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2012年10月 文献タイトル
日焼けサロンで非メラノーマ皮膚がんリスク上昇 12報を対象としたメタ解析
非糖尿病成人のHbA1c低値が死亡の予測マーカーに
腸閉塞に身近な打開策〜 コーヒー摂取で結腸手術後の排便が早期化 ドイツ研究
世界の成人と青少年の多くが運動不足 非感染性疾患の原因に
膵がん ビタミンCやセレンなどの豊富な食物の摂取でリスク低下の可能性
大腸がんのスクリーニング受診率アップに成功 電話案内と検査キットの郵送で
アスピリンの使用により限局性前立腺がん治療後のがん特異的死亡が有意に減少
夜間勤務者のがんリスク,男性では前立腺以外も カナダ・症例対照研究
マルチビタミンサプリメント摂取でがんがやや減少 男性医師1万5,000人の調査で有意差を確認

日焼けサロンで非メラノーマ皮膚がんリスク上昇
12報を対象としたメタ解析
 紫外線曝露と皮膚がん発症との関連など全く意に介さず,小麦色の肌にあこがれて,日焼けサロンを利用する若者たち。日焼けサロン利用と悪性黒色腫(メラノーマ)リスク上昇との有意な関連を示した系統的レビューは既に存在する(Int J Cancer 2007; 120: 1116-1122)が,非メラノーマ皮膚がん(NMSC;基底細胞がん,扁平上皮がん)については十分なエビデンスが得られていなかった。

 そこで,米スタンフォード大学のMackenzie R Wehner氏らは,日焼けサロンとNMSC発症との関連を検討した12報を対象にメタ解析を実施。「日焼けサロンの利用によりNMSC発症リスクは29〜67%上昇する。利用者を25歳未満に限ると,扁平上皮がんの発症リスクがさらに高くなる」とBMJ 2012年10月2日オンライン版で報告した。

 Wehner氏らは,PubMed,Embase,Web of Scienceの中から英語で発表された12報(公開年:1985〜2012年)を抽出し,ランダム効果モデルを用いたメタ解析により,日焼けサロン使用歴の有無による要約相対リスク(summary relative risk)を検討。併せて,若年期における利用経験の有無による影響についても検討した。

 Wehner氏は「今回のメタ解析から,日焼けサロンの利用は基底細胞がんと扁平細胞がんのリスクをともに有意に上昇させ,とりわけ25歳未満での利用で高リスクとなることが示された。日焼けサロンの害に関するエビデンスの集積に寄与するとともに,公衆衛生キャンペーンやなんらかの規制措置の検討を支持する解析結果である」と結んでいる。

Medical Tribune 2012年10月5日

非糖尿病成人のHbA1c低値が死亡の予測マーカーに
 非糖尿病成人のHbA1c低値は死亡の予測マーカーの1つになりうると,米コロラド大学のグループがDiabetes Careの10月号に発表した。

 同グループは,動脈硬化に関する前向きコホート研究の参加者1万3,288例を対象に,非糖尿病成人におけるHbA1c低値(5.0%未満)の予測因子,HbA1c低値と原因特異的死亡および肝疾患による入院リスクとの関係を検討した。

 その結果,HbA1c値正常群(5.0〜5.7%未満)と比べ、低値群は若年で喫煙が少なく,BMIと白血球数,フィブリノーゲンが低値で,高コレステロール血症の有病率が低く,冠動脈性心疾患歴が少なかった。

 一方でこの集団は貧血が多い傾向があり,平均赤血球容積が大きかった。

 HbA1c値正常群を参照とした補正Coxモデルでは,HbA1c値5.0%未満の低値群は全死亡とがんによる死亡リスクが高かった。

Medical Tribune 2012年10月11日

腸閉塞に身近な打開策〜 コーヒー摂取で結腸手術後の排便が早期化
ドイツ研究
 結腸手術後に見られる腸閉塞は,患者の食事摂取時期を遅らせるだけでなく,多くの治療を要し,入院期間を延長させるなど,医療保険の圧迫にもつながる。そのため,”fast-track programmes”と呼ばれる他科連携による予防策などが試みられている。

 しかし,ドイツ・ハイデルベルグ大学外科のS. A. Muller氏らは,日常的に飲まれているコーヒーを用いて結腸手術患者の腸の蠕動運動を促進させる研究を実施。入院中にコーヒーを1日3回摂取した術後患者では腸の蠕動運動が促進され,排便までの時間が飲料水摂取に比べて有意に短縮されていた(Br J Surg 2012; 99: 1530-1538)。

