広葉樹(白) 
          

 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2011年1月



2011年1月 文献タイトル
抗がん剤を封じ込めた極小のカプセル
男性性器の包皮環状切除でパートナー女性のHPV感染リスク減少 アフリカ・ウガンダ住民での検討
結核の既往で8年以内の肺がん発症率が11倍に 台湾の研究者が報告
子宮摘出術と腎細胞がんのリスクに有意な関連性
HPVの8型が明らかに 子宮頸がんの90%以上の原因に
無煙たばこは禁煙に役立たない
就寝前の室内灯が高血圧,糖尿病リスクを高める!? 米研究,メラトニンレベルの抑制を確認
糖尿病はがんのリスク
末期乳がんに新たな治療選択肢 FDAがeribulinを承認
遺伝性乳がんの早期発見 マンモグラフィよりMRIが優れる
アスピリンの長期服用で特に消化器がんによる死亡が有意に減少
乳がんスクリーニング論争は無意味 全データの客観的な分析が肝要
日本産科婦人科学会,HPVワクチン接種の高い安全性を強調
全身性の副反応への注意も促す
閉経後乳がん,身体活動量の増加とHRT回避で3割が予防可能 ドイツがん研究センターの推奨
乳がん患者の身体機能障害 乳がん以外の原因による死亡率上昇と関連
尿中蛋白質と前立腺がんリスクに強い相関 簡便で高精度の尿検査開発に希望
暴飲で心疾患リスク高まる 北アイルランドに危険な飲酒文化

抗がん剤を封じ込めた極小のカプセル
 抗がん剤を封じ込めた極小のカプセルを使って、通常の方法では薬が効かなくなったがん細胞に効率的に抗がん剤を送り込む方法を開発したと、片岡一則東京大教授らが発表した。

 カプセルは、標的となる細胞の核の近くに到達後に壊れ、抗がん剤が出てくるよう設計しており、抗がん剤を効かなくするタンパク質の影響を避けられるという。片岡教授は「本丸の近くで一気に敵をやっつける『トロイの木馬』のようなものだ」と話している。

 片岡教授らは、抗がん剤の"容器"として、直径が約40ナノメートル(ナノは10億分の1)の球状のカプセル「高分子ミセル」を利用した。抗がん剤を入れる内側は水になじみにくい「疎水性」、外側は水になじみやすい「親水性」になっており、異物を攻撃する体の免疫機構から逃れられるという。

 通常の抗がん剤が効かなくなった大腸がんのマウスに蛍光物質で着色したカプセルを注射すると、12時間後にがん細胞の中にカプセルが侵入、抗がん剤を放出したことが顕微鏡で観察できた。

 がんは、通常の方法で抗がん剤を投与した場合の5分の1程度に小さくなったという。

 こうした詳細な仕組みはこれまで不明だったが、カプセルを利用した4種類の製剤の臨床試験が既に始まっている。

m3.com 2011年1月6日

男性性器の包皮環状切除でパートナー女性のHPV感染リスク減少
アフリカ・ウガンダ住民での検討
 わが国でワクチンが承認された子宮頸がん。その予防には,原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しないことが第一だが,包皮環状切除を受けた男性のパートナー女性でHPV感染リスクが減少することを,ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部のMaria J. Wawer氏らが報告した。アフリカ東部のウガンダ住民を対象としたもので,包皮環状切除を受けた男性のパートナーは受けていない男性のパートナーに比べ,HPV感染率,感染頻度ともに低かったという。

感染率は28%低下

 Wawer氏らは2003年,ウガンダ・ラカイの非HIV感染男性5,596例(15〜49歳)を登録。男性はいずれも包皮環状切除を受けていなかった。登録男性は包皮環状切除を受ける群と受けない群にランダムに分けられ,さらにそのパートナー女性も登録した。最終的に,包皮環状切除群の男性 549例,女性544例,対照群の男性502例,女性488例が解析対象となっている。

 24カ月間追跡した結果,高リスク型HPVの感染率は,包皮環状切除群女性で27.8%,対照群女性で38.7%となっており,包皮環状切除群女性で有意に低かった。また,試験期間中の高リスク型HPV感染頻度も包皮環状切除群女性で20.7件/100人年,対照群女性で26.9件/100人年と有意に低かった。

 以上のことから,同氏らは「包皮環状切除はパートナー女性のHPV感染リスクを減少させる」と結論。包皮環状切除によって男性の尿道や冠状溝などでHPVの検出量が減ったことから,男性側の要因を取り払うことで女性の再感染を予防し,それが感染率および感染頻度の低下をもたらしたのではないかと推測した。ただし,同氏らは「安全な性行為の奨励も重要」と付け加えている。

