広葉樹(白) 

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2010年7月 文献タイトル
HDL-C低値はがん発症の独立危険因子
乳腺密度の減少が乳がんリスクの低下と関連
第27回日本呼吸器外科学会
〜小型肺がんの凍結融解壊死療法〜約2年の観察で局所制御率100%
カロリー制限で健康寿命が延長 疾患伴わず100歳まで延命可
夏季の便潜血検査はがんを見逃しやすい? 冬季に比べて検出率13%有意に低下
PSA検診で前立腺がん死亡リスク44%減少,発見率は1.64倍に 男性2万人が対象のスウェーデン研究
喫煙による大腸がん発生機序解明か,遺伝子変異を惹起 中高年女性3万7,000人対象の米コホート研究
40歳未満の女性へのマンモグラフィ検診を疑問視 偽陽性率高い傾向に
魚油サプリメントの摂取で乳がんのリスクが低下 米国で初の前向き調査,他のサプリメントは効果なし
脳に刺激的な環境ががんを予防 米研究,「運動するだけでは効果は得られない」
〜肺がんの5年生存率〜スウェーデンが英国の2倍 ノルウェー含めた3か国の比較で明らかに
テロメア長とがん発症・死亡との間に有意な負の相関関係
ブロッコリーが乳がんの幹細胞を抑制 含有化合物に予防・治療の可能性
QOL向上と疲労軽減に手応え 乳がんと前立腺がんの運動プログラム

HDL-C低値はがん発症の独立危険因子
 HDLコレステロール(HDL-C)値とがん発症リスクとの間に有意な負の相関関係が認められると,米タフツ大学のグループが発表した。

 同グループは,スタチン療法の大規模ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析から,LDLコレステロール(LDL-C)低値はがん発症の危険因子であると報告している。今回は,追跡1,000人年以上の脂質介入RCTを対象にメタ解析を行い,HDL-C値とがん発症率との関係を検討した。

 解析には24件のRCTが含まれ,計62万5,477人年の追跡で8,185例のがん発症が確認された。解析の結果,登録時のHDL-C値とがん発症率との間に有意な負の相関関係が認められた。この関係は登録時のLDL-C値,年齢,性,BMI,糖尿病,喫煙を調整後も維持され,HDL-C値10mg/dL上昇ごとにがん発症相対リスクは36%低下した。

Medical Tribune 2010-7-1

乳腺密度の減少が乳がんリスクの低下と関連
 メイヨー・クリニック医科大学疫学のCeline M. Vachon准教授らは,マンモグラフィで描出される乳腺密度が数年間で減少した女性では,密度に変化のなかった女性に比べて乳がんリスクが低いと報告した。

変化なしと比べリスクが28%低い

 同クリニックによる今回の研究によると,平均6年間の間隔で実施された2回のマンモグラフィ検査で乳腺密度が減少していた女性の乳がんリスクは,密度に変化のなかった女性と比べて28%低かった。

 このことから,筆頭研究者のVachon准教授は「数年の間隔を空けて乳腺密度を2回測定すれば,乳がんリスク評価のための追加的情報が得られる」と述べている。しかし,医療現場で乳がんリスクを知る目的でこの情報を使うには準備がまだ不十分とも指摘し,「これらの知見は他の研究で再現されることが重要だ。また,乳腺密度の変化を正しく測定するため,測定技術の改善と標準化も必要だ」と述べた。

 現在ほとんどの臨床現場で使用されているBI-RADS(Breast Imaging-Reporting and Data System)と呼ばれる評価システムは,乳腺密度測定のために開発されたものではない。これに関して,同准教授は「乳腺密度測定の質と精度の向上のために現在多くの作業が進行中で,状況は今後変化するだろう」と述べた。

Medical Tribune 2010-7-1

第27回日本呼吸器外科学会
〜小型肺がんの凍結融解壊死療法〜約2年の観察で局所制御率100%
 小型肺がんに対して,肺機能を温存しながら,優れた局所制御が得られると期待されている凍結融解壊死療法(PCLT)。慶應義塾大学呼吸器外科の山内良兼氏らは,臨床病期stage TAを中心とする平均腫瘍径16mmの原発性肺がん14例17病変において,平均観察期間約2年で100%の局所制御率が認められたことを同学会で報告した。

