広葉樹(白) 

ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2012年3月 



2012年3月 文献タイトル
専門職・管理職の男性,死亡率が5年で7割増
コーラ飲料から「発がん物質」検出,米FDAに使用禁止を再要請 米消費者保護団体「使用中止と暫定的名称変更を」
DNAナノロボットはがんを治せるか,培養細胞での効果を確認
第9回日本予防医学会
〜低温岩盤浴〜進行・非進行膵がんに対する予防・治療の選択肢に
腺腫性ポリープの内視鏡的切除により大腸がんによる死亡が半減
喫煙関連がんサバイバーのADリスクは74%低下
リセドロン酸により大腸がんリスクが軽減される可能性
転移性肺がんに経皮的マイクロ波アブレーション 70%以上の腫瘍を完全に焼灼
座位時間増加で全死亡リスク上昇,身体活動時間に関係なく

専門職・管理職の男性,死亡率が5年で7割増
 北里大学公衆衛生学の和田耕治氏らは,30〜59歳の日本人男性を対象とした後ろ向きコホート研究の結果を報告。1990年代後半に起きたバブル崩壊以降,雇用形態の変化に伴い,健康状態の悪化や自殺者の増加などが指摘されている。

 同氏らは,その詳しい要因を探るため職種別の死因との関連などを検討した。その結果,専門職および管理職の死亡率は,1990年の後半から2000年にかけてそれぞれ約70%増加していたことが分かった。その他の職種の男性の死亡率は徐々に減少していたという。
 
自殺は職種を問わず増加,管理職は25年で271%増

 バブル崩壊以降,日本では景気低迷が続き,失業率の上昇や正規雇用の減少が問題になっている。女性の平均寿命は世界トップレベルである一方,男性の平均寿命は最近悪化の一途をたどっていると指摘。男性の自殺率が1998年に過去最悪となったことに象徴されるように,この背景には雇用状況の急速な変化が関連しているのではないかとして検討を実施した。

 日本の政府統計システムを利用し,30〜59歳男性の死因および死亡前に就いていた職業別のデータなどを1980から2005年まで縦断的に解析した。職種は専門職,管理職,事務職,営業職,農林水産業従事者など計10種類に分類された。

 管理職および専門職を除くすべての職種で,全死因の年齢調整死亡率およびこれに含まれる4大死因(がん,虚血性心疾患,脳血管疾患,不慮の事故)は1980〜2005年に漸減していた。一方,専門職および管理職の同死亡率は,1990年後半から2000年にかけてそれぞれ約70%増加していた。

 さらに自殺率は1995年以降,職種を問わず上昇傾向が見られ,特に管理職における増加が著しく(1980年から2005年の増加率271%),専門職での自殺率増加も大きかった。

Medical Tribune 2012年3月7日

コーラ飲料から「発がん物質」検出,米FDAに使用禁止を再要請
米消費者保護団体「使用中止と暫定的名称変更を」
 米国の消費者保護団体Center for Science in the Public Interest(CSPI)は3月5日,実験動物で発がん性が認められた化学物質4-メチルイミダゾール(4-MI)を含有するカラメル色素がコーラ飲料から検出されたとして,米食品医薬品局(FDA)に対して製造業者の4-MI使用禁止をあらためて要請した。既にCSPIでは昨年(2011年)2月16日に同様の陳情書を提出しており,暫定措置として「カラメル色素」の名称変更も訴えている。

コカ・コーラおよびペプシコ製品から高濃度の4-MIを検出

 CSPIは1971年に設立された,ワシントンを拠点とする非営利団体で,食品衛生などに関する教育や啓発を主な活動としている。CSPIによれば,専門機関へ依頼した実験で対象とした数種類のコーラ飲料のうち,コカ・コーラ製品2種(コカ・コーラおよびダイエットコーク)とペプシコ製品2種(ペプシコーラおよびダイエットペプシ)から高濃度の4-MIが検出されたという。

【各炭酸飲料における4-メチルイミダゾール検出状況】

コカ・コーラ:142〜146μg
ダイエットコーク:103〜113μg
ペプシコーラ:145〜153μg
ダイエットペプシ:145〜153μg
ドクターペッパー:約10μg
ダイエットドクターペッパー:約10μg

