広葉樹(白) 
         

 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2011年6月



2011年6月 文献タイトル
携帯電話使用で神経膠腫リスク,IARC発表 “発がんの可能性あり”に分類
卵巣がんスクリーニングは死亡率を低下させず CA-125と経腟超音波の併用,米国8万人を12年間追跡
長く座業を続けている人は遠位結腸および直腸がんのリスクが高い
米の大学生に広まる水たばこ 健康リスクは紙巻きたばこと同等
【グラフで見る日本の医療】死亡率と死因順位 平成22年(2010年)人口動態統計月報年計(概数)より
リスク情報を事前提供しても大腸がんスクリーニングの受検率に差なし−ドイツ
男性たちよ,気後れは死のもとだ 英国医師会がキャンペーン
発がん性リストに8物質を追加,米連邦保健福祉局 アリストロキア酸,ホルムアルデヒドなど
第10回日本旅行医学会 100mSvまでは妊娠への影響少ない
抗菌薬のnitroxolineが膀胱がんと乳がんを抑制 マウスで血管新生阻害作用を確認
ジゴキシンの使用が特にER陽性の乳がん発症と関係
正常上皮細胞のがん化に成功 がん挙動理解の一助に
インターネットのがん情報が治療方針の妨げに 東大病院・後藤悌氏らが講演
メラノーマに有望な免疫療法
1日3杯以上のコーヒーがC型慢性肝炎の治療効果を高める
スタチン使用者は高グレード前立腺がんの発症が少ない
CA-125と経腟超音波による卵巣がん検診に死亡減少効果認められず
エキセメスタン(日本商品名アロマシン)に閉経後女性の乳がん予防効果 浸潤性乳がん発症リスクが65%低下
WHOが「世界の死因トップ10」を発表
滑膜肉腫に養子免疫療法が有効 遺伝子操作した免疫細胞を使用
運動で結腸ポリープ・腺腫リスクを抑制
受動喫煙でニコチン依存症 渇望感引き起こす誘因に

携帯電話使用で神経膠腫リスク,IARC発表
“発がんの可能性あり”に分類
 世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は5月31日,IARCによる無線周波電磁界に関する調査の結果,携帯電話の使用と神経膠腫発症リスクの上昇に関連性を認め,IARCが定める「発がんの可能性あり」を示すグループ2Bに分類すると発表した。

 携帯電話の使用における脳腫瘍発症リスクとの関連性については,昨年(2010年)5月に国際共同研究グループによるINTERPHONE Studyが否定し,WHOや米食品医薬品局(FDA)がリリースを発表している。
 
神経膠腫のエビデンスは“限定的”,そのほかのがんは関連性“不十分”

 携帯電話の加入者数は世界で5億人と推計され,近年は携帯電話による無線周波電磁界の人体への悪影響の懸念が高まっている。そこでIARCでは,5月24〜31日に,14カ国31人の科学者から成るモノグラフ・ワーキング・グループによる会議をフランスで開催した。

 同ワーキング・グループは,被ばくデータ,人体におけるがん研究データ,実験動物におけるがん研究データ,毒物動態学や発がんに関するメカニズムに関連するデータなどから,無線周波電磁界に関する次の項目について発がんリスクの評価を行った。

レーダーおよびマイクロ波への職業被ばく
ラジオ・テレビ・無線通信の信号送信による環境被ばく
携帯電話の使用による個人被ばく

 その結果,携帯電話使用者と神経膠腫および聴神経腫との関連性についてのエビデンスは“限定的(limited)”とし,ほかの種類のがんとの関連を結論付けるには“不十分(inadequate)”とした。職業および環境における被ばくについても同様に“不十分”とした。

 同ワーキング・グループではリスクの明確な数値は示さなかったが,2004年までに行われた携帯電話使用に関するある研究では,10年間で1日平均30分の携帯電話ヘビーユーザーの神経膠腫発症リスクが40%高まることが記されていた。

 同ワーキング・グループ長を務めた米南カリフォルニア大学のJonathan Samet氏は「“発がんの可能性あり”とする2Bに分類するに十分なエビデンスである」とし,「つまり,携帯電話と発がんリスクにはなんらかの関連がある可能性があり,注視していく必要がある」と述べた。

 IARCによる発がん性の分類は,グループ1“発がん性あり”,グループ2A“発がんの大きな可能性”,グループ2B“発がんの可能性あり”,グループ3“発がんの可能性への分類不可”,グループ4“発がんの低い可能性”の5つ。今回の2Bは真ん中に位置し,“人体における発がんに関する限定的なエビデンスであり,実験動物における発がんの不十分なエビデンス”を意味する。

Medical Tribune 2011年6月1日

卵巣がんスクリーニングは死亡率を低下させず
CA-125と経腟超音波の併用,米国8万人を12年間追跡
 サイレントキラーと呼ばれる卵巣がんで,がん抗原125(CA-125)値の測定と経腟超音波検査を併用するスクリーニング法が注目されている。ところが,これらのスクリーニングを毎年実施しても卵巣がんの死亡率は低下しないという米国のランダム化比較試験(RCT)の分析結果が掲載された。

 さらに,疑陽性の3人に1人が診断のために手術を受け,そのうちの15%が深刻な副作用を経験していたことが分かり,研究を行った米ユタ大学ヘルスサイエンスセンターのSaundra S. Buys氏らは「併用スクリーニングは卵巣がんの死亡率を減らさず,侵襲的医療措置と関連する有害事象を増やす結果となっている」と指摘している。
 
診断されたステージにも有意差なし

 Buys氏らによると,卵巣がんの5年生存率は卵巣内にとどまる場合92%だが,多くは進行がんとして見つかり,その5年生存率は30%と低い。

 同氏らは,前立腺,肺,大腸,卵巣のがんスクリーニングが死亡率を下げるかどうかを調べた試験の分析を行った。

 追跡中に卵巣がんと診断されたのは,介入群では212人(5.7/1万人年),通常ケア群では176人(4.7/1万人年)で,通常ケア群と比べた率比(RR)は1.21と上昇傾向にあった。

 卵巣がん死亡は,介入群118人(3.1/1万人年),通常ケア群100人(2.6/1万人年)と,スクリーニングによる死亡率の低下は認められなかった。

Medical Tribune 2011年6月7日

長く座業を続けている人は遠位結腸および直腸がんのリスクが高い
 長い期間にわたって座位での仕事(座業)を続けている人は遠位結腸と直腸がんのリスクが高いと,オーストラリアのグループが発表した。

