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2011年4月 文献タイトル
膵がんの早期発見に希望 発症までに10年以上を要することが明らかに
1日1杯の生ビールで発がんリスク上昇,男性の食道がんは1.4倍に 欧州8カ国の大規模コホート研究
ジゴキシンが前立腺がん治療薬として有望,25%のリスク低下と関連 薬理学と疫学との共同研究で一定の成果
顔面紅潮など更年期障害の発生が乳がん発症リスク低下の指標
ワクチンで悪性脳腫瘍患者の生存期間が延長
世界で初めて肝がん全ゲノムを解読解析 国立がんセンターと東大先端科学技術研究センターの共同研究
透析患者 CT検査による放射線曝露で発がんリスク増大
遺伝子検査で慢性C型肝炎患者の発がんリスクが予測可能に リスク型の発がんリスクは非リスク型の約2倍
大量飲酒で膵がんによる死亡リスクが上昇
非ステロイド抗炎症薬(NSAID)に結腸がん予防効果
第36回米国インターベンショナル・ラジオロジー学会
〜Y-90微小球による放射線塞栓療法〜肝転移第U相試験で70%の疾患制御率

膵がんの早期発見に希望
発症までに10年以上を要することが明らかに
 ジョンズホプキンス大学Sol Goldman膵がん研究センター病理・腫瘍学のChristine A. Iacobuzio-Donahue准教授らは,死亡した膵がん患者7例の組織を用いてゲノム解析を行った結果,膵がんの発症と転移には,これまで考えられていたよりも長い時間がかかっていることが分かったと発表した。研究では,膵がんを引き起こす最初の変異から完全ながん細胞が形成されるまでに10年以上を要することが明らかになったことから,同准教授らは「将来的には早期の発見と治療も可能になるかもしれない」と期待を寄せている。
 
「進行が早い」とする定説を覆す結果に

 Iacobuzio-Donahue准教授らによると,膵がんの発生時期と最適な介入時期が定量的に評価されたのは今回の研究が初めて。その結果,膵がんの発生や進行にはこれまでに考えられていたよりも長期間を要し,検診に適した期間が極めて長いことが明らかにされた。この結果を踏まえ,同准教授は「現状では多くの人がこの機会を逃している」と指摘している。

 膵がんは初期には症状がほとんど現れず,特異度の高い画像診断法もないため,早期発見が難しいことで知られている。同大学キンメルがんセンターラドウィグがん遺伝学・治療学センターのBert Vogelstein所長は,「今回の結果は,膵がんが発生してから従来の検査法で発見されるまで多くの場合,長い時間が経過していることを示している。したがって,早期発見のための新たな診断ツールが開発されれば,根治手術が可能になるかもしれない」と述べている。

 今回の研究では,膵病変部の細胞が最初にがんを引き起こす遺伝子変異を起こしてから完全ながん細胞になるまで10年以上を要することが明らかにされた。この時点で,病変は悪性度が高まっており,大腸ポリープのように切除が必要であるという。

 膵臓にできた最初のがん細胞が数10億個に増殖してプラム大のがん性腫瘍になるまでには,さらに平均7年近くかかり,その後,腫瘍組織の少なくとも1つの細胞が他の臓器に転移する能力を持つことになる。転移すると,平均2年半で死亡するとされている。

転移能を持つまで18年以上

 Iacobuzio-Donahue准教授らは今回,膵がんが転移して死亡した7例の剖検で組織サンプルを採取。このサンプル採取は患者死亡の6時間以内に行われたため,がん細胞の一部は採取後も生存しており,DNA抽出と塩基配列決定が可能であった。

 検査の結果,全例で2カ所以上(主に肝臓,肺,腹膜)に転移が認められ,転移部位と原発部位の両方で類似した遺伝子変異が確認された。また,その変異の型を転移の前後に同定して分類した結果,いずれの型の変異も原発腫瘍内に存在し,それらは転移が臨床的に発見される何年も前から既に存在していたことが分かった。

