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2012年7月 文献タイトル
膀胱がん 放射線療法と化学療法の併用で局所再発率が約50%低下
カフェインの摂取が基底細胞がんのリスク低下と関係
がん細胞だけに吸収される「ペプチド」開発
ビタミンB12追加でC型慢性肝炎治療抵抗性例の著効率が有意に改善
喫煙者のビタミンD欠乏で肺機能がより速く低下
コーヒーの有効性 Dr.中川のがんの時代を暮らす

膀胱がん
放射線療法と化学療法の併用で局所再発率が約50%低下
 バーミンガム大学臨床腫瘍学のNicholas D. James教授らは,英国がん研究所(ICR,ロンドン)との共同研究で,膀胱がんに対する放射線療法に低用量化学療法を併用することにより,放射線療法単独と比べ局所再発率が約50%減少することが大規模試験で示唆されたと発表した。

局所再発率と5年生存率が改善

 今回の試験の結果は,膀胱摘出術を必要とする患者の減少につながる可能性があり,外科手術に耐える体力のない患者に実施可能な選択肢を提供している。共同研究責任者のJames教授によると,膀胱がんの多くは喫煙と関連付けられているが,10人中約8人が65歳以上の高齢発症である。そのため,診断時には全般的健康度が低下している患者が多い。

 同教授は「膀胱摘出術は,現在でも膀胱筋層浸潤を伴う侵襲的ながんに対する最も有効な治療法であるが,実臨床では,体力がなくこのような根治的治療を施行できない患者も多い。代替療法は放射線治療になるが,同治療後に患者の3分の1が浸潤がんを再発しており,結局,膀胱摘出が必要になっている。したがって,今回の知見は,手術を受けられないほど高齢であったり,体力のない患者にとってまさに“命綱”で,将来的に膀胱摘出を必要とする患者が減少することを意味している」と述べている。

 今回の試験では英国の筋層浸潤性膀胱がん患者360例を登録し,そのうち約半数を放射線療法のみを受ける群(放射線単独群:178例)に,残りを一般的な化学療法薬であるフルオロウラシルとマイトマイシンCを用いた化学療法と放射線療法を併用する群(化学放射線療法群:182例)にランダムに割り付けた。

 その結果,放射線単独群の46%が2年以内に膀胱内や周辺組織で再発したのに対し,化学放射線療法群では33%であった。

 放射線療法に化学療法を併用することによる生命予後改善の可能性は治療後早期の解析でも示され,5年全生存率は放射線単独群の35%に対し,化学放射線療法群では48%であった。ただし,同教授は「この結果は,より大規模な試験で追認する必要がある」と指摘している。

Medical Tribune 2012年7月12日

カフェインの摂取が基底細胞がんのリスク低下と関係
 カフェインの摂取により皮膚がんの1つである基底細胞がんのリスクが低下することを示すデータが,米ハーバード大学のグループにより発表された。

 動物実験でカフェインは皮膚の扁平上皮がんの発症を予防することが示唆されているが,カフェイン摂取と皮膚がんのリスクとの関係についての疫学研究は限られている。

 同グループは,Nurses’ Health StudyとHealth Professionals Follow-up Studyのデータを用いて,カフェイン摂取と基底細胞がん(追跡中の発症患者数2万2,786例),扁平上皮がん(同1,953例),メラノーマ(同741例)のリスクとの関係を前向きに検討した。

 カフェイン入りコーヒー摂取が月1杯未満の群と比べ,1日3杯以上摂取する群の基底細胞がんの相対リスクは女性が0.79,男性が0.90と有意に低かった。

 他の食品(紅茶,コーラ飲料,チョコレート)からのカフェイン摂取も同様の負の相関関係を示したが,カフェインレスコーヒーでは基底細胞がんのリスク低下は見られなかった。

 一方,カフェインの摂取は扁平上皮がんやメラノーマのリスク低下とは関係していなかった。

Medical Tribune 2012年7月19日

がん細胞だけに吸収される「ペプチド」開発
 愛知県がんセンター研究所(名古屋市)の近藤英作腫瘍病理学部長などのグループは7月18日、特定のがん細胞に吸収されやすい、たんぱく質の一部「ペプチド」を人工的に開発したと発表した。

 このペプチドに抗がん剤などを結びつけることが出来れば、正常な細胞には吸収されにくく、副作用の少ない治療法が開発できるという。近藤部長によると、これまでペプチドはがん細胞と正常な細胞の両方に吸収されるものしか見つかっていなかった。

 今回の研究では、約1兆種類のペプチドを調べ、大腸がん、乳がんなど特定の10種類のがん細胞に吸収性の高いペプチドを人工的に作り出した。このペプチドにがん細胞の増殖を抑える物質を結びつけ、血液のがんである白血病のマウスに注射したところ、がんが30-50%まで小さくなることが確認されたという。

m3.com 2012年7月19日

ビタミンB12追加でC型慢性肝炎治療抵抗性例の著効率が有意に改善
 イタリア・ナポリ大学消化器部門のAlba Rocco氏らは,C型慢性肝炎の標準治療であるペグインターフェロン(PEG-IFN)α+リバビリン(RBV)併用療法を行っているC型慢性肝炎患者にビタミンB12を追加投与したところ,同併用療法に治療抵抗性を示すgenotype 1型患者のウイルス学的著効達成率は,標準治療群の22%に対し63%と有意に高かったことを報告した。

