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2012年9月 文献タイトル
「カロリー制限で長生き」を確認できず,米NIAアカゲザル研究 全死亡,加齢関連疾患による死亡ともに
小児期のCT検査で後年の白血病と脳腫瘍のリスク上昇
高齢者でも禁煙によって死亡リスクが低下 米国など7カ国で発表された喫煙関連研究を検討
世界の新規がん症例の16%は予防可能な感染症が原因
コーヒーは4大上部消化管疾患のリスクとは無関係 1万例対象のわが国の横断研究
運動不足の解消で寿命が延長する可能性
DNAワクチン用特殊カプセル開発…北海道大学
長身の女性で高い卵巣がんリスク ホルモン補充療法とは無関係
乳がん 妊娠中の化学療法実施で新生児に合併症の増加見られず
ウイルス学的著効率が改善 HCV標準治療にビタミンB12追加
プライマリケアで卵巣がんリスク評価〜 5分でできる質問票とは

「カロリー制限で長生き」を確認できず,米NIAアカゲザル研究
全死亡,加齢関連疾患による死亡ともに
 食事でのカロリー制限(CR)が長寿につながることは,さまざまな動物で示されてきた。霊長類については米国立加齢研究所(NIA)が1987年に,米ウィスコンシン国立霊長類研究センター(WNPRC)が89年に,いずれもアカゲザルを対象として研究を開始。WNPRCの研究からは,CRが加齢関連疾患による死亡率を減少させるとの中間報告が既に寄せられている(Science 2009; 325: 201-204,関連記事)。あとはNIAの研究データを待って「カロリーを制限すれば長生き」が証明される見込みであったが…。

 NIA実験老年学研究室のJulie A. Mattison氏らが明らかにしたのは「30%CRによる生存アウトカムの改善は,全死亡に関しても,加齢関連疾患による死亡に関しても認められない」という事実であった。

カロリー制限(CR)で寿命は延びずも被検群全体が長生き

 NIAの研究で対象にしたのは,16〜23歳の中高齢(飼育されたアカゲザルの平均寿命は27歳,最長寿命は40歳といわれている)で30%CRを開始した群(中高齢期CR開始群,34匹),若い時期から30%CRを開始した群(若齢期CR開始群,86匹)で,それぞれの対照群と生存率を比較。さらに性別の検討も行った。

 その結果,中高齢期CR開始群の寿命は,全死亡,加齢関連疾患(がん,糖尿病,関節炎,憩室症,心血管疾患)による死亡のどちらを用いた生存率解析からも,対照群と比べて長くはないとのデータが示された。試験開始年齢,性別,食事を予測因子としたCox 回帰分析からは,食事療法の影響は有意ではなく,性別のみが有意な予測因子であるとの結論が得られた。

 今回のNIAの中間報告では,WNPRCの報告で認められたCRによる長寿化効果,心血管疾患の減少などが示されなかった。両研究とも,ほぼ同時期にアカゲザルを対象として開始されたが,試験デザインの詳細や食餌内容(栄養成分)で大きく異なっている部分があり,長寿化には摂取カロリー以外に,これらの要素が大きく影響している可能性もある。いずれにせよ,今回提示されたデータの解釈に際しては,より詳細かつ慎重な検討が必要と考えられる。

Medical Tribune 2012年9月4日

小児期のCT検査で後年の白血病と脳腫瘍のリスク上昇
 ニューカッスル大学(英)保健・社会研究所のMark S. Pearce博士らは「15歳未満の小児への2〜3回の頭部CTスキャン(脳の累積吸収線量約60mGy)により後年の脳腫瘍の相対リスク(対5mGy未満)が3倍に,5〜10回の頭部CTスキャン(赤色骨髄の累積吸収線量約50mGy)により白血病の相対リスク(対5mGy未満)が3倍に増加する」との研究結果を発表した。

