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2011年3月 文献タイトル
血清ビリルビン値がやや高値の成人は呼吸器疾患と死亡が少ない
体脂肪分布がエストロゲン受容体陰性乳がんリスク上昇と関連
ホルモン補充療法開始時期により乳がんリスクに差炭酸飲料を多く飲むと膵癌リスクが高まる
10年間で精液の質が急激に悪化,精巣がんは急増する傾向 フィンランド研究
第21回日本疫学会 飲酒はエタノール量で男性46g/日,女性23g/日未満が健康維持の適量か
ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査 過去10年間のがんリスク低下に大きく寄与
第21回日本疫学会 母乳のみの授乳者では乳がん,子宮内膜がん罹患リスク低下
閉経前の喫煙で乳がんリスクが増加
積極的な運動により前立腺がん患者の死亡リスクが低下
足の爪が肺がんの予測因子に,受動喫煙も反映 爪に残るニコチン濃度で判定,米研究
胎児期〜生後100日までのX線検査と小児がんとの関係完全には否定できず
食物繊維の摂取で死亡リスクが低下
WHO 身体活動に関する勧告を発表 週150分の運動でがんや心血管疾患のリスクが低下
マンモグラフィ検診 50歳から2年に1回実施に疑問 より若い年齢から頻度を多く
がん既往歴のある男性の子供に先天異常が増加
高度の受動喫煙も閉経後女性の乳がんの危険因子に
空港の全身ボディースキャナーによる放射線照射は安全か 長期的照射の人体への影響を検証

血清ビリルビン値がやや高値の成人は呼吸器疾患と死亡が少ない
 血清ビリルビン値が正常範囲内でやや高値の成人患者では呼吸器疾患と死亡が少ない傾向が見られると,英国のグループが発表した。

 同グループは,英国のプライマリケア研究データベースに登録された成人患者で肝胆道疾患や溶血性疾患のない50万4,206例を対象に,血清ビリルビン値と肺がん,慢性閉塞性肺疾患(COPD),全死亡との関係を検討した。

 ビリルビン値の中央値は男性が0.64mg/dL,女性が0.53mg/dLだった。21年間に肺がん1,341例,COPD 5,863例,死亡2万3,103例が確認され,1万人年当たりの発生率は2.5,11.9,42.5であった。

 男性の1万人年当たりの肺がん発生率はビリルビン値が最も低い第1十分位の5.0に対し,第5十分位では3.0と低かった。対応する男性のCOPD発症率は19.5対14.4,死亡は51.3対38.1だった。この関係は女性でも類似していた。

 また,男女とも血清ビリルビン値の0.1mg/dL上昇は肺がん,COPD,死亡の減少と関係していた。

Medical Tribune 2011-3-3

体脂肪分布がエストロゲン受容体陰性乳がんリスク上昇と関連
 ハーバード大学のHolly R. Harris博士らは「体脂肪分布はエストロゲン受容体(ER)陰性乳がんリスクの上昇と関連している」との研究結果を発表した。
 
性ホルモンとは別の要因の可能性

 BMIと乳がんリスクとの関連については閉経前後によって異なることが示されている。BMI高値は閉経後乳がんリスクと正の相関を示す一方,閉経前乳がんリスクとは負の相関を示す。

 内臓脂肪は,閉経前乳がんリスクに関連した代謝およびホルモンの変化と相関することが指摘されているが,前向き研究の結果は一致しておらず,ホルモン受容体の役割について検討したものはこれまでなかった。

 Harris博士らは,体脂肪分布と閉経前乳がんリスクとの関連を明らかにするため,1989年から追跡調査されている女性看護師保健研究(NHS)Uの集団11万6,430人を対象に前向き分析を行った。同博士らは93年に,ウエストとヒップのサイズを報告するよう依頼した質問票を送付した。

 検討の結果,胴囲や腹囲,ウエスト・ヒップ比と閉経前乳がんリスクとの間に有意な相関は見られなかったが,内臓脂肪や胴囲,ウエスト・ヒップ比は,ER陰性乳がんのリスクと強く相関することが判明した。

