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2013年10月 文献タイトル
大腸がん一因、一酸化窒素 岡大・田澤助教ら解明
がん撃退リンパ球量産 富山大など世界初システム開発
遺伝子相違を秒単位で解析 がん早期発見に期待
手術時に腫瘍組織と健常組織を瞬時に識別 迅速蒸発イオン化質量分析法を患者に初めて使用
PM2・5など、高い発癌性と認定…WHO機関

大腸がん一因、一酸化窒素 岡大・田澤助教ら解明
 潰瘍性大腸炎(国内患者約6万4000人)など炎症性腸疾患の組織から出る一酸化窒素(NO)が、大腸がんの原因となっていることを解明したと、田澤大・岡山大助教(消化器外科学)らの研究グループが10月8日、発表した。将来的に、NOを抑制して発がんを予防する薬の開発が期待されるという。研究成果は8月13日付の米国科学雑誌「Experimental Cell Research」電子版に掲載された。

 NOは、炎症細胞などから作られるガス状の分子。細菌やウイルスの感染から守るが、慢性的に炎症が続くとNOが過剰に作られ、正常な細胞の遺伝子やたんぱく質の機能を失わせるなどの悪影響がある。

 田澤助教らは、ヒト大腸腺種(大腸ポリープ)細胞にNOを与え続けると、大腸がん細胞になることを確認。また、ヒト大腸腺種細胞をマウスの背中に移植して慢性炎症にし、NOができにくくする薬剤を投与したところ、大腸がんになるまでの期間が延びたという。

 若林敬二・静岡県立大教授(環境発がん)の話「主要ながんの一つ、大腸がん発生の一因を解明したことは重要で、予防や今後の治療に役立つ成果だ」

m3.com 2013年10月9日

がん撃退リンパ球量産 富山大など世界初システム開発
 がん細胞やウイルスを攻撃する特定のリンパ球の遺伝子を、人の血液から短期間に取り出す世界初のシステムの開発に成功したと、富山大医学部長の村口篤教授(免疫学)らの研究グループが発表した。個別の病気の治療に有効なリンパ球を量産することが可能になり、患者一人一人に応じた「テーラーメード医療」への応用が期待される。研究成果は10月13日、米科学誌「ネイチャーメディスン」電子版に掲載された。

 血液中にあるリンパ球のうち、病原体を自ら攻撃するタイプはTリンパ球と呼ばれ、全体の70〜80%を占める。表面にあるセンサーで標的を見つけて破壊することで、感染症になったり、がん細胞が増えたりするのを防いでいる。ただ、Tリンパ球はそれぞれ異なるセンサーを持ち無数に存在するため、特定の種類だけを取り出し人工的に増やすのは難しいと考えられてきた。

 今回開発されたシステムは、この課題を克服した。一つのTリンパ球の中から遺伝子を取り出し、増幅させる新しい遺伝子工学技術を確立。血液から特定のTリンパ球を抽出する既存技術を組み合わせることで、狙った遺伝子だけを増やせるようになった。センサーを持たない未熟なTリンパ球に、増幅させた遺伝子を組み込むことで、同一のTリンパ球を大量に生産できるようになった。

 肝がん患者2人を対象にした実証実験では、血液から3〜4種類のTリンパ球を採取。そのうち、がん細胞への攻撃力が最も強い1種類を量産し、実験用に培養したがん細胞に加えたところ、大部分が消滅した。ヘルペスウイルス感染者を対象にした実験でも、増やしたTリンパ球でウイルスが減る成果が得られた。

 リンパ球などの免疫細胞を使う治療法は、がんの分野を中心に近年盛んに研究されている。

 今回の研究について、免疫細胞治療に詳しい三重大大学院医学系研究科の珠玖洋教授は「一つのTリンパ球を基に量産が可能になったという点で画期的と言える。免疫療法の可能性を大きく広げる成果だ」と評価する。

 免疫療法は、患者本人の免疫細胞を使うため副作用が少ないメリットがある一方、遺伝子操作による安全性の確保が課題になっている。

 村口教授らの研究グループは、2009年に特定の抗体をつくるリンパ球を量産する技術も確立している。今回の研究と合わせて、個別のがん患者や感染症患者に最も適した抗体医薬品や治療用リンパ球を提供する医療システムの構築を目指している。村口教授は「研究を重ねて、早い段階で臨床実験につなげていきたい」と話している。

m3.com 2013年10月15日

遺伝子相違を秒単位で解析 がん早期発見に期待
 北陸先端科学技術大学院大(石川県能美市)の藤本健造教授(生物有機化学)らの研究チームは10月15日、光を当てることにより秒単位で遺伝子配列の違いを見分ける方法を開発、コメの品種を特定する実証実験に成功したと発表した。月内にも米専門誌電子版で公開される。

