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2013年1月 文献タイトル
免疫細胞 iPSで再生 がん治療に応用 東大グループ
肺がんの進行を遅らせるのはどの降圧薬? 米・後ろ向き研究
米で「肺がん検診」の推奨が復活!〜 ただし,日本とはかなり異なる内容
停留精巣の男児〜後年の精巣がん発症リスクは3倍
新しいプレがん検診に期待 血液検査で複数の早期がんを簡便に検出
日本でも注目高まるか,肺がんCT検診導入で肺がん死が24%減少 茨城県日立市の時系列研究
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の夜間の低酸素状態ががん発症と関係
閉経後非肥満女性の睡眠障害が甲状腺がんと関係
アディポネクチン低値が膵がん発症と関係する可能性

免疫細胞 iPSで再生 がん治療に応用 東大グループ
 ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを攻撃する免疫細胞の一種「T細胞」を一度、人工多能性幹細胞(iPS細胞)にした上で、同じ能力を持つ「元気」なT細胞に再生させることに世界で初めて成功したと、東京大の中内啓光教授らのグループが発表した。このT細胞を患者の体に戻すことで、がんなどの新たな治療法につながるという。4日付の米科学誌「セル・ステムセル」に掲載される。

 T細胞は、感染状態が慢性化したりすると疲弊し、病気に対する免疫力が低下する。

 中内教授らはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している患者の血液から、HIV感染細胞のみを認識して攻撃する特定のT細胞を分離。疲弊したこのT細胞をiPS細胞へと変化させて大量に増やし、ヒトの白血球に含まれる「単核球細胞」と一緒に培養することなどで、再びT細胞に分化させることに成功したという。

 中内教授らによると、iPS細胞を経て再生されても、T細胞は攻撃対象の記憶を失っていなかった。さらに、増殖性が高まり、細胞の寿命を示すといわれる「テロメア」と呼ばれる部分が30〜50%程度長くなるなど、「若返り」の兆候を示していたという。

 がん患者の体からT細胞を取り出して、体外で増やしてから体に戻す治療法は現在も行われている。しかし、がんを攻撃する特定のT細胞だけを選んで増やすことが難しく、効果は限られる。

 理化学研究所の河本宏チームリーダーも、同様の方法で、がんの一種「悪性黒色腫」を攻撃するT細胞の再生に成功。同誌に同時掲載される。

m3.com 2013年1月4日

肺がんの進行を遅らせるのはどの降圧薬?
米・後ろ向き研究
 放射線治療(RT)は,局所進行または手術不能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者にとって重要な治療法であるが,陽子線治療などの最新のRT技術を駆使しても5年生存率は15%以下と依然低いままだ。ところが,ある降圧薬を服用していたNSCLC患者では,降圧薬を服用していない患者に比べて進行が遅延していたという。米・テキサス大学放射線科のH. M. Wang氏らによる後ろ向き研究で明らかになった(Ann Oncol 2013年1月8日オンライン版)。

NSCLC患者データベースを後ろ向きに検討

 腫瘍細胞の増殖にストレスホルモンであるノルエピネフリンが直接関与することが報告されているが,これはβ交換神経受容体を介した作用であるという。Wang氏らがNSCLCの進展を遅延させたと報告したある降圧薬とは…。そう,この受容体を遮断するβ遮断薬だ。

 同氏らは,1998〜2010年におけるMDアンダーソンがんセンターで60Gy以上のRTを受けたNSCLC患者データベースから,722例を抽出。そのうち155例〔男性55.0%,65歳以上66.0%,放射線化学療法同時併用療法77.0%,高血圧合併68.0%,慢性閉塞性肺疾患(COPD)23.0%,アスピリン服用42.0%〕がRT中にβ遮断薬を服用していた。

 多変量解析の結果,β遮断薬服用患者における無遠隔転移生存期間、無病生存期間、全生存期間のいずれの期間も有意に延長していた。

 しかし,局所再発までの生存率については有意な成績は得られなかった。

 今回の知見は,β遮断薬が転移性カスケードに特定の影響を与えることを示唆するものだとWang氏ら。これまでの報告との一貫性が見られたとして,今後,β遮断薬の投与期間や投与時期によるがん患者の生存のアウトカムへの影響について検証する必要があるとしている。

