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2012年5月 文献タイトル
結腸がん“診断後”のアスピリン使用に生存利益
心血管の健康維持を目的としたAHAによる7つの推奨事項 6項目以上を満たす人で全死亡リスク半減
禁煙法で家庭での喫煙が減少傾向 欧州5カ国で調査
がん診断直後に自殺と心血管死が増加
細胞診+HPV検査で検診間隔を3年から5年に延長可能 米で子宮頸がん検診の新ガイドラインを発表
大豆イソフラボンサプリメントに乳腺上皮細胞増殖抑制効果ない
がん治療認定医の養成が順調,5年間で1万1,267人に
カレーのクルクミンが抗がん薬の候補に 英レスター大学が臨床試験に着手
マンモグラフィ〜偽陽性の女性で高い乳がん発症リスク
睡眠時呼吸障害とがん死に関連,最大4.8倍のリスク上昇
がん転移の鍵 解明 名大グループ 「デイプル」活性化で移動しやすく変化

結腸がん“診断後”のアスピリン使用に生存利益
 アスピリンと非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の大腸がん予防効果は知られているが,最近,発症後の治療効果もあるのではと示唆されている。

 オランダ・ライデン大学医療センターのE. Bastiaannet氏らは,同国の一般人口ベースのがん登録データを用いた大規模な観察研究を実施。

 大腸がん診断後のアスピリン使用により死亡率が改善していたと発表し,結腸がん診断後の補助療法としての可能性を示唆した。なお,生存利益は結腸がんのみで確認され,非使用者と比べ死亡率は35%低かった。

Medical Tribune 2012年5月1日

心血管の健康維持を目的としたAHAによる7つの推奨事項
6項目以上を満たす人で全死亡リスク半減
 米疾病対策センター(CDC)のQuanhe Yang博士らは,米国成人を代表する約4万5,000人のデータを解析し「心血管の健康維持のために米国心臓協会(AHA)が推奨する7項目(禁煙,正常血圧の維持,健康食の摂取など)のうち,6項目以上を満たしている人で全死亡リスクが低いことが分かった」と発表した。ただし,7項目すべてを満たす人の割合は非常に低かったとしている。

全死亡リスクや心血管疾患死亡リスクとの関連を検討

 心血管疾患は米国で主要な死因となっており,年間の直接的費用は2,730億ドル,関連する全費用は4,440億ドルに上る。

 AHAは最近,心血管の健康維持と心血管疾患死亡の減少を目的とした推奨事項を発表し,米国の一般人口に対し,明確に定義された7項目を満たすよう奨励している。

 これら7項目は,(1)禁煙(2)活発な身体活動の実施(3)正常血圧の維持(4)正常血糖値の維持(5)正常総コレステロール値の維持(6)標準体重の維持(7)健康食の摂取 である。

 Yang博士らは今回,これらの7項目が全米人口の全死亡リスクや心血管疾患死亡リスクにどのように関連しているかを検討した。

 死亡リスクとの関連については,7項目のうち多くの項目を満たしているほど,全死亡,CVD死亡,虚血性心疾患(IHD)死亡のリスクが有意に低いことが明らかになった。

 Yang博士らは「中央値14.5年の追跡期間中,基準を6項目以上満たす参加者は,同1項目以下の参加者と比べ,全死亡リスクが51%,CVD死亡リスクが76%,IHD死亡リスクが70%低かった。また,満たしている項目が多いほど全がん死亡リスクも低かった」と述べている。

Medical Tribune 2012年5月3日

禁煙法で家庭での喫煙が減少傾向 欧州5カ国で調査
 職場や公共の場における喫煙を禁止する禁煙法(以下,禁煙法)の施行により,家庭での喫煙が増えることが懸念されていたが,ドイツがん研究センター(独ハイデルベルク)のUte Mons氏らは「欧州5カ国での調査の結果,禁煙法の施行により家庭での喫煙は増加しておらず,むしろ減少傾向にあることが分かった」と発表した。

家庭での禁煙者が増加

 Mons氏らは,禁煙法が施行されたアイルランド,フランス,ドイツ,オランダで同法の施行前後に実施された国際たばこ規制政策評価(ITC)プロジェクトの欧州調査データを基に,同法施行後の喫煙行動の変化を検討した。さらに,調査当時,禁煙法が施行されていなかった英国(先に禁煙法が施行されたスコットランド地方を除く)を対照群として,英国で禁煙法施行前に実施された2回のITC調査のデータを解析した。