生存率は1年94%,2年64%

 画像診断の進歩により,小型肺がんの検出例が増えている。多くは病変が局所に限定されるため,定型的な肺葉切除に代わる,より低侵襲な治療が望まれる。

 PCLTは,局所麻酔下で経皮的に凍結用プローブを腫瘍に穿刺し,高圧アルゴンガスによる凍結,ヘリウムガスによる融解を繰り返して,腫瘍を壊死させる低侵襲治療。同大学の研究グループは10年近く前から研究を続けてきた。そのなかで,肺機能への影響は,穿刺プローブ当たり,肺活量(VC)が平均 10cc減,1秒量(FEV1.0)が20cc減と,非常に少ないことが確認されている。このため,外科切除術を繰り返している症例,多数の腫瘍が散在する症例,低肺機能例,高齢者など,外科切除が施行できない症例がよい適応となる。

 山内氏らは今回,2002年10月〜09年7月にPCLTを行った原発性肺がん14例(平均年齢67歳)17病変(平均腫瘍径16mm)の成績をまとめた。臨床病期はstage TAが16例,VAが1例。平均約2年間観察したところ,再発は1例も認められず,100%の局所制御率が得られた。合併症は気胸6例,胸水貯留5例(ドレナージ不要),血痰または喀血10例(輸血不要)。転帰は治療関連死亡はなかったが,2例が遠隔転移,1例が間質性肺炎,1例が他がんにより死亡。1年生存率は94%,2年生存率は64%だった。

Medical Tribune 2010-7-1

カロリー制限で健康寿命が延長 疾患伴わず100歳まで延命可
 ワシントン大学老年医学・栄養科学のLuigi Fontana准教授らは「すべての動物はカロリー制限の恩恵を受け,加齢に関連する共通の分子経路が影響を受ける」と発表した。

平均寿命と健康寿命に30歳差

 背景情報によると,酵母や齧歯類からヒトに至るすべての生物は,カロリー制限の恩恵を受ける。単純な生物では,カロリー制限により2倍あるいは3 倍もの寿命延長が可能である。カロリー制限がヒトの寿命延長にどれくらい役立つのかについてはまだ明らかにされていないが,厳格な食事制限を実践している人は100歳過ぎまで寿命が延びることを期待している。

 なかには寿命の延長を期待してカロリー摂取を25%以上減らす人もいる。しかし,Fontana准教授はカロリー制限による寿命延長効果よりも,一生を通じて得られる健康促進効果に関心を抱いており,「今回の研究は,120歳や130歳まで寿命を延ばすことに焦点を合わせたものではない。現在の西洋諸国の平均寿命は約80歳であるが,50歳程度で健康を損なう人が多すぎる。この寿命と“健康寿命”間の30歳という大きなギャップを埋めるべく,カロリー制限や他の遺伝学的および薬理学的な介入に関する発見を利用したい」と述べている。しかしその一方で,健康寿命を延長できれば平均寿命も100歳まで延長可能だと見ている。

IGFや糖の経路活性が低下

 Fontana准教授らは,カロリー摂取量を10〜50%減らすことで,インスリン様成長因子(IGF)-1,グルコース,ラパマイシン標的分子(target of rapamycin;TOR)の関与する経路の活性が低下し,寿命がかなり延長すると報告している。また,これらの経路に関連する遺伝子の変異によっても同様の効果が得られ,変異を有する動物では,がんや心血管疾患,認知障害など加齢に関連する疾患が発症しにくいという。

 同准教授は「カロリー制限を行った動物の約30%は,概して加齢に関連する疾患を伴うことなく高齢で死亡した。その一方で,標準の食餌を与えた動物の多く(94%)は,がんや心疾患などの慢性疾患を発症して死亡した。カロリー制限を行った動物または加齢関連経路の遺伝子変異を有する動物の 30〜50%では,健康寿命と寿命が等しくなった」と述べている。

 この点に関して,今日,多くのヒトでは好ましくない傾向にあるという。同准教授によると,欧米では肥満が流行病の域に達しているため,健康寿命と平均寿命との30歳の差は縮まらず,むしろ拡大傾向にある。アテローム動脈硬化や2型糖尿病,ある種のがんなど予防が可能な疾患によって寿命が短縮する可能性さえある。

