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2013年11月 文献タイトル
大腸がん、一酸化窒素が一因 岡山大大学院助教ら確認
膵臓がん患者に治験 札幌医大、ワクチン投与
微小粒子状物質による大気汚染 EU基準値未満のレベルでも長期曝露で肺がんリスク上昇
夕暮れ乳がん検診好評
ケアフード 共に闘う、本格フレンチ 高齢者や患者向け 千葉「シェ・ケン」が開発、限定販売
変わるC型肝炎治療 相次ぐ新薬開発に期待 「先延ばし」はリスクも
抗がん剤脱毛に予防剤、大分大・アデランス共同開発
ナッツ類の摂取と死亡リスクの低下に関連,最大20%
花粉症の女性では血液悪性腫瘍の発症リスクが1.7倍
手術中、MRIで脳の状態確認 脳腫瘍摘出に威力
iPadに夢中、子どもの治療スムーズ…大津赤十字病院

大腸がん、一酸化窒素が一因 岡山大大学院助教ら確認
 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の田澤大助教(消化器外科学)、鳥取大医学部の岡田太教授(病態生化学)らのグループは、ヒトの良性腫瘍である大腸腺腫細胞を用いた実験で、慢性的な炎症細胞から出る一酸化窒素(NO)が、大腸がんの原因の一つとなっていることを突き止めた。

 NOの余分な発生を抑制して適量にコントロールする薬剤を開発すれば、大腸がんの予防や発生リスクの低減につながる成果として注目を集めている。

 クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患患者は国内に約14万人おり、慢性化すると大腸がんの併発リスクが高まることは知られているが、そのメカニズムは不明だった。

 グループは、炎症細胞が作り出すNOが、体内に侵入したウイルスなどを攻撃する一方で、炎症が長引いて過剰に作られると、正常細胞に悪影響を及ぼすとされてきた点に着目。ヒトの腺腫細胞を培養したシャーレに6カ月間、NOを入れ続けたところ、多くの細胞が大腸がん細胞になることを確認した。マウスの背中に移植すると、300日後には1センチ角のがんになったという。

 一方、大腸に炎症を起こしたマウスに腺腫細胞を移植し、NO発生を減らす効果がある薬剤を与えた結果、がん化までの期間を100日ほど遅らせることができた。成果は米科学誌に掲載された。

 田澤助教は「慢性胃炎や逆流性食道炎など大腸以外の炎症性疾患にも当てはまる可能性がある。今後も研究を続け、がん細胞の発生メカニズムを解明していきたい」としている。

m3.com 2013年11月5日

膵臓がん患者に治験 札幌医大、ワクチン投与
 札幌市の札幌医科大は11月5日、膵臓がんが進行した患者にペプチド(アミノ酸化合物)ワクチンを投与する治験を始めたと発表した。消化器がん患者を対象に安全性を確認したことを踏まえた。有効性が証明されれば国内の製薬会社が実用化に向けた治験に着手する。

 消化器がんの治験で、膵臓がんの効果が特に高かったことなどから今回の対象とした。
 札幌医科大によると、治験は札幌医科大が発見した「サバイビン2B」と呼ばれるペプチドワクチンを皮下注射するグループ、インターフェロンと併用するグループ、どちらも使用しないグループに分け、有効性を比較する。

 札幌医科大付属病院と東京大医科学研究所付属病院で実施され、患者71人を対象にする。期間は10月からの2年間。

 消化器がん患者対象の治験は昨年8月から今年5月にかけて行われた。サバイビン2Bを単独で投与し、約53%の患者のがん進行が抑えられ、非常に重い副作用は認められなかったという。

m3.com 2013年11月6日

微小粒子状物質による大気汚染
EU基準値未満のレベルでも長期曝露で肺がんリスク上昇
 デンマークがん学会研究センターのOle Raaschou-Nielsen博士らは「微小粒子状物質による大気汚染への長期曝露は,汚染レベルが欧州連合(EU)の基準値未満であっても肺がんリスク,特に腺がんリスクを上昇させることが分かった」とLancet Oncology(2013; 14: 813-822)に発表した。

