広葉樹(白) 
          

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2010年5月 文献タイトル
糖尿病のあるがん患者は手術後の早期死亡率が高い
ニンニクの抗がん作用を新開発の尿検査で確認
肥満は結腸がんの予後不良に関連 死亡・再発リスクが高い
閉経女性で最も有効 MRIによる対側乳がん検査
肥満と多量飲酒で肝疾患リスク増加
野菜・果物の摂取によるがん予防効果はそれほど大きくはない
飲酒量が増えると食事の質が低下
乳がんのリンパ節転移診断 磁性ナノ粒子を利用した分子イメージングに期待
紅茶で結腸がんリスク上昇? 1日4杯以上で1.28倍に コーヒー,ソフトドリンクでは上昇せず
携帯電話と脳腫瘍のリスク,世界最大規模の国際共同試験で否定
ビタミンAが標準的治療の抗ウイルス効果を増強
典型的な過敏性腸症候群では大腸内視鏡検査は不要
外食産業が危険な汚染物質を排出
乳房切除患者で低い施行率 乳がん術後の補助放射線療法
喫煙,過剰飲酒など4つの不健康習慣の集積で死亡リスクが大幅上昇
サメ軟骨の肺がんに対する米国の第III相試験,有効性証明されず

糖尿病のあるがん患者は手術後の早期死亡率が高い
 糖尿病患者は糖尿病のない患者と比べがん手術後の早期死亡率が高いと,米ジョンズホプキンス大学のグループが発表した。

 糖尿病は一部のがんのリスクを高めることが示唆されている。しかし,糖尿病がその後に発症したがんの術後死亡率にどのような影響を及ぼすかは明らかにされていない。同グループは,2009年7月1日までに医学データベースに報告された論文を検索。糖尿病の有無とがん手術後の死亡率との関係を検討した15研究を対象にメタ解析を行った。

 その結果,糖尿病患者は糖尿病のない患者と比べ,すべてのがんにおける術後早期の死亡リスクが1.85倍と有意に高かった。この関係は,交絡因子などを補正後も有意であった。

Medical Tribune 2010-5-6

ニンニクの抗がん作用を新開発の尿検査で確認
 これまでの研究から,ニンニクに含まれる化合物が体内のニトロソ化と発がんを抑制することが示唆されている。オハイオ州立大学ヒト栄養学と同大学総合がんセンターのEarl Harrison教授らは,尿中サンプルからニンニク摂取量と,発がんプロセスの指標となる化合物を同時に測定できる検査法を開発した。小規模パイロット研究を行った結果,この検査でニンニクの摂取量が多いほど発がんプロセスが抑制されることが示された。
 
2種類の化合物が逆相関

 Harrison教授らは今回,発がんプロセスであるニトロソ化について検討した。ニトロソ化には窒素含有化合物が関与しており,同経路では,食品中や汚染された飲料水中の物質が発がん物質に変化する。

 今回の小規模研究はペンシルベニア州立大学を拠点に行われた。

 同教授らは,ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて,尿中からニトロソ化の指標となるN-ニトロソプロリン(NIPRO)と,ニンニクに含まれる成分の代謝産物であるN-acetyl-S-allylcysteineを測定し,ニンニク摂取がニトロソ化,すなわちNIPROの発生を阻害するか否かを検証した。

 その結果,この2種類の化合物は逆相関を示し,ニンニク摂取レベルが高いほど,がんリスクマーカーレベルは低かった。

ビタミンCと同等の効果に期待

 Harrison教授は今回の研究について「われわれは,がんリスクの指標となる化合物とニンニク摂取の程度を示す化合物を同時に測定する方法を模索してきたが,今回の研究では,開発した方法を用いて同化合物同士の関連を示すことができた。最終的には,ニンニクによる栄養的介入によって,発がん過程を抑制しうるか否かを調べたい」と今後の展望にも言及している。

 発がん物質の発生過程であるニトロソ化は,加工肉や高温調理,工業・農業による汚染水に由来する硝酸塩への曝露から始まる。経口摂取する硝酸塩の約20%は亜硝酸塩に還元され,一連の過程を経てニトロソアミンと呼ばれる化合物が発生する。ニトロソアミンの大半が発がんに関与する。

