広葉樹(白) 
          

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2010年4月 文献タイトル
化学療法で誘発した心障害を自己心臓幹細胞で修復
ビタミンB6の摂取が大腸がん抑制に作用
中高年女性のBMI増大が肝硬変の発症と関係
乳がん診断にMRI検査を加えても再手術率に変化なし
「高温調理された料理」が糖尿病と心血管疾患のリスクに 蒸し料理に比べTC,TG,HOMA指数が上昇
肥満の白人男性で予後不良の因子に 前立腺がん術後患者で糖尿病の影響を検討
糖尿病患者はがん手術後の早期死亡リスクが高い システマチックレビューに基づくメタ解析より
野菜・果物の全がんリスク減少にまた1つ疑問符,欧州研究より 近年の研究を裏づける結果に
少分割照射,低総照射量の放射線療法 乳がん患者のQOLが向上
第82回日本胃癌学会 進行胃がんへの鏡視下手術の成績を報告
CTコロノグラフィにより無症状の200例中1例に偶発がんを検出
運動で不安症状が20%軽減 40件のランダム化比較試験を解析
第16回放射線医学総合研究所公開講座 医療被曝やリスクに関する最新の知見を報告
本の広場『妻を看取る日 国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録』
身体疾患関連うつ病―診断・治療のポイント
個別化マーカーで残存がんを追跡
予防的両側乳房切除を選択する女性が増加
HPV陽性頭頸部がん 喫煙で再発率5倍に
胃全摘術後の合成グレリン投与が体重減少を抑制
結腸鏡検査 消化器専門医以外の検査では陰性後のがんリスク高い
妊娠中の食生活が孫にも影響,乳がんリスクが1.6倍に
米研究者が動物実験で解明
イラクで乳がんが増加 総合疫学研究始まる
ビーフステーキの焼き方に注意 電気よりガスでがんリスクが上昇
乳製品摂取で子宮筋腫リスクが低下 アフリカ系米国人女性で検討
パイプや葉巻の使用者もCOPDリスク上昇
がんスクリーニングへの参加意欲 社会人口統計学的特徴が影響
CTによる肺がんスクリーニング 喫煙者への推奨は慎重に
HPV検査が最善の選択 子宮頸がんのスメア検査で境界域の女性

化学療法で誘発した心障害を自己心臓幹細胞で修復
 Brigham and Women's病院(BWH,ボストン)麻酔・内科心血管部門と再生医学センター所長のPiero Anversa博士らは,ラットを用いた実験を行い,「がん化学療法で誘発した心臓組織障害は,自己心臓幹細胞(CSC)によって回復可能である」と発表した。
 
臨床試験での評価を予定

 アントラサイクリン系薬は心不全に至る可能性の高い心障害を引き起こすため,医師はしばしば用量を限定しなくてはならない。

 Anversa博士らは今回の実験で,アントラサイクリン系薬ドキソルビシン誘発性心障害を発症したラットを作製。ドキソルビシン投与前にCSC を採取し,増殖させて心障害発症後に移植したところ,心筋が増殖し,障害を修復することができたという。

 同博士らは「この方法は,がん化学療法を受けたがん患者への適用が期待できる」と述べ,「まず,がん化学療法を行う前にCSCを採取し,増殖して貯蔵する。そして患者が心不全を発症したら,自身のCSCを移植し,障害の修復に役立てる」と説明している。同博士らは次の段階として,今回の知見を,ヒトを対象とした臨床試験で評価することにしている。

Medical Tribune 2010-4-1

ビタミンB6の摂取が大腸がん抑制に作用
 ビタミンB6の摂取が大腸がんのリスク低下と関係することを示すメタ解析結果が,スウェーデンのグループにより発表された。

 ビタミンB6による大腸がんリスク低下の可能性を示唆するエビデンスが増えている。同グループは,2010年2月までの MEDLINEとEMBASEから,ビタミンB6の摂取またはその活性型である血中ピリドキサールリン酸塩(PLP)値と大腸がんとの関係を検討した前向き研究を対象にメタ解析を行った。

 解析には,ビタミンB6の摂取に関する9研究と血中PLP値との関係を検討した4研究が含まれた。その結果,ビタミンB6の最低摂取群と比較した最高摂取群の大腸がん発症相対リスク(RR)は0.90であった。ビタミンB6摂取に関する研究には不均質性が見られ,不均質性への影響が大きかった1研究を除外した場合にはRRは0.80に低下した。

 血中PLP値最低群と比較した最高群のRRは0.52であった。PLP値100 pmol/mL上昇ごとに大腸がんリスクは49%低下した(RR 0.51)。

Medical Tribune 2010-4-1

中高年女性のBMI増大が肝硬変の発症と関係
 中高年女性のBMI増大は肝硬変発症の危険因子の1つであると,英国のグループが発表した。

 同グループは,1996〜2001年に乳がんのスクリーニング検査を受けた女性123万662例(平均年齢56歳)を登録。平均6.2年間追跡し,BMIと肝硬変との関係を調べた。

 追跡中に1,811例が肝硬変のために入院するか死亡した。解析の結果,BMI 22.5以上の女性ではBMIの増大に伴って肝硬変の発症が増加し,BMI 5単位上昇ごとに補正ずみ相対リスクは28%上昇した。

 BMI 5単位上昇ごとの肝硬変リスクの相対的上昇はアルコール摂取量による有意差はなかったが,絶対リスクには有意差が認められた。アルコール摂取量が週70g 未満の女性では,5年間の1,000人当たりの肝硬変の絶対リスクはBMI 22.5〜25では0.8,30以上では1.0であった。これに対し,週に150g以上のアルコールを摂取している女性では対応する絶対リスクはそれぞれ 2.7,5.0と高かった。

 同グループは「中高年女性の肝硬変の17%が体重過多によるものと推定される」としている。

Medical Tribune 2010-4-1

乳がん診断にMRI検査を加えても再手術率に変化なし
 ハル大学(英)のLindsay Turnbull教授らは「乳がんの診断時に,従来の“triple assessment”にMRI検査を加えても,再手術率には影響しない」との研究結果を発表した。

 triple assessmentとは,(1)視触診による診察(2)マンモグラフィまたは超音波検査による画像診断(3)穿刺吸引細胞診または針生検による病理診断−の3点の病理学的評価を指す。
 
術後12か月のQOLに差なし

 今回の結論は,英国の45施設で実施されたランダム化比較試験COMICE研究によって得られたものである。生検で原発性乳がんであることが確認され,triple assessmentを経て手術が予定されている18歳以上の女性1,623例を登録し,追加のMRIを行う群(MRI群,816例)または追加のMRI を行わない群(対照群,807例)にランダムに割り付けた。

 主要エンドポイントは,ランダム割り付け後6か月以内の再手術または拡大乳房切除術を受ける患者の割合,あるいは初回手術時に病理学的に回避が可能だった乳房切除術が行われた患者の割合である。

 その結果,再手術が必要となった患者はMRI群で153例(19%),対照群では156例(19%)と差は認められなかった。

 Turnbull教授らは「分析の結果,初回術後12か月の健康関連QOLは,両群間で差がないことが判明した。しかし,総費用という点では,MRI群のほうが対照群よりも有意ではないものの多くの費用が必要であった。臨床上または健康関連のQOLは,両群間で差がないことを考えると,初回手術を受ける際に,通常のtriple assessmentにMRIを加えることは,医療資源の余分な使用につながるだけでなく,健康アウトカムという点でも,ほとんどあるいは全く便益をもたらさず,通院回数の増加という負担を患者に課すだけである」と述べている。

Medical Tribune 2010-4-8

「高温調理された料理」が糖尿病と心血管疾患のリスクに
蒸し料理に比べTC,TG,HOMA指数が上昇
 食品を高温で調理するとメイラード反応が進行しやすくなるが,メイラード反応生成物(MRP)を多く含む高温調理された料理と,糖尿病・心血管疾患の既知の危険因子との関連を調べたランダム化交叉介入研究がフランスで行われた。高温調理された食事を大学生に1か月摂取させたところ,蒸し料理と比べて,総コレステロール(TC)とトリグリセライド(TG)が増加し,インスリン抵抗性の指標であるHOMA指数が17%高かったと報告している。

健康な人でも「焼く」「炒める」を「蒸す」に変えるべきか

 糖(炭水化物)と蛋白質(アミノ酸)の間で生じる化学反応であるメイラード反応は,食品に独特の風味を加えるが, MRPは,健康に有益な化合物だけでなく,発がん物質のアクリルアミドや複素環アミンなども含む。高温で調理された食品の摂取は,糖尿病患者で心血管系の合併症を促進することが報告されている。

 今回の研究では,MRPの1つであり,体内に蓄積されることで2型糖尿病や心血管疾患を進展させる要因となる糖酸化生成物カルボキシメチルリジン(CML)を調べた。食事に含まれるCMLは,その約30%が血液に吸収されて体内を循環することから,両疾患の危険因子の促進にかかわっているのではないかと見られていた。

