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2011年7月 文献タイトル
励ましメールの携帯自動送信で禁煙継続率が2倍以上に 英6,000人のランダム化比較試験での6カ月後成績
1,100万例対象の検討で妊娠中の喫煙と先天異常リスクの関連を確認 英システマチックレビュー
穀物からの食物線維の摂取により死亡リスクが有意に低下
前立腺がん診断時に喫煙していた男性は死亡率と再発率が高い
β2受容体遮断により乳がんの進行と転移が抑制される可能性
紅茶やコーヒー摂取で鼻腔MRSA保菌リスク半減 アイス飲料では認められず,米研究
父親のがん既往歴が児の先天異常リスクに
喫煙経験のない女性で肥満が早期死亡原因に
第36回日本外科系連合学会 放射線被ばくへの不安には正しい知識を
豪でHPVワクチン導入後に高度の子宮頸部病変が半減

励ましメールの携帯自動送信で禁煙継続率が2倍以上に
英6,000人のランダム化比較試験での6カ月後成績
 携帯メールを用いた禁煙プログラムが注目される中,英ロンドン大学衛生・熱帯医学部のCaroline Free氏らは,禁煙者約6,000人を2つのグループに分け,禁煙継続の動機付けとなる内容と,禁煙に関係のない内容の携帯メールを自動的に送信し,6カ月後に禁煙できていたかどうかを検証するランダム化比較試験(RCT)を実施。禁煙継続の動機付けとなる携帯メールを受け取った群で,2倍以上継続率が高かったことを明らかにした。

携帯メールは他の行動変化を促す可能性も

 Free氏らは,2007〜09年,ラジオやバスの掲示板,ウェブサイト,新聞などを通じて禁煙の意思を持つ人々に試験への登録を呼びかけ,基準を満たした5,800人を禁煙継続動機付けとなるようなメールを送る介入群2,915人と,禁煙に無関係なメールを送る対照群2,885人に,性,年齢,教育レベル,ニコチン依存度のバランスを取るアルゴリズムに基づきランダムに振り分けた。

 介入群は期間中,186の基本メッセージと,データベースから個別化して選ばれた713のメールを受け取った。対照群は隔週で,試験への参加に関する短く,簡単なメールを受け取った。
 6カ月後の禁煙継続率は,介入群で10.7%,対照群で4.9%で,2倍以上の差があった。
 同氏らは「携帯メールを用いた禁煙プログラムが有効であることが分かった。他の疾病に関連する行動変化を促す介入にも有用であるかもしれない」と指摘している。

Medical Tribune 2011年7月8日

1,100万例対象の検討で妊娠中の喫煙と先天異常リスクの関連を確認
英システマチックレビュー
 英ロンドン大学のAllan Hackshaw氏らは,妊娠中の喫煙と児の先天異常発症リスクの関連について,172報,1,100万例以上を包括した,これまでにない規模のシステマチックレビューを実施。その結果によると,妊娠中に喫煙していた女性ではそうでない女性に比べ,多岐にわたる先天異常リスクの有意な上昇が見られたという。

妊娠中のニコチン置換療法も考慮する価値あり

 Hackshaw氏らによると,英国では17%,米国では14%の女性が妊娠中も喫煙を続けているとの報告があるという。妊娠中の喫煙は胎盤などへの血流減少をもたらし,胎児の発育遅延や低出生体重に関連するといわれている。しかし,妊娠中の喫煙と先天異常の関係については今のところ明らかになっていない。

 Medlineを用いて1959〜2010年に発表された観察研究論文を検索。妊娠中の喫煙の有無と染色体異常を除く先天異常の検討が行われている論文を抽出した。

 解析の結果,同氏らは今回の大規模かつ包括的な検討から,妊娠中の喫煙が主要な先天性欠損の多くに関連する重要な危険因子であることが示されたと結論。妊娠前,あるいは早期の禁煙指導が必要なほか,妊娠女性に対するガムやパッチによるニコチン置換療法も考慮する価値がある,と述べている。

Medical Tribune 2011年7月13日

穀物からの食物線維の摂取により死亡リスクが有意に低下
 食物線維,特に穀物からの食物線維の摂取により死亡リスクが有意に低下すると,米国立がん研究所のグループが発表した。

 食物線維は冠動脈性心疾患,糖尿病,一部のがんのリスクを下げると考えられているが,食物線維の摂取による死亡への影響は明らかにされていない。同グループは,米国立衛生研究所(NIH)とAARP(旧全米退職者協会)の食事と健康に関する前向き研究の参加者を対象に,食物線維の摂取と全死亡および疾患別死亡との関係を検討した。

