広葉樹(白) 
          

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2010年8月 文献タイトル
青年期の飲酒により良性乳房疾患リスクが上昇
ビスホスホネートによる食道がん発症リスク上昇見られず 英国の大規模マッチドコホート研究
第35回日本外科系連合学会 内臓脂肪面積100cm2以上は腹腔鏡下胃切除術の手術リスクに
第33回日本呼吸器内視鏡学会 光線力学療法が末梢型肺がんの新治療法に
第28回日本顎咬合学会 経口摂取しないと廃用症候群による機能低下を招く
ビスホスホネート製剤の1年以上の使用で閉経後乳がんが減少
放射線療法による晩発性心血管疾患 遺伝子変化で誘発される持続炎症が原因か
コーヒーが頭頸部がんを予防する可能性を示唆
〜新しいがんワクチン〜腫瘍の“欠陥”血管新生を促進して増殖を抑制
多量喫煙が結腸直腸の扁平腺腫と関連 若年で進行性のがんが発症しやすい理由にも
オール巨人さんがC型肝炎治療の体験語る メディアフォーラム「C型肝炎 いま,治そう!」
東大と共同で腹膜播種を伴う胃がんに対する臨床試験を開始 メディネット,ガンマ・デルタT細胞療法の有効性を検証
「医療現場への導入も可能」毛髪による体内時計測定技術を開発

青年期の飲酒により良性乳房疾患リスクが上昇
 ワシントン大学のGraham A. Colditz教授らは,飲酒をする青年期および若年の女性では,良性(非がん性)乳房疾患のリスクが上昇することが明らかになったと発表した。これまでの研究から,良性乳房疾患により乳がん発症リスクは上昇するとされている。

週6日以上でリスクが5.5倍

 Colditz教授らは「今回の研究により,青年期の飲酒量に伴う明確な良性乳房疾患リスクの上昇が確認された。そのため,青年期と成人早期での飲酒は制限されるべきこと,この年齢がその後の人生の乳がん予防に重要であることがわかった」と述べている。

 同教授は「乳房のしこりの約80%は良性であるが,こうした良性の乳房病変は,正常乳房組織から浸潤性乳がんへの経過における1つの段階である可能性があり,良性病変は乳がんリスクの重要なマーカーとなる」と説明している。

 同教授らは,試験開始時に9〜15歳の女子を対象に,1996〜2007年の健康調査により追跡した。計6,899例が,飲酒量と良性乳房疾患の診断の有無を報告した。

 今回の研究から,アルコールの消費量が多いほど良性乳房疾患に罹患しやすいことが明らかになった。週に6日以上飲酒する女性では,非飲酒または週に1回未満飲酒する女性より良性乳房疾患の発症リスクが5.5倍だった。

 また,週に3〜5日飲酒する女性のリスクは3倍だった。良性乳房疾患と診断された女性では,診断されなかった女性に比べ平均飲酒頻度が高く,1回の飲酒量が多く,1日当たりの平均飲酒量が2倍であった。

 同教授は「これまでの多くの研究から,飲酒する成人女性ではのちに乳がんリスクが高くなることが明らかになっている。実際には多数の女性が,乳房組織が急速に増殖する時期である青年期に飲酒を始めていることから,今回の研究はその時期の飲酒が乳がんリスクに影響を与えるか否かを知る目的で行われた。その結果,飲酒をする青年期および若年の女性で良性乳房疾患リスクが高くなることが明らかになった」と述べている。

Medical Tribune 2010-8-5

ビスホスホネートによる食道がん発症リスク上昇見られず
英国の大規模マッチドコホート研究
 英国Queen's University BelfastのChris R. Cardwell氏らは,骨粗鬆症治療薬である経口ビスホスホネート製剤の服用と食道がんリスクの関連を検討するマッチドコホート研究の結果を報告した。各群約4万例の検討から,ビスホスホネートによるがん発症リスクはコントロール群と差がないことが示されたという。

