広葉樹(白) 


 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2011年10月


2011年10月 文献タイトル
イマチニブでCML患者の生命予後が一般人口と同レベルまで改善
楽観的な性格が脳卒中発症リスク低下と関連
早産は若年成人期の死亡リスクにも関係
「たばこの放射性物質測定を」日本禁煙学会が厚労省と財務省に要望書提出
第52回日本人間ドック学会 健診での被ばくによる健康への影響はわずか
携帯電話使用と脳腫瘍発症に関連なし 過去最大規模の研究で明らかに
定期胸部X線検査による肺がん死亡率の低下認められず
肺がん患者では糖尿病罹患者の方が生存率が高い ノルウェー研究
ビタミンE補充による前立腺がんリスクの有意上昇を確認
従来の報告より高い喫煙による男女の膀胱がんリスク
メトホルミンにより2型糖尿病患者の大腸がんリスクが低下
血圧上昇でがん罹患率,死亡率も上昇
〜妊娠中のがん化学療法〜児の心身発育に大きな影響なし

イマチニブでCML患者の生命予後が一般人口と同レベルまで改善
 ミラノ・ビコッカ大学聖ヘラルド病院(伊)のCarlo Gambacorti-Passerini博士らは「慢性骨髄性白血病(CML)の治療でイマチニブを使用し,2年後に寛解に至った患者の死亡率は一般人口と同等である」との研究結果を発表した。手術不能の播種性がん患者の余命が,治療で一般人口と同等になることが示されたのは今回が初めて。
 
8年生存率は95.2%

 今回のイマチニブの長期効果を検討したLong-Term Imatinib Effects(ILTE)研究では,多くの患者が副作用を経験していたものの,高い生存率は使用8年後も維持されていることが明らかになった。

 イマチニブはCML患者で持続的完全寛解が得られた初めての薬剤であり,現在では第一選択薬として広く使用されている。しかし,同薬の長期効果の情報は,ほとんどが製薬会社主導による臨床試験から得られたものである。

 そこでGambacorti-Passerini博士らは,通常の環境でイマチニブを使用する患者で,どのようなアウトカムが得られるかを詳しく検討するため,欧州,北米,南米,アフリカ,中東,アジアの27施設から患者データを収集した。

 ILTE研究では,イマチニブを2年使用後に完全寛解となっていた患者832例が登録された。追跡期間中,20例が死亡し,死亡率は4.8%であった。これらの死亡例のうち,CMLと関連していたのは6例のみであった。また6年生存率および8年生存率は,それぞれ97.7%,95.2%であった。心血管系や消化器系の重篤な有害事象は139例で報告されたが,イマチニブとの関連が示唆されたのは27例(19%)のみであった。

 ジョンズホプキンス大学のB. Douglas Smith准教授は,「今回の研究は,イマチニブの有効性と副作用に関する“実臨床での長期データ”をこれまでのデータに追加するものだ。注目すべきことに,今回の研究における生存率と二次悪性腫瘍発生率は,一般人口と統計学的有意差がなかった。これは,イマチニブがCMLの臨床経過に与える驚異的効果を示している」と述べている。

Medical Tribune 2011年10月6日

楽観的な性格が脳卒中発症リスク低下と関連
 ミシガン大学(ミシガン州)で臨床心理学の博士課程に在籍中のEric S. Kim氏は「人生に対する前向きな態度は,脳卒中発症リスク低下と関連する」との研究結果を発表した。
 
楽観度を数値で評価

 米国では,脳卒中が心疾患,がんに次いで3番目に多い死因で,身体障害の主因となっている。

 今回の研究は,楽観的な性格と脳卒中リスクの関連性を明らかにした最初の研究である。楽観的な性格とは,悪いことよりも良いことが多く起こると期待する姿勢のことである。これまでの研究では,楽観的な姿勢には心臓の健康アウトカム改善や免疫系の増強など肯定的な効果が認められている。また,それほど悲観的でない性格と一時的な肯定的感情が脳卒中リスク低下と関連していることも示されている。

 Kim氏らは,現在進行中のHealth and Retirement Studyで,2006年から2008年にかけて収集された自己親告による脳卒中と心理に関するデータを分析した。