腸の活動度は高カロリー食と同程度

 胃の機能回復は,術後24〜38時間であるのに対し,結腸は48〜72時間を要する。

 健康人対象の先行研究では,飲料水の摂取に比べてレギュラーコーヒー,カフェイン抜きのコーヒー,食物などの摂取で結腸運動の促進が認められており,レギュラーコーヒー摂取後の活動度は高カロリー食と同程度であると結論された。

 結腸手術患者を対象とした同研究においても,レギュラーコーヒー摂取による結腸運動の促進が認められたわけだが,その作用機序は明らかでない。

 先行研究ではカフェイン抜きのコーヒーでも効果が認められたため,カフェイン以外のモル浸透圧濃度,容量負荷などが原因であると考えられた。しかし,コーヒーと水の物理的性質は類似していることから矛盾が生じる。

 作用機序の解明という課題は残るが,Muller氏らは結腸手術後のコーヒー摂取は術後の腸運動性を促進させる安くて安全な方法であるとしている。

Medical Tribune 2012年10月11日

世界の成人と青少年の多くが運動不足
非感染性疾患の原因に
 2009年にWHO(世界保健機関)は“身体的に不活発”であることを非感染性疾患の4番目の危険因子に挙げたが,ペロタス連邦大学(ブラジル)のPedro C. Hallal博士らの調査により,世界の成人の31%(約15億人)と青少年の80%が,推奨される量の身体活動を行っていないことが明らかになった。

 こうした人々では運動不足が心疾患や糖尿病,複数の種類のがんリスクを上昇させている。詳細はLancet(2012; 380: 247-257)に発表された。世界規模で人々の身体活動状況が推定されたのは今回が初めてで,この論文は同誌の身体活動シリーズの1編として掲載された。

女性で不活発の割合が高い

 Hallal博士らは今回,自己申告データに基づき,世界122カ国(世界人口の89%)の成人(15歳以上)と105カ国の青少年(13〜15歳未満)の身体活動度を調査。身体活動に関する標準化されたアンケートを用いて,余暇,家事,仕事,移動(自転車または徒歩による通勤など)を合わせた総合的身体活動度を評価した。

 今回の研究では(1)早足のウオーキングなど,運動強度が中等度の活動を1回30分以上,週5回以上(2)運動強度の高い活動を1回20分以上,週3回以上(3)総MET(Metabolic equivalent:運動強度指数)分/週が600を超える〜のいずれも満たさない場合を成人における「身体的に不活発」と定義した。

 解析の結果,世界の成人の31.1%が「身体的に不活発」であることが分かった。こうした運動不足とされる成人の割合は,東南アジアの17%から米国大陸と地中海東部の43%まで地域によって大幅に異なり,バングラデシュの5%からマルタの72%までと,国によっても大きく異なっていた。

 同博士は「ほとんどの国で年齢が高いほど不活発な人の割合が高く,男性より女性で高かった。また,この割合は高所得国ほど高かった」と説明。政策立案者に向け「非感染性疾患の予防策を講じる上で,こうした情報を役立ててもらいたい」と強調している。

Medical Tribune 2012年10月11日

膵がん ビタミンCやセレンなどの豊富な食物の摂取でリスク低下の可能性
 イーストアングリア大学(英ノリッジ)のAndrew R. Hart博士らは,抗酸化物質であるビタミンCとビタミンE,セレンを豊富に含む食物を摂取することで膵がん発症リスクが最大で3分の1まで低下する可能性があるとGut(2012; オンライン版)に発表した。

食事日誌を用いて摂取栄養価を検討

 膵がんはがんの中で最も予後が悪く,5年生存率は3%にすぎない。全世界では毎年25万人超が膵がんで死亡している。英国では毎年7,500人が膵がんと診断され,がん死の原因としては6番目に多い。Hart博士らは「家族歴,喫煙および2型糖尿病は膵がんの危険因子だが,食事による抗酸化物質の摂取も関連すると考えられている。国によって罹患率に大きな差がある理由の一部も抗酸化物質の摂取量の差で説明できる可能性がある」と述べている。