 2006年1月,フランス LaSalle Beauvais Polytechnical Instituteにおいて18歳以上の健康な64人(平均年齢19歳,男性32人,女性32人,BMI 18〜26.9,平均21.8)を対象に,食事介入が行われた。BMI 30を超える肥満や,妊娠,消化器疾患,腸炎症性疾患と,糖尿病と慢性腎不全を含むその他の疾患を持つ場合は除外。料理と参加者の便,尿,血液中のCML を測定し,2種類の食事をそれぞれ1か月摂取した後の血糖値,脂質などを調べた。

 食事は,「蒸し料理」と,MRPを多く含む「高温調理された料理」が用意された。高温調理された料理は,例えばコーンフレーク,コーヒー,クッキー,よく焼いたパンなどで,蒸し料理は,蒸されたコーンフレーク,スポンジケーキと少し焼かれたパンなどだった。62人の参加者が研究を完了した。

 平均(±SD)総CML摂取量は,高温調理された料理5.4±2.3mgCML/日,蒸し料理2.2±0.9mgCML/日で,前者で約2.5倍だった。高温調理された料理では,10%カロリー摂取量が多く,炭水化物と脂質も多かったが,脂肪酸の構成には違いはなく,ω6(n26)脂肪酸と ω3(n23)脂肪酸の比率も同様だった。ビタミンCの摂取量は高温調理された料理で少なかったが,ビタミンEについては差はなかった。

 分析の結果,高温調理された料理を取った後は,蒸し料理を取った後と比べ,TCは5%,HDLコレステロール(HDL-C)は10%高く, TGは9%高かった。LDLコレステロール(LDL-C)には違いがなかった。

 空腹時血糖に違いはなかったが,高温調理された料理では空腹時インスリン濃度が有意に高く,HOMA指数も17%高かった。

 また,高温調理された料理では,酸化ストレス予防の指標となる血中のω3脂肪酸,ビタミンC,E濃度が低かった。

 2種類の料理において,脂質,炭水化物,ビタミンCの摂取量が異なった影響は除外できなかったが,食事介入の後,糖尿病と心血管疾患の危険因子となる代謝マーカーは大きく変化し,特に,TCとHDL-Cについては血中CML濃度と密接な相関が認められた。

 健康な人でも,料理方法を「焼く」「炒める」から,「蒸す」などのマイルドな方法に変え,糖尿病と心血管疾患のリスクをコントロールしたほうがよいかもしれない。

Medical Tribune 2010-4-8
肥満の白人男性で予後不良の因子に
前立腺がん術後患者で糖尿病の影響を検討
 デューク前立腺センター(ノースカロライナ州)泌尿器科学・病理学のStephen J. Freedland准教授らは「糖尿病を合併した肥満の白人男性では,根治的前立腺摘除術(RP)後に予後不良となるリスクが,非糖尿病患者に比べて有意に高まることがわかった」と発表した。
 
他群では糖尿病が再発リスク低下に寄与

 白人男性の場合,糖尿病と前立腺がん発症リスクの低下が関連することは多くの研究で示されている。しかし,前立腺がん術後の予後に糖尿病併発の有無が影響するか否かは明らかではなかった。

 長年にわたって,人種,体重,糖尿病と,前立腺がんとの相互作用が検討されてきたが,これまでの研究では一貫した結果は得られていない。例えば,アフリカ系米国人では,白人と比べ前立腺がんの発症リスク,悪性度,再発率がいずれも高く,成人の糖尿病罹患率もアフリカ系米国人で11.8%と,白人の 7.5%に比べて高い。また,肥満と糖尿病は言うまでもなく,前立腺がんの悪性度,再発率,死亡率の上昇リスクと関連すると報告されている。

 ダーラム退役軍人局医療センター泌尿器科にも所属するFreedland准教授は「人種と肥満が前立腺がんの悪性度と糖尿病の双方に関係しているとすれば,糖尿病と前立腺がん進行の関係も人種と肥満度により異なるとの仮説を立てた」と述べている。

 今回の研究では,地域のがんデータベースであるShared Equal-Access Regional Cancer Hospital database(SEARCH)から1988〜2008年にRPを施行された男性1,262例のデータを抽出。糖尿病が腫瘍のグレードと再発率,悪性度の指標である術後PSA倍加時間(PSADT)に与える影響を検討した。

 その結果,全体では糖尿病と前立腺がん進行との間に関連は認められなかったが,人種と体重でデータを分類した二次解析の結果,白人の肥満男性においてのみ,糖尿病と,前立腺がん再発リスク増大および再発傾向(PSADTが短い)との間に相関が認められた。他のすべてのサブグループでは,糖尿病は再発リスク低下およびPSADT延長と関連していた。

劣悪な環境が悪性度に影響

 Freedland准教授は今回の研究で,糖尿病が白人肥満男性では悪性前立腺がんと有意に関連する一方で,人種と体重で分けた他のサブグループでは悪性度の低いがんと関連していたことについて,「どのような機序がこうした関連に関与しているのか確実なことはわからない」としたうえで,「糖尿病はインスリン値とテストステロン値の低下といった腫瘍の増殖にとって好ましくない環境をもたらす。さらに,白人の肥満男性ではインスリン様成長因子の値も低い。そのため,このような劣悪な環境でも増殖できる腫瘍は,生命力が強く悪性度もかなり高いと言える」と推察している。

Medical Tribune 2010-4-8

糖尿病患者はがん手術後の早期死亡リスクが高い
システマチックレビューに基づくメタ解析より
 米ジョンズホプキンス公衆衛生大学院のBethany B Barone氏らは,糖尿病患者ではがん手術後の早期死亡リスクが非糖尿病者に比べ,50%以上高まるとのメタ解析の結果をDiabetes Care4月号(2010; 33: 931-939)に報告した。

すべてのがんで1.8倍,補正後もおよそ1.5倍のリスク

 Barone氏らによると,糖尿病患者では乳がんや大腸がん,子宮内膜がん,肝・膵がんが多く見られるほか,新規がん患者における糖尿病有病率も,8〜18%と一般人口よりも高いことが報告されているという。

 また,糖尿病を合併するがん患者では,感染症や代謝不全,心血管疾患リスクなどの相乗効果により,特に周術期予後が不良となることも知られているが,体系的な検討は行われていなかった。そこで同氏らはシステマチックレビューに基づくメタ解析を実施。

 MEDLINE,EMBASEから2009年1月以前の発表論文を抽出,がん初期治療に手術が行われた英語文献が解析対象とされた。

 最終的にメタ解析の対象とされた15報の検討から,がん診断前から糖尿病があった場合,すべてのがんにおける術後早期死亡のリスクは非糖尿病の場合に比べ1.85倍高くなっていた。年齢,性,ほかの合併症といった補正可能な因子による評価を行っても,なお明らかなリスク増大が見られたという。さらに,リスク増大は,メタ解析で問題となる,統計学的に有意な研究が発表されやすいために生じる検討対象の過大評価(出版バイアス)を補正(trim and fill method)した後でも確認された。

 同氏らは今回の結果について,糖尿病が易感染性を生じ全身状態悪化の引き金となること,また動脈硬化による心血管系への悪影響の2つのメカニズムが大きな要因と考察している。そして,がん治療に当たり,腫瘍内科医,外科医,がん患者がこの事実をもっと認識したうえで治療方針を決めて欲しいと述べている。

Medical Tribune 2010-4-12


野菜・果物の全がんリスク減少にまた1つ疑問符,欧州研究より
近年の研究を裏づける結果に
 野菜や果物の摂取によるがん・循環器疾患予防を検討した研究は多数報告されているが,近年は厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」など全がんリスクに対する効果に疑問符を付ける結果が相次いでいる。国際がん研究機関(IARC)のPaolo Boffetta氏らは,欧州10か国在住の約50万人を対象にした研究結果を報告。野菜や果物の摂取量を1日200g増量しても,全がんリスク低下は 3%にとどまることを明らかにした。この結果は,近年の調査結果を裏づけるものだという。

喫煙・アルコール起因以外のがんではリスク減少認められず

 Boffetta氏らは,1992〜2000年に実施された欧州10か国在住者が対象の疫学研究EPIC ※のデータベースから,25〜70歳の男女47万8,478人(男性14万2,605人,女性33万5,873人)を抽出。1年間の平均青果摂取量を聞いて1 日当たり摂取量を割り出し,全がんリスクとの関係を調査した。中央値8.7年の追跡期間中,がん発生が認められたのは3万604人(男性9,604人,女性2万1,000人)で,1,000人当たりの発生率は男性7.9,女性7.1。1日当たりの青果摂取量(中央値)は335g(野菜134g,果物 170g)だった。

 検討の結果,青果摂取量が1日200g増えると全がんリスクは3%減少することがわかった。しかし,野菜摂取量のみ1日100g増加した場合は2%減少,果物摂取量のみ1日100g増加した場合は1%のリスク減少にとどまった。

