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2012年4月 文献タイトル
がん領域からも知見相次ぐ,メトホルミンがやっぱり熱い!
米国がん研究協会,5本のニュースを同時リリース
複数のがんを採血で同時スクリーニング,前がん状態の検出も 施設導入でAICSの臨床状況が明らかに
万能な抗がん薬ターゲット見つかる? CD47蛋白質,米動物実験で
歯科X線撮影と脳腫瘍リスク上昇に関連 米・地域住民対象の大規模症例対照研究
赤身肉の摂取量が多いほど死亡リスク上昇
ディーゼル排気への曝露で肺がん死亡率が上昇
前立腺がんと女性肺がんの増加を予測
がん患者の配偶者は冠動脈性心疾患や脳卒中を発症しやすい
断食でがん化学療法の効果高まる可能性〜動物実験で検証
10歳代前半の若者の飲酒〜映画の飲酒シーンが悪影響

がん領域からも知見相次ぐ,メトホルミンがやっぱり熱い!
米国がん研究協会,5本のニュースを同時リリース
 先月(3月)末,米国がん研究協会(AACR)が糖尿病治療薬メトホルミンのさまざまながんへの有用性を示す研究成果の5本のリリースを同時発表。糖尿病とがんに密接な関連があることはよく知られている。同薬使用により糖尿病患者のがん発症が抑制されるとの知見は,主に大腸がんを中心に糖尿病の領域から報告されてきた。

 しかし,今回発表された5件の研究はいずれも異なるがん腫に関するもの。画期的新薬ならともかく,既存の,しかも異なる疾患に広く使用されている治療薬に,これほど注目が集まることは珍しいと思われる。

 これまでに,複数の観察研究でメトホルミン使用とがんリスク低下の関連が報告されている。今回のリリースではヒトだけでなく動物実験も含め,多くの種類のがんに対する作用が期待される内容が取り上げられている。

前立腺がん患者対象の臨床第U相試験で安全性を確認

 カナダ・プリンセスマーガレット病院のAnthony M. Joshua氏らは,3月31日〜4月4日に米国で開催されたAACR年次学術集会で,非摘出前立腺がん患者を対象としたメトホルミンの有用性に関する臨床第U相試験の結果を発表。

 同氏らは前立腺がんの増殖に糖や脂肪の代謝が重要な役割を果たすと見ており,今回得られた結果は予備的なものだが,メトホルミンによる糖代謝および肥満の改善が一部の前立腺がんにおいて腫瘍細胞の増殖抑制につながることを示唆するものと評価。今後も糖尿病もしくは前糖尿病状態の合併など,特に同薬によるベネフィットが大きいと見られる前立腺がん患者の副次集団を明らかにしていきたいとしている。

糖尿病合併膵がん患者の2年生存率が非使用に比べ2倍

 予後不良のがんの1つとして知られる膵がんに対するメトホルミンの有用性を報告したのは,米MDアンダーソンがんセンターのDonghui Li氏ら。

 糖尿病患者の膵がん発症率は一般に比べ高いとされるが,メトホルミンを使用していた糖尿病合併膵がん患者の2年生存率は,非使用の患者に比べ約2倍高かったと報告。

肝がん誘発マウスでの有用性も初めて示される−脂質合成阻害作用が鍵か

 動物実験レベルでは,新たながん腫への有用性にも注目が集まっている。

 米メリーランド医科大学のGeoffrey Girnun氏らはマウスでの実験から,メトホルミンが肝がんに保護的な作用を示す可能性を報告。

 化学誘発肝がんマウスを用いた実験により,メトホルミン投与マウスではコントロールに比べ,有意な腫瘍増殖抑制作用が確認された。同氏らは,同薬の肝がんに対する作用を直接的に評価したのはこれが初めてではないかとしている。

口腔がんへの進展が最大90%抑制(マウス)−mTORC1阻害作用に着目

 米国立歯科・脳顔面頭蓋研究所のJ. Silvio Gutkind氏らはマウスを用いた実験で,メトホルミン投与により口腔内腫瘍が縮小したとの結果を報告している。

 同薬には口腔がんの進行に重要な役割を果たすシグナル伝達分子(mammalian target of rapamycin complex 1;mTORC1)への強い活性が確認されていると同氏ら。今回の実験結果で同薬の抗腫瘍効果が強く裏付けられたと考察している。

 mTORC1は,生物現象に不可欠な多くの細胞シグナルを制御する因子で,シグナル伝達の異常ががんなど多くの疾患に関連すると考えられている。今回の実験からは,発がん物質誘発性の口腔がんを作製したモデルマウスへのメトホルミン投与で,腫瘍サイズの縮小,扁平上皮がんへの進展が70〜90%有意に抑制されるなどの結果が得られたという。