 座っていることの多い生活と慢性疾患との関係が示唆されている。同グループは,2005〜07年に結腸・直腸がんと診断された918例とコントロール1,021例との症例対照研究を行い,職歴と結腸・直腸がんとの関係,およびがん発生部位との関係を検討した。

 その結果,ほとんど座業の経験のない群と比べ,10年以上にわたって座業を続けてきた群は遠位結腸がんのリスクが約2倍高く,直腸がんのリスクも1.4倍以上高かった。

 この関係は余暇の身体活動とは独立しており,余暇の身体活動量が最も高い群でも認められた。

Medical Tribune 2011年6月9日

米の大学生に広まる水たばこ
健康リスクは紙巻きたばこと同等
 禁煙条例を定める都市が全米で増加している一方で,水たばこ(hookah)を吸えるバーが都心のしゃれたカフェから大学キャンパス周辺まで出店しており,若年成人層に常連客が多い。ウェイクフォレスト大学バプテスト医療センター社会科学・保健政策部門のErin L. Sutfin助教授らは,この若年成人層に人気の水たばこに関してノースカロライナ州の大学生を対象に実態調査を実施。その喫煙率は高く,しかも有害性が認識されていないことが多いという結果が得られたと発表した。
 
40%が水たばこの喫煙歴あり

 筆頭研究者のSutfin助教授は「水たばこ喫煙が健康に有害な影響を及ぼす可能性を考慮すれば,若年成人層におけるこうした人気は,極めて憂慮すべき問題である。残念ながら,多くの若年成人は水たばこ喫煙を安全だと誤解しており,しかも紙巻きたばこよりも安全だと思っている」と懸念している。

 対象学生の40%が,水たばこを吸ったことがあると回答。そのうち過去30日以内に水たばこを吸った学生は17%に上った。

 今回の調査結果によると,新入生と男子学生に水たばこ喫煙者が多く,水たばこ喫煙と(1)紙巻きたばこ喫煙(2)マリフアナ喫煙(3)他の違法薬物の使用(4)飲酒?との間にそれぞれ相関が認められた。さらに,水たばこ喫煙は紙巻きたばこ喫煙と比べ害が少ないという誤った認識を持っている者では水たばこの喫煙率が高かった。

マイルドな煙がたばこ初心者に適する

 水たばこはインドが発祥地で,喫煙器具は水ギセルとも呼ばれ,1本の筒状のものや複数の筒が組み合わされた形状のものがある。

 Sutfin助教授は「水たばこの煙は非常にマイルドで,紙巻きたばこを吸った経験のない者にとって,手始めに吸うたばことして魅力的であるようだ。今回の調査では,水たばこを吸うと回答した者の22%が一度も紙巻きたばこを吸った経験がなかった。このことは,彼らにとって水たばこが最初の喫煙体験であることを示している」と説明している。

 同助教授は「紙巻きたばこの煙は非常に荒く刺激が強過ぎることがある。一方,水たばこの場合,香りと味わいが心地良いため,喫煙者はより深く,長く煙を吸い続ける恐れがある。そのため,実際には水たばこの方が紙巻きたばこよりも多量の煙を吸入することになる」と指摘している。

 水たばこ喫煙に関する研究はまだ始まったばかりだが,水たばこ喫煙は,紙巻きたばこ喫煙と同等のリスクをはらむことがエビデンスで示されている。例えば,水たばこの煙は,タールや一酸化炭素,重金属,発がん性化学物質などの有毒化合物を高度に含んでいる。実際,水たばこ喫煙では,紙巻きたばこ喫煙と比べ一酸化炭素と煙への曝露量が多くなる。また,水たばこの煙には,紙巻きたばこの煙と同等のニコチンが含まれており,たばこ依存症につながりうる。そのほか,健康への影響として肺がんや呼吸器疾患,歯周病のリスク,妊娠中の水たばこ喫煙による低出生体重児出産のリスクがある。

 同助教授は「今回の研究は,水たばこ喫煙が,特に若年成人層の間で看過できない公衆衛生上の問題となることを強調している。今後,この危険な行動に対する介入法を策定していく必要がある」と結論している。

Medical Tribune 2011年6月9日

【グラフで見る日本の医療】死亡率と死因順位
平成22年(2010年)人口動態統計月報年計(概数)より
 厚生労働省は今月(6月),2010年1〜12月の人口動態月報年計(概数)を公表した。

 死亡数は前年比5万5,201人増の119万7,066人。ただし,死亡率は,59歳以下のほとんどの年齢階級で前年より低下している。死因は,悪性新生物(以下,がん)29.5%,心疾患15.8%,脳血管疾患10.3%であった(以下,概数。2009年以前の数値は確定数)。

死亡数は1980年ごろの70万人前後から120万人へ,増加傾向続く

 死亡数は2010年は119万7,066人で,前年より5万5,201人増加し,人口5,760人当たりの死亡率も前年の9.1から9.5に上昇した。自然増減数は-12万6,000人だった(前年は-7万1,830人)。75歳以上の高齢者の死亡が増加しているためであり,死亡数は1980年ごろから増加傾向が続いている(図1)。



 一方,5歳階級別の死亡率は59歳以下のほとんどの年齢で前年より低下している。死亡率は,全年齢階級で男性のほうが高く,55〜84歳では2倍以上である。
男性の肺がん死亡の増加傾向が著しい

 がんの死因順位1位は1981年以降変わっておらず,全死亡に占める割合は29.5%と,3人に1人ががんで死亡している。心疾患15.8%,脳血管疾患10.3%が続き,上位3疾患の人口10万人当たりの死亡率は,それぞれ前年より上昇している。以下は,肺炎9.9%,老衰3.8%,不慮の事故3.4%,自殺2.5%となっている。

 年齢階級別に構成割合を見ると,40歳代からは年齢が高くなるにしたがってがんの割合が多くなり,男性は60歳代,女性は50歳代でピークを示す。それ以降は男女ともに心疾患,脳血管疾患,肺炎の占める割合が増えていく。高齢者の死因で最も多いのは,100歳以上では老衰だが,男性の90歳以上100歳未満では肺炎,女性の85歳以上100歳未満では心疾患である(図2)。
 


