広葉樹(白)  
          

 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2010年12月



2010年12月 文献タイトル
農薬への慢性曝露で認知機能低下リスクが2倍以上上昇
フランスのブドウ農家を対象とした初の前向き研究
アスピリンに「がん予防効果」 少量・長期服用→死亡率低下
早期大腸がんを尿検査で発見 従来の方法より高感度
損害賠償請求は計2億円,中村祐輔氏らが朝日新聞を提訴
「悪意に満ちた行為を無視できない」
卵巣がん発見のための症状を盛り込んだガイドライン草案
運動や非肥満,非喫煙など5つの生活習慣順守で大腸がんの予防が可能
マスメディアによる健康キャンペーンに一定の効果
がん検診や予防接種の普及などに貢献
わずかな煙でも肺を損傷 米報告書、たばこの害訴え
がん探知犬、においで患者ピタリ…精度9割超
「重いバッグ」ではなくダンベル運動で乳がん関連リンパ浮腫発症率が低下
前立腺がんのアンドロゲン枯渇療法が大腸がんリスク増大と関係
白血病女性患者の卵巣凍結・再移植にリスク
造血幹細胞移植による“HIV感染症完治”の道筋が示される
注目されるドイツからの1例報告
大阪大開発のがんワクチン治験へ…製薬2社が来月にも
〜再発卵巣がんに対する早期化学療法〜
生存率の延長効果なくQOLを損なう
iPadでがん治療を受けやすく
便秘が結腸・直腸がんのリスク低下に作用

農薬への慢性曝露で認知機能低下リスクが2倍以上上昇
フランスのブドウ農家を対象とした初の前向き研究
 フランスLaboratoire Sant Travail EnvironementのIsabelle Baldi氏らは20年以上ブドウ栽培に従事する40〜50歳代の人を対象とした前向き研究から,長期間の農薬への曝露により認知機能低下のリスクが2倍以上に高まることを報告した。

 PHYTONER試験と名付けられた同研究は,ヒトにおいて農薬の長期にわたる神経学的影響を前向きに検討した初の研究だという。
 
約4年の短期間でMMSEが低下

 農薬への曝露が,ヒトのがんや神経疾患,生殖能力障害のほか,うつや不安障害,パーキンソン病やアルツハイマーと関連することなども報告されている。しかし,農薬の精神神経学的影響を長期的に検討した研究はほとんどないとBaldi氏らは指摘。

 1997〜98年,フランス南西部のボルドー地区でワイン用のブドウ農家で働く929例がエントリーした。対象者の年齢はおよそ50歳で,20年以上農業に従事していた。対象者はエントリー時および2001〜03年の初回フォローアップ時に9種類の神経行動学テストなどを受け,農薬曝露の有無による解析が行われた。

 フォローアップ時の回答を完遂できた614例を解析した結果,農薬曝露群では7つのテストにおいてベースライン時からのスコア悪化が最大5倍に上昇していた。

 同氏らは「40〜50歳代と比較的若い人が対象であったにもかかわらず,約4年の短期間にMMSE(Mini-Mental State Examination)の減少が見られたことはインパクトが大きい」と述べている。

  その上で認知機能の低下と認知症発症リスクの関連が示唆されていることを考えると,農薬への慢性曝露にはアルツハイマー病やその他の認知症といった神経変性疾患を進行させる可能性のあることが懸念されるとしている。

Medical Tribune 2010-12-3

アスピリンに「がん予防効果」 少量・長期服用→死亡率低下
 1日に75ミリ・グラム程度のアスピリンを5年以上服用すると、がんで死亡する確率が大幅に低下する。こんな研究結果が、7日付の英医学誌ランセット電子版に掲載された。

 英オックスフォード大のチームが、循環器などに疾患がある患者約2万5500人を、最長20年間にわたり追跡調査したデータを解析。アスピリンを長期服用した人と服用しなかった人の、がんによる死亡率を比較した。

 その結果、アスピリンを5年以上服用した人の、がんによる死亡率は、服用しなかった人に比べて21%低かった。特に消化器系がんでの死亡率は54%も低く、アスピリンのがん予防効果は高いと結論づけた。服用量の75ミリ・グラムは、市販薬1錠に含まれるアスピリン約250ミリ・グラムに比べ少ない。

m3.com 2010-12-9

早期大腸がんを尿検査で発見 従来の方法より高感度
 尿検査でがんを見つける方法を、東京都臨床医学総合研究所とバイオベンチャーのトランスジェニック(本社・熊本市)などの研究グループが開発した。早期の大腸がんで6割以上の高率で見分けることができた。血中のたんぱく質をはかる従来の検査に比べて感度が高く、体への負担もないという。すでに特許を取得し、国内のメーカーと共同でがん検診用キットを開発している。

