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2012年8月 文献タイトル
世界の年間死亡の1割近くが運動不足に起因
運動とがん生存者の死亡率低下に関連 乳がん死と大腸がん死で確認
筋トレ週150分で糖尿病リスク34%減,有酸素運動併用で59%減少 米男性3万人を18年追跡
スタチンの使用で心移植後のがんが減少
睡眠呼吸障害はがん死亡リスクを高める
低リスクなのは何型? ABO式血液型と冠動脈疾患に関連
喫煙が有棘細胞がんリスク高める可能性
がん診断直後に自殺と心血管疾患死のリスク上昇
乳房温存術を受けた女性の術後3カ月以内の再手術率は20%と高い
チョコレートを多く食べる男性で脳卒中リスクが17〜19%低下

世界の年間死亡の1割近くが運動不足に起因
 世界の年間の死亡の1割近くに運動不足が関係していることを示すデータが,米ハーバード大学などのグループにより発表された。

 身体活動の不足は冠動脈性心疾患(CHD),2型糖尿病,乳がん,大腸がんなどのリスクを高め,平均余命の短縮と関係している。同グループは,世界保健機関(WHO)の推奨〔週最低150分の中等度の身体活動(例えば早足のウオーキング)〕に満たない身体活動不足が,世界の主要非感染性疾患と死亡にどの程度の影響を与えているかを検討するため,その人口寄与割合(PAF)を算出した。

 その結果,身体活動不足の主要疾患に対するPAFはCHDが6%,2型糖尿病が7%,乳がんと大腸がんがともに10%程度と推定された。死亡に対するPAFはおよそ9%。これは,2008年の世界の死亡5,700万例中530万例以上に相当した。

 身体活動不足を完全に解消できなくても,10%減らすことで毎年53万3,000例以上,25%減らせれば毎年130万例以上の死亡が避けられると考えられた。身体活動不足の解消により世界人口の平均余命は0.68年(日本人は0.91年)延長すると推定された。

Medical Tribune 2012年8月2日

運動とがん生存者の死亡率低下に関連
乳がん死と大腸がん死で確認
 米国立がん研究所(NCI)がん管理・人口科学部門応用研究プログラムのRachel Ballard-Barbash博士らは,がん生存者における身体活動の効果を検討した研究45件のシステマチックレビューを行い,「乳がんと大腸がんの死亡率低下とは関連していたが,その他の種類のがんとの関連についてはエビデンスが不十分であった」と発表した。
 
インスリン値や免疫系の改善も

 がん治療とスクリーニングの改善によってがん生存者は増加している。このような中,がん生存者は運動などのライフスタイル因子が予後にどのような影響を及ぼすのかなどの情報を入手したいと思うようになった。また,身体活動が,がん生存者に及ぼしうる影響について調べた観察研究やランダム化比較試験(RCT)も数多い。

 そこでBallard-Barbash博士らは,MEDLINEから1950年1月〜2011年8月に発表された研究を検索。その結果,がん生存者の身体活動と死亡率またはがんバイオマーカーとの関連を調べた観察研究やRCT 45件が見つかった。

 観察研究27件から,身体活動は全死亡率,乳がん死亡率,大腸がん死亡率の低下と有意に関連していることが分かった。身体活動と他のがんによる死亡との関連については十分なエビデンスは得られなかった。バイオマーカーを検討したRCTでは,身体活動が患者のインスリン値の改善と炎症の減少をもたらし,免疫系を改善しうる可能性を示していた。

 ハーバード大学公衆衛生学部栄養学のEdward L. Giovannucci博士は,付随論評で「身体活動はがん生存者の寿命を延長し,QOLを向上させる可能性がある。がんに対する身体活動の直接的な効果は実証されていないものの,身体活動が安全で,がん患者のQOLを改善し,他にも多くの健康上の利益をもたらすとすれば,適切な身体活動をがんの標準ケアに含めるべきである」と述べている。

Medical Tribune 2012年8月2日

筋トレ週150分で糖尿病リスク34%減,有酸素運動併用で59%減少
米男性3万人を18年追跡
 糖尿病治療における運動療法では,近年,有酸素運動および筋肉トレーニング(レジスタンス運動)のいずれも有効との報告が多い。そのような中,米ハーバード大学公衆衛生学部栄養学のAnders Grntved氏らは,米国人男性3万2,002人を対象に,レジスタンス運動と糖尿病発症リスクとの関連などを18年にわたり追跡した。