 がんの部位別に死亡数,死亡率(人口10万人当たり)を見ると,男性では肺がんの増加が著しく,2010年の死亡数は5万369人,死亡率は81.8である(図3)。




Medical Tribune 2011年6月10日

リスク情報を事前提供しても大腸がんスクリーニングの受検率に差なし−ドイツ
 がんのスクリーニングは,そのベネフィットとリスクを患者に伝えることが議論や批判のポイントとなってきた。独ハンブルク大学保健科学教育科のAnke Steckelberg氏らは,大腸がんスクリーニングの受検対象者を,エビデンスに基づくリスク情報をあらかじめ与えた人と与えない人に分けてランダム化比較試験(RCT)を実施した。その結果,大腸がんスクリーニングを計画通り実際に受検した人の割合は,リスク情報を与えられた人で72.4%,与えられなかった人で72.9%と,リスク情報の事前提供の有無による有意差は見られなかった。

介入群にはベネフィット・リスク情報を提供

 Steckelberg氏らは,大腸がんスクリーニングの受検対象者である被保険者7,946人から,今RCTへの参加に関してインフォームド・コンセントが得られた1,577人を対象とした。対象者は,年齢50〜75歳,大腸がん既往歴はない。

 その上で,大腸がんスクリーニングに関して,エビデンスに基づくリスク情報を提供する介入群(785人,平均年齢60.8歳)と,標準情報のみを提供する対照群(792人,同61.5歳)に分けた。

 対象者の背景は,学歴では,中等学校9学年が介入群49.1%,対照群54.8%,10学年が介入群34.4%,対照群29.7%,一般教育修了資格Aレベルが介入群16.2%,対照群15.0%。また,過去3年に大腸がんスクリーニングを受検した人は,便潜血検査が介入群47.9%,対照群48.4%,大腸内視鏡検査が介入群13.4%,対照群13.9%。

 介入群には,38ページから成る大腸がんスクリーニングのパンフレットおよびインターネットでの情報アクセス権を与えた。最新の研究データなどを反映させたオリジナルのパンフレットには,大腸がんスクリーニングのベネフィットとリスクや,スクリーニングのインフォームド・チョイスが説明されている。

リスク情報の提供により“知識”は深まるが,“姿勢”は消極的に

 2009年1月,Steckelberg氏らは各群にそれぞれの情報を配布。6週間後の同年2月,各群の大腸がんスクリーニングに関する「知識」と「姿勢」を評価するため,1回目のアンケートを送付した。さらに6カ月後の同年7月には,大腸がんスクリーニングの受検を計画し,実際に受検したかどうかを評価するため,2回目のアンケートを送付した。全体の回収率は92.4%だった。

 6カ月後の2回目のアンケートを集計したところ,大腸がんスクリーニングを計画通り実際に受検した人の割合は,介入群で72.4%,対照群で72.9%となり,有意差は認められなかった。

Medical Tribune 2011年6月10日

男性たちよ,気後れは死のもとだ
英国医師会がキャンペーン
「男性たちよ,気後れは死のもとだ」(Men-Don't die of embarrassment) 男性にとってはドキッとするような呼びかけだが,これは英国医師会北アイルランドが発表した新方針“Improving Men's health in Northern Ireland”のスローガン。同地区では,病気による死亡や自殺などで,男性の生命予後が女性に比べて明らかに悪いことが問題となっている。

 その背景には,男性特有の性質が関係するのではないかと英国医師会。今回,男性たちの包括的な健康増進を目指すための勧告を発表した。さらに本日6月13日〜19日の父の日までを「男性の健康週間」とするなど,各種の啓発活動を行っていくという。
 
具合が悪いときに病院を受診するのは「男らしくない」

 BMAによると,北アイルランドでは,男性の健康問題が深刻なことをうかがわせるいくつかの報告があるという。

2008年の冠動脈疾患による男性の死亡者数は1,351人(女性は1,059人)

大腸がんによる男性の死亡者数は女性を上回る

1週間に許容できる飲酒量を上回る人の割合は男性の23%にも上り,この数字は女性を上回る

女性よりもヘビースモーカーになりやすい

2009年の自殺者260人のうち,205人が男性

2006〜08年の平均寿命は女性の81.3歳に対し,男性は76.4歳

 このほか,18〜35歳の男性は「高リスクグループ」であり,同じ年齢層の女性に比べ死亡率が4倍,経済協力開発機構(OECD)30カ国における自殺率の高さは第2位(2003年データ)だという。さらに,がん登録研究によると,がんの発症・死亡率では男性が,女性にくらべそれぞれ14%,40%高いことが明らかになっている。

 欧州男性健康フォーラム会長で,北アイルランド地区の医師でもあるIan Banks氏は,こうした状況に,体調が悪いときに病院を受診するのが「男らしくない」と感じたり,深刻な問題が見つかることを恐れたりする男性特有の気質が関連するのではないかと指摘。「まさに男性の気後れが死につながっている(Men are literally dying of embarrassment)」と述べている。

 同支部は,今回,男性の健康推進に関し,アットリスク男性に対する研究,提言の推進,医療施設へのアクセス向上のための環境整備,自分の健康に対する意識向上の3本の柱をまとめ,活動を行っていくとしている。

Medical Tribune 2011年6月13日

発がん性リストに8物質を追加,米連邦保健福祉局
アリストロキア酸,ホルムアルデヒドなど
 米連邦保健福祉省は,新たに8つの物質に発がん性を認め,同省が作成するリスト「発がん性物質報告書」に追加した。今回追加されたのは,一部のハーブ製品にも含まれ,膀胱および尿路がんリスクが指摘されていたアリストロキア酸や,これまでも健康被害が報告されてきたホルムアルデヒドなど。これら8つを加えた発がん性物質報告書リストは現在,240物質を数える。

アリストロキア酸は関節炎や痛風治療に使われるハーブ製品からも検出

 発がん性物質報告書は,米連邦保健福祉省が化学物質の毒性研究を実施する,米国国家毒性プログラム(NTP)により定期的に刊行されるもので,今回は第12版に当たる。評価は外部の科学者らも行っている。RoCにおける発がん性物質の分類は,「ヒトへの発がんが認知されているもの」と「ヒトへの発がんが予期されているもの」の2種類。新たに検討が行われた8つの物質についての名称,分類,解説は次の通り(表)。



 アリストロキア酸とホルムアルデヒドは,間接および直接喫煙,B型およびC型肝炎ウイルス,X線およびγ線照射と同様「ヒトへの発がんが認知されているもの」に分類された。

