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2011年8月 文献タイトル
低線量CTによる検診でヘビースモーカーの肺がん死亡率が20%低下
女性の高身長ががんリスクと関係
乳がん死亡率の低下にマンモグラフィ検診普及は関係していない可能性
米の大腸がん罹患率・死亡率は低下傾向に 検診受診率の向上が課題
HDL-Cが結腸がんリスクを低減
前立腺がん診断時に喫煙していた男性で死亡リスク高い
東京医科歯科大・湯浅保仁氏ら 世界初の未分化型胃がんモデルマウス作製に成功

低線量CTによる検診でヘビースモーカーの肺がん死亡率が20%低下
 胸部X線撮影による検診と比べ,低線量CTによる検診を受けたヘビースモーカーの肺がん死亡率は20%低いことを示す米国立がん研究所の「全米肺検診試験(NLST)」の結果が,発表された。

 低線量ヘリカルCTを用いた肺がん検診により,多くのがんが早期の段階で検出されることが示されている。NLSTでは,低線量CTによる検診が肺がん死亡率の低下につながるかどうかが検討された。

 対象は,2002年8月〜04年4月に33施設に登録された肺がんリスクの高い55〜74歳の現および元ヘビースモーカー5万3,454例。低線量CT群に2万6,722例,胸部X線群に2万6,732例をランダムに割り付け,年1回の検診を3年間実施して2009年までに発症した肺がんと肺がんによる死亡のデータを収集した。

 受検率は90%を上回った。3回の検診を合わせた陽性率は低線量CT群が24.2%,胸部X線群が6.9%だったが,陽性例のうち低線量CT群の96.4%と胸部X線群の94.5%が結果的に偽陽性であった。

 10万人年当たりの肺がん発症率は低線量CT群が645例(がんの数1,060),胸部X線群が572例(同941)だった。10万人年当たりの肺がんによる死亡は低線量CT群247例,胸部X線群309例で,低線量CT群で肺がん死亡率が20%低かった。また,低線量CT群は胸部X線群と比べ全死亡率も6.7%低かった。

Medical Tribune 2011年8月18日

女性の高身長ががんリスクと関係
 身長が高い女性はがんのリスクが高いとするデータが,英国のグループにより発表された。

 疫学研究で高身長とがんとの関係が示唆されているが,身長に関連するリスクががんの部位または喫煙や社会経済状態など他の因子によって異なるかどうかは明らかではない。同グループは,1996?2001年に身長とがんの危険因子に関する情報を収集した中年女性を追跡し,すべてのがんおよび17の特定のがんと身長との関係,さらに可能性のある交絡因子や修飾因子との関係を検討した。

 解析対象は129万7,124例。中央値9.4年(1,170万人年)の追跡で,9万7,376例ががんを発症した。解析の結果,身長10cm増加当たりのすべてのがん発症相対リスク(RR)は1.16と有意に高かった。

 今回の研究と他の10件の前向き研究を統合したメタ解析では,すべてのがんの身長と関連するがん発症相対リスクは欧州,北米,オーストラリア,アジアでほとんど変わらなかった。

Medical Tribune 2011年8月18日

乳がん死亡率の低下にマンモグラフィ検診普及は関係していない可能性
 乳がん死亡率の低下にマンモグラフィ検診の普及は直接関係していないことを示唆するデータが,欧州の共同研究グループにより発表された。

 同グループは,マンモグラフィ検診の普及が乳がんの死亡率にどのような影響を及ぼしているかを,検診の普及時期が異なる欧州の隣接する2国間3組のペアで後ろ向きに解析した。ペアになったのは英国北アイルランドとアイルランド共和国,オランダとベルギー(国全体とオランダと隣接するフランダース地方),スウェーデンとノルウェー。

 解析の結果,マンモグラフィ検診普及前の1989年から普及後の2006年までの乳がん死亡率は,いずれの国でも低下していた。低下率は北アイルランドが29%,アイルランド共和国が26%,オランダが25%,ベルギー全体が20%,フランダース地方が25%,スウェーデンが16%,ノルウェーが24%だった。

 各国のマンモグラフィ検診普及時期に開きがあったにもかかわらず,乳がん死亡率が下方に変化した年度は北アイルランドとアイルランド共和国,オランダとフランダース地方の間でほぼ同じであった。一方,スウェーデンでは1972年から乳がん死亡率の低下が続いており,2006年まで明らかな下方への変化は見られなかった。