Medical Tribune 2013年1月10日

米で「肺がん検診」の推奨が復活!〜 ただし,日本とはかなり異なる内容
米国がん学会が新ガイドライン

 米国がん学会(ACS)は1月11日,肺がん検診に関する新しいガイドラインを発表(CA 2013年1月11日オンライン版)。同学会は1970年代まで喫煙者および過去の喫煙歴がある人への胸部X線による肺がん検診を推奨していたが,80年に推奨を取り下げていた。ただし,今回,検診が推奨される対象,そして検診の方法は「40歳以上の人に胸部X線」を推奨する日本の現行ガイドラインとはかなり異なっている。

55〜74歳のヘビースモーカーに年1回の低線量CT

 米国では,肺がんは長年,がんによる主な死因を占め,2012年には全米で16万340人が肺がんで死亡し,全がん死の約28%に上っている。

 今回のガイドラインで肺がん検診が推奨されているのは,「55〜74歳で健康上の問題がほぼなく,喫煙指数30pack-year相当の喫煙歴がある」いわゆるヘビースモーカーのみ。

 検診間隔と方法は「年1回の低線量CT(LDCT)」を推奨。「胸部X線はがん検診として用いるべきではない」とされている。

非高リスク例の検診「有用性のエビデンス不十分」

 肺がん検診に関する初のランダム化比較試験(RCT)である同試験では,今回のガイドラインで検診が推奨される条件に合致した5万人以上に,年1回のLDCTによる検診を3回にわたり実施。その結果,肺がん死が対照の胸部X線群に比べ20%減少したとの成績が示されている。ただし,ACSは「その他の試験では検診のベネフィットは確認されていない」とも述べている。

 今回,ヘビースモーカーにのみ検診が推奨された理由について,ACSは「非喫煙者でも肺がんは発症するが,一度も喫煙したことがない人,あるいはヘビースモーカーではない喫煙者に対する検診が有用かについては,十分なエビデンスがない。そのため,推奨は行わなかった」と説明している。

Medical Tribune 2013年1月16日

停留精巣の男児〜後年の精巣がん発症リスクは3倍
 王立小児病院(英グラスゴー)小児外科のRobert Carachi教授らは,出生時に精巣が陰嚢まで下降していない先天異常である停留精巣の男児が後年,精巣がんを発症するリスクは,そうでない男児の3倍近いとするメタアナリシスの結果をArchives of Disease in Childhood(2012; 98: 20-26)に発表した。

罹患率が過去20〜30年の間に大幅上昇

 停留精巣とは,精巣が陰嚢まで下降せずに陰嚢底部に固定されない先天異常の一種で,新生男児の約6%に見られる。一方,精巣がんは20〜45歳の男性に最も多いがんで,罹患率は過去20〜30年の間に大幅に上昇した。英国では1975〜77年から2006〜08年にかけて,男性10万人当たりの発生率が3.4例から6.9例に倍増している。

 Carachi教授らは今回,EmbaseとMedlineのデータベースを調査した。孤発性停留精巣と精巣がんの潜在リスクとの関連を検討するため,1980年1月〜2012年12月に発表された研究を調べた。

 検討の結果,症例対照研究では停留精巣群の精巣がん発症リスクは対照群の2.47倍だった。一方,コホート研究の分析では,停留精巣群の精巣がん発症リスクは対照群の3.77倍であった。

 Carachi教授らがこれら2つの結果を基に計算したところ,停留精巣の孤発例が後年に精巣がんを発症するリスクは2.9倍であることが判明した。

 同教授らは「片側性か両側性かをはじめ停留の程度,固定術による修復ががんリスクにどのような影響を及ぼすかなど,解明すべき多くの課題が残されている。われわれに突き付けられた最も難しい問題は,今回のメタアナリシスの結果が,他の前がん状態でしばしば行われるような定期的フォローアップ検査を小児の精巣がんリスクについても支持できるほど強力なエビデンスであるかどうかだ」と述べている。

Medical Tribune 2013年1月17日

新しいプレがん検診に期待
血液検査で複数の早期がんを簡便に検出
南部町国民健康保険西伯病院 院長
木村 修 氏


 人体の約20%は,20種類のアミノ酸でつくられる蛋白質で構成されている。南部町国民健康保険西伯病院(鳥取県)では,血漿中の複数のアミノ酸濃度バランスの変動から健康状態や疾病の可能性を把握する「アミノインデックス技術」を用いて,昨年1月から新しいがん検診を開始した。