 肝臓あるいは腎臓に疾患を持つ患者において,アリストロキア酸を含む植物製品の使用による膀胱および上部尿道がんの高い発症率が報告されていた。米食品医薬品局(FDA)では2001年,アリストロキア酸の使用について警告したが,現在もインターネットや海外などで購入できるという。また,関節炎や痛風などの治療に用いられるハーブ製品からアリストロキア酸が検出されることもあるとしている。

 また,いわゆるシックハウス症候群の原因物質の1つとしても知られるホルムアルデヒドについては,ラットにおいて鼻腔がんを発症させることが証明されており,第2版発がん性物質報告書では「ヒトへの発がんが予期されているもの」として掲載された。現在では,人体においても上咽頭がんや骨髄性白血病などの発症リスクが高まることが報告されている。医療現場では,防腐剤などに使われることもあるという。

 もう一方の分類である「ヒトへの発がんが予期されているもの」には,人体においては限定的なエビデンスを有する物質もしくは動物実験において十分なエビデンスが認められる物質が含まれる。これら8つの物質を加え,現在,RoCに記載される物質は240を数える。

Medical Tribune 2011年6月14日

第10回日本旅行医学会
100mSvまでは妊娠への影響少ない
 ニューヨーク大学病院産婦人科の安西弦助教授は,同学会の海外招待講演で,ニューヨークの出産事情と,医療被ばく,原爆および放射線事故などの知見から放射線の妊娠への影響を解説。「おおむね100ミリシーベルト(mSv)までは妊娠への影響は少ないと考えられる」と述べた。

妊娠8〜25週で被ばくの影響最大

 米国産婦人科学会は妊娠期間の環境被ばく以外の被ばく量を1mSvに抑えるよう勧告しているが,これは,安全値が確定できないがん化を考慮し,非常に少なめに設定されている。それ以外の,胎児奇形などの放射線障害の程度,頻度は放射線量に比例し,それ以下では悪影響が出ないという安全値が決められる。

 妊娠の時期によっても放射線の影響は異なる。受精後2週間では,100〜200mSv以上の被ばくで流産の頻度は増加するが,流産しなければ奇形のリスクは上昇しない。妊娠前半期の被ばくは神経管閉鎖不全による脳髄膜瘤,無脳症などの神経管の奇形,小頭症,知能への影響など,主に中枢神経系の障害の頻度が増加する。被ばくの影響が最も大きいのは妊娠8〜15週であり,25週を過ぎると脳への影響は少ない。知能への影響は100mSvを閾値とする見方が強い。

 X線検査による子宮内被ばく後の発がんリスクについては,小児期のがん発生率が2倍になったとするStewartらの論文がしばしば引用されるが,最近のデータでは,がんの発症率はかなり少ないと考えられている。国際原子力機関は,子宮内被ばくによる15歳までの小児期がんの発症率は,0.006%/mSv増加するとしており,成人における試算0.005%/mSvと同程度とみられる。

 世界保健機関(WHO)の報告によると,チェルノブイリ原発事故汚染地域の被ばく線量は10年間で10〜30mSv,年間1〜3mSvである。被ばく原因は約50〜75%が飲食物の摂取による内部被ばく,25〜50%は地表上のセシウムなどからの外部被ばくとされている。

チェルノブイリ周辺で甲状腺がんが増加

 放射線ヨウ素131Iは,妊娠初期では流産,妊娠11週以降では甲状腺低下症,無形成,発育不全および中枢神経系の奇形,知能への影響を及ぼす。事故後,131Iが小児の甲状腺がんを増加させることが明らかになった。特に0〜4歳時に被ばくした人に顕著で,現在まで25年間で約5,000例が報告されている。子宮内被ばくとの関連は明らかではないが,チェルノブイリ周辺では甲状腺がんが現在も増加していることから,なんらかの関連が示唆されている。

 奇形の発生率の増加は高汚染地域であるベラルーシで報告されたが,非汚染地域の発生率とほとんど差はなく,もともとの奇形の発生率も極めて低いことに疑問が残る。同じく高汚染地域であるウクライナでは発生率にばらつきがあり,一定の傾向は示されなかった。また,調査は病院の記録に基づくものであり,事故後のストレスによるアルコール摂取の増加,低栄養,葉酸の不足など放射線以外の奇形の要因も考えられ,データの信頼性は乏しかった。他の欧州諸国でも奇形の増加が報告されたが散発的で,西欧州16都市で奇形の増加は認められなかった。それを受けてWHOは,チェルノブイリ原発事故後に明らかな奇形の増加は認められなかったと結論した。

Medical Tribune 2011年6月16日

抗菌薬のnitroxolineが膀胱がんと乳がんを抑制
マウスで血管新生阻害作用を確認
 ジョンズホプキンス大学薬理学・分子科学のJun O. Liu教授らは「抗菌薬のnitroxolineは血管新生阻害作用を有し,ヒト乳がんとヒト膀胱がんの腫瘍細胞の増殖を抑制した」との研究結果を発表した。この研究では,尿路感染症の治療薬として広く使用されている抗菌薬が,血管新生阻害薬として有望であることが示唆された。
 
2種類のスクリーニングで同定

 血管新生は腫瘍の増殖や転移において重要な役割を果たしており,その阻害は抗がん薬の開発で有望な戦略となる。

 Liu教授らは今回,17万5,000種類の化合物について,血管新生に関連する蛋白質であるMetAP2の活性阻害能を試験した。これまでの研究では,MetAP2が阻害されると血管形成細胞の増殖が抑制されることが明らかになっている。この試験の結果,294種類の化合物がMetAP2の活性を50%以上阻害したが,中でもnitroxolineの阻害能は際立って高く,安全性の高い低濃度でもMetAP2の活性を99%阻害することが分かった。

モデルマウスで抗腫瘍効果を確認

 続いてLiu教授らは,nitroxolineの血管形成阻害能をマウスで調べた。マウス10匹に成長因子を投与して血管形成を誘発し,その後5匹にnitroxolineを,残りの5匹に対照薬として生理食塩液を投与。10日後,顕微鏡視野当たりの新血管数を計測したところ,対照群では平均48.6本,nitroxoline群では平均20本だった。