 これらのリスク減少は喫煙およびアルコールに起因するがん(口腔,咽頭,喉頭,食道,肺,胃,肝,膵,膀胱,大腸,乳房)に限定されており,それ以外のがんと合わせた場合はリスク減少が認められなかった。なお,多量飲酒者においてはリスク減少が強まることが示唆されている。

 以上のことから,同氏らは「野菜や果物による全がんリスク減少は非常に限定的で,他の要因が影響している可能性を完全に排除することができない」と述べ,「解釈には注意が必要」と警告。JPHC研究など,同様の結果を報告した近年の研究結果を裏づけるものと結論した。

* ※ European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition

Medical Tribune 2010-4-13

少分割照射,低総照射量の放射線療法 乳がん患者のQOLが向上
 がん研究所(ロンドン)のPenelope Hopwood博士らは,乳がん患者を対象に5年間,放射線療法に関する質問票調査を行った結果,1回の照射線量を増やし照射回数を減らす少分割照射法は,国際標準の照射法に比べ,有害な症状を増加させず,自己身体イメージも悪化させないことがわかったと発表した。少分割照射法では,治療期間を短縮しても,乳房関連の有害事象の発生率は標準治療と比べて高くはならず,新たな乳がんが発症するリスクの低減効果も同等であったことから,これらの結果は,患者のQOLは向上するというこれまでの知見を裏づけている。

有害事象は国際標準の照射法と比べて増加なし

 乳がん患者のQOLはこれまでにも広く調査されているが,放射線療法後の患者自身の視点によるQOL,特に,皮膚への有害事象と身体像への影響については,ほとんど明らかにされていない。

 こうした問題に取り組むため,Hopwood博士らのがん研究所と王立マースデン病院(サットン)の研究グループは,異なる放射線療法を施行した後,患者が乳房,腕,肩に経験する有害症状と機能的変化および身体像を5年間追跡調査した。

 この調査では,START(Standardisation of Breast Radiotherapy)試験の対象者から,早期乳がんで初回術後に放射線療法を受けた女性患者2,208例が登録された。これらの患者は治療後5年間,QOL質問票に加え,自己身体イメージに関する自己評価式質問票と放射線療法による健康組織への影響に関する自己評価式質問票に定期的に回答した。

 5年の調査期間で最も多かった有害事象は,乳房の硬化(41%)と乳房の外見上の変化(39%)であった。また,患者の3分の1近くは腕と肩に痛みを訴え,中等度以上の肩のこわばりも約20%が経験した。しかし,腕や肩の症状の多くは観察期間の開始時点で現れており,放射線療法実施前の手術に関連していた。

 照射スケジュールの異なる放射線療法を受けた患者間で,治療後の有害事象として,皮膚の好ましくない外見上の変化のみ有意差が見られた。これ以外のほとんどの有害事象については,照射スケジュールが異なっていても全体の傾向は類似しており,少分割照射スケジュールでの有害事象発生率は,国際標準の照射スケジュールと比べて低いかまたは同等だった。

患者の観点による治療が必要

 治療後5年間に,身体像に関する質問票の1項目以上で中等度または著しい不満・不安を報告した患者は40%であった。最も多かったのは「身体的に以前より魅力的でなくなったと感じる」と「自分の体に不満」(各23%)であった。しかし,報告された身体像に関して照射スケジュールによる差は見られなかった。

 Hopwood博士らは「正常組織への悪影響のため,早期乳がんの放射線治療では患者に著しい有害事象が生じることがあり,患者の自己評価は,これらの影響の大きさと持続期間を確認するために重要である」と指摘している。

Medical Tribune 2010-4-15


第82回日本胃癌学会 進行胃がんへの鏡視下手術の成績を報告
 早期胃がんに対する腹腔鏡下手術は多くの施設で行われているが,その適応を進行胃がんにまで拡大している施設は限られている。同学会のシンポジウム「鏡視下手術の適応拡大」では,多くの進行胃がん症例に腹腔鏡下手術を施行している施設から手術成績が報告された。

再発率,生存率は開腹手術と同等

 東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学(食道胃外科)の井ノ口幹人氏らは,Stage II/III A胃がんに対する腹腔鏡下胃切除術(LG)の成績を報告。再発率,生存率は開腹胃切除術(OG)に劣らないとするデータを示した。

LGに特異的な再発認めず

 同科のLGの適応はガイドラインに従って臨床Stage I Bまでとし,Stage II以上については患者が希望する場合にのみ施行している。切除範囲に関しては大網および肝枝は温存。リンパ節郭清はStage I Aに対しては1群リンパ節と2群リンパ節の一部を郭清するD1+β,I B以上には1群と2群リンパ節を郭清するD2を行っている。

 同科の1999〜2008年の10年間におけるLG(全摘,幽門側胃切除,噴門側胃切除)施行例は419例。このうち,手術および病理を含む総合所見でStage II/III A胃がんと診断された症例は43例であった。井ノ口氏らは,この43例の再発率,再発部位,無病生存率(DFS),疾患特異的生存率(DSS)を,同時期にStage II/III A胃がんに対してOGを施行した119例(食道浸潤や膵臓・結腸・腸間膜合併切除例などは除外)と比較した。

 患者背景では術前診断に差があり,LG群ではStage I と診断された患者が約80%を占めた。一方,OG群ではStage II/III Aの診断が62%と多かった。この差は,LG群の腫瘍がOG群と比べ有意に小さかったこと(中央値51mm対60mm)によるものと考えられたが,最終的なStageの内訳に差はなかった。

 再発率はStage IIでLG群15%,OG群17%,III Aでそれぞれ44%,40%と差はなかった。初回再発部位にも差はなく,LGに特異的と思われる再発は見られなかった。

Medical Tribune 2010-4-15

CTコロノグラフィにより無症状の200例中1例に偶発がんを検出
 CTコロノグラフィにより症状のない成人200例に1例の割合で偶発がんが見つかると,米ウィスコンシン大学などのグループが発表した。

 同グループは,2004年4月〜08年3月に2施設でCTコロノグラフィによるスクリーニングを受けた成人男女1万286例のデータを解析し,偶発がんの検出率を調べた。

 その結果,58例(0.56%)に偶発がんが確認された。内訳は浸潤性大腸がんが22例,大腸以外のがん(腎細胞がん,肺がん,非ホジキンリンパ腫など)が36例であった。58例中31例(53.4%)がステージ I または限局性のがんだった。

Medical Tribune 2010-4-15

運動で不安症状が20%軽減
40件のランダム化比較試験を解析
 慢性疾患に伴う不安は患者のQOLを徐々に低下させ,患者が治療計画を受け入れにくくなる。しかし,ジョージア大学教育学部運動学科博士課程のMatthew P. Herring氏らは,定期的運動で不安の症状を著明に軽減できると発表した。
 
12週以下のほうが効果高い

 筆頭研究者のHerring氏らは,さまざまな慢性疾患を有する患者およそ3,000例を対象とした40件のランダム化比較試験(RCT)の結果を解析した。その結果,定期的運動群では非運動群と比べ,不安症状が平均20%軽減したことが明らかになった。

 同氏は「われわれの研究結果は,ウオーキングや重量挙げなどの身体活動は医師が患者に処方できる最良の不安軽減薬であるというこれまでのエビデンスを支持するものだ」と述べている。

 また同氏は,うつ病の症状軽減における運動の役割はよく研究されているが,不安の症状に対する定期的運動の影響はそれほど注目されていなかったことを指摘。「高齢化に伴い,慢性疾患を抱えながら生活する国民は増加すると考えられるため,低コストで有効な治療法が必要だ」と述べている。

 同氏らは,臨床研究のゴールドスタンダードであるRCTに絞って解析を行った。被験者は心疾患,多発性硬化症,がん,関節炎による慢性疼痛など,さまざまな疾患に罹患していた。対象とした試験の90%で,運動群は対照群より心配や懸念,神経過敏など不安の症状が少なくなった。

 運動時間30分超のほうが30分以下より不安軽減効果が高かった。しかし,プログラムの期間で見ると,意外にも不安軽減効果は3〜12週のプログラムのほうが13週以上のプログラムより高いという結果だった。Herring氏らは,期間の長い運動プログラムを最後までやり通す参加者が少ない点を指摘。参加率が高いほど,不安軽減効果は高くなることが示されたという。

Medical Tribune 2010-4-15

第16回放射線医学総合研究所公開講座
医療被曝やリスクに関する最新の知見を報告
 医療の現場では,放射線治療に対する患者の疑問や不安への対応が重要な課題となっている。千葉市で開かれた第16回放射線医学総合研究所公開講座「医療における放射線−エビデンスに基づいて現場の質問に答える−」の第1部「医療被ばくの現状と考え方」では,医療被曝やリスクに関する最新の知見が報告された。

低線量でのリスクの正しい評価を

 放医研放射線防護研究センターの酒井一夫センター長は,医療被曝を巡る最近の動向について報告。そのなかで「高線量でのリスクをあなどってはいけないが,低線量でのリスクを恐れすぎてはいけない」と強調した。