メラノーマ細胞には単独での有用性確認されず…しかし,新たな可能性が

 悪性度の高いがんの1つとして知られるメラノーマに対する検討も始まっている。英パターソンがん研究所のRichard Marais氏らは,BRAFV600E変異陽性のメラノーマ患者から採取,培養したがん細胞にメトホルミンを添加した実験を行った。

 しかし,メトホルミンによるメラノーマ細胞増殖抑制の効果はほとんど見られなかったと同氏ら。この原因はBRAFV600Eがメトホルミン耐性の発現に関連するRSKと呼ばれる蛋白を活性化するためと考えられたとしている。

 メトホルミンもメラノーマには全く歯が立たないのかと残念に思ってしまいそうだが,同氏らはさらにマウスで新たな実験を実施。これにより,同氏らはBRAFV600E変異陽性メラノーマ細胞を増殖させたマウスにメトホルミンを投与すると,BRAFV600E変異陽性細胞からの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-Aの産生が増加することを突き止めた。

 これを受け,同氏らはすぐに同じモデルマウスを用いて,メトホルミンとVEGF-A阻害作用を持つ2種の抗がん薬との併用実験を行った。その結果,メトホルミン単独投与群では腫瘍が2倍に増大したのに対し,axitinib併用群では腫瘍増大が45%に抑制された。ベバシズマブを投与した場合,同薬単独では腫瘍増大が34%抑制されたが,メトホルミンを併用した場合64%の抑制が確認された。

 今後は,患者を対象とした臨床試験も始めたいと同氏ら。「メトホルミンと抗がん薬の併用療法が,予後不良のメラノーマに対する新たな選択肢となれば」と述べている。

Medical Tribune 2012年4月5日

複数のがんを採血で同時スクリーニング,前がん状態の検出も
施設導入でAICSの臨床状況が明らかに
 採血するだけで血液中のアミノ酸バランスから複数のがんを同時にスクリーニングできるアミノインデックスがんスクリーニング(AICS)が,昨年(2011年)4月に日本に導入された。4月3日に東京都で開かれたメディア懇談会(提供:味の素)で,三井記念病院総合健診センター所長の山門實氏は,AICSでがんの疑いが高い「ランクC」判定受診者に精査を行った結果,実際に多くの前がん状態が発見されたと話した。

 AICSは,婦人科がん検診法では身体的・精神的苦痛が大きいという従来の検診法の課題を克服した新しい検査法であり,横浜市立大学病院化学療法センター長で産婦人科准教授の宮城悦子氏は「簡便なAICS導入により,がん検診受診率の向上や早期発見につながる」との期待感を示した。

5種のがんで承認,他のがんに適応拡大も

 通常,体内アミノ酸濃度は一定に保たれているが,がん発症の前段階になるとそのバランスが崩れ,各種のがん特有のパターンを示す。こうしたアミノ酸の特徴を早期がんのリスク検査に生かしたのがAICSだ。

 従来の腫瘍マーカーは,がんがある程度進行しないと検出されないほか,内視鏡検査では苦痛が,X線撮影では被ばくリスクがあり,さらにがんの種類ごとに異なる検査が必要だった。

 しかしAICSでは,1度の採血(5mL)で複数の早期がんを同時に検査できる。現在,AICSで承認されているがんの種類は,胃がん,大腸がん,肺がん,前立腺がん,乳がんの5つ。今後は子宮頸がん,子宮体がん,卵巣がんのリスク判定の適応拡大が見込まれているほか,メタボリックシンドローム,糖尿病,膵臓がんでも期待されている。

ランクCのエビデンスは構築が必要

 AICSの判定は,ランクA「がんの可能性なし」,ランクB「がんの可能性が否定できない」,ランクC「がんの可能性あり」の3段階で表示される。進行がんだけでなく,ステージ2(またはB)までの早期がんについても高い検出力が示されており,ランクCの感度は,胃がん,肺がん,大腸がんが約40%,前立腺がんが約30%,乳腺がんが約20%であった。