 このマウス試験でnitroxolineの高い阻害作用を確認した同教授らは,次にマウスの腫瘍で効果を検証することにした。

 具体的には,ヒト乳がん細胞を移植したマウスにnitroxolineを1カ月間隔日投与する試験と,ヒト膀胱がん細胞を移植したマウスに同薬を2週間連日投与する試験を実施。その結果,nitroxoline投与により乳がんの腫瘍量が60%,膀胱がん腫瘍体積が50%超減少した。

 同教授は「今回の研究には限界もあるが結果は有望で,nitroxolineには膀胱がん治療の前臨床試験と臨床試験でさらに検討する価値があるといえる」と述べている。

Medical Tribune 2011年6月16日

ジゴキシンの使用が特にER陽性の乳がん発症と関係
 強心薬のジゴキシンの使用が乳がん発症リスクと関係していることを示すデータが,デンマークのグループにより発表された。

 ジゴキシンにはエストロゲン様の作用があるのではないかと考えられている。同グループは,ジゴキシンの使用がエストロゲン受容体(ER)の状態別に分類した乳がんのリスクと関係しているかどうかを検討した。また,狭心症の治療が結果にバイアスを与えているかどうかを明らかにするため,コントロール群としてジゴキシン以外の狭心症治療薬を使用している女性の乳がんリスクを評価した。

 1995〜2008年の処方データベースから,ジゴキシンとそれ以外の狭心症治療薬を使用している女性を特定。また,がん登録から乳がん発症患者を特定し,ERの状態別に分類した。年齢と使用期間調整後の乳がん発症率比を用いて,相対リスクを非使用者と比較した。

 ジゴキシン使用女性10万4,648例中2,144例に乳がんの発症が認められた。解析の結果,ジゴキシン現使用女性は乳がんの発症リスクが約40%高かった。一方,過去の使用と乳がん発症との関係は認められなかった。ジゴキシンの使用によるリスク上昇はER陰性乳がんと比べ,陽性乳がんとER不明乳がんで高かった。

 同グループは「ER陽性乳がんでよりリスクが高いことから,ジゴキシンのエストロゲン様作用説が支持される」としている。

Medical Tribune 2011年6月16日

正常上皮細胞のがん化に成功
がん挙動理解の一助に
 スタンフォード大学皮膚科のPaul A. Khavari教授らは,新たな3次元(3D)細胞培養法を用いて正常なヒト上皮細胞をがん細胞に変換することに初めて成功したと発表した。
 
 細胞ががん化して周辺組織に浸潤する際の挙動を観察することは,ヒトの体内でのがんの挙動を理解する上で一助になると考えられる。また,今回の知見は今後,実験動物を用いない迅速かつ安価な抗がん薬の試験の実現につながるかもしれない。
 
2種類の変異導入でがん化

 研究責任者のKhavari教授は「これまで動物モデルを用いて数カ月かけて行われていた研究を,今後は数日間で実施できるようになる」と述べている。ヒトのがんは上皮細胞から発生するものが全体の約90%を占めるため,同教授らは上皮細胞に焦点を合わせて研究を続けてきた。

 同教授らによると,3D細胞培養法では,がん細胞株を用いる必要性がなくなるという。がん細胞株は一般的に2次元(2D)培養され,ヒトの体内環境を正確に反映しない多くの遺伝的変化が蓄積されている可能性がある。

 同教授らは今回,皮膚や子宮頸部,食道,中咽頭の外科切除標本から正常なヒト上皮細胞を集めた。研究で用いられるがん細胞株の中には,世界各地の研究室で何年間も培養を繰り返してきたものも含まれるが,同教授らの収集した初代細胞は最低限の培養しか経ていない。

 今回の研究では,ウイルスベクターを用いてこうした正常細胞の増殖に関与する2つの遺伝的経路に遺伝子変異を導入しただけで,がん化に成功した。変異の1つは細胞周期を早めるもので,もう1つは異常な増殖を阻止する体内のチェックポイントの欠失に関するものである。ヒトの体内で自然発生するがんの多くは,これらと同じ遺伝的変化を経ると考えられる。同教授らは,体内の正常細胞で発生する変化に近づけるには,この2経路を同時に変化させるのが極めて有効であることを突き止めた。

ヒト腫瘍の挙動を反映

 Khavari教授は次に,こうして得られた前がん上皮細胞を,ヒト表皮の他の成分を含む3D培地に播種した。上皮細胞は通常,基底膜と呼ばれる薄い隔膜上に存在し,基底膜によって間質と呼ばれる皮膚深層と隔てられている。播種された細胞は,最初のうちは基底膜上にとどまって正常な3層構造を維持していたが,6日以内に基底膜を貫通する異常な挙動が始まり,膜下の間質組織に浸潤し始めた。これらの前がん細胞とは対照的に,変異を導入しなかった細胞は基底膜上にとどまっていた。

 同教授は「この結果は,自然発生したヒト腫瘍で観察される挙動を反映している。細胞は数年間かけて前がん状態から侵襲性のがんに移行することが多い。それをはるかに早く移行させられるのは,このようなヒト組織モデルのみである」と述べている。

 この新たにがん化した細胞の遺伝子発現パターンを検討したところ,自然環境で発生したヒトがんの遺伝子プロフィールに近いことが分かった。しかし,基底膜や間質といった通常は組織の3D構造を持たない単層培地で培養した細胞は,大幅に異なる遺伝子発現プロフィールを示した。

 同教授は「このことは,2Dの単層培地での培養で得られた知見に関しては,他の知見との相関を検討して臨床的妥当性を確認する必要があることを示している」と指摘している。

実験前に薬剤の絞り込みが可能に

 Khavari教授らは,この新たな腫瘍培養モデルを用い,20種の抗がん薬の試験を行った。これらの薬剤は,投与困難および毒性の可能性を理由に動物モデルでの試験が難しいものであった。しかし,今回の培養モデルでは,変異上皮細胞の基底膜浸潤を阻害できる有望な治験薬3種を速やかに同定することができた。これらの薬剤は,動物実験に適用する前にさらに最適化する必要があるが,こうした事前スクリーニングを行うことにより,候補薬剤の絞り込みが可能となる。