低線量放射線の影響の解明が進む

 放射線防護の最も基本的な原則として,正当化(ベネフィットがリスクを上回る),最適化(社会的・経済的な要素も考慮したうえで,線量を合理的に達成可能な限り低く抑える),線量限度(個人の線量は,設定された限度を超えない)の防護体系の3原則が知られている。しかし,患者の医療被曝には,線量限度は適用されない。したがって,医療被曝の防護では,正当化や最適化が重要になる。

 また,医療被曝に関連する日本の法令には,医療法,放射性同位元素などによる放射線障害防止法,電離放射線障害防止規則,薬事法,診療放射線技師法,臨床検査技師法,衛生検査技師法などがある。しかし,これらの法令の具体的な規制対象は,放射線を取り扱う医療従事者や公衆であり,患者への線量を制限する基準は含まれていない。

 このように,患者の医療被曝の防護は,法令などで一律に規制することが困難であり,医療の現場での防護の実践に委ねられている。そのため,医療関係者への意識を高めることが重要であり,国際的に医療被曝に関連した活動が活発化している。

 酒井センター長は「最近では,低線量放射線の影響の解明が進み,放射線リスクについて新たな科学的知見が得られつつある。それらの結果から,高線量でのリスクをあなどってはいけないが,低線量でのリスクを恐れすぎてはいけないという結論が得られる」と述べた。

診断参考レベルの考えを取り入れることが必要

 放医研重粒子医科学センター医療放射線防護研究室の赤羽恵一室長は医療被曝の現状について考察し,「今後わが国でも,診断時の線量の目安として,診断参考レベル(DRL)の考えを取り入れることが望まれる」と述べた。

ICRPが採用を勧告

 医療被曝の線量を表す指標としては,多くのものがある。そのうち,異なる種類の放射線診療の線量を比較する指標として実効線量(mSv)が用いられる。また,個々の臓器が受ける線量としては臓器吸収線量(mGy)が用いられる。これらは被曝のレベルを考えるのに有用である。

 医療被曝の防護では,正当化と最適化が重要である。正当化については,医師・歯科医師の経験的な判断に委ねられているのが現状である。短時間に高画質の画像が得られるようになり,疾病やけがの見落としを防ぐため,安易にX線診断,特にX線CTが選択され,撮影範囲も広めに検査が行われる事例もあるという。また,最適化については,国際放射線防護委員会(ICRP)はDRLの採用を勧告しており,国際原子力機関(IAEA)はガイダンスレベルとしてその数値を示している。同様に,日本では日本放射線技師会がガイドラインで独自に設定した数値を公表している。しかし,海外では DRLを採用している国もあるが,日本ではまだ規制に取り入れられていない。

 赤羽室長は「医療被曝は,現状ではまだ改善の余地がある。患者の不安や疑問に答えるためにも,放射線診療の線量レベルを把握しておくことと,線量とリスクの関係をある程度知っておくことが重要である」と述べた。

胎児期被曝によるがんリスクは小児と比べ低い

 放医研放射線防護研究センター発達期被曝影響研究グループの島田義也グループリーダーは,低線量での被曝の影響に関する知見について報告。そのなかで「胎児期での被曝によるがんリスクは,小児の被曝に比べ低いことが最近報告された」と述べた。

小児は放射線感受性が高い

 放射線の生体への影響は,確定的影響と確率的影響に分けられる。そのうち,確定的影響は,100〜数千mGy以上の比較的高線量の放射線に被曝した後,数時間から数週間で出てくる影響である。一方,確率的影響は,100〜200mGy以下の低線量でも発生することが否定できない影響である。これには,発がんなどが含まれる。しかし,原爆生存者などの疫学調査の結果では,高線量域では発がんリスクの増加が認められるものの,100mGy程度の低線量域では不確かさが大きく,有意差は認められていない。

 発がんは,白血病とそれ以外のがん(固形腫瘍)に分けられる。原爆被曝者の調査から,白血病と固形腫瘍では,その時間的な発生パターンが異なることが明らかとなった。白血病は被曝後2〜3年して発症し,7〜8年をピークとしてその後減少していくが,固形腫瘍は10年以上たってから発症し,そのリスクはその後も続くとされている。

 一般に小児は放射線感受性が高いと考えられている。組織の細胞が活発に分裂しているからである。また,被曝後も長い年月を生きるので,放射線の影響が出る機会が増えることも考えられる。10歳での被曝によるがんリスクは,40歳での被曝と比べて2〜3倍になる。

 胎児期では,10mGy程度の被曝で小児の白血病と固形腫瘍のリスクが増加するとされていた。しかし,近年の調査で胎児期のX線被曝で小児白血病の増加は認められていない。また,原爆被曝者の調査から,胎児期の被曝による生涯の固形腫瘍のリスクは,小児の被曝より低いことが明らかとなりつつある。近年,CT検査の増加による小児の被曝が増えており,今後も胎児・小児の放射線被曝のリスクには注意深くフォローする必要がある。

放射線検査の患者説明〜患者の不安や理解力の程度に応じた説明を

 放医研放射線防護研究センター規制科学研究グループの神田玲子チームリーダーは放射線検査を患者に説明する際のポイントについて解説。「患者の不安・関心や理解力の程度に応じた説明を行うことが重要」と指摘した。

推定リスクの程度を示す

 放医研が行った全国の放射線診療の患者・家族を対象にしたアンケートでは,骨折や虫歯といった日常的な放射線検査でも完全には受容されていないことがわかった。特に60歳代以上の患者では,医療被曝への懸念が強かった。その一方で,母親のグループでは,小児の年齢に応じて必要と思われる検査に対しては高い受容率を示した。

 これらのアンケートの結果を踏まえ,放射線検査を患者に説明する際のポイントとして,(1)検査のベネフィットを説明する(2)検査の線量を説明する(3)検査のリスクを説明する(4)付加的情報が有用な場合もある(5)言葉の選び方―を挙げた。そのうち,(1)では,医師が検査の正当化を判断した根拠として,病気の発見,治療に不可欠な検査であることや,受けないで生じるリスク(不安,不適切な治療,状態の悪化など)について説明する。

 (2)では,X線の影響を考える場合,撮影部位のみを検討の対象にすればよいことを伝える。また,影響の程度は放射線の量によることを図表などを用いて説明する。

 患者が強い不安感によって不眠など日常生活に影響が出ているような場合は,「放射線カウンセリング」を行う。「カウンセリングが必要になるほど,患者が悩むことがないようにするには,検査を受ける前,そして,検査により異常がないことが明らかになった場合も,検査の正当化は変わらないといった説明も必要である」と神田チームリーダーは述べた。

Medical Tribune 2010-4-22

本の広場
『妻を看取る日 国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録』
垣添忠生著,四六判,174ページ,定価1,365円,新潮社

 国立がん研究センター名誉総長である垣添忠生氏が,妻を看取る日までの日々,妻亡き後に押し寄せて来た絶望感,そして人生の底から立ち直るまでの道のりを自らつづった凄絶な記録である。

 わが国のがん医療の権威として,長年がん治療にかかわってきた筆者が定年を迎え,妻とのんびり過ごしていこうと思っていた矢先に,妻の身体に肺小細胞がんが見つかる。がんにむしばまれていく妻を傍らで感じる言葉にし難い苦しさのなか,同氏はできる限りのことをしようと,献身的に尽くす。が,1年半にわたる闘病生活ののち,最愛の伴侶は,自宅で同氏1人に看取られながら息を引き取る。

 妻亡き後,同氏は喪失感に打ちのめされ,さらに塗炭の苦しみを味わう。「長年,死を身近に感じる場所で働いていたものの,妻を亡くした喪失感は,これまでに経験したことのない,また想像をはるかに超えるものだった」。うつ状態になり,酒浸りの日々を送るようになるが,そこから約1年かけて,少しずつ回復し,やがて再び未来のことを考えられるようになるまでの様子が赤裸々につづられている。個人的な経験が,同じような苦しみを味わっているがん死亡者の遺族の,なんらかの役に立てば,という同氏の思いが込められた1冊である。

Medical Tribune 2010-4-22


身体疾患関連うつ病―診断・治療のポイント
 欧米では既に,がん患者の抑うつ状態や適応障害に関する研究が進められている。わが国においても,2007年4月にがん対策基本法が施行され,5 年生存率の20%改善とがん患者および家族のQOL向上が2大目標とされたこと,また「がん告知」が一般的に行われるようになったことで,がんと心の関係が注目を集めており,適切な対応が求められている。国立がん研究センター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部の内富庸介部長に,がん患者における精神症状の発症機序や診断・治療,対処法について,医療従事者が知っておくべきポイントを聞いた。

