広葉樹(白) 
          

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2011年5月 文献タイトル
マルチビタミン補充に死亡やがん発症を抑制する効果認められず
男性の50%にヒトパピローマウイルス感染 米国などの一般人口調査で明らかに
第36回米国インターベンショナル・ラジオロジー学会
〜肺がんに対するラジオ波焼灼術(RFA)〜放射線治療経験者に安全施行可能
前立腺がん検診の受検者と非受検者の間で前立腺がん死に有意差なし
活発な創傷治癒プロセスが基底細胞がんの形成を促進
「現在の被ばくレベルで中絶する必要ない」日本産婦人科医会
「神経質になりすぎている」との指摘も
アセトアミノフェンの長期連用で造血器腫瘍のリスクが約2倍に
切除可能膵がんに対する術前補助化学療法で生存期間が有意に延長
発がんへの影響は小さい 空港での保安検査用全身ボディースキャン
放射線治療の二次がん(がん治療の結果により発生する別の腫瘍)リスクは小さい
がんは人為的な現代病 エジプトミイラで初のがん組織診断
チェルノブイリ事故以降上昇した甲状腺がん発症リスク 現在も低下の兆しなし
2型糖尿病は腎細胞がんに関連,肥満,高血圧の合併でリスクは4倍超
第45回糖尿病学の進歩
〜メトホルミン(日本商品名グリコラン)〜血管合併症抑制やがん予防に期待

マルチビタミン補充に死亡やがん発症を抑制する効果認められず
 マルチビタミンの補充に死亡やがんの発症を抑制する効果は認められないと,米ハワイ大学のグループが発表した。

 同グループは,1993〜96年に登録した多民族コホート18万2,099例を平均11年間追跡し,マルチビタミンの使用と死亡およびがんとの関係を検討した。追跡中の死亡は2万8,851例だった。

 喫煙を含む可能性のある交絡因子を調整した結果,マルチビタミンの使用と全死亡および心血管疾患またはがんによる死亡との間に関連は認められなかった。また,マルチビタミンによるがん発症の減少も増加も観察されなかった。

Medical Tribune 2011-5-5

男性の50%にヒトパピローマウイルス感染
米国などの一般人口調査で明らかに
 H. Lee Moffittがん研究センター(米)のAnna R. Giuliano教授らは,一般人口から抽出された男性の約50%がヒトパピローマウイルス(HPV)に感染していることが分かったと発表した。
 
複数相手との性交渉でリスク増大

 毎年,男性の6%がHPV16型に新規感染している。HPV16型は女性の子宮頸がんの原因ウイルスとして最もよく知られているが,男性のがんの原因にもなる。さらに,男性では性交パートナーが同性か異性かにかかわらず,複数のパートナーを持つことでHPV感染リスクは高まる。

 2009年の米国の発がん症例数のうち,男女合わせて約3万2,000例がHPV感染に起因するがんと推定されている。これらのがんは,子宮頸がん,腟がん,外陰がん,陰茎がん,口腔がん,頭頸部がん,肛門管がんなどである。HPV感染によるがんのうち最も多いのは肛門性器疣贅で,米国では毎年10万人当たり205例が診断されている。

 さらに,男性の場合,HPVが直接複数の疾患を引き起こすだけでなく,男性から女性にウイルスが容易に感染し,女性の疾患リスクに著明な影響を与える。したがって,男性におけるHPV感染の実態を理解することは,公衆衛生上重要で,男性へのワクチン接種の費用効果を判断するモデルづくりに活用できる。

 今回の研究では,米国,ブラジル,メキシコにおいて,HIV陰性でがん既往歴のない18〜70歳(平均年齢32歳)の男性1,159例を登録して6カ月ごとに評価し,平均で2年超追跡した。その結果,HPVのいずれかのタイプに感染している男性は約50%だった。あらゆるタイプのHPVによる新規生殖器感染の罹患率は,1,000人月当たり38.4人であった。

 50人を超える女性との性交経験を有する男性では,性交経験のない,または1人しか経験のない男性と比べ,発がん性を持つHPVの感染リスクは2.4倍高く,3人以上の男性と肛門性交を経験した男性では,最近性交パートナーのいない男性と比べ同リスクが2.6倍高かった。HPV感染期間の中央値は,あらゆるHPVで7.5カ月,がんの原因となるHPV16型で12カ月であった。