 なお,今回の研究では,包皮環状切除が男性およびパートナー女性のHIV感染リスクを抑制することも明らかになったという。

Medical Tribune 2011年1月7日

結核の既往で8年以内の肺がん発症率が11倍に
台湾の研究者が報告
 肺結核の既往を有する人では,のちに肺がんを発症するリスクが10倍以上になる?こうしたショッキングなデータが掲載された。台湾・China Medical UniversityのYang-Hao Yu氏らは「1998〜2000年に台湾で肺結核の治療を受けた4,480例と対照群を比べた結果,肺結核の既往を有する群では,8年以内の肺がん発症率が対照群の約11倍,肺結核と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の併発群ではさらに上昇することが示された」と報告した。

共通の原因が存在する可能性も

 肺結核と肺がんの関連については,これまで明らかなエビデンスが存在しなかった。そこでYu氏らは,台湾における国民健康保険 (NHI)加入者の中から100万人をランダムに抽出。発症部位にかかわらず研究開始時点で既にがんと診断されていた患者をまず研究から除外した上で,1998〜2000年に新規に結核と診断された20歳以上の全患者と結核の既往を有さない群とで,のちの肺がん発症リスクを比較した(追跡調査は 2001〜07年に実施)。

 分析可能データが得られた結核群4,480人,非結核群71万2,392人について検討したところ,結核群における肺がん発症率は1万人年当たり 26.3で,非結核群の2.41と比べ10.9倍。全死亡率は結核群では1万人年当たり51.1,非結核群では8.2とのデータが得られた。

 共同研究者のChih-Yi Chen氏は「世界的に見ると結核は極めてありふれた慢性疾患の1つであり,患者の多くは新興国に集中しているのが現状。肺がんの原因の1つが喫煙であることは周知の事実だが,今回の調査結果から,結核の既往がある場合にも肺がん発症リスクは高いことが明らかになった」と指摘。「結核と肺がんとの因果関係が示唆されたわけではないが,両疾患に共通の原因が存在する可能性もあり,結核予防キャンペーンに肺がん予防の視点を取り込むことが重要であると言えそうだ」とコメントしている。

Medical Tribune 2011年1月11日

子宮摘出術と腎細胞がんのリスクに有意な関連性
 子宮筋腫などの良性疾患で子宮摘出術を受けた女性は腎細胞がんのリスクが高いと,スウェーデンのグループが発表した。

 一部研究で子宮摘出術と腎細胞がんとの関係が示唆されている。同グループは,スウェーデンの1973〜2003年の入院登録とがん登録から,良性疾患で子宮摘出術を受けた女性(子宮摘出群)18万4,945例とマッチさせた子宮非摘出群の女性65万7,288例のデータを用いて,子宮摘出術と腎細胞がんのリスクとの関係を評価した。

 その結果,10万人年当たりの腎細胞がんの粗発症率は子宮非摘出群の13.1に対し子宮摘出群では17.4と高く,調整後のハザード比(危険率HR)は 1.50であった。腎細胞がんのリスクは,44歳以下で子宮摘出術を受けた女性の術後10年以内が最も高かった(HR 2.36)。

 子宮摘出術後の腎細胞がんのリスクは一貫しており,HRは術後10年目までが1.50,11〜20年目が1.49,それ以降が1.51であった。

Medical Tribune 2011年1月13日

HPVの8型が明らかに 子宮頸がんの90%以上の原因に
 カタラン腫瘍研究所(スペイン)のSilvia de Sanjos博士率いる国際チームは,最大規模の遺伝子型研究を実施し,8種類のヒトパピローマウイルス(HPV)型(16,18,31,33,35,45,52,58型)を合わせると世界で報告されている子宮頸がんの90%超から検出されることを明らかにし,次世代ワクチンはこれら遺伝子型を標的にすべきであると発表した。

 また,同博士らは「HPV16,18,45型が最も頻繁かつ圧倒的に若年層から検出された。したがって,これからのスクリーニングでは,これら3種類の遺伝子型を検出するための検査を実施すべきである」としている。

3種類の型を標的に検診を

 子宮頸がんは世界でも女性に発症するがんの第2位を占めており,2010年の同がんによる死亡者数は約32万8,000人と推定されている。

 高リスク遺伝子型が発がんの原因であるが,これまでにHPVは118種類以上同定されており,そのうち約40種類が生殖管に感染し,12種類ががん発症の原因として知られている。

