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女性は巨大たばこ産業のターゲット,対抗策はあるか? 世界禁煙デーフォーラムでWHO専門家らがパネル討論 |
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昨日(5月31日)は世界保健機関(WHO)が定めた“世界禁煙デー”。東京・築地にある国際研究交流会館では,厚生労働省主催の「タバコフリー築地フォーラム2010〜ジェンダーとタバコ」(ジェンダー=性)が開催され,WHOの専門家らがパネリストとして参加。たばこ産業がマーケティングや広告に巨額を投じ,ターゲットとして狙いうちにしている女性をいかに喫煙や受動喫煙の被害から守るかについての方策を討論し,パネリストらは「カウンターマーケティングでたばこ産業の上をいかなければならない」などと力強く語った。 WHOの新モノグラフを公表,女性の健康には男性のかかわりが大切 WHOタバコフリーイニシアチブ・ディレクターのダグラス・ベッチャー氏によると,女性の喫煙者は世界の喫煙者10億人のうちの2億人で,特に発展途上国の女性はたばこ産業のターゲットとなっている。WHOが150か国以上で行った調査によると,ブルガリア,チリ,コロンビア,クック諸島,メキシコ,ウルグアイなど,男性より女性の喫煙者が多い地域もあり,バングラデシュ,インドでは若い女性での噛みたばこによる健康被害が問題となっている。 また,受動喫煙が原因で年間に死亡する43万人のうち,女性は64%を占めると推定されている。 WHOジェンダーとタバココンサルタントのスーンヤン・ユーン氏は,40人以上の専門家が執筆を担当した新しいモノグラフ“Gender, women, and the tobacco epidemic(ジェンダー,女性とたばこの流行)”をまとめ,当日発行されたことを報告。会場にはダイジェスト(仮訳)が配布された。ジェンダーの枠組み,健康への影響,税に至るまでたばこに関するさまざまな項目が取り上げられているが,同氏は「“受動喫煙”の章は特に重要」と指摘。女性は男性にたばこをやめて欲しいとは言えないことなどから「男性は女性の健康に対してより大きな役割を持っていることを,これまで以上に認識する必要がある」と述べた。 パネリストらは「たばこ産業は人口を巧みにセグメント化し,女性を狙っている。先制攻撃が有効である」,「お金がなくても,教育で上をいかなければいけない」,「女性は男性の影響を受けやすい。カップルで教育することが大切」,「これまでは妊娠だけに注目していたが,女性自身の健康問題として捉えるべき」などとそれぞれの意見を述べたほか,「人口の10〜15%を占める同性愛者はたばこ広告に対して脆弱」といった指摘もあった。「たばこに対する政策を地方政府(自治体)から発信してもらいたい」という要望もあった。 このほか,厚生労働副大臣の長浜博行氏,国立がん研究センター理事長の嘉山孝正氏があいさつ。嘉山氏は「われわれの研究から女性の喫煙率が若い世代はもちろん,中高年でも増加傾向にあること,受動喫煙と肺がん,特に肺腺がんとは強い関係があること,年間3万〜5万の女性はたばこが原因で死亡しており,わが国でも喫緊の課題であることが裏づけられた」と述べ,タバコフリー社会の実現に向けWHOとのパートナーシップを強調。「公共的施設における受動喫煙防止条例」を実現させた神奈川県知事の松沢成文氏や,レストランのモンスーンカフェやラ・ボエムなどを経営し,全国の店舗でいち早く禁煙を実施した株式会社グローバルダイニングの山下優子氏は苦労話,成功談を披露し,会場から大きな喝采を浴びた。 Medical Tribune 2010-6-1 ![]() |
乳がんワクチンの開発に成功,2011年にも臨床試験へ 米国の動物実験 |
米クリーブランドクリニックのVincent K. Tuohy氏らは,世界初となる乳がん予防ワクチンの開発に成功したことを報告した。同氏らは,今回のマウス実験できわめて有望な結果を得ており,来年(2011
年)にも臨床試験を開始できる状態にあるとしている。 α-ラクトアルブミンに着目 Tuohy氏らが着目したのは,乳糖合成酵素の補因子になる蛋白質α-ラクトアルブミン。この蛋白質は通常の乳細胞には現れないが,授乳期間中の乳腺上皮細胞やヒト乳がん細胞の大部分で特異的に発現する。 同氏らはα-ラクトアルブミンを自己抗原としたワクチンを開発し,アジュバントとともに乳がんトランスジェニックマウスおよび4T1型乳がん組織を移植したBALB/cマウス計6匹に接種。ダミー・ワクチンを接種した同種マウス6匹と比較した。 10か月後,ワクチン接種群では乳がん発症が認められなかったが,対照群ではすべてで腫瘍が確認された。さらに,このワクチンの投与による通常細胞への影響は認められなかったという。今回の研究結果から,同氏らは「α-ラクトアルブミンによるワクチンには,乳がん予防につながる効果がある」と結論している。 これまでに開発された「がん予防ワクチン」は,子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルス (HPV)や肝がんの引き金となるB型肝炎ウイルス(HBV)など,ウイルスをターゲットとしたものが有名だが,今回の乳がんワクチンは蛋白質に着目した点が特徴的だ。α-ラクトアルブミンは授乳期に発現するため,妊娠・出産を終えた女性への使用が期待される。 Medical Tribune 2010-6-3 ![]() |
乳がんの発症リスクに30歳代半ばまでの化学物質曝露 |