 また,この3D培養系では,間質細胞自体がなんらかの形で変異上皮細胞の浸潤を促進していること,変異細胞は著明な形質転換が認められなくても浸潤することも示された。

 同教授は「新規モデルには免疫系や代謝系の活性など,まだまだ多くの生物学的関連因子が不足している」とした上で,「これまで,患者由来の組織で直接このような検討が行われたことはこれまでなかった。さまざまなヒト組織からヒト腫瘍を作製する可能性が生まれたことにより,自然発生したヒト腫瘍で起こっていることを観察する方法に新たな選択肢が広がった」と述べている。

Medical Tribune 2011年6月16日

インターネットのがん情報が治療方針の妨げに
東大病院・後藤悌氏らが講演
 がんを宣告された患者やその家族が最も利用するツールは現在,インターネットであるという。しかし,玉石混淆のオンライン情報に惑わされて一喜一憂したり,治療方針の妨げとなったりすることも少なくないようだ。そのような中,「もっと知ってほしい『インターネットがん医療情報』のこと」(主催=UDXオープンカレッジ)が東京都で開催され,東京大学病院呼吸器内科の後藤悌氏や,国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦氏らが登壇し,それぞれの立場や組織におけるインターネットとがん医療情報をテーマに講演を行った。

患者を惑わす巧妙な広告サイトや誤った治療法紹介サイト

 キャンサーネットジャパン(CNJ)によると,適切ながん医療情報を“ダイアモンド”に例え,20年前は患者や一般向けの信頼できるがん情報がほとんどなく,信頼性の高い情報を発信すること自体に意義があったという。これを“砂漠の中のダイアモンド”を探すような状況だったとし,現在は“ジャングルの中のダイアモンド”と表現。インターネットを通じてさまざまな情報が錯綜するため,信頼性の高い情報にたどり着き,それらを見極めることが非常に困難であると指摘した。

 最初に登壇した後藤氏は,5年ほど前,患者が入手する情報の信頼性に疑問を感じ,インターネットにおけるがん情報の信頼性を調査したことを発表。「1997年時点で,JAMAではインターネット上の医療情報に間違いが多いことを警告し,それを認識した上で,少なくとも記事は誰が書き,情報や費用はどこから来て,最終更新日はいつなのかを確認すべき,としていた」と述べた。

 だが,日本においては,同氏が調査を行った5年前でさえ,執筆者については明記されてはいたが,情報源や最終更新日が明記されていないことが多かったという。「Googleで調べたところ,正しい治療方法(標準治療)が記載されているサイトは上位50件中,3割程度しかなく,一般的には最初にやるべきではないとされる治療法を推奨するサイトが多く見られた。また,患者やその家族が発信するサイトも目立った」と話した。

 現在も,状況はあまり大きく改善されておらず,「例えば,インターネットで“肺がん”と入れて検索すると,広告が一番上に表示されるが,ほかの治療情報などとの明確な区別がされていない」とし,患者やその家族が混乱を来したり,治療を妨げたりする危険性を指摘した。「中には,標準治療に関する記載がありながら,“ほかの治療法”に関するボタンをクリックすると,企業の広告ページにリンクが貼ってあるような,“巧妙な”つくりになっているサイトもある」という。

 こうした状況を是正するには,「誰かの努力に依存していては改善されない。自分が情報を得ようとするときに困らないよう,各自が正しい情報を発信するなど,状況を改善するなんらかの試みが生まれるべき」とし,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通じて,誤った情報などが指摘され,正しい情報が広まるネット社会の構築の必要性を訴えた。

 また,サイト情報の信憑性を見極める1つの目安として,CNJによるとHON codeの認証があるという。同認証は,米国で生まれ,インターネット上の医療および健康情報サイトの信頼性や質を示すコードのことで,国際認証団体Health on the Net Foundationが運営している。同団体が定める8つの倫理基準を満たした医療・健康関連ウェブサイトにはHON codeと呼ばれる認証ロゴが与えられる。

エビデンスに基づき患者目線にも配慮したがん情報を発信

 一方,医療機関として正確かつ分かりやすい情報発信に努めている国立がん研究センターからは,若尾氏が講演を行った。同センターでは,医療者と患者およびその家族らのがん情報の共有や,すべての患者の情報の均霑などを目指し,がん対策情報センターを設置している。およそ30人のスタッフに加え,各分野の専門家から成る専門家パネルと,患者および一般市民100人でつくる患者・市民パネルにより,情報の信頼性,正確性,分かりやすさなどを確認した上で発信しているという。

 同情報センターの公式サイトは,一般向け,医療者向け,拠点病院向けに分かれているが,一般ユーザーも医療者向けのサイトにアクセスでき,臨床試験情報などを閲覧できる仕組みになっている。ただし,「一般向けでは,エビデンスが必ずしも高くなくても,患者にとって有用な情報であるかどうかを判断した上で載せている。医療者向けでは,ガイドラインのデータベース作成に当たっては,国際基準であるガイドライン評価指針AGREE(Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation)に従い検討するなど,エビデンスをしっかりと評価している」と説明した。

 エビデンスのデータベースでは,がん種,分野,編者,発行者,発行・公開・更新年からそれぞれ検索できるように構成されており,「統計情報では,罹患率や死亡率などのデータを県別あるいはがん種別に閲覧できる」など,医療者向けの情報の充実度も主張。さらに,7月には2008年の院内がん登録の全国集計結果が公開される予定であることなども明らかにした。

Medical Tribune 2011年6月20日

メラノーマに有望な免疫療法
 ケルン大学(独)分子医学センターのHinrich Abken博士らは,メラノーマの増殖に不可欠なごく一部の腫瘍細胞を標的とした免疫療法をマウス実験で成功させ発表した。
 
2種類の細胞表面蛋白質が標的

 しばしば致死的となるメラノーマは,多様な腫瘍細胞で構成されることが多い。Abken博士らは今回,腫瘍内の遺伝的に共通性のある特定の細胞群が,メラノーマの増殖の原動力になっているとの仮説を検証。腫瘍にエネルギーを供給すると考えられる細胞を標的とする免疫療法を検討した。

 今回標的となったのは,高分子量のメラノーマ関連抗原(HMW-MAA)として知られるメラノーマ関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)とCD20を共発現するメラノーマ細胞である。同博士はこれらの細胞を殺傷するよう操作したヒトの細胞傷害性Tリンパ球を作製し,ヒトのメラノーマ細胞を移植したマウスに投与した。

 これらのがん関連蛋白質を共発現する細胞が占める割合は,典型的なメラノーマ病変を形成する細胞のうち2%未満と少ない。しかし今回のマウス実験では,これら2つの蛋白質を標的とした細胞傷害性Tリンパ球を投与することで腫瘍は大幅に縮小し,メラノーマの進行も注入後36週間超抑えることができた。