 特に,新規患者の80%超が発生する途上国に対し,浸潤性子宮頸がんの主因となる遺伝子型に効果的なワクチンを接種するため,HPV型を同定する信頼性の高い情報が世界的規模で提供される必要がある。

 de Sanjos博士らは今回の研究で,浸潤性子宮頸がん組織のパラフィン包埋サンプルを世界各国から収集し,含まれるHPVをタイプ別に検討した。対象は 1949〜2009年に浸潤性子宮頸がんと診断された1万575例で,欧州,北米,中南米,アフリカ,アジア,オセアニアの38カ国から組織サンプルを収集した。HPV遺伝子型の同定にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法とDNA検査法を用いた。

 60年間の研究期間を経て,最も頻繁に検出されたHPV型は,頻度の高い順に16,18,45,33,31,52,58,35型の8種類で,これらを合計すると全子宮頸がんの91%から検出されることが明らかとなった。中でもHPV16,18,45型は子宮頸がんの大半を占める偏平上皮がんの75%に,次に多い腺がんの94%に認められた。

 同博士らは「このような国際的な研究の実施によって,既存のワクチンを用いて子宮頸がんを予防することを支持するエビデンスがあらためて得られた」とし,「今回の研究結果によって,既存のワクチンのクロスプロテクション効果を評価して,どのHPV型を優先すべきかが明らかになった。

 また,今回の結果は次世代多価ワクチンの使用に当たって,推奨基準の策定にも有用である」と指摘している。

Medical Tribune 2011年1月13日

無煙たばこは禁煙に役立たない
 米国心臓協会(AHA)はこのほど「無煙たばこには中毒となるリスクや喫煙を再開するリスクを伴うため,たばこの代替あるいは禁煙手段として使用すべきではない」との声明を発表した。無煙たばこには,かぎたばこやかみたばこなどさまざまな製品があるが,声明ではこれらの製品も通常のたばこ製品と同様,致死的な心筋梗塞や脳卒中,がんのリスクを上昇させる可能性があると指摘している。

禁煙にはニコチン置換療法を

 「たばこに安全な製品はない」。筆頭著者でイリノイ大学(シカゴ)生物行動保健科学科のMariann R. Piano教授は,今回の声明で近年の無煙たばこが通常のたばこに比べて安全な代替品となりうるか否かを巡る議論に触れ,明確な姿勢を示している。

 無煙たばこが安全だとする主張の根拠となったのは,1976年から2002年にかけてスウェーデンの男性で無煙たばこの使用者が増加したのに伴い,従来のたばこを吸う喫煙者が有意に減少したとする報告である。しかし,最近の米国の調査では,スウェーデンの例とは逆の現象が報告されている。

 声明では「禁煙を試みるなら,無煙たばこの使用よりもニコチンガムあるいはニコチン放出パッチなどによるニコチン置換療法の方が安全である。これらのニコチン置換療法では,心筋梗塞や脳卒中リスクの増加は認められないとする臨床研究の結果も得られている」としている。

2010年6月から18歳以下への販売禁止に

 米国では,たばこ煙の排除を目指した“smoke-free air”条例の制定が各地で進んでおり,無煙たばこは通常のたばこの代替品として「いつでも楽しめるたばこ」などのキャッチフレーズで販売されている。

 しかし,Piano教授は「無煙たばこは有害かつ中毒性があり,よりよい代替品とは解釈できない」と述べている。

 特に,10歳代の少年で無煙たばこの使用者が増加していることが問題となっている。米食品医薬品局(FDA)は,たばこ規制法において無煙たばこを含む全たばこ製品の18歳未満に対する販売を禁止する最終的な法案を策定し,2010年6月22日に施行された。

 同教授は「研究者と政策立案者は一般人口,特に禁煙を試みる可能性のある喫煙者で『無煙たばこは低リスク』との誤解を招きかねないメッセージの影響力を評価する必要がある」と述べている。

Medical Tribune 2011年1月13日

就寝前の室内灯が高血圧,糖尿病リスクを高める!?
米研究,メラトニンレベルの抑制を確認
 米ハーバード大学ブリガムアンドウイメンズ病院のJoshua Gooley氏らは就寝前の室内灯の利用がメラトニンの産生を抑制することを確認。同氏らは,長期的に見た場合,高血圧や糖尿病リスクが上昇する可能性を指摘している。

シフト勤務者で健康への影響が危惧される

 Gooley氏らは,18〜30歳の健康人116人について,就寝前の8時間,5日間連続で室内灯を使用するグループと,ディムライト(薄暗い照明)を使用するグループに分け,30〜60分ごとに血漿メラトニンレベルを測定した。その結果,室内灯群では,約90分間,メラトニン産生時間が短縮した。