白血病と脳腫瘍の過剰相対リスクを算出

 筆頭研究者のPearce博士らは「これらのがんの絶対リスクは小さいものの,CTスキャンの線量はできる限り低く抑え,可能な限り電離放射線を使用しない別の方法を検討すべきだ」と述べている。今回の研究は放射線医学分野のおよそ20年に及ぶ研究の集大成で,英国保健省とNCI/NIHの助成を受けて実施された。

 CTスキャンは重要な画像診断法で,現在も応用範囲が拡大している。特に,過去10年間に米国をはじめ世界各国での使用が急速に増加した。しかし,CTは電離放射線を用いるため発がんリスクを伴い,このリスクは特に成人より放射線に感受性の高い小児で懸念されていた。

 同博士らは今回の後ろ向き研究で,英国の約70%に相当する病院の放射線科から1985〜2002年にCTを初めて受けた患者約18万例の記録を入手し,CTの回数と検査部位の情報を抽出。患者の脳と骨髄に吸収された線量を推定した。

 これらのデータをさらに,1985〜2008年に英国保健サービス(NHS)レジストリーに報告されたがんと死亡の記録と結び付け,白血病と脳腫瘍の過剰相対リスクを算出した。脳と骨髄に吸収される線量は年齢やスキャン部位によって異なり,計算ではそれらを考慮した。

 白血病は評価対象とした17万8,604例のうち74例に発症し,脳腫瘍は17万6,587例のうち135例に発症していた。解析の結果,白血病の相対リスクは赤色骨髄の吸収線量1mGyの増加につき3.6%増加し,脳腫瘍の相対リスクは脳の吸収線量1mGyの増加につき2.3%増加することが分かった。該当部位の吸収線量が5mGy未満の者と比べ,赤色骨髄の累積吸収線量が30mGy以上だった者(平均約50mGy)では白血病リスクが約3倍高く,脳の累積吸収線量が50〜74mGyだった者(平均約60mGy)では原発性脳腫瘍リスクも約3倍高かった。

 CTの放射線が原因で白血病が過剰に発生する割合は,0〜20歳の時に吸収線量10mGyのCTスキャンを受けた1万人につき1人で,脳腫瘍では3万人につき1人だった。10歳未満の児が頭部CTを1回受けたときの推定線量に基づいてこの結果を解釈すると,最初のCT放射線曝露から10年以内に白血病と脳腫瘍が過剰に発生する割合は,いずれも1万人につき1人であった。

Medical Tribune 2012年9月6日

高齢者でも禁煙によって死亡リスクが低下
米国など7カ国で発表された喫煙関連研究を検討
 ドイツがん研究センターのCarolin Gellert氏らは,喫煙関連文献のシステマチックレビューを行い,「喫煙は高齢者の死亡率上昇に関連し,禁煙は死亡率低下に関連する。高齢者でも禁煙すれば時間とともに死亡リスクが低下することが分かった」と発表した。

60歳超の集団で喫煙が全死亡率に及ぼす影響を検討

 研究の背景情報によると,喫煙は心血管疾患やがんなど多くの慢性疾患の危険因子であることが知られているが,その疫学的エビデンスの大部分は中高年を対象として行われた研究に基づいている。そこで,Gellert氏らは,喫煙が60歳超の集団の全死亡率に及ぼす影響をシステマチックレビューにより検討。その際,年齢による関連の強さ,高齢者における禁煙の影響などに注目して調査を行ったとしている。

 同氏らは7カ国(米国,中国,オーストラリア,日本,英国,スペイン,フランス)で1987〜2011年に発表された17件の研究を特定した。研究の追跡期間は3〜50年で,被験者の規模は863〜87万7,243例であった。

 解析の結果,喫煙経験が全くない非喫煙者に比べて現喫煙者では死亡率が83%高く,元喫煙者では34%高かった。

 同氏らは「今回のシステマチックレビューにおいて,現在と過去の喫煙者の死亡リスクはそれぞれ約2倍と1.3倍であった。この結果は,高齢者でも禁煙すればそれ以降は時間とともに死亡リスクが明らかに減少することを示している」と指摘している。