 2回のITC調査は,各国の禁煙法の施行日により,2003〜04年,2008〜09年に行われた。4カ国の計4,634人と英国の1,080人が調査に参加した。禁煙法が施行される前も,ほとんどの喫煙者が家庭での喫煙を多少なりとも部分的に制限していた。その程度は国によって大きく異なり,制限レベルが最も高かったのはドイツとフランスであった。家族に幼児がいることや,バーでの禁煙を支持するか否かが,家庭での喫煙制限に関係する主な因子だった。

 禁煙法の制定後,家庭でも禁煙した人の割合は,禁煙法を導入した4カ国すべての国で増加した。法施行後に行われた2回目のITC調査までに,家庭での禁煙はアイルランドで25%,フランスで17%,ドイツで38%,オランダで28%それぞれ増加していた。家庭における禁煙者の増加傾向は,職場や公共の場での禁煙法が包括的なものであっても,あるいは一部の例外を許すものであっても関係なく認められた。

 禁煙法の施行後に家庭で禁煙した人は,もともと禁煙を予定していたり,子供が誕生したり,バーでの禁煙を支持していた人が多かった。

 一方,英国における2回目の調査は,同国で禁煙法が施行されるわずか数カ月前に行われたが,英国でも家庭で禁煙した人が調査前と比べて22%増加した。

Medical Tribune 2012年5月3日

がん診断直後に自殺と心血管死が増加
 がん診断直後は自殺と心血管死のリスクが高まると,スウェーデンのグループが発表した。

 同グループは,30歳以上のスウェーデン人607万3,240人を対象とした研究により,1991〜2006年におけるがんの診断と自殺または心血管死のリスクとの関連を検討した。

 その結果,がんのない人と比べがんと診断された患者の自殺の相対リスク(RR)は診断後1週間で12.6(発生率2.5/1,000人年),1年間で3.1(同0.6/1,000人年)と高かった。

 心血管死のRRはがん診断後1週間で5.6(同116.8/1,000人年),4週間で3.3(同65.81/1,000人年)と高かった。

 がん診断後の自殺と心血管死のリスク上昇は,予後不良のがんで特に顕著だった。

Medical Tribune 2012年5月3日

細胞診+HPV検査で検診間隔を3年から5年に延長可能
米で子宮頸がん検診の新ガイドラインを発表
 米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は,塗抹細胞診(パップスメア)を用いた子宮頸がん検診に関する新ガイドラインを発表した。

 今回のエビデンスに基づくガイドラインは,21〜65歳の女性は3年ごとに塗抹細胞診による子宮頸がん検診を受けるべきだとしているが,30〜65歳の女性が細胞診と同時にヒトパピローマウイルス(HPV)検査を受ける場合,検診間隔を5年に延長してもよいとしている。

30〜65歳ではHPV検査併用を推奨

 今回のガイドラインは,21歳未満での子宮頸がん検診を推奨していない。これは,この年齢層では性交渉歴にかかわらず,子宮頸がん発症率と死亡率が検診により減少することを示すエビデンスが十分に得られていないためである。また,65歳超の女性で適切な検診歴があり,高リスクでない場合には検診の必要はないとしている。

Medical Tribune 2012年5月3日

大豆イソフラボンサプリメントに乳腺上皮細胞増殖抑制効果ない
 イソフラボンは抗エストロゲン活性を有すると予想されている大豆成分であるが,ノースウェスタン大学Robert H. Lurie総合がんセンター(シカゴ)外科のSeema A. Khan教授は「今回のランダム化比較試験では,大豆イソフラボンのサプリメントは,乳腺上皮細胞の増殖を抑制しなかった」と発表した。

マイナス効果の可能性も

 Khan教授は「今回の研究結果は,サプリメントのがん予防効果を検証するためにデザインされた先行研究の知見と一致している」とし,「簡単に言えば,サプリメントは食品ではない。大豆ベースの食品にはがん予防効果があると考えられているが,大豆抽出物を補充した場合のがん予防効果は確認されていない。したがって,大豆サプリメントの効果についてこれ以上試験を続ける意味はない」と述べている。

 また,同教授は「肺がん予防に関する研究でも,β-カロチン,セレンのサプリメント摂取の効果は示されていない。食品は非常に複雑で,未同定の生理活性物質が,がんに対する予防効果を持つ可能性がある」と説明している。