 対象は全米の典型的な50歳以上の成人6,044例で,自身の楽観度を1〜16点で評価した。研究開始時点で参加者に脳卒中既往歴はなかった。

 楽観度の測定には,参加者が自身の楽観度を数値で採点(16点満点)するmodified Life Orientation Test-Revisedを用いた。これは楽観的か悲観的かの判断に広く用いられている評価ツールである。

 慢性疾患,自己親告による健康と社会人口学上,行動学上,生物学上,心理学上の状態など,脳卒中リスクに影響する可能性のある因子の調整を行い,ロジスティック回帰分析で楽観的な性格と脳卒中リスクの関連性を検証した。

 その結果,2年間のフォローアップ期間中,楽観度の1段階増加と急性脳卒中発症リスクの9%低下が相関することが明らかになった。

 同氏は「今回の研究は,人生を楽観的に考えることが健康促進につながることを示している」と指摘。またフォローアップ期間がわずか2年であった点に触れ,「楽観的な性格の脳卒中に対する影響は短期間にもたらされるようだ」と述べている。

 さらに「楽観的な性格がもたらす予防的効果は,主としてビタミン摂取や健康的な食事,運動など行動上の選択によるとみられる。予防的効果の背景にあるメカニズムについて理解するためにはさらなる研究が必要だ」とコメントしている。

Medical Tribune 2011年10月6日

早産は若年成人期の死亡リスクにも関係
 早産は若年成人期の死亡リスクにも関係していると,スウェーデンのグループが発表した。

 早産は新生児死亡の大きな要因だが,出生時在胎齢と成人期の死亡との関係は明らかにされていない。同グループは,1973〜79年にスウェーデンで生まれた単胎児で,生後1年以上生存した67万4,820例(うち在胎齢37週未満の早産児2万7,979例)を2008年(年齢29〜36歳)まで追跡。出生時在胎齢と若年成人期の死亡との関係を検討した。

 延べ2,080万人年の追跡で7,095例が死亡した。解析の結果,出生時在胎齢と早期小児期(1〜5歳)の死亡との間に強い負の相関関係が認められた。この関係は後期小児期(6〜12歳)と思春期(13〜17歳)には消失したが,若年成人期(18〜36歳)に再び認められた。

 若年成人期の1,000人年当たりの死亡率は出生時在胎齢22〜27週が0.94,28〜33週が0.86,34〜36週が0.65,37〜42週(正期産)が0.46,43週以上が0.54だった。後期早産(34〜36週)であっても,正期産と比べ若年成人期の死亡リスクと関係していた。

 若年成人期では出生時在胎齢が先天異常,呼吸器・内分泌・心血管疾患による死亡と強い負の相関関係を示したが,神経疾患やがん,外傷による死亡とは関係していなかった。

Medical Tribune 2011年10月13日

「たばこの放射性物質測定を」日本禁煙学会が厚労省と財務省に要望書提出
 日本禁煙学会は昨日(10月17日),たばこに含まれる放射性物質ポロニウムの危険性を喚起する緊急声明を発表するとともに,厚生労働省と財務省に対し葉タバコおよびたばこ製品の放射性物質測定検査などを実施するよう求める要望書を提出した。同学会では,9月にもたばこ価格の値上げを求める要望書を厚労省に提出している。

“たばこ,吸い殻などに近づいてはならない”

 同学会の緊急声明によると,たばこにはウランの100億倍という強い放射能を有するポロニウムが含まれていることが事実であり,それが肺がんを引き起こす原因であることなどから,喫煙者に対して禁煙を促すとともに,“すべての喫煙所,喫煙室,喫煙コーナー,喫煙席を直ちに閉鎖し,たばこ,吸い殻,たばこの灰,たばこの煙を放射性物質と認識して取り扱い,これらがある場所に人は近づいてはならない”と強調した。