 香港大学(香港)のTai Hing Lam博士は,同誌の付随コメント(2012; 172: 845-846)で「ほとんどの喫煙者は自分自身のリスクをかなり過小評価している。また,禁煙するには年を取り過ぎている,高齢過ぎて禁煙しても利点はないと誤解している高齢の喫煙者も多い。最近禁煙した友人が死亡したことを挙げて,あるいは,原因と結果を逆に捉えたりするなどして,禁煙は有害と誤解する人さえいる。喫煙は有害であるというエビデンスに基づく警告が必要である」と述べている。

Medical Tribune 2012年9月6日

世界の新規がん症例の16%は予防可能な感染症が原因
 国際がん研究機関(仏)のCatherine de Martel博士らは,全世界の新規がん症例の16.1%(約200万人)が感染性の因子によるもので,そのうち80%(160万人)が発展途上国や新興国で発生しているとする新たな推計結果を発表した。

 184カ国で27種のがんの発症率を調べたGLOBOCANの統計など,さまざまなデータを用いて推計した結果,2008年には世界の新規がん症例全体の16.1%が予防可能な感染症に関連していることが分かった。また,発展途上国ではこうした感染症関連のがんの割合は22.9%で,先進国の7.4%と比べ約3倍高かった。感染症に関連するがんの割合が最も低いオーストラリアおよびニュージーランド(3.3%)と最も高いサハラ以南のアフリカ(32.7%)との間には大きな格差が認められた。

ワクチン接種率の改善が急務

 de Martel博士らは「感染症関連がんの多く,中でもヒトパピローマウイルス(HPV),Helicobacter pylori,B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)に関連するがんは予防可能である。これら4種の主要感染症は,全190万件のがん発症に関与していると推計され,その主なものは胃がん,肝がん,子宮頸がんである」と述べている。女性では子宮頸がんが感染症関連がんの約半数を,男性では肝がんと胃がんが同80%超を占めていた。

 同博士らは「2011年の非伝染性疾患に関する国連ハイレベル会合では,重要性が増しつつある世界的な議題として,“非伝染性疾患の予防と対策”を掲げている。その中で,がんは主要な非伝染性疾患の1つと考えられているが,感染症に起因するがんは大きな割合を占めており,がんを非伝染性疾患の範ちゅうに収めるのは不適切である」と指摘している。

 ハーバード大学のGoodarz Danaei博士は,「今回の推計は,予防・治療プログラムを発展途上国で実施することにより,がんの世界的負荷と,地域や国による大きな格差を大幅に縮小できる可能性を示している。HPVとHBVに関しては,有効性が高く比較的安価なワクチンが存在しており,接種率の改善は特に発展途上国の保健衛生システムにおける最優先課題とすべきだ」と述べている。

Medical Tribune 2012年9月13日

コーヒーは4大上部消化管疾患のリスクとは無関係
1万例対象のわが国の横断研究
 コーヒー摂取と胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃食道逆流症,非びらん性胃食道逆流症の関連を検討した約1万人の健康成人コホート研究から,コーヒーはこれら4大上部消化管疾患の発症とは関連しないとして,東京大学病院消化器内科の山道信毅氏が報告した。コーヒーは胃酸分泌を促進するため,消化管疾患発症との関連が指摘されてきたが,今回の解析では明確に否定された。

 近年,コーヒー摂取によるがんや心不全などの発症リスクの低下が報告されているが,消化管疾患との関連については一定の見解は得られておらず,新しい疾患である胃食道逆流症 や非びらん性胃食道逆流症については解析の数自体が非常に少ない。

 そこで山道氏らは,亀田総合病院幕張クリニック(千葉県)の人間ドックを受診した健康成人9,517例のうち,胃手術の既往例,制酸薬の内服,Helicobactor Pylori(H. Pylori)除菌例を除く20〜87歳の8,013例(男性4,670例,女性3,343例)を対象に,コーヒー摂取と4大上部消化管疾患発症の関連を検討した。