 メラトニンは,脳の松果体で夜間に産生され,眠気,体温,血圧,グルコース恒常性などに関与する。メラトニンレベルが慢性的に低いと,いくつかのタイプのがんが増加し,メラトニン受容体遺伝子が2型糖尿病を引き起こすという報告がある。同氏らは,夜間,室内灯に長年さらされるシフト勤務者に対する健康への影響を示唆する結果としている。

Medical Tribune 2011年1月14日

糖尿病はがんのリスク
 糖尿病の患者は人種や民族を問わず、がんにかかったり、がんで死亡する危険性が10%以上高く、日本人を含む東アジア人では死亡のリスクが32%も高いことを、国立国際医療研究センター(東京)のグループが突き止めた。

 1960年代以降の世界の論文をもとに、男女約25万7000人分のデータを解析。糖尿病患者は糖尿病でない人に比べ、何らかのがんにかかる率は11%、がんが原因で死亡する率は16%高かった。

m3.com 2011年1月18日

末期乳がんに新たな治療選択肢
FDAがeribulinを承認
 米食品医薬品局(FDA)は,2種類以上の化学療法を受けた末期の転移性乳がん患者に対する治療薬としてeribulin(商品名Halaven)を承認した。

全生存期間を延長

 米国立がん研究所(NCI)によると,乳がんは女性のがん関連死因の第2位を占める。2010年には20万7,090人の女性が乳がんと診断され,3万9,840人が同疾患で死亡すると推定されている。

 Eribulinは,クロイソカイメンから単離された生理活性物質に類似した合成化合物である。同薬は微小管阻害薬で,注射剤として用いられる。同薬の投与は,既に早期または末期の乳がんの治療としてアントラサイクリン系薬およびタキサン系薬をベースとした化学療法を受けていることが条件となる。

 Eribulinの安全性と有効性は,2種類以上の化学療法を受けた経験がある末期の転移性乳がん患者762例を対象とした試験で検討された。患者は同薬またはそれぞれの主治医が選択した別の単剤治療のいずれかにランダムに割り付けられた。

 その結果,全生存期間の中央値はeribulin治療患者で13.1カ月,別の単剤治療を受けた患者で10.6カ月であった。

 Eribulin治療患者で見られた副作用は,好中球減少,貧血,白血球減少,脱毛,疲労,悪心,脱力(無力症),神経損傷(末梢神経障害),便秘などであった。

 FDA医薬品評価研究センター抗腫瘍製剤部のRichard Pazdur部長は「既に他の治療を受けている末期乳がん患者の治療選択肢は限られている。eribulinはこのような女性にとって重要な新しい選択肢となる」と述べている。

 なお,既にFDAが承認したその他の末期の難治性乳がんの治療薬には,カペシタビン,ixabepilone(商品名Ixempra),両者の併用などがあり,いずれもアントラサイクリン系薬およびタキサン系薬をベースとした化学療法が奏効しなかった患者に用いるとされている。

Medical Tribune 2011年1月20日

遺伝性乳がんの早期発見 マンモグラフィよりMRIが優れる
 エラスムス大学(オランダ)臨床腫瘍学のJan G. M. Klijn名誉教授らは「BRCA遺伝子に変異を有するか,または家族歴を有するため乳がんリスクが高いと考えられる女性群では,乳がんの早期発見において,MRIはマンモグラフィより優れる」と発表した。

 この知見は,乳がんリスクの高い女性に対するMRIおよびマンモグラフィを用いたスクリーニングについて検討した Dutch MRI Screening Studyから得られた。同研究ではさらに,BRCA1遺伝子変異の保有者では,BRCA2遺伝子変異の保有者に比べ,マンモグラフィの感度がより低く,診断時の腫瘍サイズが大きいなどの特徴が示された。

 被験者は,年2回の視触診,年1回のマンモグラフィとMRIによる乳がんスクリーニングを受けた。

 その結果,浸潤性乳がんの検出感度については,マンモグラフィ(35.5%)に比べてMRI(77.4%)の方が優れていた。一方,非浸潤性乳管がんの検出感度については両者に有意差は認められなかった。また,マンモグラフィの乳がん検出感度はBRCA2変異保有者(61.5%)では,BRCA1変異保有者(25.0%)の約2倍超だった。BRCA1変異保有者ではマンモグラフィに比べてMRIの乳がん検出感度が高く(66.7%),BRCA2変異保有者では若干であるがこの値をさらに上回った(69.2%)。

MRI検査で生存率も改善

 乳がんの家族歴を有する女性の約25%にBRCA1/2変異が認められる。これまでの研究では,MRI検査は乳がん易罹患性女性での検出感度がマンモグラフィ検診の約2倍であることが明らかにされていた。