 その結果,レジスタンス運動のみでも週150分以上行っていた場合では糖尿病発症リスクは34%減少,同じ時間の有酸素運動を併用した場合では59%の減少が示されたという。
 
1週当たりの有酸素運動・レジスタンス運動時間別に4群に分類

 Grntved氏らによると,有酸素運動を行わず,レジスタンス運動単独でも糖尿病患者の血糖コントロールが改善するとの報告により,週3回のレジスタンス運動が推奨されるに至ったが,糖尿病発症予防におけるレジスタンス運動の効果については報告されていないという。

 同氏らは,男性医療従事者(40〜75歳)およそ5万人を対象とした追跡研究のデータから,1986年の登録時から1990年までに糖尿病,がん,心筋梗塞,脳卒中などの既往がない3万2,002人を解析対象とした。

 身体活動については,ウオーキング,ランニング,ジョギング,サイクリング,水泳,テニス,スカッシュ,体操,ローイングなどを中強度の有酸素運動として,1990〜2008年における1週当たりの平均時間により0分,1〜59分,60〜149分,150分以上の4群に分類した。

 レジスタンス運動についても同様に4群に分けたところ,ベースライン時から2006年に実行者の割合は29%まで増加していたが,1週当たりの平均時間は90分前後で推移していた。
 
レジスタンス運動が1週当たり60分増加で13%のリスク減少

 多変量解析により,レジスタンス運動を全くしない人に対する,1週当たりのレジスタンス運動時間別の糖尿病発症の相対リスク(RR)を求めた。その結果,年齢,喫煙状況,アルコール摂取,糖尿病の家族歴,食事摂取などを補正後のRRは,レジスタンス運動が1〜59分では0.88,60〜149分では0.75,150分以上では0.66と,運動時間の増加に伴い糖尿病の発症リスクは有意な減少を示した。

 有酸素運動でも同様の検討を行ったところ,補正後のRRは1週当たりの運動時間が1〜59分では0.93,60〜149分では0.69,150分以上では0.48と運動時間に依存した有意な減少傾向が認められた。

 さらに,レジスタンス運動と有酸素運動の両方を行った場合の糖尿病発症リスクについても検討した結果,それぞれを1週当たり150分以上行っていた人では,いずれの運動も全く行っていない人と比較して,補正後のRRは0.41と,59%の減少が示された。

Medical Tribune 2012年8月7日

スタチンの使用で心移植後のがんが減少
 スタチン(脂質降下薬)の使用により心移植後のがん発症が有意に減少すると,スイスのグループが発表した。

 mTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白)阻害薬のような新しい免疫抑制薬は移植後の悪性腫瘍の発症を減らすが,がんは依然として心移植後の晩期死亡の主要原因となっている。

 スタチンは脂質降下だけにとどまらない多面的効果により臨床転帰に影響を与える可能性があることから,同グループは,スタチン療法の心移植後のがんリスクと死亡への影響を後ろ向きに検討した。

 対象は1985〜2007年にチューリヒ大学病院で心移植を受け,1年以上生存した255例。1次エンドポイントは全ての悪性腫瘍の発症,2次エンドポイントは全死亡とした。追跡期間中の悪性腫瘍の診断は108例(42%)だった。

 解析の結果,心移植後8年間の悪性腫瘍の累積発症率はスタチン非使用群の34%に対し,使用群では13%と有意に低かった。また,スタチンの使用は無がん生存と全生存の有意な改善と関係していた。

Medical Tribune 2012年8月9日

睡眠呼吸障害はがん死亡リスクを高める
 睡眠呼吸障害(SDB)ががんによる死亡のリスク上昇と関係することを示唆するデータが,米ウィスコンシン大学のグループにより発表された。

 SDBは全死亡および心血管死と関係するが,がんによる死亡との関係は明らかにされていない。in vitroと動物実験で,間欠的低酸素症は腫瘍の増殖を促進することが示唆されている。同グループは,ウィスコンシン睡眠コホート1,522例の22年間の追跡データを用いてSDBとがん死との関係を検討した。

 試験開始時に終夜睡眠ポリグラフ検査でSDBを評価。無呼吸・低呼吸指数(AHI)と低酸素血症指数(睡眠中のオキシヘモグロビン飽和度90%未満の時間の割合)によりSDBの重症度を分類した。

