広葉樹(白)  
         

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2010年9月 文献タイトル
アジア太平洋地域のがん死亡 過体重がリスク増と関連
男性のCRP高値は結腸がんの独立した危険因子の1つか
第14回日本がん分子標的治療学会 中空マイクロカプセル化細胞の局所移植で抗腫瘍効果を増強
第49回日本消化器がん検診学会
〜免疫的便潜血検査〜高濃度陽性では発見される大腸がんが6.5倍
メトホルミンが非糖尿病の大腸がんを抑制
メトホルミン投与でたばこ由来の肺腫瘍量が70%減少,米研究
マウスへの腹膜内投与で
男性の乳がんに遺伝子変異が関連
H. pylori除菌時代の胃がん検診 発見率と費用効果の両面で優れるABC検診
マンモグラフィ導入による効果小さい,実質的な死亡率低下は10% ノルウェー乳がん検診プログラム
小児がんに対する放射線療法 生存女性で死産や新生児死亡が増加
短いテロメアでがんリスク上昇 より悪性度の高いがんと関連
HDLコレステロール値が高いと発がんリスクが減少
25年後も依然高い 小児がん生存者の再発死亡率
限局性の乳頭様甲状腺がんは無治療でも予後良好

アジア太平洋地域のがん死亡 過体重がリスク増と関連
 オスロ大学(ノルウェー)生物統計学のChristine Parr博士らは,アジア太平洋地域の成人におけるBMIとがん死亡率との関連性を検討し,過体重と肥満の人は,標準体重の人よりがん死亡率が有意に高まるとの結果を発表した。

すべてのがんでBMIと関連

 近年,過体重や肥満は,いくつかのタイプのがんでは重要な危険因子として認識されるようになってきた。肥満とがんの関連についての研究は,主として欧米人を対象に行われてきたが,その結果が他の集団にも当てはまるか否かについては明らかにされていなかった。

 アジア諸国の多くでは,運動不足や高脂肪食の摂取などライフスタイルの欧米化により,肥満が急速に増加している。そのため,肥満ががんリスクに及ぼす影響がアジアで拡大しているが,そのことはほとんど知られていない。

 今回の研究では,アジア地域(中国,香港,台湾,日本,韓国,シンガポール,タイ)とオーストラリアおよびニュージーランドの成人42万 4,519例を対象に,BMIとがん死亡率の関連性を検討した。

 追跡期間の中央値は4年であった。世界保健機関(WHO)の分類に従い,BMI 18.5未満を低体重,BMI 18.5〜24.9を標準体重(対照),BMI 25〜29.9を過体重,BMI 30以上を肥満とした。

 その結果,BMIが18.5を超えると,BMIとすべてのがんによる死亡リスク上昇との間に関連が認められ,BMIが5増加すると同リスクは9%上昇した(肺がんと上気道消化管がんを除く)。

アジア人の過体重を防ぐ対策を

 今回の結果から,がん死亡リスクが過体重群では標準体重群と比べて6%,肥満群では21%高いことがわかった(肺がんと上気道消化管がんを除く)。この結果は年齢,喫煙,飲酒による影響も考慮されたものである。

 また肥満群では標準体重群と比べて結腸直腸がん,乳がん(60歳以上の女性),卵巣がん,子宮頸がん,前立腺がん,白血病による死亡リスクが有意に高かった。

 さらに,同じBMI分類群の欧米人とアジア人のがん死亡リスクを比較しても,糖尿病や心血管疾患の場合とは異なり,両者間のリスクに明らかな差は認められなかった。

 Parr博士らは「肥満の蔓延によるがん死亡リスクの上昇を抑制することが重要だ。そのため,アジア人の過体重と肥満人口を減少させる戦略が求められている」と結論している。

Medical Tribune 2010-9-2

男性のCRP高値は結腸がんの独立した危険因子の1つか
 男性の血中C反応性蛋白(CRP)高値と結腸がんのリスクとの間に独立した関係が認められると,欧州の共同研究グループが発表した。

 この所見は,がんと栄養に関する欧州の大規模疫学調査(EPIC)の一環としてCRP値と結腸・直腸がんリスクとの関係を検討したコホート内症例研究から得られた。対象は結腸・直腸がん症例1,096例と施設,採血時,年齢,性,閉経状態,ホルモン補充療法などをマッチさせた同数のコントロールであった。