 これまでの研究では,ビタミンC(アスコルビン酸)にニトロソ化を抑制する作用が認められている。今回の研究では,3〜5gのニンニクサプリメントが,0.5gのアスコルビン酸に相当する抑制効果を示したことから,同教授らはニンニク中の栄養素にビタミンCと同様の抗酸化作用があると期待している。

Medical Tribune 2010-5-6

肥満は結腸がんの予後不良に関連 死亡・再発リスクが高い
 メイヨー・クリニック内科学・腫瘍学のFrank A. Sinicrope教授らは「肥満の結腸がん患者は,正常体重の患者に比べ死亡と再発リスクが高い」との研究結果を発表した。
 
男性で死亡リスクが35%高い

 米国では毎年約15万人が新たに結腸がんと診断されており,男女比はほぼ同等である。また,多くの研究により,肥満が結腸がんの独立した危険因子であることが示されている。

 しかし,多くの肥満患者は,肥満ががんに関連するリスクであることを認識していない。米国がん研究所(AICR)の最近の研究結果によると,肥満とがんの関連を知っているのは研究参加者の51%にすぎなかった。

 肥満は全生存率の悪化と有意に関連し,分析対象とされた他の変数とは独立していた。予後は女性より男性で悪く,BMIの最高カテゴリーの男性は正常体重の患者に比べて死亡リスクが35%高かった。女性で影響が小さかったが,これは肥満女性では肥満男性に比べて結腸がんの発症リスクが低いことを示す先行研究と一致している。

Medical Tribune 2010-5-6

閉経女性で最も有効 MRIによる対側乳がん検査
 メイヨー・クリニック放射線腫瘍学のJohnny Ray Bernard Jr.博士らは「新規の乳がんが片側乳房に発見された閉経女性(70歳超含む)では,MRIで対側乳がんが検出される率が閉経前女性より高い」との研究結果を発表した。
 
医療費や患者のストレスを軽減

 研究主導者のBernard Jr.博士らは,対側乳がんのMRIによる検出率を調べるために,乳房視触診やマンモグラフィで片側乳房にしかがんが発見されていなかった女性425例に MRI検査を実施し,そのデータを後ろ向きに検討した。

 その結果,女性の3.8%で対側乳房(最初にがんが発見されなかった側の乳房)にがんが発見された。これらの女性はすべて閉経女性だった。

 また,対側乳房にがんが検出される率が若年患者に比べ高齢患者で高く,70歳以上の患者129例の5.4%にMRIで対側乳がんが検出された。

 両側乳房のがんを同時に検出できた女性では,両側の乳がんを同時に治療できるため,2番目の乳がんを遅れて治療しなければならない場合と比べて医療費,患者のストレス,治療による有害作用も軽減される。

 同博士は「乳がんリスクは加齢とともに増加するため,今回の結果は驚くには及ばない。健康状態の良好な高齢女性では,早期発見で恩恵が受けられる可能性がある。そのため乳がんの診断を受けたすべての閉経女性は,がんと診断されていないほうの乳房についてMRI検査を受けることを検討すべきだ」と述べている。

Medical Tribune 2010-5-13

肥満と多量飲酒で肝疾患リスク増加
 グラスゴー大学(英)公衆衛生保健政策学科のCarole L. Hart博士らが発表した研究から,男女双方で肥満とアルコールがともに作用すると肝疾患リスクが高まることがわかった。
 
アルコール量で絶対リスク増

 英国では肝疾患と肥満の発症率が増加している。アルコールは肝硬変の主因であるが,最近のエビデンスは過体重も重要な役割を果たすことを示している。

肥満との相乗作用で影響増大

 Hart博士らの研究では,スコットランドで男性9,000例超を平均29年間追跡し,肝疾患に対するBMIと飲酒の複合的影響を調べた。

 BMIと飲酒のいずれも肝疾患に関連したが,さらに重要な点として,高BMIと飲酒の組み合わせによる作用は2要因それぞれの影響を加算した場合より大きかった。

 例えば,週に15単位以上飲酒する肥満男性では,標準または標準以下の体重の非飲酒の男性と比べて肝疾患リスクは約19倍高かった。同博士らは,過体重の人に向けて,BMIを基準とした少なめの飲酒(安全限度)を定める必要があるとしている。また「アルコールの購入を制限する,あるいは身体活動を増やすなどの予防対策も必要である」と述べている。