 山門氏によると,同センターでAICSを実施した200例(昨年9月〜2012年2月現在)のうち,ランクCと判定された54例の精査結果を分析したところ,実際に前がん状態で検出された症例が存在していたという。

 例えば,胃がんでランクCとされた12例のうち6例が胃内視鏡による精査を受け,萎縮性化生性胃炎(1例)のほか,萎縮性胃炎過形成性ポリープ(1例),萎縮性胃炎胃底腺ポリープ(1例),萎縮性胃炎(1例)が検出された。また,大腸がんはランクCの11例中4例が大腸内視鏡検査を終了しており,高度異型性腺腫(1例),中等度異型性腺腫(2例)が認められた。

 胃がんの場合,AICSでランクCと判定された100人に1人ががん有病者と判定されることが統計的に分かっている。

 今後は,ランクCが実際にどれくらいの割合で,いつがん化したのかなど,がん発症関連のエビデンスの構築が必要だと同氏は指摘する。

Medical Tribune 2012年4月9日

万能な抗がん薬ターゲット見つかる?
CD47蛋白質,米動物実験で
 たった1つの方法で,ヒトの乳がん,卵巣がん,大腸がん,膀胱がん,脳腫瘍,肝がん,前立腺がんといったあらゆるがんが治った―。といっても,これはインチキ商法の宣伝ではない。ただ,これらのがんを移植されたマウスでの話ではあるが…。

 米スタンフォード大学のIrving Weissman氏らは,抗CD47モノクローナル抗体を投与されたマウスで移植されたヒトのがんが縮小あるいは消滅したと発表した。CD47蛋白質は,新たな抗がん薬のターゲットになるかもしれない。

CD47蛋白質は貪食細胞の攻撃を防ぐ盾

 CD47蛋白質は通常,赤血球や血小板,リンパ球といった血球系の細胞に発現し,マクロファージや樹状細胞などの貪食細胞表面に発現するSIRPα蛋白質と結合することにより,これら貪食細胞に「自分を食べないでくれ」というシグナルを伝え,その攻撃から血球系の細胞を守っている。

 Weissman氏らはこれまで,ヒト急性骨髄性白血病や非ホジキンリンパ腫でCD47蛋白質が正常細胞より多く発現しており,その発現量が多いほど治療成績が悪いことを報告していた。つまり,これらがん細胞は,CD47蛋白質を大量に発現することで,貪食細胞の攻撃から逃れていたというわけだ。

 同氏らは今回,CD47蛋白質による貪食細胞の攻撃回避の戦略が,血球系のがん細胞ばかりではなく,より広範な種類のがん細胞にも認められることを示した。調べた限りのほとんどあらゆる種類のがん細胞で,CD47蛋白質の発現が正常細胞より平均3.3倍以上増加し,その増加量は治療予後の悪さと相関していたのだ。

 そこで同氏らは,CD47蛋白質の働きを弱めることで,貪食細胞による広範な種類のがん細胞の除去が可能かもしれないと考え,抗CD47モノクローナル抗体の添加により培養ヒトがん細胞に対するマクロファージの貪食作用が亢進することを確かめた後,ヒトがん細胞を移植したマウスに抗CD47モノクローナル抗体を投与する実験を行った。

大腸がんのサイズが3分の1に

 その結果,大腸がんの場合は腫瘍サイズが平均3分の1以下に縮小した。膠芽細胞腫の場合はさらに効果的で,平均8分の1程度縮小した。

 ヒト膀胱がんを移植されたマウスでは,移植がんが十分大きくなるのを待ってから抗CD47抗体投与が開始され,リンパ節転移は未投与マウスで全例(10匹中10匹),投与されたマウスでは1例のみだった。より転移能の高い頭頸部がんの場合は移植がんが大きくなる前に投与を開始し,リンパ節転移は未投与マウスの5匹中4匹に対し,投与マウスではゼロだった。

 乳がんを移植された5匹のマウスでは投与によりがんが完治し,実験終了までの4カ月間,再発は認められなかった。ただし,移植された乳がん細胞の由来によっては,全く効果のない場合もあったという。