 平均9年間の追跡で男性2万126例,女性1万1,330例が死亡した。解析の結果,食物線維の摂取は男女ともに全死亡リスクの有意な低下と関係した。

 食物線維の摂取は心血管疾患,感染症,呼吸器疾患による死亡リスクを男性で24〜56%,女性で34〜59%低下させた。食物線維の摂取とがんによる死亡との間の負の相関関係は男性でのみ認められた。

 食物線維のうち,男女の全死亡および疾患別死亡と有意な負の相関関係を示したのは穀物からの線維だけだった。

Medical Tribune 2011年7月14日

前立腺がん診断時に喫煙していた男性は死亡率と再発率が高い
 前立腺がん診断時に喫煙していた男性はその後の死亡と再発リスクが高いと,米ハーバード大学のグループが発表した。

 同グループは,Health Professionals Follow-Up Studyで1986〜2006年に前立腺がんと診断された男性5,366例を追跡し,診断時の喫煙と全死亡,前立腺がんによる死亡,心血管疾患(CVD)による死亡,前立腺特異抗原(PSA)値の上昇による生化学的再発との関係を検討した。

 追跡中の死亡は1,630例(うち前立腺がん死524例,CVD死416例),生化学的再発は878例だった。解析の結果,1,000人年当たりの全死亡率と前立腺がんによる死亡率は非喫煙群の27.3,9.6に対し,診断時喫煙群では53.0,15.3と高かった。

 喫煙群と比較した禁煙10年以上群または禁煙10年未満で喫煙指数20未満群の前立腺がん死のリスクは非喫煙群と同等であった。

Medical Tribune 2011年7月14日

β2受容体遮断により乳がんの進行と転移が抑制される可能性
 β2受容体の遮断により乳がんの進行と転移を抑制できる可能性があることを示すデータが,アイルランドのグループにより発表された。

 前臨床試験で,β2アドレナリンシグナルの抑制が乳がんの進行や転移と関係するいくつかの経路を阻害することが示されている。同グループは,集団ベースの観察研究でβ遮断薬の使用と診断時の乳がんの特性または乳がんによる死亡との関係を検討した。

 アイルランドのがん登録と処方調剤データから,2001〜06年にステージT〜Wの乳がんと診断された女性のうち,診断の前年にプロプラノロール(β1/β2遮断薬=商品名インデラル)を使用していた70例とアテノロール(β1遮断薬)を使用していた525例を特定。各症例につき,β遮断薬非使用の乳がん女性2例をマッチさせた。

 その結果,プロプラノロール使用群は乳がんによる死亡の累積確率のハザード比(危険率)が0.19と有意に低かった。

 一方,アテノロール使用群の乳がんの発症と乳がんによる死亡は,β遮断薬非使用群と差はなかった。

Medical Tribune 2011年7月14日

紅茶やコーヒー摂取で鼻腔MRSA保菌リスク半減
アイス飲料では認められず,米研究
 紅茶やコーヒーには抗菌作用があることが報告されていることから,米サウスカロライナ大学家庭医学部のEric M. Matheson氏らは,紅茶およびコーヒーと鼻腔におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌リスクとの関連について調査した。その結果,紅茶およびコーヒーを飲む人では,全く飲まない人に比べ,鼻腔におけるMRSA保菌リスクはそれぞれ50%以上の低下が認められた。ただし,両飲料ともホットに限り認められ,アイス飲料では確認されなかった。

紅茶・コーヒー両方飲む人では67%のリスク低下

 Matheson氏らによると,米国における2005年のMRSA感染関連の死亡者数は6,500例に上り,鼻腔のMRSA保菌者は推計250万人であるという。MRSAの予防および治療に関する研究においては,抗菌作用のある身近な植物などが用いられており,今回,同氏らは最も有望かつ入手しやすい紅茶とコーヒーに着目した。

 今回の結果を受けて,同氏らは「紅茶もしくはコーヒー,あるいは両方を摂取する人の鼻腔におけるMRSA保菌率は,それらを摂取しない人に比べて低いことが判明した。ただし,これらの関連性はアイスティーやソフトドリンクなどの冷たい飲料には当てはまらなかった」と結論付けた。また,「安全,安価,かつ入手しやすい紅茶やコーヒーが抗生物質に代わるMRSA感染対策の新たな手段として使われる可能性が高まった」とまとめた。

Medical Tribune 2011年7月14日

父親のがん既往歴が児の先天異常リスクに
 ルンド大学病院(スウェーデン)のOlof Sthl博士らは「がん生存者の父親を持つ子供では,がん既往歴のない父親の子供と比べて,重大な先天異常の発生リスクがわずかではあるが有意に高かった」と発表した。
 