Medical Tribune 2011-5-5

第36回米国インターベンショナル・ラジオロジー学会
〜肺がんに対するラジオ波焼灼術(RFA)〜
放射線治療経験者に安全施行可能
 手術適応のない肺がん患者や術後再発して残存肺の少ない患者,あるいは放射線治療後に再発した肺がん患者に残された治療オプションは限られている。スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)インターベンショナルラジオロジー科のElena Petre博士らは,RFAを施行した肺がん症例を後ろ向きに検討した結果,放射線治療経験者に対するRFAは安全性が高いことが確認されたと報告した。

最も多い合併症は気胸

 Petre博士らは2006年5月〜10年5月に同センターで施行した肺がんに対するRFA治療246セッションのうち,複数の腫瘍に対して行った治療セッションやRFA既往歴のある患者に対するセッションを除いた165セッションのカルテと画像所見を調べ,術後30日以内の合併症を検証した。

 患者は男性80例,女性85例で,RFA施行時の平均年齢は70±12歳。97例は原発性肺がん,68例は転移性肺がんで,平均腫瘍サイズは1.9±1.1cm(0.5〜6.5cm)だった。また,RFA以前に放射線治療を受けていた患者は28例(全例原発がん),手術を受けていた患者は53例だった。

 RFA後の合併症は75例(45%)に認められた。そのうち71例は気胸で,47例はドレナージを必要とした。3例は喀血だったが,これらは放射線治療歴のない症例だった。ほかに感染症が1例に見られた。

 単変量解析の結果,RFA後の合併症のなさと有意に関連する因子は,同側肺に対する手術歴,同側肺への放射線治療歴,焼灼プローブの数の少なさの3つで,多変量解析では,放射線治療歴とプローブ数のみが合併症に対する有意な予防因子であった。

 このように再発肺がんに対するRFAは比較的有害事象の少ない安全な治療法であるが,最も多い合併症である気胸に関しては,放射線治療歴が予防的因子であることが明らかになった。この理由について,同博士らは「放射線治療を受ける肺がん症例の大半に肺線維症が発現するが,これがRFAを施行する際,焼灼周囲でバリアとなり,胸膜腔への空気の漏れを防止するのかもしれない。あるいは,放射線治療が胸膜の結合をもたらし,肺の崩壊リスクを低下させるのかもしれない」と考察した。

Medical Tribune 2011-5-5

前立腺がん検診の受検者と非受検者の間で前立腺がん死に有意差なし
 前立腺がん検診を受けた男性と受けなかった男性の20年後の前立腺がんによる死亡率に有意差はないことを示す試験結果が,スウェーデンのグループにより発表された。

 同グループは,前立腺がん検診により前立腺がんによる死亡が減るかどうかを検討するランダム化比較試験を行った。対象は,1987年にスウェーデンのノルチェピング市に居住していた50?69歳の全男性9,026例。そのうち,出生データリストから6番目ごとに抽出した1,494例を検診群に割り付けた。

 検診は1987?96年で3年ごとに実施。1・2回目(87年と90年)は直腸診のみとし,3・4回目(93年と96年)は前立腺特異抗原(PSA)の測定も行った(カットオフ値4μg/L)。4回目の受検者は69歳以下のみとした。受検率はそれぞれ78%(1,161/1,492例),70%(957/1,363例),74%(895/1,210例),74%(446/606例)であった。

 その結果,2008年までの前立腺がん診断は検診群が85例(5.7%),コントロール群が292例(3.9%)だった。コントロール群と比較した検診群の前立腺がんによる死亡リスク比は1.16,Cox比例ハザード解析によるハザード比(HR)は1.23と有意差はなかったが,試験開始時の年齢を調整するとHRは1.58と高くなった。

Medical Tribune 2011-5-12

活発な創傷治癒プロセスが基底細胞がんの形成を促進
 カロリンスカ研究所のRune Toftgrd教授らは「活発な創傷治癒プロセスが皮膚の基底細胞がん(BCC)リスクを上昇させる」との研究結果を発表した。
 
皮膚損傷とUVでリスク増大

 Toftgrd教授らは今回,ヒト腫瘍と同じ遺伝子変異を有するマウスを用いて,BCCの発生と創傷治癒との関連を調べた。その結果,活発な創傷治癒のプロセスが腫瘍サイズの増大および腫瘍の発生を促進することが示された。その機序として同教授らは,前者については「創傷治癒の過程で細胞増殖が活発化するのが原因と考えられる」とする一方,後者については「腫瘍形成能を持つ細胞が蓄積するため」としている。