抑うつ状態の契機は「がん告知」

 同センターにおけるがんの進行度と抑うつ(うつ状態および適応障害)の1か月有病率を見ると,遺伝子検査時点では7%,がん診断後および治療後では約1〜2割,再発時には約4割,抗がん治療中止後では約2割と,原発部位・病期にかかわらずがん患者の1〜4割に抑うつ状態が認められ,特に再発時の有病率が高いとされている。

 がんに罹患することは,依然として,患者にとって生命存続の危機であり,破局的なストレスをもたらす。この患者の将来への見通しを根底から否定的に変える「がん告知」が抑うつ状態を引き起こす大きな契機となる。また,患者はがんに関する知識・情報が豊富になるほど「死に向かう」ことが強く認識され,抑うつ状態を引き起こしやすい。さらに,抑うつ状態の要因には,患者を取り巻く身体〔痛みや全身状態(PS),日常生活動作(ADL),進行病期,若年者など〕・心理(うつ病既往,絶望態度)・社会(独居,乏しいサポート,金銭面での問題など)の要素も複雑に絡み合っている。

 内富部長は「患者にとって医師の一言の重みは大きい」と強調。告知から治療の過程で,家族や医療スタッフ,特に担当医から患者への心理的サポートを伴った良好なコミュニケーションが重要になるという。

自殺リスクへの配慮も必要

 抑うつ状態などの精神症状があると,患者は痛みを強く感じたり,絶望的な気分や人間関係の悪化などQOLが低下するだけでなく,介護者のストレスや負担も増え,すべての面に悪影響を及ぼす。その結果,入院日数が延長されるケースも少なくない。しかし臨床現場では,こうした患者の精神状態はがんによる症状との鑑別が難しく,看過されてしまうことが多いという。

 さらなる問題に自殺が挙げられる。特に進行がんで余命半年〜1年と告げられたがん患者の自殺率が最も高い。自殺リスクはうつ病単独では4〜8倍,がん単独では1.5〜2倍。これらが重なるとさらにリスクは上昇する。一方,再発の場合は抑うつ状態を呈する割合は高いが,自殺率は低下するという。

 がん告知されると,患者はまず,がんという生命の危機に対する防御反応として否認を示し,次第に絶望感や怒りを感じ始める。告知から2〜3日間は,患者の動揺を考慮し,治療計画などを伝える際には沈黙を十分に取りながら対応する。混乱や不安,無力感,絶望感とともに不眠・食欲不振や集中力低下によって,一時的に日常生活に支障を来す場合もある。これは多くの患者が経験すると伝えることも重要だ。1週間から10日間でこの状態は軽減し,患者は現実問題に直面できるようになる。

 初期の集中治療から6か月〜1年で治療に関連した身体状態はおおむね回復するが,一部の患者では進行がんを末期がんと解釈したり,治療に関連した機能障害や外見上の変化を喪失として強く認識するため,この時期は自殺リスクがさらに高まる。家庭や社会で疎外感を感じることも多い。そのため,弱音を吐ける存在としてサポートグループやがんに関する教育などの心理的援助がきわめて重要になるという。

 しかし,がんに伴う抑うつ状態は,うつ病の既往歴などがなければ数週間と比較的短い。将来の見通しを立て直し,適切な治療を行えば短期間で回復する。そのため,内富部長は「早期発見・早期治療が重要」と強調する。診断ポイントは,患者の気分の落ち込みや不眠・食欲の有無の観察に尽きる。患者が過去を振り返って「自分は何もしてこなかった」と否定するときは重症のサインだという。これらの鑑別は難しいが,同部長は簡便なスクリーニング法の「気持ちのつらさと支障の寒暖計」〔ホームページ(http://pod.ncc.go.jp/documents/shiryo_ds_6.pdf)を参照〕を考案し,日常診療で用いている。

がん告知におけるコミュニケーション技術の向上を

 内富部長らは,がん告知と身体・心理・社会要因に着目した「抑うつの包括的介入法」を考案し,すべての要因を丁寧に評価して取り除いていく包括的介入を地域で推進している。なかでも抑うつ状態を引き起こす要因の最上流にあるのが「がん告知」であることに着目。がん患者を対象に行った質問票調査の結果を踏まえ,がん医療従事者向けのコミュニケーション技術SHARE※を開発し,ロールプレーを中心とした研修会を開催して医療従事者の共感の技術向上を図っている。また,患者からの質問を促進するためのパンフレットも作成している。

 身体から心までの総合的な評価には,まず,最初に身体症状(痛み),次に精神症状を評価し,経済・介護問題,そして最後に心理・社会的およびスピリチュアルな問題の順に評価する。同部長は「この順番を守って1つずつ丁寧に評価していくことが重要だ」と指摘する。

 がん患者への心のケアとしては,(1)心理学的アプローチ(2)社会・経済的・介護支援(3)精神医学的治療(4)身体的ケア が挙げられる。(1)では,患者の訴えに批判的な態度を取らずに傾聴し,訴えの背景の理解に努めながら,患者の価値観や対処法を支持する支持的精神療法が基本となる。そのほかには危機的状況への介入やがんサバイバーへの認知行動療法が中心となる。また,必要な場合は薬物療法として少量の抗うつ薬,抗不安薬,睡眠導入薬を用いる。これらの治療・対応で改善が見られない場合は,精神保健の専門家への紹介が必要とされる。

コメディカルスタッフの活躍に期待

 がん対策基本法により,全国375のがん拠点病院で緩和ケアチームの設置が義務付けられた。しかし,精神科医が常勤しているのは50施設に満たないのが現状だ。

 同センターでは,定期的に勉強会を開催し,院内にとどまらず地域スタッフとの連携強化を図っている。内富部長は「実地医家においても,患者の様子に少しでも疑問を感じたら気軽に相談できる,がんに熟知した精神科医との連携を取ることが必要である」とアドバイスする。

 今後の展望としては,医師だけでなく,専門看護師や臨床心理士,ソーシャルワーカーなどコメディカルスタッフの活躍も期待される。これらのスタッフが最初に患者の身体・心理・社会要因を正確に評価すれば医師も把握しやすくなるという。

 同部長は「うつの心の痛みは身体のそれよりも激烈で,死をもってしても逃げたいと思うもの」と強調。「本来,患者の感情を理解することもインフォームド・コンセントに含まれているはず。すべての医療従事者には『情』のこもったコミュニケーション技術の習得が期待される」と結んだ。

※悪い知らせを伝えられる際の患者の意向を反映したコミュニケーション・スキル。共感,家族への配慮,日常生活への影響を話し合うなど,患者が望む要素が盛り込まれている。

Medical Tribune 2010-4-22

個別化マーカーで残存がんを追跡
 ジョンズホプキンス大学のRebecca J. Leary博士らは,個々の患者の腫瘍DNAから特有のバイオマーカーを見つけ出し,それを利用して残存がんを追跡,検出,およびモニタリングする新技術を開発した。

遺伝子上の痕跡を検出

 がんの臨床管理の成否は,残存腫瘍および再発に対する正確なモニタリングにかかっている。

 がんに関連したDNA変化の検出に基づくアプローチ(Personalized Analysis of Rearranged Ends;PARE)とは,手術後または薬物療法中も残存し続けるがん細胞に特有の,わずかな遺伝子上の痕跡を検出してモニタリングするきわめて正確で特異的な方法である。

 今回の研究では,次世代の塩基配列解析技術によって,がん患者を個別に管理することへの可能性が見出された。

 ほぼすべてのヒトがんに共通する特徴として,染色体不安定性の結果,染色体が広範に再編されることが挙げられる。そのような構造変化には,コピー数変化(複製,増幅,欠落),逆転,挿入,転座が含まれ,腫瘍形成の最も初期のステージで起こり,腫瘍の成長を通じて持続する。

 しかし,これまでの遺伝子解析技術では,そのようなわずかな変化を捉えるまでには至らなかった。

 Leary博士らは,4つの結腸直腸がんと2つの乳がんでわずかに再編されたDNAの塩基配列を検出するために,PAREを利用した。再編された配列は通常のDNAには存在せず,腫瘍DNAだけに存在するため,この特異的な配列に基づいて個別にバイオマーカーを決定することができる。

 同博士らは,決定したバイオマーカーを用いて血中および他の体液サンプル中に含まれる大量の正常DNAから微量の腫瘍DNAを検出することができた。さらに,同方法は腫瘍の外科的除去または他の治療後でも簡単に実施可能であった。

 同博士らは「PAREの費用は高額なため,臨床の場で普及させるには大幅なコストダウンが必要だ。しかし,このアプローチは放射線療法,化学療法および外科手術などのがん治療において,有効性を個別に評価する方法に変革をもたらすかもしれない」と今後の動向に注目している。

Medical Tribune 2010-4-22

予防的両側乳房切除を選択する女性が増加
 オハイオ州立大学のDoreen M. Agnese博士らは過去10年間のデータを検討し,「片側乳がんと診断された女性では,健康な対側乳房も予防目的で切除する例(予防的対側乳房切除)が増えている」と発表した。