ロベール・ソーベ職業保健研究所(カナダ)のFrance Labrche博士らは,女性が30歳代半ばまでにある化学物質や汚染物質に職業的に曝露されると,閉経後の発がんリスクが3倍になるとの研究結果を発表した。 アクリル繊維の曝露でリスク7倍 今回の研究結果は,1996,97年にモントリオールで乳がんと診断された閉経後女性(当時50〜75歳)556例と年齢と診断日が一致し,他の一連のがんに罹患している女性対照群613例の計1,169例を対象とした研究から得られた。 Labrche博士らのもと,化学者と産業衛生管理者によって,これらの女性が在職中に曝露された約300の異なる物質のレベルが調査された。 乳がんリスクと関連する因子を考慮して解析したところ,これらの物質のうちいくつかの職業的曝露と乳がんリスクとの間に関連性が認められた。対照群と比べて,このリスクは36歳までの曝露で最大となり,この年齢までの曝露期間が10年増すごとにリスクは増大した。 今回の研究から,仕事中に合成繊維や石油製品に曝露された女性は,リスクが最も高いことが明らかになった。 また,アクリル繊維に職業的に曝露された女性では,乳がんリスクは7倍となったが,ナイロン繊維に曝露された女性ではほぼ2倍であった。 ホルモン反応性によって腫瘍を分類したところ,単環芳香族炭化水素(原油の副産物)やアクリルとレーヨン繊維に曝露された女性では,曝露期間が 10年長くなるごとにエストロゲンに反応し,プロゲステロンに反応しない乳がんを発症する可能性が2倍以上になった。 石油製品中に認められる多環芳香族炭化水素に36歳までに曝露された女性では,エストロゲンとプロゲステロンのいずれにも反応する乳がんの発症リスクが3倍になった。 同博士らは「この結果が単なる偶然にすぎない可能性もあるが,乳房の細胞がまだ活動的な40歳代に達するまでに曝露した場合,有害化学物質に対して乳房組織がより敏感に反応するとの理論と一致する」と述べている。また,先進国では乳がんの発症率も上昇しており,増殖速度が遅い小さな腫瘍が検出されるようになったことや飲酒量が変化したことなどが影響している可能性もあると指摘している。 Medical Tribune 2010-6-3 ![]() |
第96回日本消化器病学会 肥満による消化器がんの発症リスク高い |
近年,わが国でも欧米同様に肥満症が増加していると言われる。肥満症は2型糖尿病や高血圧症,脳心血管疾患などと関連することから,診療に当たり,注視する必要がある。岡山大学大学院消化器・肝臓内科の山本和秀教授は,肥満症の診断基準や近年問題視されている小児肥満症について解説し,これらが消化器がんの罹患リスクを高めることから,速やかな対策が肝要であると述べた。 成人男性では近年上昇傾向 日本肥満学会による肥満症の診断基準は,BMIが25以上で,(1)肥満に関連し,減量を要するまたは減量により改善する健康障害を有する(2)健康障害を伴いやすい高リスク肥満(内臓脂肪型肥満)―のいずれかに該当することである。 2008年に行われた厚生労働省の調査で,わが国における1978〜2008年の成人肥満者(BMI 25以上)の割合を見ると,男性は上昇傾向にあり,近年はおよそ30%前後で推移しているが,女性では20%前後で変化していない。20〜70歳代以上の世代別肥満者の割合では,男性が70歳代以上の年代以外で上昇していた。女性は近年,大半の年代で低下傾向にあったものの,高年齢になるほど割合は高くなる傾向にあった。 また,同学会による小児肥満症の判定基準は,18歳未満の小児で肥満度が20%以上かつ有意に体脂肪率が増加した状態とされている。体脂肪率の基準値は,男児で25%,11歳未満の女児で30%,それ以上の女児は35%である。 思春期肥満の7,8割が成人肥満に移行 山本教授は,小児の肥満症に関して「7歳時における肥満児の約40%,思春期における肥満児の70〜80%が成人肥満に移行する」としたうえで,肥満と発がんリスクを比較した海外の研究結果を紹介した。その研究では,肥満によって男女とも胃がんや膵がん,食道がんなどの消化器がんの発症リスクが高まることが明らかにされたという。 さらに,わが国で肝硬変を引き起こす成因の割合についても研究データを取り上げ,現在はC型肝炎ウイルスが約60%と最も多いが,今後は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝硬変も増加していくのではないかとの見通しを示した。 以上のことから,同教授は「肥満症は,消化器がんの発症リスクを高める。したがって肥満症治療においては,成人の肥満症に移行することが多い小児肥満症の段階からアプローチする必要がある」と締めくくった。 Medical Tribune 2010-6-10 ![]() |
切除可能胃がんに対する術後補助化学療法の有益性を確認 |
切除可能胃がんに対する術後補助化学療法(術後化療)には,手術単独と比べ全生存期間および無病生存期間を延長する明らかな利益が認められると,国際共同研究グループが発表した。 多くのランダム化比較試験(RCT)で切除可能胃がんに対する術後化療の転帰への影響が検討されてきたが,明確なエビデンスは不足している。同グループは,切除可能胃がんに対する手術単独と術後化療の転帰を比較したRCTの個々の患者データを収集し,メタ解析を行った。 2004年より前に患者登録を終了したRCTを対象とし,放射線療法,術前補助化学療法,周術期・術中化学療法,免疫療法を検討した試験は除外した。条件を満たした31件のRCTのうち,個々の患者データが得られた17件について解析を行った。 中央値7年を超える追跡で,手術単独群の1,857例中1,067例と術後化療群の1,924例中1,000例が死亡した。解析の結果,手術単独群と比較した術後化療群の全生存期間のハザード比(HR=危険率)は0.82,無病生存期間のHRも 0.82で,有意な生存ベネフィットが確認された。5年全生存率は手術単独群が49.6%,術後化療群が 55.3%であった。 術後化療による生存ベネフィットに,解析対象としたRCT間または化学療法レジメン間で有意な不均質性は見られなかった。 Medical Tribune 2010-6-10 ![]() |
がん罹患で性機能低下 種類や治療段階を問わず |