背景:欧米,日本でビスホスホネートの関連が疑われる症例が報告

 ビスホスホネートを服用している人が食道がんを発症した例がこれまで各国で報告されている。Cardwell氏らによると,その数は米食品医薬品局(FDA)の発表では23例,欧州と日本の報告では少なくとも31例にのぼり,同薬使用との関連が疑われているという。

 もともと同薬が重度の食道炎に関連する場合があることが知られている。また,逆流性食道炎が食道上皮細胞の変化(バレット食道)を介して食道がんを発症する機序も確立されていると同氏らは説明している。

 同氏らは,実際の臨床における両者の関係を明らかにするため,英国内の医療データベースを用いた検討を行った。

 1996年1月〜2006年12月にビスホスホネートの処方を受けた全症例のうち,40歳以下で,同薬を最初に処方された日を起点とする過去3年の間にがんと診断された人は除外された。4万1,826例の同群に対し,性,生年および通院状況を一致させた同数のコントロール群が設定。ビスホスホネートの服用状況は,処方せんの指示用量から1日の服用量(defined daily doses;DDDs)を換算,その使用量に応じた層別化が行われた。なお,追跡期間が6か月未満の症例は除外された。

薬剤の種類,服用期間によるリスク上昇も見られず

 登録基準を満たした各4万1,826例(女性81%,年齢中央値70.0歳,SD11.4)の追跡期間中央値はビスホスホネート群4.5年,コントロール群4.4年であった。

 胃・食道がんの発症者数はビスホスホネート群で116例(うち,食道がんは79例),コントロール群で115例(同72例)。両群の1,000人年当たりの胃・食道がんの発症率はいずれも0.7と変わらなかった。食道がんのみの同発症率はビスホスホネート群で0.48,コントロール群で0.44であった。

 同氏らは今回の大規模コホートによる検討から,おもに高齢女性を中心とした人口において経口ビスホスホネート製剤による胃および食道がんのリスクはコントロール群と変わらなかったと結論。同製剤の種類や服用期間における差も見られなかったとしている。そのうえで食道がんリスクの恐れから同薬の使用を控えるべきでないと提言している。

Medical Tribune 2010-8-11

第35回日本外科系連合学会
内臓脂肪面積100cm2以上は腹腔鏡下胃切除術の手術リスクに
 胃がんに対する腹腔鏡下胃切除術は,低侵襲性といったメリットや良好な治療成績が示されていることを受け,その施行件数が近年増加している。そうしたなか,患者の肥満は腹腔鏡下胃切除術の円滑な施行を妨げる要因であるとの指摘もなされている。徳島大学消化器・移植外科で同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部統合医療教育開発センターの岩田貴准教授は患者のBMIと内臓脂肪面積が腹腔鏡下胃切除術に及ぼす影響について検討,内臓脂肪面積は手術リスクの指標として有用であると報告した。

腹腔鏡下胃切除術施行90例を対象に検討

 岩田准教授はまず,肥満が腹腔鏡下胃切除術に及ぼす影響について知見を紹介。(1)BMI高値が手術時間を有意に延長させ,開腹手術への移行あるいは創の延伸を有意に増加させる(2)内臓脂肪面積高値が開腹移行や合併症発生数を有意に増加させるといった報告がなされている。

 同准教授らはこうした知見を検証するため,同大学病院消化器・移植外科における2006年以降の腹腔鏡下胃切除術施行患者90例〔年齢41〜85歳(中央値 64歳),がんステージT 80例,U 5例,V 3例,W 2例〕を対象に,BMIや内臓脂肪面積が腹腔鏡下胃切除術に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。

 その結果,内臓脂肪面積 100cm2以上の群(42例)では出血量が有意に多く,術後合併症発生率も有意に高かった。また郭清リンパ節の個数は有意に少なかった。各手技では,胃結腸間膜処理,左胃動静脈切離の所要時間が有意に長くなっていた。

