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2012年1月 文献タイトル
アスピリンを除くNSAIDの長期使用 腎細胞がんリスク増加に関連
カロリー制限による延命効果 酸化を抑制する酵素が鍵に
糖尿病合併卵巣がん患者のメトホルミン使用で生存率が有意に改善
卵巣がんの一般医向け予測ツールを開発,2年間で63%が“的中”
米国がん協会ががん予防の新ガイドライン,日本との最大の違いは
ワインが健康に良いはウソか,米研究が“都市伝説”を暴く
2価HPVワクチンで肛門がんも予防 ランダム化比較試験の結果から
放射線治療後の口腔乾燥症 鍼治療で予防に可能性
日光曝露を避ける白人でビタミンD欠乏症リスクが上昇
喫煙や飲酒が肝細胞がんの重要な危険因子に
光線免疫療法(PIT)でがん細胞を破壊 マウスで画期的成果
〜前立腺がん予防〜サプリではリスクは低下しない小児がん生存小児は心疾患を発症しやすい
大気中のPM2.5が生涯非喫煙者の肺がんリスクと関係
乳がん 乳房温存術後の放射線療法で再発・死亡リスクが有意に低下

アスピリンを除くNSAIDの長期使用
腎細胞がんリスク増加に関連
 ハーバード大学内科のEunyoung Cho助教授らは,アスピリンを除く非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の長期使用が腎細胞がん(RCC)リスク増加に関連していることを発表した。
 
10年超でリスクは約3倍に

 研究の背景情報によると,腎がんは米国の男性では7番目,女性では9番目に多いがんである。腎がんの最も一般的な種類であるRCCは,全患者の85%を占める。一方,鎮痛薬は米国で最も使用されている薬剤群の1つで,がんから保護する作用を示すものもあるが,Cho助教授らは「主に症例対照研究で得られた多くの疫学的データでは,鎮痛薬の使用とRCCのリスク増加との関連性が示唆されている」と述べている。

 研究に登録された女性7万7,525例,男性4万9,403例のうち,333例がRCCを発症した。アスピリンおよびアセトアミノフェンの使用とRCCリスクとの間には関連性は見られなかった。一方,アスピリンを除くNSAIDの常用とRCCリスク増加との間には関連性が認められ,相対リスクが51%増加した。また,アスピリンを除くNSAIDの使用期間とRCCリスクとの間には用量反応関係が認められた。非常用と比べた相対リスクは,鎮痛薬の常用年数が4年未満の場合には19%減少し,4〜10年では36%増加し,10年を超えるとほぼ3倍であった。

 同助教授は「これらの大規模な女性と男性の前向き研究で,われわれはアスピリンを除くNSAIDの使用が,特に長期間服用していた人々の間でRCCリスク増加に関連していたことを見いだした。鎮痛薬を使うかどうかを決めるときには,リスクと効果を検討すべきだ。われわれの研究結果が追認されれば,RCCリスク増加も検討されるはずだ」と述べている。

Medical Tribune 2012年1月5日

カロリー制限による延命効果
酸化を抑制する酵素が鍵に
 カロリー制限により老化の進行が緩やかになり,がんや2型糖尿病などの加齢関連疾患の発症を遅らせることができる。この延命効果はカロリー制限の開始が早いほど高いという。イェーテボリ大学(スウェーデン)細胞・分子生物学部門のMikael Molin博士らは,加齢過程の重要な鍵となる酵素を特定した。
 
カロリー制限により酵素の不活化を防止

 Molin博士は「今回の研究では,カロリー制限によりペルオキシレドキシンという酵素の不活化が防止され,老化の進行が緩やかになることが示された。この酵素は,遺伝子産物の損傷を抑制する際にも非常に重要である」と述べている。

 同博士らは以前,糖分と蛋白質の摂取を徐々に減らすと,サルの寿命を予測寿命より数年延長できることを示した。この方法は魚,ラット,ハエ,真菌類,酵母菌などでも効果が得られている。また,カロリー制限はヒトにも有益で,加齢関連疾患の発症を遅延させることが知られている。しかし,カロリー制限がこうした効果を生み出す機序については分かっていなかった。