 同博士らは,1993〜97年に欧州プロスペクティブ調査・ノーフォークがん研究(EPIC)に登録した40〜74歳の2万3,658人を追跡調査した。

 研究への登録から10年以内に49人(55%は男性)が膵がんを発症し,2010年までには86人(44%は男性)が発症した。

 解析の結果,1週間当たりのセレン摂取量が少なかった最低四分位の者と比べて摂取量が多かった上位第3四分位の者では,膵がん発症リスクが約2分の1低かった。また,ビタミンCとE,セレンそれぞれを合わせた摂取量が少なかった最低四分位の者と比べて摂取量が多かった上位第3四分位の者では,膵がん発症リスクが67%低かった。

Medical Tribune 2012年10月18日

大腸がんのスクリーニング受診率アップに成功
電話案内と検査キットの郵送で
 カイザーパーマネンテ・コロラド臨床予防部のKarin L. Kempe博士らは,コロラド大学(CU,オーロラ)がんセンターと共同で大腸がん(CRC)のスクリーニング検査の受診を多くの人に促す取り組みを行い,「電話案内と検査キットの郵送によりCRCのスクリーニング受診率が著しく向上した」とAmerican Journal of Managed Care(2012; 18: 370-378)に発表した。

受診率が約4倍に

 CRCのスクリーニング検査は,早期発見による救命効果や,医療政策における費用効果が高い。そのため人口の高齢化に伴い健康保険関連予算が逼迫している全米各州にとって,いかに多くの人にスクリーニング検査を普及させるかが重要課題となっている。研究の背景情報によると,米国在住の50〜75歳人口のうち,推奨されるスクリーニング検査を受けたのは2010年の時点で65%にすぎなかった。

 今回の研究では,事前に案内の電話をした後に検査キットを郵送した集団では,こうした働きかけを行わなかった集団と比べCRCのスクリーニング受診率が約4倍となった。

 Kempe博士らは今回,カイザーパーマネンテの保険契約者のうち,平均的なCRCリスクを有する5万8,440例に対し,スクリーニングについての電話案内をした後に免疫化学的便潜血検査(Fecal immonochemical test;FIT)のキットを自宅に郵送した。被験者はその後,自宅で同検査を実施して検体を返送するか,保険事業者を通じて大腸内視鏡検査を受けるかを選択した。なお,全例とも過去1年間にCRCスクリーニング〔FITまたは便潜血検査(FOBT)〕を受けていないか,過去10年以内に大腸内視鏡検査を受けていなかった。

 その結果,高リスクでない人にスクリーニングを勧めることは困難であるにもかかわらず,被験者のうち2万6,003例がFITまたは大腸内視鏡検査を受けた。その中でも,特にプライマリケア医や専門外来を近年受診していなかった人では,スクリーニング受診率の上昇が顕著であった。この事実は,これまでスクリーニングの推奨に気付かなかった人や予防医療を受けたことがなかった人にも,今回の試みが浸透したことを示している。

 今回の試みによって初めてスクリーニングを受けた人は,その後,大腸内視鏡検査によるスクリーニングを受けるようになる傾向があり,Kempe博士は「今回の初受診がさらなるスクリーニングへの足がかりとなっていた」と強調している。

Medical Tribune 2012年10月18日

アスピリンの使用により限局性前立腺がん治療後のがん特異的死亡が有意に減少
 限局性前立腺がんの治療を受けた男性の抗凝固薬,特にアスピリンの使用は前立腺がん特異的死亡(PCSM)を有意に減少させると,米テキサス大学などのグループがJournal of Clinical Oncologyの10月1日号に発表した。

 実験研究で抗凝固薬ががんの増殖と転移を抑制する可能性が示唆されているが,臨床データは限られている。同グループは,抗凝固薬の使用が前立腺がんによる死亡リスクを低下させるかどうかを検討した。

 対象は,限局性前立腺がんに対し根治的前立腺全摘除術または放射線療法を受けた5,955例。そのうちワルファリン,クロピドグレル,エノキサパリンおよび(または)アスピリンを使用していた抗凝固薬使用群2,175例と非使用群3,780例との間でPCSMのリスクを比較した。

 追跡期間の中央値は70カ月だった。解析の結果,10年目のPCSM率は抗凝固薬非使用群の8%に対し,使用群では3%と有意に低かった。また,使用群では再発と骨転移のリスクも有意に低かった。臨床リスク別のサブグループ解析では,抗凝固薬によるPCSMの減少は高リスク群で最も顕著であった(10年死亡率:4%対19%)。

