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2012年6月 文献タイトル
アスピリンの常用により腺がんの遠隔転移が有意に減少
CTで子どものがん危険増 国際チームが疫学調査
死は誕生日を好んで訪れる〜 他の日より死亡率14%上昇 スイス,40年分の死亡統計に基づく時系列解析
妊娠中でも乳がん治療は可能 中絶しても結果は改善しない
小児がんサバイバー(生存者)の二次消化器がんに腹部照射が強く関係
n-3脂肪酸の多量摂取が肝細胞がん発症に予防的に作用
サフランの黄色色素、大腸がん予防に効果
コーヒーを多く飲むほど死亡リスクが低下
米国 喫煙率の低下で1975〜2000年に肺がん死亡が大幅に減少

アスピリンの常用により腺がんの遠隔転移が有意に減少
 アスピリンの常用により腺がんの転移リスクが有意に低下すると,英国のグループが発表した。

 アスピリンの常用は一部のがんの発症率と死亡率を低下させる。特に死亡率の低下は数年間の使用でも見られることから,アスピリンにがんの増殖や転移を抑制する可能性があることが示唆されている。

 同グループは,英国で実施されたアスピリンの血管イベント予防に関する5件の大規模ランダム化比較試験のデータを解析。アスピリン投与群(連日75mg以上)と非投与のコントロール群との間で,追跡期間中にがんを発症した患者の遠隔転移の頻度を比較した。

 平均追跡期間は6.5年で,全参加者1万7,285例中987例に固形がんの発症が確認された。そのうち,遠隔転移が確定された症例は210例だった。

 解析の結果,アスピリン群の遠隔転移のハザード(危険)比(HR)は0.64と有意に低かった。これは腺がんにおける遠隔転移の有意な減少によるもので,その他の固形がんでは有意なリスク低下は見られなかった。

 アスピリンは腺がん患者,特に診断時に転移がなかった患者のがんによる死亡を減少させ,結果として腺がんによる死亡リスクは有意に低下した。しかし,腺がん以外の固形がんでは死亡リスクの低下は見られなかった。

 アスピリンの腺がんの遠隔転移抑制効果は年齢や性に関係なく見られたが,絶対ベネフィット(利益)は喫煙者で最も大きかった。低用量アスピリンの効果は高用量と同等であった。

Medical Tribune 2012年6月7日

CTで子どものがん危険増 国際チームが疫学調査
 子どものころにコンピューター断層撮影(CT)検査を2〜3回受けると、脳腫瘍になるリスクが3倍になるとの疫学調査結果を英ニューカッスル大などの国際チームがまとめた。5〜10回のCTで白血病になるリスクも3倍になるという。

 チームは「CTは迅速で正確な診断に優れ、短期的な利益が長期的な危険性を上回る場合が多い。しかし、1回の被ばく線量はできるだけ低くし、別の診断法がある場合はそちらを選ぶべきだ」と訴えている。

 チームは、1985〜2002年の間に英国でCT検査を受けた22歳未満の約18万人を調査。85〜08年にかけて、135人が脳腫瘍と、74人が白血病と診断されたことが判明した。

 CTによって受けた被ばく線量を推定して、がんになるリスクを検討した結果、頭部への照射2〜3回で脳腫瘍になるリスクが3倍になり、5〜10回で白血病のリスクが3倍になることが分かった。いずれのがんも、もともとの発症率が低いため、過剰な心配はいらないとしている。

 CT検査は通常のエックス線検査に比べて浴びる放射線の量が多いが、診断機器としての価値は高く、使用回数は世界各国で増えているという。

m3.com 2012年6月8日

死は誕生日を好んで訪れる〜 他の日より死亡率14%上昇
スイス,40年分の死亡統計に基づく時系列解析
「誕生日」と「死」,両者の関係はポジティブなのか,ネガティブなのか。誕生日のような個人的意義のある日と死の関連について,「死の延長効果」(death postponement),「記念日反応」(anniversary reaction)と相反する仮説が提唱されている。最近,この仮説を検証した研究がスイス・チューリッヒ大学のVladeta Ajdacic-Gross氏らにより報告された。

 同研究ではスイス国内の死亡統計における40年分のデータに基づく大規模な解析を実施。その結果,誕生日には他の日に比べ死亡率が約14%上昇していたとの結果が得られたといい、海外メディアの注目を集めているようだ。

ただし,死亡率上昇は60歳以上でのみ

 誕生日と死亡日の関係については40年以上の議論が続いてきたとAjdacic-Gross氏ら。両者の関連を大規模に検討した試験はこれまでほとんどなかったという。

 今回同氏らは,スイスの死亡統計システムにおける1969〜2008年の死亡者に関するデータ238万997件を対象にした解析を実施。1歳未満は除外された。

 誕生日と死亡日の差をマッピング,時系列解析を行った結果,誕生日では他の時点に比べ死亡率が13.8%上昇していた。男女間の差はほとんどなかった。ただし,年齢別の解析からは,男女とも60歳以上でのみ誕生日での死亡率上昇(11〜18%)が見られた。