 今回の研究は,これらのスクリーニングを受けた高リスク女性群の死亡率についても検討した初めての前向き研究である。診断5年後(中央値)に死亡していたのは浸潤性乳がん女性4例(全例がBRCA1/2変異保有者)のみと,死亡率は低かった。他のリスク群(遺伝子変異が証明されていない女性群)では,死亡または遠隔転移例はなかった。

 スクリーニングで浸潤性乳がんが発見されたBRCA1/2変異保有者42例では診断6年後の全生存率は92.7%に上り,これまでの26件の研究(追跡期間中央値5年,いずれも非ランダム化試験)における全生存率(74.5%)と比べ改善傾向が認められた。

Medical Tribune 2011年1月20日

アスピリンの長期服用で特に消化器がんによる死亡が有意に減少
 毎日のアスピリン服用を長期間継続することでがん,特に消化器がんによる死亡が有意に減少することが,メタ解析により明らかになった。英国のグループが発表した。

 同グループは昨年,アスピリンの5年以上の服用が長期にわたる大腸がん予防に有効であることを報告した。今回は,アスピリンの連日服用が種々のがんによる長期死亡リスクにどのような影響を及ぼすかを検討するメタ解析を行った。

 対象は,血管イベント予防におけるアスピリン群とコントロール群を比較したランダム化比較試験(RCT)で,試験期間が4年以上だった8件。さらに,英国で行われた3件の大規模RCTについて死亡証明書とがん登録を照合し,試験終了後の患者個々の長期追跡を行った。

 8試験には計2万5,570例が含まれ,674例ががんで死亡した。解析の結果,アスピリン群では試験期間中のがんによる死亡が有意に減少した。

 英国の3試験(計1万2,659例,がん死1,634例)の解析でもがんによる20年間の死亡リスクはアスピリン群が有意に低かった。アスピリンのベネフィットは服用期間が長いほど大きかった。

 アスピリンによるがん死亡リスク低下に用量(75mg/日以上),性,喫煙との関連は見られなかった。

Medical Tribune 2011年1月20日

乳がんスクリーニング論争は無意味
全データの客観的な分析が肝要
 オックスフォード大学公衆衛生疫学部のKlim McPherson教授は「乳がんスクリーニングの是非に関する対立した論争は,女性がインフォームド・デシジョンを行う上で有益とはならない」と論じ,入手可能なすべてのデータの客観的な分析を求めている。

低い効果を示すデータも

 McPherson教授は「乳がんの脅威は一向に衰える気配を見せず,抑制のためにできる限りの対策を講じなければならない。しかし今日,進行性疾患に対するスクリーニング検査は,早期診断や早期治療が疾患の進行を改善する場合にのみ正当化される」と述べている。

 最近の米国からの報告では,乳がんスクリーニングによって低下する死亡率は,39〜49歳の女性で15%,50〜59歳で14%,60〜69歳で32%と推定された。さらに,米国の調査では同国のスクリーニングプログラムで1人の救命に必要な参加女性の推定数も多いことが示されており,若年グループでは 2,000人近く,60〜69歳でも400人近くに上るという。英国の場合,この数は40〜55歳の女性で1,610人である。

 同教授は,これらの報告を受け「このように,乳がんスクリーニングによって個人が得られる便益は小さいにもかかわらず,その事実は周知されていない」と指摘している。

 ノルディックコクランセンター(デンマーク)による分析でも,スクリーニングプログラムによって検出される乳がん患者の3人に1人は過剰診断であることが指摘されている。しかしその一方で,スクリーニング検査によって救命される症例数は過剰診断数を大幅に上回ると主張する声もある。

疫学者による公平なデータの精査が必要

 McPherson教授は「結局のところ,乳がんスクリーニングの利益には限界があり,ある女性では逆に有害となる可能性もある。また,地域にとっても得られる費用効果は取るに足りない程度だろう」とし,「英国保健サービス(NHS)のスクリーニングプログラムについては,費用効果の観点から,その是非を再考すべき時が来たようだ」と述べている。

 さらに,「対立的な論争は無益である」と強調。「女性はこれまで長きにわたり,データの分析結果から導かれる度を越した指針に左右されてきた。公平な疫学者がすべてのデータを精査し,英国のスクリーニング状況における正確な推定値を得ることが肝要である」と述べている。

 また同教授は,NHSスクリーニングプログラムについて「現時点での不確実な点を女性に(どの程度,いつまでに解決するかなど)明白に伝える必要がある」としている。さらに,大切なこととして「これほど重要な国家プログラムがなぜ今まで,多くの未解決の問題を抱えたまま放置されてきたのか,十分に理解する必要がある」と結論している。