デューク臨床研究所(米)のKathryn E. Flynn助教授らは「がんの種類,または治療のいずれの段階を問わず,がんに罹患することで性機能やパートナーとの親密さが長期にわたって障害される可能性が高い」と発表した。 性的満足感の低下とは相関しない 以前の研究では多くが,乳がん,前立腺がん,婦人科悪性腫瘍といった生殖器系のがん患者に焦点を合わせていたが,今回の研究は全種類のがん患者を対象にしており,最も包括的な研究の1つと言える。 筆頭研究者のFlynn助教授は,多様な種類のがん,そしてさまざまな治療段階にある男女109例を16グループに分けて情報を収集した。参加者は,調査員が立ち入った質問を行うことに同意した。 その結果,がんの種類にかかわらず,がん罹患により患者の性生活が変わった。また,治療終了後も長期間にわたり問題が継続した患者がいた。 その一方で,性機能における変化は,必ずしも性的満足感の低下と相関しないことも判明した。同助教授はこれについて,「がん患者のQOL向上に取り組む研究者にとって,認識すべき重要な特徴と思われる」と指摘。「性機能と親密さの測定にはこれまで多くの質問票が使用されてきたが,さまざまな体験を持つ広範囲のがん患者をカバーするにはいずれも不十分であった。今回のサブグループごとに得られた調査結果が,よりよいデザインの開発に役立つことを願っている」と述べている。 疲労と体重増加が問題 Flynn助教授は「がん治療に関連して最も多く挙げられる性生活上の障害は,疲労と体重増加であることが判明し,女性では脱毛も障害になった」と説明。がんの種類ごとに特徴的な障害としては,「例えば肺がん患者では息切れが,前立腺がん患者では失禁が報告され,大腸がん患者はストーマ袋が性行為の邪魔になると報告していた」と述べている。 性に対する見解には,男女間でいくつか重要な差が見られた。女性では性行為の頻度より,自分に性的な魅力があるか否かが重要であることが判明した。一方,男性は性行為の頻度低下を女性より否定的に受け止める傾向にあった。 男女とも性欲の減退が問題だと報告した。また治療後のグループで一部の患者が性欲の回復を報告したが,全く回復しないと報告する患者もいた。 経験から導き出される指標 Flynn助教授らによると,性機能をより正確に推し量るうえで最も重要な指標は,参加者の性機能,親密さ,さらに性生活への満足度に関する実体験から導き出された。 参加者の経験は,以下の4種類に大別できた。 (1)性行為が減少すると親密さが低下。男女ともに孤立感を覚え,性交が不可能な場合にパートナーを遠ざけることもある (2)親密さが性行為の代替となった。一部の参加者では感情的な親密さが性行為の代替となり,感情的な親密さがもたらす密接感で満足した (3)親密さが性行為に等しいものになった。少数の参加者は性行為を再定義し,2人が可能な行為(手をつなぐなど)を自分たちの性生活とみなすようになった (4)親密さの増大が性行為の向上につながった。多くの患者は性機能における変化を機に新たな性的表現方法を見出し,実際に互いの喜びが増大した 同助教授は「性機能と親密さは,がん患者とそのパートナーにとってQOLの重要な側面である」とし,次の段階として「検討患者から収集した今回の情報を用いて,がん患者の体験から導き出された指標を性機能評価に反映させた調査質問票をつくるべきである」と述べている。 Medical Tribune 2010-6-10 ![]() |
HPVワクチン集団接種実施の課題とは,栃木県大田原市の例を紹介 公費助成実施・検討中は68市区町村に |
昨年(2009年)にわが国でも認可された2価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン。子宮頸がんを予防するワクチンとして多くの報道で取り上げられ,その認知度は上昇しているが,日本産科婦人科学会などが優先接種対象としている10歳代前半の接種率は期待されたほど上昇していない。 日本産婦人科医会常務理事の鈴木光明氏(自治医科大学産婦人科学教授)は昨日(6月9日),東京都内で開かれた同医会の記者懇談会で,HPVワクチンの接種状況について解説。「接種普及には公的補助と集団接種が不可欠」としたうえで,全国に先駆けて集団接種を開始した栃木県大田原市の取り組みを紹介し,そこから浮き彫りとなった集団接種を実施するうえでの課題点を示した。公費助成については,68市区町村が実施もしくは検討中だという。 公費助成だけでは接種率伸び悩む 2価HPVワクチンのサーバリックスを販売しているグラクソ・スミスクライン(GSK)が,2009年6月および2010年3月に20〜44歳の女性1,680人を対象に行った調査によると,HPVワクチンの認知度は承認前の20.3%から承認後は57.7%に上昇した。しかし,子宮頸がん自体の認知度は承認前61.6%,承認後64.5%とあまり上昇していない。また,同社が2009年12月25日?10年3月15日に行った調査では,ワクチン接種者の平均年齢は31.4歳で,25〜39歳が全体の52%。優先接種対象である10歳代前半ではほとんど接種されていない状態だ。 こうした状況を勘案したうえで,鈴木氏は「特に10歳代前半にHPVワクチン接種を普及させるためには,公的補助と集団接種が不可欠」とした。 海外の状況を見ると,学校での集団接種を実施しているオーストラリアや英国では1回目の接種率(12歳女児)は8割を超えている一方,個別接種を行っている米国の州では1回目の接種率(13〜17歳女児)が平均37%。これらの国および州ではいずれも公費助成(ほとんどが全額助成)を実施しているにもかかわらず,これだけの差が生じているのだ。米国での接種完了率については,米ミシガン大学の研究でも指摘されている。 わが国に目を移すと,公費助成を実施および検討しているのは,6月4日現在で68市区町村。社会的な機運もあり,今後も増加が予想されている。 一方で,集団接種については,全国でも実施しているのは大田原市のみ。