 体脂肪分布がER陰性の乳がんにおいてより強く関連していたという事実は,体脂肪が性ホルモンとは別の経路で乳がんリスクに影響を及ぼしている可能性を示唆している。

 同博士らは,内臓脂肪が高インスリン血症または糖尿病前症と関連している点,インスリン受容体がほとんどの乳がんで発現し,in vitro(試験管内)で乳がん細胞の増殖を刺激している点を指摘。

「これらの知見は,内臓脂肪蓄積においてインスリン関連経路が閉経前乳がんの発症に関連していることを示唆している」と述べている。

Medical Tribune 2011-3-3

ホルモン補充療法開始時期により乳がんリスクに差
 ホルモン補充療法(HRT)の開始時期によって乳がんのリスクに差が見られると,英国のグループが発表した。

 同グループは,HRT開始のタイミングが乳がんの発症に影響するかどうかを検討した。対象は,HRTとその他の乳がんリスク関連因子についてデータが得られた閉経後女性112万9,025例。

 405万人年の追跡で1万5,759例が乳がんを発症し,うち7,107例がHRT現施行者だった。解析の結果,乳がんの発症率はHRT現施行群で高く,施行中止後数年でHRT非施行群のレベルまで低下した。

 HRT現施行群では,閉経前または閉経直後にHRTを開始した女性は,閉経からHRT開始までに間隔があった女性と比べ乳がんリスクの相対リスクが高かった。

 エストロゲン単独HRT現施行群のうち閉経後5年以上経過してから開始した女性は相対リスク 1.05とリスクは低かったが,閉経前または閉経後5年未満に開始した女性では相対リスク 1.43と有意なリスク上昇が見られた。また,エストロゲン+プロゲスチン併用HRTでも同様のパターンが観察された(相対リスクはそれぞれ1.53,2.04)。

 50〜59歳の女性における年間の乳がん標準化罹患比はHRT非施行群の0.30%に対し,HRT現施行群で閉経後5年未満にエストロゲン単独またはエストロゲン+プロゲスチン併用HRTを開始した群ではそれぞれ0.43%,0.61%と高かった。

Medical Tribune 2011-3-3

10年間で精液の質が急激に悪化,精巣がんは急増する傾向
フィンランド研究
 フィンランドでは近年精巣がんが急増しているが,精液の質と精巣がんの関連を示す最近の研究はない。デンマーク王立病院・コペンハーゲン大学病院発達生殖部門のN. Jrgensen氏らは,精液の質を前向きに調査するとともに,精巣がんの発症状況を調べ,生年が後になるほど,精液の質は低下し,精巣がんが増えていたことを明らかにした。同氏らは,「急速な変化は環境要因でしか説明できない」としている。

母親の妊娠中の喫煙,本人の喫煙の影響は認められず

 フィンランドでは,兵役のために18〜19歳時にメディカルチェックを受ける。1998〜2006年に同じリストを用いてフィンランド南西部のトゥルク地方に住む男性に研究への参加を呼びかけたところ,858人(13.4%)が検査に協力した。

 精液の状態を生年別に見ると,1979〜81年,1982〜83年,87年生まれで禁欲時間,精液量は同様だったが,精液の質は出生年が後になるほど低下しており,精液濃度(調整後中央値,以下同)は1mL当たりそれぞれ6,700万,6,000万, 4,800万,精子数は2億2,700万,2億200万,1億6,500万で,正常形態精子数は1,800万,1,500万1,100万であった。運動精子率については有意な傾向はなかった。

 なお,母親の妊娠中の喫煙(10.2%)は精液の状態に影響せず,同様に男性自身の喫煙,飲酒習慣の影響も認められなかった。住環境で分けた場合,都市部在住男性の運動精子率を100%とすると,周辺地域では72%に低下していたが,その他の数値には差がなかった。

 一方,フィンランドでは1954〜2008年の間,10〜59歳男性における精巣がんが増加を続けているが,トゥルク地方ではより顕著な増加傾向が認められた。年齢に依存する経時的傾向を調べるため,診断時の年齢により5歳ごとに区切って分析すると,フィンランド全体,トゥルク地方ともに,10〜14歳の場合を除くと,生年が後の集団ほど10万人当たりの精巣がんの発症率が高かった。