 今回のいずれの研究も,公衆衛生の観点から,過度の飲酒と過体重をともに減らすための戦略が肝疾患の発症率低減につながると結論付けている。

Medical Tribune 2010-5-13

野菜・果物の摂取によるがん予防効果はそれほど大きくはない
 野菜・果物を多く取ることで得られるがんの予防効果は考えられているほど大きくはないようだと,欧州の共同研究グループが発表した。

 野菜と果物を多く摂取することでがんが予防できるのではないかと考えられている。しかし,多くの試験結果は一致していないため,野菜・果物の摂取とがんのリスクとの負の相関関係は確立されていない。

 今回の報告は,欧州で実施されたがんと栄養に関する大規模疫学研究(EPIC)に基づくもの。登録数は男性が14万2,605例,女性が33万 5,873例で,中央値8.7年の追跡で男性9,604例と女性2万1,000例にがんの発症が認められた。1,000人年当たりのがん粗発症率は男性が 7.9,女性が7.1であった。

 解析の結果,1日の野菜と果物の総摂取量が200g多い場合と1日の野菜の総摂取量が100g多い場合のがんのリスク低下はほぼ同等で,ハザード比(HR=危険率)はそれぞれ0.97,0.98であった。1日の果物の総摂取量が100g多い場合のがんのリスク低下はさらに小さかった(HR 0.99)。野菜の高摂取と関係するがんのリスク低下は女性に限られていた(HR 0.98)。

Medical Tribune 2010-5-13

飲酒量が増えると食事の質が低下
 米国立アルコール乱用・アルコール依存研究所(NIAAA)疫学・予防研究部のRosalind A. Breslow博士らは「飲酒量の多い人ほど果物の摂取量が少なく,またアルコール飲料と脂肪や糖類の含有量が多い食品を同時に摂取するため,摂取カロリーも多くなる」との研究結果を発表した。
 
飲酒増で健康食事インデックス(HEI)スコアが低下

 1万5,000人を超える米国の成人を対象としてNIAAAと米国立がん研究所(NCI),米農務省(USDA)の研究者らが実施した今回の研究から,アルコール飲料の摂取量の増加と食事の質の低下との間に関連性があることが明らかになった。

 NIAAA所長代行のKenneth R. Warren博士は「多量飲酒と食事の質の低下は,それぞれ独立して心血管疾患,ある種のがん,および慢性的な健康問題と関連がある。今回の研究結果から,多量飲酒と健康に悪い食生活の組み合わせが,相互に作用して健康を害するリスクをさらに高めることが明らかになった」と述べている。

 Breslow博士らは,米連邦保健福祉省(HHS),米疾病管理センター(CDC)が実施中の米国母集団の横断的サンプル調査である米国保健栄養調査(NHANES)の参加者から回収したデータを解析した。データには飲酒に関する情報と健康食事インデックス(HEI)-2005スコアを組み入れた。HEI-2005スコアはUSDAが作成したもので,食事の内容が「米国人のための食事指針(2005年)」にどの程度適合しているかが判定できる。

 同博士は「今回の研究から,アルコール飲料の摂取量が増えるとHEIスコアが低下することがわかった。HEIスコアの低下は,食事の質が低下していることを示している。アルコール飲料の多量摂取がHEIスコアを下げる原因については,今回の研究では明らかにされていない」と述べている。

多量飲酒者は健康によい食品選択を

 Breslow博士らは以前の研究で,飲酒量が最大のグループでは食事の質が最も悪いことを明らかにしている。

 今回の研究では,健康に悪い食事成分を特定することができた。具体的には,男性と女性の双方において果物の摂取量が低下し,カロリー摂取量が上昇することがわかった。また,男性では,アルコール飲料の摂取量の増加と全粒粉や牛乳の摂取量の低下との間にも関連が認められた。

 今回の研究結果から,同博士は「節度のあるアルコール飲料の消費と,多量飲酒する人は健康によい食品選択を心がけることが重要である」と述べている。

 「米国人のための食事指針(2005年)」では,中等度の飲酒を女性で1日1杯以下,また男性で1日に2杯以下と定義している。

 十分量のビタミン,ミネラル,食物繊維が得られ,比較的カロリーが低い果実や全粒粉などの栄養価の高い食品を摂取する一方,カロリーは得られるが必須栄養素が少ないアルコール,健康によくない脂肪と糖類の摂取を制限することが重要である。