Medical Tribune 2010-7-1

夏季の便潜血検査はがんを見逃しやすい? 冬季に比べて検出率13%有意に低下
 下部消化管出血の有無を判定し,大腸がんなどを簡便にスクリーニングする方法として普及している免疫学的便潜血検査(iFOBT)。iFOBTはヒトヘモグロビン(Hb)に特異的に反応するため,動物性食品に含まれるHbの影響を受けにくいというメリットがある。しかし,iFOBTによるHb値は気温によって変動し,大腸がんなどの検出率は冬季に比べて夏季で13%有意に低くなることを,イタリアCancer Prevention and Research InstituteのGrazia Grazzini氏らが報告した。

気温1℃上昇ごとに陽性率0.7%低下

 これまで,iFOBTの検体回収の遅れにより大腸がんが偽陰性と判定されるケースが報告されている。そのようななか,気温が上昇するとHb値が減少する点に着目したGrazzini氏らは,季節の温度変化がiFOBTの判定に及ぼす影響について検討した。

 対象は,イタリア・フィレンツェのiFOBTを用いた大腸がん検診で2001年1月〜08年12月に採取された19万9,654人(男性9万 3,191人)分の検体。

 その結果,iFOBTから得られた平均Hb値は,春季27.6ng/mL,夏季25.2ng/mL,秋季29.2ng/mL,冬季は29.5ng /mLであり,iFOBTによる陽性率は冬季に比べ,夏季で17%低かった。平均Hb値を月単位で見ると,最も低かったのは8月〔23.4ng/mL〕,最も高かったのは1月〔30.4ng/mL〕であった。

 さらに,ロジスティック回帰分析により,気温1℃上昇ごとに陽性率が0.7%低下することが示された。

 また,iFOBT陽性者には全大腸内視鏡検査などを行い,大腸がんまたは進行性腺腫の検出率を検討した結果,冬季に比べ夏季で13%有意に低かった。季節差ではなく平均気温差に代えて再検討しても,検出率に与える影響は同じであり,同氏らは「今回の結果は,季節性の気温差が大きい他の地域や国にも当てはまることだ」と指摘する。

 「夏季のiFOBT実施は腫瘍形成を見逃しやすい」。同氏らはこう警告している。

Medical Tribune 2010-7-6

PSA検診で前立腺がん死亡リスク44%減少,発見率は1.64倍に
男性2万人が対象のスウェーデン研究
 前立腺特異抗原(PSA)による検診は,前立腺がんによる死亡リスクを減らす方法の1つとして定着している。しかし,そのリスクと効果のバランスについては世界中で議論されており,わが国でも日本泌尿器科学会と厚生労働省研究班で意見が真っ向から対立している状態だ。こうしたなか,スウェーデン・イエーテボリ大学のJonas Hugosson氏らは,男性約2万人を対象とした研究の中間解析で,PSA検診を受けることによって前立腺がん死亡リスクが44%減少することを報告した。一方で,前立腺がん発見率は1.64倍に増加している。

ERSPC試験に比べ前立腺がん死亡リスクが大幅に低下

 Hugosson氏らは,スウェーデン・イエーテボリ在住の1994年12月31日時点で50〜64歳(1930〜44年生まれ,平均年齢56 歳)の男性約2万人を検診群(9,952人)と対照群(9,952人)にランダム割り付けし,中央値で14年間追跡。検診群に対しては,PSA検診を2年ごとに受診するよう平均で69歳(67〜71歳)になるまで呼びかけた。なお,検診群の76%(7,578人)が1回以上のPSA検診を受け,うち33%(2,469人)で試験開始時よりPSAが1回以上上昇,その93%(2,298人)が1回以上の生検を受けている。

 前立腺がんと診断されたのは,検診群1,138例,対照群718例。2008年12月31日時点の累積前立腺がん発見率は,対照群の8.2%に対して検診群では12.7%と後者で有意に高かった。しかし,PSA 100ng/mL以上の進行前立腺がんの割合は,検診群(46例)のほうが対照群(87例)よりも有意に少なかった。