 なお,87年生まれの精液濃度は,15%が自然妊娠困難で,さらに28%は妊娠に時間を要する状態にあるという。

 Jrgensen氏らは,最も若い年齢層では精巣がんの発症数自体少ないため解釈に注意が必要としつつも,精液の質と精巣がんの間に同時進行的 な“逆の傾向”が認められたことから,両者の間に精巣発育不全がかかわっているかもしれないと推察。急速な変化は,環境要因でしか説明できないとし,その要因を突き止め,取り除くことが大切としている。

Medical Tribune 2011-3-7

第21回日本疫学会
飲酒はエタノール量で男性46g/日,女性23g/日未満が健康維持の適量か
 わが国における飲酒と死亡率の関連性は,種々の疫学研究で検討されてきたが,カテゴリー分類にさまざまな飲酒頻度,量が設定されており,メタアナリシスによる量的評価を困難にしていた。国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部予防疫学研究室の井上真奈美室長らは,6件の大規模集団研究のデータを統合解析し,死亡リスクを上昇させないためには,エタノール換算グラム飲酒量で男性46g/日未満,女性で23g/日未満に維持する必要があるとした。

男性の飲酒量と死亡率の方がより密接に関連

 統合解析は,厚労省研究班による「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」の一環として,国内で実施されている6件の大規模集団研究のデータを集めて行われた。

 その結果,非飲酒群と比べて,男性の総死亡,心疾患死亡は69g/日未満の飲酒群で,がん,脳血管疾患死亡は46g/日未満の群で,女性の総死亡は23g/日未満の群でリスク上昇が抑えられていた。また,男性では総死亡,がん,心疾患,脳血管疾患死亡のそれぞれ5,3,2,9%が46g/日以上の飲酒によってもたらされたが,女性で23g/日以上飲酒によるそれらの死亡への寄与は,1%未満にすぎなかったと推定される。

 以上から,日本人の場合,男性では46g/日未満,女性では23g/日未満のエタノール量を維持するならば,飲酒による死亡リスク上昇を避けられる可能性があるという。

* エタノール量=アルコール濃度(%)×量(ml)

Medical Tribune 2011-3-10

ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査
過去10年間のがんリスク低下に大きく寄与
 ドイツがん研究センター(独ハイデルベルク)のHermann Brenner博士らは,一般集団を対照とした大規模症例対照研究の結果,ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査によって,過去10年間の大腸がん(CRC)リスクが77%低下したと発表した。
 
性,年齢,病期を問わずリスク低下

 今回の研究では,大腸内視鏡検査により,左側のCRCで著明なリスク低下が認められただけでなく,これまで同検査によるリスク抑制効果が明確に示されていなかった右側のCRCに関しても50%以上のリスク低下が示された。Brenner博士は「検査を実施する者の習熟度と質の高さが確保され,大腸内視鏡検査が広く普及すれば,一般集団に対する検査で右側CRCの発症リスクを大幅に抑制できる可能性がある」と述べている。

 同博士らは今回,ドイツの50歳以上の大腸がん患者1,688例と,年齢や性,居住地をマッチさせた対照群1,932例を対象に,症例対照研究を実施した。

 その結果,男女とも,あらゆる年齢層および全ステージにおいて,大腸内視鏡検査歴のある群で著明なリスク低下が認められ,全体で77%低下していた。リスク低下率は最近になるほど増加し,最後の1年間(2006〜07年)では,リスクが82%低下していた。

 なお,左側のCRCではリスク低下に年齢差は認められなかったが,右側のCRCに関しては年齢差が認められ,60歳未満では中等度(26%)のリスク低下が認められたのみで,有意ではなかった。

Medical Tribune 2011-3-10

第21回日本疫学会
母乳のみの授乳者では乳がん,子宮内膜がん罹患リスク低下
 母乳による授乳は,乳がん罹患リスクを低下させるとされるが,子宮内膜がん,卵巣がんなど他の性ホルモン関連がんの罹患リスクにどのような影響を及ぼすかという点については,統一した見解が得られていない。東北大学大学院公衆衛生学分野の菅原由美氏らは,大崎国保コホート研究のデータを用いて,日本人女性における授乳方法と性ホルモン関連がん罹患リスクの関連性を検討し,人工栄養のみの授乳に比べて,母乳のみの授乳が,乳がんだけでなく子宮内膜がんの罹患リスクの低下にも寄与することを明らかにした。