東北・関東地方の葉タバコなどの放射性物質測定を要望

 また,厚労省および財務省に提出した要望書では,次の2点について測定を求めた。

東北地方,関東地方の葉タバコの放射性物質(ポロニウム,放射性鉛,プルトニウム,ストロンチウム,セシウムなど)の測定

製品化されたたばこのポロニウム測定

 上記を要望する主な理由として,Nicotine Tob Res9月27日オンライン版に掲載された,たばこの煙による放射能と肺がんリスクを検討した論文を紹介。それによれば,米環境保護庁(EPA)が公表したラドンガス被ばく量と肺がん発症リスクを適用して,喫煙により体内に取り込まれたポロニウムのリスクを評価すると, 1日2箱以上の喫煙者では毎年1,000人中100人が肺がん死すると推計されるという。

 その上で,要望書では“たばこ産業秘密内部文書”からいくつかのデータも引用。たばこは土壌中の放射性重金属を高率に取り込む性質が知られているとして,東北および関東地方の土壌からセシウムが検出されていることから,これらの地域における葉タバコの放射性物質の測定ならびに製品化されたたばこについてもポロニウムの測定を求めた。

 なお,日本たばこ(JT)では,ポロニウムがたばこに含まれていることは過去に認めつつも,正確な測定をしたことはないとしていることから,同学会では政府に対して測定するよう要望したとしている。

Medical Tribune 2011年10月18日

第52回日本人間ドック学会
健診での被ばくによる健康への影響はわずか
 福島原発事故以来,多くの国民が「放射線」という言葉に敏感になった。その影響は医療の世界にも及んでいる。日常臨床や健診でX線検査を受ける人は,便益よりもリスクに目を向けがちだ。こうした中,大阪市で開かれた第52回日本人間ドック学会のシンポジウム「健診における被ばくを考える」では,適切な管理が必要としながらも,健康への影響はわずかとのコンセンサスが得られた。

対象以外の臓器含めた全体線量の把握を

 京都医療科学大学放射線技術学科の大野和子教授は,特に健診のX線検査では,対象とする臓器以外も含めた全体の線量を把握すること,受診者の不安を取り除く的確な説明を行うことなどが重要だと指摘した。

胎児への影響心配ない

 X線検査の線量把握が重要視されるようになったのは,CTが普及した2000年の国連科学委員会報告から。当時,世界のX線検査数に占めるCTの割合は5%だったが,線量は全体の34%を占め,線量という概念が社会でも広く認識され始めた。その後,CT装置の進歩により,線量は当初の約4割まで低減された。「後は使う側のわれわれに託された」と大野教授。その役割を果たしていくには,検査目的に合った線量を用いることに加え「頭部撮影時の眼球,胸部撮影時の乳腺のように,目的以外の臓器への被ばくも含め,全体の線量を把握することが,特に健診では重要になる」と述べた。

 同教授はさらに,健診に際して,被ばくに対する受診者の不安を解消することの重要性を強調した。例えば,妊娠中と気付かずに受けた健診のX線検査に不安を感じている女性に対して「赤ちゃんに影響しうる線量の10分の1程度でしかなく,なんら心配することはない。がんについても,ほぼ100%心配ない」といった説明を事務スタッフも含めて行えるよう,周知徹底しておくべきだとした。

 同教授は「適切な放射線診療は,受診者の利益増大とリスク軽減を生み,疾病への不安も解消するということを常に心にとどめておいてもらいたい」と呼びかけた。

リスク重視で検査控えるのは本末転倒

 放射線医学総合研究所(千葉県)放射線防護研究センターの酒井一夫センター長は,健診を含む放射線の医学利用において「リスクを重視するあまり,必要な検査などを控えることは本末転倒」と訴えた※。

X線検査のがんリスク小さい

 医療被ばくの正当化においては,リスクを上回る便益があることが基本原則。酒井センター長は「自覚症状のない,健康人を含む人々を対象とする健診でのX線検査は,実施時には便益が見えにくいかもしれないが,早期治療につながる,疾患の早期発見という大きな便益が想定される」と指摘。「健診の有用性に関するエビデンス蓄積が求められている」と述べた。