 Raaschou-Nielsen博士らの平均13年間の追跡期間中に,2,095人が肺がんを発症した。

解析の結果,肺がんリスクは,PM2.5の5μg/m3増加に伴い18%,PM10の10μg/m3増加に伴い22%上昇した。これらの影響は腺がんで強かった。

 同博士は「微小粒子状物質による大気汚染と肺がんリスクとの関連は,同物質の濃度がEUによる現行の大気の質基準内(PM10 40μg/m<su3未満,PM2.5 25μg/m3未満)でも維持された。リスクが0になる下限値は存在せず,今回の結果は,微小粒子状物質による汚染度が高いほどリスクも高く,低いほどリスクも低いという図式を示している」と述べている。

Medical Tribune 2013年11月14日

夕暮れ乳がん検診好評
 がん死亡率(人口10万人当たりのがん死者数)全国ワーストの県内で、秋田市は乳がん検診の受診率が最低……。そんな状況を改善しようと、市が働く女性らを対象に市立秋田総合病院(川元松丘町)で始めた「夕暮れ乳がん検診」が好評だ。9月から既に70人以上が受診し、「仕事帰りに来られてよかった」と喜ばれているという。ワースト脱却につながるか。

 夕暮れ検診は月に2回、原則第1、3水曜日の午後5時から7時に実施している。受診できるのは、市の乳がん検診対象者(2014年3月末時点で40歳以上になる偶数歳の女性)か、国の乳がん検診無料クーポンの対象者(13年4月1日現在で40、45、50、55、60歳の女性)。年齢ごとに定められた検診料(76歳以上は無料)で、マンモグラフィー検査が受けられる。

 国は乳がん検診の受診率50%を目標にしているが、県によると、県内の2011年度の受診率は23・1%。秋田市は13・5%で、県内市町村別で最低だった。

 市立秋田総合病院では、乳腺・内分泌外科で検診を実施。しかし、平日の午前9時か午後1時(休診日あり)に一斉に受け付けるため、受け付け順や混み具合によっては終わるまでに1〜3時間ほどかかり、仕事を持つ女性が受診しづらいのが実情だ。

 夕暮れ検診では、30分刻みで予約を受け付けており、終了までの所要時間は40分〜1時間程度。これまでに5回実施し、各回9〜18人が受診した。大半が働く女性で、アンケートでは「来年も続けてほしい」などと要望があったという。

 同病院は「がんは自覚症状のない早い段階での発見が大事。日中に来院できない人は、この機会に受診を」と呼びかけている。

 今年度の実施日は、11月20日、12月4、18日、1月8、15日、2月5、19日、3月5日。予約は、前日までに同病院電話予約センター(018・867・7489)へ。平日の午前10時〜午後3時に受け付ける。予約のない場合は、午後6時45分で受け付けを締め切る。

m3.com 2013年11月15日

ケアフード 共に闘う、本格フレンチ
高齢者や患者向け 千葉「シェ・ケン」が開発、限定販売
 病気に苦しむ人にも本格的なフレンチのコース料理を――。創業32年のフランス料理レストラン「シェ・ケン」(千葉市若葉区)が、硬いものを食べるのが難しい高齢者や患者など向けのケアフード「やさしいフレンチ」を開発、15日から500セットを限定販売している。

 県産野菜など食材にこだわり、栄養バランスを考慮したほか、フランス料理の技法を活用。「食事を楽しんで元気になってもらう」ため、おいしさと食べやすさを両立させた。価格は2940円。

 そごう千葉店や渋谷ヒカリエシンクス店内の「シェ・ケン」で販売。シェ・ケンのホームページからも購入できる。

 セット内容は、前菜4品(赤ピーマンのムース、マッシュルームのフラン、紫芋のプレッセ、ブロッコリーのムース)▽ジャガイモのスープ▽柔らかハンバーグデミグラス・ソース▽白身魚と海老(えび)のムース▽木苺(きいちご)のムース▽パンのムース――の計9品。それぞれがカップに収められ、解凍するだけで食べられる手軽さもある。

 全て手作りで、食材を軟らかくして調理するピューレやムースなどの技法を応用したほか、病気の人も食べられるよう塩分を控えるなどの工夫と細胞を壊さないよう急速冷凍するCAS(キャス)といわれる技術を利用し、おいしさを保つようにした。