 学歴,喫煙,栄養因子,BMI,ウエスト周囲径を調整した結果,血中CRP値は結腸がんと有意な関係を示したが,直腸がんとの関係は認められなかった。CRP値1.0mg/L未満群と比較した3.0mg/L以上群の結腸がんの相対リスクは1.36,直腸がんの相対リスクは 1.02であった。結腸がんのリスクは男性でのみ有意に高く,女性では有意ではなかった。

 これらの関係はHbA1cやCペプチド,HDLコレステロール値を調整後も維持され,男性の血中CRP高値は結腸がんの独立した危険因子の1つである可能性が示された。

Medical Tribune 2010-9-2

第14回日本がん分子標的治療学会
中空マイクロカプセル化細胞の局所移植で抗腫瘍効果を増強
 東京医科歯科大学肝胆膵・総合外科の田中真二准教授は,大阪大学基礎工学研究科の境慎司准教授らとともに,抗がん薬プロドラッグの活性転換遺伝子を導入した中空マイクロカプセル化細胞を作製。その局所移植による抗腫瘍効果の解析から,抗がん薬プロドラッグへの応用と有用性が示唆されたことを報告した。

ES,iPS細胞への応用も検討

 田中准教授によると,マイクロカプセル化細胞については,既に約50年前から研究が行われており,さまざまな疾患への治療応用が期待されている。しかし従来の問題点として,細胞の活性が作製後1週間ほどをピークに下降し,長期間生存させることはできないことが挙げられていた。

 そこで同准教授らは,厚さ20μmのアガロースゲル膜と100〜150μmの中空核を持つ均一な中空構造のマイクロカプセルを構築し,その中空核に,抗悪性腫瘍薬イホスファミドの活性転換酵素であるCYP2B1を遺伝子導入した細胞を封入。21日目にsphere(球状の細胞塊)の擬似形成を確認し,中空マイクロカプセル化細胞(CYPmCap)を作製した。

 CYPmCapにおいて,in vitroでは遺伝子導入細胞が3週間で46.7倍に増加し,in vivoでは6週間以上生存することを確認したという。

 さらに同准教授らは,ヒト扁平上皮がんのマウス皮下腫瘍モデルを作製し,同マウスモデルにCYPmCapまたはコントロールカプセルを局所移植。その後イホスファミドを腹腔内投与したところ,CYPmCap群ではコントロールカプセル群に比べて,イホスファミドの顕著な腫瘍抑制効果が認められた。

 これらから,同准教授は,遺伝子導入細胞を中空マイクロカプセル化することにより,同細胞が十分に増殖され,長期間生存させることが可能になったことを報告。中空マイクロカプセル化細胞を用いた抗がん薬プロドラッグの局所活性化治療への応用と有効性が示唆されたとした。既にこうした遺伝子細胞を導入したマイクロカプセル化細胞は膵がんの治療などへ応用され始めており,海外では膵がん治療に関する臨床試験も行われている。同准教授らはさらに,中空マイクロカプセル化を用いた胚性幹(ES)細胞,人工多能性幹(iPS)細胞への応用なども検討しているという。

Medical Tribune 2010-9-2

第49回日本消化器がん検診学会
〜免疫的便潜血検査〜高濃度陽性では発見される大腸がんが6.5倍
 大腸がん検診で免疫的便潜血検査(IFOBT)2日法を受けた患者のうち,ヘモグロビン値1,000ng/mL以上と高濃度陽性であった群では大腸がん発見の陽性的中率が11.08%と,100ng/mL以上1,000ng/mL未満群(1.70%)の6.5倍にのぼったことを,大腸肛門病センター高野病院(熊本県)の守安真佐也氏が報告した。

徹底した受診勧奨システムを構築

 IFOBTはHemo Techt NS plus-Cで行い,ヘモグロビン濃度100ng/mLをカットオフ値とした。また,2日法のいずれも陽性で,かついずれか一方でも1,000ng/mL以上を,今回,「高濃度陽性」と定義した。

 対象は2003〜08年度に対策型大腸がん検診を受けた41万3,266人。うちIFOBT陽性(100ng/mL以上)からの発見がんは564例であった。これらをT群(100〜1,000ng/mL未満)425例とU群(1,000ng/mL以上)139例に分け,両群を比較した。

 精検受診率は全体で78.8%だったが,T群79.0%,U群75.8%と,予想に反してU群で低い傾向にあることが判明。陽性的中率は全体で2.14%で,T群1.70%に対し,U群では11.08%と6.5倍高く,両群間で有意差が認められた。