 同准教授らは今回,数学的モデルを用いて膵がんの進行時期を推定し,高悪性度の膵病変部に最初のがん細胞が発生するまで平均11.7年,その後,がんが増殖して1個以上の細胞が転移能を持つまで平均6.8年,さらに患者が死亡するまで平均2.7年の期間があったことを明らかにした。

 同准教授らは今後の目標として,乳がんや大腸がんで実施されている検診計画と同様の計画を膵がんでも考案することを挙げている。同准教授は「初期の膵がんでは明確な症状が現れないことが多いが,一定の年齢を超えた人々には内視鏡検査による膵がん検診を実施する必要もあるかもしれない」としている。

Medical Tribune 2011年4月7日

1日1杯の生ビールで発がんリスク上昇,男性の食道がんは1.4倍に
欧州8カ国の大規模コホート研究
 アルコールの有害摂取によって世界で年間250万人が死亡している現状から,世界保健機関(WHO)では加盟国に向けて過剰飲酒に注意するよう呼びかけている。こうした中,欧州8カ国の大規模コホート研究により,1日当たりのアルコール摂取量が男性で24g超の場合,発がんリスクが10%上昇するという結果が報告された。

 男性の食道がんなどの上部気道消化管がんに限ると,リスクは1.44倍になったという。アルコール24gはビールの一般的な中ジョッキ1杯分(500mL),ワインのグラス2杯分(240mL)に相当する。
 
男性の肝がんも1.3倍

 論文を発表したドイツ栄養研究所のMadlen Schtze氏らは,欧州10カ国からランダムに選別した約52万人が対象の研究データから,英国,フランス(女性のみ),ドイツ,イタリア,オランダ(女性のみ),スペイン,ギリシャ,デンマークに住む37〜70歳の36万3,988人(男性10万9,118人,女性25万4,870人)の情報を抽出。対象者の自己申告による過去12カ月間のアルコール(ビール/リンゴ酒,ワイン,スピリッツ,強化ワイン)消費量と,2002〜05年の追跡期間中に認められたアルコール関連がん(大腸がん,上部気道消化管がん,肝がん,乳がん)および皮膚がんを除く全がんの発生との関連を調べた。

 その結果,飲酒群もしくは断酒群と非飲酒群を比較すると,前者の全がんリスクは男性で10%,女性で3%上昇しており,アルコール関連がんはそれぞれ32%,5%上昇。中でも上部気道消化管がんは44%,25%と高い上昇率を示した。このほか,大腸がんはそれぞれ17%,4%,肝がんは33%,18%,乳がんは5%となっている。

Medical Tribune 2011年4月12日

ジゴキシンが前立腺がん治療薬として有望,25%のリスク低下と関連
薬理学と疫学との共同研究で一定の成果
 広く用いられている処方薬の新たな適応を探る試みは,各種疾患に対する新たな治療法を低コストでスピーディーに開発する上で重要だと考えられる。そうした研究を進める上で重要な鍵を握るものの1つは,疫学と薬理学の垣根を超えた研究者相互の密接な協力関係の構築かもしれない。

 米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部疫学科のElizabeth A. Platz氏らは,薬理学の専門家と共同で,薬理学・疫学の2段階試験を実施。心不全治療薬として広く使用されているジギタリス製剤のジゴキシンは前立腺がん治療薬として有望であり,in vitro(試験管内)で強力ながん細胞増殖抑制作用を発現するだけでなく,疫学的見地からも同がん発症リスクの約25%の低下と結び付いているとの結論を得た。

10年以上服用者では46%のリスク低下

 Health Professional Follow-up Study(HPFS,1986〜2006年) に参加した男性4万7,884人を対象としてジゴキシンの使用と前立腺がんリスクとの関連を解析した。ジゴキシンを定期的に服用していたのは調査対象者の 2.0%であり,服用群はより高齢で,コレステロール低下薬,アスピリン,心血管疾患治療薬の使用頻度が高い傾向にあった。