 X線検査によるリスクとして一般に危惧されるのはがんであるが,同センター長は「がんに至るまでには多くのステップが必要であり,またそれぞれのステップにおいて,発がん過程を抑制する防御機能が生体に備わっていることが明らかとなってきた」と報告。こうした「何重もの防御機能を超えてしまった分だけがリスク増加につながると考えられており,X線検査のような低線量では影響は小さく,がんのリスク増加はバックグラウンドの不確かさの中に紛れてしまう程度であろう」とした。その上で「医療における放射線利用に際しては,リスクと便益のバランスに配慮する必要がある」ものの,「リスクを重視するあまり,必要な検査などを控えることは本末転倒であろう」と強調した。

※ 酒井センター長は,内閣府内に発足した福島原発事故にかかわる「放射線物質汚染対策顧問会議」の委員で,同学会開催直前に急きょ,首相官邸に招聘され,今大会に参加できなかった。そのため,発表は同センター長の依頼を受けて大野教授が代わりに行った。

X線検査のリスク小さいが最適化は必要

 社会医療法人大道会帝国ホテルクリニック(大阪府)の阿部亨所長は,がんや寿命に対するX線検査の影響は他の因子に比べて小さいというデータを紹介する一方,リスクはゼロではないことから「X線がん検診の最適化を目指した十分な注意が必要」と述べた。

X線検査の寿命短縮は6日

 阿部所長によると,1996年に米ハーバード大学がん予防センターが発表したがんの原因は,喫煙と成人期の食事・肥満が同率トップで,推定寄与割合は30%。以下,職業要因,がん家族歴,ウイルス・他の生物因子などの9因子が続いた後に,X線検査を含む電離放射線・紫外線が認められ,推定寄与割合は2%と低い。さらに,有名な米国Cohen氏のデータでも,寿命短縮のリスクは,喫煙(1日20本)が6.2年,20%の肥満が2.5年であるのに対して,X線検査は6日と極めて小さい。放医研が発表している「放射線被ばくの早見表」では,胸部X線集団検診の被ばく量は東京・ニューヨーク間の航空機往復より小さいこと,CT検査はイラン,ブラジルなどの年間自然放射線被ばく量とほぼ同等であることなどが示されている。

 同所長は,X線検査を実施する際には,こうした安全性を示すデータを受診者に説明しているが,一方で「リスクはゼロではないため,最適化を目指した十分な注意が必要になる」と指摘。同クリニックでは,認定技師による検査,CT装置更新,精度管理などに取り組んでいると述べた。

発がんリスクは無視できるほど小さい

 座長の中村院長(大阪大学名誉教授)は,健診での低線量被ばくによる発がんリスクについて「極めて小さく,日常発生する多くのリスクに比べて無視できるほど」と位置付けた。

DNA損傷要因はほかにも多数

 中村院長によると,X線検査の被ばくは100mSvを超えない低線量被ばく。同院長が以前,委員を務めた国際放射線防護委員会(ICRP)の最近の見解では,広島,長崎の原爆被害者の長期追跡調査でも,100mSv以下の被ばくによる影響は確認できず,今後,100万人規模の前向き研究を実施したとしても,疫学上影響を検出することは難しいだろうと考えられている。

 放射線は活性酸素を過剰発生させ,DNA損傷をもたらす可能性があるが,そうした要因は食物・栄養,喫煙,感染症など,ほかにも多数ある。また,放射線の影響力は食物・栄養や喫煙に比べると明らかに小さい。特に,X線検査のような低線量によるDNA損傷は,自然に1日に生じるDNA損傷の変動幅に埋没してしまう程度。

 こうしたことから,同院長は「健診での低線量被ばくによる発がんリスクは極めて小さく,日常発生する多くのリスクに比べて無視できるほど」で「日本人のがん死が30%に及ぶ現代では,100mSv以下の被ばくの影響は実証困難な小さな影響と考えられる」とした。ただし,放射線が活性酸素を発生させることは確か。「他の原因による活性酸素と合算され,DNA損傷を引き起こすため,不必要な被ばくは避けるべき」とも述べた。

Medical Tribune 2011年10月20日

携帯電話使用と脳腫瘍発症に関連なし
過去最大規模の研究で明らかに
 携帯電話の使用による電波が脳腫瘍の発症リスクを上昇させる〜。そのような人体への悪影響が指摘される中,今年(2011年)5月には世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)の調査により,携帯電話と神経膠腫の発症リスクに関連性が認められ,世界的な話題となった。しかし,デンマークがん協会がん疫学研究所のPatrizia Frei氏らがデンマークの約36万人を対象とした,この問題に関する過去最大規模の研究を行った結果,携帯電話の使用と脳腫瘍などの中枢神経系腫瘍の発症リスクに関連がないことが分かり報告した。