 精検受診率は経年的にほぼ横ばいだったが,U群で若干低い傾向にあり,守安氏は「これが反省点」だとした。年齢で分けると,陽性的中率は男女とも加齢により緩やかに上昇。高濃度陽性的中率も加齢により上昇し,60歳代でピークが認められ,女性のほうがやや高い傾向にあった。

 深達度を検討すると,T群では粘膜内がん65.3%,浸潤がん34.7%だったのに対し,U群ではそれぞれ33.4%,67.6%と比率が逆転しており,U群で有意に深達度が大きいことがわかった。なお,部位に関しては,粘膜がんに比べて浸潤がんは深部大腸に多い傾向が見られたが,有意ではなかったという。

 以上の結果を踏まえて,同氏は「IFOBT高濃度陽性者への徹底した受診勧奨が必要である」と考え,従来の方法を高濃度陽性に限って変更した。 IFOBT陽性者には一律に1か月後の結果説明会で受診勧奨,未受診なら4か月後に手紙で,6か月後に電話で受診勧奨を行ってきたが,高濃度陽性を重視した新たな方法では,結果送付(高濃度陽性発見がんのリーフレットを同封)時に電話でも連絡,1か月後に未受診なら2回目の電話,その2か月後に3回目の電話という体制を構築。

 それでも未受診の場合,所属団体の保健師に面会し,直接受診勧奨してもらえるよう依頼している。この新しい受診勧奨システムを採用した結果,精検受診率は向上する傾向が見られているという。問題は,電話に要するマンパワーで,検診課スタッフのモチベーション確保も大切だと指摘した。

 同氏は「IFOBT陽性のうち,高濃度陽性では6.5倍のがんと1.9倍の浸潤がんが認められ,有意に多かった。したがって,精検受診のハイリスクとの認識が必要である。当院では密で細やかな受診勧奨システムを推進中であり,引き続き,受診率の変化を検討していきたい」と結んだ。

Medical Tribune 2010-9-2

メトホルミンが非糖尿病の大腸がんを抑制
 糖尿病治療薬のメトホルミンで,がん抑制作用を示す新たな研究結果が発表された。横浜市立大学の細野邦宏氏らがCancer Prev Res9月1日オンライン版に発表した論文によると,メトホルミンの1か月投与で非糖尿病大腸異常腺窩(ACF)患者の大腸がん発症を抑制したという。同誌同号には,メトホルミンがたばこ由来の肺がんを抑制する可能性を示す米国のマウス研究も掲載されている。

低血糖症などの副作用は認められず

 細野氏らは,2008年7月〜10年5月に非糖尿病で大腸がんの前がん状態であるACF患者26例を,メトホルミン250mg/日を1か月投与する群(12例,男性8例,女性1例,平均年齢69.1歳)と対照群(14例,男性12例,女性2例,平均年齢64.2歳)にランダムに割り付けし,1か月後に結腸鏡検査を実施。試験前後で対象者のACF数を比較した。なお,肝機能障害,腎機能障害,妊娠,薬物アレルギー,大腸がん歴などが認められた例は除外された。

 最終的に追跡できたメトホルミン群9例におけるACFの平均数は,メトホルミン投与前後で8.78±6.45から5.11±4.99へと有意に減少。一方,対照群では7.23±6.65から7.56±6.75と有意な変化は認められなかった。

 また,直腸上皮の増殖性細胞核抗原(PCNA)でACFの増殖度を測定したところ,メトホルミン群は試験前後で有意に減少していたが,直腸上皮のTUNEL染色によるアポトーシス指標は変化が認められなかった。さらに血糖,インスリン抵抗性,血清コレステロール,トリグリセライドなどに影響せず,乳酸アシドーシスや低血糖症などの副作用も認められなかったという。

 以上のことから,同氏は「これまでの研究でマウスにおけるメトホルミンのACF形成抑制効果が示されていたが,今回の研究でメトホルミンがヒトのACF形成を抑制することが明示された」と結論。大腸がんの化学的予防法の発見につながることに期待を寄せている。

Medical Tribune 2010-9-8

メトホルミン投与でたばこ由来の肺腫瘍量が70%減少,米研究
マウスへの腹膜内投与で
 糖尿病治療薬のメトホルミンはこれまで,さまざまながんの抑制効果が指摘されている。こうしたなかで,米国立がんセンターのRegan M. Memmott氏らは,メトホルミンがヒトにおけるたばこ由来の肺がんを抑制する可能性をマウス実験で明らかにし,Cancer Prev Res9月1日オンライン版に発表した。対照群と比べ,肺の腫瘍量が経口投与で39〜53%,腹膜内投与で72%減少したという。

