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2012年12月 文献タイトル
がんのもと見つけ出せ 幹細胞の目印特定、京大
高齢の早期乳がん患者 乳房温存術後の放射線治療は有効
日焼けマシンの使用でメラノーマ発症リスクが上昇
がん既往者ではマルチビタミン使用でがん発症が減少
糖尿病治療薬メトホルミン使用の卵巣がん患者で5年生存率良好
思春期男子の筋力の弱さは若年死の危険因子
喫煙は女性の寿命を10年縮める 40歳前の禁煙で死亡リスクを90%超回避可
アスピリンの使用で肝細胞がんの発症と慢性肝疾患による死亡が減少

がんのもと見つけ出せ 幹細胞の目印特定、京大
 がんを生み出す「がん幹細胞」特定の目印となるタンパク質を見つけたと、京都大の千葉勉教授(消化器内科)のチームが12月2日付の米科学誌ネイチャージェネティクス電子版に発表した。

 治療をしても体内にがん幹細胞が残ると再発や転移が起きるため、がんを根絶やしにするにはこの幹細胞を見つけ、排除する必要がある。

 チームは、がん幹細胞を見分ける目印の発見は初めてとしており、目印を標的にがん幹細胞だけを攻撃することで、副作用のない抗がん剤の開発が期待できるという。

 チームによると、これまでに見つけられたがん幹細胞の目印となる物質は、正常な細胞を作り出す幹細胞にも含まれることが多い。このため目印を狙ってがん幹細胞を排除すると、正常な幹細胞も排除され、副作用が起きることになる。

 チームは、消化管の正常な幹細胞の目印と考えられていたタンパク質Dclk1に着目。大腸がんを発症させたマウスを調べ、Dclk1が含まれる細胞から長期間、がん細胞が生み出されていることを突き止めた。

 マウスの遺伝子を操作し、Dclk1がある細胞だけを排除した結果、副作用は起きず、大腸がんの組織を8割以上縮小したり消失させたりできた。膵臓や胃など他の部位のがんでも目印になる可能性が高いという。

m3.com 2012年12月3日

高齢の早期乳がん患者
乳房温存術後の放射線治療は有効
 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター放射線療法科のBenjamin Smith助教授らの研究グループは「乳房温存術を受けた高齢の早期乳がん患者の多くにとって,術後放射線治療は,その後の乳房切除術リスクの軽減に有効である」とする研究結果をCancer(2012; 118: 4642-4651)に発表した。

一般集団ベースで検討

 現行の米国の乳がん治療ガイドラインは,エストロゲン受容体陽性の早期乳がんと診断され,乳房温存術を受けた高齢患者に対してエストロゲン阻害薬による治療を推奨しており,術後放射線治療の推奨は行っていない。

 Smith助教授らは,一般集団ベース研究として米国立がん研究所(NCI)の監視疫学遠隔成績(SEER)登録から,2004年の試験の参加候補となっていれば登録基準を満たしていたであろうコホートをメディケア加入患者から抽出。1992〜2002年にエストロゲン受容体陽性早期乳がんと診断され,乳房温存術を受けた70〜79歳の患者7,403例を同定して,2007年まで追跡調査を行った。7,403例のうち88%が,乳房温存術後に放射線治療を受けた。

 治療後10年以内に放射線治療を受けなかった患者の6.3%が,がん再発のため乳房切除術を受けていた。一方,術後放射線治療を受けた患者で乳房切除術を受けた患者は3.2%だった。高悪性度腫瘍の患者の場合,年齢や腫瘍特性といった他の因子にかかわらず,放射線治療が極めて有用であった。

 また同助教授らは,放射線治療から得られる便益がなく,この治療レジメンを施行する必要のない患者集団も明らかにした。具体的には,リンパ節の評価が済んでいて,高悪性度腫瘍ではない75〜79歳の患者である。

Medical Tribune 2012年12月6日

日焼けマシンの使用でメラノーマ発症リスクが上昇
 国際予防研究所(仏)と欧州腫瘍学研究所(伊ミラノ)が行ったメタアナリシス(主任研究者:Mathieu Boniol博士)の結果,サンベッド(日焼けマシン)の使用とメラノーマ発症との間に関連が認められることが示され,詳細がBMJ(2012; 345: e4757)に発表された。

35歳未満の使用開始でリスク倍増

 日焼けは皮膚がん発症の最も大きな環境因子である。皮膚がんの発症は紫外線曝露と関連するが,日焼けマシンは紫外線曝露の主な人工的な因子となっている。

 2005年に行われた研究では,青年期または成人期早期に日焼けマシンの使用を開始することで,メラノーマリスクが75%上昇することが示されているが,西欧における日焼けマシン使用のメラノーマへの影響については,その後,検討されていなかった。