*いずれも約355mL中

 4-MIは,コーラ飲料などに使われるカラメル色素を製造する過程において,高圧・高温下で砂糖およびアンモニアや亜硫酸塩が化学反応を起こして生成されるという。米政府が行った動物実験で肺や肝臓などでの発がん性が報告されており,カリフォルニア州では昨年(2011年)1月7日から,食料品および飲料品における4-MIの使用に「発がん性あり」と認め,1日当たりの摂取基準を29μgと定めている。CSPIでは,同州でのリスクモデルを用いた4-MIによる米国人の発がん人口を1万5,000人と推計した。

Medical Tribune 2012年3月7日

DNAナノロボットはがんを治せるか,培養細胞での効果を確認
 DNAナノロボットとは,DNAを素材にしてつくった微小立体構造体で,外部からの刺激に応答して,変形したり,特定の動きを行ったりするものを指すことが多い。これまでは,DNAの素材としての可能性を探る基礎的な研究が主流だったが,米ハーバード大学のShawn Douglas氏らは,DNAナノロボットが抗がん薬として使えるかもしれないという応用の可能性を報告した。がんの培養細胞に試したところ,効果が確認できたという。

意外に古い研究の歴史

 DNAを素材にした構造体の研究は,1982年にその最初の基本コンセプトが米ニューヨーク州立大学のNadrian Seeman氏によって発表されて以降,平面構造体(DNA折り紙),立体構造体,動く構造体(DNAナノロボット,DNAナノマシン)の3つの段階を経て発展してきた。その基本構造は,DNA鎖を糸に見立てて編みこんだ平面構造体であり,そこから立体構造体,さらには動く構造体へと,編み込むDNAの塩基配列を変えるだけで,自己組織化させられることが分かっている。

 2009年にDNA平面構造体が自発的に折り畳まれることで,多様な形の立体構造体をつくることができることを実証したDouglas氏は同年,上面をふたのように開閉できるDNA立方体が他の研究室から報告されたことに触発され,縦に開裂する中空の正六角柱形をしたDNAナノロボットを作製した。

 大きさは35nm×35nm×45nmであり,開裂は特定の蛋白質と特異的に結合するDNA配列(アプタマー)によって制御される。鍵となる特定の蛋白質が存在するときだけ,アプタマーはその相補鎖との2本鎖形成が不可能となってロックが解除され,DNAナノロボットが口を開けるという仕組みだ。

3日でがん細胞が半減

 DNAナノロボットの中には,がん細胞に細胞死を誘導する抗体が搭載されており,鍵となる特定の蛋白質を細胞膜表面に持つがん細胞に触れたときだけ,口を開き,抗体を放出するのだという。

 Douglas氏らは,鍵となる蛋白質分子の特異性を入念に調べた後,実際のがん細胞に対してDNAナノロボットを与えたところ,3日後にはがん細胞は半減したが,正常細胞はなんら影響を受けなかったと報告している。

 ただ,実際生体内において作用させようとすると課題も多い。DNAは,生体内で分解されやすい素材だからだ。分解を防ぐためにポリエチレングリコールでDNAナノロボットをコーティングするのもよいかもしれないと同氏は語っているが,実用化されるのはまだ先のことかもしれない。

Medical Tribune 2012年3月7日

第9回日本予防医学会
〜低温岩盤浴〜進行・非進行膵がんに対する予防・治療の選択肢に
 篠崎クリニック(岡山県)の篠崎洋二院長は,高齢者や心不全患者の進行がんに対し,低温岩盤浴が進行抑制に寄与する可能性を示した既存の研究に続き,今回,膵がん患者に対する同治療の安全性・有効性を検討。その結果,11例中4例(37%)で部分奏効(PR)が得られたことを,東京都で開かれた第9回日本予防医学会で報告した。特に非進行の早期がん症例でも有効性が高く,がんに対する予防治療として有力な選択肢になりうるとの考えを示した。

非進行の早期がんで約2年の延命

 篠崎院長の検討によると,36〜39℃の低温岩盤浴を施行した高齢者では脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値が低下し,心機能の保護効果が得られ,その安全性が確認されている。同院長は今回,膵がん患者11例を対象に,36〜39℃・40分程度の青龍石を用いた低温岩盤浴を週4回以上施行した。進行がんに対する効果はCT,MRI検査で判定した。

 その結果,遠隔転移および腹水がない4例(37%)で部分寛解(PR)が認められた。そのほか,腫瘍縮小(MR)が1例(9%),不変(NC)が2例(18%),増悪(PD)は4例(36%)であった。また,Kaplan-Meier解析による累積生存率を見ると,腹水や胸水がない患者,またNC以上の非進行例で約2年の延命が得られた。