 BCCは皮膚にできるがんの中で最も多い。以前の症例研究で,慢性または急性の創傷がBCCリスク増加と関連することが示されていたが,今回の研究ではその機序が細胞レベルで解明された。

 同教授は,組織に損傷を生じさせる重度の日焼けがBCCの危険因子であることを示すエビデンスがあることから,「日光の紫外線(UV)への曝露と活発な組織再生は,基底細胞がんリスクを増大させる危険な組み合わせである」と述べている。

 今回の研究では,腫瘍形成がどこでどの細胞から始まるのかを明らかにするため「系統追跡」と呼ばれる手法が用いられた。系統追跡では細胞を恒久的に標識することで,その細胞と娘細胞を追跡できる。

 この手法を用いて観察したところ,毛包の幹細胞が創傷治癒に活発に寄与していること,これらの幹細胞やその娘細胞が創傷治癒促進のため毛包から移動することが分かった。

 創傷治癒の過程で皮膚の毛包以外の部分(毛包間表皮)に移動した毛包幹細胞とその娘細胞は,そこで新たに腫瘍形成能を獲得する。また,すべてのタイプの創傷が腫瘍形成を促進するわけではなく,皮膚深部への損傷(いわゆる全層創傷)に限定されることも明らかになった。

Medical Tribune 2011-5-12

「現在の被ばくレベルで中絶する必要ない」日本産婦人科医会
「神経質になりすぎている」との指摘も
 東日本大震災に伴う福島第1原子力発電所の事故は,東北地方を中心とした東日本の住民に大きな不安をもたらしており,検証可能な過去の事例が少ない中でさまざまな憶測が飛び交っている。

 日本産婦人科医会副幹事長の塚原優己氏(国立成育医療研究センター周産期診療部産科医長)は5月11日,東京都で開かれた記者会見で,放射能汚染に対する基礎知識と現実的対応を報告。1986年にソ連(現ウクライナ)で起きたチェルノブイリ原発事故の際,ギリシャで人工妊娠中絶が増加したというデータを示し,「現在の被ばくレベルでは中絶する必要はない」と訴えた。また,同医会副会長の今村定臣氏は,現在の状況を「神経質になりすぎている」と苦言を呈している。

「現在の対応の正否は歴史が決めること」


 塚原氏は,広島・長崎の原子爆弾やチェルノブイリ原発事故の疫学調査,食品安全委員会や国際放射線防護委員会の勧告などから,現在までに導き出されている放射線被ばくの危険性を提示。それによると,死産や奇形,染色体異常に対する体内被ばくの影響は,高線量被ばくでもリスクが高まらなかった。ただ,重度精神遅滞は8〜15週齢で0.5Gy(500mSv)以上被ばくした場合,20%ほど上昇したという。

 同氏は「今回の報告は現在までに得られている知識に基づいている。チェルノブイリ原発事故直後では,後に国際原子力機関(IAEA)が指摘した被ばく小児の甲状腺がん多発を予測できなかったように,現在の対応が正しいかどうかは歴史が決めること。時間を経なければ分からない。しかし,高線量被ばくの対応をしておけば,今回のような低線量被ばくに十分な措置が取れるだろう」と説明。

 その上で「子宮線量は母体の10分の1程度といわれており,100mSv以下では影響はないだろう。チェルノブイリ原発事故を受けてギリシャで人工妊娠中絶が増加したというデータがあるが,現在の被ばくレベルでは中絶する必要はない」と訴えた。

“被ばく二世”からの苦言

 今村氏の発言は,これらのデータを踏まえたもの。同氏は,母親が広島の爆心地から約1kmの場所で被ばくした“被ばく二世”で,放射線被ばくに対しては非常に気にしているという。それでも,現在の状況は「神経質になりすぎている」と感じており,もし同氏が退避命令が出ている福島第1原発から20〜30km圏内の地域に住んでいたとしても,疫学調査の結果から導き出されたリスクと避難所生活のデメリット比較して「断固として自宅にとどまる。家族も同意してくれるだろう」としている。

 さらに,同氏は「慢性的な被ばくではっきりとしたエビデンスがあるのは,小児の甲状腺がん,白血病,白内障のみ。データの解釈はさまざまで,それぞれの考え方を尊重しなければならない。それに基づいて自分で選ぶことも大切なので,選択肢は多い方がよいだろう」とした上で,「今回,産婦人科医会が行った検討の結果は,“ざっくり言って心配ない”というのが総括だろう。ただ,被ばく線量は少ないに越したことはない,若年者に注意を払わなければならない。現時点ではこの程度のことしか分かっていないだろう。数字ばかりが踊りすぎている感がある」と述べた。