NNK曝露のA/Jマウスを使用

 Memmott氏らは,A/Jマウスをたばこに含まれる4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1- butanone(NNK)に曝露させ,メトホルミン(1mg/mLもしくは5mg/mL)を飲料水に混入する群としない群,注射で腹膜内に同薬(250mg/kg)を投与する群と生理食塩液を投与する群に,15匹ずつランダムに割り付けて13週間観察。効果の判定は,肺の腫瘍量の変化を基準とした。

 その結果,メトホルミンの投与が腫瘍発生および病理学的に影響を及ぼさなかったものの,対照群に比べメトホルミン投与群では腫瘍量が1mg/mL で39%,5mg/mLで53%減少した。一方,メトホルミン血中濃度がより高かった腹膜内投与群では,対照群に比べ腫瘍量が72%減少。腹膜内投与群の肝細胞でメトホルミンによる有害事象を検討したが,対照群よりも良好な状態になっていたという。

 以上のことから,同氏らは「米国では9,000万人以上の元・現喫煙者が肺がん発症のリスクにさらされており,新たな化学療法的戦略の開発が必要とされている。今回の研究では,メトホルミンによってたばこ由来の肺がんを大幅に抑制できる可能性が示された」と結論。その機序として,成長因子の循環レベル低下を促す他の組織に働きかける可能性が示唆されていると述べた。

Medical Tribune 2010-9-8

男性の乳がんに遺伝子変異が関連
 マンチェスター大学保健科学センター医学遺伝学のGareth Evans教授らの研究により,BRCA2遺伝子変異を有する男性の15人に1人は,70歳になるまでに乳がんを発症することが示された。今回の研究は,この種の研究としては最大規模のものである。

321家族中20例が発がん

 BRCA2遺伝子変異を保有している女性では,若年での乳がん発症率が有意に高くなるが,男性の感受性については不明であった。これは主として,これまで研究がほとんど実施されていないこと,発表された研究が後ろ向きデータに基づいていたことが原因だと考えられる。

 Evans教授らは今回の研究で,BRCA2遺伝子変異を保有する321家族の後ろ向きと前向きのデータを用いた。これら家族は,約1,000万例の人口を扱う北西イングランド中心部のマンチェスターとバーミンガムの遺伝子センター2施設で同定された。

 321家族中20例(6.2%)の男性が29〜79歳で乳がんを発症した。既知のBRCA2遺伝子変異の保有男性の第1度近親者(親または子)は計905例だった。これら第1度近親者のうち16例(2%)の男性が乳がんを発症した。さらに第2度近親者では8例が乳がんを発症し,うち2例は BRCA2遺伝子変異を保有していた。

 これらの数字に基づくと,男性が70歳までに乳がんを発症する率は15例中1例(7.1%),80歳までの発症率は12例中1例(8.4%)であった。

 また同教授らは,BRCA2遺伝子変異を有する男性の乳がんリスクに関する全研究の結果から,西欧男性における生涯罹患率は6〜9%であることも明らかにしている。

 同教授らは「これらのリスクはBRCA2遺伝子変異を保有する家族を持つ男性において,乳がんの認知を高め,乳房の初期症状の重要性を強調するのに十分である」と結論している。

Medical Tribune 2010-9-16

H. pylori除菌時代の胃がん検診 発見率と費用効果の両面で優れるABC検診
コメンテーター 乾内科クリニック 乾 純和 院長(高崎市医師会)

 胃がん検診の方法と言えば,これまで主流とされてきたのは,既に発症したがんを発見する間接X線検査。しかし,高崎市医師会では2006年から,血清ペプシノゲン(PG)値とHelicobacter pylori(H.pylori)抗体価を同時測定することで,これからの発症リスクをABCDの4段階に分類して評価するABC(D)検診を導入。この方法は間接X線検査に比べて,がん発見率が高いだけでなく,費用効果の面でも優れるとの成績が得られているという。ABC検診の考え方と方法および成績について,同医師会がん対策・健診委員会委員長で乾内科クリニックの乾純和院長に聞いた。