 同研究所の川喜田正夫博士らのグループが開発したのは、尿に含まれる化合物「ジアセチルスペルミン」の量を抗体検査で調べる方法。この化合物は細胞の増殖に関係している。増殖する細胞で分泌されると、血液中をめぐって尿と一緒に排出される。がん細胞は増殖能力が高いため、体内にあると尿にこの化合物がより多く含まれるということは知られていた。

 研究グループは、マウスの免疫細胞からこの化合物を特異的にとらえる抗体を作り出すことに成功。この抗体を使って尿にある化合物の量を調べ、早期がんでも見分けられることをがん患者で確かめた。

 その結果、大腸がんでは248人中75.8%をがんと判別。粘膜や大腸壁にとどまる早期の段階でも6割以上のがんを見分けられた。

 川喜田さんは「ジアセチルスペルミンはどんながんでも尿中で増える。検査値が高いのに内視鏡検査で大腸がんが見つからない場合は、ほかの臓器にがんがある可能性がある。そうした検査への応用もできるだろう」と話す。

アサヒ・コム 2010-12-8

損害賠償請求は計2億円,中村祐輔氏らが朝日新聞を提訴
「悪意に満ちた行為を無視できない」
 朝日新聞の「がんワクチン」報道によって名誉を傷つけられたとして,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔氏とオンコセラピー・サイエンス社(代表取締役社長=角田卓也氏)は12月8日,朝日新聞社と当該記事を執筆した編集委員ら2人を相手取り,損害賠償と謝罪広告掲載を求めて東京地裁に提訴した。損害賠償の請求額は,名誉棄損では異例となる計2億円(中村氏とオンコ社が1億円ずつ)。同日に東京都で開かれた記者会見で,同氏は「当該記事は,何らかの意図があると疑わざるをえないような構成になっている。悪意に満ちた行為を無視できない」と述べた。

勝訴の場合は損害賠償を寄付する予定

 「がんワクチン」報道は,朝日新聞が10月15日付朝刊1面などで報じたペプチドワクチンの臨床試験に関する一連の記事のこと。同紙は「臨床試験中のがん治療ワクチン『患者が出血』伝えず 東大医科研,提供先に」などの見出しで,被験者に起きた消化管出血を医科研が他施設に知らせなかったこと,それを中村氏が主導したこと,同氏とオンコ社が癒着していることなどを指摘していた。

 医科研と同所長の清木元治氏は,朝日新聞社に抗議および謝罪・訂正請求書,質問状を送ったが,同社は11月19日に回答書を提示して反論。中村氏とオンコ社の抗議に対しても,12月7日に「誤りはない」とする回答を送った。同氏らは,朝日新聞社側の態度が今後も変わらないと判断し,提訴に踏み切ったという。

 同氏は「直接的な取材をしていないにもかかわらず,記事には事実と異なる内容がある。それに基づいて医科研がナチスのような人体実験を行っているようにかき立てることは,ペンによる暴力と言えるだろう」と発言。何らかの意図を持って書かれた可能性を指摘し,「悪意に満ちた行為を無視できない」と述べた。また「(がんワクチン報道による)最大の被害者は患者だろう。記事には患者からの視点が全く欠けている」と指摘した。

 記者席からは,記事内容は解釈の違いや意見の範囲に入るのではないかとの質問があったが,同氏の代理人弁護士は「名誉棄損に該当するか否かは,通常の読者が読めば社会的評価が低下するかどうかが判断基準になると理解している。それに当てはめると,本件は名誉棄損に該当すると考えている」と回答した。

 また,1億円ずつの損害賠償については「通常の名誉棄損の損害賠償請求よりも高額であることは理解しているが,中村氏の経歴やオンコ社の株価下落※などをかんがみると,必ずしも過大とは思わない」としている。