Medical Tribune 2010-5-13

乳がんのリンパ節転移診断
 磁性ナノ粒子を利用した分子イメージングに期待
 近年,乳がんではセンチネルリンパ節生検を行うことにより,不要な腋窩リンパ節郭清を省略することも可能になってきた。リューベック大学医療工学研究所(独)のThorsten Buzug教授らは,同リンパ節の検索を,従来のラジオアイソトープの代わりに磁性ナノ粒子を用いて行う方法を研究しており,同法についてドイツ連邦教育研究省(BMBF)発行のNews Letter(2010; 44: 7-8)で説明した。
 
90%で予防的郭清は不要

 ドイツでは,乳がんの新規罹患者は年間5万7,000人以上にのぼる。患者の多くは乳房の完全切除が不要で,70%以上が乳房温存術を受けている。乳房温存術では,腫瘍と腫瘍周囲の正常組織を安全域として切除するが,これまでは,がん細胞がリンパ系を介して転移する可能性を除外するために,予防的に腋窩の全リンパ節を切除していた。しかし,腋窩リンパ節郭清は手間と費用がかかるうえ,後遺症の原因ともなっていた。

 Buzug教授は「腋窩リンパ節郭清は,重度の合併症を来す可能性があり,むくみや疼痛に苦しむ患者も多い。それにもかかわらず,予防的にリンパ節郭清を行った乳がん患者の約90%では,がん細胞のリンパ節転移は確認されていない。つまり,このような患者ではリンパ節の全切除は必要なかったと言える」と指摘している。

 これを受け,約5年前からより侵襲の少ない治療選択肢として,センチネルリンパ節という特定のリンパ節だけを個別に切除する方法が施行されるようになった。

放射線被曝リスクのない方法

 女性の乳房には数多くのリンパ管が走り,それらは他のリンパ系とつながっている。がん細胞がリンパ液に乗って,腫瘍領域から最初に流れ着くのが,センチネルリンパ節である。同リンパ節にがん細胞が見つかった場合には,既に周辺のリンパ節にも転移している可能性が高く,その一方でがん細胞が認められない場合には,ほとんどの患者で,残りの腋窩リンパ節の切除を省略することができる。このように,センチネルリンパ節生検により,他のリンパ節の切除が必要か否かを判別することができる。

 乳房と腋窩にある多数のリンパ節のなかからセンチネルリンパ節を見つける方法について,Buzug教授は「現時点では,核医学の専門医が術前に探し当てることが多い」と説明している。

 同法では,腫瘍の近くに注入したラジオアイソトープが,乳房のリンパ管を通って最初に到着するリンパ節をセンチネルリンパ節とする。同教授はこの現状について「このような放射線を用いる方法では,放射線科の設備が完備されている病院でしか同リンパ節の決定と摘出を実施できない」と述べている。

 そこで,今後期待されているのが,ラジオアイソトープの代わりに,磁性を帯びた微粒子,いわゆるナノ粒子を用いてセンチネルリンパ節を決定する磁性ナノ粒子イメージング(Magnetic Particle Imaging;MPI)である。MPIでは,磁性ナノ粒子を乳がん患者の腫瘍内または腫瘍周囲に注入する。従来のラジオアイソトープと同様,磁性ナノ粒子はセンチネルリンパ節に集まるため,注入後に体外から磁場を加えて画像を得る。

 同教授はMPIの利点について「放射線被曝のリスクもなく,術中にセンチネルリンパ節を確実に決定し,迅速かつ正確に摘出することができる」と説明。「今後の目標は,このMPIを用いて,より多くの乳がん患者にセンチネルリンパ節切除の機会を与えることだ」としている。

 Buzug教授らはこの目標に向けて,現在,新型のMPIスキャナの開発に携わっている。シュレースウィッヒ・ホルシュタイン州立大学病院婦人科(リューベック)と共同で試験を行っており,従来の核医学的方法と比べてセンチネルリンパ節の決定,摘出の質が向上し,同時に費用も抑えられるか否かを検討している。