海外の例のように,公費助成と集団接種の両方が満たされなければ,10歳代前半の接種率は上昇しないだろう。 大田原市の取り組み 大田原市では今年4月から小学校6年生女児への全額助成をスタートし,中学生女児にも今年度に限り半額助成を決定。5月13日には,全国に先駆けて小学校での集団接種を開始した。24校340人が対象で,98.8%に当たる336人が接種を希望。現在までに3分の2の小学校で第1回接種が完了している。 ここに至るまでの道のりは決して平坦ではない。市職員や関係者は,全国市町会予防接種事故賠償補償保険制度(V型)への加入,市医師会,教育委員会,小学校長部会,看護教諭部会への協力要請,看護師や事務職員の確保,集団接種要綱(被接種者の特定,接種委託医・医療機関の特定・確保など)の制定のほか,ワクチンの確保,予算計上,市民への周知などに奔走した。 厚生労働省では,任意接種ワクチンの集団接種を行うに当たって満たさなければならない要件を定めていない。しかし,これらの手続きを経たほうがスムーズに事業が推進できるようだ。また,保険加入については「死亡一時金は定期接種であれば4,280万円だが,任意接種では713万5,200円しか給付されない。この差を埋めるためには全国市長会予防接種事故賠償補償保険制度のV型に加入しなければならない」と説明している。 緩やかな勧奨がよいのではないか 一方で,学校で集団接種を実施するうえでの課題も浮き彫りとなった。鈴木氏が挙げた課題は,(1)多くの児童・生徒が訪れた際に集団接種の場で子宮頸がんやHPVワクチンの十分な説明,教育が可能なのか,(2)集団接種の場で接種医が被接種者の予診票などをきちんとチェックできるか,(3)ほかの重要な定期接種ワクチンが個別接種のまま据え置かれている現状との整合性?の3点となっている。 大田原市では,(1)については保護者にアピールする場や校医による説明を行い,保護者や児童に子宮頸がんとHPVワクチンを理解してもらった。また(2)については保健師と接種医による二重チェックを行ったが,同氏は「1回の被接種者が20?30人の大田原市だからできた可能性がある。50〜 60人を一度に接種する場でこれが可能か否かは不明」とした。(3)は行政との関連もあるため,すぐに解決するのは難しいという。 同氏は「集団接種はよいことばかりではなく,こうした課題があることを念頭に置いて推進しなければならないだろう。また,接種を強制するのはよくない。大田原市のように緩やかな勧奨がよいのではないか」とアドバイスしている。 Medical Tribune 2010-6-10 ![]() |
第96回日本消化器病学会 進行膵がんに対するACEI/ARB(降圧剤)投与でゲムシタビン(抗がん剤)の治療成績を向上 |
進行膵がんに対するゲムシタビン(GEM)治療におけるACE阻害薬(ACEI)/アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)投与の治療成績をレトロスペクティブに検討した東京大学消化器内科の中井陽介氏らは,進行膵がんにおいてACEIあるいはARBの投与でGEMの治療成績が向上する可能性があることを示唆した。 GEM・カンデサルタン併用療法の第T相試験が進行中 胃がん,膀胱がん,前立腺がんなどの異種移植モデルにおいて,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の抑制を介したARBの抗腫瘍効果が報告されている。そこで中井氏らは,膵がんにおけるレニン―アンジオテンシン(RA)系抑制の抗腫瘍効果を明らかにするため,まず基礎的検討として,ヒト膵がんと類似の症状,組織像を呈する膵臓特異的変異型KRAS遺伝子発現+形質転換成長因子(TGF)-β2型受容体(TGFBR2)ノックアウトマウスに5種類の ARBを投与し,コントロール群と比較した。 その結果,カンデサルタンを含む2種類のARB投与群では生存期間中央値は,コントロール群と比べて延長が認められた。 さらに同氏らは臨床研究として,同科でGEM単独療法を施行した切除不能進行膵がん155例を対象に,高血圧治療としてACEIあるいはARBを内服した27例(ACEI/ARB群),高血圧治療としてACEI/ARB以外の降圧薬を内服した25例(non ACEI/ARB群),高血圧非合併の103例(非合併群)の3群に分けて治療成績をレトロスペクティブに比較した。 その結果,ACEI/ARB群,non ACEI/ARB群,非合併群の奏効率はそれぞれ3.7%,4.0%,2.9%と差は認められなかったが,病勢コントロール率はACEI/ARB群が 63.0%で,non ACEI/ARB群の36.0%,非合併群の44.7%に比べて高い傾向が認められた。またACEI/ARB群,non ACEI/ARB群,非合併群の無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ8.7か月,4.5か月,3.6か月,全生存期間(OS)は15.1か月,8.9か月,9.5か月と,いずれもACEI/ARB群の成績が良好であった。 さらに予後因子の多変量解析においても,コントロール群と比べて予後良好な可能性が示唆された。 現在,前治療のない非切除・術後再発膵がんに対するGEM・カンデサルタン併用療法の第T相試験が進行中であるという。 Medical Tribune 2010-6-10 ![]() |
ニガウリエキスに抗乳がん作用 |
乳がんの管理には食事療法が用いられることもある。セントルイス大学(ミズーリ州)病理学科の
Ratna B. Ray教授らは「栄養補助食品として広く使われているニガウリエキスには,乳がん細胞に対する増殖抑制作用があることから,今後,乳がん治療薬として使用できるかもしれない」とCancer