 調査開始時点でジゴキシンを定期的に服用していた群における前立腺がん発症の相対リスク(RR:他剤使用を除く交絡因子調整後)は非服用群との比較で0.76,最終調査時点におけるジゴキシン服用群のRRは0.78であった。

 同薬の服用期間別の解析では,服用期間10年以上の群でRRが0.54と発症リスクが特に低いという結果が得られた。また,心血管疾患治療薬を含む他の薬剤の使用と前立腺がん発症との関連は認められなかった。

 Platz氏は「ジゴキシンが前立腺がんの発症・進行に影響を及ぼす機序は明らかではないが,Na+/K+ ATPase阻害活性がなんらかの形で関与していると考えられる」と指摘。「さらに今回の研究で特筆すべきは,疫学と薬理学とのコラボレーションにより,治療薬候補をこれまで以上に高い精度で提示できることが実証できたこと。今後,新規治療薬開発の分野でも,専門領域の垣根を超えた共同研究が活発になることを期待したい」とコメントしている。

Medical Tribune 2011年4月14日

顔面紅潮など更年期障害の発生が乳がん発症リスク低下の指標
 フレッドハッチンソンがん研究センター(シアトル)公衆衛生科学科のChristopher I. Li博士らは「顔面紅潮などの閉経による症状を経験した人は,そのような症状を経験したことがない人に比べ,最も一般的な乳がんの発症リスクが約50%低下する」との研究結果を発表した。
 
頻度が高いほどリスクが低下

 今回の研究は,更年期障害と乳がんリスクとの関係を検討した最初の研究である。研究責任者のLi博士は,顔面紅潮の頻度が高く,重度であるほどこの予防効果は高いようだとして,「特に著しい顔面紅潮(夜間に覚醒する)を経験した女性では,乳がんの発症リスクの低下は顕著であった」と述べている。

 同博士らが,更年期障害と乳がんリスクとの関係に注目したのは,エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンはほとんどの乳がん発症に重要な役割を果たしており,これらのホルモンの低下は卵巣機能の段階的な衰退・停止に伴う更年期障害の頻度と重症度に影響を及ぼすことが考えられるからである。

 同博士は「更年期障害はホルモンレベルが変動して低下すると発現するため,われわれは顔面紅潮や寝汗などの症状を経験した女性は,特にその頻度が高く重度であった場合,エストロゲンレベルが低くなって,乳がんの発症リスクが低下するという仮説を立てた」と説明している。

リスクが40〜60%低下

 Li博士らは今回の研究で,シアトル地区の閉経後女性1,437例を対象に問診し,以前にがんの診断を受けていた女性988例と非乳がん女性449例を比較検討した。調査内容は,閉経周辺期と閉経に伴う更年期障害の顔面紅潮,寝汗,不眠,腟の乾燥,不正出血あるいは重度の月経出血,うつ病,不安などであった。

 検討の結果,顔面紅潮などの更年期障害を経験した女性では,乳がんに最も多い浸潤性乳管がんおよび浸潤性小葉がんリスクが40〜60%低下することが示された。

 これらの症状とがん発症リスクの低下との関連性は,肥満やホルモン補充療法など,がんの危険因子とされる要因を考慮しても変わらなかった。

 同博士らは「更年期障害で,QOLが低下することは疑う余地のないことである。しかし,今後の研究で更年期障害の発生に応じて,乳がんリスクが低下することが確認できれば,乳がん患者にとって希望の光となる」と説明。「もし,この知見が確認できれば,乳がんの原因に関する理解が深まり,乳がんの予防手段の改善が期待できる」と述べている。

Medical Tribune 2011年4月14日

ワクチンで悪性脳腫瘍患者の生存期間が延長
 多形神経膠芽腫(GBM)は脳腫瘍の中でも悪性度が高いことが知られているが,デューク大学医療センター(米)脳神経外科のJohn H. Sampson教授らが行った研究の結果,新型ワクチンを標準的治療法に加えて用いることでGBM患者の生存期間が延長することが明らかになった。
 