Medical Tribune 2012年4月12日

歯科X線撮影と脳腫瘍リスク上昇に関連
米・地域住民対象の大規模症例対照研究
 米エール公衆衛生大学院のElizabeth B. Claus氏らは,歯科におけるX線撮影と髄膜腫リスク増加が関連する可能性を報告した。米国5地域に住む人を対象とした症例対照研究で明らかになった。

 髄膜腫は脳腫瘍の一種で比較的良性であることが多いとされている。今回の検討では,年1回以上の歯科X線撮影と髄膜腫リスク上昇の間に有意な関連が見られたという。複数の海外メディアがこの研究成果を報じているほか,関係学会もコメントを発表している。

年1回以上の咬翼X線撮影で1.4〜1.9倍,パノラマX線では4.9倍の上昇も

 電離放射線が髄膜腫発症に関連する可能性が指摘されているとClaus氏ら。髄膜腫は米国で最も多く報告されている成人の原発性脳腫瘍の1つと述べている。

 歯科X線は胸部X線に比べ1回の撮影当たりの被ばく量は少ないものの,照射野に近い脳や甲状腺で一定量の被ばくが起こることが知られている。

 同氏らによると,髄膜種の最も重要な環境因子として電離放射線が挙げられており,相対リスクで6〜10倍の上昇がこれまで報告されているという。しかし,これらの検討は原子爆弾,がん治療などによる放射線被ばくを対象としたものであり,一般の人が受ける低線量の被ばくとの関連を大規模に見た研究はほとんどないという。

 同氏らは米国内の5つの州に住む髄膜腫患者1,433例の群(20〜79歳,2006〜11年に診断)と年齢,性,居住地域をマッチさせた対照群1,350例の比較検討を実施した。

 同氏らは,一定以上の頻度での歯科X線撮影と髄膜腫リスク上昇との関連が見られたと結論。ただし,現在の歯科X線は以前よりもさらに被ばく量が軽減されていると述べている。また,歯科X線の撮影状況は医療記録がなく,聞き取り調査での確認であったことなどから,リコールバイアス(思い出し方の差異)が否定できないとしている。

 米国がん協会(ACS)会長のOtis W. Brawley氏は,公式ニュースで「両者の関連を考えるには,より多くのデータが必要。それまでは本当に必要とされるときにだけ歯科X線を使用するようにというのが最良のアドバイスだろう」とコメントした。

Medical Tribune 2012年4月13日

赤身肉の摂取量が多いほど死亡リスク上昇
 ハーバード大学公衆衛生学部栄養学科のAn Pan博士らは,赤身肉の摂取量が多いほど全死亡,心血管疾患(CVD)やがんによる死亡のリスクが上昇するが,赤身肉を魚や鶏肉などの他の食品に替えることにより,死亡リスクは低下すると発表した。

加工赤身肉の摂取でリスク高い

 肉類は多くの食事における主要な蛋白質源と脂肪源であるが,これまでの複数の研究から肉類の摂取は糖尿病やCVD,ある種のがんによる死亡リスクの上昇と関連することが示唆されている。

 Pan博士らは,男性3万7,698人と女性8万3,644人を対象に,食事内容について最大28年間の追跡調査を行った研究2件のデータを解析した。そのうち2万3,926人が死亡し,うち5,910人はCVD,9,464人はがんが死因だった。

 その結果,赤身肉の高摂取は全死亡,CVDとがんによる死亡リスクの有意な上昇と関連することが明らかになった。この関連は未加工および加工赤身肉の両方で認められたが,加工赤身肉の方がリスクは高かった。また,赤身肉を魚,鶏肉,ナッツ,豆類,低脂肪乳製品,全粒穀物で代替すると死亡リスクが有意に低下することも分かった。

 1日当たりの赤身肉の摂取を1食分増加した場合,全死亡リスクは未加工赤身肉で13%,加工赤身肉で20%上昇した。

 さらに,1食分の赤身肉を魚,鶏肉,ナッツ,豆類,低脂肪乳製品または全粒穀物に替えると,全死亡リスクが低下することが分かった。具体的には,魚に替えた場合は7%,鶏肉の場合は14%,ナッツでは19%,豆類では10%,低脂肪乳製品では10%,全粒穀物では14%全死亡リスクが低下した。