血清PG値とH.pylori抗体価を同時測定

 わが国の胃がんによる死亡者数はこの数十年間は横ばい傾向にあるが,それでも年間5万人は下らない。世界の死亡者数が年間50万人程度と推測されていることから,その10分の1をわが国1国で占めている計算になる。いまだに「胃がん大国日本」の名が返上できないのも,無理はないと言える。

 胃がん撲滅のための検診方法としては,これまでは国の推奨を受けた間接X線検査が主流であった。この検査は胃がん死亡率を低下させることが証明されているが,そのためには受診率が少なくとも30%を超える必要がある。しかし,間接X線検査の受診率は高い地域でも10数%程度,低い地域では 2〜3%にすぎない。また,間接X線検査には,年々受診者が固定化するという問題も指摘されている。そこで,高崎市では1996年から医師会主導で,血清 PG値による胃がん検診を便潜血法による大腸がん検診とセットで施行する「高崎方式」を導入。さらに,H.pylori感染が胃がんのおもな原因であることから,2006年からは血清PG値に加えてH.pylori抗体価を同時測定するABC検診を,「新高崎方式」として導入した。

 血清PG値はラテックス法で測定,PGT≦70ng/mLかつT/U比≦3.0以下を陽性とした。H.pylori抗体価は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で測定し,10U/mL以上を陽性,10U/mL未満を陰性とした。ABCD分類は,PG陰性かつH.pylori陰性をA群,PG陰性でH.pylori陽性をB群,PG陽性かつH.pylori陽性をC群,PG陽性でH.pylori陰性をD群とした。なお,D群は頻度が低いため,精検など検診後の対応はCとDを合わせてC群として扱った。すなわち,A群は低リスクとして精検対象から除外,B群は中間リスクとして1回/2〜3年の要精検,C(C+D)群は高リスクとして逐年の要精検とした。

受診率,がん発見率ともに大きく改善

 国が推奨し,行政(同市)が実施する集団検診車による間接X線検査の受診者数は2万5,158人で,対象者(40歳以上)の3.3%。また,施設検診での直接X線検査の受診者数は 8,051人で,対象者(同)の1.0%であった。これに対し,医師会主導で行った1996〜2005年の高崎方式の受診者は11万2,235人で,対象者(同)の16.0%。さらに,2006年からの新高崎方式の受診者は1万6,955人で,対象者(20歳以上)の23.2%と,受診率は大きく改善された。

 ABC検診の結果,A群の割合は49.3%で,40歳以上の層に絞れば48.9%であった。「すなわち,40歳以上を胃がん検診の対象とすれば,従来の検診対象者を約2分の1に絞り込むことができる結果である」と乾院長。

 ABC検診で発見された胃がんは44例で,受診者総数1万6,955人に対するがん発見率は0.26%であった。これはPG法による発見率 0.16%,間接X線法による発見率0.16%,直接X線法による発見率0.20%をはるかに上回る発見率。同院長によると,ABC検診での精検受診率は 53.7%にとどまっているが,今後,精検受診率を高める努力をすることで,がん発見率はさらに上昇する可能性があるという。

 同院長は各検診法について,胃がん発見の費用効果についても検討している。これまでの報告から各検査の基準費用として,間接X線法4,116円,直接X線法1万1,311円,PG法600円(1996,97年は1,000円),PG+H.pylori抗体価法1,300円,さらに精検のための内視鏡検査1万3,000円を算出。次いで,胃がん1例を発見するための費用を計算すると,ABC検診では183万円で,間接X線法の331万円,直接X線法の709万円に比べると,はるかに安価であった(PG法は175万円)。

要 約

1. ABC検診では,血清PG値とH.pylori抗体価を同時測定し,その結果の組み合わせから,胃がん発症リスクをA〜Dの4段階で評価する

2. 高崎市における2006年度のABC検診の受診率は対象者の23.2%,がん発見率は0.26%で,従来の間接X線検査による成績をはるかに凌駕している

3. ABC検診で胃がん1例を発見するための費用は183万円で,間接X線検査の331万円に比べて,費用効果の面でも優れている

4. ABC検診の結果,胃粘膜萎縮の程度やH.pylori感染の有無がわかれば,その後の日常診療にも役立ち,かつ除菌により1次予防にも貢献できる

Medical Tribune 2010-9-23

マンモグラフィ導入による効果小さい,実質的な死亡率低下は10%
ノルウェー乳がん検診プログラム
 ノルウェーでは,50〜69歳を対象にしたマンモグラフィによる乳がん検診を地域ごとに1996年から段階的に導入してきた。Center Registry of NorwayのMette Kalager氏らは,同検診プログラムの結果から検診導入地域の乳がん死亡率は同地域における導入以前の死亡率に比べて28%低下したことをN Engl J Med9月23日オンライン版に報告した。しかし,検診未導入地域における死亡率を同地域の1996年以前のそれと比較しても18%の低下が認められており,検診導入地域との差は10%にすぎず,検診による効果は小さいことが明らかになった。