 そこでBoniol博士らは,1981年から2012年の間に英国,フランス,ドイツなどの西欧諸国と米国などで行われた皮膚がんと日焼けマシンの使用に関する27件の研究結果を検討した。対象としたメラノーマ発症例は計1万1,428件であった。

 その結果,日焼けマシン使用による皮膚がん発症の相対リスク統合値は1.20であった。35歳未満から日焼けマシンを使用している人では,リスクが87%に上昇した。また,日焼けマシンの使用が1年に1回増えるごとにリスクは1.8%上昇した。

厳しい規制を呼びかけ

 Boniol博士らは「日焼けマシンと関連するメラノーマなどの皮膚がんは,屋内での日焼けマシンの使用を避けることで予防できると考えられる。日焼けマシン関連業界は有効な自己規制を行わず,消費者の誤解を招くような情報を流している。皮膚がんの予防には厳しい措置を取るべきである。18歳未満の日焼けは禁止する,全ての日焼けサロンを当局の監視下に置くといった法律が必要である。このような規制は,オーストラリア,欧州の数カ国,米国のカリフォルニア州で既に施行されている」と述べている。

Medical Tribune 2012年12月6日

がん既往者ではマルチビタミン使用でがん発症が減少
 がん既往者のマルチビタミン使用は新たながんの発症抑制に有効であることを示すデータが,米ハーバード大学のグループによりJAMAの11月14日号に発表された。

 米国成人の3分の1以上がマルチビタミン製剤を使用しているが,がんの発症または死亡に関する観察研究のエビデンスは報告されていない。

 同グループは,Physicians’ Health StudyUに参加した50歳以上の男性医師1万4,641例を対象に,長期マルチビタミン使用が全てのがんおよび部位別がんの発症リスクを低下させるかどうかを検討した。


 参加者のうち1,312例はがん既往者だった。1次エンドポイントは非メラノーマ皮膚がんを除く全てのがん,2次エンドポイントは部位別がんの発症とした。

 中央値11.2年の追跡で2,669例にがん発症が確認され,うち前立腺がんは1,373例,大腸がんは210例だった。

 解析の結果,プラセボ群と比べマルチビタミン群は全てのがんの発症が有意に少なかった(18.3例対17.0例/1,000人年)。一方,マルチビタミンは前立腺がん,大腸がん,その他の部位のがんへの有意な効果はなく,がんによる死亡もプラセボ群と有意差はなかった。

 マルチビタミンによる全てのがんの発症減少はがん既往者でのみ有意で,非既往者では有意な効果は見られなかった。

Medical Tribune 2012年12月6日

糖尿病治療薬メトホルミン使用の卵巣がん患者で5年生存率良好
 卵巣がんは死亡率が高く,新薬の登場が切望されているが,その開発には長い年月と莫大な費用を要する。米メイヨー・クリニック医科大学のSanjeev Kumar氏らは,糖尿病治療薬のメトホルミンに注目。同クリニックで治療を受けた卵巣がん患者を対象とした症例対照研究を実施し,メトホルミン使用者は,糖尿病がないメトホルミン非使用者と比べ,5年生存率が有意に優れていたと発表した。(Cancer 2012年12月3日オンライン版)。

 Kumar氏らはメイヨー・クリニックを継続して受診中の入院・あるいは外来の卵巣がん患者の1995〜2010年のデータを調べ,糖尿病がありメトホルミンを服用していた患者1人に対し,年齢(±5歳),国際産科婦人科連合(FIGO)のステージ分類と残存病変が一致し,糖尿病がなくメトホルミン非服用の患者2人を対照として比較した。

 メトホルミンは使用1年以上を対象とした。使用期間の中央値は2.3年(1〜11年)で,卵巣がん診断時あるいは,診断後に500〜1,000mgを1日2回使用していた。

 解析の結果,メトホルミン群と対照群の疾患特異的5年生存率は73%対44%で,メトホルミン群の方が優れていた。

 Kumar氏らは,過去に行ったマウス実験で,メトホルミンが細胞分裂や細胞生存を効果的に阻害したり,抗腫瘍活性を示したりするデータを得ているという。今回の対象者は少数だが,メトホルミンと卵巣がんの予後についての研究中では最大規模であるとし,「卵巣がん患者においてメトホルミンの臨床試験を行う価値がある」と結論付けている。

Medical Tribune 2012年12月7日

思春期男子の筋力の弱さは若年死の危険因子
 思春期に筋力が弱かった男性は早死にする傾向があると,スウェーデンのグループがBMJの11月24日号に発表した。

 同グループは,16〜19歳の思春期男子114万2,599例を対象に登録時に膝の伸展力,握力,肘の屈曲力と収縮期および拡張期血圧,BMIを測定。中央値で24年間追跡し,55歳より前の若年死との関係を検討した。