 なお,原告側が勝訴した場合,訴訟費用以外の損害賠償金はあしなが育英会などに寄付する予定だという。

Medical Tribune 2010-12-8

卵巣がん発見のための症状を盛り込んだガイドライン草案
 英国立臨床評価研究所(NICE)は卵巣がんの発見に役立つ症状をまとめたガイドラインの草案を作成し,英国保健サービス(NHS)に提示。がんに関する慈善団体の1つであるTarget Ovarian Cancerは今後,卵巣がんをもう“サイレントキラー”と呼ぶべきではないと主張している。
 
Target Ovarian Cancerが意義と内容を解説

 Target Ovarian Cancerによると,サイレントキラーという誤った呼称を用いることは,女性の生命を危険にさらすことになる。なぜなら,この呼称は,卵巣がんと関連する症状はないという誤った考えを女性に抱かせるからである。卵巣がんは女性のがん死の原因として4番目に多い。診断後,5年以上生存する女性は3人に1人しかいない。

 Target Ovarian Cancerはこれまで,英国における卵巣がん患者に対する診断と治療の改善を求める運動を行っており,広報担当のFrances Reid部長は,NICEの専門グループの一員として,今回のガイドライン作成に協力してきた。

 同部長は「このNICEガイドラインの作成は,大きな前進である。今後,卵巣がんを決してサイレントキラーと呼ぶべきではない。今回のガイドラインは確固たるエビデンスに基づくもので,一般医が専門医への紹介や検査を行うに当たって,最新の知識を基にしたinformed decision(十分な情報を得た上での決定)を下す際に役立つと考えられる。また,女性が診察を受けるべき時期を考えるためにも有用である」と述べている。

一般医向けの学習ツールを開発

 また,Reid部長は「われわれが独自で行った研究でも,このようなガイドラインへのニーズが示されている。2009年にTarget Ovarian Cancerが実施したPathfinder試験では,女性の3分の1が「正確な診断が下されるまで6カ月以上待たされた」と答えた。さらに,「精神面や日常における支援でニーズが満たされていない」と答えた女性も3分の1いた。われわれはこのようなギャップを埋めるため,“What Happens Next?”(次は何が起こるか)と題するガイドブックを提供している」と述べている。

 「NICEの新しいガイドラインによって,何千人もの女性が便益を得ることになるだろう。また,卵巣がんという困難な疾患に取り組む一般医を支援するために,英国保健省などとわれわれが取り組んでいる協力関係をさらに強固にするものである。Target Ovarian Cancerはガイドラインの最終版の発表に合わせて, 英国医学雑誌発刊の一般医向けOvarian Cancer Online Continuing Professional Development module(生涯専門教育オンラインモジュール)を改訂する予定だ」(同部長)

 同モジュールは卵巣がんの症状を学習するための一般医向けツールで,Target Ovarian CancerはPathfinder試験で聴収した一般医の意見を取り入れて作成した。3月から稼動し,既に2,500人が同学習モジュールを終了している。

 さらに,同部長は「一般医の5人に1人が毎年,卵巣がん症例を診察することを考えると,この学習モジュールによって,今年だけで500人の女性が診断の遅れを回避できたことになる」と説明している。

プライマリケアでの対応にも言及

 卵巣がんに関するNICEガイドラインの草案に含まれている内容は以下の通り。

 (1)以下の症状のいずれかが,持続的かつ頻繁(特に1カ月に12回超)に見られる場合,特に50歳超の女性にはプライマリケアの段階で検査を開始すること

・持続性の腹部膨満(distention)
・摂食困難あるいは満腹感[早期満腹(early satiety)〕
・骨盤痛や腹痛
・尿意切迫感の増大あるいは頻尿

 (2)卵巣がんを疑う症状が見られる場合は血清CA125の値を測定する。同値が35IU/mLより大きい場合は,腹部や骨盤の超音波検査を依頼する

 (3)超音波検査で卵巣がんが疑われる場合,がんの広がりを確認するために骨盤,腹部,胸部のCT検査を行う。卵巣がんが疑われる女性にMRI検査をルーチンで行うべきではない

 (4)がんが卵巣に限局していると考えられる患者に対する標準外科治療として,系統的な後腹膜リンパ節郭清術を行うべきではない

 (5)新規に卵巣がんと診断されたすべての女性に,心理社会的問題や性心理学的問題に関する情報を提供する

Medical Tribune 2010-12-9

運動や非肥満,非喫煙など5つの生活習慣順守で大腸がんの予防が可能
 適度な運動や非肥満,非喫煙など健康的な5つの生活習慣を守ることで大腸がんのリスクが低下すると,デンマークのグループが発表した。