Research(2010; 70: 1925-1931)に発表した。今回の研究では,ニガウリエキスは複数のシグナル伝達経路を調節し,乳がん細胞のアポトーシスを誘導することが示唆された。 アポトーシスを誘導 ニガウリはアジア,アフリカ,南米で栽培されている。この野菜の抽出物はモルモルジン,ビタミンC,カロチノイド,フラボノイド,ポリフェノールなどの配糖体を含有することが知られており,西洋諸国では栄養補助食品として普及している。 過去の研究では,ニガウリの名称で知られるモモルディカ属カランティアから,血糖降下作用と脂質低下作用が認められている。そのため,ニガウリエキスはインド,中国,中米などの国では糖尿病の民間療法として広く用いられている。 筆頭研究者のRay教授らは今回,ヒト乳がん細胞と原発性のヒト乳房上皮細胞を用いてニガウリエキスのがんに対する有効性を検討した。その結果,細胞増殖と細胞分裂が大幅に抑制され,乳がん細胞のアポトーシスが誘導されることがわかった。これらは,乳がん研究につながりうる有望な結果と言える。 食事に取り入れるには時期尚早 同誌の共同編集者でコロラド大学薬学部のRajesh Agarwal教授は「乳がんは世界中の女性の主要な死因になっていることから,今回の結果は非常に意義深い。今後追試で確認されれば,乳がんを抑制する新たなエキス剤が得られるかもしれない」と期待を寄せている。 また今回の研究について,「簡潔なデザイン,明確な結果,そして乳がん予防としての重要性が高いことから,これまでの研究とは一線を画している」と評価している。 しかしその一方で,同教授は「今回の研究はニガウリの乳がん予防効果を示すうえでの第一歩にすぎない」と強調。ニガウリエキスががん細胞において何を分子標的としているのか理解し,in vivo(生体内)での効能を確立するためには,さらなる研究が必要であると指摘している。 Medical Tribune 2010-6-17 ![]() |
ビスホスホネート製剤が乳がんリスク低減と関連 |
フレッドハッチンソンがん研究センター(シアトル)のPolly A. Newcomb教授らは,骨粗鬆症の予防と治療に用いられる数種類のビスホスホネート製剤の長期服用により,非肥満女性の乳がんリスクが低下するとの研究結果を発表した。 非服用者と比べて33%低下 今回の試験では,ウィスコンシン州の20〜69歳の浸潤性乳がんと診断された女性(2,936例)とコントロール女性(2,975例)を対象に,ビスホスホネート製剤の使用が乳がん発症にどのような影響を及ぼすかについて検討した。 被験者には,骨折歴,骨粗鬆症との診断の有無,ビスホスホネート製剤の服用歴など骨の健康状態について尋ねた。 分析の際には,第1度親族の疾患歴,初産年齢,閉経後のホルモン使用とBMIなどの乳がんの危険因子が考慮された。 その結果,ビスホスホネート製剤を2年以上服用した女性では,非服用の女性と比べて乳がんリスクが33%低下することが明らかになった。 筆頭研究者で同センターがん予防プログラムリーダーのNewcomb教授らは「この大規模な研究から,ビスホスホネート製剤の使用と乳がんリスク低減との関連性を示す新たなエビデンスが得られた」と述べている。 乳がんに対する予防効果が肥満でない女性のみに認められたことについて,同教授らは「肥満女性ではエストロゲン値が上昇していた可能性があるため,内在するホルモン類がビスホスホネート製剤の乳がんリスク低下能に影響を及ぼす可能性がある」と説明している。 Medical Tribune 2010-6-17 ![]() |
ARB使用で肺がんリスク25%上昇か,乳がんなどでは認められず 米研究者のメタアナリシス |
アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)(降圧剤)を使用することでがんリスクを上昇させるというメタアナリシスの結果を,米ケースウェスタンリザーブ大学のIlke Sipahi氏らが報告した。特に肺がんでは新規発症リスクが25%上昇していたが,乳がんや前立腺がんなどでは有意なリスク上昇が認められなかったという。ただし,同氏らは注意を払いながらARBを使用し続けるよう求めている。 RCT 9件,9万例を解析 Ilke氏らは,2009年11月以前にMedline,Scopus,Cochrane Central Register of Controlled Trials,Cochrane Database of Systematic Reviews,米食品医薬品局(FDA)公式サイトに掲載されたARBに関する論文を対象に,検討を行った。対象論文は,患者100人以上のARB投与群が1つ以上あり,1年以上のフォローアップが行われたランダム化比較試験(RCT)に限定されている。 9試験9万4,570例から新規がん発症は6万1,590例分(5試験),固形がんは6万8,402例分(5試験),がん死に関しては9万 3,515例分(8試験)のデータが得られた。各試験で使用されたARBは,米国で認可されているテルミサルタン,ロサルタン,カンデサルタン,イルベサルタン,バルサルタン,オルメサルタン,eprosartanの7剤で,新規発症がんデータでは85.7%の患者にテルミサルタンが投与されていた。 その結果,新規がん発症リスクは対照群に比べARB投与群で有意に上昇。あらかじめがんをエンドポイントに設定していた試験に限定すると,リスクはさらに有意に上昇した。 自己判断で服用中止しないで 米クリーブランド・クリニックのSteven E. Nissen氏は,「患者は自己判断でARBの服用を中止してはいけない。自身の症状と状況を考慮し,ARBのリスクとベネフィットについて医師と相談すべきだろう」とコメント。Ilke氏らも,注意を払いながらARBを使用し続けるようアドバイスしている。 関連記事:“ARB発がん問題”に専門家が見解「服用中止すべきでない」 東大・山崎力氏,自治医大・苅尾七臣氏らに聞く Medical Tribune 2010-6-17 ![]() |
1日4杯以上の紅茶が結腸がんと関係 |