 今回の結果から,同氏らは「誕生日に死の結末を迎える人の数がこれまで考えられていたより多い可能性がある」と結論。誕生日の「記念日反応」「バースデイブルーズ」仮説が支持される結果であったとしている。なお,がんによる死亡が誕生日に増えていたとの結果には驚いたとの見解も述べられている。

 今回の検討からはすぐに明言できないが,誕生日での死亡率上昇にストレスや社会心理学的な問題が関連するのではないかと考察している。

 この論文を報道したThe Telegraphの記事では,誕生日と死亡日が同じ有名人としてシェークスピアやイングリッド・バーグマンを紹介。日本でも加藤清正や坂本龍馬(旧暦上での日付),小津安二郎などが生没同日の有名人として知られている。

Medical Tribune 2012年6月13日

妊娠中でも乳がん治療は可能
中絶しても結果は改善しない
 ルーベンカトリック大学(ベルギー)のFrdric Amant博士らは「妊娠中の乳がん患者のほとんどが手術もしくは化学療法,あるいは両方による治療を受けることが可能で,早産による児への害を避けるためにも正期産を目標とすべきだ」と発表。同博士らは妊娠中絶というデリケートなテーマに関して「中絶しても母親のアウトカムは改善しない」と論じている。

妊娠14週以降は化学療法可能

 Amant博士によると,妊婦の乳がん罹患率は,同年齢の非妊婦の乳がん罹患率と同等で,妊娠が乳がんリスクを上昇させるというエビデンスは存在しない。しかし,妊娠には乳房の肥大や乳頭分泌といった生理的変化を伴うことから,妊婦や医師は乳がんの症状を見逃しやすい。そのため,妊娠中の乳がんの診断は,非妊婦と比べて遅い段階で診断されることが多く,転帰も不良となる場合が多い。

 放射線治療は一般的に妊娠中には推奨されず,特に胎児を放射線から守ることが難しくなる妊娠第3トリメスター(3カ月)では推奨されない。同博士は,放射線治療を実施するか否かは患者の状況に合わせて決定すべきと慎重な見方を示す一方で,「放射線治療を行うために,胎児を正期産前に出産することを正当化してはならない」と指摘している。

 一方,化学療法は第2〜3トリメスターであれば,非妊婦と同じように標準的なガイドラインに即した治療を行うことができると強調。実際,妊娠14週以降の化学療法を支持するエビデンスは増えつつある。

 手術については,一般的にどのステージの妊婦でも問題なく施行でき,大半の麻酔薬も安全だという。実施の際には,外科医,麻酔科医,産婦人科医を含めたディスカッションが必要で,術式の決定は通常のガイドラインにのっとるべきだとしている。

 出産後は,胎盤を検査してがん転移の有無をチェックすること,また化学療法中の母乳育児は禁忌であることも忘れてはならない。

 同博士は「中には進行がんによって母子ともに死の危機にさらされているような場合もあり,課題は残る」と指摘。妊婦ががんを克服して生き延びることができないというケースでは,その夫が残された児を育てる自信がないという理由で中絶を選択する場合もあるという。

 しかし,同博士は「今回の研究で得られた新しい洞察は,がん治療の進歩を促し,大半の例で母子双方に希望を与えるものである」と強調。「母親は自らのためだけでなく自分の児のためにも戦っている。今回の知見により,ほとんどの母親はこれまで以上に意を強くし,がん治療とその副作用に立ち向かう意欲が湧くであろう」と付け加えている。

Medical Tribune 2012年6月14日

小児がんサバイバー(生存者)の二次消化器がんに腹部照射が強く関係
 小児がんサバイバー,特に腹部に放射線照射を受けたサバイバーは二次消化器がんのリスクが高いと,米シカゴ大学などのグループが発表した。

 小児がんサバイバーは一般人口より消化器がんの発症頻度が高く,その発症年齢も低いが,危険因子についてはよく分かっていない。

 同グループは,1970〜86年に21歳未満でがんが診断され,5年以上生存しているサバイバー1万4,358例を対象に,二次消化器がんのリスクと危険因子を後ろ向きに検討した。

 中央値22.8年間の追跡で,消化器がんの発症は45例だった。小児がんサバイバーの消化器がんのリスクは,一般人口と比べ4.6倍高かった。

Medical Tribune 2012年6月21日

n-3脂肪酸の多量摂取が肝細胞がん発症に予防的に作用
 n-3(ω-3)多価不飽和脂肪酸(PUFA)の多量摂取が肝細胞がん(HCC)の発症に予防的に働くことを示すデータが,日本の国立がん研究センターなどの共同研究グループにより発表された。

