広葉樹(白) 
          

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2011年12月 文献タイトル
携帯電話の長期使用で脳腫瘍リスク上昇認められず
乳房温存術後の放射線療法は再発・乳がん死亡減少に絶対的ベネフィット
慢性疼痛に対するオピオイド処方が問題に 米国とカナダで死者急増
平均的リスクの40歳代女性に定期的な乳がん検診は不要 カナダ予防医学特別委員会が「不利益の方が大きい」
抗がん薬無効の肝がんに鉄キレート剤を投与 奏効率20%を達成
ビールの飲みすぎが胃がんと関係
年1回の定期胸部X線検査で肺がんの死亡率低下認められず
初のランダム化比較試験でアスピリンの大腸がん予防効果示される
前立腺がん小線源療法による2次発がん増加は見られない
がん家族歴は30〜50歳で大きく変化 5〜10年ごとの情報更新が必要
若年世代で増える結腸直腸がん,進行リスクは18〜29歳で1.4倍 米研究
思春期に牛乳を毎日摂取した男性は進行性前立腺がんリスク3倍
子宮内避妊器具で子宮頸がんリスク半減
少量の飲酒でも乳がんリスクが上昇 週にワイン3〜6杯で15%増加

携帯電話の長期使用で脳腫瘍リスク上昇認められず
 がん疫学研究所(デンマーク)のPatrizia Frei博士らは,携帯電話の長期使用と脳腫瘍などの中枢神経系(CNS)の腫瘍との関連について,これまでで最大規模のコホート研究で検討。「携帯電話の使用によるCNSの腫瘍リスク上昇は認められなかった」とする結果を発表した。

デンマークの約36万人が対象

 携帯電話の契約者35万8,403人を18年間追跡したデータを解析した今回の研究結果からは,携帯電話の使用による脳腫瘍リスクの増大を示すエビデンスは得られなかった。

 携帯電話の利用者数は増加の一途をたどっており,2010年には世界で50億人を超えた。こうした中,携帯電話が健康に悪影響を及ぼす可能性,特にCNSの腫瘍を誘発する可能性が懸念されていた。国際がん研究機関(IARC)は,携帯電話と神経膠腫の発症リスクに関連性が認められたとする調査結果を受け,ヒトに対する発がん性物質分類において,携帯電話の周波数帯の電磁波を「発がん性が疑われる(possibly carcinogenic)」に分類した。

 しかし,携帯電話と腫瘍との関連を検討したこれまでの研究からは決定的な結論は得られておらず,特に長期使用による影響については不明であった。

 デンマークでは以前,携帯電話とがんリスクとの関連を検討したコホート研究が1件実施された。この研究では1982〜95年の携帯電話契約者(42万95人)と非契約者を96年から2002年まで追跡して比較した。しかし,携帯電話の使用によるCNSの腫瘍あるいは他のがんリスク上昇は認められなかった。

 Frei博士らは今回,このコホート研究を2007年まで延長。1925年以降にデンマークで生まれた30歳以上の成人を,95年より以前に携帯電話の利用契約を結んだ者と非契約者に分けて比較した。

 Frei博士らは「今回,追跡期間を延長したことで,携帯電話の使用期間が10年以上となった場合の影響について検討できたが,こうした長期使用でもCNSの腫瘍リスクは上昇しなかった」と結論付けている。

 その一方で,「ヘビーユーザーに限定して解析した場合や,使用期間が10〜15年を超えた場合には,中等度以下のリスク上昇がある可能性は排除できない。したがって,曝露の分類ミスや選択バイアスが最小になるよう考慮した大規模研究をさらに行う必要がある」と付言している。

Medical Tribune 2011年12月1日


乳房温存術後の放射線療法は再発・乳がん死亡減少に絶対的ベネフィット
 早期乳がんに対する乳房温存術後の放射線療法は再発および乳がんによる死亡の減少に絶対的ベネフィットがあることを示す解析結果が,国際共同研究グループにより発表された。

 乳房温存術後の放射線療法は乳がんの再発と乳がん死亡のリスクを低下させるが,このベネフィットは患者の特性や予後因子によって異なる可能性がある。同グループは,乳房温存術後に放射線療法が施行された群と非施行のコントロール群との間で乳がん再発と乳がん死亡を比較したランダム化試験17件,計1万801例の患者個別データを用いてメタ解析を行った。