6.5%から16.1%へ

 米国では,乳がんと診断された女性が対側乳房のがんを予防するために両側乳房切除を選択する例が増えている。このような女性の代表格がテレビタレントのChristina Applegateだ。彼女は2008年に乳がんと診断され,健康な乳房も切除することを選んだ。彼女には乳がんの家族歴があり,BRCA遺伝子変異の検査結果も陽性で,対側乳房もいずれ発がんする可能性が高かった。

 そこでAgnese博士らは,両側乳房切除の増加傾向を確認し,片側切除と予防的対側乳房切除を比較するため今回の試験を行った。 1998〜2007年に,OSUCCC-Jamesで片側乳房切除術を受けた乳がん患者は1,639例で,そのうち予防的対側乳房切除を選択した女性は 201例だった。1999年に対側乳房切除を選択した女性は6.5%であったのに対し,2007年には16.1%と増加傾向が認められた。

 また,がんの家族歴を有する女性では,両側乳房切除を選択する割合が片側乳房切除より高く(57.5%対41.7%),特に母親や姉妹に乳がんが見られた患者で顕著であった。また,進行乳がん(Stage III〜IV)の患者より早期乳がん(Stage I 〜II)の患者で両側乳房切除を選択する率が高かった。

若年,高学歴者に多い

 さらに,患者の教育レベルが選択に大きな影響を及ぼしていた。大学以上の教育を受けた女性では,高校〜専門学校の教育を受けた女性よりも予防的対側乳房切除を選択した率が高かった。

 Agnese博士は「片側乳がんと診断された女性で予防的対側乳房切除を選択する傾向が強まっており,全米で見られる傾向と一致していた。予防的対側乳房切除の選択はより若年,高学歴に加えがんの家族歴を有する患者で多かった」と説明している。

 研究者らは予防的対側乳房切除を選択する女性が増えた原因を究明しようとしている。過去の研究では,対側乳がんは初発の乳がんよりも早期に発見される傾向があるため,健康な乳房を切除しても生存率の改善は望めないことが示されている。

Medical Tribune 2010-4-22

HPV陽性頭頸部がん 喫煙で再発率5倍に
 ミシガン大学総合がんセンター耳鼻咽喉科・薬理学科のThomas Carey教授らは,高リスクヒトパピローマウイルス(HPV)が関与する頭頸部がん患者では喫煙歴を有することで,アウトカムが悪化すると発表した。高リスクHPVは子宮頸がんに関与するウイルスと同タイプのウイルスである。

HPV陽性がんは増加の一途

 これまでにも,喫煙者では非喫煙者と比べて頭頸部がんを発症しやすいとされてきた。しかし近年,HPVが関与する頭頸部がんが増加しており,これは非喫煙者でこのがんが増加していることを意味している。

 同センター頭頸部腫瘍学プログラムの指導官も務めるCarey教授らは今回,HPV陽性の頭頸部がんでも喫煙がアウトカムに影響を及ぼすか否かについて検証した。

 同研究では,扁桃や舌根部にがんを有する進行性の中咽頭がん患者124例が検討された。その結果,患者の腫瘍組織のほとんどでHPVが認められ,HPVが口腔咽頭がん発症の主因子であるとするこれまでの知見と一致した。

 喫煙歴については,HPV陰性患者の全例(22例)が喫煙者であり,HPV陽性患者(102例)のおよそ3分の2が現在喫煙しているか喫煙歴を有していた。

 HPV陽性患者のがん再発率は,非喫煙患者で6%,過去の喫煙患者で19%,現喫煙患者で35%であった。また,HPV陰性患者ではアウトカムがより不良で,再発率は50%であった。

 これまでの研究では,HPV陽性頭頸部がんは現行の治療に良好に反応する傾向があり,HPV陰性症例に比べ,総じて転帰は良好であることが示されていた。

 しかし今回の研究で,HPV陽性がんを有し現在も喫煙している患者のがん再発率は,非喫煙の患者と比べて5倍強高まること,さらに,以前たばこを吸っていた人でも再発率は高まることが明らかになった。

 同教授は「これまでの通説では,HPV陽性ならば予後は良好であるとされていた。そのため,喫煙という大きな問題が立ちはだかっていることに加え,それが実際に患者のアウトカムに影響を及ぼしていることを知り,驚いた」と述べている。

Medical Tribune 2010-4-22

胃全摘術後の合成グレリン投与が体重減少を抑制
 胃全摘術を受けた患者に合成グレリンを投与することで食欲と食物摂取が改善し,体重の減少が抑えられるとするデータが,大阪大学などのグループにより発表された。

 グレリンは食欲増進作用のあるホルモンで,大部分が胃で産生されるため胃全摘術後は血中グレリン値が低下する。同グループは,胃全摘術後の外因性グレリン投与が食欲と経口食物摂取を改善し,術後の体重減少を防ぐかどうかを検討する第II相試験を実施した。

 対象は胃がんにより胃全摘術を受けた21例。術後の経口食物摂取開始から10日間,合成ヒト・グレリン(3μg/kg)またはプラセボ(生理食塩液)を1日2回静注点滴する2群にランダムに割り付け,体重の変化,visual analog scale(VAS)による食欲スコア,食物摂取カロリー,基礎代謝量などを評価した。

 グレリン投与中に著しい発汗を呈した1例を除く20例が試験を完了した。その結果,グレリン群はプラセボ群と比べ食物摂取と食欲が有意に高かった(食物摂取:13.8kcal/kg/日対10.4 kcal/kg/日)。また,グレリン群では体重の減少が有意に少なかった。

Medical Tribune 2010-4-22

結腸鏡検査 消化器専門医以外の検査では陰性後のがんリスク高い
 トロント大学(カナダ)のLinda Rabeneck博士らは「病院で結腸鏡検査を受けて陰性であった者のうち,消化器専門医以外の検査を受けた者では,その後の結腸直腸がん(CRC)発症リスクが有意に増大した」とする研究結果を発表した。

相当量の訓練の反映

 少なくとも過去10年間に,結腸鏡検査で陰性だった場合のCRC発症率は,一般人口と比べ減少してきた。しかし,検査結果が陰性であるにもかかわらず,発がんしている例がまだ存在している。そのため,難易度の高い手技を行う施術者にとって,広範囲な正規の訓練を受けることは重要である。

 今回の研究では,カナダのオンタリオ州に住む50〜80歳人口のうち,1992年1月1日〜97年12月31日に受けた結腸鏡検査の結果が陰性で,CRCと炎症性腸疾患の既往と直近の結腸切除歴のない11万402例をコホートとして設定し,2006年12月31日まで追跡。CRCと新規に診断された患者を同定した。

 15年間の追跡期間中,1,596例(1.45%)がCRCを発症した。結腸鏡の平均施行回数とCRC診断との間に相関は認められなかった。検査を受けた施設の86%が病院で,一般外科医や内科医,家庭医など消化器専門医以外によって施行された者では,その後のCRC発症リスクが有意に増大した。プライマリケア医またはクリニックの受検者では,施行者の専門とCRC発症率との間に有意な関連は認められなかった。今回の結果から,内視鏡検査施行医の専門が結腸鏡の有効性の重要な決定因子となることがわかった。

Medical Tribune 2010-4-22

妊娠中の食生活が孫にも影響,乳がんリスクが1.6倍に
米研究者が動物実験で解明
 妊娠中に高脂肪の食生活をすると,生まれた娘の乳がん発症リスクが1.6倍になり,その傾向はその次の世代,すなわち孫娘にも引き継がれる―。そんな可能性が,米ジョージタウン大学医療センターのSonia De Assis氏らの動物実験によって明らかになった。

未知の後天的DNA修飾による遺伝子発現制御が影響か

 De Assis氏らはまず,妊娠中のラットに高脂肪食もしくは通常食を与えた。高脂肪食は全体の43%を脂肪分が占めるものの,摂取カロリーは通常食と変わらない食事のことだ。続いて,そのラットの孫(第3世代)を(1)A群:両親(第2世代)ともに高脂肪食ラット(第1世代)から誕生,(2)B群:一方の親が通常食ラット,もう一方の親が高脂肪食ラットから誕生,(3)C群:両親ともに通常食ラットから誕生―に分割。祖母ラットの食生活が孫ラットに及ぼす影響を検討した。

 その結果,孫ラットの乳がん発症率はA群80%,B群69%,C群50%と,両親ともに高脂肪食ラットから生まれた場合,孫ラットの乳がんリスクが1.6倍に上昇することがわかった。同氏らはさらに,食事管理をされたラットとは別に,乳がんに大きくかかわるエストラジオールを与えられたラットの孫についても検討したが,祖母ラットのエストラジオール摂取が孫ラットの乳がん発症に影響することは認められなかった。この結果は,高脂肪食によるエストロゲンの生成増加が乳がんリスクを高めているのではなく,他の経路をたどるメカニズムがあることを示唆しているという。