 福島県が今後30年間をかけて健康調査を実施すると発表したが,同医会でも日本産科婦人科学会とともに福島県の胎児を対象とした疫学調査を行う予定。ただ,現在は対象となる妊婦・胎児が同県から去っている状態で,県との連携を含め,開始時期を検討中だという。

Medical Tribune 2011-5-16

アセトアミノフェンの長期連用で造血器腫瘍のリスクが約2倍に
 米ワシントン大学のRoland B. Walter氏らは市販のかぜ薬などに含まれるアセトアミノフェン(日本商品名カロナール)の高頻度かつ長期の連用により,一部の造血器腫瘍のリスクが約2倍に上昇していたとの前向き研究の結果を報告した。

 同研究は米の大規模調査Vitamins and Lifestyle(VITAL) studyに参加した50〜76歳の男女6万4,839例を対象に実施された。

アスピリン・その他のNSAIDの長期連用と造血器腫瘍との関連見られず

 2000〜02年,VITAL studyに登録された50〜76歳の男女のうち,ベースライン時にがん(非メラノーマ皮膚がんを除く)の既往があった人およびがんに関する情報がなかった人は除外された。登録前10年間におけるNSAIDの服用頻度や健康状態をアンケートで調査,回収した。調査対象の薬剤は低用量アスピリン(81mg),通常用量または高用量アスピリン,イブプロフェン,ナプロキセン,セレコキシブまたはロフェコキシブ,ピロキシカム,インドメタシン,アセトアミノフェン。

 その結果,アセトアミノフェンの高頻度かつ長期連用(週4回以上の服用が4年以上)群における造血器腫瘍のハザード比(危険率HR)は1.84と有意に上昇していた。また,同群における骨髄異形性症候群(MDS)や急性骨髄性白血病などの骨髄系腫瘍のHRは2.26,非ホジキン性リンパ腫のHRは1.81,形質細胞疾患(plasma cell disorders)のHRは2.42であった。

 アスピリン,その他のNSAID,イブプロフェンと各種造血器腫瘍発症との有意な関連は見られなかった。

 同氏らはアセトアミノフェンの高頻度かつ長期の使用は,一部の造血器腫瘍発症では約2倍のリスク上昇と関連していたと結論。一方,造血器腫瘍の予防という観点ではアスピリンやその他のNSAIDは有用ではないかもしれないとしている。

Medical Tribune 2011-5-19

切除可能膵がんに対する術前補助化学療法で生存期間が有意に延長
 切除可能膵がんに対する補助化学療法(化療)は術後より術前に施行した方が有意に長い生存期間が得られるとするデータが,米ベイラー医科大学などのグループにより発表された。

 同グループは,カリフォルニア州ロサンゼルス郡のがんサーベイランスプログラムから,1987〜2006年に完全膵切除と補助化療を受けた転移のない膵腺がん患者458例を特定。術前化療群と術後化療群の生存を後ろ向きに比較した。

 458例中39例(8.5%)が術前化療,419例(91.5%)が術後化療を受けていた。

 解析の結果,術前化療群は腫瘍の膵外進展率が高かったにもかかわらず,リンパ節転移陽性率は術後化療群より有意に低かった(45%対65%)。

 Kaplan-Meier解析による生存期間中央値は術後化療群の19カ月に対し,術前化療群は34カ月と有意に長かった。結果は,膵外進展が見られた患者でも同様だった(19カ月対31カ月。

Medical Tribune 2011-5-19

発がんへの影響は小さい 空港での保安検査用全身ボディースキャン
 米国では,多くの空港で保安検査を目的とした全身ボディースキャナー(以下ボディースキャナー)の設置が進められている。カリフォルニア大学バークリー校公衆衛生学のPratik Mehta氏らが,このようなボディースキャナーによる潜在的な放射線被ばくリスクについて検討したところ,利用者に有意なリスクを及ぼすことはほとんどないことが明らかになった。