Medical Tribune 2011年1月20日

日本産科婦人科学会,HPVワクチン接種の高い安全性を強調
全身性の副反応への注意も促す
 日本産科婦人科学会は,子宮頸がんの予防目的で接種されるヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチンの安全性に関する文書を同学会の公式サイトに掲載した。同ワクチンの特徴や臨床試験の結果から安全性は高いことを強調する内容だが,全身性の副反応に対する注意も促している。

臨床試験における有害事象は一過性

 HPVワクチンは既に世界100カ国以上で承認され,日本でも2009年10月に子宮頸がんの6〜7割の原因とされるHPV16型と18型の感染予防を目的とした2価ワクチンが承認済み。ただし,HPV6型と11型に対応し,HPV由来の病変である尖圭コンジローマの発症も予防できる4価ワクチンについては,未承認だ。

 今回掲載された文書によれば,いずれのワクチンもHPVの本体であるウイルスDNAを含まず,人工的に生成されたHPV殻を疫原とするVLPワクチンであるため,感染性はないとしている。また,世界保健機関(WHO)のワクチンの安全性に関する世界諮問委員会が,安全性に大きな問題はない,との結論を出したことなどにも触れている。

 HPVワクチンが高い安全性を誇ることを主張する理由として,同学会は,(1)ワクチン接種の国内外での臨床試験における有害事象はいずれも局所の疼痛,発赤,腫脹であり,一過性で重篤な全身性反応がない,(2)同じく国内外の臨床試験で報告された疲労,筋痛,頭痛,悪心・嘔吐・下痢・腹痛などの胃腸症状,関節痛,発疹,発熱,蕁麻疹など,全身性の症状を呈する副作用は,いずれも軽度から中程度であり,接種スケジュールを変更するほどの有害事象ではない―ことを挙げている。

 しかしながら,全身性の副反応に関しては注意を促しており,思春期の女子に特有の迷走神経反射による失神やめまいという有害事象が米食品医薬品局(FDA)へ報告されており,接種後15〜30分程度はその場での観察が推奨されていることから,国内でも接種後の観察が徹底されると推察している。

 さらに,アナフィラキシーなどの重篤な全身性アレルギー反応については非常にまれであるとしながらも,2価ワクチンには天然ゴムが使用され,4価ワクチンは酵母由来の薬剤であることから,過敏症状に関しては細心の注意を払い,接種前の十分な問診を行うとともに,過去にワクチン接種で過敏症状を起こした場合には接種を避けるべきとしている。

 また,妊娠中の接種でも悪影響を及ぼさないことが推定されているが,妊婦は接種対象とせず,接種プロトコル中に妊娠が判明した場合も接種の延期が推奨されているとし,海外では認められている授乳婦への接種も国内では有益性がある場合に限定されているとしている。

Medical Tribune 2011年1月20日

閉経後乳がん,身体活動量の増加とHRT回避で3割が予防可能
ドイツがん研究センターの推奨
 乳がんの危険因子については多くの研究・報告が寄せられているが,乳がん家族歴,初潮年齢の低さ,閉経時期の遅さなどの危険因子に“手を加える” ことはできない。しかし,ドイツがん研究センター(DKFZ)講師のKaren Steindorf氏らは,ハンブルク大学病院との共同研究の結果,「閉経後に生じる乳がんの約30%は,身体活動量を増やし,ホルモン補充療法(HRT)を回避することで予防できそうだ」とDKFZが1月18日に公開したプレスリリースで指摘した。

ライフスタイルが違えば結果が異なる可能性も

 DKFZの教授で,共同研究者のJenny Chang-Claude氏は「ドイツでは毎年,5万8,000例の女性が乳がんを発症しており,発症予防の観点からは,修正可能な“(広義での)行動様式”が焦点となる。今回の研究ではこうした修正可能因子を複数取り上げて解析した」と説明した。

 今回の研究は,閉経後の乳がん発症の危険因子を探るべく2002〜05年にライン・ネッカー・カールスルーエ地域とハンブルク近郊の住民を対象に実施されたMARIE(Mammakarzinom-Risikofaktoren-Erhebung)研究のデータを活用した症例対照研究。閉経後に乳がんを発症した3,074例,女性対照群6,386例を対象とし,これまでの研究で乳がん発症の危険因子の可能性ありとされていたHRT,身体活動量,過体重,飲酒の4項目に的を絞って検討した。個々の危険因子,ないしは複数の危険因子の特定の組み合わせに起因すると考えられるがんの割合を PAR(population-attributable-risk)を用いて解析した。