 以上の結果について,同氏は「妊娠中の食生活が2世代先の乳がんリスクにまで影響する仕組みはまだ解明されていないが,未知の後天的DNA修飾による遺伝発現制御,すなわちエピジェネティクス的な変異が発生し,それが子や孫ラットの乳腺に変異をもたらしているのではないか」と推測。ヒトにおいても,妊娠中はバランスの取れた食事をするよう提言している。

Medical Tribune 2010-4-23

イラクで乳がんが増加 総合疫学研究始まる
 近年,イラクでは乳がんが増加している。そこで昨年,乳がんの発症機序の解明と罹患率の減少を目的に,国家がん研究プログラムが開始された。プログラム長を務めるバグダッド大学国立乳がん研究ユニットのNada A. S. Alwan博士が,第2回米国がん研究協会(AACR)死海国際会議で同プログラムの初期データを公表した。

 同博士は「プロジェクトは,イラクで見られる主要ながんの危険因子について,総合的な疫学研究を行うことがおもな目的である。特に,患者の居住地域ごとのがんの特徴と挙動に焦点を当て研究を行う」と述べた。

 対象は乳房のしこりを訴えた5,044人のうち,のちにがんと診断された721例。40〜49歳の患者が約3分の1を占め,都市部出身者が 71.9%,既婚者が75%だった。授乳経験がある患者は63.1%,ホルモン療法を受けたことがある患者は29%,乳がんの家族歴がある患者は 16.2%だった。

 自分でしこりを見つけた患者が90.6%を占めていたが,1か月以内に診察を受けたのは32%だった。このため,受診時に乳がんがIII期または IV期まで進行した患者が47%にのぼった。

 同博士は「今回の研究からイラクでの乳がん増加が閉経前女性の罹患増加と関連していることがわかった。この結果を他の中東諸国のデータと比較する計画がある」と述べた。

Medical Tribune 2010-4-29

ビーフステーキの焼き方に注意 電気よりガスでがんリスクが上昇
 ノルウェー科学技術大学のKristin Svendsen准教授らは「ガスコンロで肉を焼くときに発生する煙は,電気コンロを使用したときよりも有害である」と発表した。プロの料理人・調理師は特にがんリスクが高い可能性があるとしている。
 
15分間の加熱調理実験で

 国際がん研究機関(IARC,仏)では,高温で肉を焼くときに生じる煙を“ヒトに対し発がん性を示す可能性がある”と分類している。

 ひまわり油,大豆油,菜種油などの植物油およびラードを用いる際に発生する煙からは,微粒子や超微粒子と相まって,有害な多環芳香族炭化水素(PAH),複素環アミン,変異原性を有する高級アルデヒドが検出されている。

 しかし,料理に用いるエネルギー源や脂肪の種類が,煙の成分に影響を及ぼすか否かについては明らかにされていない。

 Svendsen准教授らは今回,典型的な西洋レストランの厨房を想定し,400gのステーキ用牛肉17枚をフライパンで15分間加熱調理する実験を行った。被験者は,マーガリンまたは2種類の大豆油のいずれかを用い,ガスコンロまたは電気コンロでステーキ肉を調理した。

 マーガリンには大豆,菜種,ココナツ,ヤシの混合油とビタミンAおよびDが含まれていたが,硬化油脂は含まれていなかった。同准教授らは,料理人が呼吸すると思われるあたりで,空気中に含まれるPAH,アルデヒド,総微粒子物質の量を測定した。

PAHはマーガリン使用時に高値

 測定の結果,検出されたPAHはナフタレンのみであったが,17枚の肉サンプル中16枚において発生し,濃度は0.15〜0.27μg/m3 airの範囲であった。この値は,ガスコンロでマーガリンを使って加熱調理したときに最高値を示した。

 すべてのサンプルで高濃度のアルデヒドが発生し,変異原性アルデヒドはほとんどのサンプルで検出された。検出された濃度は未検出〜61.80μg/m3 airの範囲であったが,使用した脂肪の種類にかかわらず,ガスコンロで加熱調理したときに最高値を示した。

 また,電気コンロでなくガスコンロで加熱調理したときのほうが,超微粒子の発生量(最高値)は高かった。さらに,ガスコンロ使用時の微粒子サイズは40〜60nmであったが,電気コンロでは80〜100nmであった。超微粒子は,速やかに肺に吸収されることが知られている。

 Svendsen准教授らは今回の研究から,「試験中に見つかったPAHや微粒子物質のレベルは職業上の安全許容範囲内であったが,煙には安全閾が明らかにされていないさまざまな有害成分が含まれ,ガス調理によりこうした成分への曝露が増加するようだ」と述べ,「煙への曝露はできるだけ避けるべきだ」と警告している。

Medical Tribune 2010-4-29

乳製品摂取で子宮筋腫リスクが低下 アフリカ系米国人女性で検討
 ボストン大学スローン疫学センターのLauren A. Wise准教授らは,乳製品を多く摂取するアフリカ系米国人女性では子宮筋腫の発症率が低いと発表した。

発症率の人種間格差に寄与

 子宮筋腫は子宮に発症する良性腫瘍で,白人女性と比べてアフリカ系女性で発症率が2〜3倍高いとされている。米国で施行される子宮摘出の原因として,子宮筋腫の占める割合は最も高く,年間の医療費は22億ドルにのぼる。全米調査によると,アフリカ系女性では白人女性と比べて乳製品の消費量が少なく,カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),リン(P)の摂取も少ない。子宮筋腫の原因は十分に解明されていないが,性ステロイドホルモンと成長因子が重要な役割を果たすと見られている。

 Wise准教授らは,乳製品が抗酸化作用を有し,内因性の性ホルモンを抑制する可能性があると考え,今回の研究を実施。Black Women's Health Studyのデータに基づき,1995年に登録されたアフリカ系女性5万9,000人を対象に,2年に1回調査票を送り,子宮筋腫と診断されたか否かについて回答してもらった。食事内容については,米国立がん研究所(NCI)のBlock簡易型食物摂取頻度調査票(FFQ)の改訂版を用いて2回評価した。

 10年間のフォローアップ中に,5,871例が子宮筋腫と診断された。乳製品の摂取が1日1食分未満の群に比べ,4食分以上の群では子宮筋腫の発症率は30%低く,他の危険因子調整後も,乳製品の摂取量と子宮筋腫リスクとの間には負の相関が認められた。

 また,CaおよびPの摂取,さらにCa対P比率(Caの生物学的利用能の指標)と子宮筋腫リスクとの間にも負の相関が示された。

 アフリカ系女性では白人女性と比べて乳製品摂取が少ないため,この摂取量の差が子宮筋腫の発症率で見られる人種間格差に寄与している可能性がある。

 同准教授は「正確な機序は不明であるが,乳製品によって子宮筋腫リスクが低下してもなんら不思議ではない。乳製品の主成分であるCaが細胞増殖を抑制している可能性がある」と説明。今回の研究について「乳製品摂取と子宮筋腫リスクとが逆相関することが初めて示された。今後,もしこの関係が証明されれば,主要な婦人科系疾患である子宮筋腫において,調整可能な危険因子が特定されたことになる」と期待を寄せている。

Medical Tribune 2010-4-29

パイプや葉巻の使用者もCOPDリスク上昇
 コロンビア大学疫学科のGraham Barr助教授らは「パイプや葉巻の使用者では非使用者と比べて慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一因となる肺機能異常を示すリスクが2倍高く,喫煙歴を有する場合はリスクが3倍以上になる」との研究結果を発表した。

COPDの危険因子と考えるべき

 Barr助教授らは,3,528例(48〜90歳)を対象に呼吸検査を行い,喫煙歴について調査した。また,葉巻あるいはパイプの使用歴は肺機能と比較した。対象者のうち56例はパイプまたは葉巻のどちらかを,428例はパイプまたは葉巻とたばこを併用し,1,424例はたばこのみを吸っていた。

 対象は米国立衛生研究所(NIH)の1部門である米国立心肺血液研究所(NHLBI)が支援するアテローム動脈硬化多民族研究(MESA)の拡張研究であるMESA肺研究から抽出した。

 検討の結果,パイプまたは葉巻の使用者では喫煙歴の有無にかかわらず,喫煙歴のない参加者に比べて肺機能の低下および気道閉塞に対するオッズ比(起こりやすさ)の増加が認められた。これらのパイプや葉巻の使用者では,ニコチンが体内で代謝されてできるコチニン値が典型的な喫煙者よりは低いが,非喫煙者と比べて高かった。

 同助教授らは「パイプや葉巻の長期の使用は肺に損傷を与え,COPD発症の一因となる。医師はパイプや葉巻はCOPDの危険因子と考えるべきで,過去の喫煙歴の有無にかかわらず,患者と禁煙について話し合うべきである。たばこと同様に,パイプや葉巻はCOPD,心疾患,肺がん,口腔と咽喉のがんとも相関が認められる」と述べている。

Medical Tribune 2010-4-29

がんスクリーニングへの参加意欲 社会人口統計学的特徴が影響
 ボストン大学のNancy R. Kressin准教授らは,社会人口統計学的な特徴が患者のがんスクリーニングへの参加意欲に影響することを明らかにした。