 BMIについての同様の検討では,25以上の群(18例)で胃結腸間膜処理の所要時間が有意に長かったが,そのほかの検討項目で有意差は見られなかった。

 同准教授は「腹腔鏡下胃切除術において,内臓脂肪面積はBMIよりも手術リスクの指標として有用なことが示された」とまとめ,「内臓脂肪量は手術リスク評価の新たな指標となりうる」とした。

Medical Tribune 2010-8-12

第33回日本呼吸器内視鏡学会
光線力学療法が末梢型肺がんの新治療法に
 CTの進歩や検診の普及に伴い,小型肺腺がんが多く発見されるようになった近年,特に多発肺腺がんの発見頻度は高く,これら異時性,同時性の多発肺がんに対する低侵襲の治療法の開発が望まれている。東京医科大学外科学第1講座の臼田実男講師は,経気管支的アプローチによる光線力学療法(Photo-Dynamic Therapy=PDT)の安全性と効果に関する動物実験結果を報告し,同法が末梢肺野の多発肺がんの新たな治療法となる可能性を指摘した。

低侵襲な経気管支的PDTを選択

 PDTは安全かつ低侵襲の治療法で,(1)肺の機能を温存(2)出血しない(3)在宅酸素吸入下でも施行可能(4)他の治療法の妨げにならない(5)繰り返し治療が可能(6)光線過敏症が軽度−などの特徴を持つ。既に臼田講師らは,中心型早期がんを有する多発肺がんに対するPDT治療の有用性を報告しており,末梢肺野の肺がんに対し経皮的PDTが有用であることも報告している。

 経皮的なPDTは低侵襲である点で末梢型肺がんの治療に望ましい。しかし一方で,難治性気胸,喀血,空気塞栓などの合併症リスクや,処置が患者に恐怖心を与えやすいなどの問題がある。そこで,同講師らは,経気管支的アプローチによるPDTでの末梢小型肺がん治療の効果と安全性を検討する動物実験を行った。

 体重40kgのブタに腫瘍親和性光感受性物質のレザフィリン10mg/cm2を投与し,10〜20分後に,全周性のレーザー照射が可能なシリンドリカルファイバーを挿入して,末梢肺野の前葉と副葉にレーザー照射するPDTを行った。レザフィリンを用いたPDTは,2010 年の保険適用改訂で,これまでの早期肺がんに加えて進行肺がんへの適用が追加されている。

 PDT施行1日後と4日後に病理組織学的検討を行った結果,治療1日後には,ブタ末梢肺野に,肉眼で確認できる約2cmの広範囲な炎症所見と,著明な炎症性細胞浸潤,胸膜炎症が認められ,4日後には,胸膜肥厚の下に1.5〜3.0cm(平均1.8cm)の壊死範囲が形成されていた。

 また,シリンドリカルファイバーの先端に血液付着による温度上昇はなく,ファイバーの損傷も見られなかった。PDTはラジオ波やマイクロウエーブと異なり熱を発生することがない。同講師は「これらの組織学的所見はPDTの血管遮断効果によるものだ。末梢肺野,多発肺がんに対する経気管支的PTDは抗腫瘍効果を有し,安全に施行できる新たな治療法になりうる」と述べた。

Medical Tribune 2010-8-12

第28回日本顎咬合学会
経口摂取しないと廃用症候群による機能低下を招く
 福岡歯科大学の塚本末廣准教授は,長期間の中心静脈栄養(IVH)が口腔および全身機能に与える影響について検討し,IVHを施行し経口摂取していないと,寝たきりとなり,廃用症候群による機能低下を招く可能性が高いことを明らかにした。

IVHは口腔カンジダ症を惹起

 今から25年前,塚本准教授の母親(69歳)は肺炎で亡くなった。食事が口から取れなくなり,最後の4か月間はIVHが施行され,寝たきりだった。同准教授が見舞いに行ったとき,口が乾燥し,口のなかに白苔が発生しているようだった。同准教授は小児歯科に所属していたため,これらの症状を説明できなかった。細菌学の教授に聞いたところ,口腔カンジダ症と言われた。