 その結果,とりわけHRTと身体活動不足が乳がん発症リスクの上昇につながっていることが示された。その一方で,飲酒と過体重が乳がん発症リスクに与える影響は相対的に小さかった。閉経後に発症した浸潤性乳がんで見ると,HRTのPARは19.4%,身体活動不足のPARは12.8%であった。この2つの危険因子がともに存在しない場合には,閉経後の浸潤性乳がんの29.8%,受容体陽性乳がんの37.9%を回避できることも示された。

 Steindorf氏は「今回の研究から,身体活動量を増やしてHRTを実施しなければ,閉経後乳がん症例の約30%を予防できることが示唆された。したがって,HRTを回避できるケースでは,他の治療法を選択することが望ましいのではないか」と指摘。ただし,この結果はドイツの状況を反映するものであり,生活スタイルが違う国では全く異なる結果が得られる可能性もあるとしている。

Medical Tribune 2011年1月21日

乳がん患者の身体機能障害
乳がん以外の原因による死亡率上昇と関連
 乳がん患者は治療後も日常生活に求められる動作に制約をもたらす機能障害に悩まされることが多い。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDejana Braithwaite博士らは,そのような身体機能障害が乳がん患者の長期予後に与える影響について前向きコホート研究で検討した結果,身体機能障害は乳がんによる死亡率には関連していなかったが,全死亡率や乳がん以外の原因による死亡率の上昇と関連していることが分かった。

2,202例を最長11年間追跡

 今回の研究では,日常生活を送る上で必要とされる持久力や筋力,可動域などに影響を及ぼす機能障害のある乳がん患者では,乳がん再発リスクについては障害のない乳がん患者と同等だが,乳がん以外の原因で死亡するリスクはより高いことが明らかになった。

 同博士らは今回の研究結果を踏まえ,「身体機能障害は,併存症などの既知の因子とは独立した,乳がんの予後予測因子となりうる」と結論。さらに,「生存率に影響を及ぼす機能障害は,慢性炎症やそれによる臓器などの機能低下を反映していると考えられることから,今回の結果は生物学的および臨床的に妥当である」と付言している。

Medical Tribune 2011年1月27日

尿中蛋白質と前立腺がんリスクに強い相関
簡便で高精度の尿検査開発に希望
 英国がん研究会(CRUK)ケンブリッジ研究所グループのHayley C. Whitaker博士らは,CRUKの助成を受けた英国がん研究所(ICR)との共同研究で「精液中に含まれ尿中にも存在する蛋白質 microseminoproteinβ(MSMB)が前立腺がんリスクの強力な指標になることが示唆された」と発表した。

PSAは不確定要素が多い

 Whitaker博士らは,以前のゲノムワイド関連の研究結果を踏まえて,今回,前立腺がんリスクにかかわる遺伝的変異と尿中MSMB濃度の有意な低下の関連を確認した。今回の研究では,前立腺がんと非がんの男性350例超を対象に,組織と尿を分析してMSMBの値を測定し,遺伝子変異を同定した。 MSMBは正常な前立腺細胞により産生され,その細胞死を調節する蛋白質で,前立腺がん発症リスクの増大と関連付けられている。

 同博士らは,これまでに前立腺がん患者と非患者を含む男性数千人のゲノム全体の交叉試験を行い,前立腺がん発症リスク増大と強力に相関するMSMBの産生スイッチを入れるDNA部位に微細な変異を同定している。この遺伝子変異は頻繁に見られ,欧州男性では約30〜40%が保有していた。MSMBは精液中に含まれる蛋白質の中では前立腺特異抗原(PSA)に次いで濃度が高く,尿中に混入する。

 前立腺がん検診に活用されている血清PSA値と異なり,MSMB値は前立腺肥大による影響をほとんど受けない。しかも,前立腺がん治療の種類によってはホルモン値が変化することがあるが,MSMBはホルモンの影響も受けないことがこれまでの研究で示唆されている。一方,PSA値はもともと人によって異なり,前立腺肥大など前立腺がん以外の病態によっても値が上昇したり,前立腺がんであっても上昇しなかったりするため,PSA検査を全国的な検診プログラムで使用するには不確定な部分が多過ぎる。

 今回の研究は,尿中のMSMB蛋白質の濃度が,前立腺がんリスクの高い男性を同定するための新たな検査法となりうることを示唆している。また今後,前立腺がんの検出や進行の監視の精度を改善するためにPSA検査との併用も考えられる。

 Whitaker博士は「遺伝子変異とMSMBの関連を確認できた意義は大きい。MSMBは尿中に存在するため検出が容易で,前立腺がん発症リスクが最も高い男性を同定するための簡便な検査に利用できるだろう」と述べている。