導入地域と未導入地域で比較

 それまでのランダム化比較試験(RCT)の結果から,2002年に世界保健機構(WHO)は,50〜69歳を対象にしたマンモグラフィ検診は乳がん死亡率を25%下げると結論した。しかし,他のRCTで報告されたマンモグラフィの診断能を巡り,今なお検診導入に対する議論が続いている。

 そこで,Kalager氏らは,ノルウェーでのマンモグラフィによる乳がん検診プログラムを導入した地域のデータを用いて,1996年の導入から 2005年現在および導入以前(1986〜95年)の死亡率を検討した。なお,同検診プログラムは2年ごとに実施されており,検診受診率は77%にのぼっている。

time effect除くと死亡率は3分の1程度

 その結果,乳がん検診プログラムを導入した地域では導入後10年間で28%の乳がん死亡率の低下が認められた。低下の要因についてKalager氏らは,死亡率の低下のうち18%は検診による早期発見(screening effect)であるが,残りの10%は乳がん治療の進歩や乳がんに対する認識の普及および,それに伴う早期診断と治療などが影響(time effect)したと分析している。

 一方,マンモグラフィ検診がまだ導入されていない地域において,1996〜05年と1986〜95年のデータを比較しても18%の低下が認められており,同氏らは検診未導入地域でもtime effectが見られることを指摘した。

 なお,マンモグラフィ検診導入地域および未導入地域における死亡率比に有意差は認められていない。また,両地域における乳がん死亡率低下の差は10%にとどまり,その差は検診導入地域の死亡率低下(28%)のわずか3分の1と,検診による実際の効果は小さかった。

 以上から,同氏らは,マンモグラフィ導入により乳がん死亡率は確かに低下したが,期待したほどの効果は得られていないと指摘。マンモグラフィ検診を健康保険制度に組み入れなければがんの早期発見の恩恵が受けられないというものではないことを明確にすべきであるとした。

Medical Tribune 2010-9-27

小児がんに対する放射線療法
生存女性で死産や新生児死亡が増加
 バンダービルト大学(テネシー州)のJohn D. Boice博士らの研究で,小児がんで放射線療法を受けた女性では死産や新生児死亡が増加することが明らかになった。

思春期前は低線量でもリスク5倍

 今回の研究では,米国の25施設とカナダの1施設で登録されたChildhood Cancer Survivor Study(CCSS)のデータをもとに,男女の小児がん生存者における死産や新生児死亡リスクが算出された。CCSSには,がんの診断を21歳未満で受け,診断後5年以上生存した者が登録されている。

 対象とした小児がん生存者(男性1,148例,女性1,657例)の妊娠は4,946件であった。精巣への放射線照射(男性),下垂体への放射線照射(女性),アルキル化剤の使用(男女)は,死産あるいは新生児死亡リスク上昇と関連していなかった。

 線量が10.00Gy以上の場合,子宮と卵巣への放射線照射はすべての年齢層で死産と新生児死亡リスクを有意(9倍)に上昇させた。思春期前に放射線治療を受けた女性では,1.00〜2.49Gyと少線量でも,子宮や卵巣への照射によりリスクがほぼ5倍となり,2.5Gy以上ではリスクは12倍となった。

 骨盤内臓器への高線量の放射線照射は,子宮の成長や子宮への血流を不可逆的に阻害するため,子宮が小さくなる。このような放射線の影響は年齢に依存すると考えられる。放射線が子宮に与える影響が胎盤や臍帯の異常リスクを高めるのか,または死産と関連する他の要因が存在するのか,あるいはそれ以外の異なる機序が作用しているのかについて,明らかにする必要がある。

男性では影響は見られず

 生殖腺への放射線照射を受けた男性では,その子供の死産や新生児死亡リスクが上昇することはなかった。この結果は,小児がん生存者だけでなく,職業や他の原因で電離放射線に曝露された男性にとっても安心材料となる。