 その後,同准教授は同大学に高齢・障害者歯科を創設し,同科長となった。寝たきり患者や障害者の歯科診療・口腔ケア,さらには学生教育や研究を通して,経口摂取の重要性がわかるようになってきた。そのようなとき,長期間IVHを施行された2症例を観察することができた。今回,口から食べないとどうなるのかをその2症例のビデオを供覧しながら説明した。

 症例1(93歳・女性)は,総胆管結石で腹痛を主訴として緊急入院した。2か月半の入院であった。入院直後からIVHで管理された。10日後にはストレス性の十二指腸潰瘍が形成された。1か月後には安定したが,口から食べようとしなかった。口腔内乾燥が見られ,カンジダ簡易培養試験では陽性であった。入院2か月後には誤嚥性肺炎を併発し,その後敗血症も併発した。最期は,上部消化管からの出血による出血性ショックで亡くなった。経口摂取させようとしたが,生きる意欲がなく,口から食べようとしなかったのが残念であったという。

 症例2(68歳・女性)は,症例1が亡くなって1年後,自宅で脱水状態で意識不明となり,緊急入院した。脳梗塞,心筋梗塞,腎がんおよび敗血症の診断が付いていた。入院直後からIVH,尿路カテーテル,動脈内カテーテルが留置されていた。しかし,薬は経口的に投与されていた。同准教授は不信に思い,約4か月後,リハビリテーション病院に転院させ,カテーテルをすべて除去したところ,発熱しなくなり,翌日には口から食べるようになった。口腔内は乾燥して,カンジダ菌が多量に付着していたが,2か月でほぼ正常となった。生きる意欲があったので,回復が早かったという。

 同准教授は「IVHを施行し口から食べない,食べさせないと,寝たきりとなり,廃用症候群による機能低下を招く」と述べた。

Medical Tribune 2010-8-12

ビスホスホネート製剤の1年以上の使用で閉経後乳がんが減少
 ビスホスホネート製剤の1年以上の使用が閉経後女性の乳がんリスク低下と関係すると,イスラエルのグループが発表した。

 ビスホスホネート製剤は,骨粗鬆症の治療とがんによる骨病変の予防・治療に用いられている。同グループは,閉経後乳がん患者と年齢,クリニック,民族をマッチさせたコントロールの計4,039例を対象とした症例対照研究で,ビスホスホネート製剤の使用と乳がんリスクとの関係を検討した。

 その結果,ビスホスホネート製剤の1年以上の使用が乳がんの有意なリスク低下と関係していた。この関係は,乳がん家族歴やBMI,カルシウム(Ca)補充,ホルモン補充療法などを補正後も有意であった。同製剤をより長期に使用した場合のさらなるリスク低下は観察されなかった。

Medical Tribune 2010-8-19

放射線療法による晩発性心血管疾患 遺伝子変化で誘発される持続炎症が原因か
 がん患者の心血管疾患(CVD)リスクは,放射線療法により高まるが,この問題は,がん診断後に生存する人が多くなるにつれて,深刻さを増している。カロリンスカ研究所(ストックホルム)のMartin Halle博士らの研究によると,放射線照射後に動脈の遺伝子発現に生じる変化によって誘発される持続炎症が,その原因かもしれない。

頸動脈の被照射枝とグラフト部を比較

 これまでの疫学研究によると,放射線療法は照射部位によってはCVDリスクを高める。例えば,左乳がんの治療後は心筋梗塞,頭頸部腫瘍の治療後は脳卒中が増える。この重篤な副作用は,治療から長年を経てようやく現れるというが,その生物学的原因についてはほとんどわかっていない。

 Halle博士は「この領域の研究は,疾患の進行がきわめて遅いという事実のために妨げられていた。細胞と動物を用いた研究は,より急性の影響に適しており,ヒトでの研究は倫理的理由により除外されてきた」と説明している。