 その結果,放射線療法施行群はコントロール群と比べ10年間の初回再発率(19.3%対35.0%),15年間の乳がん死亡率(21.4%対25.2%)とも有意に低かった。また,病理学的にリンパ節転移陰性が確認された7,287例でも,同様のリスク低下が認められた(再発率:15.6%対31.0%,乳がん死亡率:17.2%対20.5%)。

 リンパ節転移陰性患者の再発リスク低下は年齢,がんのグレード,エストロゲン受容体の有無,タモキシフェン使用,切除範囲によって異なっていた。これらの特性により10年間の再発リスク絶対低下が大きい群,中等度の群,低い群の予測が可能で,これら3群の15年間の乳がん死亡率の絶対低下はそれぞれ7.8%,1.1%,0.1%だった。

 リンパ節転移陽性が確認された1,050例においても,放射線療法施行群はコントロール群と比べ10年間の再発率(42.5%対63.7%),15年間の乳がん死亡率(42.8%対51.3%)の有意な低下が認められた。

Medical Tribune 2011年12月1日

慢性疼痛に対するオピオイド処方が問題に
米国とカナダで死者急増
 トロント大学(カナダ)のIrfan A. Dhalla博士らは,米国とカナダでオピオイド鎮痛薬処方による死亡者が増加していることに関し,早急に対策が必要であるとで警鐘を鳴らした。
 
英国やドイツでも深刻な問題に

 オピオイド鎮痛薬は,ケシから取れるアヘンなどを有効成分とする処方薬である。Dhalla博士によると,オピオイド鎮痛薬は,かなり以前からがんの症状や急性疼痛の管理に用いられてきたが,最近,変形性関節症などによる慢性疼痛の緩和に用いられることが増えているという。

 同博士は「米国ではオピオイド鎮痛薬が関係する死者数は,1999年に4,041例であったが,2007年には1万4,459例に増えており,多発性骨髄腫やHIV感染,アルコール性肝疾患による死者数をしのぐ数に達している」と指摘。さらに「ドイツではおよそ140万人から190万人が処方薬による中毒であると推定され,英国でも5〜10年後には北米と同等のレベルに達する可能性が複数の関連機関により指摘されている」と付け加えている。

 また「イングランドとウェールズにおけるメタドンやコデインが関与する死者数は,2005年から2009年にかけて約2倍に増えている一方で,ヘロインやモルヒネが関与する死者数は変化していない」と述べている。

多面的な対策を提案

 Dhalla博士らは,米国とカナダにおける危機に対処するためにいくつかの戦略を提唱している。

 製薬会社の広告を担当する企業は,処方せんが必要なオピオイド鎮痛薬の広告から報酬を得るべきではなく,規制当局は,同薬に関する広告を発表前に評価すべきである。別のイニシアチブとしては,リアルタイムの電子データベースを導入して,複数の医師や薬局からオピオイドが患者の手に渡る頻度を減少させることが挙げられる。

 また,同博士らは,医師への教育的支援プログラムを通じてオピオイド処方の実態を改善するとともに,診療ガイドライン確立のための研究を増やすことを提案している。

 さらに「慢性疼痛の管理におけるオピオイド使用のエビデンスは非常に限定的で,リスクが便益を上回っている可能性がある」と指摘した上で,医師や政策決定者に向け「適切に選択された患者に対してはオピオイド薬の処方を継続する必要があるが,それと並行して,過量投与による死亡を大きく減らす努力も必要である」と呼びかけている。

Medical Tribune 2011年12月1日

平均的リスクの40歳代女性に定期的な乳がん検診は不要
カナダ予防医学特別委員会が「不利益の方が大きい」
 カナダ予防医学特別委員会は,乳がんリスクが平均的な40〜49歳の女性に対する定期的なマンモグラフィ検診は過剰診断による不必要な生検を招くなど,利益より不利益の方が大きく,実施すべきでないとする勧告を発表した。さらに,全年齢の平均的リスクの女性について,定期的な自己検診および触診は行うべきでないとしている。

50〜74歳では2〜3年おきに実施

 乳がんの既往や遺伝素因のない40歳代のマンモグラフィ検診については,米予防医学特別委員会(USPSTF)が2009年,個々の判断と患者背景に委ね,定期的なスクリーニングに反対する勧告を行っている。