 今回の研究の結果,大豆イソフラボン含有サプリメント群とプラセボ群で乳腺上皮細胞増殖抑制効果に有意差は認められなかった。

Medical Tribune 2012年5月3日

がん治療認定医の養成が順調,5年間で1万1,267人に
 日本がん治療認定医機構(理事長:東京大学医科学研究所病院長・今井浩三氏)は4月27日に東京都で「がん治療認定医制度」報告会を開き,がん治療認定医が今年4月1日時点で1万1,1267人に達したことを発表した。

 同機構は,日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会,全国がん(成人病)センター協議会の共同により発足。2005年に日本医学会が「がん治療に関して認定医と専門医を2段階制とする」と提言したことから,同機構は,その1階部分を第三者機関として認定するがん治療認定医制度を2007年度に開始した。

全国津々浦々に輩出

 がん治療認定医の定義は「がん治療の共通基盤となる臨床腫瘍学の知識,基本的技術に習熟したがん治療医」とされており,“がん治療の基盤医”,あるいは“身近にいるがん治療の総合医”の育成を目指すものだという。

 今年(2012年)で6年目を迎えた同制度だが,がん治療認定医が1万人を超えたことについて,今井氏は「10年以内に2万人の認定医を輩出することを目標としていたため,ほぼ順調に養成が進んでいる」と報告。

 1万人を超え,第一線のがん専門病院のような医療施設だけではなく,地域の診療所,クリニックなどにも認定医が配置され,「がん医療の “入り口”のところで認定医が対応するという形ができたのは大きな意義ではないかと考えている」と述べた。

Medical Tribune 2012年5月10日

カレーのクルクミンが抗がん薬の候補に
英レスター大学が臨床試験に着手
 英レスター大学がん医療研究センター(ECMC)は,5月7日に進行性大腸がんの標準治療であるフルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン(FOLFOX)療法を行う前にクルクミンを投与する臨床試験を開始することを発表した。

 クルクミンとは,カレーにも用いられるスパイスであるウコンの黄色色素成分で,がん細胞に特異的に作用することが示されている。同大学では,これまでクルクミンとオキサリプラチンの併用により,腫瘍サイズが明らかに縮小することを報告してきた。

クルクミンの錠剤は1週間投与

 オキサリプラチンは進行性大腸がんに対する有効性が示されている一方,副作用として患者QOLを損ねる末梢神経障害が生じるため,治療継続が極めて困難なケースもある。

 しかしクルクミンは正常細胞には作用せず,がん細胞特異的に作用することがin vivo(生体内)研究で示されている。また同大学の研究グループは,オキサリプラチンとクルクミンの併用により,大腸がん患者の腫瘍サイズが著明に縮小することを2010年に確認している。

 今回,新たに行われる治験には,レスター大学レスター王立病院から進行性大腸がん患者40例が登録される予定だ。

 そのうち4分の3の患者には,進行性大腸がんの標準療法であるFOLFOX療法を施行する前にクルクミンの錠剤を1週間服用してもらい,残りは同療法のみとする。

 ちなみに,同療法は40〜60%の患者に治療抵抗性が認められることが報告されている。

 同研究責任者でECMC教授のWilliam Steward氏によると,クルクミンには抗がん薬に対する感受性を高める可能性があるという。クルクミンを投与することで従来の抗がん薬を減量できるとなると,副作用の発現が減少し,長期の治療継続が可能になるとの見方を示している。

Medical Tribune 2012年5月11日

マンモグラフィ〜偽陽性の女性で高い乳がん発症リスク
 コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学部のMy von Euler-Chelpin博士らは「マンモグラフィの偽陽性は,乳がん発症につながる病理学的異常を示唆する指標かもしれない」と発表した。

検査後6年目でリスクに有意差

 偽陽性の女性は,初回精密検査でがんが発見されなくても,通常はルーチンのスクリーニング対象とされる。偽陽性につながる疑わしい所見としては,画像上の非対称性陰影,皮質の肥厚,局所的引き込み(retraction),腫瘍様の塊,新しい乳頭陥没,腋窩リンパ節転移の疑いなどがある。