 Molin博士は「ペルオキシレドキシンの機能の障害は,さまざまな種類の遺伝子欠陥とがんを引き起こす。そのため,加齢プロセスにおいてペルオキシレドキシンの修復を促すことにより,がん発生の抑制や,少なくとも遅延が可能なのではないか」と推測している。

 ペルオキシレドキシンは,蛋白質の劣化と凝集を抑制することでも知られている。蛋白質の劣化・凝集のプロセスは,アルツハイマー病やパーキンソン病など,神経系に影響を及ぼす加齢関連疾患のいくつかと関連付けられている。

 同博士らは現在,ペルオキシレドキシンを刺激することにより,これらの疾患の進行を抑制・遅延できるか否かについても検討中である。

Medical Tribune 2012年1月5日

糖尿病合併卵巣がん患者のメトホルミン使用で生存率が有意に改善
 2型糖尿病のある卵巣がん患者のメトホルミン使用は生存率の有意な改善をもたらすと,米シカゴ大学のグループがObstetrics & Gynecologyの1月号に発表した。

 同グループは,2型糖尿病合併卵巣がん患者のメトホルミン使用と転帰との関係を後ろ向きに検討した。対象は国際産科婦人科連合(FIGO)のステージT〜Wの上皮性卵巣がん,卵管がん,腹膜がんの341例。主要エンドポイントは無増悪生存率および全生存率とした。

 341例中297例は糖尿病の合併はなく,28例がメトホルミン非使用の糖尿病患者,16例がメトホルミン使用の糖尿病患者だった。糖尿病合併群と非合併群の卵巣がんの治療に差はなかった。

 解析の結果,5年無増悪生存率は糖尿病非合併群の23%,メトホルミン非使用糖尿病群の8%に対し,メトホルミン使用糖尿病群では51%と有意に高かった。

 同様に,5年全生存率はそれぞれ37%,23%,63%で有意差が認められた。メトホルミン使用による無増悪生存率改善は病理所見を補正後も有意であった。

Medical Tribune 2012年1月12日

卵巣がんの一般医向け予測ツールを開発,2年間で63%が“的中”
 英ノッティンガム大学プライマリケア医学教授のJulia Hippisley-Cox氏らは,一般医向けの卵巣がんリスクを予測する簡易オンラインツールを開発した。同ツールで高リスクと判定された人では,その後2年間に63%が卵巣がんを発症した。

115万例超を2年追跡,8項目の予測因子を最終評価

 世界で毎年22万5,000人が新たに診断されるという卵巣がんは,その多くが5年生存率5〜20%というステージV〜Wで診断されることから,早期発見が課題になっている。そこで,Hippisley-Cox氏らは英国の大規模な患者データベースQReseachを基に,一般医向けの卵巣がん簡易予測ツールの開発および評価を行った。

 まず,同氏らは年齢30〜84歳,データ登録時(2000年1月1日〜10年9月30日)に卵巣がん未診断で,過去12カ月に卵巣がんの予測因子として知られる食欲不振,体重減少,腹痛,腹部膨満,直腸出血,閉経後出血が認められなかった女性115万8,723例(平均年齢51歳)をderivation群として,卵巣がん簡易診断ツールに採用すべき予測因子として17項目を評価した。

 同群を2年追跡した結果,976例で卵巣がんが発症した。17項目について補正後の卵巣がん発症ハザード比(HR)を求めたところ,年齢のほかに卵巣がんの家族歴〔家族歴なしに対するHR9.8(95%CI 5.4〜178)〕,過去12カ月のヘモグロビン11g/dL〔11g/dL以上に対するHR 2.3(同1.7〜2.9)〕など計8項目が有意な因子として検出されたため,これらを卵巣がん簡易予測ツールの最終評価対象とした(表)。

患者自身が入力し,かかりつけ医に見せることも可能

 同予測ツールで発症リスクが上位10パーセンタイルの者を高リスク群と定義したところ,新たに卵巣がんを発症した538例中340例が高リスク群であり,追跡2年間の卵巣がん発症率は63.2%と高い陽性率を示した。

 今回の結果を受けて,同氏らは「単純変数に基づいて開発した簡易予測ツールの高い精度が立証された」と結論。「一般医による卵巣がん高リスク者に対する確定診断につながる」と自信を見せている。