 カナダ予防医学特別委員会は今回,米国と同様,40歳代のマンモグラフィ検診を「実施すべきでない」という結論を出した。同委員会がランダム化比較試験(RCT)の15万2,300人のデータを分析したところ,40〜49歳では定期的なマンモグラフィ検診により乳がん死亡の相対リスクは0.85に低下したが,10万人当たりのリスク減少は474人と少なかった。1人の死亡を予防するために必要な検診人数(NNS)は,40〜49歳では2,108人,50〜69歳では721人であった。

 40〜49歳では偽陽性が690人に上り,不要な生検が75人に行われていたが,50〜69歳では偽陽性は204人,不要な生検は26人に減少した。

 これらの結果から,40〜49歳ではベネフィットは小さく,過剰診断による害によって相殺されてしまうとし,定期的なマンモグラフィ検診を行わないよう推奨している。

 50〜69歳におけるマンモグラフィ検診については,頻度が毎年から2〜3年おきに変更され,これまでマンモグラフィ検診の推奨がなかった70〜74歳に50〜69歳と同頻度の定期的な検診を勧めている。

 さらに,平均的リスクの女性で乳がん死亡率低下のエビデンスがないMRI検査,触診,自己検診の定期的な実施について,全年齢の女性に勧めるべきではないとしている。

乳がん死亡の増加を危惧する専門家も

 同委員会委員長のMarcello Tonelli氏はCalgary Heraldに対し「マンモグラフィ検診が有効でないという印象を与えたいわけではないが,女性たちにリスクとベネフィットを知らせることは重要。数字を見れば,検診で助かるより偽陽性の結果が出る方がずっと多い」とコメント。

 それに対し,Sunnybrook健康科学センターのMarin Yaffe氏はTronto Starで新ガイドラインの適応を「破滅的」と表現し,「次の10年に40歳代女性でスクリーニングが実施されなければ,2,000人が乳がんで死亡するだろう」と警告している。

 わが国の「乳癌診療ガイドライン(2011年版)」は,日本においては40歳代後半が罹患率のピークであることなどから,40歳代女性にもマンモグラフィ検診を推奨している。

Medical Tribune 2011年12月1日

抗がん薬無効の肝がんに鉄キレート剤を投与 奏効率20%を達成
 山口大学大学院消化器病態内科学の坂井田功教授らのグループは,抗がん薬が無効の進行性肝がん患者に鉄キレート剤を隔日で24時間持続投与し,20%が部分奏効,30%が不変という結果を得た。同教授らはこれまで基礎研究を通じて,鉄キレート剤が前がん病変や肝障害・肝線維化を抑制することを報告してきたが,進行性の肝がんに対して鉄キレート剤の有効性を立証した例は,これが世界初の報告となる。試験の概要,背景などについて同教授に聞いた。

進行性肝がん患者10例中2例で有効,3例で不変

 対象は,抗がん薬による肝動注化学療法が無効の進行性肝がん患者10例(うち男性6例)。患者の平均年齢は64歳(43〜77歳)で,7例がC型肝炎ウイルス性肝炎から肝がんに進展した。また,2例はB型肝炎ウイルス性肝炎から肝がんに進展した症例で,残る1例はいずれのタイプのウイルス感染も認められなかった。肝がん進行度分類によるステージ別では,ステージUが1例,ステージWAが2例,ステージWBが7例で,高度進行例が大半を占めた。また,Child-Pughによる肝硬変分類では,やや重篤をA,中等度重篤をB,最も重篤をCと分類している。10例中3例がA,5例がB,2例がCで,肝硬変が進行している例が多かった。

 鉄キレート剤による治療を希望し,臨床研究内容を説明の上,同意が得られた10例に,鉄キレート剤のデフェロキサミン10〜80mg/kgを,肝動注用のリザーバーポートを用いて隔日に24時間持続投与した。投与回数は平均27回(9〜78回)である。その結果,有効(PR)2例,不変(SD)3例,増悪(PD)5例という成績が得られ,奏効率は20%だった。