搭乗パターン別に推定

 背景情報によると,米運輸保安局は,これまでに国内の78空港に486台のボディースキャナーを設置しているが,2011年末までには1,000台を設置する予定である。これらのボディースキャナーは後方散乱X線を利用しており,実際に発する放射線量は極めて低いため,有害となりうるか否かは確認されていない。しかし,Smith-Bindman博士らは「たとえ放射線量は低くても,航空機の利用者は年間7億5,000万人に上ること,また個々人におけるリスク上昇はわずかでも全体的にはがん患者数の増加となりうることから,ボディースキャナーによる発がんリスクについて検討する価値はある」としている。

 同博士によると,こうした装置による1回当たりの被ばく量は,日常生活における自然被ばく量に換算すると3〜9分間の被ばく量に相当する。また,他の放射線源と比較しても,空港でのボディースキャンで,歯科X線検査,胸部X線検査,マンモグラフィ,腹部・骨盤部CTの1回当たりの放射線量に達するには,それぞれ50回,1,000回,4,000回,20万回以上受けなければならない計算になる。

 今回の検討では,空港でのボディースキャンによる放射線被ばく量を(1)すべての航空機利用者(2)高頻度利用者(週10回利用)(3)高頻度に利用する5歳女児(週1回往復)?の3つのパターンごとに定量化し,潜在的な被ばくリスクを推算した。5歳女児を検討パターンの1つとした理由は,小児は成人と比べて放射線の影響を受けやすいこと,また飛行機の頻繁利用による乳がんリスクを評価したモデルが既に存在したことによる。

 推算に当たっては,すべての乗客が1回のフライトごとに照射量0.1μシーベルトの全身ボディースキャンを1回受けるとし,1億人の乗客が年間計7億5,000万回利用すると仮定した。

飛行によるリスクの方が大きい

 解析の結果,すべての航空機利用者では,空港でのボディースキャンによる生涯のがん発症数は6件と推定された。しかし,Smith-Bindman博士らは「これらの乗客における生涯のがん発症数は4,000万件にも上ると考えられる。このことを踏まえた上で,この6件によるリスクを評価すべきである」と指摘している。

 高頻度利用者(100万人)では,ボディースキャンによる生涯のがん発症数は4件と推定された。これに関しても,同博士らは「この集団で高高度飛行に伴う宇宙放射線によりがんが600件発症すること,生涯のがん発症数も全体で40万件であることを前提に考えなければならない」としている。また,高頻度に利用する5歳女児ではボディースキャンにより200万人に1人が乳がんを発症すると推算されたが,この集団でも頻回飛行による乳がん発症は25万件に上り,これは同集団の生涯乳がん発症数の12%を占めるとした。

 同博士らは「今回の知見に基づけば,全身ボディースキャンによる健康上のリスクは非常に小さく,航空機利用者はそれを理由に同検査を恐れるべきではない。放射線に対し過敏に反応し,被ばくが心配だというのであれば,一切の航空機利用を考え直すべきだろう。なぜなら,些少ではあるが実際にリスクとなるのは航空機を利用すること自体で,ボディースキャンで微々たる放射線量を受けるからではないためだ」と指摘している。しかし,その一方で「米運輸保安局は今後も,同装置の安全性検証のための追加試験を実施していくのが望ましい」と付け加えている。

Medical Tribune 2011-5-19

放射線治療の二次がん(がん治療の結果により発生する別の腫瘍)リスクは小さい
 米国立がん研究所放射線疫学科のAmy Berrington de Gonzalez博士らは,がんの診断を受けた成人を平均12年間追跡した結果,「放射線治療に伴う二次がんの発症リスクは小さい」との結論に至ったと報告した。

 今回の研究は,15種のがんを対象にルーチンでの放射線治療リスクを定量化したものとしては初で,大半の二次がんはライフスタイルや遺伝子など放射線治療以外の原因によるものであることを示唆している。

5年生存者の9%が二次がんに

 近年,がんの生存率は向上しているが,それに伴って放射線治療などによる長期的なリスクを評価することの重要性が高まりつつある。これまでに,放射線治療が二次がんの発症リスクを上昇させることは分かっているが,放射線治療に関連して発症する二次がんが,実際にはどの程度を占めるのかについては不明であった。

 de Gonzalez博士らは今回,Surveillance,Epidemiology and End Results(SEER)プログラムの登録例のうち,がんの診断を受けてから5年以上生存している成人患者64万7,672例のデータを収集。放射線治療に伴う二次がん発症の長期的リスクについて検討した。平均追跡期間は12年であった。