 なお,同簡易予測ツールはオンラインで一般公開されているため,患者自身が入力し,その結果をかかりつけ医に見せることで啓発効果もあるとしている。

※ 英国における1,300万例の匿名患者カルテが登録されたデータベース


Medical Tribune 2012年1月13日

米国がん協会ががん予防の新ガイドライン,日本との最大の違いは
 米国がん協会(ACS)が1月11日,がん予防のための栄養と身体活動に関するガイドラインの改訂版を発表した。5年ぶりの改訂が行われた同ガイドライン,タイトルからも推察可能だが,日本のがん予防ガイドラインでトップに挙げられているリスク因子が全ページを通してほとんど見られない。

 それは「たばこ」に関する項目だ。実際,同ガイドラインの序文は「たばこを吸うことがないほとんどの米国人にとって,最も重要ながんのリスク因子は体重,食事そして身体活動」との文章で始まっている。国民の3分の2が肥満ともいわれる米国では,糖尿病や心疾患同様,がんの予防においても肥満の防止が健康問題上大きな比重を占めるようだ。
 
生活の中で運動量増やすコツも「同僚に電話やメールを使わない」「歩数計」

 2010年の「日本人のためのがん予防法」(国立がん研究センターがん対策情報センター)では,エビデンスに基づく推奨として6つの項目が挙げられている。そのトップは「禁煙」で,「たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける」とされている。

 ACSは,喫煙者にとって「禁煙」が最も重要ながん予防策だとしながらも,同ガイドラインは「米国で大多数を占める非喫煙者に向け構成されている」とその位置付けを序言で説明している。同ガイドラインの個人レベルのがん予防に関する項目は,肥満防止,身体活動,食事,アルコール摂取制限の4つの柱で構成されている。

 肥満予防および身体活動については,成人期だけでなく,小児向けにも「週3日以上,各日少なくとも1時間は中等度〜強度の運動を行うこと」を推奨。ほかにも「生涯を通じて適正体重を保ちながら細身の体型を維持する」「いかなる年齢であっても,過剰な体重増加を起こさないようにする」などといった推奨も見られ,年齢にかかわらず,一貫した肥満の防止ががん予防につながることが強調されている。

 また,テクノロジーの進化により,日常生活での身体活動量が減少しているとして,11の「座っている時間を減らすためのコツ」も示されている。これは,肥満の有無にかかわらず,健康的な生活への意識を高めたい人にとって参考になりそうだ。

 * テレビやその他のスクリーンツールによる娯楽の視聴を少なくする

 * テレビを見ている間,エアロバイクやトレッドミルを使用する

 * エレベーターよりも階段を使用する

 * できれば目的地までは徒歩か自転車で向かう

 * 会社の同僚,家族あるいは友人と昼休みを使って運動をする

 * 仕事中に運動休憩を取り,ストレッチや速歩などを行う

 * 会社の同僚には電話やe-mailを使わず,直接訪ねて用を済ませる

 * 配偶者や友人とダンスに出かける

 * 休暇には,乗り物の移動だけの旅行よりも活動的な内容を含める

 * 歩数計を毎日装着し,1日の歩数を増やす

 * スポーツチームに参加する

Medical Tribune 2012年1月16日

ワインが健康に良いはウソか,米研究が“都市伝説”を暴く
 酒にまつわる怪しい都市伝説は多い。その1つが,ワインは他のアルコール飲料より健康に良いというものだ。実際のところどうなのだろう。米テキサス大学のCharles Holahan氏らが発表した論文によると,どうもこの都市伝説はウソらしい。

「フレンチパラドックス」が生んだワインの都市伝説

 フランス人が肉や乳製品を中心とした高脂肪な食生活を送っているにもかかわらず,心疾患などの生活習慣病に罹患する率が低いという「フレンチパラドックス」を説明する理由として,フランス人はよくワインを飲むからだといわれた時期が1990年代にあった。おそらくこのころから,健康に良いというワインの都市伝説が生まれたのだろうが,既に「フレンチパラドックス」自体が否定されている現在でも,ワインに特別な効能を期待する向きは多い。