乳がん罹患危険率は0.81,子宮内膜罹患では0.68に

 検討では,前向き研究である大崎国保コホート研究の対象者のうち,出産経験があり,授乳についての質問に回答した女性1万9,848人分のデータを解析した。

 解析対象は,授乳方法ごとに,人工栄養のみ,母乳と人工栄養,母乳のみの3群に分け,人工栄養のみ群を基準とし,他の群の性ホルモン関連がん罹患危険率を多変量調整して算出した。なお,対象の追跡調査期間は,1995年1月1日〜2005年12月31日とした。

 その結果,人工栄養のみ群における乳がん,子宮内膜がん罹患HRを1として比較すると,母乳と人工栄養群,母乳のみ群では,乳がん罹患HRはそれぞれ0.83,0.81,子宮内膜がん罹患HRは0.73,0.68となり,有意なリスク低下が認められた。一方,授乳方法と卵巣がん罹患リスクには関連が見られなかったという。

 以上のことから,人工栄養だけによる授乳者よりも,母乳だけによる授乳者の方が,乳がんおよび子宮内膜がんに罹患するリスクが低いことが示唆された。

Medical Tribune 2011-3-10

閉経前の喫煙で乳がんリスクが増加
 ハーバード大学産科婦人科学のFei Xue博士らは,閉経前,特に初産前から喫煙している女性では,わずかではあるが乳がんリスクが増加すると発表した。
 
閉経後はリスク低下

 たばこの煙にはさまざまな発がん性物質が含まれており,喫煙者では乳がんリスクが増加する可能性が示唆されている。しかし,反対に喫煙には抗エストロゲン作用があるため同リスクが低下するとの報告もある。

 Xue博士らは,女性看護師保健研究のデータを用いて1976〜2006年の喫煙女性11万1,140人と,82〜2006年の受動喫煙女性3万6,017人を対象に研究を行った。

 その結果,300万5,863人年の追跡で8,772例に乳がんの発症が確認された。年齢や乳がんの家族歴,BMIなどの交絡因子で調整して解析した結果,喫煙歴のある女性の乳がん発症のハザード比(危険率HR)は喫煙歴のない女性に対して1.06であった。

 また,乳がんの発症は(1)喫煙量が多い(2)若年での喫煙開始(3)喫煙期間が長い(4)pack-year(1日に喫煙する箱数と,その喫煙量が継続した年数との積)の増加 と関連していた。

 閉経前の喫煙は乳がん発症率のわずかな上昇と関連しており,特に初産前の喫煙との関連が強かった。

Medical Tribune 2011-3-10

積極的な運動により前立腺がん患者の死亡リスクが低下
 転移のない前立腺がんと診断された男性は積極的に運動することで死亡リスクが低下すると,米ハーバード大学などのグループが発表した。

 同グループは,Health Professionals Follow-up Studyの参加者で非転移性前立腺がんと診断された男性2,705例を対象に,身体活動と全死亡および前立腺がんによる死亡との関係を検討した。診断から4年以上経過後の死亡は548例で,20%が前立腺がんによる死亡であった。

 多変量解析の結果,身体的に活動的な男性は全死亡と前立腺がんによる死亡リスクが低かった。週90分以上の通常〜早めの歩行と週3時間以上のきつめの運動により,全死亡リスクはそれぞれ46%,49%低下した。また,週に3時間以上きつめの運動を行う男性は1時間未満の男性と比べ,前立腺がんによる死亡リスクが61%低かった。

Medical Tribune 2011-3-10

足の爪が肺がんの予測因子に,受動喫煙も反映
爪に残るニコチン濃度で判定,米研究
 全がん死の中で最も多い17%を占める肺がん。その最大の原因は喫煙だが,予測因子となっている喫煙歴は患者の自己申告が多く,受動喫煙が考慮されないこともあって,精度にしばしば疑問が投げかけられている。こうした中,カリフォルニア大学のWael K. Al-Delaimy氏とWalter C. Willett氏は,足の爪が自己申告の喫煙歴などでは推測できない受動喫煙も含めた肺がんの予測因子になることを報告した。爪に残るニコチン濃度で判定可能だという。