1日4杯以上の紅茶の摂取が結腸がんのリスクと関係すると,米ハーバード大学のグループが発表した。 コーヒー,紅茶,加糖炭酸飲料の摂取と結腸がんの関係は十分には明らかにされていない。同グループは,13件のコホート研究のプール解析を行い,コーヒー,紅茶,加糖炭酸飲料の摂取と結腸がんとの関係を検討した。登録者数は計73万1,441例で,6〜20年の追跡で5,604例が結腸がんを発症した。 解析の結果,コーヒーを飲まない群と比較した1日6杯以上群の多変量補正後の相対リスクは1.07で有意ではなかった。一方,紅茶を1日4杯以上飲む群の相対リスクは1.28で有意だった。加糖炭酸飲料を1日550mL以上飲む群の相対リスクは0.94で有意ではなかった。 観察された関係に性,喫煙習慣,アルコール摂取,BMI,身体活動度,結腸がんの部位による違いは見られなかった。 Medical Tribune 2010-6-17 ![]() |
MUC1ワクチン マウスで炎症性腸疾患と結腸がん発症を抑制 |
ピッツバーグ大学免疫学のOlivera J. Finn教授らは,大腸がんなどで発現している異常蛋白を標的としたワクチンを用いた実験を行い,同ワクチンが炎症性腸疾患(IBD)の発症を遅らせる可能性があることを示した。これは,大腸がんへの進行も防止できることを意味する。 マウスIBDモデルに接種 Finn教授によると,IBDなどの慢性炎症性疾患では炎症部位ががんに進行するリスクが高く,また,がん化を引き起こす遺伝子が炎症を誘発することもある。同教授らが作製したワクチンは,MUC1と呼ばれる糖蛋白を標的にしている。IBDや大腸がんでは,このMUC1が過剰に発現しているという。 同教授は「今回の実験結果は,疾患の早期にこの蛋白質に対する免疫をブーストすればIBDの発症を遅らせ,炎症を制御することで,将来のがん化リスクを減少させうることを示している」と述べ,「慢性的炎症の早期段階は,前がん状態と考えてよいのかもしれない」と指摘している。 同教授らは今回,このワクチンをトランスジェニックマウスに接種した。これらのマウスはIBDを自然に発症し,発症したIBDはその後大腸炎関連大腸がんに進行する。この際,IBDと大腸がんの両疾患でヒト型MUC1が産生される。実験の結果,ワクチン接種されたマウスでは,ワクチン接種されなかった2つの対照群のマウスよりも,IBDの最初の徴候が有意に遅く発現した。 大腸組織を顕微鏡で検査した結果,ワクチン接種を受けたマウスでは炎症が軽く,がん化も見られなかった。一方,対照群では各群のほぼ半数のマウスの組織に異常が認められ,2匹には結腸がんが認められた。 この実験的ワクチンは,結腸がん患者と膵がん患者を対象に臨床試験が実施されたほか,現在は結腸がんの高リスク患者を対象に同がんの予防効果が試験されている。今回の研究により,この実験的ワクチンは将来,IBDに対する治療法の候補の1つになるかもしれない。 Medical Tribune 2010-6-17 ![]() |
低リスクの場合,待機療法による前立腺がん死亡率は3%以下 スウェーデンの観察研究における根治療法との比較から |
スウェーデンのUmea UniversityのPr Stattin氏らは低リスク前立腺がん患者に対する待機療法(active
surveillance,watchful waiting)の同がん特異的10年累積死亡率は3%以下であったとの観察研究の結果を報告した。同氏らは「こうした患者の多くでは待機療法が適切ではないか」と結論付けている。 待機療法群の2.4%に対し,治療群では0.7% この研究は同国内のがん登録コホートと死因登録を利用し実施された。Stattin氏らは,病期分類や前立腺特異抗原(PSA)値を含む現代の集団ベースコホートを対象とした初のアウトカム試験ではないかとしている。 スウェーデン国内の前立腺がん登録システムから,1997〜2002年における70歳未満の限局性前立腺がん患者6,849例が同定された。これらT1〜2,Gleason score 7以下,血清PSA値20ng/mL以下の低〜中等度リスクの早期がん患者を,待機療法群(N=2,021),根治を目的とした全摘術を受けた群(N=3,399),放射線療法群(N=1,429)に分け,それぞれの死因によるリスクを解析した。死因ならびに死亡時期は同じく国内の登録システムから同定された。 解析の結果,待機療法群における前立腺がん特異的累積10年死亡率は3.6%,治療群における同死亡率は2.7%であった。 同氏らは,対象となった60〜70歳代の男性の平均的な期待余命に相当する15年以上の追跡が必要としながらも「低リスク前立腺がん患者では待機療法による同がん特異的10年死亡率が3%以下ということが示された。つまり,こうした症例の多くでは待機療法が適切なのではないか」と結論を述べている。 Medical Tribune 2010-6-21 ![]() |
携帯電話基地局の高周波電磁波,妊婦でも大丈夫 英研究,乳幼児期の小児がん発症に関連せず |
高周波電磁波による人体への影響はいまだ不明であるが,小児は成人と比べて被害を受けやすいことが考えられるため,英国では携帯電話システムによる小児の電磁波曝露を最小限にすることが推奨されている。そんななか,英インペリアルカレッジ・ロンドンのPaul Elliott氏らは,携帯電話基地局から発する電磁波への妊婦の曝露レベルと,出生後の小児がん発症リスクを調べ,両者に関連はなかったと発表した。 全がん,白血病,脳腫瘍のいずれでも有意な傾向が認められず 1996〜2001年に,脳および中枢神経系腫瘍,白血病,非ホジキンリンパ腫を発症した0〜4歳の小児1,397人が研究対象となった。また,1例につき性と誕生日がマッチした4人がコントロール群(5,588人)として,英国の公的誕生記録から登録された。 同時に,同じ時期の携帯電話基地局7万6,890のデータを収集。