 一方,前立腺がん死は対照群78例,検診群44例。後者のほうが有意(P=0.002)に前立腺がん死亡率が低くなっている。

 ERSPCと差が出た要因について同氏は,今回の研究では(1)対象者が若い,(2)PSA陽性の基準値が低い,(3)PSA検診の間隔が短い,(4)追跡期間が長いなどと説明。前立腺がん死亡した検診群の1回以上検診を受けた人々の多くが試験登録時に60歳以上だったことから,同氏は「すべての男性が50歳でPSA検診を始めれば,一部では治療可能なステージで診断されただろう。つまり,より死亡率が低下する可能性がある」と述べている。

Medical Tribune 2010-7-8

喫煙による大腸がん発生機序解明か,遺伝子変異を惹起
中高年女性3万7,000人対象の米コホート研究
 喫煙は大腸がんの確立した危険因子だが,両者の詳しい関連には不明な点も多い。米メイヨー・クリニックのPaul J. Limburg氏らは,米国の中高年女性3万7,000人を対象とした研究で,喫煙による大腸がん発生に遺伝子変異などの分子マーカーの異常が関連していることを突き止め,発表した。一方,喫煙と大腸がん発生の直接的関連は,遺伝子変異などと比べて緩やかだったという。

現喫煙者ではリスク約2倍に

 Limburg氏らは,1986年1月にIowa Women's Health Studyに参加した米アイオワ州在住の55〜69歳の女性9万8,029人に質問票を送付し,2002年12月31日まで追跡。回答者からがん既往歴や喫煙項目の不備などがある者を除外した3万7,399人を対象とし,マイクロサテライト不安定性(MSI)表現型,CG島メチル化表現型(CIMP),BRAF遺伝子変異の有無を指標に,大腸がんとの関連を検討した。喫煙歴あり群1万2,761人(平均年齢62.4歳),喫煙歴なし群2万 4,638人(同61.7歳)で,両群の背景に有意差は認められていない。

 17年間の追跡の結果,年齢,BMI,飲酒やエストロゲン使用の有無などで補正した大腸がん発生の相対リスクは,喫煙歴あり群で 1.19と有意に増加していた。また,喫煙期間によるリスクは40年以上で 1.40だったが,1〜19年( 1.17)は20〜39年(1.05)よりも高いリスク上昇が認められた。1日当たりの喫煙本数は1〜19本( 1.10),20本(1.30),20本超(1.32)と,増加とともにリスクが上昇していた。

Medical Tribune 2010-7-13


40歳未満の女性へのマンモグラフィ検診を疑問視 偽陽性率高い傾向に
 ノースカロライナ大学放射線医学のBonnie C. Yankaskas教授らは,40歳未満の女性を対象としたマンモグラフィ検診について,要精査率が高い半面,乳がん発見率が低いとする調査結果を発表した。

30〜40歳が3割占める

 マンモグラフィ検診の有効性を,40歳以上の女性で検討した研究は数多く行われているが,若年女性で検証したものは少ない。一般的に,マンモグラフィ検診は40歳未満の女性には推奨されていないが,30〜40歳の女性で受検率は約29%にのぼるという。

 Yankaskas教授らは今回,全米の6マンモグラフィ記録保管施設のデータを用いて,若年女性におけるマンモグラフィ検診の精度とアウトカムを調査した。対象は,18〜39歳で初めてマンモグラフィを受けた女性11万7,738例であった。同教授らは,これらの女性を撮影後1年間フォローし,検診の精度とがん発見率を検討した。分析には検診だけでなく,しこりなどを訴えて来院した女性に対し,診断目的で施行した場合も含まれた。

 マンモグラフィ検診の結果を分析したところ,25歳未満の女性ではがんは検出されなかった。また,35〜39歳の7万3,335例についても要精査率が高いにもかかわらず,その感度・特異度・陽性的中率は低かった。この年代への検診によるがん発見率は1,000例当たり1.6例。一方,診断目的だと,同じ年齢層におけるがん発見率は1,000例中14.3例とより精度は高かった。

がんの発見率と偽陽性率は家族歴と関連せず

 Yankaskas教授らは「マンモグラフィ検診を受けた35〜39歳の女性1万例を理論上の母集団とした場合,1,266例が要精査に該当し,16例にがんが発見される計算となる。以上から,偽陽性は1,250例になる」と説明。また,「今回の結果から,症状のない若年女性に対するマンモグラフィ検診の適応については,真剣に議論する必要がある」と強調している。