相対リスクは1.17

 がん生存者の増加に伴い,生存者の子供が受ける影響への懸念も広がっている。これまでの研究では,自然妊娠で生まれた子供に関しては“問題ない”との結果が出ているが,体外受精(IVF)や卵細胞質内精子注入法(ICSI)といった生殖補助医療(ART)によって受胎に至った子供についてはほとんど研究されていない。

 そこでSthl博士らは今回,1994〜2004年にスウェーデンとデンマークで生まれた小児を対象に,父親のがん既往歴の有無やARTが妊娠アウトカムに及ぼす影響について検討した。

 検討の結果,父親のがん既往歴はその児の主要な先天異常発生リスクと関連し,がん既往歴のない父親を持つ児と比べた相対リスク(RR)は1.17であった。

 同博士らは,デンマークとスウェーデンにおいて男性がん生存者の子供で先天異常リスクがわずかに上昇した原因として,「これらの国々では,遺伝疾患を含む重大疾患に罹患した親から生まれた児を厳重に監視するシステムが整っているためかもしれない」と述べている。

 その一方で,「親のがん治療とその児の遺伝子損傷との関連についてはほとんどのエビデンスにより否定されている。それでもがん治療ではDNAを傷害する恐れがあり,それを受ける患者も増加している中,これは依然重要な問題である」と主張。「ヒトの生殖細胞が遺伝子変異原性の傷害に対してどの程度敏感であるか,または,どの程度耐性を持つかに関しては,まだ十分に解明されていない」としている。

Medical Tribune 2011年7月21日

喫煙経験のない女性で肥満が早期死亡原因に
 スコットランド国立保健サービス(NHS)のLaurence Gruer博士らが,肥満は喫煙経験のない女性,特に低所得層の女性における早期死亡の重要な因子であると発表した。
 
低階級層,重度肥満の女性で死亡率最も高い

 喫煙が早期死亡と健康格差に関連することは既に明らかにされているが,喫煙経験のない女性における社会的地位と死因との関連は不明であった。

 そこでGruer博士らは今回, 1972〜76年にスコットランドで登録されたRenfrew and Paisley研究の参加者約1万5,000例(登録時45〜64歳)のうち,喫煙経験のない女性3,613例のデータを用いて研究を行った。

 これらの女性を英国の職業上の階級〔T(専門職),U(経営・技術/中間職),Vnon manual(非肉体労働の熟練職),Vmanual(肉体労働の熟練職),W(半熟練職),X(非熟練職)〕とBMI(標準体重,過体重,中等度または重度の肥満)により分類した。

 28年の追跡期間中に約半数が死亡した。死因は51%(916例)が心血管疾患,27%(487例)ががんであった。また,43%(1,555例)が過体重,14%(515例)が中等度肥満,5%(194例)が重度肥満であった。

 年齢などの交絡因子で調整したCox比例ハザード解析の結果,職業上の階級が高い女性に比べて低い女性はがんではなく心血管疾患で死亡する割合が高く,重度肥満の割合も高かった。職業上の階級が低く,重度肥満の女性では死亡率が最も高かった。

 さらに喫煙経験のない女性では,同研究に参加した喫煙女性と比べて過体重または肥満の割合が極めて高かった。

死亡の危険因子としては肥満よりも喫煙が強力

 今回の研究結果について,Gruer博士らは「喫煙経験がなく肥満ではない女性では,社会的地位に関係なく死亡リスクが低かった」と結論付けている。一方で,「生涯にわたる喫煙が死亡リスクを増加させることは明らかであるが,こうした集団では肥満(特に重度肥満)も早期死亡の重要な一因だと考えられる。肥満は恵まれない立場にある集団でより多く見られることから,肥満が健康格差をもたらし,地域の保健サービスや社会的サービスの負担を増加させる可能性がある」と考察している。

Medical Tribune 2011年7月28日

第36回日本外科系連合学会
放射線被ばくへの不安には正しい知識を
 福島第一原発事故による放射性物質の拡散で,国民の放射線被ばくに対する関心は高まっている。浦安市で開かれた第36回日本外科系連合学会の評議員会特別講演「福島原発事故から学ぶ放射線被曝の正しい知識」では,同大学放射線腫瘍学講座の三橋紀夫教授が被ばくに対する国民の不安を和らげるには,医療従事者が正しい知識を持って説明することが不可欠と訴えた。

体内には常在する放射性物質も

 ヒトが受ける放射線量は自然被ばくが2.4mSv/年,医療現場などの人為的被ばくが1.1mSv/年とされる。成人男性(体重60kg)ではカリウム40(4,000Bq=ベクレル),炭素14(2,500Bq)などの放射性物質が体内にあり,日ごろから内部被ばくの状態にある。三橋教授は,放射線源から離れる(距離の2乗に反比例),放射線に接する時間を短くする,放射線を遮蔽する物を置く(原子番号の3乗に比例)ことが防護3原則と説明した。