 同博士らによると,この細胞傷害性Tリンパ球は非常に特異性が高く,標的細胞に対してはアポトーシスを誘導して破壊するものの,標的細胞以外には作用しない。

Medical Tribune 2011年6月23日

1日3杯以上のコーヒーがC型慢性肝炎の治療効果を高める
 ペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン(RBV)療法を受けているC型慢性肝炎患者のうち,コーヒー多量摂取者は同療法の奏効度が高いと,米国立がん研究所などのグループが発表した。

 多量のコーヒー摂取は肝疾患の進行抑制と関係することが示唆されている。同グループはC型慢性肝炎患者885例を対象に,日常的なコーヒー摂取習慣がPEG-IFNα-2a+RBV療法の効果にどのような影響を与えるかを検討した。

 その結果,治療開始から20週目までのC型肝炎ウイルス(HCV)RNA量減少の中央値はコーヒーを飲む習慣がない群の100分の1に対し,1日3杯以上飲む群では1万分の1と有意に大きかった。

 年齢,人種・民族,性,アルコール摂取,肝酵素比(AST/ALT),肝硬変の程度,PEG-IFNの用量減少などを含む共変数を補正後,コーヒー非摂取群と比較した1日3杯以上摂取群の治療20週目および48週目(治療終了時)のHCV RNA陰性化確率はそれぞれ2.1倍,2.4倍,さらに治療終了後6カ月目(通算72週目)に陰性化が持続するウイルス学的著効率も1.8倍と,いずれも有意に高かった。

 同グループは「コーヒーの多量摂取はPEG-IFN+RBV療法の有効性の予測因子になりうる」としている。

Medical Tribune 2011年6月23日

スタチン使用者は高グレード前立腺がんの発症が少ない
 スタチンの使用が前立腺がん,特に分化度の低い高グレード(高悪性度)前立腺がんの発症リスク低下と関係することを示すデータが,米ハーバード大学などのグループにより発表された。

 同グループは,退役軍人局ニューイングランド・ヘルスケアシステムの電子管理ファイルから,降圧薬またはスタチンを服用している男性5万5,875例を特定。年齢と多変量補正済みCox比例ハザードモデルを用いて,スタチン使用群(4万1,078例)の前立腺がん発症ハザード比(HR)を降圧薬使用群(1万4,797例)と比較した。

 その結果,降圧薬使用群と比べスタチン使用群は前立腺がん発症リスクが31%低かった。スタチン群のリスク低下は低グレードのがんでは14%にとどまったが,高グレードのがんでは60%と大きかった。

 総コレステロール高値は前立腺がん全体および高グレードのがんの発症と関係したが,低グレードのがんとの関係は認められなかった。

Medical Tribune 2011年6月23日

CA-125と経腟超音波による卵巣がん検診に死亡減少効果認められず
 腫瘍マーカー(CA-125)と経腟超音波による検診は卵巣がんの死亡減少には直接つながらないことを示す試験結果が,米ユタ大学などのグループにより発表された。

 CA-125と経腟超音波による卵巣がん検診の死亡への影響は明らかにされていない。同グループは,1993年11月?2001年7月に10カ所の検診センターに登録された55〜74歳の女性7万8,216例を,年1回検診を行う介入群(3万9,105例)とコントロールの通常ケア群(3万9,111例)にランダムに割り付け,卵巣がん検診の死亡への影響を検討した。

 介入群には年1回の血清CA-125測定を6回,年1回の経腟超音波検査を4回施行した。追跡期間は2010年2月までで,中央値は12.4年であった。1次エンドポイントは原発性腹膜がんと卵管がんを含む卵巣がんによる死亡,2次エンドポイントは卵巣がんの発症および検診や診断と関連する合併症とした。

 追跡中の卵巣がん発症は介入群が212例(5.7/1万人年),通常ケア群が176例(4.7/1万人年)で,卵巣がんによる死亡は介入群が118例(3.1/1万人年),通常ケア群が100例(2.6/1万人年)であった。

Medical Tribune 2011年6月23日

エキセメスタン(日本商品名アロマシン)に閉経後女性の乳がん予防効果
浸潤性乳がん発症リスクが65%低下
 閉経後の乳がん治療薬として用いられるアロマターゼ阻害薬エキセメスタンは,高い治療効果が期待できる上,重大な副反応がないことでも知られている。米マサチューセッツ総合病院がんセンターのPaul E. Goss氏らは,閉経後の女性4,560人を対象に試験を実施し,エキセメスタンの乳がん予防薬としての可能性を検討した。その結果,プラセボ群と比較した浸潤性乳がんの年間発症率は65%低下することが認められた。

浸潤性+非浸潤性乳がんでは53%減少

 Goss氏らは,研究対象者を35歳以上の閉経後の女性に限定。その上で,(1)60歳以上,(2)乳がん発症リスクを推計するGailの5年リスクスコアが1.66%超,(3)異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がん,乳腺切除を伴う非浸潤性乳管がんのいずれかの既往?に1つ以上当てはまることを条件とし,最終的に2004年2月〜10年3月に登録された4,560例を対象とした。

 対象者を,エキセメスタン群2,285例(年齢中央値62.5歳)とプラセボ群2,275例(同62.4歳)にランダムに分類。

 その結果,追跡期間の中央値が35カ月における浸潤性乳がんの発症数は,エキセメスタン群11例,プラセボ群32例であった。年間発症率はそれぞれ0.19%,0.77%となり,プラセボ群に比べて,エキセメスタン群において乳がん発症リスクは65%の有意な減少が確認された。

 浸潤性および非浸潤性乳がんの両方の年間発症数は,エキセメスタン群20例,プラセボ群44例であった。年間発症率は,それぞれ0.35%,0.77%となり,エキセメスタン投与により,年間発症率は53%の有意な低下を示した。

Medical Tribune 2011年6月29日

WHOが「世界の死因トップ10」を発表
 世界保健機関(WHO)は6月28日,世界の死因トップ10を発表した。全世界での主な死因の1,2位は依然として心血管疾患が占める結果となった。トップ10の死因とされる疾患の多くには喫煙が関連しているとWHOは分析している。