 1日のコーヒー摂取量については,1杯未満は2,473例,1〜2杯は2,978例,3杯以上は2,562例であった。

 多変量解析の結果,胃潰瘍と有意な相関を示した因子はH. Pylori陽性,高齢者,喫煙,男性であった。

 さらに,これらの解析からはコーヒー摂取と4大上部消化管疾患のいずれも有意な関連は認められなかった。

 同氏は「コーヒー摂取が胃酸分泌を促進するのは明らか。しかし摂取による効果もあり,総合的に見てコーヒー摂取は消化管疾患を発症させないとの結論は臨床的価値があると考えている」と述べた。

Medical Tribune 2012年9月19日

運動不足の解消で寿命が延長する可能性
 ハーバード大学予防医学科のI-Min Lee博士らは「運動不足が解消された場合,平均寿命が世界で0.68年,日本では0.91年延びることが分かった」と発表した。この推計値から,運動不足の影響は喫煙,肥満とほぼ同等であることが示唆された。

 Lee博士らは今回,運動不足が冠動脈疾患(CHD),2型糖尿病,乳がん,結腸がんの発症に及ぼす影響を評価するため,運動不足の状態について,そうでない状態と比較した相対リスクを計算し,その値を基に運動不足に関連する人口寄与率を算出した。

 これにより運動不足の人が十分な身体活動を行った場合,その国や地域でそれらの疾患をどの程度まで予防できるかが推計できる。なお,運動不足は「週150分の中等度運動(例:30分の早足歩行を週5日)を行っていないこと」と定義した。

 今回の研究では,運動不足の解消により,2008年の全世界の死亡数5,700万人のうち530万人が回避可能と推計された。しかし,運動不足が完全に解消される可能性は低いため,Lee博士らは,運動不足が一定程度解消された場合に回避できる死亡数を推算。その結果,運動不足が10%解消されると世界で年間53万3,000人,25%では130万人の死亡が回避できる可能性が示された。

 さらに,運動不足が解消された場合,世界の平均寿命は約0.68歳延びると指摘。日本では0.91年延びるとしている。

 同博士らは「運動不足の影響は喫煙,肥満とほぼ同等である」と強調した上で,「ほとんどの人が実行可能な毎日15〜30分の早歩き程度の身体活動により,公衆衛生上大きな便益がもたらされる。世界的な運動不足の解消に向け,努力する必要がある」とコメントしている。

Medical Tribune 2012年9月20日

DNAワクチン用特殊カプセル開発…北海道大学
 がんやインフルエンザなどに使う研究が進められている「DNAワクチン」の効果を高める特殊なカプセルを、北海道大学の原島秀吉教授と秋田英万(ひでたか)准教授らが開発した。札幌市で開かれた日本癌学会で20日、発表した。

 DNAワクチンは、がん細胞などに特有なたんぱく質(抗原)の遺伝子を小さなカプセルで包んだもの。注射して免疫細胞である樹状細胞に取り込ませ、樹状細胞ががん細胞などを認識・攻撃できるようにする。

 開発したワクチン用カプセルは150-200ナノ・メートル(1ナノ・メートルは100万分の1ミリ・メートル)とウイルス程度の小ささで、表面にアミノ酸からなる分子が多数付着しているのが特徴だ。マウスの実験では、このカプセルを使うと樹状細胞の免疫活動が盛んになった。

 樹状細胞に特定の遺伝子を導入するには、電気刺激や無毒化したウイルスを使う方法も研究されているが、カプセルは、より安全で簡単に使える。すでに、がん抗原が数種類見つかっている皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)などのほか、インフルエンザの予防や治療への応用が期待できるという。

m3.com 2012年9月23日

長身の女性で高い卵巣がんリスク ホルモン補充療法とは無関係
 オックスフォード大学のGillian Reeves博士らは「世界中の疫学研究47件のメタ解析を実施した結果,身長やBMIの高い女性では卵巣がんリスクが高いことが分かった」と発表した。