 同グループは,1993〜97年に50〜64歳のがんの既往のない男女5万5,487例を登録。推奨されている5つの生活習慣(適度な運動,適切なウエスト周囲径,非喫煙,適度なアルコール摂取,健康的食生活)の順守と大腸がんとの関係を評価した。

 中央値9.9年の追跡で678例が大腸がんと診断された。交絡因子を調整後,登録時の5つの生活習慣が1つ増えるごとに大腸がんのリスクは11%低下した。

 さらに,参加者全員が5つの生活習慣を順守した場合,大腸がんの23%は予防可能と推定され,その効果は特に結腸がんで有意であった。

Medical Tribune 2010-12-9

マスメディアによる健康キャンペーンに一定の効果
がん検診や予防接種の普及などに貢献
 ビクトリアがん評議会がん行動研究センター(オーストラリア)のMelanie A. Wakefield博士らは,テレビやラジオ,新聞などのマスメディアを介した健康に関する各種キャンペーンの効果を検証,評価した総説を発表した。同博士らは「マスメディアを利用したキャンペーンは,多くの人の健康に関連した行動変容に寄与しうる」と評価する一方,「キャンペーンのメッセージをより多くの人に伝達するためには,より長期の実施と,さらに多くの予算が必要である」と改善すべき点についても言及している。
 
テーマ別に効果を検証

 Wakefield博士らは,マスメディアを利用したキャンペーンの効果について,「偶発的な形を取りながら,繰り返し伝えることで,行動に焦点を合わせたメッセージを多くの人に徐々に浸透させていく効果がある。さらに,メッセージの伝達に要する1人当たりのコストはわずかで済むとされている。一方,その効果は不十分であったり,逆効果であったりすることもある」と説明している。

 また,マスメディアを介したキャンペーンの効果には,直接的なものと間接的なものがある。例えば,禁煙キャンペーンをテレビで見た人は直接的な影響を受ける可能性があるが,さらにこのことを周囲の人に伝えれば間接的に影響を及ぼす可能性もある。

 同博士らは今回,1998年以降に発表された論文を収集し,たばこやアルコール,違法薬物の使用のほか,栄養や運動,心疾患やHIV感染の予防,がんスクリーニングなど健康にかかわるテーマごとに,マスメディアによるキャンペーンの影響について検証した。また,キャンペーンの直接的影響と間接的影響についても検討した。

 その結果,各テーマで得られた知見は以下の通りである。

1)喫煙
 対照を設けたフィールド試験や人口学的研究の包括的レビューから,キャンペーンによって喫煙を開始する若者が減少し,禁煙する成人が増加することが明らかにされた。

 若者に対する喫煙防止効果は,メディアキャンペーンを学校や地域のプログラムと組み合わせれば,さらに高まることが期待できる。また,地域研究の多くで,メディアキャンペーンをたばこ税の引き上げや禁煙エリアの拡大などの対策と組み合わせると,成人の喫煙率が低下することが示されている。

 しかし,1990年代から始まったたばこ企業主導の禁煙キャンペーンは,逆に若者の喫煙リスクを高めていることが過去の研究で示されている。同博士らは「この種のキャンペーンでは,たばこを禁断の果実のように表現することで,結果的にたばこをより魅力的に見せ,喫煙を促している可能性がある」としている。

2)アルコール
 飲酒運転撲滅キャンペーンを除くと,アルコールの害を訴えるキャンペーンは成功していない。この点について,同博士らは「市場にアルコール飲料があふれていること,社会規範における飲酒のとらえられ方などが影響していると考えられる」としている。

 アルコール飲料関連企業が主導する安全な飲酒を訴えるキャンペーンも成功に至っていないが,これは視聴者にとってメッセージの意味が不明瞭なためであることが原因と考えられる。

3)違法薬物
 一致した結果は得られていない。一部のキャンペーンではマリファナの使用が減少したが,全国キャンペーンの中には逆にマリファナの使用拡大をもたらしたものもある。

4)栄養・運動・心血管疾患予防
 米国では1970年代から80年代にかけて,キャンペーンにより人々の行動が改善し,食生活も変化し,運動する人が増えた。

 これらのキャンペーンによる心血管疾患の全般的なリスク低下は小幅にとどまり,キャンペーンの対象外であった人口集団における低下幅と同等とするレビュー論文が存在する。一方,コレステロールや血圧に関する全米規模の啓発活動の一環として展開されたメディアキャンペーンがリスク低減に寄与したと強く主張する研究者もいる。