 今回の研究では,がんの診断後に施行された自家グラフトを用いることで,ヒトの血管に対する放射線療法の長期的影響を初めて確かめることができた。この種の自家グラフトは,腫瘍切除後に生じた欠損部位(しばしば照射を受けている)を再建するために,患者自身の別の部位から採取された皮膚,筋肉,骨である。同博士らは,頸動脈の被照射枝とグラフト部(未照射動脈)を生検することで,同時に同一患者の被照射動脈と未照射動脈の全体的な遺伝子発現の違いを観察できた。

 その結果,被照射動脈は慢性炎症の徴候を示し,核内因子(NF)κBの活性が高まっていた。NFκBは,動脈硬化の進展において重要な役割を演じることが知られている転写因子である。

 また,炎症関連遺伝子発現の増加も,照射から数年後には見られるようになった。同博士らはこれこそが,がん患者が放射線照射から長年を経てCVDを発症する原因であると考えている。

 同博士は「将来,抗炎症治療と組み合わせて放射線療法を行うことにより,こうした副作用を緩和できるようになるかもしれない」と希望を寄せている。

Medical Tribune 2010-8-19

コーヒーが頭頸部がんを予防する可能性を示唆
 ユタ大学(ソルトレークシティー)のMia Hashibe准教授らが,コーヒーの飲用は頭頸部がんの予防につながる可能性があるとの研究結果を発表した。
 
リスクは約4割低下

 がんリスクに対するコーヒーの効果については,一貫したデータが得られていない。今回,Hashibe准教授らが国際頭頸部がん疫学コンソーシアムが集めた9件の研究結果を分析した結果,コーヒーを1日4杯以上飲む人(常飲者)は,コーヒーを飲まない人に比べ,口腔がんと咽頭がんリスクが39%低いことが明らかになった。

 ノンカフェインのコーヒーに関しては詳細な分析を行えるほど十分なデータがなかったが,がんリスクの上昇は示されなかった。紅茶と頭頸部がんとの関連も示されなかった。がんリスクとの関連は,コーヒー常飲者で最も強く示された。

 同准教授らは「コーヒーを飲む人は多い。また,頭頸部がんは発生率が比較的高く生存率が低いため,今回の研究結果は公衆衛生上大きな意義を持つ。研究のサンプルサイズが非常に大きく,多くの研究データを統合分析したため,がんとコーヒーの関連の検出力は大きかった」と述べている。

 昨年12月に開催された米国がん研究協会Frontiers in Cancer Prevention Research Conferenceでは,ハーバード大学のKathryn M. Wilson博士らがコーヒーの消費と致死的な進行性前立腺がんリスクが逆相関することを発表。コーヒー消費量が最も多い男性では全く飲まない男性と比べ,進行性前立腺がんリスクが60%低かった。

 また,インペリアルカレッジ(ロンドン)のCrystal N. Holic博士らが発表した別の研究では,コーヒーと神経膠腫(脳腫瘍)リスクの低下が相関することが報告されている。この研究報告では,1日に5杯以上のコーヒーまたは紅茶を飲む人でがんリスクが低下した。

Medical Tribune 2010-8-19

〜新しいがんワクチン〜腫瘍の“欠陥”血管新生を促進して増殖を抑制
 カロリンスカ研究所(ストックホルム)のKristian Pietras准教授らは,腫瘍細胞への血液供給を抑制する新しいタイプのプラスミドDNAワクチンを開発したと発表した。このワクチンは,モデルマウスで乳がんの腫瘍増殖速度を低下させることが示された。
 
抗DLL4ワクチンが乳がんを抑制

 数mm以上の大きさになるがんは,酸素や栄養素の供給を確保するため,血管を新生する能力を有している。したがって,腫瘍組織において血管の成長を阻害できれば,がん治療薬としての可能性を秘めている。

 最近,血管新生の調節で重要な役割を果たす物質として,DLL4(delta-like ligand 4)と呼ばれる蛋白質が同定された。この蛋白質は,新しい血管が既存の血管から成長する際,新血管の芽の部分にある血管内皮の端細胞に発現し,近傍の細胞が新たな血管を形成するのを防止している。腫瘍組織でDLL4の発現を阻害すると,新たな,しかし非機能性の“欠陥血管”の新生が促進され,その結果として腫瘍の増殖速度が低下するという。