 年齢,性,BMI,喫煙を調整後,SDBは全死亡およびがん死のリスクと用量反応性の関係を示した。SDBのない対照と比較したがん死のハザード比(HR)は軽度SDB(AHI5〜14.9)が1.1,中等度SDB(同15〜29.9)が2.0,重度SDB(同30以上)が4.8だった。低酸素血症の重症度による対応するHRは1.6,2.9,8.6だった。

 同グループは「睡眠時無呼吸とがん診断後の生存との関係を検討する研究が必要である」としている。

Medical Tribune 2012年8月9日

低リスクなのは何型? ABO式血液型と冠動脈疾患に関連
 一般に相性診断などでおなじみの血液型だが,医学的見地からは疾患リスクとの関連についても報告されてきた。米ハーバード大学公衆衛生学部栄養学のLu Qi氏らが2つの異なる研究対象で解析を行ったところ,いずれにおいてもある血液型に対して他の血液型では冠動脈疾患(CHD)発症リスクの上昇が認められたという。

女性看護師・男性医師のデータを20年超にわたり追跡

 これまで報告されてきた血液型と疾患リスクとの関連ではがんに関するものが多かったが,Qi氏らによれば,血液型と心血管疾患(CVD)リスクとの関連も指摘されてきたという。事実,近年のゲノムワイド解析により,ABO遺伝子座が心筋梗塞の発症リスクに関連すると報告されている。

 同氏らは,2つの大規模な前向きコホート研究を対象とした解析と,ABO式血液型とCHD発症リスクとの関連を検討した研究を対象としたメタ解析を実施した。

 10万人・年当たりのCHDの発症を血液型別に見ると,女性ではO型125人,A型128人,B型142人,AB型161人,男性では順に373人,382人,387人,524人であった。CHDの累計発症率には4つの血液型において有意差が認められた。

 今回の2つの解析結果を受けて,Qi氏らは「2つの大規模な前向きコホート研究から,血液型がO型の人と比べて,A型,B型,AB型の人ではCHD発症リスクが有意に上昇することが明らかになった。また,メタ解析からも,O型に比べて非O型では同様の関連が示された」と結論。これらが他の危険因子と独立している点を強調した。

 その発症機序については不明としながらも,O型に比べ非O型では血液凝固因子である[-vWfの濃度が25%程度高いことなど,これまでの研究によって示唆された幾つかの推察を紹介。さらなる研究による解明の必要性を訴えている。

Medical Tribune 2012年8月15日

喫煙が有棘細胞がんリスク高める可能性
 ノッティンガム大学(英)たばこコントロール研究センターのJo Leonardi-Bee博士らは「喫煙と皮膚の扁平上皮がんである有棘細胞がんリスクの増加との間に有意な関連が認められた」と発表した。

 研究の背景情報によると,皮膚がんの約97%は扁平上皮細胞を発生源とするもので,これらは基底細胞がん(basal cell carcinoma;BCC)と有棘細胞がん(squamous cell carcinoma;SCC)に分類される。両者は合わせて非メラノーマ皮膚がん(nonmelanoma skin cancer;NMSC)としても知られる。NMSCの罹患率は世界中で増加傾向にあり,毎年200万〜300万例の新規症例が発生すると推測されている。

 Leonardi-Bee博士らは今回,25件の関連文献のシステマチックレビューを実施した。検討の結果,喫煙とSCCとの間に明らかで一貫した関連が認められ,52%という有意なリスク増加が示された。

 同博士らは「今回の結果は,4大陸11カ国からの研究報告を対象とした解析で,対象論文の大半は中年から高齢者を対象とした研究であることから,一般化できる」と指摘。さらに「日常臨床において,喫煙者を含む高リスク患者を積極的に調べることにより,皮膚がんの早期発見につながるかもしれない。進行した病変と比べて,早期の病変は治療しやすいため,早期に診断できれば予後の改善も期待できる」と結論付けている。

Medical Tribune 2012年8月16日

がん診断直後に自殺と心血管疾患死のリスク上昇
 カロリンスカ研究所(ストックホルム)のFang Fang博士らによる研究で,がん診断直後に患者の自殺リスクと心血管死リスクが著しく上昇することが示された。
 
診断後1週間の自殺リスクが12倍

 人はがんを告知されると大きなショックを受ける。先行研究から,がん患者では自殺や心血管疾患のリスクが高まることが示されており,これまではがんとともに生きることの重圧や,身体的につらい治療がその主な原因とされてきた。