 その結果,同期間中に患者の9%(6万271例)で二次固形がんが発症した。しかし,そのうち放射線治療に起因する二次がんは3,266例にすぎず,診断から5年以内に放射線による二次がんが発症していないと仮定した場合,これらのがんは全二次がん発症例のうち約8%を占めるにすぎなかった。

 なお,この割合は初発がんの発症部位によって異なり,15種のがん種別の検討では眼内・眼窩がんの4%から精巣がんの24%まで幅があった。また,これらの二次がんのうち半数超が乳がんまたは前立腺がん患者で発症していた。

 同博士らは,放射線治療を受けた患者が初発がんの診断後10年までに新たにがんを発症する割合は1,000例当たり3例,15年までで5例と推定し,「このリスクは放射線治療で見込まれる便益に対して小さい」と強調。さらに,今回の知見について「医師や患者が適切なリスク便益比に基づき,放射線治療の是非を判断するのに役立つ」としている。

Medical Tribune 2011-5-19

がんは人為的な現代病 エジプトミイラで初のがん組織診断
 マンチェスター大学生物医学エジプト学KNHセンターのA. Rosalie David,Michael R. Zimmermanの両教授は「がんは汚染や食事などの環境因子によって引き起こされる現代病で,ヒトによってつくり出された可能性が高い」とする研究結果を発表した。古代エジプト・ギリシャとそれ以前の時代の遺物と文献を調査した今回の研究では,エジプトミイラに対して初めてがんの組織学的診断が行われた。

古代にがんはまれ

 David教授らは,数百体のエジプトミイラを調査した結果,1体からしかがんが見つからなかったこと,文献でもがんについての記述がほとんど見つからなかったことから,「古代において,がんは極めてまれな疾患であった」と結論。また,がんの罹患率は産業革命以降,劇的に増加し,特に小児がんで顕著であったことから,がんの増加は単に寿命延長の影響ではないことが示唆されるとしている。

 同教授は「工業化社会において,がんは心血管疾患に次いで2番目に多い死因だが,古代では極めてまれであった。このことから,古代の自然環境にはがんの要因になるものは存在せず,がんは環境汚染や食事・ライフスタイルの変化が原因の人為的疾患と考えざるをえない」と述べている。

 今回の研究では,がんを歴史的観点からとらえており,100年ではなく,1,000年の時代間隔について調査を行い,大量のデータが収集された。

直腸がん1例のみ

 今回収集されたデータには,エジプトミイラで初めて実施された組織学的診断の結果が含まれる。この診断を行ったのは,KNHセンターの客員教授で,普段はビラノーバ大学(米)を拠点に研究を行っているZimmerman教授である。同教授によって唯一がんと診断されたミイラは,プトレマイオス朝時代(BC400〜200年)にダフラオアシスに住んでいた“一般人”で,直腸がんであった。

 同教授は「古代社会に手術という治療選択肢はなかったため,古代のミイラには必ずがんの痕跡が残っている。ミイラに事実上腫瘍組織が見つからないということは,古代においてがんがまれな疾患だったことを意味している。そしてこの事実は,がんの要因が現代の工業化社会にしか存在しないことを証明している」と述べている。

寿命の違いでは説明できない

 古代人は現代人より短命であったため,がんが発生しなかったのではないかとする説がある。この説は統計学的には正しいものの,古代エジプトや古代ギリシャの人々は,実際にはアテローム動脈硬化症,骨パジェット病,骨粗鬆症などを発症する年齢まで長生きしており,骨腫瘍などはむしろ,現代社会においても若年者で発症しやすい。

 それ以外にも,腫瘍組織が適切に保存できないため古代のミイラから腫瘍が発見されないという可能性も考えられる。しかし,Zimmerman教授はこれに対しても,腫瘍組織の特徴はミイラ化しても保存されることを実験的研究により証明。実際,正常組織よりも良好に保存されることを示した。このような知見が得られ,そして世界中のすべての地域のミイラ数百体が調査されたにもかかわらず,がんが顕微鏡的に確認されたとする論文はこれまで2件しかない。またカイロ博物館と欧州の博物館に安置されているミイラでも放射線学的調査が行われたが,やはりがんの痕跡は発見されなかった。

Medical Tribune 2011-5-19

チェルノブイリ事故以降上昇した甲状腺がん発症リスク
現在も低下の兆しなし
 チェルノブイリ原発事故による被ばく線量と甲状腺がん発症リスクの関係について前向きコホート研究を行った米国立がん研究所(NCI)放射線疫学部門のAlina V. Brenner博士らは「事故からおよそ25年を経た現在も,小児・青年期に放射性ヨウ素131(131I)に曝露された人では甲状腺がんリスクの低下傾向は認められない」との研究結果を発表した。