 Pietras准教授らの研究グループは,血管内皮の端細胞のDLL4を標的としたDNAワクチンを開発した。同研究グループは,この抗DLL4 プラスミドワクチンがDLL4に対する抗体反応を誘発し,その結果,マウスの乳がんの増殖が阻害されることを明らかにした。ワクチンを接種したマウスの腫瘍には,欠陥血管のネットワークが密に形成され,血液供給が低下していた。このワクチンに関連した毒性は全く認められず,傷の治癒能力にも影響を与えなかった。

 研究責任者の同准教授は「われわれは今回乳がんを対象に研究を行ったが,これは乳がんの腫瘍組織がしばしば高レベルのDLL4を発現し,その一方で正常な乳房組織はDLL4を発現していないことが理由だ。われわれは乳がん術後の再発予防にこのワクチンが使えるようになることを期待している」と述べている。

 DNAワクチンは,がんと感染症に対する新しいワクチン療法である。この療法では,免疫の標的とすべき蛋白質の遺伝子を含んだDNA断片を体に注入する。すると体内の細胞は一時的にこのワクチンDNAを取り込み,対応する蛋白質を産生し始め,これに反応して免疫がこの蛋白質を認識する。

Medical Tribune 2010-8-19

多量喫煙が結腸直腸の扁平腺腫と関連 若年で進行性のがんが発症しやすい理由にも
 コネティカット大学保健センターのJoseph C. Anderson博士らは「喫煙は結腸直腸の扁平腺腫(前がん性ポリープ)と強く関連しており,それが喫煙者における結腸直腸がんの早期発症につながっている可能性がある」と発表した。同博士によると扁平腺腫は,結腸直腸がんの検診時に発見される典型的な隆起性のポリープよりも発見しにくく,病理学的に悪性度が高い。

スクリーニングを受けた無症候患者を検討

 今回の研究は,2006年11月〜07年10月にニューヨーク州立大学ストーニーブルック校医療センターで,結腸内視鏡による結腸直腸がんスクリーニング検査を受けた無症候の患者を対象とした前向き横断的研究である。

 患者は,現在または過去の喫煙,1日当たりの本数,喫煙年数,禁煙年数,過去の喫煙パターンの変化について質問を受けた。これらの数値を用いて,パック年に基づく喫煙曝露を算出。

 患者600例(平均年齢56歳,男性252例,女性348例)を,(1)非喫煙者群(313例)(2)多量喫煙者群(10パック年以上で,喫煙を継続または過去10年以内に禁煙,115例)(3)少量喫煙者群(10パック年未満または10年以上前に禁煙,172例)― に分類した。

多量喫煙が進行性扁平腺腫を予測

 全患者に結腸内視鏡検査が施行され,組1人の内視鏡医が,高解像度の広角結腸内視鏡を使用してすべての検査を行った。全ポリープが写真で記録され,組織学および形態学的分類(扁平または隆起性)のために採取された。サンプルからランダムに選ばれた腺腫について,2人の経験豊富な内視鏡医が形態の決定に当たった。単変量解析を実施し,危険因子を多変量ロジスティック回帰モデルに組み入れた。

 全部で428個のサンプル(非喫煙者群313個,多量喫煙者群115個)が分析され,127例の患者にさまざまなサイズの扁平腺腫が1個以上認められた。扁平腺腫と関連していたのは,(1)多量の喫煙(2)年齢(3)男性―であった。さらに進行扁平腺腫と関連していたのは,(1)多量の喫煙(2)BMI(3)男性(4)赤身肉の消費―であった。多変量解析を行ったところ,結腸直腸の進行性扁平腫瘍の形成を唯一予測したのは多量の喫煙であった。