Medical Tribune 2010-5-13


紅茶で結腸がんリスク上昇? 1日4杯以上で1.28倍に
コーヒー,ソフトドリンクでは上昇せず
 抗酸化作用や生活習慣病予防など,さまざまな健康作用が喧伝されている紅茶。ポリフェノールによる結腸がん抑制作用がうたわれることも少なくないが,米ハーバード公衆衛生大学院のXuehong Zhang氏らが発表した研究によって,紅茶を含むお茶を1日4杯以上飲む群で,飲まない群に比べ結腸がんリスクが1.28倍に上昇することが明らかになった。同じくポリフェノールを含むコーヒーでもソフトドリンクとともに同様の検証を行ったが,これらでは結腸がんリスクの上昇が認められなかったという。

動物実験とは異なる結果に

 Zhang氏らは,北米と欧州で行われた前向きコホート研究13件の参加者73万1,441人(男性23万9,193人,女性49万2,248 人)を対象に,コーヒー,お茶,加糖炭酸飲料の摂取と結腸がんリスクとの関係を検討した。6〜20年追跡した結果,全体の結腸がん発症数は5,604例だった。

 同氏らは「動物実験ではお茶による結腸がん抑制効果が示されていたが,ヒトの研究では異なる結果が出た」としつつ,偶然の影響を受けた可能性を指摘。さらなる研究の必要性を訴えた。なお,今回は対象者にお茶の種類を尋ねてはいないが,同氏らは「紅茶は西側諸国で消費されるおもなお茶」とし,対象のほとんどが紅茶であることを示唆している。

Medical Tribune 2010-5-14

携帯電話と脳腫瘍のリスク,世界最大規模の国際共同試験で否定
 国際共同研究グループINTERPHONE Study Groupが,約10年にわたる携帯電話の使用で脳腫瘍の発症リスクは増加しないとの世界最大規模のケースコントロール試験の結果を発表した。これを受けて,昨日(5月17日),世界保健機関(WHO)や米食品医薬品局(FDA)は一斉にリリースを発表した。

5〜10年の通常の使用ではリスク上昇せず

 同試験の参加国はオーストラリア,カナダ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,イスラエル,イタリア,ニュージーランド,ノルウェー,スウェーデン,英国,そして日本の13か国。WHOによると,多数の脳腫瘍患者を組み入れた,携帯電話の長期にわたるヘビーユーザーを含むケースコントロール試験は初だという。

 同試験では,2000〜04年に脳腫瘍(グリオーマ,髄膜腫)と診断された患者5,117例と年齢,性,居住地域などをマッチングしたコントロールに対し,面談により携帯電話の使用状況などを調査。この5〜10年の間に携帯電話の使用率が最も高いと思われる30〜59歳が対象年齢とされた。

 研究グループは以上の結果から「全体的に見て携帯電話の使用によるグリオーマ,髄膜腫のリスク増加は見られなかった」と結論,さらに長期の影響については引き続き検討が必要であるとした。

 FDAは同研究の結果について「携帯電話の長期使用における脳腫瘍のリスクはほぼないとのエビデンスが示された」と評価しながらも,引き続き長時間の使用を避ける,通話時のスピーカーモード,ヘッドセット使用により頭部と携帯電話の距離を保つことを勧告している。

Medical Tribune 2010-5-18

ビタミンAが標準的治療の抗ウイルス効果を増強
 慢性C型肝炎に対する現在の標準的治療は,ペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリンの併用である。しかし,同治療によっても持続的ウイルス陰性化(SVR)を得られない症例は多く,その対策が課題となっている。島根大学の佐藤秀一氏らは,標準的治療にレチノール(ビタミンA)を併用すると,HCVの早期陰性化率およびSVR率が著明に改善されることが,前向きの予備試験の結果として示されたと報告した。

48週間追加投与の効果と安全性を検討

 佐藤氏らはこれまで,in vitroでレチノールが肝がん細胞のIFN受容体を増やし,IFN活性を高めることを報告している。また,PEG-IFN/リバビリン併用療法にレチノールを短期間追加投与すると,IFNの抗HCV効果が高まる一方で,安全性には問題のないことを見出している。このような結果を踏まえ,今回,同氏らはレチノールを長期間投与する前向きの予備試験を行った。