13年以上の長期加入者でもリスクの上昇は認められず

 デンマークではこれまでも,携帯電話と脳腫瘍には関連がないとの研究報告をたびたび,行ってきた。一方では,同国の研究に基づく米国での解析から,周産期の母親が携帯電話を使用した場合に出産した子どもの行動障害要因になる可能性があると指摘された。

 しかし,これまでの追跡調査では対象者の社会経済的要因に関するデータが得られていなかったとし,潜在的交絡因子による限界を取り除くため,Frei氏らは,社会的不公正とがんのデータ(cancer og social ulighed;CANULI)を基に研究を行った。CANULIから,1925年以降に同国で出生し,1990年時点で生存している30歳以上のデンマーク人を対象に,携帯電話の使用と中枢神経系腫瘍発症との関連を調査した。

 1990〜2007年に追跡調査したところ,1年以上の携帯電話受信契約者(加入者)数は35万8,403人,約380万人・年であった(男性約320万人・年,女性約50万人・年)。また,加入者と未加入者を合わせたがん発症例数は男性12万2,302例,女性13万3,713例であった。

 全がん発症者数のうち,中枢神経系腫瘍は男性5,111例(加入者714例,未加入者4,397例),女性5,618例(加入者132例,未加入者5,486例)であった。Poisson回帰分析により,年齢,暦時間,学歴,可処分所得補正後の携帯電話未加入者に対する加入者の中枢神経系腫瘍の罹患率比(IRR)を求めたところ,男性1.02,女性1.02と有意差は認められなかった。加入年数ごとに検討した場合も,最多の13年以上で男性1.03,女性0.91と,リスクの上昇は認められなかった。

 今回の結果を受けて,同氏らは「最新かつ過去最大規模のデンマークにおける全国調査において,たとえ携帯電話の加入期間が長くても,その使用と中枢神経系腫瘍発症リスクとの関連は認められなかった」と結論付けた。今後も大規模集団を対象としたさらなる研究の必要性と,曝露の誤分類および選択バイアスの可能性を最小限におさえることの重要性を訴えた。

Medical Tribune 2011年10月24日

定期胸部X線検査による肺がん死亡率の低下認められず
 定期健康診断における胸部X線検査の有効性について世界的には疑問視する声が多数を占め,実施する国が少ないとされるが,日本では継続して実施されている。そのような中,米ミネソタ大学のMartin M. Oken氏らが15万人超を対象としたランダム化比較試験(RCT)であるPLCOがんスクリーニング試験※2の結果を解析したところ,定期的な胸部X線検査による肺がん死亡率の低下が認められなかったことが報告された。

年1回の定期スクリーニングによる胸部X線受検率は8割超

 Oken氏らは,胸部X線検査による肺がんスクリーニング検査の肺がん死亡率への影響を検討するため,PLCOがんスクリーニング試験の結果を解析した。対象としたのは,55〜74歳の米国人15万4,901人で,全米のスクリーニング実施施設10カ所のいずれかで1993年11月〜2001年7月に年1回の定期スクリーニングを受ける介入群(7万7,445人)と,定期スクリーニングを受けない通常診療群(7万7,456人)に分けた。

 両群の背景にほとんど差はなく,各群とも男女比は49.5%:50.5%,年齢構成は55〜59歳33.4%,60〜64歳30.7%,65〜69歳22.5%(通常診療群は22.6%),70〜74歳13.4%。喫煙状況は,喫煙者約10%,喫煙経験者約42%,非喫煙者約44〜45%,不明者約2〜4%。試験開始前3年の胸部X線検査経験者は,介入群53.0%,通常診療群52.7%。

 介入群に対しては,4年にわたり年1回の定期スクリーニング検査を実施。受検率は試験開始年には86.6%であったが,3年目では79%に低下した。4年間の平均受検率は83.5%,介入群の91.2%が最低1回受検した。一方,通常診療群では受検率は11%であった。