血液検査のみで複数の早期がん検出の可能性

 生体内のアミノ酸に関する研究は古くから行われてきたが,従来の測定方法は多大な測定時間を要することなどが問題とされていた。しかし近年,そのアミノ酸分析方法が急速に進歩し,多数の検体を短時間で分析することが可能となったことから,血漿中アミノ酸バランスの変動を解析し疾病の可能性を把握するアミノインデックス技術が報告されている。

 AminoIndex Cancer Screening(AICS、味の素(株) 開発)は,このアミノインデックス技術をがんのリスクスクリーニングに応用したもので,血液中のアミノ酸濃度を測定し,健康な人とがんである人のアミノ酸濃度のバランスの違いを統計学的に解析することで,がんであるリスク(可能性)を予測する検査である。がんである確率は0.0〜10.0の数値(AICS値)で予測され,リスクの傾向は数値が高いほど,がんである確率が高いことになる。検査結果はランクA〜Cの3段階で示される。1回の採血で複数のがんを同時に検査でき,現在は胃がん,肺がん,大腸がん,前立腺がん,乳がん,子宮がん・卵巣がんについて臨床実用化されている。早期がんの状態が検出でき,被ばくリスクが少ないなどのメリットもある。

 2011年7月に就任した木村院長は,それまでの35年間,消化器外科医として鳥取大学や国立病院機構米子医療センター(鳥取県)で主に大腸がんの治療に携わってきた。患者の多くは進行がんであったため,「がんを早期に発見して治療したい」という思いがあったという。そのため同院長に就任後,味の素(株)からAICSのプレゼンテーションがあった際に,早期がんの検出が血液検査のみでできることに着目した。さらに同院でのAICS実施に際し,鳥取県と南部町から助成が得られるようになったことから「アミノインデックス外来」を開設。自治体独自の“プレがん検診”として,40歳以上の町民を対象に,AICSの測定を行う事業を昨年1月から開始した。

 現在,40歳以上の同町民は約7,000人。同院長はその中で,約4,000人を住民検診の対象と考えている。現状のペースでAICSを実施すれば,年間1,200〜1,400人のデータが得られる。これらのデータは同町の健康福祉課に健康台帳として保管され,検診の受診勧奨,健康指導などに用いることで住民の健康増進が図られることが期待されている。

早期胃がんを3例発見

 昨年1〜8月にAICSが測定された住民は465人(男性220人,女性245人)。そのうち,がんに罹患している確率が高いランクCと判定されたのは133人(29%)であった。同院では,ランクCと判定された人に対してのみ,できる限り精密検査が行われており,胃がんでは胃内視鏡検査,肺がんではCT検査,大腸がんでは大腸内視鏡検査,前立腺がんでは前立腺特異抗原(PSA)測定,乳がんではマンモグラフィ,超音波検査が行われている。

 精密検査の結果,ランクCで早期胃がんが1例検出された。同例は,AICS実施の1カ月前に他院で胃内視鏡検査を受けていたが異常なしとされていた。またランクCの陽性率をがん腫別に見ると,胃がんが最も高率で,次に肺がんと前立腺がんが高かった。木村院長は「南部町では胃がんと肺がんの死亡率が高いが,AICSの判定結果においても胃がんと肺がんでランクC陽性率が高かった。前立腺がんでもランクCの陽性率が高かったのは,高齢者が多いためと考えられる」と指摘する。またランクCに,がんとの関連が強いと考えられる慢性胃炎やすりガラス状陰影(GGO)病変などが多く発見されたという。

 さらに昨年9月以降のAICS判定結果から,ランクCで早期胃がんがもう2例発見されており,「ランクCでの胃がんであるリスクは98人に1人(10.2倍)とされているため,やはりランクC陽性者が100人に近づくと胃がんが発見されるようになるとも考察できる」と同院長。ランクCでの肺がんであるリスクは111人中1人(9.0倍)とされているが,同院でのAICS判定結果では,肺がんがランクCとされた人は111例の半数にも満たない。同院長は「今後は症例数を増やし,陽性的中率,偽陰性率などを検討していきたい」と話した。

 また集団検診では,昨年5〜8月で442人(男性185人,女性257人)のAICS判定結果が得られたが,ランクCと判定された179人のうち精密検査のために同院を受診したのは50人(28%)のみだった。現在は,残りの7割以上のランクC陽性者のデータの収集に苦労しており,集団検診については来年以降実施するかどうかは未定だという。

 さらに同院長は,AICSの判定結果はがん腫により感度が異なるなどの課題もあるが,「現在AICSの検査の対象となるがん腫以外で,早期発見が難しい膵がんについてもリスクを判断できるようになることを期待したい」と話し,今後さらにプレがん検診としてのAICSの意義を検討していきたいとした。