 Boice博士らは「女性では子宮や卵巣の高線量曝露による副作用は重大で,これは子宮の損傷に起因すると考えられる。したがって,思春期前に骨盤内臓器が高線量曝露された女性が妊娠した場合,慎重な管理が必要である」と結論付けている。

Medical Tribune 2010-9-30

短いテロメアでがんリスク上昇 より悪性度の高いがんと関連
 インスブルック医科大学(オーストリア・インスブルック)のPeter Willeit博士らは「白血球テロメア(染色体における生物学的加齢マーカー)が短いことは,がん発症およびがん死亡リスクの増加に関係しているようだ」とJAMA(2010; 304: 69-75)に発表した。

テロメアの摩耗が一因の可能性

 テロメアは染色体の複製と安定性に関係する染色体末端の構造である。遺伝的要因と環境ストレッサーの影響によりテロメア長が短縮する可能性があり,テロメア長は新しい生物学的加齢マーカーと考えられている。

 いくつかの研究から,テロメアの短さと染色体の不安定性が悪性細胞の形質転換を引き起こす一因であることが示唆されていた。Willeit博士らは「この仮説は興味深いが,疫学的観点からはまだ証明されていない」と述べている。

 同博士らは今回,白血球テロメア長と,がんの新規発生およびがん死リスクとの関連を評価する研究を行った。対象は,Bruneck研究(イタリアの前向き住民対象研究)の参加者のうち1995年にがんでなかった787例で,その後10年間(1995〜2005年)追跡調査された。白血球テロメア長は,定量的ポリメラーゼ連鎖反応を用いて測定。また主要アウトカムは,追跡調査期間中の新規がん発症率とがん死亡率とした。

 追跡期間中,787例中92例(11.7%)にがんが発症した。解析の結果,標準的な発がん危険因子とは独立して,研究開始時の短いテロメアががんの発症と関連していることが示された。

 テロメア長が最も長い群と比べて,テロメア長が中間のグループではがんリスクが約2倍,さらに,テロメア長が最も短いグループではおよそ3倍だった。テロメア長が短いほど,がん発症率が高いという逆相関が認められ,これはがん死亡率の増加とも関係していた。

 同博士らは「注目すべきことに,テロメア長は予後が良好な腫瘍よりも,胃がん,肺がん,卵巣がんのような高死亡率を特徴とするがんと強く関連していた」と述べ,「男女間,年齢層間で,テロメア長のがんを予測する的中率に差は認められなかった」と付け加えている。

 さまざまな実験と遺伝子研究から,テロメアの摩耗が悪性腫瘍の発現と転移の一因になっていると推察されている。同博士らは「完全な機能を有するテロメアはゲノムを保護するが,短いテロメアは染色体の不安定性を促進するようだ」と結論している。

Medical Tribune 2010-9-30

HDLコレステロール値が高いと発がんリスクが減少
 タフツ大学(ボストン)分子心臓病学研究所のRichard H. Karas理事らは「HDLコレステロール(HDL-C)値が高い人では心疾患リスクが2分の1〜3分の1になるだけでなく,発がんのリスクも大幅に低くなる」との研究結果を発表した。

総合的な脂質検査が重要

 今回の研究は,スタチン系薬の試験におけるHDL-C値と発がんリスクとの関連を総合的に解析した初の研究である。この研究では計24件の脂質異常症治療のランダム化比較試験を同定し,治療群と対照群との間でベースラインのHDL-C値と発がん率を比較した。総症例数が14万5,743例の大規模試験となり,追跡期間の中央値は5年で,発がんの報告件数は8,185例であった。

 研究の結果,HDL-C値が10mg/dL高くなるごとに発がんリスクが36%低くなることがわかった。これはベースラインのLDLコレステロール(LDL-C)値や年齢,BMI,糖尿病,性,喫煙状況を含む他の危険因子とは独立したものであった。

 Karas理事は「HDL-Cの血中濃度と発がんリスクとの間には重要な関連がある。このことは体内でHDL-Cが果たしうる別の重要な役割を裏づけるものだ。以前の研究からはLDL-C値と総コレステロール(TC)値が低いほどがんの発症率が高くなることが示されており,今回の結果は重要である」と述べている。

 「脂質値に異常がある患者は,心疾患とがんの双方の個々の危険因子について医師に相談すべきである。この研究はTC,LDL-C,HDL-C,トリグリセライドを含む総合的な脂質検査を受けることの重要性を強調している」と述べ,「患者は自身の全体的な健康と疾患リスクにとって,各脂質値がどのような意味を持つのかを知り,理解する必要がある」と付け加えている。