電磁波への曝露レベルは,(1)児の出生地から最も近い基地局からの距離,(2)電磁波の出力密度は一般的にグラウンドレベルで200〜500mでピークになることから,700m以内にある全ての携帯電話基地局の総出力(kW),(3)1,400m以内の携帯電話基地局に関して電磁波伝搬モデルを用いて算出したモデル出力密度(dBm)―の3つの項目で評価した。 調整因子は,教育レベル,社会経済的貧困,人口密度,人口構成の小地域指標とした。 全ての因子で補正後,モデル出力密度が中程度,および高いカテゴリーを最も低いカテゴリーと比較したときの全がん発症の補正オッズ比は 1.01で,携帯電話基地局から発する電磁波への妊娠中の曝露と小児がんの発症に有意な関連は見られなかった。 英オックスフォード大学小児がん研究グループのJohn Bithell氏は,付随論評で,「医師は,妊婦を安心させるべきであり,現在のエビデンスではコストやストレスをともなう引っ越しは正当化できない」とコメントしている。 Medical Tribune 2010-6-23 ![]() |
臓器や器官を適切な大きさに調節するHippo-Kibra系を発見 |
ヒトの臓器はどのようにして適切な大きさに調節されているのか。ジョンズホプキンス大学分子生物学・遺伝学のDuojia
Pan教授の研究グループは「細胞増殖を調節することにより臓器の形状や大きさを決定するHippo経路と呼ばれるシグナル伝達経路では,Kibraと名付けられた蛋白質がその役割の一部を担っているようだ」と発表した。この発見は,がんの制御手段を探るうえで手がかりとなるかもしれないとしている。 ブレーキシステムを担う経路 Pan教授らは今回,一連の実験を行い,Hippo経路でKibraが果たす役割について検討した。Kibraはショウジョウバエの眼から発見された蛋白質である。 Hippo経路はいくつかの蛋白質から構成され,全体はブレーキシステムとして機能している。同教授らによると,ハエに見られるHippo経路の構成要素と同様のものは,ほとんどの動物でも見つかっていることから,この経路が臓器の大きさの包括的調節因子として作用していることが示唆された。 研究グループは2003年,Hippoを発見し,この遺伝子のコピーに異常が生じると,ショウジョウバエの眼が普通より大きく成長することを明らかにした。この2年後,Hippoがシグナル伝達カスケード中に存在することを突き止めた。 このカスケードが伝達する「増殖の中止命令」は,蛋白質の生化学的な分子経路に沿って伝達される。この分子経路は,細胞分裂や細胞生存を促進する遺伝子の発現を制限しているという。 2007年,同グループはマウス肝中で同経路を操作する実験を行い,操作された肝が正常な大きさの5倍に成長すること,そしてこの状態が持続するとがん化することを明らかにした。同教授はこの知見について「がんは増殖を制御できない疾患であるため,Hippo-Kibra系はがんを理解し治療するための重要な要素かもしれない」と述べている。 ヒト細胞でも検討 今回の研究では,成体のハエから採取した卵巣細胞を調べることによりKibraをコードする遺伝子の同定に成功した。その際,RNA干渉と呼ばれる遺伝子制御技術を用いて,ハエ培養細胞中でハエゲノムに含まれる約1万4,000の遺伝子を1つずつ系統的に阻害する手法で,この遺伝子にたどり着いた。 次に,特殊なディスクを使った実験により,ハエ幼虫でKibraの機能を解析した。ハエの眼は,約30〜40個の細胞から発生する。これらの細胞は幼虫段階では約1,000倍に増殖するが,その後増殖は止まり,正常な大きさに保たれる。この過程を検討することにより,Hippo経路はKibraがなければ活性化しないことが明らかになった。 さらにPan教授はヒト細胞でも研究を行った。ヒトKibra操作ごとにHippo経路の活性を測定することで,ヒトKibraもハエKibra と同様にHippoシグナルを調整する腫瘍抑制蛋白質として働くことが明らかになった。 Medical Tribune 2010-6-24 ![]() |
母乳中の分子ががん細胞を死滅 |
イェーテボリ大学(スウェーデン)化学部門のRoger Karlsson博士らは,人工生体膜を用いた研究を行い,「母乳中の分子ががん細胞と相互作用し,死滅させる機序を突き止めた」と発表した。 結合により細胞膜の形態が変わる 腫瘍細胞に致死的なヒトα-ラクトアルブミン(Human Alpha-lactalbumin Made LEthal to Tumour cells;HAMLET)と呼ばれる物質が母乳中に存在することは,数年前に確認されていたが,ヒトで試験が行われたのは最近のことである。それによると,膀胱がん患者にHAMLETを投与したところ尿中に死滅したがん細胞が排泄されたことから,HAMLETを用いてがん治療薬を開発できるのではないかという期待が高まっている。 HAMLETは母乳の抗菌作用を研究中に偶然発見され,その後の研究で母乳中に含まれるα-ラクトアルブミンと脂肪酸(オレイン酸)の複合体であることがわかった。また,40種類ものがんを死滅させることがわかっており,現在,皮膚がん,粘膜の腫瘍,脳腫瘍で研究が進められている。重要なのは,HAMLETががん細胞のみを死滅させることである。 Karlsson博士らは,腫瘍細胞にHAMLETが取り込まれる機序について検討し,それには脂肪酸が必要なこと,さらにHAMLETが結合すると,細胞膜が変形することを突き止めた。 Medical Tribune 2010-6-24 ![]() |
“ARB発がん問題”に専門家が見解「服用中止すべきでない」 東大・山崎力氏,自治医大・苅尾七臣氏らに聞く |
アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)使用で発がんリスクが25%上昇するという論文が,Lancet