肺がん発症率も同等

 計13年もしくは2009年12月31日まで追跡し,対象者のがん診断,死亡および死亡原因に関するデータを収集した。その結果,肺がん陽性検出者数は,介入群1,696例,通常診療群1,620例。また,1万人・年当たりの累積肺がん発症率は介入群20.1,通常診療群19.2,罹患率比(RR)は1.05で,両群の肺がん発症率は同等であった。

 肺がんによる死亡者数は,介入群1,213例,通常診療群1,230例であった(図)。1万人・年当たりの累積肺がん死亡率は介入群14.0,通常診療群14.2で, RRは0.99と,両群における肺がん死亡率に有意差は認められなかった。なお,喫煙状況別に検討しても同様に有意差は示されなかった。

 今回の結果から,Oken氏らは「同等の条件による対象者において,年1回の定期スクリーニング検査での胸部X線検査受検率は8割を超え,通常診療では1割程度であったにもかかわらず,肺がん死亡率は同等であった」と結論付けた。「4年におよぶ定期的な胸部X線検査が肺がん死亡率にベネフィットがないことが証明された」と結んだ。

Medical Tribune 2011年10月27日

肺がん患者では糖尿病罹患者の方が生存率が高い
ノルウェー研究
 肺がん患者において糖尿病がどのような影響を与えるかについてのこれまでの報告は一致していない。ノルウェー・トロンハイム大学病院のPeter Hatlen氏らは3研究,約1,700の肺がん症例を分析。糖尿病罹患者の方が生存率が高く,糖尿病は肺がん患者生存のための強い予後規定因子であったことを報告した。

全生存期間は糖尿病群10カ月,非糖尿病群6カ月

 Hatlen氏らは, 1,677例をKaplan-Meier法とCox回帰モデルを用いて分析し,糖尿病群と非糖尿病群の生存率を比較した。

 1,677例中77例が糖尿病に罹患していた。糖尿病群と非糖尿病群は年齢,喫煙率,がん組織像については類似していたが,糖尿病群の方が男性が多く,がんのステージが低かった。

 3研究の複合解析の結果, 糖尿病群は非糖尿病群と比べて3年生存率が有意に増加していた。それぞれ1年生存率は43% vs. 28%,2年生存率は19% vs. 11%,3年生存率は3% vs. 1%で,いずれも糖尿病群の方が高かった。全生存期間(中央値)は,糖尿病群10.0カ月,非糖尿病群6.0カ月であった。

 同氏らによると,ノルウェーでは肺がんの治療は標準化されており,糖尿病の有無で治療選択が異なることは考えにくいという。糖尿病罹患者で生存率が高かった理由としては,転移が少なかったこと,より頻繁な受診が肺がんの早期診断につながった可能性などを指摘する一方で,がんのステージを調整後も有意な関連があったこと,進行例のみを対象とした研究で顕著な差が認められたことなどから,それだけではすべての生存ベネフィットを説明できないとしている。

 なお,糖尿病群のほとんどは2型糖尿病であり,1型糖尿病にベネフィットがあるかどうかは不明という。

Medical Tribune 2011年10月27日

ビタミンE補充による前立腺がんリスクの有意上昇を確認
 ビタミンEとセレンの前立腺がん予防効果を検討した大規模試験(SELECT)の最終解析で,ビタミンEの補充は逆に前立腺がんのリスクを有意に高めることが確認された。

 SELECTは米国,カナダ,プエルトリコの427施設で行われた。2001〜04年に前立腺特異抗原値4.0ng/mL以下,直腸診で前立腺がんの疑いなしと判定された健康男性3万5,533例を登録。ビタミンE,セレン,ビタミンE+セレン,プラセボの4群にランダムに割り付けた。

 2008年の中間解析で,ビタミンEとセレンに前立腺がんの予防効果はなく,有意ではないもののビタミンE補充による前立腺がんのリスク上昇が示されたことから,試験は中止された。今回の最終報告には,その後の5万4,464人年の追跡と前立腺がん発症521例が追加された。

 その結果,前立腺がんの発症はプラセボ群の529例に対し,ビタミンE群では620例と有意に多かった。セレン群(575例)とビタミンE+セレン群(555例)では有意なリスク上昇は見られなかった。