 さらに,女性の高身長と卵巣がんリスク上昇との関連については,閉経後のホルモン補充療法(HRT)の有無に関連していないことも明らかにされた。
 
 これまで,女性の身長やBMIが卵巣がんの発症率に関連することが示唆されていたが,一貫した結果は得られていなかった。

 同ユニットを中心とする国際共同研究グループは今回,卵巣がんの発生に影響を及ぼす因子について調べるため,疫学研究47件(卵巣がん女性2万5,000例超,非卵巣がん女性8万例超)の患者データを解析した。

 解析の結果,身長が5cm高くなるごとに卵巣がんリスクが7%上昇することが明らかになった。例えば身長155cmの女性と比べ,165cmの女性では卵巣がんリスクが14%高いことになる。この関連は閉経後女性におけるHRTの有無とは無関係であった。

 同博士は「身長がリスクと関連しているという結果は,卵巣がんの発生機序を理解する上で重要と考えられる」と強調。「身長が卵巣がんリスクと関連している理由はまだ解明されていないが,幾つかの説明が考えられる。例えば,乳がん,前立腺がんなど他の複数のがんと関連付けられているインスリン様成長因子(IGF)-1レベルの上昇やがん化リスクのある細胞数の増加など,身長に関連する因子による生物学的影響が原因なのかもしれない」と述べている。

Medical Tribune 2012年9月27日

乳がん 妊娠中の化学療法実施で新生児に合併症の増加見られず
 ドイツ乳房グループのSibylle Loibl教授らは「妊娠中に化学療法を受けた乳がん患者から生まれた新生児の合併症リスクは,妊娠中に化学療法を受けなかった乳がん患者の新生児と比べて高くなかった」との観察研究の結果を発表した。

 研究を統括したLoibl教授らは今回,妊娠中に早期乳がんと診断された欧州の患者413例を対象に,妊娠中の化学療法によって新生児になんらかの悪影響があるかどうか検討した。これらの対象者のうち,妊娠中に化学療法を受けた患者は197例(48%)だった。

 分析の結果,妊娠中に化学療法を受けた患者から生まれた新生児(化学療法群)では,化学療法を受けなかった母親から生まれた新生児(非化学療法群)と比べて平均出生体重が低かったが,他に注目すべき差は認められなかった。実際,化学療法群では先天異常リスクの上昇,アプガースコアの低下,血液疾患および脱毛症の発現率上昇のいずれも見られなかった。

 同教授は「今回の結果は胎児や母親のアウトカムを損ねるリスクの大幅な上昇がなく,妊娠中でも非妊娠女性と同様の乳がん治療が可能なことを示唆している。しかし,他の研究で確認する必要がある」と述べている。

Medical Tribune 2012年9月27日

ウイルス学的著効率が改善
HCV標準治療にビタミンB12追加
 ナポリ大学(伊)臨床医学・実験医学科消化器病学ユニットのGerardo Nardone教授らは「C型肝炎ウイルス(HCV)感染の標準治療であるペグインターフェロン(Peg-IFN)α+リバビリン(RBV)併用療法にビタミンB12を追加投与したところ,ウイルス学的著効の達成率が改善することが分かった」とする予備的研究の結果を発表した。この効果は,同併用療法に治療抵抗性を示すgenotype1型患者でも有意に認められたとしている。
 
特に難治性感染者に有用

 研究の背景情報によると,HCV感染者の60〜80%は慢性肝炎に移行し,その約30%は肝硬変と肝がんに進行する。標準治療であるPeg-IFNα+RBVにより,genotype1型患者の約50%,genotype2型またはgenotype3型患者の80%でウイルスが消失する。

 しかし,この治療法ではHCV感染者の約半数でウイルス排除に失敗,または治療終了後に感染が再燃することが懸念されている。

 Nardone教授は「次世代の抗ウイルス薬の治験から有望な結果が得られているものの,これらは高価な上,治療が複雑化する可能性がある。臨床現場でこれらの新薬がどれほど有効であるかは不明だ」と指摘している。