 この知見から,喫煙は結腸直腸の扁平腺腫の重要な危険因子であることが示唆された。喫煙はあらゆる扁平腺腫と関連しているだけでなく,直径6mm 超の扁平腺腫のみを有する患者の危険因子でもあった。これらの患者には,隆起性の腺腫は存在しなかった。このことは,喫煙者では非喫煙者よりも若年で,しかも進行した結腸直腸がんが多く発見されることの理由を説明している。

Medical Tribune 2010-8-19

オール巨人さんがC型肝炎治療の体験語る メディアフォーラム「C型肝炎 いま,治そう!」
 日本ではC型慢性肝炎患者が持続感染者を含めると,150万?200万人存在すると推測されている。しかし,そのうち約7割は医療機関で治療を受けておらず,感染に気付いていないケースが存在する可能性もある。

 シェリング・プラウ株式会社は8月19日に大阪市内で「C型肝炎 いま,治そう!」と題するメディアフォーラムを開催。今年(2010年)2月に,自身のブログでC型肝炎の治療を始めたことを公表した漫才コンビ「オール阪神巨人」のオール巨人さんを迎え,主治医である市立池田病院(大阪府)副院長の今井康陽氏,かかりつけ医の三好内科医院(大阪府)院長の三好洋二氏によるトークショーが行われた。

 オール巨人さんは現在も治療中だが,体験を通し,「1人でも多くの人に,肝機能に異常がなくても一度はC型肝炎の検査を受けてもらい,そして,もし C型肝炎と診断された場合は,すぐにでも治療を開始して欲しいと思っている。その重要性を訴えていきたい」と述べた。

「かかりつけの先生のおかげで治療に入れてありがたい」と感謝

 オール巨人さんは,10年以上前に三好内科医院で受けたC型慢性肝炎のウイルス検査で陽性であることはわかっていたが,当時,肝機能検査の数値は悪くなく,自覚症状も全くなかったことから,三好氏が治療を勧めるも今すぐに始める必要はないと自己判断。昨年(2009年)ようやく治療を受けることを決意し,その旨を伝えるや否や三好氏はその場で市立池田病院へ連絡。巨人さんは,同病院で2月よりペグインターフェロンα-2bとリバビリンの併用療法を開始,12週を過ぎた頃,ウイルスの陰性化を確認,完治を目指し現在も治療継続中である。

 三好氏は「もっと早く治療を受けてもらいたいという気持ちもないわけではなかったが,以前のインターフェロン治療は週に何度も注射のための通院が必要であり,副作用もつらく,しかも巨人さんの1b型高ウイルス量のC型慢性肝炎には治療効果が低かったことから,治療を強く勧められなかった。しかし,今は治療効果が向上し,副作用も軽減しているので,是非,治療を受けてもらいたいと思っていた」。

 巨人さんは「実は,妻もC型肝炎の治療を2,3年前から受けており,かなりつらそうな様子を見てきた。でも,今の治療は以前とは全く違う。三好先生に勧めてもらったおかげで治療に入ることができ,ありがたいと思っている。友人や仕事仲間に対し,とにかく一度はウイルス検査を受けるように,そして,C型肝炎であればすぐにでも治療を始めることが大事だと話している。今はC型肝炎治療に挑戦する意味は絶対あると思う」と強調した。

治療環境が整った今こそ治癒を目指す絶好のチャンス

 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法による1b型高ウイルス量のC型肝炎ウイルス陰性化率は50?60%,2型および1b型低ウイルス量では90%近くと,以前に比べ治療効果が向上し,治療のための通院も週1回ですむようになった。

 また,医療費助成制度の拡充により,インターフェロン治療にかかる患者の自己負担限度額が,以前は所得に応じて1万円,3万円,5万円の3段階であったものが,この4月より月額一律1万円(上位所得層は2万円)に軽減されるなど,治療が受けやすくなっている。

 今井氏は「C型肝炎の治療環境が整った今こそが,治癒を目指す絶好の機会」と述べ,また「C型肝炎患者では高齢になるほど肝線維化が早く進み,肝がん発症率も高くなる。女性よりも男性のほうが進行は早いことがわかっている。さらに,肝機能が全く正常でも肝がんが見つかるケースもある。治療開始は早いほうが治癒を目指せる」と言及した。