Medical Tribune 2010-7-15

魚油サプリメントの摂取で乳がんのリスクが低下
米国で初の前向き調査,他のサプリメントは効果なし
 米国では非ビタミン,非ミネラルの“特定”栄養補助食品の摂取が一般化し,抗炎症作用や抗がん作用の可能性が注目されている。また,更年期症状のために摂取される栄養補助食品が乳がんのリスクを低下させるという報告がある。米フレッド・ハチンソンがん研究センターのTheodore M. Brasky氏らは,これらの栄養補助食品の長期使用と乳がんリスクに関する初の前向き研究の結果を発表し,魚油の使用が浸潤性乳がんのリスクを低下させたと報告した。他のサプリメントではこのような効果は見られなかった。

「現在の使用」で32%リスク低下

 2000〜02年,VITamins And Lifestyle(VITAL)コホートのメンバーのうち,米ワシントン州西部在住の50〜76歳の女性16万8,953人に質問票を送付。回答率は 23.9%で,乳がんの既往者や乳腺肉腫,葉状腫瘍,組織学的リンパ腫を有する者を除く閉経後女性3万5,016人を分析対象とした。

 質問票では,過去10年間に栄養補助食品を通常使用(1週間に1日以上,1年以上)したかどうか,使用頻度(日/週),使用期間(年)のほか,BMI,過去10年の身体活動,服薬状況,がんの家族歴,出産歴やその他の生活習慣などを尋ねた。

 これらの交絡因子で多変量調整した結果,抗炎症作用を持つ栄養補助食品のうち,現在の魚油の使用は,非使用に対して危険率 0.68とリスクを有意に低下させたが,過去の魚油使用では危険率 1.07で,リスクの変動は認められなかった。過去10年の魚油の使用頻度を,「なし」,「週4日未満または3年未満」,「週4 日以上または3年以上」に分けると,有意差は認められないものの,使用頻度が高いほど乳がん発症リスクは低下した。グルコサミン,コンドロイチン,メチルサルフォニルメタン,グレープシードの摂取は,いずれも乳がんの発症に関連していなかった。

 更年期症状の緩和を目的として摂取されるブラックコホシュ,ドンクアイ,大豆,セント・ジョーンズ・ワートも,乳がんのリスクと関連がなかった。

Medical Tribune 2010-7-16

脳に刺激的な環境ががんを予防
米研究,「運動するだけでは効果は得られない」
 栄養バランスの取れた食事や適度な運動など,生活習慣や生活環境によってがんの予防が可能であることは,これまでも多く指摘されてきたが,米オハイオ州立大学の神経学者Lei Cao氏とMatthew During氏らのグループによる掲載論文によれば,「脳に刺激的な環境ががんを予防し,この効果は運動をするだけでは得られない」という結論が示された。運動の効果より脳への刺激の効果が上だとする今回の結論は,各方面からの議論を呼びそうだ。

「刺激的環境」が脳を活性化

 以前から,広いスペースにたくさんのおもちゃや迷路,運動のための回し車,仲間から隠れて休息できる場所などを配置した,通常の無味乾燥な飼育ケージとは異なる「刺激的環境」(Enriched Environment;EE)下で飼育されたマウスは,脳の発育や学習能力が改善し,年を取ってからでも神経変性症に伴う記憶力低下を防止できるという報告がなされており,おもにアルツハイマー病予防などの観点から注目されている。今回研究を主導したCao氏とDuring氏らは,刺激的環境下における脳内変化が体内のホルモンや成長因子のバランスに影響を与え,それによってがんへの応答性に違いが生まれるかどうかに興味を持ち,検証を行った。

刺激的環境下で飼育するとがん増殖が抑制された

 両氏らはマウスを2グループに分け,それぞれ通常環境下と刺激的環境下で3〜6週間飼育した後,皮下にB16メラノーマがん細胞を移植し,その経過を観察した。その結果,刺激的環境下で3週間飼育したマウスでは,増殖したメラノーマがん組織のサイズが通常環境下で育てたマウスより平均43%小さかった。その差は,飼育後6週目では77%にまで広がった。刺激的環境下で育てられたマウスでは,移植されたがん細胞が全く増殖しなかった例もあった。