 そこでFang博士らは,がん診断直後の自殺リスクと心血管死リスクについて検討。1991年から2006年にかけて,スウェーデン人口・住宅国勢調査に登録された607万3,240人超の追跡調査を実施した。

 追跡期間中に初めてがんと診断された人は53万4,154人であった。がん診断後に自殺した患者は1週間で29人,12週間で110人,1年間で260人に上った。非がん患者と比較したところ,がんの診断を受けた患者の自殺リスクは診断後1週間で12.6倍,12週間で4.8倍,1年間で3.1倍高かった。

 一方,がん診断後に心血管疾患で死亡した患者は1週間で1,318人,4週間で2,641人に上った。非がん患者と比較したところ,がんの診断を受けた患者の心血管死リスクは診断後1週間で5.6倍,4週間で3.3倍であった。1年間の心血管リスクは,大部分のがん種で有意ではなかった。

 自殺と心血管死のリスクはいずれも急激な上昇後,時間の経過とともに緩やかになった。また,予後不良の肺がんや膵がんなどで同リスクの上昇度が最も大きく,皮膚がんで最も小さかった。

 同博士らは「がん診断直後のリスク上昇が明確であることと,リスクが経時的に低下することから,リスクの上昇はがんの進行や治療に関連する精神的・身体的苦痛ではなく,診断そのものに起因すると考えられる」と推測。さらに「精神疾患または心血管疾患による入院歴の有無にかかわらずリスクは上昇したため,病歴でリスク上昇を説明することはできない」と付け加えている。

診断が及ぼす精神的影響の理解が鍵

 Fang博士は「がんの診断による極度の精神的ストレスの結果,自殺や心血管死が生じることがある。今回の研究結果から,がん診断と関連する精神的苦悩が直ちに精神的・身体的健康に重大なリスクをもたらす可能性が示された」と強調している。

 また,がん診断がもたらす深刻な影響を理解することは,がん患者の家族や治療者にとって大きな意味を持つと指摘するとともに,「この研究が今後,新たにがんの診断を受けた患者のケアの向上や,ストレス関連の疾患と死亡の減少につながることを望んでいる」と期待を寄せている。

Medical Tribune 2012年8月16日

乳房温存術を受けた女性の術後3カ月以内の再手術率は20%と高い
 乳がんで乳房温存術を受けた女性の5例中1例は術後3カ月以内に再手術が必要になるとのデータが,英国のグループにより発表された。

 同グループは,2005年4月〜08年3月の3年間に国民保健サービス(NHS)の病院で乳がんの乳房温存術を受けた女性の術後3カ月以内の再手術率を後ろ向きに検討した。

 156病院で5万5,297例が乳房温存術を受け,そのうち1万1,032例(20%)が3カ月以内に少なくとも1回再手術を受けていた。1回だけ再手術を受けた1万212例中5,943例に再度の乳房温存術,4,269例に乳房切除術が行われていた。

 再手術率は浸潤がんの18%(8,229/4万5,793例)と比べ,非浸潤がんでは29.5%(2,803/9,504例)と有意に高かった。また,再手術率は病院間で大きな差が認められた。

 同グループは「乳がん患者に対し,乳房温存術後の再手術のリスクについて十分な情報提供をすべきである」としている。

Medical Tribune 2012年8月23,30日

チョコレートを多く食べる男性で脳卒中リスクが17〜19%低下
 スウェーデン・カロリンスカ研究所のSusanna C. Larsson氏らは,男性のチョコレート消費と脳卒中リスクについて45〜79歳のスウェーデン人男性3万7,103人を約10年間追跡。消費量が最も多いグループ(中央値62.9g/週)は,最も少ないグループ(中央値0g/週)と比べて脳卒中のリスクが17%低下していたと報告した。

 さらに,欧米の5つの前向き研究のメタ解析を行ったところ,消費量の最も多いカテゴリーは最も少ないカテゴリーより脳卒中リスクが19%低かったという。

 同氏らは「適度なチョコレート摂取で脳卒中リスクを下げることができるかもしれない」としている。

 チョコレートに含まれるフラボノイドは,抗酸化,抗凝固,抗炎症作用などを介して心血管疾患に予防的に働くと見られている。LDLコレステロール(LDL-C)の血中濃度を低下させる可能性もあり,さらに,チョコレートの消費が血圧を下げるという報告もあるという。

Medical Tribune 2012年8月31日