1例で原発病巣・転移巣ともに消失

 デフェロキサミン投与が有効だった2例中1例(63歳男性)は,肝がん進行度分類ステージWB,Child-Pugh分類クラスBで,肺転移を伴う広範な病巣が見られた。デフェロキサミン50mg/kg/日の隔日投与を2カ月継続した後,腹部および胸部CT所見で,肝臓の腫瘍も肺転移巣もいずれも消失が確認された。またα-フェトプロテイン(AFP),AFPL3,デス-γ-カルボキシプロスロンビン(DCP)の3種の腫瘍マーカーも,治療開始3カ月後には著明に減少した。もう1例の有効例も,がん病巣の縮小と腫瘍マーカーの減少が確認された。

 今回対象となった10例では1年間の累積生存率は20%だったが,がんが消失した上記の1例や不変例の中にも治療後,一時的に社会復帰が可能だった症例も認められた。

 デフェロキサミンによる有害事象として,間質性肺炎4例と腎機能障害1例が認められたが,重篤な副作用は観察されなかった。

基礎実験を重ね,初の臨床研究に

 デフェロキサミンは,体内に鉄が蓄積する疾患に対して,過剰な鉄を尿や糞便中に排出する薬剤として開発され,1960年代以降使われてきた薬剤である。

 米国留学時代から鉄代謝の研究を行ってきた坂井田教授は,ヘモクロマトーシスで肝臓内に鉄が過剰に蓄積すると,肝がんに発展する場合があることに注目。しかし,がん病巣の周囲の組織には多量の鉄が沈着しているが,がん細胞内にはあまり鉄の沈着が認められないことを見いだした。このことから肝細胞がんの細胞増殖には特に鉄が必要なのではないかと考え,ラットの肝障害モデルや肝がん細胞株にデフェロキサミンを投与する基礎実験を重ねてきた。

 一方,鉄キレート剤は,小児の神経芽細胞腫などさまざまな悪性腫瘍の治療に既に用いられており,臨床的に一定の有効性と安全性のエビデンスが蓄積されている。同教授らは,こうした背景から肝がんに対する初の臨床研究に踏み切り,今回の結果を得た。

機序解明が次の課題

 今回,デフェロキサミンが一部の患者で奏効した機序について,坂井田教授は「まだ分からない」として,次のように述べている。

「例えばラットの肝障害や肝硬変モデルでも,鉄キレート剤による症状改善が確認されている。ラットで肝線維化を促進させる星細胞は,線維化進展過程では細胞増殖するが,鉄キレート剤で増殖が抑制される。また過剰な鉄は,活性酸素種(ROS)の中でも最も毒性が強いといわれるヒドロキシラジカルを生成する。したがって,肝障害モデルへの鉄キレート剤投与は,少なくとも一部は過剰鉄によるROSを抑制することで臓器保護に働いていると考えられる」

 一方,肝がん細胞株Huh-7にデフェロキサミンを添加した実験で,細胞増殖の抑制が確認された。しかもその効果は,デフェロキサミン添加量50μMでも1,000μMでも,ほぼ同等に速やかな増殖抑制効果が得られた。この結果から,同教授は「鉄キレート剤の肝障害モデルへの有効性と,肝がん細胞株への有効性の機序は異なるのではないか。肝がん細胞株の増殖抑制効果がデフェロキサミン濃度非依存性だったことから,鉄由来のROSはなんらかの細胞増殖に関係するシグナル伝達経路に関連しており,デフェロキサミンはその経路を遮断あるいは抑制することを通じて細胞増殖を抑制するのではないかとも考えられる」と話す。

 その機序に迫ることが次の課題であり,同時に,有効例の予測や今回無効だった半数の患者ではなぜ鉄キレート剤が効かなかったのか,その背景も明らかにしていく必要があるという。また,コンベンショナルな抗がん薬と鉄キレート剤の併用も,今後ぜひ考慮すべき課題だという。

 今回の臨床研究によって,抗がん薬が効かない進行性肝がんの新たな治療選択肢の可能性が示された。同教授は「鉄キレート剤は副作用も少なくないので,薬剤投与の量・時間などにはくれぐれも慎重でなければならない」と強調した。

Medical Tribune 2011年12月8日

ビールの飲みすぎが胃がんと関係
 アルコール,特にビールの多量摂取が胃がんリスクと関係すると,欧州の共同研究グループが発表した。

 アルコールと胃がんの関係は多くの疫学研究で検討されてきたが,結果は一致していない。同グループは,がんと栄養に関する大規模疫学研究(EPIC)で確認された胃腺がん患者444例を含む症例対照研究で,アルコール摂取と胃がんとの関係を評価した。