がん抑制効果は血清中のレプチン減少による

 刺激的環境下で6週間飼育したマウスの血清中では,通常環境群と比べ,インスリン様成長因子(IGF)-1,アディポネクチン,レプチンなど,がん細胞の増殖制御との関連も指摘される代謝マーカーの発現量が変化しており,この血清はin vitroでB16メラノーマ細胞の増殖を抑制することも確認された。この抑制効果は,通常飼育マウスの血清を抗レプチン中和抗体で処理することでも再現されたことから,刺激的環境下で飼育したマウス血清中で最も顕著に減少していたレプチン(通常飼育の13%)が,がんの増殖抑制に寄与している可能性が示唆された。

 本研究で興味深いのは,この一連の実験を,通常飼育環境に自由運動のできる回し車のみを追加したマウスで行ったところ,体重,脂肪量,筋肉量などは刺激的環境での飼育マウスと同等だったにもかかわらず,BDNFの上昇,レプチンの減少は認められず,腫瘍抑制効果も観察されなかったという点である。刺激的環境飼育マウスの総合運動量は1日平均0.64kmと,通常飼育環境+自由運動マウスの66%しかなかったにもかかわらず腫瘍抑制効果が認められたということは,がん予防には単なる肉体的運動だけでは不十分で,刺激的環境下で与えられる好奇心,冒険心,創造力,探究心といった「頭脳の運動」が効果的だということなのかもしれない。

Medical Tribune 2010-7-22

〜肺がんの5年生存率〜
スウェーデンが英国の2倍
ノルウェー含めた3か国の比較で明らかに
 ロンドン大学キングズカレッジGuy's病院のLars Holmberg教授らは,ノルウェー,スウェーデンにおける肺がんの生存率は英国よりも有意に高いことを3か国を比較した研究で明らかにした。今回の研究結果によると,各国における医療費と社会基盤は同等であるにもかかわらず,このような差が生じている。

男女ともに英国が最低

 今回の研究結果は,ノルウェー,スウェーデン,英国において1996〜2004年に肺がんと診断された患者すべての5年生存率を比較したデータに基づいている。

 この3か国の肺がんレジストリデータによると,同期間に英国では25万828例,ノルウェーでは1万8,386例,スウェーデンでは2万4,886例が肺がんと診断されている。

 5年生存率は英国で最も低く,スウェーデンで最も高かったが,アウトカムに影響する年齢,性,観察期間の長さなどの因子とは無関係であった。

 データによると,スウェーデンの肺がん患者の5年生存率は英国の肺がん患者のほぼ2倍であった。

 肺がんと診断された男性の年齢を標準化した5年生存率は,スウェーデンでは11.3%であったが,ノルウェーでは9.3%,英国では6.5%であった。一方,女性でも,英国はノルウェーとスウェーデンを下回っていた。

 肺がんと診断された女性の年齢を標準化した5年生存率は,スウェーデンでは15.9%,ノルウェーでは13.5%,英国では8.4%であった。

疾患に対する認識の差

 今回の研究によると,死亡リスクの差はおもに診断後最初の1年間に集中していることがわかった。

 2001〜04年に,英国の肺がん患者が診断後最初の3か月で死亡するリスクは,ノルウェーの患者よりも年齢や性に依存して23〜46%高く,スウェーデンの患者より56〜91%高かった。

 Holmberg教授らの引用したデータによると,英国の患者は手術や投薬で積極的に治療する傾向がスカンジナビアに比べて弱い。同教授らは「これは英国では症状に対する認識が低く,患者が医師の診察を受けるのが遅れるために,受診したときには疾患が既に進行して,治癒的な治療ができなかったことが原因のようだ」と説明している。

 同教授らは,英国では肺がんの診断数と死亡者数は1970年代以降急激に低下しているものの,肺がんの重要な危険因子である喫煙率はノルウェーやスウェーデンに比べて高いことを指摘している。

 しかし,同教授らは「治療行動(その他の併発疾患に対するものか否かを問わず)の違いがなんらかの役割を果たしている可能性を除外することはできなかった」と述べている。

Medical Tribune 2010-7-22

テロメア長とがん発症・死亡との間に有意な負の相関関係
 細胞のテロメア長が短いとがんの発症・死亡リスクが有意に高いという負の相関関係が認められると,欧州の共同研究グループが発表した。