 魚にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサペンタエン酸(DPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3 PUFAが豊富に含まれている。魚とn-3 PUFAの摂取は一部のタイプのがん発症に保護作用があると報告されているが,HCCとの関係は明らかにされていない。

 同グループは,45〜74歳の男女9万296例を平均11.2年間追跡。魚およびn-3 PUFAの摂取とHCC発症との関係を検討した。追跡中のHCC発症は398例だった。

 その結果,n-3 PUFAの豊富な魚と個別のn-3 PUFA摂取は,用量依存的にHCCと負の相関関係を示した。

 摂取量の最低五分位と比較した最高五分位のHCCのハザード(危険)比はn-3 PUFAが豊富な魚で0.64,EPAで0.56,DPAで0.64,DHAで0.56だった。これらの負の相関関係は,C型肝炎ウイルス(HCV)またはB型肝炎ウイルス(HBV)感染者でも同様であった。

Medical Tribune 2012年6月21日

サフランの黄色色素、大腸がん予防に効果
 香辛料や食品着色料の原料となる植物、サフランの雌しべなどに含まれる黄色色素が、大腸がんの予防に効果があることを、東海中央病院(岐阜県)の川端邦裕内科医らの研究グループが突き止めた。

 この黄色色素は、緑黄色野菜などに含まれる化合物カロテノイドの一種「クロシン」。研究グループは、昨年4月から1年かけて、発がん性物質を投与した生後4週目のマウスに、3種類の濃度のクロシンを混ぜた餌を与え、変化を調べた。

 マウスの大腸内にがんが出来るかや、がんによる大腸粘膜の炎症の様子を比較したところ、実験開始から18週目には、クロシンを投与していないマウスでは1匹あたり3・15個のがんが確認された。しかし、クロシンの濃度が高い餌を食べたマウスは、がんが平均0・5個に抑えられたという。

m3.com 2012年6月22日

コーヒーを多く飲むほど死亡リスクが低下
 米国で行われた大規模前向き研究で,コーヒーを多く飲む人は死亡リスクが低いことが明らかになった。米国立がん研究所のグループが発表した。

 この研究では,50〜71歳の男性22万9,119例と女性17万3,141例を1995〜2008年に追跡。登録時に調べた1日のコーヒー摂取量と死亡との関係を検討した。514万8,760人年の追跡で男性3万3,731例,女性1万8,784例が死亡した。

 年齢補正モデルでは,死亡リスクは男女ともコーヒーを飲む人の方が高かった。しかし,コーヒー摂取者は喫煙率が高かったため,喫煙と他の可能性のある交絡因子を補正した結果,コーヒー摂取と死亡リスクとの間に有意な逆相関関係が認められた。

 コーヒーを全く飲まない群と比較したコーヒー摂取男性の死亡の補正ハザード(危険)比(HR)は1日1杯未満が0.99,1杯が0.94,2〜3杯が0.90,4〜5杯が0.88,6杯以上が0.90だった。女性の対応するHRはそれぞれ1.01,0.95,0.87,0.84,0.85であった。

 コーヒーの摂取は心疾患,呼吸器疾患,脳卒中,外傷・事故,糖尿病,感染症による死亡と逆相関関係を示したが,がんによる死亡にはこの関係は認められなかった。

Medical Tribune 2012年6月28日

米国 喫煙率の低下で1975〜2000年に肺がん死亡が大幅に減少
 フレッドハッチンソンがん研究センター(米ワシントン州)の生物統計学・生物数学プログラムのSuresh H. Moolgavkar博士らは,米国では1950年代半ば以降の喫煙行動の変化により,1975〜2000年に肺がんによる死亡数が大幅に回避されたと発表した。しかし,肺がんは依然として大きな公衆衛生上の脅威であるとして,同博士らは,禁煙に向けたさらなる対策が必要と指摘している。

1950年代半ばから喫煙率が低下

 公共の場での喫煙制限や,たばこ税の引き上げ,たばこへのアクセス制限,さらにたばこが健康に与える害に関する啓発が進んだことで,米国では1950年代半ば以降,喫煙者数を減らすことに成功した。

 しかし,喫煙者数の減少が肺がんによる死亡数減少にどれだけ寄与したのかについては,ほとんど検証されていなかった。

 Moolgavkar博士らは,喫煙者数の減少と肺がん死亡数との関連について検討した。

 同博士らは,コホート研究や症例対照研究のデータ,登録データを基に独立モデルを作成して全死亡率を調整し,1975〜2000年に禁煙により肺がん死亡がどの程度回避できたかを検討した。

 1975〜2000年の肺がん死亡数は,男性で206万7,775人,女性では105万1,978人だった。禁煙対策により,同期間に約79万人(男性:約55万人,女性:約24万人)の肺がん死亡が避けられたと推定された。

Medical Tribune 2012年6月28日