世界の成人の約10人に1人が喫煙で死亡

 今回示された2008年における世界の年間死亡者数は5,700万人。全世界の死因では,虚血性心疾患(約730万人,12.8%)が1位,脳卒中・その他の脳血管疾患(約620万人,10.8%)がそれに続く。

 2つの疾患は低〜高所得国のいずれでも死因トップ10入りしているほか,中・高所得国では慢性閉塞性肺疾患(COPD)や呼吸器のがんも含まれている。WHOは世界の成人のほぼ10人に1人が喫煙で死亡しており,全世界の主な死因に多大な影響をもたらしていると述べている。



Medical Tribune 2011年6月30日

滑膜肉腫に養子免疫療法が有効
遺伝子操作した免疫細胞を使用
 米国立がん研究所のSteven A. Rosenberg部長らによる研究で,患者から免疫細胞を採取し,がん抗原であるNY-ESO-1を認識できるよう遺伝子を操作した上で体内に戻す養子免疫療法が,転移性滑膜肉腫の治療に有効である可能性が示された。
 
 滑膜肉腫は若年層で見られる軟部組織腫瘍としては最も多い。遺伝子操作した細胞を用いた養子免疫療法は,これまでに転移性メラノーマに対する有効性が示されていたが,固形がんで検討されたのは初めてである。
 
6例中4例で腫瘍退縮を確認

 NY-ESO-1はメラノーマ,乳がん,前立腺がん,食道がん,肺がん,卵巣がんの50%,また滑膜肉腫では80%に認められる蛋白質である。Rosenberg部長は「NY-ESO-1は,メラノーマや滑膜肉腫だけでなく,さまざまな種類のがんに発現しており,免疫療法の標的としてふさわしい」としている。

 これまでの研究で,転移性メラノーマ患者に対し,患者自身のT細胞にメラノーマ細胞上の抗原を認識する受容体を遺伝子操作により発現させ,体内に戻す治療法の有効性が示されている。今回の研究は,この結果を踏まえて実施された。

 今回は,NY-ESO-1発現が見られる滑膜細胞肉腫患者6例,転移性メラノーマ患者11例の計17例を対象とした。同博士らはまず,それぞれの患者からTリンパ球を採取し,NY-ESO-1を認識するT細胞受容体をコードする遺伝子を導入した。こうして作製された遺伝子組み換え細胞は,NY-ESO-1を発現しているがん細胞を認識し,破壊することができる。

 その結果,滑膜細胞肉腫患者4例,メラノーマ患者5例で腫瘍の退縮が確認された。また,滑膜細胞肉腫患者1例では部分奏効(PR)が18カ月間持続していたほか,メラノーマ患者2例では完全奏効(CR)が20カ月以上持続していた。

 同部長は「今後,この治療法にさらに改良を加え,他の種類のがんにも応用できるようにしたい」としている。

Medical Tribune 2011年6月30日

運動で結腸ポリープ・腺腫リスクを抑制
 週1時間以上の運動で,性,年齢,人種,過体重・肥満の有無にかかわらず,結腸ポリープ,腺腫のリスクを抑制できる。このような成績が,ニューヨーク大学ランゴン医療センターのNelson F. Sanchez氏らが実施した,アジア系を含む多様な人種982人を対象とした大腸がんスクリーニング検査で判明。詳細は米国消化器病週間(DDW 2011)で発表された。
 
週1時間以上の運動で結腸腺腫リスクが33%減少

 Sanchez氏らは,低所得の移民患者の多い市立病院で大腸内視鏡スクリーニング検査を受けた成人1,862人を前向きに登録。腹痛,直腸出血などの症状がなく,結腸ポリープ,がんの既往歴,家族歴がないなど,平均的リスクの連続する982人を対象に解析を行った。

 既往歴,食生活,運動歴は詳細な問診票でデータを収集し,身長,体重を計測。大腸内視鏡検査中の全ポリープ数,サイズ,部位を記録し,切除したポリープや異常部位の生検組織は,消化器病理医が精査した。対象を運動時間により週1時間以上の活動的な運動群(548人),同未満の非活動的な非運動群(434人)の2群に分け,結腸ポリープ,腺腫の罹患率を比較した。

 主な人種の内訳は,ヒスパニック系56.8%,アジア系20.6%,黒人15.2%,白人7%。両群の性,年齢,BMIなどに有意差はなかったが,非運動群にはアジア系の人が多い傾向があり,運動群には米国生まれの人が多かった。

 解析の結果,罹患率は結腸ポリープが運動群25.3%対非運動群32.8%,同様に結腸腺腫は13.7%対18.5%,直径1cmを超える進行性結腸腺腫は3.3%対5.6%と,それぞれ運動群で低く,結腸ポリープと腺腫では両群間に有意差が認められた。BMI 25以上の過体重・肥満例に限定しても,ポリープ,腺腫,進行性腺腫のいずれも運動群で低く,腺腫と進行性腺腫では有意差が認められた。

Medical Tribune 2011年6月30日

受動喫煙でニコチン依存症
渇望感引き起こす誘因に
 カリフォルニア大学精神医学・行動科学部のArthur L. Brody教授らは「車内など閉鎖的な空間での受動喫煙が,非喫煙者の脳において,喫煙した場合と同様の直接的な影響を及ぼすことが明らかになった」と発表。また,普段から喫煙している者においては,受動喫煙が喫煙渇望を引き起こす誘因となるとしている。
 
喫煙と同程度の影響

 先行研究から,小児期の受動喫煙により,その児が将来,未成年喫煙者となるリスクが上昇すること,受動喫煙により禁煙が困難になることなどが明らかにされており,受動喫煙が脳に喫煙行動を促すことが示唆されている。

 Brody教授らは今回,陽電子放射断層撮影(PET)を用いて脳内のα4β2ニコチン性アチルコリン受容体(nAChR)の結合度を調べたところ,閉所での1時間の受動喫煙により,直接喫煙するのと同程度のニコチン量が脳に達することを確認した。この影響は普段から喫煙している者,全く喫煙しない者のいずれにおいても認められた。

 米国立薬物乱用研究所のNora D. Volkow所長は,今回の結果を受け「受動喫煙でもニコチンが脳に到達し,実際にニコチン受容体の結合度が変化することが分かった。慢性的または重度の受動喫煙により,脳内のニコチン濃度はさらに高まる。これが最終的にニコチン依存症につながるようだ」と述べている。

Medical Tribune 2011年6月30日