 喫煙習慣,胃がんの発生部位(噴門部と非噴門部),組織型(胃型と腸型)によって層別化し,1日の純エタノール摂取量による胃がんのハザード比(HR)を算出。さらに,結果をHelicobacter pyloriの血清学的状態により調整した。

 その結果,純エタノールにして1日0.1〜4.9gの少量のアルコール摂取と比べ,1日60g以上の多量摂取は胃がんのリスクと正の相関関係を示し,有意に高かった。アルコール飲料別の解析ではビール(30g/日以上)だけが胃がんリスクと関係し,ワインや蒸留酒では関係は見られなかった。

 この関係は主に最も飲酒量が多い男性で観察され,非噴門部の腸型胃がんに限られていた。

Medical Tribune 2011年12月8日

年1回の定期胸部X線検査で肺がんの死亡率低下認められず
 ミネソタ大学(ミネソタ州)公衆衛生学部のMartin M. Oken博士らは,15万人超を対象に実施したランダム化比較試験を実施し,「年1回の定期胸部X線スクリーニング検査を4年続けて行っても,スクリーニング検査を実施しなかった場合と比べて肺がん死亡率の有意な低下は認められなかった」とする結果を発表した。
 
通常診療群と比較

 論文の背景情報によると,肺がんは米国を含めて世界のがん死亡原因の第1位である。肺がん負担の軽減策としてスクリーニング検査が以前から注目されているが,現行の胸部X線検査によるスクリーニングが肺がん死亡率の低下にどの程度寄与しているかはこれまで不明だった。

 Oken博士らは今回,胸部X線検査による肺がんスクリーニングの肺がん死亡率への効果を前立腺・肺・結腸直腸・卵巣(Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian;PLCO)がんスクリーニング試験で検討した。対象は,同試験に参加した55〜74歳の米国人15万4,901人。全米のスクリーニング実施10施設のいずれかで1993年11月〜2001年7月に年1回の定期スクリーニングを実施する介入群(7万7,445人)と,スクリーニングを実施しない通常診療群(7万7,456人)にランダムに割り付けた。両群の背景は類似しており,両群とも女性が約半数(50.5%)を占め,非喫煙者が約45%,元喫煙者が約42%,現喫煙者が約10%であった。

 介入群には胸部X線検査を年1回4年間実施し,結果が陽性の場合,診断確定のための検査を行うか否かは被験者と担当医が決めた。追跡期間は追跡13年目か2009年12月31日時点のいずれかに到達するまでとし,すべてのがんの診断,死亡,死因に関するデータを収集した。

質の高いエビデンスに

 介入群のスクリーニング受検率は,試験開始年の86.6%から3年目には79.0%に低下した。4年間の平均受検率は83.5%で,4年間に1回以上受検した者は91.2%であった。一方,通常診療群では11%がスクリーニング実施期間中に胸部X線検査を受けた。

 13年の追跡期間中に介入群の1,696例,通常診療群の1,620例が肺がんを発症した。がんの病期と組織型の構成比は両群でほぼ同等で,約41%を腺がん,約20%を扁平上皮がん,約14%を小細胞がんが占めた。1万人・年当たりの累積肺がん発症率は介入群で20.1,通常診療群では19.2であった。両群の肺がん発症率は同等であった。

 また,追跡期間中の肺がんによる死亡は介入群で1,213例,通常診療群では1,230例であった。1万人・年当たりの累積肺がん死亡率はそれぞれ14.0,14.2であった。両群の肺がん死亡率に有意差は認められなかった。

 Oken博士らは「今回の試験では,ベースライン時における両群の背景は類似しており,比較検討の対象として適切であった。また,介入群のスクリーニング受検率は比較的高かったのに対し,通常診療群では同受検率(汚染率;contamination rate)は低く,両群で行われた治療も類似していた。したがってこの結果は,定期的な胸部X線検査による肺がんスクリーニングを4年間続けても,肺がん死亡率は低下しないことを示す質の高いエビデンスとなる」との見解を示している。