 同博士らは「今回,検討したコホートでは,全例で1日当たりの赤身肉の摂取を半分以下に減らせば,追跡調査期間中の全死亡が男性で9.3%,女性で7.6%予防可能である」と推定している。

Medical Tribune 2012年4月19日

ディーゼル排気への曝露で肺がん死亡率が上昇
 米国立がん研究所(NCI)のDebra T. Silverman博士らは,2件の研究からディーゼル排気への過度の曝露が肺がん死リスクの増大要因になる可能性があると発表した。

曝露量とリスク上昇に有意な関連

 1980年代以降,ディーゼル排気曝露と肺がんの因果関係についての研究が進められてきた。89年,国際がん研究機関(IARC,仏)はディーゼル排気を「おそらく発がん性がある物質」に分類した。

 筆頭研究者のSilverman博士らは,ディーゼル排気曝露と肺がん死リスクとの関連性を明らかにするため,非金属の地下鉱山8施設の労働者1万2,315例を対象に研究を実施した。

 各施設でディーゼル駆動の採掘機械が導入された年(1947〜67年)から97年12月31日まで,鉱山労働者に関する情報を追跡調査した。98〜2001年に各施設で実施されたディーゼル排気曝露調査,米鉱山保安衛生局の鉱山情報データ分析システムのコンプライアンスデータシステムに記録されたデータ,各施設のディーゼル駆動機械使用に関する経時的データ,過去の坑内通気データを含むさまざまな情報源を用いて,ディーゼル排気曝露の代替指標である吸入性元素状炭素に対する各被験者の曝露量を推定した。

 その結果,地下作業員の吸入性元素状炭素曝露量の増加と肺がんリスクの上昇との間に統計学的に有意な関連性が認められた。また,長年にわたり多量の吸入性元素状炭素に曝露された地上作業員においても,リスク上昇を示すエビデンスが得られた。しかし,シリカ,アスベスト,非ディーゼル排気関連の多環芳香族炭化水素,呼吸性粉塵,ラドンといった職場環境で曝露される他の物質は,このような関連性にほとんど,あるいは全く影響を及ぼさなかった。

 同博士は「このような労働者では,肺がんリスクが少なくとも50%増加するため,われわれの結果から,都市部で報告されている大気中の高濃度の元素状炭素が肺がんリスクの増加を引き起こす可能性が示唆される」と述べており,「ディーゼル排気と肺がんに因果関係があるならば,高濃度のディーゼル排気に曝露している労働者と都市人口が吸入するディーゼル排気の発がん性は,公衆衛生上の大きな問題と考えられる」と指摘している。

Medical Tribune 2012年4月26日

小児期の肥満,耐糖能異常,高血圧は成人期の早期死亡の危険因子
前立腺がんと女性肺がんの増加を予測
第22回日本疫学会

 2025〜29年にわが国のがん罹患状況はどう変化しているか。国立がん研究センター統計研究部の雑賀公美子氏らが将来予測を行った結果,2000〜04年に比べ,男性では前立腺がん,女性では肺がんの罹患数が明らかに上昇することが示されたという。

 同氏らは,国際がん研究機関と北欧のがん登録プロジェクトが共同開発した手法により,年齢,時代,世代(出生年)を考慮したモデルを用いて,2029年までの5年ごとのがん罹患数・率を部位別,性・年齢階級別に予測した。

 2025〜29年の予測罹患数は2000〜04年と比べ,男性では肝臓が減少する一方,胃,大腸,肺,前立腺,膵臓の各がんは増加。特に前立腺がんは約4倍に増加する。

 2020〜24年以降は,胃がん,大腸がんの増加が見られなくなる。女性では2000〜04年に比べ2025〜29年で乳房,大腸,胃,肺,膵臓,子宮頸の各がんが増加。特に肺がんは約2倍増加する。乳がんは2020年以降増加傾向が見られなくなる。前立腺がん増加と女性の肺がん増加は,罹患率の上昇に,高齢化に伴う増加が加わるためと推測された。

Medical Tribune 2012年4月26日

がん患者の配偶者は冠動脈性心疾患や脳卒中を発症しやすい
 がんに罹患した夫または妻を介護する配偶者は冠動脈性心疾患や脳卒中を発症しやすいと,スウェーデンのグループが発表した。