 ペアとなった国の医療提供レベルや乳がんによる死亡の危険因子に差はなかった。

 今回の解析結果を踏まえ,同グループは「マンモグラフィ検診は乳がんによる死亡の減少には直接かかわっていないことが示唆された」としている。

Medical Tribune 2011年8月25日

米の大腸がん罹患率・死亡率は低下傾向に
検診受診率の向上が課題
 大腸がんは,米国における死亡原因の2位を占める疾患だが,より多くの人が検診を受けることで,その順位を下げることができそうだ。米疾患対策センター(CDC)の最新報告によると,大腸がんの罹患率や死亡率は低下していることが明らかとなった。

死亡数は3万2,000人減少

 報告書によると,大腸がんの新規発症率は,2003年には人口10万人当たり52.3人だったが,2007年には同45.5人に低下した。これは,がん患者が約6万6,000人減少したことを示している。

 同がんの死亡率は,2003年には人口10万人当たり19.0人だったのが,2007年には同16.7人に低下し,死亡者数はおよそ3万2,000人減少した。

 大腸がんに要する直接医療費は,2010年には140億ドルと試算されている。また,2006年の大腸がんの死亡による生産性損失額は153億ドルで,死亡患者1人当たりでは28万8,468ドルと推計された。

 同がんの検診受診率は,2002年の52%から,2010年には65%に向上したものの,なお50〜75歳の3人に1人が最新の推奨に従った検診を受けていなかった。

 CDCのThomas R. Frieden所長は「大腸がんは予防が可能で,われわれは多くの人に検診を受けてもらうためのプログラムを推進している。検診を受けた人は,健康で豊かな人生をより長く送ることができる。それに加え大腸がんに要する医療費を抑制できるので,一石二鳥である」と述べている。

検診率高い州で死亡率低下

 大腸がん患者は50歳になったら男女を問わず検診を受け始めることが推奨されている。その検診とは(1)毎年,家庭での便潜血検査(2)5年ごとの軟性S状結腸鏡検査と3年ごとの便潜血検査(3)10年ごとの大腸内視鏡検査?の1種類あるいは複数を組み合わせて受けることである。

 この報告書では,2002〜10年のCDC行動危険因子サーベイランスシステム(BRFSS)の州単位のデータを用いて,50〜75歳人口における大腸がんの検診受診率を検討した。

 主な結果は次の通り。

 (1)大腸がんの死亡率は49州とワシントンで低下し,2003〜07年に特に検診受診率が高かった州で,死亡率が大幅に低下。同期間の全米の死亡率は年間3%低下した

 (2)2007年に大腸がんの死亡率が最も高かったのはワシントンで,人口10万人当たり21.1人だった。一方,最も低かったのはユタ州で,同12.3人だった

 (3)2003〜07年における大腸がんの罹患率は35州で有意に低下した。人口10万人当たりの罹患率が高いのはノースダコタ州(10万人当たり56.9人)で,最も低いのはユタ州(同34.3人)だった

Medical Tribune 2011年8月25日

HDL-Cが結腸がんリスクを低減
 オランダ国立公衆衛生環境研究所のH. Bas Bueno-De-Mesquita博士らは,高HDLコレステロール(HDL-C)には結腸がんリスクを低減させる効果があり,この関連はがんの誘発と関連する血中炎症マーカーとは独立したものであると発表した。

直腸がんリスクは低減しない

 今回の知見は,英国やフランス,ドイツなど欧州10カ国の50万人超を対象に,がんの発症に及ぼす食事の影響を長期的に追跡した「がんと栄養に関する欧州前向き調査(EPIC)」から得られた。

 EPICへの登録後に発症が確認された結腸がんは779例,直腸がんは459例であった。今回の調査ではこれら計1,238例に対して年齢,性,国籍をマッチさせた対照群(1,238例)をEPIC参加者から抽出し,コホート内症例対照研究を行った。研究では両群について,EPIC参加時に採血された血液サンプルと食事に関するアンケート結果を比較分析した。

 その結果,HDL-C値とアポリポ蛋白A-T(apoA)値が最も高い群で結腸がんリスクが最も低かった。また,食事,ライフスタイル,体重で調整した結果,結腸がんリスクは,HDL-C値が16.6mg/dL増加するごとに22%,apoA値が32.0mg/dL増加するごとに18%低下したが,HDL-C値とapoA値による直腸がんリスクへの影響は認められなかった。

Medical Tribune 2011年8月25日

前立腺がん診断時に喫煙していた男性で死亡リスク高い
 ハーバード大学公衆衛生学部のStacey A. Kenfield博士らは「前立腺がん診断時に喫煙していた男性では全死亡,心血管死,前立腺がん特異的死亡リスク,前立腺がん再発リスクが高い」との研究結果を発表した。