 プラセボ群と比較した1,000人年当たりの前立腺がんの絶対リスク増加はビタミンE群が1.6例,セレン群が0.8例,ビタミンE+セレン群が0.4例だった。

Medical Tribune 2011年10月27日

従来の報告より高い喫煙による男女の膀胱がんリスク
 米連邦保健福祉省(HHS)米国立がん研究所(NCI)のNeal D. Freedman博士らは,50万人近くのデータを分析し,喫煙者の膀胱がんリスクはこれまで報告されていたよりも高く,男女ともリスクは同等であるとの研究結果を発表した。

現喫煙者ではリスク4倍高い

 膀胱がんと診断される患者は全世界で年間35万人超,米国では7万人超である。喫煙は男女ともに最も確立された膀胱がんの危険因子で,これまでの諸研究では,喫煙者の膀胱がんリスクは,非喫煙者に比べ3倍高いことが示されている。

 Freedman博士らは「過去50年の間にたばこの成分は変化し,煙に含まれるタールとニコチンの量は減少した。しかし,膀胱がんの発がん物質として知られるβナフチルアミンなど,特定の発がん物質の量は明らかに増加している」と述べ,「喫煙率とたばこ成分の変化を考えると,喫煙と膀胱がんリスクとの関連性を再検討することには意味がある」と付け加えている。

 同博士らは,米国立衛生研究所(NIH)と米国退職者協会(AARP)によるNIH-AARP食事・健康研究のデータ(男性28万1,394例,女性18万6,134例)を用い,喫煙と膀胱がんとの関連性を検討した。

 追跡期間中,男性3,896例,女性627例が膀胱がんと診断された。喫煙は男女とも膀胱がんの有意な危険因子だった。男女とも喫煙経験のない非喫煙者と比べて,元喫煙者と現喫煙者で膀胱がんリスクが上昇していた。データ解析の結果,非喫煙者と比べて,元喫煙者の膀胱がんリスクは2.2倍,現喫煙者では4倍高いことが分かった。同博士らは「1963〜87年に行われた過去7件の試験での現喫煙者の膀胱がんリスクに関する評価では2.94倍となっていた」と述べている。

 同博士らは「喫煙と膀胱がんの関連性を強化した因子としては,たばこの煙に含まれる成分の変化(βナフチルアミンの濃度上昇など)や膀胱がんリスクに関する喫煙者の認識度の向上とそれがもたらした検診の早期化が挙げられる」とし,「今回の結果は,米国では喫煙と関連する膀胱がんリスクが年を追うごとに増大しているとする仮説を支持するもので,おそらくは,たばこ成分の変化を反映している。今後も引き続き,喫煙率の低下に焦点を合わせた予防に努めるべきだ」と述べている。

Medical Tribune 2011年10月27日

メトホルミンにより2型糖尿病患者の大腸がんリスクが低下
 メトホルミン(経口血糖降下薬)による2型糖尿病治療で大腸がんのリスクが低下することを示すメタ解析結果が,中国のグループにより発表された。

 In vitro(生体外)とin vivo(生体内)の研究でメトホルミンはがん細胞の増殖を抑制し,がんのリスクを低下させることが示されている。また,最近の疫学研究で,メトホルミン療法によって2型糖尿病患者のがん発症とがんによる死亡が減少することが示唆されている。

 しかし,メトホルミンの大腸がんへの効果に関するデータは限られ,結果は一致していない。同グループは,メタ解析により2型糖尿病患者のメトホルミン療法と大腸がんとの関係を検討した。

 2型糖尿病患者計10万8,161例を含む5試験が解析対象となった。その結果,メトホルミン療法は大腸腫瘍リスクの有意な低下と関係していた。大腸腺腫との関係を検討した1試験を除いた4試験には10万7,961例(うち大腸がん発症589例)が含まれ,メトホルミン療法による大腸がんの有意なリスク低下が観察された。