 低脂肪乳や野菜,果物を推奨するキャンペーンは健康的な食事の普及につながっている。運動を推奨するキャンペーンにも成果が見られ,50歳代の人と小児では好影響が認められている。しかし,同博士らは「キャンペーン終了後も効果を持続させることは難しい」と指摘している。

5)避妊とHIV感染
 欧州などではメディアキャンペーンの効果が認められ,不特定多数の人と性行為をする人口群におけるコンドーム使用率は向上したが,パートナー数の減少には至らなかった。

 HIV予防のためにコンドームの使用を推奨するメディアキャンペーンが展開されたアフリカでは,女性を対象とした調査で避妊目的でのコンドーム使用率が5%から18%に上昇した。

6)がん検診・がん予防
 がん検診のメディアキャンペーンについては,パパニコロー(Pap)検査やマンモグラフィの案内状送付を組み合わせることで認知度が上がり,これらの検査の受検者が増加した。一方,検診サービスが存在しない場合では,子宮頸がんの検診を勧めるメディアキャンペーンの効果はわずかであるか,全くなかった。

 オーストラリア・ビクトリア州で展開されている皮膚がんの予防キャンペーン“SunSmart”(太陽と上手に付き合う)は15年間続いているが,これにより紫外線を予防する習慣が広まり,重度の日焼けの発生率は大きく低下した。

7)小児の生存
 一致した結果は得られていない。バングラデシュでは,メディアキャンペーンにより予防接種率が向上した。乳幼児突然死症候群(SIDS)の調査を行っているオーストラリア,英国,米国,ノルウェー,スウェーデンなどの先進国では,乳幼児の仰向け寝を推奨するメディアキャンペーンが展開され,SIDSによる死亡が50%減少した。

8)交通安全
 シートベルトの着用を呼びかけるメディアキャンペーンでは大きな効果が得られている。シートベルト着用率が向上したことで高速道路での死傷事故が減少した。
企業広告や社会規範が普及阻む

 Wakefield博士らは「検診やワクチンの予防接種,小児に対するアスピリン投与の回避など,一度で完結すする行動に関するキャンペーンは,食生活や身体活動などの継続的な行動に関するキャンペーンに比べて効果が高い」と指摘している。

 一方,同博士らはメディアキャンペーンの普及を阻む要因として,アルコールや不健康な食品を販売するための企業広告や,社会規範の影響力の大きさを指摘。さらに,メディアの細分化が進むことで,メッセージを多くの人に浸透させることが困難になっている側面もあるという。

 結論として,同博士は「1つ1つのメディアキャンペーンがもたらす確固たる影響を見極めるのは難しい。しかし,これまでのエビデンスを集めれば,『マスメディアには人々の健康にかかわる行動を変容させる影響力がある』という結論を支持する十分な根拠になりうる」と述べている。

Medical Tribune 2010-12-9

わずかな煙でも肺を損傷 米報告書、たばこの害訴え
 米国の公衆衛生政策を指揮するベンジャミン医務総監は12月9日、直接喫煙か受動喫煙かにかかわらず、わずかでもたばこの煙を吸い込むだけで肺やDNAを即座に損傷し、がんの発症につながると警告する報告書を公表した。

 報告書はまた、習慣性を高めるため、たばこ会社がより素早くニコチンが脳に吸収されるよう製品にアンモニアを加えたり、煙をより深く吸い込みやすいようにフィルターを設計したりしているとも指摘。たばこを試した人々のうち約3分の1が常習的に喫煙するようになるとしている。

 公衆衛生局長官は「たばこの煙は人体のほぼすべての臓器を傷つける」とし、たった1本のたばこが心臓発作のきっかけになり得るとも訴えた。喫煙が原因で死亡するのは米国で毎年、44万3千人に上るという。

m3.com 2010-12-10

がん探知犬、においで患者ピタリ…精度9割超
 九州大医学部第二外科の前原喜彦教授らのグループが、がん患者特有のにおいが分かる「がん探知犬」に、大腸がん患者の呼気などをかぎ分ける実証試験をした結果、9割以上の精度で患者を判別できた。

 探知犬は、千葉県南房総市の「セントシュガー がん探知犬育成センター」が飼育しているラブラドルレトリバー(9歳、雌)。名前は「マリーン」で、海難救助犬として飼育されていたが、嗅覚や集中力が特に優れていたことから、がんのにおいをかぎ分ける訓練を受けている。