ビタミンB12 5,000μgを4週ごとに筋注

 肝炎,肝硬変,肝臓がん・がん転移とシアノコバラミン(ビタミンB12)欠乏の関連性に着目したRocco氏らは,PEG-IFNα+RBV併用療法にビタミンB12を追加し,その効果を検討した。

 対象のC型慢性肝炎患者94例を,PEG-IFNα+RBVを投与する標準治療群(47例,平均年齢51歳,男性47%)および標準治療にビタミンB12(5,000μgを4週ごとに筋注)を追加する+ビタミンB12群(47例,同53歳,49%)にランダムに割り付け,48週までのcomplete early viral response(cEVR),end-of-treatment viral response(ETVR),ウイルス学的著効を評価した。

1型HCV-RNA量高値例のウイルス学的著効達成率は70%

 cEVR達成率は標準治療群の64%に対し+ビタミンB12群では85%であり,有意に高かった。ETVR達成率は,標準治療群63%,+ビタミンB12群83%であり有意差が生じた。ウイルス学的著効達成率についても同様であり,標準治療群の38%に対し+ビタミンB12群では72%と有意に高かった。

 興味深いことに,+ビタミンB12群におけるウイルス学的著効達成率の高さは治療困難なgenotype1型(1b+1a)およびベースラインのHCV-RNA量高値例(50万U/L以上)でも認められた。

 Rocco氏らは,標準治療群にビタミンB12を追加する治療法は,安全かつ低コストでウイルス学的著効を改善できる治療選択肢であると述べている。

Medical Tribune 2012年7月20日

喫煙者のビタミンD欠乏で肺機能がより速く低下
 喫煙者のビタミンD欠乏症は肺機能をより速く低下させるという米標準的加齢研究(NAS)の解析結果を,米ブリガムアンドウイメンズ病院のNancy E. Lange氏らがまとめた。一方,同じ喫煙者でも非欠乏例では肺機能への影響が少なかったことから,ビタミンDは喫煙者の肺機能に保護的に作用することが示唆された。

1秒量低下は非欠乏症の倍

 ビタミンDには免疫調節作用および抗炎症作用がある。ビタミンDの欠乏とがんや炎症性疾患など多岐にわたる疾患発症との関連性が指摘されている中,Lange氏らはビタミンD欠乏症(血中レベルが20ng/mL未満)による喫煙者の肺機能への影響を検討した。

 ビタミンD欠乏症の喫煙者における喫煙指数と肺機能の関連性を評価するために,連続変数として解析したところ,スパイロメトリー(呼吸機能検査)による1秒量(FEV1)は,喫煙指数が1増えるごとに12mL低下した。

 一方,非ビタミンD欠乏症の喫煙者では,例えばFEV1の低下量は喫煙指数が1増えるごとに6.5mLと,ビタミンD欠乏症の喫煙者に比べて少なかった。ビタミンD欠乏症の者と非欠乏症の者のFEV1低下量に有意差が生じたことから(P<0.0001),ビタミンDは喫煙者の肺に対し保護的に作用することが示唆された。

 同氏らは,喫煙者ではビタミンDが肺機能に対し保護的に作用することを示唆。この効果は,ビタミンDの抗炎症や抗酸化作用によるものではないかとしている。

Medical Tribune 2012年7月24日

コーヒーの有効性 Dr.中川のがんの時代を暮らす
中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長

 緑茶は、女性の胃がんや進行前立腺がんのリスクを下げる可能性があり、特に女性は、血液内のカテキンの濃度が高いほど胃がんを予防するといわれます。しかし、すべてのがんを緑茶が防いでくれるわけではありません。

 一方、コーヒーは、肝臓がん、膵臓がん、大腸がん、子宮体がんといった緑茶が効果を示さないがんを予防する可能性があります。たとえば男性の場合、コーヒーを1日3杯以上飲む人は、膵臓がんにかかるリスクが4割も下がるというデータがあります。

 肝臓がんは、もっと顕著な効果が報告されており、コーヒーをほぼ毎日飲む人は、男女とも肝臓がんのリスクが約半分に減少しています。特に、1日の摂取量が増えるほど発生率が低下し、1日5杯以上飲む人の肝臓がんの発生率は、4分の1まで低下していました。

 肝臓がんの9割以上は、B型かC型のウイルス性肝炎が原因で発症します。コーヒーは炎症をやわらげる作用があり、肝炎の進行が抑えられ、肝臓がんを予防しているのではないかと考えられます。

 コーヒーと肝臓がんとの関係があまりにもはっきり表れたため、ウイルス性肝炎の患者の多くが「コーヒーを飲まない」ため、「コーヒーを飲む」人に肝臓がんが少ないのではないか、という見方もありました。しかし、研究が進み、コーヒーの有効性は定説になりつつあります。

 さらに、コーヒーは膵臓がんや子宮体がん、大腸がんなど、糖尿病、肥満、運動不足がリスクとなるがんを予防することも分かっています。コーヒーは運動のように糖の消費を促す作用があり、血糖値を下げる「インスリン」を大量に分泌する必要がなくなります。インスリンは、これらのタイプのがんを増殖させることも知られています。コーヒーは、がん予防にも糖尿病の予防にも有効となる可能性があるのです。

 ただし、コーヒーの取りすぎは不眠症や胃潰瘍の原因となるほか、膀胱がんを増やす可能性もあります。何ごとも、ほどほどが肝心ということです。

m3.com 2012年7月30日