無増悪生存期間が1年以上に

 このワクチンは,GBMを悪化させる特徴的な成長因子を標的とする。Sampson教授は「全GBMの3分の1はEGFRvVと呼ばれる上皮成長因子受容体の変異遺伝子が関与しており,EGFRvVが発現した腫瘍の悪性度は最も高い」と説明している。

 研究責任者で同センターのDarell D. Bigner教授は「ワクチンによって1例を除く全被験者において,EGFRvVを持つがん細胞がすべて消失した」と述べている。

 EGFRvVと呼ばれる変異遺伝子は,同教授とジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のBert Vogelstein博士らが共同で見いだした。

 今回の研究は,デューク大学とMDアンダーソンがんセンターのGBM新規診断例18例と,それらの被験者と背景因子を一致させた対照群17例を対象に実施された。両群で手術と放射線療法,テモゾロミドによる化学療法を標準治療として行い,ワクチン群では放射線療法が終わってから1カ月後の時点でワクチンを注射した。

 その結果,全生存期間の中央値は標準治療の15カ月に対し,ワクチン群では26カ月であった。無増悪生存期間も標準治療群の6.3カ月に対し,ワクチン群では14.2カ月と長かった。

約半数で免疫系刺激

 今回の研究に使用した特殊なワクチンはペプチドワクチンと呼ばれ,患者の免疫系を刺激してEGFRvV上の蛋白質の特定部分に反応するようにデザインされたものである。

 今回,同ワクチンを投与された患者の約半数で免疫系が刺激されることが判明した。6例にはEGFRvV特異抗体が産生され,3例にはT細胞応答が見られた。データ上ではこれらの免疫刺激反応により生存期間が延びることが示唆されたが,同センターのAmy B. Heimberger博士は「被験者の数が少なかったため,確実な結論を出すには今後さらなる研究で検証する必要がある」と慎重な姿勢を示している。
EGFRvVが格好の治療標的に

 Sampson教授らは今回,11例の患者からワクチン投与前と投与後の腫瘍の標本を採取することに成功し,腫瘍が再発した際,82%は免疫活性が欠如していたことを確認した。

 同教授は「このことはワクチンが最も攻撃的な細胞を排除したことを示している」と説明。さらに,「EGFRvVは他の種類のがん細胞でも見つかっているが,正常組織には存在せず,格好の治療標的となる。したがって,今後もEGFRvVワクチンに関する研究を進めていく価値はある」としている。

Medical Tribune 2011年4月14日

世界で初めて肝がん全ゲノムを解読解析
国立がんセンターと東大先端科学技術研究センターの共同研究
 国立がん研究センターは4月19日,世界初となる肝がんの全ゲノムの解析を達成したと記者発表した。同センターと東京大学先端科学技術研究センターの共同研究によるもので,2008年4月に発足した国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)の中では英国による乳がんゲノム解析に次いで2番目の報告という。

肝がん特有の変異パターンなどを発見,個別化医療への基盤に

 国立がん研究センター発表の資料によれば,日本における部位別粗死亡率で肝がんは男性の3位,女性の5位を占めており, そのうち8割がC型肝炎ウイルス(HCV)感染によるものだという。世界的に見ても発症頻度および死亡率が高いことなどから,対策が急務であるとしている。

 今回の共同研究では,HCV陽性肝がん患者1人(70歳代,男性)から採取したサンプルからDNAを抽出し,次世代型高速シークエンサーによる解読解析を行った。

 それにより,同センターのゲノム研究グループがんゲノミクス研究分野長・柴田龍弘氏は「世界で初めてHCV陽性肝がんの全ゲノムを解読し,63個のアミノ酸置換を引き起こす遺伝子変異と4個の融合遺伝子を含むゲノム異常の全体像が明らかになった」と報告。「ゲノムの変異によって治療法を変えるなど,将来的な個別化医療への基盤ができた」と話した。