 Holahan氏らは,55〜65歳までの男女802人を,飲酒習慣によって3つのグループに分けた。内訳は,全く飲酒をしないグループ(345人),ワインを主に(飲酒量の3分の2以上)適度に(1日1〜2杯程度)飲酒するグループ(176人),ワインはほとんど飲まない(飲酒量の3分の1以下)が他のアルコールは適度に飲むグループ(281人)の3群。その後の寿命を,20年にわたり追跡調査した。

ワイン好きが長生きなのはワインのせいではない

 その結果,飲酒群は非飲酒群より有意に長生きしたが,主にワインを飲む群とワインはあまり飲まない群では,寿命に有意な差が見いだせなかった。

 解析を行った当初は,主にワインを飲むか飲まないかだけで単純に両者を比較した場合,後者は前者より死亡率が1.85倍も高かった。しかし,ワインをあまり飲まない群は,より高齢で,男性の比率,健康に問題を抱える人の割合,喫煙率がすべて高く,社会経済的な地位も低い上,積極的な運動もしないという傾向が認められたため,それらの要因で補正したところ,両者の間の差がなくなってしまったという。

 つまり,主にワインを飲む人がワインをあまり飲まない人より長生きしたのは,ワイン自体のせいではなかったというわけだ。

 ワイン信奉者には少し気の毒な研究結果ではあるが,アルコールを適度にたしなむ人は,全く飲まない人より長生きできることは実証されたようなので,それで良いのではないだろうか。

Medical Tribune 2012年1月18日

2価HPVワクチンで肛門がんも予防 ランダム化比較試験の結果から
 米国立衛生研究所(NIH)の一部である米国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部のAim〜e R. Kreimer博士らは,ランダム化比較試験の結果から,子宮頸がんの予防を目的とした若年女性への2価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(サーバリックス〜,GlaxoSmithKline社)のルーチン接種が,HPV感染による肛門がんの予防にも有効であると発表した。この予防効果は,ウイルス曝露前にワクチンを接種した場合,特に高かったという。今回の知見は,HPVワクチンのルーチン接種により,多くの女性で肛門がんを予防できる可能性を示している。
 
HPVワクチン接種で肛門感染が62%低下

 肛門がんは,一般的にはまれながんであるが,欧米数カ国を含む多くの国々では,ここ数十年で発症率が約2倍に上昇している。発症率には性差が見られ,女性では男性の2倍に上る。

 肛門がんの原因の多くはHPV感染であるが,特に高リスク型ウイルスであるHPV16,18型感染が75〜80%と大半を占めている。そのため,子宮頸がん予防に用いられているHPV16,18型を標的とした2価ワクチンは,HPV感染に起因する肛門がんの予防にも有効なのではないかと考えられていた。

 今回の研究では,中米コスタリカ共和国の若年女性を対象に,二重盲検ランダム化比較試験を実施し,2価ワクチンによる肛門HPV16,18型感染の抑制効果を評価した。対象は,18〜25歳の健康女性4,210例で,2価ワクチン接種群とA型肝炎ワクチンを接種する対照群に,1対1の割合でランダムに割り付けた。ワクチン接種は登録時,1カ月後,6カ月後の計3回実施し,接種から4年後に肛門と子宮頸部のHPV16,18型の感染率を検討した。

 その結果,全例を対象とした解析では,ワクチン接種前のHPV感染歴の有無にかかわらず,HPVワクチン接種群では対照群に比べて肛門HPV感染率が62.0%,子宮頸部HPV感染率が76.4%低下した。また,ワクチン接種前にHPVへの曝露がないと推定された女性に限定して解析したところ,ワクチン接種群では対照群に比べて,肛門HPV感染率が83.6%,子宮頸部HPV感染率が87.9%低かった。

HPV16,18型以外のウイルス感染予防にも有効か

 今回の研究では,HPV16,18型を標的とした2価ワクチンの接種により,他のがんの起因ウイルスとなるHPV31,33,45型の外陰感染に対しても,交叉防御による効果が得られることも初めて示された。ただし,HPV33型に対する効果は有意ではなかった。これにより,同ワクチンには含まれないHPV型に対しても予防効果が得られることが分かった。