 グループは2008年6月から09年5月にかけ、福岡、佐賀県内の2病院で、消化管の内視鏡検査を受けた約300人から呼気と便汁を採取。内視鏡検査で大腸がんと分かった患者の1検体と、がんではなかった患者の4検体を一つのセットにして、探知犬に挑戦させた。

 呼気では36セットのうち33セット、便汁では38セットのうち37セットで「正解」をかぎ分けた。

m3.com 2010-12-11日

「重いバッグ」ではなくダンベル運動で乳がん関連リンパ浮腫発症率が低下
 臨床ガイドラインでは,浮腫のない乳がん生存者の浮腫防止策として重い荷物持ちを制限している。しかし,米ペンシルバニア大学AbramsonがんセンターのKathryn H. Schmitz氏らは,ダンベルを用いたウエイトリフティング運動を行った乳がん関連浮腫(BCRL)のない乳がん生存者の浮腫発症率は,ウエイトリフティングを行わなかった患者に比べて有意に低いという,制限に反するような結果を報告した。

1回90分間×週2回のウエイトリフティングを1年継続

 リンパ節郭清後の乳がん生存者の5〜6%に発症するBCRLは,不快感や上腕機能の低下を招くことから,QOLの阻害要因として患者の大きな懸念材料になっている。そのため,米国乳がん学会などでは,BCRLの発症リスクとなる重いバッグなどの荷物を持つのを避けるよう勧告している。

 しかしSchmitz氏らは,BCRLがない乳がん生存者にウエイトリフティングを行ってもらい,1年後のBCRL発症率を,行わなかった群と比較した。

 対象は,2カ所のリンパ節郭清を行い,登録時にBCRLが認められなかった乳がん生存者154例。ウエイトリフティング群77例(平均年齢54歳,平均リンパ節郭清数8),およびコントロール群77例(同56歳,9)にランダムに割り付けた。

 運動メニューは,背臥位でダンベルを側面や前面に持ち上げる,二頭筋,三頭筋を使って下げるなどで,1回90分間のウエイトリフティング運動を週2回1年間行うというもの。

安全に行えるウエイトリフティングプログラムの開発を

 1年後の上腕における浮腫の発症率は,対照群17%に対しウエイトリフティング群では11%と有意に低かった。

 さらに,5カ所以上リンパ節郭清を行った生存者における浮腫の発症率は,ウエイトリフティング群7%,対照群22%であり,両群間に有意差が認められた。

 Schmitz氏らは,ゆっくり行うウエイトリフティングが乳がん生存者のBCRL発症リスクを減少させると指摘したが,BCRLの予防対策としてウエイトリフティングを行うには,生存者が安全に行えるプログラムの検討が必要だとしている。

Medical Tribune 2010-12-14

前立腺がんのアンドロゲン枯渇療法が大腸がんリスク増大と関係
 前立腺がんに対するアンドロゲン枯渇療法は大腸がんのリスク増大と関係すると,米ミシガン大学などのグループが発表した。

 前立腺がんに対するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬または除睾術による長期アンドロゲン枯渇療法には,副作用の問題など議論がある。動物実験ではアンドロゲンは大腸発がんに保護的に働き,枯渇によって大腸がんのリスクが高まる可能性が示唆されている。

 同グループは,Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)とメディケアのデータベースから,1993〜2002年に前立腺がんの診断を受け,2004年まで追跡された男性10万 7,859例を特定。SEERのファイルから二次原発がんとしての大腸がん発症を確認し,アンドロゲン枯渇療法の転帰への影響を検討した。

 その結果,1,000人年当たりの大腸がん発症率は除睾術群が6.3,GnRH作動薬療法群が4.4,アンドロゲン枯渇療法非施行群が3.7であった。

 患者および前立腺がんの特性を補正後,アンドロゲン枯渇療法施行期間の長さと大腸がんリスクとの間に有意な用量反応性の関係が認められた。

Medical Tribune 2010-12-16

白血病女性患者の卵巣凍結・再移植にリスク
 ルーベンカトリック大学(ベルギー)のMarie-Madeleine Dolmans博士らは「卵巣組織の凍結保存と移植により,リンパ腫や固形腫瘍の女性患者で生児出生に成功した例が報告されているが,このような生殖能力の保存技術は白血病患者には安全でない可能性がある」とする研究結果を発表した。
 