 ケアフードについては、NPO法人「医療・福祉ネットワーク千葉」(竜崇正理事長)が3年ほど前から普及に取り組んでいる。

 抗がん剤投与や放射線治療の副作用などで食欲が落ちたり、手術で固形物が飲み込みづらくなった患者らに、治療しながらもおいしい食事を楽しんでもらおうと始まったもので、シェ・ケンの山口賢総料理長(60)もレシピ開発などに協力してきた。竜理事長は「病院での聞き取りなど患者のニーズがどこにあるかを調べながら、小さな一歩の積み重ねを繰り返してここまできた。感無量だ」と話す。

 山口総料理長は「パンのムースなど苦心したが、素材そのものの味が生かされ、おいしくできた。これからは季節に合わせたメニューを考えたい」と意欲をみせている。問い合わせは、シェ・ケン電話043・304・6901。

m3.com 2013年11月17日

変わるC型肝炎治療 相次ぐ新薬開発に期待 「先延ばし」はリスクも
 肝臓がんの原因の約8割を占めるといわれるC型肝炎の治療が変わりつつある。従来の治療法と併用して効果を挙げる飲み薬が厚生労働省に承認されたほか、副作用がより少ないとの期待がある複数の新薬が開発の最終段階に。

 進行するまで自覚症状がほとんどない病気だけに「良い新薬を待って治療を」と考える人も多いが、専門医は「治療先送りのリスクも認識して」と助言する。

▽大半が未治療

 C型肝炎は血液を介してうつるウイルスが原因。感染すると7割程度が慢性肝炎となり、20〜30年かけて肝硬変、そして肝がんへと進行する。

 C型肝炎ウイルス(HCV)感染者は、国内に150万〜200万人と推定されるが「治療を受けているのはごく一部」と武蔵野赤十字病院(東京)の泉並木副院長。

 治療が進まない理由は、検査の機会がなく自分の感染を知らない、感染が分かっても「特に不調はない」と放置しているなどが考えられるが、標準的治療薬のインターフェロン(IFN)への抵抗感も無視できない。

 IFNは免疫を強め、HCVを体から排除する働きをする注射薬。しかし発熱や皮膚炎、脱毛、まれに間質性肺炎といった副作用がある。単独で使われていた90年代はウイルスが検出されなくなる「著効」の率が10%程度と低かったが、体内に長くとどまる改良タイプが開発されて週3回の注射が週1回で済み、患者の負担が減少した。

▽2剤から3剤へ

 2004年には飲み薬リバビリンを加える2剤併用療法が始まり、著効率が約50%に向上。がんを防ぐ標準的治療法として、専門医は肝機能が悪化していなくても積極的に治療を勧めるようになった。ただリバビリンには貧血の副作用もある。

 その後、これに別の抗HCV内服薬を組み合わせる3剤併用療法がスタート。11年に登場したテラプレビルは著効率を70%まで押し上げたが、貧血などの副作用が強く、特に高齢者への使用が難しかった。

 そこへ新たな飲み薬シメプレビルが今年9月に認可され、近く販売される。臨床試験(治験)での著効率は約90%で副作用も少なかった。IFNとリバビリンの治療期間が原則1年なのに対し、シメプレビルを併用すると期間も半年と短縮できる。「医療現場へのインパクトは非常に大きい」と泉さんは言う。

 それでもIFNとリバビリンの副作用は残る。国内では現在、IFNを使わず2種類の抗HCV飲み薬だけによる治療法の開発も進行中で、来年にも医療現場に登場する可能性がある。
▽懸念は薬剤耐性

 ただ泉さんによると、IFNを使わない場合、HCVが薬に対する耐性を獲得しやすいのではないかという懸念がある。「年齢や肝炎の進行度から、がんになるリスクはある程度予測できる。専門医と相談し早い治療が得策という結論になったら、現時点で最も確実なIFNによる治療が勧められる」と泉さん。

 NPO法人東京肝臓友の会事務局長の米沢敦子さん(53)はIFNとリバビリンで完治したが、治療は06年から1年半に及んだ。高熱と強いかゆみ、脱毛などの副作用がつらく、仕事との両立をあきらめて治療に専念する選択をした。それだけに「少しでも楽な治療法が出るのを待ちたい気持ちは分かる」と話す。

 だが治療をためらっている間に病状が悪化したり、新薬が承認されても使用できる患者が限定されたりする場合もあるため「今できる治療を受けることの大切さを強調したい」という。同会は電話03(5982)2150で全国の患者の相談にも応じている。

m3.com 2013年11月19日

抗がん剤脱毛に予防剤、大分大・アデランス共同開発
 大分大(大分市)は19日、かつら大手「アデランス」(東京)と、抗がん剤治療に伴う脱毛を防ぐ共同研究を始めたと発表した。「新規α(アルファ)リポ酸誘導体」と呼ばれる抗酸化物質を用いた予防剤の試作品をすでに開発しており、3年後の商品化を目指している。