Medical Tribune 2011年4月19日

透析患者 CT検査による放射線曝露で発がんリスク増大
 Maggiore della Carita大学病院(伊)のMarco Brambilla博士らは「透析患者は,検査で放射線を照射されることが多く,その結果,発がんリスクが高まっている」とする研究結果を発表した。今回の結果は,透析患者の診断に用いる放射線量を臨床医が検討していく必要があることを示唆している。
 
年間の平均累積照射量は胸部撮影約1,000回分

 透析導入に至った腎疾患患者は,診断と治療に放射線照射を要する別の疾患にも罹患していることが多い。これは,患者が長期的に高線量の放射線に曝露され,発がんリスクが増大する可能性のあることを意味している。Brambilla博士らは,透析患者106例を3年間追跡し,病院のカルテから放射線の累積照射量を算出した。

 その結果,年間の平均累積照射量は胸部X線撮影の約1,000回分に相当することが分かった。CTスキャンは,回数で見れば全体の19%でしかなかったが,照射量で見れば76%を占めていた。年間の累積照射量別に解析したところ,低線量(3mSv未満),中等線量(3mSv以上20mSv未満),高線量(20mSv以上50mSv未満),超高線量(50mSv以上)を受けていたのは,それぞれ22例,51例,22例,11例で,17例が,がん関連死リスクの実質的な増大と相関するレベルの線量(100mSv超)にさらされていた。また,放射線の累積照射量は若年患者と移植待機患者で高いことも分かった。

 同博士は今回の結果を受けて「CTによる放射線曝露に関する追跡研究を行い,個々の患者ごとの放射線負荷を軽減していく方法を検討する必要がある。今回,施行された検査のうち注目すべき所見が得られなかったり結果が陰性だったものは,相当数に上ることから,CT検査を実施する基準をさらに厳格にすべきだ」と述べている。

Medical Tribune 2011年4月21日

遺伝子検査で慢性C型肝炎患者の発がんリスクが予測可能に
リスク型の発がんリスクは非リスク型の約2倍
東京大学医科学研究所特任准教授・加藤直也

 肝がんはわが国のがんによる死亡原因の第4位を占めており,年間3万人以上がこの疾患によって亡くなっています。肝がんの原因の約7?8割はC型肝炎ウイルス(HCV)への感染で、現在の感染者の多くは輸血や血液製剤などによって感染しています。HCV感染者は世界で1億7,000万人,国内には約200万人が存在し,ウイルス感染者の20〜30%は20〜40年程度かけて慢性肝炎から肝硬変・肝がんへと緩徐に症状が進行していきます。

 一方,ウイルスに感染しても症状が軽微で推移し,肝がんに進行しない例も多数存在し,その違いがなぜ生じるかは明らかになっていませんでした。

 今回,東京大学医科学研究所(加藤直也特任准教授、松田浩一准教授)が中心となり,同大学消化器内科,理化学研究所との共同研究によって,新規の肝がんのなりやすさに関連する遺伝子および遺伝子多型を同定しました。

 具体的には,HCV陽性肝がん患者721人と健康人2,890人について,約43万カ所の一塩基多型(SNP)を比較しました。この解析で強い関連を示した8つのSNPについて,別の肝がん患者673人,コントロール群2,596人で検証した結果,MICA遺伝子上のSNPが疾患のリスクと強く関連し,リスク型であるAAタイプでは非リスク型であるGGタイプの約2倍,がんになりやすいことが明らかになりました。

 本研究は、慢性C型肝炎から肝がんの発症リスクに関係する遺伝子を世界で初めて明らかにした,画期的な成果を挙げました。

肝がんを発症しやすい人はMICAの血中濃度が低い

 MICA(MHC Class I polypeptide-related sequence A)はHCVの感染刺激によって細胞表面で発現上昇することが知られています。免疫細胞の一種であるnatural killer(NK)細胞は、細胞表面上にMICAが発現している細胞を攻撃目標として認識し、ウイルス感染細胞を人体から駆逐することで健康状態を保つ働きをしています。