 肝臓は体内のビタミンB12の主な貯蔵場所であるが,肝臓に直接影響を及ぼす疾患により,ビタミンB12の貯蔵能力が阻害されてしまう。そこで今回の研究では,標準治療へのビタミンB12追加によるウイルス学的反応の差を調べた。

安全で安価な代替治療選択肢

 今回の研究では,未治療のHCV感染者94例をPeg-IFNα+RBVを投与する標準治療群(47例,平均年齢51歳)および標準治療にビタミンB12(5,000μgを4週間ごとに筋注)を追加するビタミンB12追加群(47例,同53歳)にランダムに割り付けた。治療期間は24週(genotype2型と3型)または48週(同1型)とした。

 治療開始後4週のウイルス学的反応(rapid viral response),治療開始後12週のウイルス学的反応(complete early viral response ;CEVR),治療終了時のウイルス学的反応(end-of-treatment viral response;EVR),および治療終了後24週のウイルス学的著効を評価したところ,

 4週間後のウイルス学的反応では両群に差は見られなかったが,それ以外において,標準治療群と比べビタミンB12追加群でウイルス学的反応が有意に高かった。ウイルス学的著効の達成率は標準治療群の38%に対し,ビタミンB12追加群では72%であった。

 ビタミンB12追加による効果は,治療が困難なgenotype1型患者およびベースラインのHCV-RNA量高値グループ(50万U/L以上)で顕著に見られた。

Medical Tribune 2012年9月27日

プライマリケアで卵巣がんリスク評価〜 5分でできる質問票とは
 米・フレッドハッチンソンがん研究センターのM. Robyn Anderson氏らは,プライマリケア医を受診した女性患者1,200例を対象に,卵巣がんの発症リスクを評価するための質問票Symptom Index(SI)の有用性を検討した。

 その結果, SIで「陰性」と判断された患者では12カ月後の卵巣がん検出率は0%であった他,5分以内で回答できるため医療者の負担も少ないなどとして,プライマリケアにおけるSIの有用性を主張している。
 
卵巣がんの6つの特有症状の有無を質問

 現在,一般的な卵巣がんスクリーニングとしてCA-125や経腟超音波(TVS)が用いられている一方,卵巣がんの特有症状に焦点を当てた評価法の有用性も報告されているが,患者の自己報告による評価法については掘り下げた研究がない。

 そこで,プライマリケアでも簡単に行える卵巣がんリスクの評価法を開発することで,診断アルゴリズムの作成にも役立つとして,都市部のある婦人科医院を受診した女性患者1,200例(平均年齢54.6歳)を対象に,SIの開発と有用性を検討した。40歳以上,受診時に妊娠が認められないなどを参加条件とした。

 これまでの報告で,早期卵巣がんの57%,進行卵巣がんの80%において,診断時の特有症状として腹部の膨満感,ウエスト周囲長(腹囲)の増加,骨盤または腹部の痛み,食欲減退,急激な満腹感の6つが認められたことから,これらに絞った質問票SIを作成した(図)

 同研究終了12カ月後に対象者全員が受検したあらゆるがんの検診では,SIで陽性であったうち1例で卵巣がんが検出されたが,陽性であったそれ以外の患者および陰性であった患者では卵巣がんは検出されなかった。

 しかし,Anderson氏らは「(上記のような結果が出ても)今回の研究では,SIの精度の高さについては検討できていない」と認めた上で,「それでもわれわれの研究には大いに意義がある」と主張。その理由として,「卵巣がんの症状を評価する方法はこれまでも試みられてきたが,独自に開発した質問票により患者の自己申告における陽性率の違いを評価した研究はおそらくなかった」と述べた。

 同氏らは,卵巣がんに特有な症状に絞ったSIでは「最近の(症状について)」という記載の有無により陽性率に有意差が生じることが分かった」と結論。また,「5分以内という短時間に患者自身が記入することで,医療者にとっても負担が少ない」として,プライマリケアでも十分に受け入れられるとした。

Medical Tribune 2012年9月28日