 放射性ヨウ素131については,画像診断で約3.7MBqを投与していると説明。ホウレンソウの出荷制限基準値は2,000Bq/kgで,「出荷制限のホウレンソウに含まれるヨウ素131を画像診断と同じだけ取り込むには,1.35t食べる必要がある」と述べた。

胎児,乳児への影響「心配はない」

 母親が放射能を帯びた水道水などを体内に取り込んだ場合の,胎児や乳幼児への影響も懸念されている。母親が暫定規制値の100Bq/kgのヨウ素131が混入した水1Lを,受胎から出産まで280日間飲み続けたとすると,胎児は積算で0.00019〜0.00756mSvほど被ばくするという。しかし,胎児のために規定された国際放射線防護委員会の100mSvや日本産科婦人科学会の50mSvという積算値とは離れているため,「心配する必要はない」と説明した。

 乳児についても,母親が暫定規制値100Bq/kgの放射性ヨウ素131が混入した飲料水1Lを飲み続け,母乳を1年間与え続けても,積算では3.9mSv程度になる。専門家や専門組織の間では,被ばくによる小児甲状腺がんの増加は20mSv以下ではないといわれている。

 ヨウ素131の半減期は8日と短いが,セシウム137は30年,ストロンチウム90は50年と報じられている。三橋教授は「これらの数値は放射性物質がなんの影響も受けない状況下での物理学的な半減期であり,体内に取り込んだ後の代謝や排泄など生物学的な影響も考慮しなければならない」と述べた。生物学的な要因も考慮するとヨウ素131の半減期は7.56日,セシウム137は70日,ストロンチウム90は18.3年になる。

 がんの原因となる因子は,たばこと成人期の食事・肥満が各30%,運動不足や感染,職業環境,家族歴,周産期・成長がそれぞれ5%で,放射線・紫外線の影響は2%との報告もある(Cancer Causes Control 1966; 7: 55-58)。小児期に広島で被ばくした日本人を対象とした白血病の線量とリスクの関連についての研究では,400mSv以下では相対リスクが下がったとの結果もあるという。

世界的にも高い日本の医療被ばく

 人口1,000人当たりの診断X線検査数は日本が最も多く,2000年の国連科学委員会(UNSCEAR)報告書によると,1検査の実効線量は胸部直接撮影0.057mSv,上部消化管3.33mSv。X線検査の頻度や放射線被ばく量と発がんリスクなどから,75歳までにがんを発症するリスクを推定した調査が,欧米など15カ国を対象に行われた。それによると,日本では3.2%(7,587人/年)が医療による被ばくに起因するとされ,他の14カ国(0.6〜1.8%)と比べて高値を示している。

 三橋教授によると,福島第一原発事故後に医療被ばくを恐れて検査を拒否する患者も出ているという。これには医療被ばくに線量限度はないとした上で,「日本は世界でも医療被ばくが多いが,放射線による治療や検査を受けることで得られるメリットとデメリットを考えた上であることを説明しなければならない」と主張した。ただ,今回の原発事故で微量な放射線量を浴びることは「デメリットの恐れはないが,国民が利点を享受できないため,被ばくは極力避けるように助言すべき」とまとめた。

Medical Tribune 2011年7月28日

豪でHPVワクチン導入後に高度の子宮頸部病変が半減
 ビクトリア細胞診サービス(オーストラリア)のJulia M. L. Brotherton博士らは「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種プログラム導入後,高度の病変が減少したことを確認した」と発表した。ただし,同博士らは「この減少がワクチン接種の効果であることを明確に示すにはさらなる研究が必要だ」としている。
 
18歳以上では変化なし

 オーストラリアでは,2007〜09年に12〜26歳のすべての女性に対して4価HPVワクチンを接種するプログラムを導入した。Brotherton博士らは今回,ビクトリア州のデータを基に,ワクチン導入前(2003〜07年3月)と導入後(2007年4月〜09年)の子宮頸部のHGAおよび軽度の病変〔LGA;軽度扁平上皮内病変および意義不明な異型扁平上皮細胞〕の発生率を比較した。

 その結果,18歳未満の女児では,HGAの発生率が導入前の0.80%から導入後には0.42%とほぼ半減していた。一方,18歳以上の女児ではこのような明らかな減少は認められず,LGAの発生率に関してはどの年齢層においても大きな変化はなかった。

 同博士らは「この結果から,HPVワクチンの接種は思春期前が適切であることがあらためて確認できた」とする一方,「今回認められた発生率の変化がワクチン接種に起因するかどうかを確認するとともに,スクリーニングプログラムへの参加状況をモニタリングするため,今後,個人のワクチン接種状況とスクリーニング登録者との関連について検討する必要がある」と結論付けている。

Medical Tribune 2011年7月28日