10年禁煙で非喫煙者と同等に

 Kenfield博士らは,Health Professionals Follow-Up Studyの登録者のうち1986〜2006年に前立腺がんと診断された男性5,366例を対象に紙巻きたばこの喫煙と禁煙の実行,全死亡,前立腺がん特異的死亡,心血管死,前立腺がんの生化学的再発との関連を検討する研究を実施した。

 対象者のうち計1,630例が死亡し,うち524例(32%)が前立腺がん死,416例(26%)が心血管死であった。生化学的再発を来したのは878例(54%)であった。解析の結果,診断時に喫煙していた男性では喫煙歴が全くない男性と比べ前立腺がん死,心血管疾患死,全死亡,生化学的再発リスクのいずれも高かった。総喫煙量(pack-years)の多さは,前立腺がん死,心血管死,全死亡の増大と相関していたが,生化学的再発とは相関していなかった。一方,10年以上禁煙を続けていた男性の前立腺がん死リスクは,喫煙歴が全くない男性と同等であった。

因果関係には複数の説

 Kenfield博士は「たばこの煙に含まれる発がん物質による腫瘍促進や,一部の喫煙者における血中総テストステロン値と遊離テストステロン値の上昇など,前立腺がんの進行に対する喫煙の直接的影響は生物学的に説明できそうである。また,用量依存的な関係や,現在の喫煙者におけるDNAの異常なメチル化(悪性疾患と相関する因子)などの後成的変化,ニコチンによる血管新生,毛細血管増殖,腫瘍の増殖などを指摘している研究もある」とコメントしている。

 同博士は「これらの結果をまとめると,前立腺がん診断時の喫煙は全死亡と前立腺がん死,前立腺がん再発の著明な増大と相関しているといえるが,10年間禁煙した男性では喫煙歴のない男性とリスクが同等になる。今回の知見は,喫煙は前立腺がん死リスクを高める可能性があるという従来の報告を追認するものである」と結論付けている。

Medical Tribune 2011年8月25日

東京医科歯科大・湯浅保仁氏ら
世界初の未分化型胃がんモデルマウス作製に成功
 東京医科歯科大学大学院分子腫瘍医学分野教授の湯浅保仁氏らの研究グループは,発症機構がいまだ明らかでない未分化型胃がんのモデルマウスの作製に世界で初めて成功した。同マウスは,未分化型胃がんとの関連が指摘されているがん抑制遺伝子p53およびE-カドヘリンの両方を胃壁細胞特異的にダブルコンディショナルノックアウト(DCKO)したモデルであり,これにより未分化型胃がん発症にはE-カドヘリンおよびp53遺伝子の両方が関与していることが明らかになった。

 これに先立ち,23日に東京都で開かれた記者会見で,同氏は「未分化型胃がんのモデルマウス誕生によって,病態解明および新規治療法の開発への応用が期待できる」と述べ,がん関連蛋白質をターゲットにした分子標的治療の開発準備に着手したことを小社の取材の中で明らかにした。

病理学的にヒトの未分化型胃がんに極めて近い

 これまで,未分化型胃がんの発症機構においてがん抑制に作用するE-カドヘリン(CDH1遺伝子がつくる細胞間接着蛋白質)およびp53遺伝子の発現異常が報告されてきた。しかし,これらをノックアウト(人為的破壊)した動物モデルを作製し未分化型胃がんの発症を確認しないことには,これらの関与は確定されない。

 そこで,湯浅氏らはE-カドヘリンおよびp53遺伝子に対するノックアウトマウスを作製。しかし,E-カドヘリンは動物の胚発生に重要な役割を果たすため,母マウスと父マウス両方のE-カドヘリンをノックアウトすると仔は死亡し,どちらかのE-カドヘリンをノックアウトするとがんは形成されなかった。

 また,p53遺伝子はそのままでE-カドヘリンのみをノックアウトした場合,異常な細胞分化〔プロトンポンプ陽性壁細胞(type 1),同陰性細胞(type 2),印環細胞様異形細胞(type 3)〕は認められなかったが,胃がんは形成されなかったため,E-カドヘリンおよびp53遺伝子の両方を胃壁細胞特異的にノックアウトするDCKOマウスを作製した。

 その結果,ヒトの未分化型胃がんに極めて似た病理学的所見がDCKOマウスに認められ,未分化型胃がん発症にはE-カドヘリンおよびp53遺伝子の両方が関与していることが確認された。

 未分化型胃がんのモデルマウスを用いることで,今後,病態解明および新規治療法の開発への応用が期待できると同氏は話す。

 なお,同氏は小社の取材に対し,がん抑制遺伝子をノックアウトした際に高発現するがん関連蛋白質をターゲットに,分子標的治療の開発準備に着手したことを明らかにした。

Medical Tribune 2011年8月26日