Oncology6月14日オンライン版に掲載された(関連記事)。同検討の新規がん発症データでは85.7%がテルミサルタン使用者だったが,この点についてテルミサルタンの販売メーカーである日本ベーリンガーインゲルハイムはアステラス製薬と連名で,6月14日に公式サイトで反論を発表した。 この“ARB発がん問題”について,MT Proでは東京大学大学院臨床疫学システム講座教授の山崎力氏,自治医科大学循環器内科学主任教授の苅尾七臣氏ら専門家3人を取材。3氏はともに「いますぐARB服用を中止すべきでない」との見解を示している。 ARB全体の問題となる可能性も Lancet Oncologyに掲載された論文は,LIFE,ONTARGET,TRANSCEND,PRoFESSなどのランダム化比較試験(RCT)9試験,9万4,570例を対象に検討したメタ解析。このなかで,新規がん発症リスクはARB投与群7.2%,対照群 6.0%と有意に高まり,固形がんの発症リスクは新規肺がんのみがARB投与群で25%有意に上昇していた。 今回のメタ解析について,山崎氏は「薬剤の効果を検討するにはRCTのほうが適しているが,有害事象のシグナルを抽出するには全数調査で見るほうがよい。ARBは何千万人もの患者が使用しており,数十万人規模のコホートがあるはず。今回のメタ解析の対象となった症例は,RCTとしては大規模かもしれないが,有害事象のシグナルを検討するコホートとしては決して大きいとは言えない」との見解を提示。さらに,試験方法についても「試験期間が数年と短いほか,著者にとって都合のよいことのみを解析し,発表している可能性がある。研究を読み解く際には,こうした限界点にも着目すべきだろう。また,他の製薬会社の援助を受けていることから,その意向が反映されていることも考えられる」とした。 結果については「相関しているからには理論があるべきだが,その理論への説明がなく,確立できるレベルにはない。ただし,今回の結果を否定しているわけではなく,可能性はあると思う。大きなシグナルなので,これをもとに追加試験で検証していく必要があるだろう」と述べ,Lancet Oncologyの付随論評で米クリーブランド・クリニックのSteven E. Nissen氏が論じていたように,患者の自己判断で服用を中止しないよう求めた。 新規がん発症データの85.7%がテルミサルタン使用者だった点について,山崎氏は「テルミサルタンが保険適用を取得するためのデータが米食品医薬品局(FDA)に集積されていたというだけではないか。もし,今回の結果が事実ならば,ARBすべてにかかわることになる」と述べた。このことについては,苅尾氏も「問題になるとすれば,テルミサルタンに限ったことではないだろう」としている。 なお,日本ベーリンガーインゲルハイムとアステラス製薬による反論の補足で「ONTARGET,TRANSCENDで実薬群とプラセボ群で有意差がなく,PRoFESSでプラセボ群がテルミサルタン群よりも悪性腫瘍事例が増加した」などとの表記があったが,山崎氏は「いずれの試験も95%CIが 1.0を含んでいるため,この表記はおかしい。『すべての試験で有意差がなかった』もしくは『TRANSCENDでは実薬群が悪い傾向,PRoFESSでは実薬群がよい傾向』とすべき」と指摘した。 引用文献の機序も仮説の域を出ていない 東京大学大学院臨床疫学システム講座准教授の小出大介氏は,薬剤疫学の専門家として「今回の結果自体の内的妥当性および信頼性は高い」としつつ,各対象論文で年齢,性,喫煙率が異なる点が影響している可能性を指摘。「対象論文を60件から9件に絞り込んだ方法が明確でないため,著者が意図的に選んでいる可能性は否定できない」と述べた。 同氏は「ARBへの曝露が多いほどがんの発生率が多いかは,今回の解析からはわからない。また,非臨床試験で発がん性が確認されておらず,著者が示す引用文献の機序も仮説の域を出ていない」とし,今後の長期観察研究で同じ結果が得られるのかを検討する必要性を訴えた。 さらに,医薬品の適正使用にはリスクとベネフィットのバランスを考慮する必要があるとしたうえで,「今回示されたARBのがんとの関連性はわずかで,著者たちもその結果のみで結論付けられるものではないとしている。そのリスクのさらなる検証とともにベネフィットとのバランスのうえで,注意を持って薬剤の適切な選択を心がけていただきたい」と呼びかけた。 日常診療へのインパクトは低い 一方,苅尾氏は「標準的な方法にのっとってきちんと解析しており,無視できない結果だと思う」と今回のメタ解析を評しつつ,「相対リスクはがん患者で25%だが,絶対リスクは実薬群7.2%,プラセボ群6.0%とわずかな差しかない。生涯リスクでも40%上昇のみ。偶然に出た可能性があり,日常診療におけるインパクトとしては少ないだろう」と,結果をそのまま受け止めることには懐疑的な見解を示した。心血管リスクが抑え込まれた状況で,がん発生率がより鮮明に出てしまった可能性もあるともしている。 また同氏は,がん発生を1次評価項目に設定したメタ解析ではない点を指摘。追跡期間が短いことからも,通常のメタ解析よりエビデンスレベルは低いとした。さらに,肺がんのみで25%上昇という結果が出たことについては「肺がんは検出感度が高いが,前立腺がんや乳がんは出にくい」と述べている。 メーカーに対しては「対象コホートを追跡していく必要がある。今後5年間はこのリスクの25%差が広がるのか縮まるのかのデータを出し続けていかなければ,今回の結果を払拭することはできないだろう。仮説が投げかけられたわけだから,10年間ほど長期フォローするしかない」と述べ,がん死率(今回の検討では有意差なし)についても検証していくことを求めた。これに加え,がんをスクリーニングしているプログラムでARB,ACE阻害薬も含めた大規模観察研究の実施も提言している。 これらを踏まえたうえで,同氏は「今回の結果は偶然出た可能性があり,今後の検証を経て払拭されていくだろう。臨床では,注意して見ていかなくてはならないが,現段階では日常診療を変更するほどのインパクトはなく,ARBの服用を中止する必要はない」と結論した。 Medical Tribune 2010-6-29 ![]() |