 以上から,Kreimer博士は「予防効果の持続期間が十分長いと仮定すると,HPVワクチンを接種することで,非常に多くの女性で肛門や他の部位でもHPVに関連したがんを予防できる可能性が示唆された。これまで,女性ではHPV16,18型の子宮頸部,腟,外陰部感染に対する同ワクチンの有効性が報告されているが,今回これに肛門が加わることになった」と指摘。さらに「今回のデータは,ウイルス曝露前にHPVワクチン接種を受けた女性では,今後,肛門がんの発症率が低下していく可能性も示唆される」と結論付けている。

Medical Tribune 2012年1月19日

放射線治療後の口腔乾燥症 鍼治療で予防に可能性
 テキサス大学一般腫瘍学・行動科学部のLorenzo Cohen教授らと復旦大学上海がんセンター(中国・上海)統合腫瘍学部のZhiqiang Meng副部長らは「放射線治療と並行して鍼治療を行うことにより,頭頸部の放射線治療に伴う口腔乾燥症を予防できる可能性がある」と発表した。
 
QOLを損なう口腔乾燥症

 今回の研究は,口腔乾燥症に対する鍼治療の予防効果を検討した初めてのランダム化比較試験である。

 唾液分泌の低下を特徴とする口腔乾燥症,すなわち重度のドライマウスは,頭頸部がんの放射線治療を受けている患者に発生しやすい。口腔乾燥症を発症すると摂食,発話,睡眠が困難となる上,経口感染リスクも増大する。このように,同症により患者のQOLが低下するにもかかわらず,現在の治療法の多くは,症状を一時的に緩和するだけで,限定的な便益しかもたらさない。

 研究主任のCohen教授によると,口腔乾燥症発症後における鍼治療の便益を調べた小規模研究はいくつかあったが,同症の予防効果については検討されたことがなかった。今回の研究により,放射線療法に鍼治療を組み込むことで,同症の発症率と重症度を低減できることが初めて明らかになった。

 同教授らは今回,復旦大学上海がんセンターで治療を受けた鼻咽頭がん患者86例を,鍼治療群(40例)と標準治療群(46例)にランダムに割り付けた。鍼治療群は7週間の放射線治療中,週3回の鍼治療を受けた。放射線治療の前,治療中の毎週,および治療終了から1カ月後と6カ月後に患者を評価した。

早期から効果認められる

 その結果,口腔乾燥症の発症,QOLに影響を及ぼしうる他のがん関連症状の発現,さらに唾液分泌量において,放射線治療開始後3週間という早期から群間差が認められた。

 唾液分泌量も対照群と比べ鍼治療群で多く,群間差は放射線治療開始後3週間から認められ,6カ月後まで持続した。

 Cohen教授は,慢性のドライマウスについて「軽視されがちだが,睡眠,摂食,発話に重大な影響を及ぼすため,QOLの面から極めて重要である。唾液がないと,微生物の増殖,骨感染の可能性と不可逆性の栄養不良が増加しうる」と説明している。

 さらに,「鍼治療による口腔乾燥症予防の機序を解明するために,さらなる研究が必要である。今回の研究では検討していないが,鍼治療により局所血流が改善し,それを介して特に耳下腺に影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

Medical Tribune 2012年1月19日

日光曝露を避ける白人でビタミンD欠乏症リスクが上昇
 カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科学のJean Y. Tang,Eleni Linosの両助教授らは,約6,000人の米国住民を対象に行った横断研究から,日光曝露を避ける白人では,そうした行動を取らない人に比べてビタミンD欠乏症を発症するリスクが2倍であるとの結果を発表した。

 日焼け止めの使用は血中ビタミンD濃度に有意な影響を及ぼさなかったが,Tang助教授らは,その使用頻度や使用量が十分でなかったことが原因と推測している。
 
NHANES参加者データを解析

 この研究は,日光曝露によるリスクと,骨粗鬆症やくる病といった骨疾患を予防するためのビタミンDレベルのバランスをどのように考えるべきかという議論をますます活発化させるものである。筆頭研究者のLinos助教授は「これは全員が日焼け止めを塗るべきとするような簡単な問題ではない。個人の肌の色やライフスタイルに合わせて推奨内容を変える必要がある可能性もあり,極めて複雑な問題だ」と指摘している。