 また,MICAは一部が血液中に放出されるため、血液検査でMICAの量を調べることが可能です。解析の結果,慢性C型肝炎および肝がんの患者では健康人に比べ,血中MICAの濃度が上昇していました。

 さらに,肝がんになりやすい遺伝子型を持つ人ではMICAの血中濃度が低いことも明らかとなりました。

 以上の結果により,肝がんになりにくい人ではウイルス感染によって肝細胞でのMICAの発現が上昇し,この細胞をNK細胞が認識・攻撃することで肝がんの発症を未然に防ぐ働きをすると考えられます。

 一方,肝がんになりやすい人ではウイルスに感染してもMICAが上昇せず、NK細胞による防御機構が働かなくなるためがんの発症リスクが高くなると考えられます。

 今回の解析結果により,慢性C型肝炎の患者のMICAの遺伝子型を調べることで、肝がんの発症リスクを予測できることが明らかになりました。慢性 C型肝炎の治療薬であるインターフェロンは治療効果が高い半面、さまざまな副作用も生じます。患者ごとにがん発症リスクを予測することで治療適応を決定するなど,遺伝子情報を用いた個別化医療が可能になると考えます。将来的にはMICAの血中濃度測定による肝がんの発症リスク予測や,MICAの活性を高めることで肝がんの予防・治療への応用が期待できます。

Medical Tribune 2011年4月25日

大量飲酒で膵がんによる死亡リスクが上昇
 米国がん協会(ACS)疫学研究プログラムのSusan M. Gapstur博士らは「大量飲酒者,特に蒸留酒を1日3杯以上飲む人では,非飲酒者と比べて膵がんで死亡するリスクが有意に高い」との前向き研究の結果を発表した。
 
蒸留酒1日3杯以上が危険

 是正可能なライフスタイル因子である飲酒は,口腔,咽頭,喉頭,食道,肝臓,大腸,乳房などのがんと因果関係があることが知られている。膵臓との関連では,大量の飲酒が急性または慢性の膵炎を引き起こすことが知られているが,膵がんについては決定的な関連は示されていない。

 そこで,Gapstur博士らは今回,ACSが支援しているがん予防研究(CPS-U)のデータを用い,飲酒と膵がんの関連について検討した。 がん予防研究CPS-Uは,30歳以上の米国人成人約100万人を対象とした長期前向き研究。同博士らは,1982年に飲酒量に関する初期データを収集し,2006年まで追跡した。追跡期間中に6,847例が膵がんで死亡した。

 全参加者(男性45万3,770例,女性57万6,697例)のうち,男性の45.7%,女性の62.5%が非飲酒者だった。男性のみと男女混合の解析を行ったところ,非飲酒者と比べて飲酒量が1日3杯の群と4杯以上の群で膵がんによる死亡リスクが有意に高いことが分かった。女性のみの解析では,1日4 杯以上の群で同リスクが有意に高かった。

 また,アルコール飲料の種類別に見ると,母集団全体では,非飲酒者に比べてウイスキー,ブランデー,ジン,ラム酒などの蒸留酒を1日3杯以上飲む人で,膵がんによる死亡リスクが高いことが分かった。

 同博士らは「今回の前向き研究により,飲酒量,特に大量飲酒が,米国のがん死因で4番目に多い膵がんの独立した危険因子であるとするこれまでの仮説が強く裏付けられた」と結論付けている。

Medical Tribune 2011年4月28日

非ステロイド抗炎症薬(NSAID)に結腸がん予防効果
 ピッツバーグ大学薬理学・生物化学のLin Zhang准教授らは「非ステロイド抗炎症薬(NSAID)は腸幹細胞のアポトーシスを誘導して結腸がんを予防する」と発表した。この知見は,結腸がんの高リスク群向けの新たな予防計画につながる可能性がある。
 