受動喫煙でも高濃度のニコチン曝露を示唆

 Al-Delaimy氏らは,全米の40〜75歳の男性医療従事者5万1,529人を対象に行われたHealth Professionals Follow-up Study(1986年)で収集された足の爪のサンプル3万3,737人分の中から,1988〜2000年に肺がんと診断された210人分と,年齢などをマッチさせた対照630人分を電気化学検出法を用いて解析。喫煙歴やBMI,身体活動は1986年時点のデータを用いた。

 足の爪のニコチン濃度は対照群(平均0.25ng/mg)に比べ,肺がん群(平均0.95ng/mg)で有意に高値だった。また,肺がん群は身体活動が有意に低く,年間喫煙数と喫煙者率が有意に高いことが認められた。両群における足の爪のニコチン濃度比が3.6:1だったのに対し,年間喫煙数の比は3:1だった。

 以上の結果から,同氏らは「足の爪は,喫煙歴や喫煙数とは独立した肺がんリスクのバイオマーカーになることが明らかになった」と結論。その上で「自己申告による喫煙歴や喫煙数からは,ニコチンなどの摂取量を推定することができない。非喫煙者や禁煙者から高濃度のニコチンが検出された事実は,受動喫煙によっても高濃度のニコチンに曝露されることや,禁煙をしてもかなりのニコチンにさらされていることを示唆している」と述べている。

Medical Tribune 2011-3-10

胎児期〜生後100日までのX線検査と小児がんとの関係完全には否定できず
 胎児期〜生後100日までのX線検査による放射線曝露と小児がんとの関係は完全には否定できないと,米国立がん研究所のグループが発表した。

 同グループは,英国の小児がん研究に登録された1976〜96年生まれのがん症例2,690例と年齢,性,居住地域をマッチさせたコントロール4,858例を対象に症例対照研究を実施。子宮内〜生後100日までの診断用X線および超音波への曝露と小児がんリスクとの関係を検討した。

 母親の年齢と子供の出生体重を補正したロジスティック回帰分析では,胎児期の超音波曝露による小児がんのリスク増大は認められなかった。一方,胎児期の放射線曝露により,すべてのがんと白血病のリスクが高まる傾向が見られたが,有意ではなかった。

 生後100日までのX線検査による放射線曝露は,リンパ腫のリスク増大と関係した。また,すべてのがんと白血病のリスク上昇傾向が見られたが,有意ではなかった。

 同グループは「リンパ腫については確認が必要だが,結果はCTなどと比べ低線量のX線検査により小児がんのリスクが上昇する可能性を示している。妊婦と生後間もない乳児のX線検査は慎重に行う必要がある」としている。

Medical Tribune 2011-3-10

食物繊維の摂取で死亡リスクが低下
 米国立がん研究所のYikyung Park博士らは「食物繊維の摂取は心血管疾患や感染性疾患,呼吸器疾患による死亡リスクのほか,全死亡リスクの低下と関連する」と発表した。

果物よりも穀物と強く関連

 研究の背景情報によると,食物繊維の摂取により冠動脈性心疾患や一部のがん,糖尿病などのリスクが低減するとされている。食物繊維には,(1)腸の働きを助ける(2)血中コレステロール値を下げる(3)血糖値を改善する(4)血圧を下げる(5)減量を促進する(6)炎症を抑制する(7)がんを引き起こす可能性がある物質に結合して体外への排泄を促進する などの効果が知られている。

 Park博士らは,米国立衛生研究所のAARP Diet and Health Studyの参加者(男性21万9,123例,女性16万8,999例)のデータを解析した。参加者は1995〜96年の試験開始時に日常的に摂取している食物に関する質問票に回答した。

 食物繊維の摂取量は男性で13〜29g/日,女性で11〜26g/日であった。平均9年超の追跡期間中に男性2万126例,女性1万1,330例が死亡した。食物繊維の摂取量は男女ともに全死亡リスクと有意に関連しており,摂取量の最高五分位(男性29.4g/日,女性25.8g/日,それぞれ中央値)では最低五分位(同12.6g/日,10.8g/日)に比べて全死亡リスクが22%低かった。

 また,心血管疾患,感染性および呼吸器疾患による死亡リスクは,食物繊維を豊富に摂取することで男性では24〜56%,女性では34〜59%低下した。これらのリスク低下は果物よりも穀物に含まれる食物繊維の摂取との関連が強かった。