 ビタミンDは皮膚の紫外線曝露によって生成され,欠乏すると骨の脆弱化やくる病を引き起こし,がんを含む多くの慢性疾患の原因になりうる。少量であれば,ビタミンDを強化した牛乳や朝食シリアル,脂の多い魚(サケ,マグロ,サバなど),栄養補助食品から摂取できる。ビタミンD欠乏症の患者数は,米国人口の30〜40%と考えられている。

Medical Tribune 2012年1月19日

喫煙や飲酒が肝細胞がんの重要な危険因子に
 B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)への感染が肝細胞がん(HCC)の重大な危険因子であることは周知の事実だが,喫煙や肥満,大量飲酒なども危険因子として知られている。HCCにおける危険因子を詳細に検討した2件の研究が発表され,肝炎ウイルス以外の危険因子の重要性が浮き彫りになった。
 
HCC患者の約半数が喫煙と関連

 B型肝炎やC型肝炎とHCCとの因果関係は数十年前から知られているが,喫煙や肥満,飲酒の相対的リスクは肝炎ウイルスより低いとはいえ,HCC発症に寄与する一般的な危険因子とされる。欧州では肝炎ウイルス保有者よりも喫煙者でHCC患者が多いが,これまでの研究では,発症に対する個々の危険因子の寄与度は詳細に検討されていなかった。

 ハーバード大学公衆衛生学のDimitrios Trichopoulos教授らは,European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)研究のデータを用いて,HCC患者115例と対照群229例を比較検討した。EPIC研究では,欧州数カ国において,がんなどの疾患における生物学的因子,食事やライフスタイル,環境因子の役割が検討されている。

 その結果,HCC患者では47.6%が喫煙,16.1%が肥満,HCVは20.9%,HBVは13.2%,さらに10.2%が大量飲酒と関連していることを見いだした。

 この結果について,同教授らは「最も致死率の高いがんの1種であるHCCに対して,一般的に広く知られた危険因子の是正による一次予防が可能なことが明らかになった」と結論。「HBVやHCVの慢性的な感染はHCCの最大の危険因子であるが,喫煙は一般人口において,HBVやHCV感染よりもHCCの原因となるケースが多い」と述べている。

Medical Tribune 2012年1月26日

光線免疫療法(PIT)でがん細胞を破壊 マウスで画期的成果
 米国立衛生研究所(NIH)の所属機関である米国立がん研究所(NCI)の,小林久隆チーフ率いる分子イメージングプログラムラボのグループが,画期的ながん治療法を開発した。

 がん細胞の表面に特異的に結合するヒト型モノクローナル抗体と光感受性物質の複合体を投与し,近赤外線を照射するという手法で,照射とほぼ同時にがん細胞の99%が破壊される。光線免疫療法(photoimmunotherapy;PIT)と名付けられたこの治療法で,ヒトがん細胞を移植したヌードマウスの多くが完治する結果が得られた。

 PITの開発に着手したのは約3年前。上記の実験は肺がんや乳がんの肺転移を想定して行われたものだが,ほかにも多様な治療方法の組み合わせで何群ものマウスの観察を進めており,1年以上生存して天寿を全うしたマウスも多数に上るという。

「in vitro(試験管内)で確認されたように,1回の近赤外線照射でがん細胞の99%が死ぬが,1%は残存する。この残存がん細胞を2回,3回の照射で完全にたたくことができると考えている。近赤外線は繰り返し照射しても生体に無害であり,薬剤mAb-IR700は初回投与後,結合せずに循環しているものが残存がん細胞にまた集まってくる。したがって薬剤の繰り返し投与は必ずしも必要ない」

Medical Tribune 2012年1月26日

〜前立腺がん予防〜
サプリではリスクは低下しない
 EuroMedClinic(独)のBernd J. Schmitz-Drger博士らの,前立腺がん予防に関する最近の研究結果についての報告によると,特定のビタミンサプリメントや微量元素による前立腺がんリスクの低下は確認されなかったという。ただし,食事が前立腺がんリスクに影響を及ぼすことに変わりはないようだ。
 
プラセボと発がん率に差がない

 前立腺がん予防に関するいくつかの先行研究とメタアナリシスから,ビタミンC,ビタミンB12,葉酸は前立腺がんの発生に影響を及ぼさないことが示されている。また,50歳以上の男性3万5,000人以上を対象としたSELECT(Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial)ではセレンとビタミンEの前立腺がん予防効果を検証するため,被験者を(1)セレン(200μg/日)投与群(2)ビタミンE(400IU/日)投与群(3)セレン+ビタミンE併用群(4)プラセボ群〜の4群に割り付けて5年半投与。その後,1年半の観察を行ったが,4群の前立腺がん発生率に有意差は認められなかった。