Medical Tribune 2011年10月27日

血圧上昇でがん罹患率,死亡率も上昇
 これまで,いくつかの研究で血圧とがんとの関連性が示唆されつつも,統一した見解は得られていなかった。そこでキングズカレッジ(ロンドン)がん疫学グループのMieke Van Hemelrijck博士らは,7件のコホート試験を用いた大規模メタ解析研究Metabolic syndrome and Cancer project(Me-Can)から,血圧上昇とがんの罹患率,死亡率の上昇が有意に相関することをThe 2011 European Multidisciplinary Cancer Congress(EMCC 2011)で報告した。

約58万例を平均12年間追跡

 同研究では,ノルウェー,オーストリア,スウェーデンで行われていた7件のコホート研究,計57万7,890例(男性28万9,545例,女性28万8,345例)を解析対象とした。登録時の平均年齢は44歳,平均追跡期間は12年間であった。なお,追跡1年目にがんと診断された男性2万2,184例,女性1万4,744例,および,がんで死亡した男性8,724例,女性4,525例は解析から除外された。

 Van Hemelrijck博士らは,血圧値とがんの罹患率および死亡率との関連を調べるため,中間血圧〔(収縮期血圧+拡張期血圧)/2〕を算出し,年齢や喫煙歴などで補正した上でCox回帰分析を行った。なお高血圧は,収縮期血圧140mmHg以上および拡張期血圧90mmHg以上と定義した。

 解析の結果,中間血圧が10mmHg上昇するごとに男性のがん罹患率,がん死亡率,そして女性のがん死亡率が有意に上昇することが示された。また,20年間でのがん罹患絶対リスクを算出したところ,正常血圧患者では14%,高血圧患者では16%と,両者間に2%の差が確認された。

 以上から,同博士らは「血圧値の上昇は,男性のがん罹患率と死亡率の上昇,および女性のがん死亡率の上昇と有意に相関することが示された」とし,「高血圧患者と正常血圧患者のがん罹患絶対リスクの差は2%であったが,高血圧患者数の多い西洋諸国では大きな差につながる」と結論した。

Medical Tribune 2011年10月27日

〜妊娠中のがん化学療法〜
児の心身発育に大きな影響なし
 妊娠中にがんと診断され化学療法が必要となった場合,胎児への影響が懸念されていた。中には出産まで適切な治療を受けない母親や,中絶を選択する母親もいる。ルーベン大学病院(ベルギー)産婦人科のFrederic Amant教授らは多施設共同研究から,母親が妊娠中に化学療法を実施した児であっても心身の発育に大きな影響は見られなかったと,The 2011 European Multidisciplinary Cancer Congress(EMCC 2011)で発表した。

早産児でIQ低下リスク

 同研究の対象は,胎児期にがん化学療法に曝露された小児で,2005年から登録が開始された。1991〜2004年に産まれた31例,2005〜10年に産まれた83例の計114例が登録され,データ不備例などを除く70例について解析が行われた。

 なお,母親のがん腫は乳がん(35例)が最も多く,血液がん18例,卵巣がん6例,子宮頸がん4例などであった。母親ががんと診断された際の妊娠週数中央値は18.1週(範囲1.7〜33.1週),出産時の在胎期間中央値は35.7週(同28.3〜41.0週),追跡期間中央値は22.3カ月(同16.8〜211.6カ月)であった。

 全70例を対象に新生児期に神経学的検査を行ったところ,一過性の低血圧が5例,良性新生児睡眠時ミオクローヌスと右肘の拘縮が1例ずつ認められたが,64例は正常と診断された。また,心機能についても心電図(ECG)や心室中隔厚(IVS)などに異常はなく,奇形も認められなかった。

 一方,在胎期間別にIQスコアを調べたところ,34週未満(16例)では,34〜37週(31例)や37週以上(23例)と比べて,正常値以下となる割合が高かった。在胎期間が1週増えるごとにIQスコアが2.5増加し,両者が有意に相関することが示された。

 以上からAmant教授らは,同研究の限界として症例数の少なさや追跡期間の短さを指摘しながらも,「胎児期にがん化学療法に曝露された児の心身の発育は,通常の児と同等である」とし,「認知機能の障害は,がん化学療法曝露の有無よりもむしろ在胎期間34週未満での出産との関連性が示された」と結論した。

Medical Tribune 2011年10月27日