 発表によると、同大は、がん治療などにおける抗酸化物質の効果に関する研究を実施。抗がん剤の副作用についても調べ、脱毛の原因は頭皮が炎症を起こし、毛根などが破壊されるためとみられることを突き止めた。さらに、複数の抗酸化物質の効能を調べたところ、新規αリポ酸誘導体には、炎症を抑える効果などがあることを示すデータが動物実験で得られたという。

 来年から始める臨床試験では、抗がん剤治療と同時に、頭皮に試作品の予防剤を塗り、脱毛が抑制されるかどうかを確認する。2016年にも医薬部外品として商品化につなげたい意向だ。北野正剛学長は記者会見で「脱毛による心理的な苦痛は大きく、予防剤はがん患者にとって朗報になる」と述べた。

m3.com 2013年11月20日

ナッツ類の摂取と死亡リスクの低下に関連,最大20%
 Harvard Medical SchoolのYing Bao氏らは,看護師,医師を対象とした大規模観察研究のプール解析を実施。ナッツ類の摂取状況と総死亡あるいは各種疾患による死亡との関連を検討,報告した(N Engl J Med 2013; 369: 2001-2011)。

 それによると,ナッツ類を全く摂取しない群に比べ,1週間当たりの摂取頻度が多くなるほど総死亡リスクが有意に低下。週7回以上の摂取群では20%の総死亡リスク低下が示された。

Medical Tribune 2013年11月21日

花粉症の女性では血液悪性腫瘍の発症リスクが1.7倍
 Fred Hutchinson Cancer Research Center(米)のMazyar Shadman氏らは,植物・樹木・草などの花粉症の女性では,そうでない女性に比べて血液悪性腫瘍の発症リスクが1.7倍高いとする研究結果をまとめた(Am J Hematol 2013; 88: 1050-1054)。

 一方,男性の花粉症と血液悪性腫瘍との関連は認められず,虫刺症やそれ以外のアレルギーについても関連はなかった。

Medical Tribune 2013年11月26日

手術中、MRIで脳の状態確認 脳腫瘍摘出に威力
 脳腫瘍などの手術中に脳内の状態が確認できる磁気共鳴画像装置(MRI)「術中MRI」を、兵庫県明石市大久保町江井島の大西脳神経外科病院が関西で初めて導入した。腫瘍の位置や摘出状況をリアルタイムで把握でき、術後の患者生存率に大きく関わる摘出率の向上が期待される。

 脳腫瘍の摘出手術では、腫瘍がどこまで広がっているのか、正常な脳との境界はどこなのかを正確に判断することが重要だ。手術で腫瘍のすぐ近くにある神経線維を傷つけてしまうと、運動や言語機能に障害を来す恐れがあるため、従来は取り残した腫瘍に術後、放射線や抗がん剤による治療を施すことが多かった。

 これまでも手術前に撮ったMRIの画像などを基に、どのようなルートでどのように手術を進めるかという詳細な“地図”を作っていた。しかし、「頭蓋骨を外した脳は、容器から出した豆腐のような状態。わずかだが、ひずんだり動いたりするので、手術前に作った地図と微妙にずれてしまう」と同病院の大西英之院長(67)。

【全国15病院】

 そこで腫瘍をある程度摘出した時点で、全身麻酔がかかったままの患者を、手術室と隣接する術中MRI設置室へ移動させる。脳を撮影し、残っている腫瘍の大きさ、位置を確認。最大限摘出することが可能になった。

 術中MRIは2000年ごろから国内に導入され始めたが、現在、稼働しているのは全国で15病院とまだ少ない。装置の規模が大きい上、強い磁場は他の機器に影響を与える恐れもあり、設置場所を確保するのが難しいためだという。

 同病院では今年6月、新病棟開設に合わせて導入した。米ゼネラル・エレクトリック(GE)社製で、磁場の強さは術中MRIでは国内最高レベルとなる1・5テスラ(1テスラは1万ガウス)。初期に導入された機種の約3倍あり、撮影して得られる画像がより鮮明になった。円筒形の装置の内部空間が広いため、手術器具を装着したまま撮影できるのも利点だ。