 Schmitz-Dr〜ger博士らは,「喫煙者ではビタミンEの恩恵を受ける可能性もあると考えられるが,同試験のサブグループ解析はまだ行われていない」と述べている。

 そのほか,トマトに含まれるリコピンも前立腺がんリスクを低下させると考えられているが,最近の症例対照研究では,リコピンの血中濃度と前立腺がんとの関連性は確認されていない。ただし,同博士らは「この結果は,トマトやトマト加工品の摂取が前立腺がん予防に有益である可能性を全面的に否定するものではない」と指摘している。

 実際,こうした特定の物質の有効性が確認されなくても,食事が前立腺がんリスクに影響を及ぼすことに変わりはない。特にアジアや地中海の食事は良いとされ,これには大豆に含まれるフィトエストロゲンやトマトがリスク低下に一役買っていると考えられる。その一方で,乳製品の多量摂取が前立腺がんリスクを上昇させる可能性が示唆され,乳製品に含まれるカルシウムがその原因とされている。

 同博士は「こうした点を踏まえた健康な食生活に加え,禁煙や十分な身体活動が前立腺がん予防に有益であることは間違いない」と強調している。

Medical Tribune 2012年1月26日

大気中のPM2.5が生涯非喫煙者の肺がんリスクと関係
 大気中の直径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)が生涯にわたる非喫煙者の肺がんによる死亡の増加に関係している可能性があると,カナダのグループが発表した。

 同グループは,米国がん学会が1982〜2008年に実施したがん予防研究Uの参加者120万例のうち,生涯非喫煙者18万8,699例のPM2.5による大気汚染への曝露と肺がんによる死亡との関係を検討した。

 26年間の追跡による肺がん死は1,100例で,PM2.5濃度の10μg/m3増加は肺がん死の15〜27%増加と関係していた。PM2.5と肺がん死の関係は,登録時にBMI正常で慢性肺疾患歴のある参加者で強かった。

Medical Tribune 2012年1月26日

乳がん 乳房温存術後の放射線療法で再発・死亡リスクが有意に低下
 Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)は,早期乳がん患者約1万例のデータを用いたメタアナリシスの結果から,乳房温存術後に放射線療法を施行した患者では,非施行の患者に比べて10年以内の再発率が半減し,また15年以内の乳がん死亡率も6分の1低下することを発表した。
 
約1万例の患者データを解析

 EBCTCGは今回,早期乳がん患者を対象に,乳房温存術後の放射線療法施行の有無で予後を検討した17件のランダム化比較試験(RCT)から1万801例の患者データを用いてメタアナリシスを実施した。対象とした試験の平均追跡期間は10年で,このトピックスを扱った研究としては過去最大規模であるという。

 解析の結果,乳房温存術後に放射線療法を施行した患者群では,治療1年後から明らかな再発率の低下が認められ,その効果は10年後も維持されていた。乳がんの診断から10年後までの再発率は,放射線療法非施行群の35.0%に対し,施行群では19.3%と有意に低かった。

 また,放射線療法施行の有無によって死亡率に差が生じるまでにはより長期間を要したものの,診断から15年後までの乳がん死亡率は,放射線療法非施行群の25.2%に対し,施行群では21.4%と有意に低かった。なお,リンパ節転移の陰性例7,287例と陽性例1,050例では,ともに同様のリスク低下が認められた。

 さらに,放射線療法施行による乳がん以外の死亡リスクの増大は見られないことから,放射線療法による15年後の死亡リスクの低下は,乳がん死亡率の低下が寄与していると考えられた。

 同グループは「乳房温存術後の放射線療法は,再発リスクを大幅に低減させるだけでなく,乳がん死亡リスクも抑制することが分かった。この結果は,放射線照射により温存乳房中の残存微小腫瘍を死滅させることで,局所再発と遠隔転移のいずれも低減できる可能性を示唆している」と述べている。

Medical Tribune 2012年1月26日