Medical Tribune 2010-8-23

東大と共同で腹膜播種を伴う胃がんに対する臨床試験を開始
メディネット,ガンマ・デルタT細胞療法の有効性を検証
 免疫細胞療法総合支援サービスを提供するメディネットは,8月27日,東京大学病院と共同で,腹膜播種を伴う胃がん患者を対象にした,ガンマ・デルタT細胞療法の腹腔内投与治療の臨床試験を開始したことを発表した。

化学療法とは作用機序異なる

 腹膜播種とは,臓器からのがん細胞が散らばり,腹膜に転移するもので,進行しないと見つけにくい転移がんである。腹膜播種が生じると,症状として腹水がたまり,腸閉塞や尿路閉塞を起こすなど,予後はきわめて不良である。

 現在,腹膜播種を伴う胃がん患者には,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル剤(S-1)+パクリタキセル経静脈・腹腔内投与併用療法などの化学療法が行われている。良好な治療成績が報告されているが,化学療法を繰り返し受けることで,腫瘍に対し抗がん薬が耐性化してしまう問題もある。

 プレスリリースによると,同臨床試験で用いるのは,化学療法とは異なる作用機序のガンマ・デルタT細胞療法である。同療法は、患者の末梢血からγδ型T細胞を採取し,これらをがんの溶骨性骨転移などで使用されるアミノビスホスホネート製剤と,インターロイキン(IL)-2によって選択的に活性化,増殖させた後,患者の腹腔内に投与するという治療法。腹水中のがん細胞へのガンマ・デルタT細胞による直接的な作用が期待できる。

 なお,腹膜播種を伴う胃がん患者におけるガンマ・デルタT細胞療法の臨床試験は,2010年7月22日に,東京大学病院臨床試験審査委員会で承認された。

Medical Tribune 2010-8-27

「医療現場への導入も可能」毛髪による体内時計測定技術を開発
 糖尿病やがん,うつなどさまざまな疾患との関連が指摘されている体内時計。しかし,その測定方法は簡便ではなかった。こうしたなか,山口大学時間学研究所教授の明石真氏らが頭髪やひげの毛包細胞を用いた体内時計測定技術を開発した。同氏は,「これまでの体内時計測定方法は測定上の難しさがあったが,今回の方法は多くの実験室に導入できるだけでなく,医療現場への導入さえ可能だ」と述べている。

従来法よりも低侵襲,高精度を実現

 体内時計は睡眠や血圧,体温,代謝などの生理機能に関連しており,疾患を予防するうえでもその把握は重要とされている。ところが,ヒトの体内時計の測定報告は少なく,測定方法も口腔粘膜や末梢血の白血球を利用するもので,細胞の採取が煩雑なだけでなく,侵襲性が高かったりRNAサンプルの精度が低かったりなどの問題点が指摘されていた。

 そこで明石氏らは,低侵襲で比較的簡便に採取できる頭髪とひげの毛包細胞に着目。毛包細胞からmRNAを精製し,測定した。DNAマイクロアレイ分析やリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で確認したところ,毛包細胞から精製したmRNAが時計遺伝子の概日リズムの推移と相関していることが示され,その精度は口腔粘膜や末梢血を利用した方法よりも高かった。ただし,太い毛では5つのサンプルで確定できるのに対し,細い毛では20サンプルが必要だったという。

 さらにこの方法は,病院で測定できる時間間隔での細胞採取で体内時計の測定が可能になることが示唆された。このことから,同研究所は「実用化などの基盤が確立されたと言える」とし,今後はより測定精度を高めて,(1)時差ぼけ改善の研究,(2)労働環境改善の研究,(3)生活リズムと疾患の関係の研究,(4)体内時計の乱れを原因とする体調不良や疾患の予防・診断・治療への利用,(5)個々人の体内時刻に合わせた抗がん薬などの投与・治療評価―などへ活用されることに期待を寄せている。

Medical Tribune 2010-8-31