 短いテロメア長は複製細胞の老化と染色体の不安定を招き,がんのリスクを高める可能性がある。同グループは,テロメア長とがん発症・死亡との関係を検討した。

 対象はイタリア・ブルネックの住民787例。1995年の登録時に定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法により白血球のテロメア長を測定し,2005年まで追跡した。追跡中のがん発症は92例(11.7%)で,発症率は1,000人年当たり13.3であった。

 解析の結果,登録時の短いテロメア長は一般的ながんの危険因子とは独立してがんの発症と関係し,テロメア長が最も長い群と比較したがん発症危険率は中間群が2.15,最も短い群が3.11だった。1,000人年当たりのがん発症率は最長群5.1,中間群14.2,最短群22.5であった。

 さらに,短いテロメア長は個々のがんの死亡率の高さとも関係していた。

Medical Tribune 2010-7-22

ブロッコリーが乳がんの幹細胞を抑制 含有化合物に予防・治療の可能性
 ミシガン大学薬学部製薬科学科のDuxin Sun准教授らは「ブロッコリーに含まれる化合物は,がん幹細胞を抑制し,乳がんの予防または治療に役立つ可能性がある」と発表した。

新たな腫瘍が発生せず

 同大学総合がんセンターの研究者であるSun准教授らは,マウスと細胞培養の実験で,ブロッコリーとブロッコリーの芽に含まれるスルフォラファンの作用を検討した。

 今回の研究では,乳がんのモデルマウスにブロッコリー抽出物から得られたさまざまな濃度のスルフォラファンを注入し,その後に腫瘍のがん幹細胞数を算定した。その結果,スルフォラファン投与後にがん幹細胞は大幅に減少したが,正常な細胞にはほとんど,または全く影響がなかった。

 さらに,スルフォラファンを投与したマウスのがん細胞では,増殖能が低下していた。また,ヒト乳がんの培養細胞にも同様の実験を行った結果,スルフォラファンによって,がん幹細胞が減少することが示された。

 同准教授は「スルフォラファンはがん幹細胞に標的を絞り死滅させることで,新たな腫瘍の増殖を予防することがわかった。これまでにも,スルフォラファンの抗がん作用が研究されてきたが,今回の研究では乳がん幹細胞が抑制されることを見出した。スルフォラファンおよびブロッコリー抽出物が,がんの予防および治療に役立つ可能性が示唆された」と述べている。

 現在の化学療法はがん幹細胞を標的としておらず,がんは再発または増殖する。そのため,がんのコントロールには,がん幹細胞を標的とすべきだと考えられている。

Medical Tribune 2010-7-22

QOL向上と疲労軽減に手応え 乳がんと前立腺がんの運動プログラム
 現在,ヘンリー・フォード病院(デトロイト)放射線腫瘍科のEleanor M. Walker医長らにより,乳がんと前立腺がんの患者への「運動とがんの統合治療教育」(ExCITE)というプログラムを用いた研究が進行中で,その経過報告がなされた。

副作用の軽減効果も

 Walker医長は「がんの治療に運動を取り入れることは,患者の心身両面に有益で,副作用の軽減にもつながる。また,疲労や嘔気に悩まされている患者にとっては,治療薬や化学療法の妨げになりかねないサプリメントに代わる,きわめて有効な手段となる」と述べた。

 同医長は,がん患者に対する運動の効果を研究するに当たって,同院と同心血管研究所およびジョセフィン・フォードがんセンターの同僚と共同で ExCITEプログラムを開発した。これは,治療中のがん患者に個別の運動プログラムを提供するもので,がん患者は同院のフィットネスセンターに通うか,または在宅で治療中の各段階に見合った運動をする。

 同氏は「ExCITEは,術後のリハビリテーションや化学療法,放射線治療に先立つ血行の促進や免疫系の改善など各患者に適した個別の運動メニューを提供するため,がん治療への総合的な取り組みが可能となる」と述べている。

 Walker医長は,研究のデザインと介入の方法についてのポスターを同学会年次集会で提示しており,その要約はwww.ASCO.orgで閲覧できる。

Medical Tribune 2010-7-29