 対象は,多施設において2006〜08年に登録された慢性C型肝炎患者41例。医師以外の事務職により,標準的治療群(対照群,21例)とレチノール追加投与群(レチノール群,20例)にランダムに割り付けられた。

 対照群の治療は,PEG-IFN2b週1回筋注と,リバビリン600または800mg毎日1回経口投与の併用で,治療期間は48週間。レチノール群では,これに加えてレチノール3万単位を毎日経口投与した。

治療8週のウイルス陰性化率とSVRが著明に改善

 対照群の平均年齢は59.7歳,男性は13例,平均体重は60.5kg,10例がIFNによる治療歴があり,平均ALT値は78.4IU/mL。レチノール群の平均年齢は52.7歳,男性は11例で,平均体重は60.7kg,6例がIFNによる治療歴があり,平均ALT値は80.3 IU/mLであった。

 治療開始後8週におけるHCV RNA陰性化率は,対照群の23.8%(21例中6例)に比べ,レチノール群では60%(20例中12例)と有意に高かった。

 SVRも対照群の43%(21例中9例)に比べ,レチノール群では65%(20例中13例)とやはり高かった。

 両群間で無反応症例および治療中断症例の割合に差はなかった。また,レチノール群で,レチノール追加投与によると考えられる有害事象は認められなかった。

 佐藤氏によると,「種々の疾患の治療に,しばしばビタミン類は単独または併用で大量に使用されているが,医学的根拠は希薄であることが多い」という。

 しかし,同氏は「今回の成績は,レチノールを慢性C型肝炎の治療に用いることの医学的根拠を十分に示したものと言え,今後,多くの症例で試みられるべきと考えている」と結論した。

Medical Tribune 2010-5-27

典型的な過敏性腸症候群では大腸内視鏡検査は不要
 ミシガン大学内科のWilliam D. Chey教授らは「典型的な過敏性腸症候群(IBS)はほかに症状がなければ大腸がんやポリープのリスクが高まることはなく,大腸内視鏡検査は不要」との研究結果を発表した。
 
悪性疾患の前兆ではない

 IBSは排便習慣の変化とともに繰り返す腹痛(痙攣)が特徴的な症状で,米国人口の10〜20%が罹患し,患者は男性よりも女性に多い。それにもかかわらず,患者の多くは治療を受けようとしない。

 筆頭研究者のChey教授らは,大腸の内視鏡検査を受けて正常だった健康人とIBS患者を比較し,IBS患者が健康人よりも腸管ポリープ・大腸がん・炎症性腸疾患リスクが高くなるわけではないことを突き止めた。

 今回の研究は,大腸内視鏡検査を受けたIBS患者の検査結果を前向きに検討した研究としては最大規模のものである。

 同教授は「医師も患者もIBSの症状に神経質になり,より悪い疾患が潜んでいると思い込みがちだが,典型的なIBSの症状は重症度の高い疾患の前兆ではない。今回の研究から,医師と患者を安心させる結果が得られた」と説明している。

 Chey教授は「医師としては,潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患や大腸がんが潜んでいることを懸念して,IBS患者に大腸内視鏡検査を実施することが多く,米国で行われる大腸内視鏡検査の約4分の1をIBS患者が占めている。

 今回の研究によって,(1)説明不可能な体重減少や貧血がある(2)消化管出血がある(3)大腸がん・炎症性腸疾患・セリアック病の家族歴がある―といった警告症状がなければ,IBS患者に大腸内視鏡検査を行う必要はないことが明らかになった」と指摘している。

Medical Tribune 2010-5-27

外食産業が危険な汚染物質を排出
 カールトン大学(ミネソタ州)化学科のDeborah S. Gross准教授らは,外食産業が大気に及ぼす影響について研究した結果,外食産業は驚くほど大量の多様な大気汚染物質の発生源で,ヒトの健康と環境に悪影響を及ぼすことがわかったと発表した。
 
高温直火による高脂肪食物の調理で排出量増加

 外食産業の調理プロセスは,家庭での調理と同様に,ガスや固形微粒子を含む大気汚染物質を発生させる。Gross准教授は「おいしそうな香りは食欲を刺激するが,これは調理プロセスから発生する排気煙で,われわれが呼吸する大気中に放出されている」と述べた。