 同博士らは「米国民に対する現行の食事ガイドラインでは,繊維が豊富な果物,野菜,全粒穀物を選択し,1,000kcal当たり14gの食物繊維を摂取することが推奨されている。植物由来の食物繊維が豊富な食事は健康に大きな便益をもたらすであろう」と結論している。

Medical Tribune 2011-3-17

WHO 身体活動に関する勧告を発表
週150分の運動でがんや心血管疾患のリスクが低下
 世界保健機関(WHO)は,2月4日の「世界がんの日(World Cancer Day)」に合わせ,健康のために必要な身体活動に関する勧告“Global Recommendations on Physical Activity for Health”を発表した。勧告では,がんや糖尿病,心血管疾患など,感染症を除いた慢性疾患(noncommunicable diseases ; NCD)を予防するために必要な運動量や強度,頻度,期間,種類などに関する具体的な推奨が,3段階の年齢層ごとに示された。

世界人口の31%は運動不足

 WHO非感染性疾患・精神保健部門のAla Alwan副局長は「運動はある種のがん予防に大きな役割を果たす。運動不足は全世界の死亡の危険因子として4番目に重要なものであるが,世界人口の31%が運動不足の状態にある」と説明している。

 今回発表された勧告では,18〜64歳の成人が中等度の有酸素運動を1週間に150分以上行えば,乳がん,大腸がん,糖尿病,心疾患などを含むNCDのリスクが低下するとしている。同年齢層で考えられる運動の種類には,定期的なエクササイズやスポーツなどのほか,余暇やレジャーでの身体活動,移動に伴う運動(ウオーキングやサイクリング),職業や家事に伴う身体活動などが含まれる。

 一方,5〜17歳の小児では,中等度〜強度の有酸素運動を毎日60分以上行うことで健康が維持でき,NCDのリスクも低下するとしている。同年齢層の運動の種類には,遊び,ゲーム,スポーツ,通学などの移動に伴う身体活動,レクリエーション,体育の授業や定期的なエクササイズなどが想定されている。また65歳以上については,18〜64歳と同様の内容を推奨する一方,健康状態に問題がある場合は行える範囲の運動を推奨している。

Medical Tribune 2011-3-24

マンモグラフィ検診
50歳から2年に1回実施に疑問 より若い年齢から頻度を多く
 コロラド大学放射線学のR. Edward Hendrick教授らは,乳がんスクリーニングを50歳から開始し2年に1回実施するという米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)の推奨に疑問を投げかける研究結果を発表した。今回の結果から,マンモグラフィ検診を若い年齢で開始して頻度を多くすることにより,さらに生存率が上がることが分かった。

40歳から年1回検査が適切

 Hendrick教授らは,2009年11月USPSTF発行の「マンモグラフィ検診に関するガイドライン」の作成時に同委員会が使用したものと同一のデータを解析した。同教授らは,乳がんスクリーニングに関して50〜74歳の女性を対象に2年に1回実施すべきという同委員会の推奨と,40〜84歳の女性を対象に毎年実施するという米国がん協会の推奨を比較した。

 その結果,女性が40歳から年1回のマンモグラフィ検診を開始すると,乳がん死が40%低下することが分かった。マンモグラフィ検診を50歳から開始して2年に1回検査を行うと乳がん死の低下は23%であった。

 これら2種の検診計画の差から,40歳から年1回のマンモグラフィ検診を開始すると,USPSTFの推奨より生存率が71%上昇することになる。

Medical Tribune 2011-3-24

がん既往歴のある男性の子供に先天異常が増加
 がん既往歴のある男性の子供に先天異常の増加が見られると,スウェーデンのグループが発表した。

 同グループは,1994〜2004年にデンマーク,1994〜2005年にスウェーデンで生まれた単胎児計177万7,765例を対象に,父親のがん既往歴と子供の先天異常との関係を検討した。父親にがん既往歴がある子供8,670例のうち8,162例が自然妊娠,508例が生殖補助医療による妊娠で,父親にがん既往歴がない子供では2万5,926例がARTによる妊娠だった。

 解析の結果,がん既往歴のある男性の子供は,既往歴のない男性の子供に比べ大奇形のリスクが高かった。この関係は自然妊娠または生殖補助医療によって変わることはなかった。