Medical Tribune 2011年12月8日

初のランダム化比較試験でアスピリンの大腸がん予防効果示される
 アスピリンのがん予防効果を検討した初のランダム化比較試験(RCT),CAPP (Colorectal Adenoma/carcinoma Prevention Programme)試験の結果が発表された。

 リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん;HNPCC)患者を対象に大腸がん発症を主要評価項目としてアスピリンとプラセボを比較した同試験では,アスピリンにより大腸がんリスクが有意に低下することが示された。 なお,同試験の筆頭研究者でニューカッスル大学(ニューカッスル)のJohn Burn教授らは,今回の結果を受けて「今後,CAPP3試験でアスピリンの至適用量について検討したい」との意向を示している。
 
複数の観察研究で示唆

 これまでに,複数の観察研究でアスピリンの長期服用が大腸がんリスクの低下に寄与することが示唆されていたが,大腸がん発症リスクを主要評価項目として検討したRCTが実施されたことはなかった。

 今回の試験には16カ国,43施設から1,000例近いHNPCC患者が登録された。HNPCCは最も頻度の高い遺伝性腫瘍疾患の1つとされ,HNPCCの遺伝子変異の保有者では大腸がんのほか多様な臓器のがんの発症リスクが高いことが知られている。

2年以上のアスピリン投与で予防効果

 Burn教授らは今回,1999〜2005年に861例のHNPCC患者をアスピリン(600mg/日,427例)投与群とプラセボ投与群(434例)にランダムに割り付けた。

 Burn教授らは「1日600mgのアスピリンを平均25カ月間服用することにより,55.7カ月後のがんリスクがかなり低下した。最適なアスピリン用量と投与期間を確立するには,さらなる試験が必要であるが,高リスク群に対するアスピリン処方の合理性が今回の試験で明らかになった」と述べている。

 なお,同教授らによると現在,HNPCCを対象にアスピリンの至適用量について検討することを目的としたCAPP3試験の登録が既に始まっているという。

 同教授は「今回の結果は最近のアスピリンによるがん予防効果を示す研究結果と一致するものであり,HNPCCに対するアスピリンの予防投与を標準治療として推奨する根拠となるものである。臨床家は,大腸がんの高リスク者に対してアスピリンの処方を考慮すべきである」との見解を示している。

Medical Tribune 2011年12月8日

前立腺がん小線源療法による2次発がん増加は見られない
 前立腺がんに対する小線源療法に2次発がんのリスク上昇は見られないと,オランダのグループが発表した。

 同グループは,前立腺がんに対してヨウ素125による小線源療法を受けた1,187例の2次原発がんのリスクを,前立腺摘出術を受けた701例および一般集団と比較した。中央値7.5年の追跡による2次発がんは223例だった(小線源療法群136例,前立腺摘出術群87例)。

 すべてのがん,膀胱がん,直腸がんの標準化発症比(SIR)は小線源療法群が0.94,1.69,0.90,前立腺摘出術群が1.04,1.82,1.50で,両群間に統計学的有意差はなかった。また,一般集団における発がんリスクとの差もなかった。

Medical Tribune 2011年12月22日

がん家族歴は30〜50歳で大きく変化
5〜10年ごとの情報更新が必要
 カリフォルニア大学疫学部門のArgyrios Ziogas准教授らは,がんの病歴または家族歴を有する成人を対象とした調査の結果,30〜50歳で大腸がん,乳がん,前立腺がんの家族歴に大きな変化が認められたことから,こうしたがんリスクの高い成人では早期かつ積極的ながん検診が推奨されると発表した。がん家族歴の情報は,少なくとも5〜10年ごとに更新すべきであるとしている。
 
家族歴の経時的変化を定量化

 Ziogas准教授によると,がん発症リスクが高い人を同定するには,家族歴を確認することが最も有効なツールの1つであるという。例えば,近親者に1人以上の大腸がん家族歴を有する人では,大腸がんリスクが2〜6倍に上昇するからだ。そのため,家族歴から判断される大腸がんや乳がん,前立腺がんの高リスク者では,より感度の高い検査法を用いて早期からがん検診を行うことが推奨される。