 手術不能な膵体部がん(81歳女性)の一例を見ると,青龍石を用いた低温岩盤浴による治療のみを行ったところ,2カ月後には膵臓周囲からがん浸潤が消滅し,腫瘍は縮小,また腫瘍マーカーのCA19-9も大きく低下していた。QOLも著明に改善し,2年間の延命が図れたという。

 同院長の検討では,膵がん以外の進行がんでも良好な成績が得られていることから,「適切な岩盤を選べば,低温岩盤浴は,高齢者や衰弱者に適応可能な治療法として有効性が期待される」と結論。「特に非進行の早期がんでより有効性が高いことが示唆されており,予防医学の観点からも有力な治療法の1つになると期待される」と展望した。

Medical Tribune 2012年3月8日

腺腫性ポリープの内視鏡的切除により大腸がんによる死亡が半減
 腺腫性ポリープを内視鏡的に切除することにより大腸がんの死亡が半減することを示す研究結果が,米スローンケタリング記念がんセンターなどのグループにより発表された。

 全米ポリープ研究(NPS)で,大腸内視鏡による腺腫性ポリープ切除の大腸がん予防効果が認められた。同グループは,内視鏡的ポリープ切除の大腸がん死亡率への長期的な影響を検討した。

 対象は,1980〜90年に初回の大腸内視鏡検査のためにNPS参加施設へ紹介され,腺腫性または非腺腫性ポリープが確認された患者。追跡期間は最長23年間で,死亡登録により死因を特定した。腺腫性ポリープを内視鏡的に切除された患者における大腸がんの死亡率を,一般集団および同研究内の非腺腫性ポリープ患者の大腸がん死亡率と比較した。

 その結果,中央値15.8年間の追跡で,腺腫性ポリープが切除された2,602例中1,246例が死亡し,うち12例が大腸がんによる死亡であることが確認された。一般集団における大腸がんの期待死亡数は25.4例と推定されたことから,内視鏡的に腺腫性ポリープの切除を受けた患者の標準化死亡比は0.47と,死亡率が53%低下することが示唆された。

 腺腫性と非腺腫性ポリープ患者のポリープ切除後10年間の大腸がんによる死亡率に差はなかった。

Medical Tribune 2012年3月8日

喫煙関連がんサバイバーのADリスクは74%低下
 米ボストンVAメディカルセンターのJane A. Driver氏らは,地域人口を対象に長年行われている前向きコホート,フラミンガム心臓研究から,がんとアルツハイマー病(AD)の関連に関する報告を行った。

 それによると,がんサバイバー(生存者)のADリスクはがんに罹患しなかった人に比べ33%減少,特に喫煙に関連するがんのサバイバーでは74%ものリスク低下が見られた。一方,追跡期間中にADと診断された人がその後がんを発症するリスクは61%低下していたという。
 
「がんと神経変性疾患は共通の経路を介して発症」

 がんサバイバーのADリスクの低下,およびAD患者のがんリスク低下を示唆した報告は過去にいくつか行われている。パーキンソン病患者でも同様の報告がある。がんとADなどの神経変性疾患の一部にはp53などの遺伝子の関連のほか,共通の経路が見いだされているとDriver氏ら。同じ経路が受けるシグナルにより,がんでは無限の細胞増殖が起こる半面,神経変性疾患の場合では細胞のアポトーシスにつながると考えられており,新たな治療標的としても注目されるという。

Medical Tribune 2012年3月13日

リセドロン酸により大腸がんリスクが軽減される可能性
 ビスホスホネート,特にリセドロン酸(日本商品名ベネット)の使用が大腸がんリスクの大幅軽減につながる可能性があると,カナダのグループが発表した。

 前臨床研究で,ビスホスホネートによる大腸がんへの直接的な抗腫瘍効果の可能性が示唆されている。同グループは,ビスホスホネート使用の大腸がん予防効果を検討した。

 マニトバ州のがん登録から2000〜09年に大腸がんと診断され,診断の5年以上前から同州に住んでいた患者を特定。症例と年齢,性,同州居住期間をマッチさせたコントロールを10例まで選択した。ビスホスホネートの使用の確認に薬剤情報データベースを用いた。受診状況,下部消化管内視鏡検査を含む医学的処置,社会経済状況などを調整した。

 解析対象は大腸がん患者5,425例,コントロール5万4,242例。多変量解析の結果,ビスホスホネートの使用は大腸がんのリスク低下と関係し,オッズ比(OR)は5年以上の期間におけるビスホスホネート処方回数2〜13回で0.84,14回以上では0.78であった。薬剤別の検討では,リセドロン酸だけが50%の有意なリスク低下を示した。