3都市で電話インタビュー

 がんの早期発見にはスクリーニングが重要であるが,マイノリティー(人種,民族的な少数派)は子宮頸がんや結腸直腸がんといった特定のがんのスクリーニング率が低いことが,先行研究によって明らかにされている。

 Kressin准教授らは「これまでマイノリティーのスクリーニング率が非ヒスパニック系白人に比べて低い理由について研究してきた。なぜ特定の人口集団でスクリーニング率が低いのかという理由について,さまざまな種類のがんスクリーニングごとに調べることが重要である」と指摘。さらに「その理由を探るため,スクリーニングに対する患者の考え方を理解することが必要だ」と述べている。

 同准教授らは,複数の地域のスクリーニング率の異なる多様な集団間で,患者のがんスクリーニングへの参加意欲を検証した。今回の研究では人種・民族などの社会人口統計学的特徴が,がんスクリーニングに対する考え方およびスクリーニングへの参加意欲にどのように影響するかを評価した。

 今回の研究では,プエルトリコのサンファン,メリーランド州ボルティモア,ニューヨーク市の3都市からランダムに選んだ住民に電話インタビューを行った。

 回答者は,(1)自身の社会人口統計学的な特徴(2)がんスクリーニングを受けない理由(3)どうしたら受けるようになるのか―について自分の考えを答えてもらった。さらに,スクリーニングへの参加意欲についても,スクリーニングが(1)コミュニティー(地域社会)内で行われる場合(2)医師の診療所で行われる場合,また(3)症状があるか(4)症状がないか―の4つのシナリオを考えて答えてもらった。

キャンペーンは特定人口を標的に

 検討の結果,低学歴で低所得であるほど,高学歴で高所得の人よりもがんのスクリーニングを受ける率が低かった。こうした割合の違いは,がん関連の死亡率の格差につながるかもしれない。マイノリティー,年齢,低所得は,がんのスクリーニングへの参加意欲との関連が認められた。

 Kressin准教授らは「今回の研究結果を活用することにより,今後,スクリーニングを受ける率の低い集団を教育し,早期にがん治療を開始できるようになるだろう」と述べている。

 先行研究で,スクリーニングを否定する人には,痛みや診断についての不安,検査の有効性や他者への不信感があり,それらはマイノリティーに最も多く見られることが示されている。また,それががんスクリーニング参加率の低さの理由であることも示唆されている。

 同准教授らは,既にがんの症状があり,かかりつけの医師に診てもらっている患者では,スクリーニングへの参加意欲が最も高いことも明らかにした。

 がんスクリーニングへの参加キャンペーンでは,特定の人口グループを標的に,スクリーニングに否定的な人の考え方・態度を変更させる方法での実施が求められる。

Medical Tribune 2010-4-29

CTによる肺がんスクリーニング 喫煙者への推奨は慎重に
 肺がんの家族歴のある人から「私は喫煙者ですが,定期的に肺のCT検査を受けたほうがよいでしょうか」と相談を持ちかけられたら,どうアドバイスすべきか。シラーヘーエ病院(独)呼吸器・胸部外科センターのMartin Kohlhufl講師は,肺がんスクリーニングの現状について紹介するとともに「現在進行中の試験の結果が明らかになるまでは,無症候の喫煙者に対し,一概にCTによるスクリーニングを勧めるべきではない」との見解を示した。
 
結節発見後に検査依頼が殺到

 ドイツでは肺がん死亡者が毎年約4万人にのぼっている。肺がんは初期の段階ではほとんど自覚症状がないため発見が遅れることが多く,5年生存率は 10〜15%にすぎない。診断確定時点で,肺がん患者の2例に1例で既に遠隔転移が生じている。そこで現在,早期診断による予後改善を見込んでCTによる肺がんスクリーニングの評価が行われている。

 今回のスクリーニング試験の対象者は元喫煙者1,450例と現喫煙者2,192例から成る高リスク群で,無症候であることを登録条件とした。平均年齢は59歳で,喫煙指数の平均は47pack-yearsであった。評価開始時にCT検査を行い,その1年後にCT検査を再度実施。3年間追跡した。

 評価開始時のCT所見では,被検者の41%に1個または複数の非石灰化結節が認められ,その悪性度に関しては1,226例が低度,206例は中等度,40例は高度と判定された。この結果を受け,精密検査の希望が殺到。結局,評価開始時のCT所見で非石灰化結節が発見された被検者の55.6%が,より詳しい画像検査を受け,従来型胸部CT,PET,PET/CTなど,延べ1,070件の放射線検査が実施された。

 同スクリーニング試験では,0.5cm未満の低リスク病巣であれば,さらなる検査の実施を控えるよう推奨されていた。しかし,実際にはこれに該当する被検者の40.2%が追加の放射線検査(検査件数は延べ357件)を受け,29例では侵襲的検査も実施されたが,肺がんが発見されたケースはなかった。Kohlhufl講師は「『直径8mmの病巣が発見されましたが,リスクが高いわけではありません』と説明された被検者が,それで納得するとも考えづらく,1年後に予定されているCT再検査を待たずに精密検査を希望するのは,ある意味で当然のことだ」と理解を示した。

死亡を減少させるかどうか不明

 1年後のCT再検査では,評価開始時に発見された非石灰化結節の約97%が変化なし,あるいは一部または完全な退縮もしくは石灰化という良性の判定基準を満たしていた。再検査で新規の非石灰化結節が発見されたのは256例(7.5%)であった。さらに,CTの再検査後2年間で肺がんと診断されたのは80例(累積発現率2.2%),非小細胞がんの52%はステージ I またはIIで,小細胞がんの割合は11%であった。

 以上の結果から,Kohlhufl講師は「今回のスクリーニング試験において,被検者の約97%では肺がんを示唆する所見を認めておらず,発見された小病巣(直径1cm未満)の圧倒的多数が良性であった」と指摘。「CTによるスクリーニングを通じて,がんの診断件数と手術数が増加することは事実であるが,がんによる死亡の減少につながるかどうかはまだ評価できる段階にない」と述べた。

 CTスクリーニングが不要な侵襲的検査の実施につながったことは明らかである。同講師は「ランダム化比較試験であるNELSON試験などの最終データが明らかになるまでは,無症候の喫煙者に一概にCTスクリーニングを推奨すべきではない」と指摘した。

Medical Tribune 2010-4-29

HPV検査が最善の選択
子宮頸がんのスメア検査で境界域の女性
 シドニー大学(オーストラリア)公衆衛生学部のKirsten J. McCaffery博士らは「子宮頸がんのスメア検査(細胞診)の結果に問題があった場合,ヒトパピローマウイルス(HPV)検査を行うほうが,従来のスメア再検査を行うよりも,受診者は心理および社会的な満足感が得られるようだ」と発表した。

HPV検査群で低い不安感

 子宮頸部異常における境界域例へのHPV検査は米国と欧州で可能で,イングランドとウェールズの頸部がん検診プログラムにも近く導入される予定である。

 HPV検査には利点がある一方,女性のQOLと心理・社会的満足感は得られにくいとの見方もある。しかしこれまで,これらのアウトカム,または情報提示をしたうえでの方針選択(インフォームド・チョイス)については適切に評価されていなかった。

 そこで,McCaffery博士らは,スメア結果が境界域であった女性を対象に,3つの戦略を比較し,いずれがその後1年間に最善の心理・社会的アウトカムをもたらすかを検討した。

 研究では,スメア結果が境界域だったオーストラリア全土の女性(16〜70歳)314例を,(1)HPVDNA検査(HPV検査群:104例)(2)6か月後にスメア再検査(スメア再検査群:106例)(3)受診者に情報と決定支援を提供したうえでいずれか選んでもらった検査(インフォームド・チョイス群:104例)―のいずれかを受ける群にランダムに割り付けた。

 心理・社会的アウトカムは,最低12か月にわたり定期的に評価された。これには,(1)子宮頸がんの心配(2)侵入思考(3)異常スメアについての不安―が含まれた。また,年齢,教育,雇用,婚姻状況,子供,民族などの人口統計学的変数も測定した。

 2週間後の調査では,スメア再検査群に比べ,HPV検査群では一部の心理・社会的アウトカムは劣ったが,12か月で通算すると,HPV検査群でスメア異常に関する不安が最も低く,逆にスメア再検査群では最も高かった。

 同博士らは今回の結果について「HPV検査群とインフォームド・チョイス群では,スメア再検査群より満足度が高かったが,受診者に情報と決定支援を提供したうえでいずれかを選択させることの利点はなお不明である」と述べている。

 また,心理・社会的効果について「最初はHPV検査群で劣ったが,1年間のフォローアップ期間を通して見ると,同群のほうがスメア再検査群より良好であった」とし,「これらの知見は,スメア検査の結果が境界域の女性にHPV検査を施行するという英国での動向を支持するものである」と結論している。

Medical Tribune 2010-4-29