【生命予後を左右】

 同病院では、術中MRIと合わせ、運動機能に関わる脳神経を手術中に刺激し、筋肉の動きが保たれているかどうかを確認する「神経モニタリングシステム」や、特殊光線を当てると腫瘍部分が蛍光を発する「術中蛍光観察」も導入。多角的で高精度な腫瘍摘出を目指す。

 大西院長によると、悪性の脳腫瘍「神経膠芽腫」の場合、手術後の生存率はこの20年間ほとんど変わらず、およそ1年。最近、ようやく2年になった。

 「統計的に、腫瘍をどれだけ多く摘出できるかどうかで、生命予後(生命が維持できるかどうかの予測)が決まってくる」と大西院長。同病院での術中MRIを使った手術実績はまだ5例だが、「元の身体機能を保全しながら、どこまで腫瘍を取り除くことができるか、最新の装置を活用しながら努力したい」と話す。

m3.com 2013年11月27日

iPadに夢中、子どもの治療スムーズ…大津赤十字病院
 小さな子どもに痛みや緊張を強いる治療を受けさせる際、どう工夫すれば、スムーズに処置が行えるか――。

 多くの保護者や医師が思い悩むであろう、そんな問いに、大津赤十字病院小児科副部長の今井剛医師(43)を中心とするチームが一つの答えを出した。それはビジネスマンや若者の間で人気のタブレット型多機能端末「iPad(アイパッド)」。小児がんと闘う、ある男児の約11か月に及ぶ治療経験を踏まえ、iPadの有効性を今井医師は強く確信した、という。

 治療を受けたのは草津市に住む男児(2)。男児は今年1月、食べたものを吐くなどして具合が悪くなり、地元の病院を受診。しかし最初の病院では詳しい原因が分からず、その後、かかった大津赤十字病院で診断を受け、脳の腫瘍(小児がん)が原因であると分かった。

 すぐに脳外科医の執刀で手術が行われ、無事、腫瘍は取り除かれた。しかし再発を防ぐには頭部への継続的な抗がん剤投与が必要で、痛みなどが伴う苦しい闘病が始まった。そしてこの治療の責任者となったのが今井医師だった。

 男児はあらかじめ頭の中にカテーテルなどを埋め込んでいて、投薬の際は注射針を頭皮に刺し、しばらく体を動かさずじっとしておく必要があった。鎮静剤などを使えば、処置がしやすくなるが、血圧低下などの副作用があり、体がまだ小さい幼児にはできるだけ利用を控えるべきだと考えられた。

 「針を刺されるのを嫌がったり、すぐ患部を触れようとしたりする。どうしたものやら」。保護者と今井医師たちでいろいろ意見を出し合って、たどり着いたのがiPadの活用だった。

 両親の影響で、男児はiPadで、幼児番組を見たり、パズルゲームを試したりするのが大好きだった。3〜10月に行われた抗がん剤治療では、処置室にiPadを持ち込み、まず椅子に座った母親(35)が膝の上で男児をだっこ。iPadを触らせ、父親や看護師がいろいろ話し掛けて治療から注意を上手にそらせ続けた。

 抗がん剤を注入している4分間は頭部を動かしたり、触ったりすることが厳禁。男児には計36回の注入が行われたが、男児はiPadに夢中で、医師らの手を煩わせることはほとんどなく、順調に治療を進めることができた。

 診療に同席することが多かった父親(36)も「普段は極力、iPadを触らせないようにしている。ただ治療が円滑に進むので、病院では例外的に触らせた。本当に子どもの心をとりこにしますね」と効果に目を見張る。

 今井医師によると、これまで小児医療では注射や点滴などをする際、おもちゃや絵本、テレビなどで気をひくことが多かった。「タブレットは指の操作を伴うので、子どももよりそちらに注意を傾けることになる。アプリが豊富なことも飽きさせないことにつながる」と利点を語る。

 そして、「海外では子どもの治療でタブレットが有効なことに着目する医療機関も増えてきている。国内でも、こうした利用に使える有効なアプリの開発が進めば」と期待する。

 今井医師は、男児の治療でiPadを有効活用した事例について、今月末から福岡市で開かれる「日本小児がん看護学会」で報告する予定だ。

m3.com 2013年11月28日