Medical Tribune 2013年1月17日

日本でも注目高まるか,肺がんCT検診導入で肺がん死が24%減少
茨城県日立市の時系列研究
 先日,米国がん学会(ACS)が,「大きな健康問題のない55〜74歳の重喫煙者」に対し,低線量CT(LDCT)を用いた年1回の肺がん検診の推奨を発表。この根拠とされたのは,5万例以上の重喫煙者を対象に年1回のLDCTまたは胸部X線を連続3回実施し,その後の肺がん死減少率を検討した初のランダム化比較試験(RCT)NLSTだ。

 同試験でLDCTによる検診が胸部X線に比べ肺がん死を20%減少させたとの結果は関係者に大きなインパクトをもたらし,発表後1年ほどで米国胸部医学会(ACCP),そして米国臨床腫瘍学会(ASCO)やACSといった比較的大規模な学会も高リスク群へのLDCTによる検診を推奨する事態となっている。

 そんななか,昨年(2012年)末,日本からも肺がんCT検診に関する時系列研究が日立総合病院の内科主任医長で,日本CT検診学会理事の名和健氏らによりLung Cancer(2012; 78: 225-228)に発表された。

 同研究では,非喫煙者を含む,実際の検診を行った茨城県日立地区全体の検討からLDCTによる検診導入後4〜8年,市民の受診率が3〜4割に達した時点で肺がん死が日本の平均的なレベルを24%有意に下回ったとの結果が示された。

Medical Tribune 2013年1月22日

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の夜間の低酸素状態ががん発症と関係
 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の夜間の低酸素状態ががんの発症と関係しているとするデータが,スペインのグループによりAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicineの1月1日号に発表された。

 OSAはがんによる死亡の増加と関係するが,がんの発症との関係は不明である。同グループは,OSAの疑いで検査を行った4,910例を対象にOSAとがん発症との関係を検討した。

 OSAの重症度の指標として,無呼吸低呼吸指数(AHI)と夜間の酸素飽和度90%未満(TSat90)の時間の割合を用いた。追跡期間の中央値は4.5年間だった。

 その結果,夜間のTSat90の時間の割合が1.2%未満の群と比較したがん発症ハザード比(HR)は1.2〜12%群1.58,12%超群2.33といずれも有意に高かった。

 また,持続的なTSat90もがん発症リスクを高めていた

Medical Tribune 2013年1月24日

閉経後非肥満女性の睡眠障害が甲状腺がんと関係
 閉経後の非肥満女性の睡眠障害は甲状腺がんのリスクと関係すると,米ウェストバージニア大学のグループがAmerican Journal of Epidemiologyの1月1日号に発表した。

 睡眠障害はがんを含む多くの有害な健康転帰と関係するが,甲状腺がんとの関係を検討した疫学研究はない。同グループは,Women’s Health Initiativeに参加した50〜79歳の女性14万2,933例を平均11年間追跡し,睡眠障害と甲状腺がんとの関係を検討した。

 追跡中の甲状腺がん発症は295例だった。交絡因子を補正した結果,不眠スコアの高い女性は低い女性と比べ甲状腺がんのリスクが有意に高かった。この関係は非肥満女性でのみ認められ,肥満女性では有意ではなかった。

Medical Tribune 2013年1月31日

アディポネクチン低値が膵がん発症と関係する可能性
 血中アディポネクチン低値と膵がんとの関係を示唆するデータが,米ハーバード大学のグループによりJournal of the National Cancer Instituteの1月16日号に発表された。

 脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンは,インスリン抵抗性改善と抗炎症作用を有する。膵がんの発症にはインスリン抵抗性と慢性炎症が関係するが,この関係性のメカニズムはよく分かっていない。

 同グループは,血中アディポネクチン値と膵がんとの関係を検討するため,米国の5つの前向きコホート研究における膵がん発症例468例と対照1,080例のコホート内症例対照研究を行った。対照は症例とコホート,誕生年,喫煙習慣,空腹状態,採血月をマッチさせた。

 血中アディポネクチンの中央値は症例群の方が対照群より有意に低値であった。

 解析の結果,血中アディポネクチン値と膵がんリスクとの間に負の相関関係が認められた。この関係は全ての研究で一貫し,他のインスリン抵抗性マーカー(糖尿病,BMI,身体活動度,血中Cペプチド値)とは独立していた。

Medical Tribune 2013年1月31日