 
初めての前向き研究

 NCIが率いる国際研究チームは,131Iに曝露された人では,取り込まれた131Iの量が高ければ高いほど甲状腺がんの発症リスクが高まるという明らかな線量?反応性の関係が認められ,甲状腺がんの発症リスクの低下は長期にわたって見られないとの知見を示した。

 Brenner博士らは,ウクライナで発生したチェルノブイリ原発事故からおよそ25年を経た現在も,降下した131Iへの曝露が,事故当時,小児・青年期であったチェルノブイリ地区の住民における甲状腺がんの発症原因である可能性が高いと指摘している。

 今回の研究は,事故当時,小児・青年期だったチェルノブイリ地区住民の131Iと甲状腺がんリスクとの関係を検証した初めての前向き研究である。

 同博士は「今回の研究は,これまで行われたチェルノブイリ事故に関する研究とは多くの点で異なる。まず第1に,われわれは事故後2カ月以内に実施された甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素由来の放射線量の測定結果に基づいて研究を行った。さらに,標準的な検査手法により甲状腺がんを同定した。その線量にかかわらず,集団に含まれるすべての被験者を対象にスクリーニングを行った」と述べている。

事故当時18歳未満を対象

 この研究は,1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故の発生時に,原発事故現場に近接するウクライナ地方の3地域(チェルニヒフ,ジトーミル,キエフ)に在住し,当時18歳未満だった1万2,500人強を対象に行われた。

 事故後2カ月以内に甲状腺の放射能レベルを測定し,それを基に131I由来の放射線量を推計した。事故から12〜14年後に初回の甲状腺がんスクリーニングを行い,その後10年間にわたり最多で年間4回,スクリーニングを実施した。

 スクリーニングでは,甲状腺肥大の触診,超音波検査,内分泌専門医による個別の診察と甲状腺検査といった標準的なスクリーニング手法が用いられた。

 被験者に対しては,甲状腺におけるヨウ素由来の放射線量の推計に関連する項目について調査用紙の記入が求められた。具体的には,住居歴や牛乳消費量,甲状腺に取り込まれる放射性ヨウ素量を低減させる安定ヨウ素剤の予防的服用を事故後2カ月以内に行ったか否かなどを尋ねた。

 甲状腺がんの疑い例は生検に回し,がん細胞となる可能性のある細胞を採取して顕微鏡検査を行った。また,治療の必要性が認められた場合は,適宜,外科的切除術を検討した。被験者のうち計65例が甲状腺がんと診断された。

1Gy上昇でリスク倍増

 Brenner博士らは,131I由来の放射線量から甲状腺がんの発症リスクを算出した。

 分析の結果,1グレイ(Gy,吸収される放射線のエネルギー量を示す国際単位*)増えるごとに甲状腺がんの発症リスクが2倍になることが示された。

 研究期間中,チェルノブイリ原発事故発生時に当該地域に住んでいた人のがんリスクが,時間の経過とともに低下したことを示すエビデンスは得られなかった。一方,過去に原爆の被害を受けた人を対象に行われた研究や,治療目的で放射線照射を受けた人を対象にした研究では,被ばくから30年後にがん発症リスクが低下し始めるが,40年後には再度上昇することが示されている。

 同博士らは「がん発症リスクの低下が最終的にいつから認められるかを確定するには,この集団を今後も継続して追跡する必要がある」と述べている。

*シーベルトSv= Gy×放射線荷重係数

Medical Tribune 2011-5-19

2型糖尿病は腎細胞がんに関連,肥満,高血圧の合併でリスクは4倍超
米Nurse'sHealthStudy,12万人32年の追跡結果
 米ハーバード公衆衛生大学院のHee-Kyung Joh氏らは,看護師の女性約12万人を登録した大規模な前向きコホート研究Nurse'sHealthStudyの分析の結果,2型糖尿病は腎細胞がんリスクを1.6倍上昇させており,肥満,高血圧,2型糖尿病をすべて合併した場合,リスクは4倍超になっていたと報告した。