 同グループは,がん患者を介護する配偶者の心理的,肉体的負担が冠動脈性心疾患や脳卒中の発症リスクと関係するかどうかを検討した。

 その結果,妻ががんと診断された夫の冠動脈性心疾患,脳梗塞,脳出血の発症率はそれぞれ1.13,1.24,1.25,がん患者の夫を持つ妻の発症率はそれぞれ1.13,1.29,1.27と,いずれも有意に高かった。

 夫または妻が膵がんや肺がんなど死亡率の高いがんだった場合,配偶者の冠動脈性心疾患と脳卒中発症リスクはより顕著であった。

Medical Tribune 2012年4月26日

断食でがん化学療法の効果高まる可能性〜動物実験で検証
 南カリフォルニア大学のValter Longo博士らは,マウスを2〜3日断食させると腫瘍の進行が抑制され,化学療法の効果も改善するとの実験結果を発表した。

42%で無再発生存期間が改善

 今回の知見は,がん化学療法前に断食することによって,治療の副作用を抑制できる可能性を動物実験で示したもので,ヒトでも同等の効果が得られるかもしれない。

 今回の研究では,各種がん(メラノーマ,乳がん,神経芽細胞腫)のモデルマウスに2日間断食させた後に化学療法を実施したところ,化学療法単独の対照マウスよりもがんの進行が抑制されることが分かった。

 実際,対照マウスと比べ,断食後に化学療法を実施したマウスでは転移率が40%低下した。さらに,神経芽細胞腫マウスでは,断食後に化学療法を受けたマウスの42%が180日間のがん無再発生存を達成したのに対し,対照マウスではすべて死亡した。

 Longo博士らは「がん治療において,断食の有効性を検討する臨床試験を行うには時期尚早ではあるが,今回の実験は断食により化学療法の効果が高まる可能性を示唆している。この結果は,標準治療で効果が得られない進行がん患者にとって,特に意味のある知見である」と述べている。

Medical Tribune 2012年4月26日

10歳代前半の若者の飲酒〜映画の飲酒シーンが悪影響
 ダートマス医科大学(米)のJames Sargent教授らは「飲酒シーンがある映画をよく見る10歳代前半の若者は,そのような映像を見ることが比較的少ない若者と比べて飲酒を始める率が2倍高く,大量飲酒に至る率が有意に高い」と発表した。

10〜14歳の若者6,500人超を検討

 Sargent教授らは今回の研究結果から,ハリウッドはたばこと同様にアルコールのプロダクト・プレイスメント(映画やテレビ番組などに商品や商品名を登場させる広告手法)も制限すべきだと指摘している。

 今回の結果は,米国の10〜14歳の若者6,500人超の代表的サンプルを対象としたコホート研究に基づいている。同教授らは被験者に対して,飲酒に影響を及ぼす因子(映画鑑賞やアルコールのブランド名の入った商品,家庭環境,仲間の飲酒,個人的な反抗など)に関する質問を2年間にわたり定期的に行った。

 また,過去5年間各年の興行収入トップ100のヒット作と,第1回調査を行った2003年の第1四半期に1,500万ドル超の興行収入を上げた映画32本,計532本からランダムに選択した50本のうち実際に見た作品を尋ねた。

 結果に影響を及ぼすと考えられる因子を調整後,飲酒の描写の多い映画を最も多く見た10歳代の若者は,最も少なかった若者と比べて飲酒開始の可能性が2倍高く,大量飲酒に至る可能性も63%高かった。

 調査期間中に飲酒を始めた10歳代の若者の28%と大量飲酒に移行した若者の20%が,映画の飲酒シーンへの曝露と関連していた。

 Sargent教授らは「この関連は飲酒シーンだけでなく,アルコールのプロダクト・プレイスメントにも認められた。米国では映画でのたばこのプロダクト・プレイスメントは禁止されているが,アルコールについては一般的に見られ,作品のレイティング(年齢制限)にかかわらずハリウッド映画の半数に1種以上のアルコール銘柄が登場する」と述べている。

 同教授らは,喫煙が公衆衛生問題として業界モニタリングの対象となって以来,映画の喫煙シーンは減少したと指摘。映画の飲酒シーンについても「同様に重視すべきではないか」と指摘している。

Medical Tribune 2012年4月26日