 過去10年間に米国で実施された研究から,料理は家庭での呼吸性粉塵の最大の発生源であることがわかっている。

 同准教授はミネソタ大学のTom Kuehn博士らと共同で,外食産業の調理場では,どのような食物から最も多くのガスが排出されるのか検討した。

 今回の研究では,調理プロセスから発生し鼻腔を刺激する香りの化学的特徴を検討するため,調理中の食品から発生するエアロゾル粒子(固体と液体の小滴)の化学的測定と物理的測定が行われた。

 同大学のキッチン研究室で,外食産業の一般的な調理器具〔ピザはオーブン,ステーキは肉焼き器,ハンバーガーはグリドル(鉄板焼き器),クラムシェルは炭火〕を使用して調理が行われた。

 ガスの排出量は,コンベアーブロイラーでハンバーガーのパテを焼くなど,高温の直火で高脂肪の食物を調理する場合に最大になることがわかった。同博士の過去の研究によると,コンベアーブロイラーで調理されるハンバーガー1,000ポンド(453kg)当たり25ポンド(11kg)のエアロゾル粒子が放出された。

 一方,オーブン調理された同量のペパロニピザからの放出量は,3ポンド(1.4kg)のみであった。また,特定の種類の油の使用は,放出量を増加させる可能性があることがわかった。ピーナツ油を使用して中華鍋で調理されたチキン1,000ポンド当たりの放出量は,45ポンド(20.4kg)に達した。

外食産業のガス排出規制へ

 Gross准教授は「今回の研究では,標準化された実験系で再現すべきポイントの評価が行われ,有用な排出規制の方法が示された。他の測定値と組み合わせると,種々の調理作業により排出されるエアロゾルについて,化学的特徴と物理的特徴を解明することができる。このような排ガスは,空気の質に影響を及ぼすだけでなく,発がん性の化学物質を含んでいる」と述べた。

Medical Tribune 2010-5-27

乳房切除患者で低い施行率 乳がん術後の補助放射線療法
 ミシガン大学総合がんセンター放射線腫瘍学のReshma Jagsi助教授らは「乳がん術後の補助放射線療法は乳房温存術後の施行が一般的だが,乳房切除患者では放射線療法により明らかに生命予後が改善される症例でも,施行率がはるかに低い」との研究結果を発表した。
 
推奨患者の20%で施行されず

 今回の研究では,米国立がん研究所(NCI)のがん登録プログラムSurveillance Epidemiology and End Results(SSER)から,2005〜07年にロサンゼルスとデトロイトの都市部で乳がんと診断された患者2,260例のデータを同定し,乳腺腫瘤摘出(乳房温存)群と乳房切除群に分けて,術後補助放射線療法の施行率を比較した。また,放射線療法が強く推奨される亜群に限定した検討も行った。

 大径の腫瘍や局所リンパ節4個以上にがんが認められる症例では,乳房切除術後に放射線療法が強く推奨される。対象患者は,乳がん診断と放射線療法施行の有無を含む治療に関する質問に回答した。

 その結果,診療ガイドラインの基準では放射線療法が推奨される患者で実際に治療を受けたのは,乳腺腫瘤摘出群の95%に対し,乳房切除群では 78%と低かった。また,放射線療法の恩恵がそれほど明確ではない集団においても,実際に治療を受けたのは乳腺腫瘤摘出群の80%に対し,乳房切除群では 48%にとどまった。

 Jagsi助教授は「乳がん患者の多くが不十分な治療しか受けていない。乳房切除術後に放射線療法が強く推奨される患者のうち,5人に1人は治療が行われていないことになる。放射線療法は生命予後を改善する治療である。今回の研究対象となった2都市部で乳腺腫瘤摘出患者の95%が放射線療法を受けていた事実は,放射線の併用を必要とする乳房切除患者を選択するうえで現行の臨床的慣行に改善の余地があることを示している。乳房切除術後の放射線療法には,注意を払う必要がある」と指摘している。

執刀医の関与が影響

 今回の研究では,放射線療法を受けるか否かに関する患者の判断には,医師の介入が強く影響していることも示された。意思決定に執刀医が関与していたと回答した患者群では,執刀医の関与は少なかったと回答した患者群と比べ,実際の放射線療法施行率が高かった。