Medical Tribune 2012年3月15日

転移性肺がんに経皮的マイクロ波アブレーション
70%以上の腫瘍を完全に焼灼
 前立腺がん,乳がん,結腸直腸がんなど多くのがんが肺に転移する可能性があるが,転移性肺がんで外科切除を行えるのはごくわずかである。そこで最近では,経皮的マイクロ波アブレーションが外科切除に替わる方法として期待されている。ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学病院(フランクフルト)放射線診断・インターベンショナルラジオロジー研究所のThomas J. Vogl教授らは「130個の腫瘍に経皮的マイクロ波アブレーションを施行したところ,腫瘍の70%以上を完全に焼灼できた。特に,肺の末梢に発生した直径3cm以下の腫瘍で治療成績が良好であった」と発表している。

肺末梢の3cm以下の腫瘍に著効

 経皮的マイクロ波アブレーションは,CTで腫瘍の位置を確認しながら麻酔下で胸腔内に電極針を刺入して腫瘍に到達させ,直接腫瘍にマイクロ波を照射する方法で,約5〜10分の照射でがん細胞を破壊することができる。

 Vogl教授らは今回,その効果と安全性を検証すべく,結腸直腸がん,乳がん,気管支がん,腎細胞がん,肝細胞がんを原発巣とする転移性肺がん患者80例,腫瘍計130個を対象に経皮的マイクロ波アブレーションを施行。その結果,130個のうち95個(73%)を完全に焼灼できた。また,肺門付近ではなく,肺の末梢に発生した直径3cm以下の腫瘍で成功率が高いことが示された。腫瘍の組織学的所見と同療法の結果との間には,有意な相関は認められなかった。

 患者の1年生存率は91%,2年生存率は75%であった。同療法が無効だった患者と比べ,同療法により腫瘍が消失した患者の方が生存率は高かった。合併症については,130件中11件(8.5%)で気胸が生じ,うち1件では胸腔ドレナージが必要となった。また,8件(6.2%)で肺出血が認められたが,治療中と治療後60日以内に死亡した患者はいなかった。

 同教授らは,これらの結果を踏まえて「経皮的マイクロ波アブレーションは転移性肺がんに対して安全で有用な治療法だが,その成否は腫瘍の大きさや発生部位に左右される」と結論付けている。

Medical Tribune 2012年3月29日

座位時間増加で全死亡リスク上昇,身体活動時間に関係なく
 長時間に及ぶ座位は健康に悪影響を及ぼす?。オーストラリア・シドニー大学公衆衛生学のHidde P. van der Ploeg氏らが,同国の成人22万人超を対象に1日当たりの座位時間と全死亡リスクとの関連について検討したところ,座位時間が長くなるほど全死亡率の上昇が示されたが,この関連は身体活動時間には左右されなかったという。

45歳以上を平均2.8年追跡,死亡例5,000例超

 身体活動による健康効果は既に多くのエビデンスが報告されているが,座位時間の健康への直接的な影響についての検討は十分ではないという。そこで,van der Ploeg氏らはオーストラリア・サウスウェールズ州の45歳以上の一般男女を対象とした前向きコホート研究45 and Up Studyの登録データ(2006年2月1日〜08年11月30日)から,1日24時間当たりの座位時間などの回答が得られた22万2,497人を対象とした。

 1日当たりの座位時間を,0〜4時間未満(1,125人)を対照群として,4〜8時間未満(2,489人),8〜11時間未満(1,142人),11時間以上(649人)に4時間ごとで区切り,分類した。62万1,695人・年(平均2.8年)にわたり追跡した結果,5,405例の死亡が認められた。

座位時間分類1つ上がるごとに全死亡リスク11%上昇

 4つの座位時間分類による全死亡のハザード比(HR)の傾向を検討したところ,座位時間分類が1つ上がる(座位時間が長くなる)ごとに全死亡リスクが11%上昇することが分かった。座位時間の人口寄与割合は死亡率の6.9%に相当することが示唆された。

 今回の結果を受けて,van der Ploeg氏らは座位時間が長くなるほど全死亡リスクの上昇に関連することが認められたと結論付け,この関連が身体活動とは独立して示された点を強調。身体活動と座位時間では身体への影響が異なることを示唆するこれまでの研究について言及し,公衆衛生プログラムでは身体活動ばかりが推奨されているが,座位時間の減少も奨励すべきと訴えた。

Medical Tribune 2012年3月30日