 また,プライマリケア医では,がんの既往歴を有する第1度および第2度近親者の診断時年齢をはじめ,詳細な家族歴を聴取することが求められる。しかし,早期かつ重点的な検診を要するがん家族歴の,臨床上重要とされる経時的変化は,これまでほとんど検討されていなかった。そこで,同准教授らは,乳がん,大腸がん,前立腺がんの家族歴に生じる臨床的に有意な変化の頻度を定量化して解析した。

 今回の調査では,1999〜2009年に,米国民がん登録レジストリーであるがん遺伝学ネットワーク(CGN)に登録されたがんの病歴または家族歴を有する成人を対象に,ベースライン時と追跡時の家族歴を調査した。後ろ向き解析では,大腸がん9,861例,乳がん2,547例,前立腺がん1,817例が,前向き解析ではそれぞれ1,533例,617例,163例が対象とされた。追跡期間の中央値は8年であった。主要な評価項目は,臨床的に重要な家族歴を有する成人の割合と,2つの時期(後ろ向き解析:出生からCGN登録まで,前向き解析:登録から最終追跡時まで)における割合の変化率とした。

 その結果,後ろ向き解析から家族歴に基づく高リスクスクリーニング基準を満たした成人の割合を30歳と50歳時点で見たところ,大腸がんはそれぞれ2.1%,7.1%,乳がんは7.2%,11.4%,前立腺がんでは0.9%,2.0%であった。また,前向き解析では,家族歴をベースに新規に基準を満たした成人は,100人・追跡20年換算で大腸がん2人,乳がん6人,前立腺がん8人であった。なお,これら2つの解析で,大腸がんと乳がんの家族歴の変化率は同等であったという。

 Ziogas准教授は「これらの解析から,高リスクのスクリーニングが推奨される成人の割合は,30歳から50歳までに1.5倍から3倍に増加し,特に大腸がんと乳がんでは,成人期の早期から中期にかけて臨床上重要とされる家族歴の変化が生じることが示された。こうした成人では早期からのがん家族歴の聴取が必要であり,また,家族歴の情報は少なくとも5〜10年ごとの更新が推奨される」と述べている。

Medical Tribune 2011年12月22日

若年世代で増える結腸直腸がん,進行リスクは18〜29歳で1.4倍 米研究
 米国では,50歳以上を対象に奨励してきたスクリーニングにより,結腸直腸がん(CRC)の発症率は年々,着実に減少しているという。しかし,奨励対象外である50歳未満の若年世代ではCRC発症率が際立って増加していることから,米MDアンダーソンがんセンターのYi-Qian Nancy You氏らは,若年世代におけるCRC発症率の傾向や特徴,進行リスクについて検討した。

 その結果,50歳未満のCRC発症はアフリカ系米国人により多く見られ,進行リスクは40〜49歳に比べて30〜39歳で1.2倍,18〜29歳で1.4倍に上ることが認められた。
 
 米国におけるがんの状況をまとめた2010年の年次報告書“Annual Report to the Nation on Cancer”によると,1996年以来,50歳以上を対象に奨励されてきたスクリーニングにより,CRC発症率は着実に減少しているという。

 その一方で,スクリーニング推奨の対象外である50歳未満の若年層では,CRCの発症が著しく増えているとして,You氏らは,同国のがんデータベース(NCDB)を基に,発症における傾向や特徴,がんの進行リスクについて検討を行った。

 今回,CRCの若年発症傾向が明らかになり,いくつかの進行リスク因子も判明したことで,You氏らは,50歳未満の若年層も含めて的確なスクリーニングに向けた高リスク者の特定が急務であると訴えている。

Medical Tribune 2011年12月22日

思春期に牛乳を毎日摂取した男性は進行性前立腺がんリスク3倍
 アイスランド国内で牛乳摂取量が異なる地域住民を対象に,若年期の牛乳摂取が前立腺がんの発生リスクと関連するか否かを調査した結果,思春期に牛乳を1日1回摂取していた男性では,摂取していなかった男性に比べて進行性前立腺がんのリスクが3.2倍高いことが,アイスラインドのコホート研究であるレイキャビック研究で明らかになった。

 報告者であるアイスラインド大学公衆衛生学のJohanna E. Torfadottir氏らによると,中年期以降に毎日摂取していた男性ではリスクとの関連はなかったという。これまで,牛乳を含む乳製品を多く摂取する男性の前立腺がんリスク上昇が報告されているが,今回,20歳前にさかのぼって摂取習慣による影響が示唆された。