健康的ライフスタイルを強調

 HDL-C値を高める最良の方法は健康的なライフスタイルを選択すること,すなわち定期的に運動し,健康的な食事を取り,飲酒は適度に抑え,禁煙することである。心疾患リスクが高いとされる人には,HDL-C値を上昇させる薬剤がある。

Medical Tribune 2010-9-30

25年後も依然高い 小児がん生存者の再発死亡率
 バーミンガム大学(英)のRaoul C. Reulen博士らは,英国の小児がん生存者を追跡調査した結果,「2次発がんおよび心・脳血管疾患による死亡率が,最初に小児がんと診断されてから25年超経過してもなお高いことが明らかになった」と発表した。

45年後も予想より3倍高い死亡率

 近年,小児がん生存者の生存率は劇的に改善しているが,一般の人に比べ小児がん生存者は5年間生存しても,死亡率はそれ以降も高い。これまで小児がん生存者は5年間生存すると,再発で死亡するリスクが経年的に低下することが示されてきたが,他の原因による長期的な死亡リスクについてはいまだ不明である。超過死亡の原因が,がん治療による長期的な合併症の可能性もあることから,長期的な原因別死亡率に関する研究が必要である。さらに,この死亡リスクの上昇が最初のがんの診断を受けてから25年以上経過しても継続するかどうかも明らかにされていない。

 Reulen博士らは,英国で1940〜91年に15歳未満で小児がんと診断された5年生存者1万7,981例を2006年末まで追跡し,長期的な原因別死亡率を検討した。

 その結果,研究期間中の全死亡者数は3,049例で,これは予想された死亡者数の約11倍であった〔標準化死亡比10.7〕。標準化死亡比は追跡期間中に経時的に低下したものの,最初にがんと診断されてから45年後でも予想より3倍高かった。再発による死亡の絶対過剰リスクは,5〜14歳時にがんと診断されてから45年を超える間に低下していた。

Medical Tribune 2010-9-30

限局性の乳頭様甲状腺がんは無治療でも予後良好
 ダートマス大学(ニューハンプシャー州)のLouise Davies博士らは,乳頭様甲状腺がん患者と治療内容を検討し,「腺外浸潤のない患者は診断後1年以内に受けた治療内容に関係なく転帰はおおむね良好である」との研究結果を発表した。

治療例の死亡率と差なし

 乳頭様甲状腺がんは,他の原因で死亡した患者の剖検時に認められることが多い。1947年に発表された論文でもこのことは指摘されており,最近の報告によると,甲状腺を十分に検討すれば,ほぼすべての甲状腺に乳頭様甲状腺がんが見つかる可能性がある。

 Davies博士は「超音波検査と穿刺吸引細胞診の技術の発達により,以前では発見されなかったがんが検出できるようになり,乳頭様甲状腺がんの疫学データが変化した。甲状腺がんの検出率は過去30年間で3倍上昇したが,これは乳頭様甲状腺がんの増加によるもので,増加の87%は直径2cm未満の腫瘍の検出による」と説明している。

 同博士らは今回,米国立がん研究所(NCI)の登録データから,がん症例の治療内容を検討し,米国人口動態統計システムを用いた追跡調査により死因を分析した。

 その結果,診断時にリンパ節や他の部位への転移が認められなかった乳頭様甲状腺がん患者3万5,663例のうち440例(1.2%)は即時の根治的治療を受けていなかった。

 平均6年間の追跡期間中に,これらの患者のうち6例が甲状腺がんのため死亡した。一方,治療を受けた3万5,223例中161例が死亡しており(平均追跡期間7.6年),無治療例と治療例で死亡率に有意差は認められなかった。20年生存率は,無治療例で97%,治療例で99%であった。

 同博士らは「このデータは,乳頭様甲状腺がんに対する見方を変え,治療決定に役立つだろう。乳頭様甲状腺がんは,甲状腺内に限局してリンパ節転移がなく,腺外浸潤が認められない状態であれば,サイズに関係なく死に至る可能性は低い」とし,「そのため医師と患者は,このようながんであれば1年間,あるいはそれ以上にわたって“経過観察”とすることができる。治療としては片側甲状腺切除術か甲状腺摘除術があり,いずれの方法も予後は同等である」と結論している。

Medical Tribune 2010-9-30