2型糖尿病罹病期間5〜10年で最もリスクが高い

 Nurse'sHealthStudyでは1976年に33〜55歳だった12万1,700人の看護師を登録。ベースラインで既往症や各種慢性疾患の危険因子などに関する質問票を郵送し,その後2008年まで隔年で質問票を送付して情報を更新した。

 Joh氏らの研究ではベースラインのがん患者を除く11万8,177人を分析。

 ベースラインで2型糖尿病を申告したのは1,638人で,32年間の追跡中(353万1,170人年)に新たに1万5,181人が2型糖尿病を発症した。また,330人が病理組織学的検査で診断された腎細胞がんを発症した。2型糖尿病がある場合は,ない場合と比べてBMIが高く(1990年時30.5 vs. 25.5),高血圧の既往の割合が高かった(同63.4% vs. 28.8%)。

 分析の結果,年齢,BMI,高血圧,喫煙状況,喫煙指数(パックイヤー),出産回数で調整後,2型糖尿病は有意に腎細胞がんと関連していた。2型糖尿病診断から2年以内の腎細胞がんを除いても,結果は有意だった。

Medical Tribune 2011-5-23

第45回糖尿病学の進歩
〜メトホルミン(日本商品名グリコラン)〜
血管合併症抑制やがん予防に期待
 メトホルミンは海外では豊富なエビデンスにより,肥満を伴った2型糖尿病患者の第一選択薬として広く使用されている。東京慈恵会医科大学糖尿病・内分泌内科学の森豊准教授は,海外で報告されているメトホルミンの血管合併症抑制効果および最近注目されているがん予防効果について概説した。

日本人の血糖コントロールには1,500mg/日必要

 メトホルミンの多くのエビデンスの中でも英国の前向き糖尿病試験(UK Prospective Diabetes Study;UKPDS)は,肥満を伴う2型糖尿病患者におけるメトホルミンの有用性を立証するものとなった。肥満者だけを解析対象としたUKPDS34では,メトホルミン強化療法群が従来療法群に比べ良好な血糖コントロールを示し,10年後の糖尿病関連エンドポイント,糖尿病関連死,総死亡,心血管合併症のリスクを有意に低下させた。

 その後10年間追跡調査したUKPDS80では,メトホルミン強化療法群では従来療法群とHbA1c値の改善に差はなくなったにもかかわらず,死亡や合併症のリスク低下が維持され,同薬による早期治療の有用性が示された。

 また,HOME(Hyperinsulinaemia: the Outcome of Its Metabolic Effects)trialでは,インスリン治療中の2型糖尿病患者でも,メトホルミンを併用した群ではインスリンだけのプラセボ群に比べ,血糖値が改善,インスリン必要量が減少,体重が有意に減少,心血管障害の発症リスクが39%低下したことが報告された。これらはUKPDS34のデータを後押しする結果であり,メトホルミンの心血管合併症の抑制作用は豊富なエビデンスに裏付けられつつある。

 一方,わが国では現在,糖尿病患者でも日本人一般の死因と同様にがんが死因の第1位になっており,糖尿病とがんの関係に注目が集まっているが,メトホルミン使用2型糖尿病患者は非使用患者に比べ,がん発症リスクが低いことがコホートスタディにより明らかとなった。これは,メトホルミンのAMPキナーゼ活性化による細胞増殖抑制や,がん抑制遺伝子p53活性化によるアポトーシス惹起などが複合的に作用して発がんを抑制すると考えられている。

 各種糖尿病治療薬の膵がんに与える影響を調査した米国の報告によると,メトホルミンの膵がんリスクの調整オッズ比は0.38と他剤に比べ有意に低く,インスリン投与歴がない患者でも0.44,二次性糖尿病を除外するため罹病期間2年以内の症例で見ても0.41と,有意なリスク低下が認められた。

 しかし,これらの報告はすべて海外の臨床試験であり,メトホルミンの投与量も日本での従来の1日最大用量750mgよりはるかに多い。最近,日本でも2,250mg/日まで投与可能となったことから,メトホルミン増量に伴う血糖変動について連続血糖モニターで検討したところ,750mg/日では食後高血糖を抑制できなかったが,1,500mg/日以上では顕著に改善し,血糖変動の指標も縮小した。

 以上の結果から,森准教授は「日本人2型糖尿病患者の血糖コントロールには,少なくともメトホルミン1,500mg/日が必要である。海外の試験ではあるが,用量依存性の血糖降下作用に加え,血管合併症の抑制効果やがん予防効果にも期待できる」と述べた。

Medical Tribune 2011-5-26