蛋白質SMAC依存性のアポトーシスを誘導

 研究責任者のZhang准教授は「アスピリンなどのNSAIDが結腸がんリスクを減らす可能性についてはこれまでに分かっているが,その機序は明らかにされていない」と説明している。今回の研究によると,がん化する可能性のある変異を蓄積した幹細胞に対し,NSAIDがアポトーシスを誘導する。

 同准教授らは今回,家族性腺腫性ポリポーシスのモデルとなる遺伝子欠損マウスにNSAIDのスリンダクを摂取させた。このがんは,大腸がんの約1%を占め,非遺伝性大腸がんとして一般的に見られる。

 研究の結果,スリンダクを混合した食餌を与えたマウスでは,1週間以内に腸管ポリープにおいて,アポトーシスが高率に誘導された。このアポトーシスは主に,異常な細胞シグナリングを引き起こす危険な前がん性の変化が蓄積された幹細胞に起こった。

 また,蛋白質SMACをコードする遺伝子を欠損させたマウスでは,スリンダクによる腸幹細胞抑制効果が減弱した。SMACは,細胞でアポトーシスが誘導される際にミトコンドリアから放出される。

 以上から,同准教授は「NSAIDによるアポトーシスの誘導はSMACを介していると考えられる」と述べている。

 今回の研究では,患者から摘出したポリープを詳細に調べたところ,NSAID服用者では幹細胞の特徴を持つ細胞でアポトーシスの誘導率が高いことが判明した。

 同准教授は「アポトーシスの測定が,がん予防薬の有効性を評価する有用な方法になりうること,さらに,NSAIDに対するがん幹細胞の感受性を高める新薬の開発につながる可能性が示された」と結論している。

Medical Tribune 2011年4月28日

第36回米国インターベンショナル・ラジオロジー学会
〜Y-90微小球による放射線塞栓療法〜肝転移第U相試験で70%の疾患制御率
 ノースウェスタン記念病院(シカゴ)放射線外科のRiad Salem臨床教授は,化学療法に不応となった切除不能転移性肝がんに対するイットリウム-90(Y-90)微小球を用いた放射線塞栓療法の第U相試験の結果を報告し,疾患制御率〔完全奏効+部分奏効+安定〕が約70%であったことを明らかにした。

放射性微小球を腫瘍巣に配送

 この肝がん治療は,Y-90を含めた直径20〜30μmの放射性微小ガラス球を鼠径部から挿入したカテーテルで,がん組織を支配する肝動脈に注入する方法。Y-90の半減期は約64時間と短いことから,がん細胞のみを攻撃する副作用の少ない治療法として期待されている。

 対象は結腸直腸がん,あるいは神経内分泌腫瘍からの肝転移患者(それぞれ61例,44例)と原発がんが結腸直腸がんと神経内分泌腫瘍以外の肝転移患者(46例)の計151例。いずれも化学療法不応で,切除不能とされる。平均年齢は63.7歳で,男性が55.6%。91.4%が白人で,Performance Status(PS)は0-1(良好)が95.4%を占めた。初診からの平均経過期間は2.5年で,68.9%で肝両葉に転移が認められた。

有害事象の多くは軽度〜中等度

 1例当たりの平均治療回数は1.6回,全体で243回(肝葉)の治療が行われた。治療により患者が受けた放射線量は120Gy±20%で,米国原子力規制委員会への報告が必要な医療事故はなかった。

 評価対象となった130例のうち,完全奏効は0,部分奏効 9.2%(12例),安定 60%(78例),進行30.8%(40例)で,疾患制御率は69.2%(90例)となった。

 生存期間は,結腸直腸がん群で無増悪生存期間中央値が2.8カ月,全生存期間中央値が9.4カ月となった。一方,神経内分泌腫瘍群では,無増悪生存期間中央値が14.6カ月,全生存期間中央値が24.0カ月だった。

 以上の結果から,Salem臨床教授は「転移性肝がんに対するY-90微小球を用いた治療は忍容性に優れ,計画線量を腫瘍巣に確実に配送できる治療法といえる」と結論付けた。

Medical Tribune 2011年4月28日