Medical Tribune 2011-3-24

高度の受動喫煙も閉経後女性の乳がんの危険因子に
 喫煙女性だけでなく,高度の受動喫煙にさらされている女性も乳がんのリスクが高いと,米ウエストバージニア大学のグループが発表した。

 同グループは,Women's Health Initiative Observational Study(1993〜98年)に登録された50〜79歳の女性7万9,990例を対象に,閉経後女性の生涯にわたる能動喫煙および受動喫煙への曝露と浸潤性乳がんとの関係を検討した。

 平均10.3年間の追跡で3,520例に浸潤性乳がんが確認された。解析の結果,喫煙経験のない女性と比較した過去の喫煙者と現喫煙者の乳がんハザード比(危険率HR)はそれぞれ1.09,1.16であった。多い喫煙本数,長い喫煙期間,10歳代での喫煙開始が有意なリスク上昇と関係していた。

 最もリスクが高かったのは50年以上喫煙している女性で,生涯非喫煙および生涯非喫煙で受動喫煙への曝露もなかった女性と比べたHRはそれぞれ1.35,1.45だった。喫煙による乳がんリスク上昇は,禁煙後20年まで続いた。

 喫煙経験のない女性では可能性のある交絡因子を調整後,高度(小児期に10年以上,成人期に自宅で20年以上,成人期に職場で10年以上)の受動喫煙への曝露によって乳がんのリスクが高まり,受動喫煙への曝露がなかった女性と比較したHRは1.32だった。しかし,受動喫煙への曝露が少ない女性では有意な関係はなく,累積曝露に対する明らかな用量反応は見られなかった。

Medical Tribune 2011-3-24

空港の全身ボディースキャナーによる放射線照射は安全か
長期的照射の人体への影響を検証
 テロ対策を強化する米国では近年,空港の保安検査で金属探知機に代わり全身ボディースキャナーが導入されている。全身が“透視”されるというプライバシーの問題が注目される一方,全身ボディースキャナーの一種である後方散乱X線検査装置の人体への影響も懸念される。この問題を取り上げた論文が掲載された。

一般旅行者は“安全”,常連旅行者や航空関係者は“用心”

 米運輸保安局は現在,金属探知機に代わる保安検査機として2種類の全身ボディースキャナーを米国内の空港で導入している。1つは,人体が発する微量のミリ波を検出する方式を採用したミリ波パッシブ撮像装置で,人体に害はない。

 もう1つは,後方散乱X線検査装置で,微量のイオン化放射線が照射されることから,長期的に被ばくすることで人体への影響が懸念される。また,ミリ波装置が3次元画像を得られるのに対し, X線装置では3次元情報を収集するため1回の検査で後前方向および前後方向の両方向から放射線が照射される。

 X線装置で被ばくする1回当たりの放射線量(後前方向および前後方向を合わせた数値)は約1μSvと,健康被害リスクが高まるとされる5〜125mSv(5,000〜12万5,000μSv)よりはるかに数値は低い。この数値からリスクを推測することは非常に困難だという。

 そこで同氏は,米放射線防護測定審議会(NCRP)などが定める放射線被ばくによるがん死亡リスクは1Sv(1,000mSv=100万μSv)ごとに5%上昇するというガイダンスに当てはめ,個人リスクの最適推定値を割り出した。その結果,1回の旅行で1μSvの放射線を2回被ばくすると想定したときのがんの生涯死亡リスクは年間約1,000万人に1人だった。

 さらに同氏は,空港を頻繁に利用する航空関係者や常連旅行者についても考察。それによると,年間240〜380回,X線装置で検査を受ける国内添乗員の場合は年間300μSv,200回以上搭乗する常連旅行者では年間200μSvの放射線をそれぞれ被ばく。これらの人たちのがんの生涯死亡リスクは年間約10万人に1人だった。

 なお,NCRPはX線装置による1回当たりの放射線被ばく量について,0.1μSv以下を厳守するよう提言している。この数値は高度3万フィート(約1万m)上空を飛行中に機内で浴びる2分未満の放射線量とほぼ同じ。ちなみに,平均的な米国人が自然被ばくする1年間の放射線量は3mSv(3,000μSv)。

Medical Tribune 2011-3-29