 追跡中に確認された死亡は2万6,145例(2.3%)だった。死亡原因としては自殺が最も多く22.3%,次いでがん14.9%,心血管疾患7.8%の順だった。膝の伸展力と握力で評価した思春期の筋力の強さは,血圧やBMIとは独立して全死亡および心血管死のリスクの20〜35%低下と関係していたが,がんによる死亡減少との関連は見られなかった。

 また,思春期に筋力が強かった男性は自殺による死亡リスクが20〜30%低く,統合失調症や気分障害など精神疾患の診断が15〜65%少ない傾向が見られた。

 思春期の筋力が10段階の最低だった群と最高だった群の10万人年当たりの全死亡は122.3例対86.9例,自殺は24.6例対16.9例,心血管死は9.5例対5.6例だった。思春期の筋力の弱さの全死亡への影響は,BMIや血圧高値などの確立されている危険因子と同程度であった。

Medical Tribune 2012年12月13日

喫煙は女性の寿命を10年縮める
40歳前の禁煙で死亡リスクを90%超回避可
 オックスフォード大学のRichard Peto教授らが,英国の女性における喫煙の害と禁煙がもたらす便益に関して,過去最大規模の研究を行い,女性喫煙者は寿命が10年以上短くなるが,40歳以前,できればもっと若いうちに禁煙すれば,喫煙継続による死亡リスクの増加を90%超回避でき,30歳以前に禁煙すれば97%超回避できるとLancet(2012; オンライン版)に発表した。

40歳が分かれ目

 今回の研究はMillion Women Studyの結果に基づいており,1996〜2001年当時,50〜65歳だった女性130万例が研究に登録された。被験者はライフスタイル,医学的要因と社会的要因に関する質問票に回答し,3年後に再調査を受けた。被験者の死亡時には,英国保健サービス(NHS)中央登録所がPeto教授らにその死因とともに死亡通知を送った。最初の研究参加時からの追跡期間は平均12年で,これまでに約6万6,000例が死亡した。

 研究開始時には被験者の20%が喫煙者,28%が元喫煙者,52%が非喫煙者であった。3年後の再調査時にも喫煙者であった者では,その後9年以内に死亡する率が非喫煙者より約3倍(2.97倍)高かった。ただし,この間に禁煙した一部の者ではリスクはそれより低かった。

 約3倍というこの死亡率は,50歳代,60歳代,70歳代の喫煙者の全死亡の3分の2が喫煙によるものであることを意味している。喫煙者と非喫煙者との差の大部分は肺がんや慢性肺疾患,心疾患,脳卒中などの喫煙関連疾患によるものであった。喫煙者のリスクは喫煙量の増加に伴って急増したが,研究開始時に少量(1日1〜9本)だった喫煙者でも死亡率は非喫煙者の2倍であった。

過小評価していた女性への影響

 今回の知見は,喫煙の害も禁煙で得られる便益も以前の研究結果より大きいことが示されたという点で重要である。30歳以前で禁煙した者では早期死亡リスクの増加が97%超回避できる一方,40歳まで喫煙を続けた者では死亡リスクの増加がさらに数十年にわたって残り,40歳以降も喫煙を続けた者ではリスクが10倍高かった。

 Peto教授は「女性が男性のように喫煙すれば男性と同じように死亡するが,男女とも,中年期以前に禁煙すれば寿命が平均で10年取り戻せる」と述べ,「英国,米国とも,1940年前後に生まれた女性が成人後生涯にわたる大量喫煙者の第1世代だった。そのため,長期の喫煙と禁煙が女性の早死に及ぼす影響を直接観察できるようになったのは21世紀になってからである」と付け加えている。

Medical Tribune 2012年12月13日

アスピリンの使用で肝細胞がんの発症と慢性肝疾患による死亡が減少
 アスピリンの服用は肝細胞がん(HCC)の発症と慢性肝疾患(CLD)による死亡のリスクを低下させると,米国立がん研究所のグループがJournal of the National Cancer Instituteの12月5日号に発表した。

 非ステロイド抗炎症薬(NSAID)は慢性的な炎症や多くのがんのリスクを軽減させるが,HCCの発症またはCLDによる死亡への影響はこれまで検討されていない。

 同グループは,食事と健康に関する前向きコホート研究に登録した50〜71歳の男女30万504例のデータを解析し,アスピリンまたは非アスピリン系NSAIDの使用とHCC診断およびCLDによる死亡との関係を検討した。追跡中に250例がHCCと診断され,428例がHCC以外のCLDで死亡した。解析では年齢,性,人種・民族,喫煙と飲酒習慣,糖尿病,BMIを調整した。

 その結果,アスピリン使用群は非使用群と比べHCC発症リスクとCLDによる死亡リスクがともに有意に低かった。一方,非アスピリン系NSAID使用群は非使用群と比べCLDによる死亡リスクは低下を示したが,HCC発症リスクの低下は認められなかった。

Medical Tribune 2012年12月27日