 マンモグラフィで偽陽性の女性では,初回から陰性の女性と比べて長期的な乳がん発症リスクが高いかどうかは不明だった。

 そこで,von Euler-Chelpin博士らは,コペンハーゲンで1991〜2005年に行われた長期の住民対象マンモグラフィスクリーニング検査のデータ(5万8,003例)を用いて,マンモグラフィで偽陽性となった女性と陰性となった女性の乳がん発症リスクを比較。偽陽性結果が出た50〜69歳の女性の非浸潤性乳管がんリスクを評価し,年齢調整後の乳がんリスクを偽陽性者と陰性者で比較した。

 その結果,スクリーニングで陰性の女性は乳がん発症絶対リスクが339/10万人・年で,偽陽性の女性では583/10万人・年だった。

 陰性の女性と比べた偽陽性の女性の乳がん発症相対リスクは,スクリーニング検査後6年目で,既に統計学的に有意だった。

 同博士らは,偽陽性の判定では患者が不安に襲われ,定期的な検査も受けなくなる可能性があると注意を促している。しかし,偽陽性の女性に長期的な乳がんリスクが認められるのであれば定期的なスクリーニングの重要性が浮き彫りになる。同博士らは「偽陽性の女性にとって,定期的なスクリーニング検査を受けることは有益と考えられる」と述べている。

Medical Tribune 2012年5月24,31日

睡眠時呼吸障害とがん死に関連,最大4.8倍のリスク上昇
 米ウィスコンシン医学・公衆衛生大学院のF. Javier Nieto氏らは,睡眠時呼吸障害(Sleep Disordered Breathing;SDB)ががんによる死亡リスク上昇と関連していたとの報告を行った。ウィスコンシン州の地域住民コホートを対象に22年の追跡を行った研究で,ベースライン時に重度のSDBがあった人では,非SDB例に比べ4.8倍のリスク上昇が確認されたという。

障害の重症度上昇と比例してリスク増大

 SDBは全死亡および心血管疾患による死亡率増加に関連することが知られている。一方,がんによる死亡との関連は明らかでなかったとNieto氏ら。しかし,動物実験などでは低酸素状態ががん細胞の増殖に関連することが示唆されているという。そこで,地域住民による観察研究で両者の関連を検討することとした。

 同氏らはウィスコンシン睡眠コホート研究に参加した1,522例の22年間の死亡に関するデータを調査。ベースライン時のポリソムノグラフィー検査によるSDBの重症度分類(apnea hypopnea index;AHI)とがんによる死亡率との関連を調べた。

 全例中365例(24%)がSDBありと診断。このうち222例(14.6%)が軽度(AHI 5〜14.9)のSDB,5.5%(84例)が中等度SDB,59例(3.9%)が重度SDBに分類された。

 追跡期間中50例ががんにより死亡していた。年齢,性,BMI,喫煙歴を調整した後も,SDBの全死亡およびがんによる死亡との関連が見られた。リスク上昇の程度は,SDBの重症度に比例していた。

 同氏らは,今回の検討からベースライン時のSDBがその後のがん死リスクに関連する可能性が示唆されたと結論。ただし,症例数やSDBに対する検査はベースライン時の1度のみであったなどの限界があることも指摘しており,今後より詳しい検討が必要としている。

Medical Tribune 2012年5月24日

がん転移の鍵 解明 名大グループ 「デイプル」活性化で移動しやすく変化
 胃がんや前立腺がんが転移する際、がん細胞内の「デイプル」というたんぱく質が鍵となる役割を果たしていることを、名古屋大医学部の高橋雅英教授(実験病理学)らのグループが発見した。

 高橋教授によると、胃がんや前立腺がんで、がん細胞は、それ自体が分泌しているとみられるたんぱく質「ウイント」の刺激に反応し、周囲の組織に広がって転移しやすくなることがこれまで知られていたが、その仕組みはわかっていなかった。

 グループは、細胞内の「デイプル」に着目。培養細胞を使った実験で、細胞内でデイプルを過剰に発現させると、デイプルが特定のたんぱく質や酵素とより強く結合し、細胞が移動しやすい形に変化することがわかった。

 一方、デイプルをなくした細胞では、この変化が起こらなかった。デイプルは通常の細胞にも存在するが、細胞ががん化すると、ウイントなどの刺激で働きが活性化するという。

 高橋教授は「研究が進めば、転移を防ぐ治療法が開発される可能性がある」としている。

m3.com 2012年5月31日