 わが国では,厚生労働省研究班が実施した大規模疫学研究(主任研究者=国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部部長・津金昌一郎氏)において,乳製品を多く摂取する男性の前立腺がんリスクはほとんど摂取しない男性に比べて1.6倍高いことが示されている。同研究では,乳製品に含まれる飽和脂肪酸やカルシウム(Ca)による前立腺がんへの影響が指摘されている。

Medical Tribune 2011年12月27日

子宮内避妊器具で子宮頸がんリスク半減
 子宮内避妊器具(IUD)が子宮内膜がんリスクを低下させることはよく知られているが,子宮頸がんに対するリスクに関しては,相反する研究結果が発表されており,明確な結論は得られていない。このような中,カタルーニャ腫瘍学研究所(スペイン)がん疫学研究プログラムのXavier Castellsague博士らの大規模疫学試験から, IUDは子宮頸がんも予防する可能性が示された。
 
免疫応答惹起が予防的に作用

 Castellsague博士らは今回,IUD使用が子宮頸部におけるヒトパピローマウイルス(HPV)感染と子宮頸がんリスクに及ぼす影響を評価するため,8カ国で実施された子宮頸がんに関する症例対照研究10件と4カ国で実施されたHPV感染率に関する調査研究16件,計2万例以上のデータを解析。Pap試験の回数,性パートナーの数,初回性交年齢などの交絡因子で調整した。

 その結果,IUD使用は子宮頸がんの主要2タイプ,すなわち,扁平上皮がんと腺がん(腺扁平上皮がん)の発生リスクの有意な低下(それぞれ44%,54%低下)に関連していることが明らかになった。ただし,このような有意な低下はHPV陽性女性群では見られなかった。同博士らは,この結果に基づき「IUD使用は子宮頸がんの原因であるHPV感染を低下させる可能性が示唆された」と述べている。

 子宮頸がんリスクはIUD使用の最初の1年で50%近く低下し,その予防効果は使用10年後も有意に維持されていた。

 同博士らは,IUDの子宮頸がん予防効果について「例えば,IUD挿入または除去のプロセスで前がん病変が破壊されたり,あるいはIUD挿入によって誘発される粘膜の慢性的炎症と長期持続性の免疫応答によりHPV感染が抑制されるのかもしれない」と推測している。

Medical Tribune 2011年12月29日

少量の飲酒でも乳がんリスクが上昇
週にワイン3〜6杯で15%増加
 ハーバード大学内科のWendy Y. Chen博士らは「週にワイン3〜6杯程度の少量の飲酒でも,乳がんリスクがわずかではあるが有意に上昇する」と発表した。
 
摂取量の増加に伴いリスクも上昇

 研究の背景情報によると,アルコール摂取と乳がんリスクとの関連性は複数の研究で示されているが,少量の飲酒による乳がんリスクへの影響を検討した定量的研究は行われていなかった。また,飲酒の頻度や深酒(binge drinking)の機会の有無などの飲酒パターン,飲酒の時期による影響に関しても,十分に解明されていなかった。

 そこでChen博士らは今回,女性看護師保健研究(NHS)の参加者10万5,986例を対象に前向き観察研究を行い,アルコール摂取量や飲酒頻度,飲酒時期と乳がんとの関係を評価した。追跡期間は1980〜2008年で,主要エンドポイントは浸潤性乳がん発症の相対リスク(RR)とした。

 追跡期間中に7,690例が浸潤性乳がんと診断された。解析の結果,1日5.0〜9.9gの少量のアルコール摂取(グラスワイン換算で週に3〜6杯程度に相当)でも,全く飲酒しない女性に比べて乳がんリスクは上昇した(RR 1.15,333例/10万人年)。同リスクの上昇は,わずかではあったが統計学的に有意であった。

 また,同リスクはアルコール摂取量の増加とともに高まった。1日に30g以上(1日2杯以上)のアルコールを摂取する女性では,アルコールを全く摂取しない女性と比べた乳がんのRRは1.51であった(413例/10万人年)。

 同博士らは「飲酒が乳がんリスクと関連する正確な機序は不明」としながらも,1つの仮説として「循環エストロゲン値に及ぼすアルコールの影響が考えられる」と考察している。

Medical Tribune 2011年12月29日