 Jagsi助教授は「放射線療法の回避を希望した患者群でさえ,意思決定の過程に外科医が深くかかわっていれば,治療を受ける確率は非常に高かった。乳房切除術後に放射線療法を受けることの恩恵に関して,患者と医師双方に教育が必要である。また,こうした重要な決定に際して医師に患者を支援するよう奨励することが求められる」と述べている。

 乳房切除後の放射線療法が強く推奨される患者では,胸壁や周辺部位でがんが再発するリスクは30%を超える可能性がある。放射線療法を施行すれば,このリスクは3分の2に低下させることができ,全生存率も改善される。

Medical Tribune 2010-5-27

喫煙,過剰飲酒など4つの不健康習慣の集積で死亡リスクが大幅上昇
 喫煙,野菜・果物の摂取不足,身体活動不足,一定量を超える飲酒が重なった場合の死亡リスクは,これらの不健康な生活習慣がない場合と比べ3倍以上高いと,英国など欧州を中心とする共同研究グループが発表した。

 喫煙,食生活,身体活動,アルコール摂取は死亡と関係する。同グループは,これらの危険因子の全死亡と原因別死亡への個々および複合的影響を検討した。

 対象は,1984〜85年に英国の各地から登録した18歳以上の4,886例。喫煙,1日の野菜・果物の摂取が3回未満,身体活動が週2時間未満,女性で週14ユニット*,男性で週21ユニットを超えるアルコール摂取を各1点とし,これらの不健康な生活習慣が全くない0点群と1〜4点群との間で死亡リスクを比較した。

 平均20年の追跡で1,080例が死亡した(心血管死431例,がん死318例,その他の死因331例)。解析の結果,0点群と比較した 1,2,3,4点群の全死亡ハザード比(危険率)はそれぞれ1.85,2.23,2.76,3.49であった。不健康な生活習慣の複合的影響はその他の死因,心血管死,がん死の順に強かった。0点群と比較した4点群の全死亡リスクは12歳年上と同等であった。

*1ユニットはビール284mL,ワイン125mLに相当

Medical Tribune 2010-5-27


サメ軟骨の肺がんに対する米国の第III相試験,有効性証明されず
 米・MDアンダーソンがんセンターのCharles Lu氏らは,手術不能の非小細胞肺がん患者に対するサメ軟骨抽出物(AE-941)の予後改善効果は認められなかったとの臨床第III相試験の結果を米国立がん研究所機関誌(JNCI)5月26日オンライン版に報告した。

「腫瘍専門医は科学的エビデンスがないと説明できるように」

 同センターはこれまでにも,化学放射線療法を受けた手術不能の非小細胞肺がん患者に対するAE-941の第I相,II相試験を初めて実施してきたが,いずれも有用性を証明できていなかった。

 一方,肺および腎がんにおける早期第I相,II相試験ではAE-941の高用量投与により若干のベネフィットが示されていたとLu氏は述べている。同センターのリリースによると,サメ軟骨に血管がない理由として,血管新生阻害作用を持つ物質が含まれるためと考えられている。また,軟骨が豊富な魚にはがんが少ないと信じられており,長年サメ軟骨は一般の人々の好奇心をかきたててきたという。

 今回実施されたのは化学放射線療法を受けているステージ3の非小細胞肺がん患者に対するプラセボ対照のランダム化二重盲検試験。2000〜06年に米国,カナダから登録された379例が対象となった。患者はAE-941群(188例),プラセボ群(191例)に割り付けられ,カルボプラチン+パクリタキセルまたはシスプラチン+ビノレルビンのいずれかによる化学療法と放射線療法による標準治療を受けた。

 一次エンドポイントの全死亡において,AE-941群でプラセボ群に対する有意な改善は見られなかった。二次エンドポイントの無増悪期間,無進行生存期間,腫瘍反応率についても両群間で有意差はなかった。

 以上から,同氏らは化学放射線療法中のステージ3非小細胞肺がん患者に対するAE-941の併用による生存率改善は認められず,肺がんに対するサメ軟骨抽出物の使用は支持できないと結論付けた。

Medical Tribune 2010-5-28