 藤本教授は「がんにつながる遺伝子の変異の早期発見や、食品偽装の防止につながる可能性がある」としている。

 チームによると、遺伝子の塩基配列が1カ所だけ異なる「一塩基多型」により、食物の品種や個人の体質の違いが生じるほか、疾病リスクとも相関性があるとされている。これまでは酵素などを用いて最大24時間かけて一塩基多型の違いを調べており、チームは光を当てるだけの簡単な解析方法を目指していた。

 藤本教授らは今回、アキヒカリなどコメの品種ごとに、それぞれの遺伝子情報を読み込ませた液体状の試薬を開発した。その試薬にコメの遺伝子を混ぜて光を1秒間照射。その後、発光するかどうかで品種を秒単位で特定することに成功した。

 これまでは、2本の鎖状の遺伝子を1本にまとめる手間がかかっていたが、藤本教授は「2本のまま解析できるようになり、時間短縮につながった」としている。

m3.com 2013年10月16日

手術時に腫瘍組織と健常組織を瞬時に識別
迅速蒸発イオン化質量分析法を患者に初めて使用
 電気メスで腫瘍を切除すると煙霧が発生するが,インペリアルカレッジ(ロンドン)外科・腫瘍科計算・システム医療のZoltan Takats博士らは,術中に採取した煙霧に含まれる分子の質量を分析し,切除中の組織が正常組織かがん組織かを瞬時に識別できる迅速蒸発イオン化質量分析法(REIMS)を開発,実際に患者で初めて使用したところ,良好な成績が得られたとScience Translational Medicine(2013; 5: 194ra93)に発表した。
 
微量の試料から3秒で識別

 がん手術では,腫瘍組織を切除する一方で周囲の健常な組織をできるだけ温存することが重要である。しかし,外科医が術中に腫瘍組織と健常組織の境界を識別することは必ずしも容易ではなく,患者が麻酔下にあるうちに採取した組織を病理検査に回し,切除断端を調べることも少なくない。

 REIMSは,“インテリジェントナイフ(iナイフ)”とも呼ばれ,特定のがんにおける分子の指紋(molecular fingerprint)を瞬時に識別できることから,今後,腫瘍の外科的切除に有用となるかもしれない。

 Takats博士らは,まず,組織特異的な質量分析シグネチャーを約3,000点集積したデータベースを構築し,次に切除時の煙霧を瞬時に質量分析に供せるiナイフを作製。81例の患者を対象に初の臨床試験を実施した。

 その結果,iナイフの診断精度は標準的な組織学的分析による切除後診断と同等であった。さらに,組織学的分析には20〜30分を要するが,iナイフの診断には3秒しかかからず,採取組織量も0.1mm3で済むのも大きな利点である。今回の試験結果は,iナイフがさまざまながん手術に幅広く適用できる十分な信頼性を備えていることを示している。

Medical Tribune 2013年10月17日

PM2・5など、高い発癌性と認定…WHO機関
 世界保健機関(WHO)の下で化学物質などの発がん性を評価している専門組織、国際がん研究機関(IARC)は10月17日、大気汚染について、中国などで深刻化していることを念頭に肺がんなどの発がん性を有すると初めて認定し、5段階のリスク評価で最も危険が高い「グループ1」に分類したと発表した。

 日本への飛来も問題となっている微小粒子状物質(PM2・5)を含む粒子状物質についても別途、グループ1に分類した。アスベスト、喫煙、コールタールなどと同等のリスクに当たる。

 IARCは、2010年に大気汚染が原因の肺がんによる死者が世界全体で22万人に上ったと推計。特に中国など急速な工業化が進む地域で大気汚染が深刻化しており、早急な対策が必要だと指摘した。

 IARCは従来、ベンゼンなど個々の大気汚染物質の発がん性評価を行ってきたが、今回から「大気汚染」と、大気汚染を構成する「粒子状物質」に分けて評価した。

m3.com 2013年10月18日