Medical Tribune 2011年1月27日

暴飲で心疾患リスク高まる
北アイルランドに危険な飲酒文化
 トゥールーズ大学(仏)のJean-Bernard Ruidavets博士らは「英国北アイルランドのベルファストで見られる偏った飲酒文化は,同地域における心疾患の罹患率が高いことと関係している可能性がある」と発表した。これに対し,今回の研究によると,比較対象となったフランス人男性は1週間を通じてより均等な割合でアルコール飲料を摂取する傾向にある。

フランスの中年男性と飲酒パターンが異なる

 Ruidavets博士らは「飲酒が心疾患や早死につながることは既に知られている。しかし,飲酒パターンやアルコール飲料の種類によって,このような影響に違いが見られるか否かについては明らかにされていない」と述べている。

 そこで同博士らは今回,文化の異なる北アイルランドとフランスの中年男性を対象に,酒の飲み方(飲酒パターン)が両地域での心疾患発症率の差と関係するか否か検討した。

 対象は虚血性心疾患を有さない男性9,778人(1991年の研究開始時の年齢50〜59歳)で,Belfast/PRIME研究に参加した2,405人とフランスの3つの健診施設から得られた7,373人が含まれた。

 被験者は研究開始時に,毎週あるいは毎日消費するアルコール飲料の量およびその種類に回答し,その結果から(1)全く飲酒をしない(2)過去に飲酒をしていた(3)習慣的に飲酒をしている(週1回以上,1日当たりのアルコール消費量50g*未満)(4)暴飲している(1日当たりのアルコール飲料の消費量が50g以上)の4群に分けられた。

 被験者データによると,ベルファストとフランスでは,1週間に消費されるアルコール飲料の量はほぼ同等であった。しかし,フランスの中年男性は週を通して習慣的に飲酒する傾向がある一方,ベルファストでは同じ量を1〜2日で飲むなど飲酒パターンが異なる傾向が認められた。さらに,週末に飲酒する男性の割合は,フランスに比べてベルファストでは約2〜3倍高いことが明らかになった。同地域ではほとんどの男性が週末の1日(土曜日)に集中して飲酒していたという。

心筋梗塞と死亡リスクが2倍

 研究開始から10年間にわたり,被験者の健康状態(受診,入院,治療など)をフォローアップした結果,年齢,喫煙,運動量,血圧,腹囲などの心血管疾患の危険因子とは独立して,暴飲している男性が心筋梗塞を来すあるいは心疾患が原因で死亡するリスクは,習慣的に飲酒している人の約2倍高いことが示された。

 Ruidavets博士らは「暴飲は習慣的な飲酒に比べ,虚血性心疾患リスクを倍増させるにもかかわらず,ベルファストではフランスに比べ,暴飲の蔓延率が約20%高かった」と指摘している。

 さらにベルファストで心疾患リスクが高いもう1つの原因として,ワイン(27.4%)よりもビール(75.5%)やスピリッツ(蒸留酒,61.3%)が好まれる傾向を挙げている。これに対し,フランス人の多くはワインを飲んでいた(91.8%)。中等量のワイン摂取が心疾患を予防することは先行研究で実証されている。

 同博士らは「特に地中海諸国では,若年層が暴飲する傾向が強まっており,今回の研究は公衆衛生上重要な意味がある」と結論。さらに「アルコール飲料産業は,都合の良い情報をとらえては,“飲酒は虚血性心疾患リスクを下げる”などとアルコール飲料の良いイメージをすりこもうとする。しかし,大量飲酒が健康に及ぼす害についての情報も同様に流すべきである」と付け加えている。

年齢別に暴飲対策を

 ロンドン大学のAnnie Britton博士は,暴飲について,「心疾患リスクが増大するだけでなく,肝硬変やさまざまながんにも関連し,社会問題にもつながる」とコメントしている。

 また,公衆衛生の改善を図るために,中年男性に対しては「暴飲することによって,アルコール飲料の保護的効果がなくなるだけでなく,心筋梗塞リスクを高めることを知らせるべきである」と指摘。その一方で,若年層に対しては「若者は心疾患リスクが低いため,同リスクに及ぼす影響について強調するよりも,アルコール中毒,(飲酒が関与した)傷害,暴行,悔いの残る性経験などに焦点を合わせた暴飲反対のメッセージを発信していく方が良いだろう」と述べている。

*アルコール50gはアルコール飲料4.5杯に相当〔アルコール飲料1杯の目安はワイン125mL,ビールで半パイント(250mL)〕

Medical Tribune 2011年1月27日