Medical Tribune 2012年10月18日

夜間勤務者のがんリスク,男性では前立腺以外も
カナダ・症例対照研究
 夜間に光を浴びるとメラトニンの上昇が抑制されてしまうが,それががんのリスクになり,既に報告されている前立腺以外のがんの発症とも関連することが,夜間勤務の男性を対象にカナダ・ケベック大学州立科学研究所(INRS)のMarie Parent氏らが行った症例対照研究で明らかになった(Am J Epidemiol 2012年10月3日オンライン版)。

11種類のがんで関連性を評価

 夜間に光に曝露されると,夜間にピーク濃度に達するはずのメラトニンの分泌が抑制されてしまう。メラトニンの抑制はヒトの概日リズム,生殖ホルモンなどを障害する他,がん発症に影響を及ぼすことが指摘されている。

 そのためParent氏らは,最低6カ月間夜間勤務に従事した男性(タクシー運転手,機関士,警備員,消防士,警察官,ライター,医師など)とがん発症の関連を検討した。

 症例群は,1979〜85年にカナダモントリオール州,ケベック州で就労していた男性のうち,がんが認められた3,173例(30〜70歳)。25.5%が1〜2時の夜間勤務を少なくとも6カ月間経験していた。

 内訳は,肺がん(761例),結腸がん(439例),膀胱がん(439例),前立腺がん(400例),直腸がん(236例),胃がん(228例),腎臓がん(158例),膵臓がん(94例),食道がん(91例),メラノーマ(94例),非ホジキンリンパ腫(197例)。

 また対照群は,年齢や居住区が症例群と同一でがんを発症していない一般男性512例とした。6カ月間の夜間勤務経験者はこのうち14.5%であった。

夜間勤務未経験者と比べてがんリスク2〜3倍高い

 解析の結果,夜間勤務は胃がん,食道がん,腎臓がん,メラノーマを除く7種類のがんリスクと有意に関連することが分かった。

 夜間勤務の未経験者と比べて,がんリスクの上昇が最も大きかったのは前立腺がんで,次いで,非ホジキンリンパ腫,膵臓がんの順であった。

 一方,夜間勤務の継続期間(5年未満,5〜10年未満,10年以上)や経験した時期(20年以内,21年以上前)に分けた評価では,がんリスクとの関連は認められなかった。

 これまでも夜間勤務と乳がん,前立腺がんの発症リスクは関連することが報告されていた。しかし,乳がん,前立腺がん以外のがんと夜間勤務の関連を証明した疫学研究としては新しい成果である,とParent氏らは述べている。

Medical Tribune 2012年10月18日

マルチビタミンサプリメント摂取でがんがやや減少
男性医師1万5,000人の調査で有意差を確認
 米ハーバード大学ブリガムアンドウイメンズ病院のJ. Michael Gaziano氏らは,マルチビタミンサプリメントのがん抑制効果について,男性医師約1万5,000人を対象とした大規模な試験(RCT)を実施。11年間追跡した結果,がんがわずかではあるが有意に減少していたことをJAMA 2012年10月17日オンライン版に発表した。

前立腺がん,大腸がんでは有意差見られず

 マルチビタミンは3人に1人が摂取している一般的なサプリメントでありながら,全がん,部位別のがんの発症率,死亡率への影響は分かっていない。

 試験には,肝硬変の既往や肝臓病,重篤な疾患を持たず,参加に同意した50歳以上の男性医師1万4,641人が登録され(平均年齢は64.3歳),7,317人が毎日のマルチビタミン使用に,7,324人がプラセボ使用にランダムに割り付けられた。1997〜2011年のがんの発症およびがん死亡を追跡し,追跡期間は中央値で11.2年だった。

 参加者のBMIは平均26.0,現在の喫煙率は3.6%と低く,過去の喫煙率は40.0%と高かった。ベースラインにおいて1,312人はがんの既往者だった。

 追跡中,前立腺がん1,373例,大腸がん210例を含む2,669例のがんが確認された。

 がん発症率(1,000人・年当たり,以下同)はマルチビタミン群で17.0,プラセボ群で18.3だった。マルチビタミン群で有意なリスク低下が認められた。

 全上皮細胞がんでも,マルチビタミン群で有意なリスク低下があった。しかし,がんの約半数を占めた前立腺がんの発症率はマルチビタミン群9.1,プラセボ群9.2で,両群間に有意差はなかった。大腸がんでも発症率がそれぞれ1.2と1.4で有意差はなかった。

Medical Tribune 2012年10月22日