回の研究結果から「加工肉の摂取を20g/日以内にとどめると,3.3%死亡率が軽減できる」としている。

 また,同氏らは「赤身肉や加工肉の摂取が多い群では,野菜や果物の摂取が少ない一方で,喫煙者や喫煙経験者も多く,赤身肉や加工肉をあまり摂取しない群に比べて食・生活習慣の悪化が見られる」としており,加工肉の摂取を控えるとともに,生活習慣の改善も心がける必要がありそうだ。

Medical Tribune 2013年3月13日

鎌状赤血球に低酸素状態の固形腫瘍を選択的に攻撃する能力
マウス実験で明らかに
 デューク大学医療センター(米ノースカロライナ州)放射線腫瘍学科のMark W. Dewhirst教授らの研究グループは「鎌状赤血球を利用して低酸素状態の固形腫瘍を殺傷する新たな方法を開発した」とPLoS ONE(2013; 8: e52543)に発表した。マウスに投与した鎌状赤血球が低酸素状態の腫瘍細胞を選択的に攻撃し,周囲の血管を塞栓させる過程を明らかにしている。

新たながん治療法となる可能性

 研究責任者で同センター腫瘍微小循環研究室長でもあるDewhirst教授は「低酸素状態の固形腫瘍は既存の化学療法や放射線療法に抵抗性を示すが,鎌状赤血球はこれらの腫瘍を選択的に強く攻撃する。これは極めて興味深い知見で,新しい治療法をもたらす可能性がある」と述べている。

 筆頭研究者でジェノミック研究所(カリフォルニア州カーメル,がん研究を行う民間企業)の分子遺伝学部門責任者であるDavid S. Terman博士は「鎌状赤血球症患者を危険にさらす鎌状赤血球の性質が,がん治療に利用できるということだ。鎌状赤血球を用いる今回の方法は,乳がんや前立腺がんなど,現行の治療に抵抗性となりうる多くの固形腫瘍の治療に広く使用できる可能性がある」と述べている。

 鎌状赤血球は赤血球が三日月形または鎌状に変形したもので,正常な赤血球と異なり毛細血管を滑らかに流れることができず,血栓をつくり,それが疼痛や組織損傷を引き起こす。

 デューク大学およびジェノミック研究所の研究者は,低酸素状態の腫瘍に栄養を送っている膨大な血管ネットワークでも鎌状赤血球が同様に血栓をつくるか否かを明らかにするため,2006年に共同研究を開始した。低酸素状態の腫瘍は酸素が欠乏するほど致死的となりやすい可能性がある。

腫瘍に栄養を送る血管を30分で閉塞

 米国立衛生研究所(NIH)から支援を受けて行われた今回の研究で,Dewhirst教授らは蛍光染色した鎌状赤血球を乳がんマウスに注入し,マウスに装着した特別な実験器具の下で,体内の様子をリアルタイムで観察した。その結果,鎌状赤血球は5分以内に低酸素状態の腫瘍周囲の血管に付着し始めた。30分経過後には血栓を形成し,腫瘍に栄養を送っている小血管を閉塞し始めた。

 同教授は「低酸素状態の腫瘍は酸素欠乏によるストレス反応として,大量の接着分子を産生する。そのため鎌状赤血球は,低酸素状態の腫瘍にマジックテープのように付着する」と説明している。正常な細胞は接着分子を産生せず,鎌状赤血球も接着しない。

 Terman博士は「鎌状赤血球は正常な赤血球と異なり,酸欠状態の腫瘍に極めて独特な方法で引き寄せられ,そこに付着し,塊をつくり,腫瘍の血管を塞栓させることが分かった。腫瘍内で塊を形成した鎌状赤血球は死滅するとき有毒な鉄残留物を沈着させ,腫瘍細胞を死に至らしめる」と説明している。

Medical Tribune 2013年3月14日