高いがん再発リスク

 将来出産を希望する女性がん患者に有望な手段として,侵襲的な化学療法や放射線療法を受ける前に卵巣組織の摘出と凍結を行い,治療後に卵巣組織を再移植する方法がある。しかし,白血病患者では凍結保存された卵巣組織に悪性細胞が含まれている可能性があり,再移植後のがん再発が懸念されている。

 急性リンパ性白血病(ALL)患者の多くは若年で診断されるため,受胎能の保存を考慮することが特に重要である。米国立がん研究所(NCI)によると,ALL患者の71%,慢性骨髄性白血病(CML)患者のほぼ10%が35歳未満で診断されている。

 Dolmans博士らは今回,ALL患者12例(平均年齢14.5歳)とCML患者6例(同24.7歳)を対象に,卵巣組織の凍結保存と再移植の安全性を調べた。これら18例の卵巣組織が凍結保存された年齢は,2〜31歳であった(1999〜2008年)。

より安全な選択肢の開発を

 当初の顕微鏡検査では,各患者から採取された卵巣組織にがん性細胞は観察されなかったが,リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)による検査では,ALL患者の70%,CML患者の33%にがん性細胞が認められた。

 さらに18匹の免疫不全マウスに患者の卵巣組織サンプルを移植して18カ月間観察したところ,CML患者の組織を移植されたマウスでは移植片は正常に見えたが,ALL患者の組織を移植されたマウスでは4匹に腫瘍が発生した。このように,RT-qPCRとマウスを用いた研究で,特にALL患者から採取された凍結卵巣組織に存在する白血病細胞の生存可能性と悪性度が実証された。

Medical Tribune 2010-12-16

造血幹細胞移植による“HIV感染症完治”の道筋が示される
注目されるドイツからの1例報告
東札幌病院副院長・化学療法センター長 平山 泰生

 今回は,急性骨髄性白血病(AML)に罹患したHIV感染症患者1例に,このCCR5 Δ32ホモ接合ドナーから採取した造血幹細胞を移植し,HIVの消失を確認したドイツからの報告を紹介する。

研究のポイント:HIV感受性のない変異遺伝子を有するドナーを選択することにより白血病とHIVが根絶

 患者は40歳男性。10年前にHIV感染症と診断され抗HIV薬の投与を受けていた。2007年2月にAML〔FAB分類はM4(骨髄単球性白血病),正常核型〕と診断され抗がん薬治療を受けたが再発し,CCR5 Δ32 ホモ接合非血縁者をドナーとする末梢血幹細胞移植を受け,その時点で抗HIV薬投与は終了した。翌年AMLが再発したため,同様の手順で幹細胞移植が繰り返された。

 抗HIV薬を中止して3年半が経過した現時点で白血病細胞もHIVも検出されず免疫機能も正常であり,HIVは完治したと診断された。

私の考察:現時点では一般化できる治療ではない

 エイズはCD4陽性リンパ球の減少が致死的であるため,われわれ感染症と移植にかかわる医師たちはエイズによる死亡例が多い時代には,「造血幹細胞移植によりリンパ系造血を再構築するとCD4陽性細胞数の再増加が図られるのではないか」と話したものである。しかし,その場合でも移植後に増加してきたドナーCD4陽性細胞へのHIV感染は避けることができず,結局HIV感染は継続されることになる。その後の抗HIV薬の進歩により予後が改善されてきたため,「HIV感染症に同種移植」という発想は薄らいでいた。

 最近のウイルス学の進歩によりHIVの感染機構が詳細に解明され,リンパ球表面のCCR5が重要であることや,その変異によりHIV感染に対し感受性のない人が存在することなどが明らかとなってきた。

 今回の症例はAMLを合併したHIV感染症であるのが特殊である。再発したAMLは造血幹細胞移植が標準的治療である。どうせ移植するのならHIVに感受性のないドナーを選ぶのは理にかなっている。そこで,多数登録のある骨髄バンクの中からCCR5 Δ32 ホモ接合非血縁者を選択した。この変異は白人の1%程度に存在するようであるが,日本人のデータは明らかではない。

 私が以前解説したように,造血幹細胞移植はいまだに高率(26%)の治療関連死亡を伴う治療である。したがって,HIV感染症患者の一般的治療として今回の方法を行うのはリスクが大きく非現実的である。しかし,患者リンパ球をCCR5 Δ32 ホモ接合に置き換えることができればHIV感染症の完治に至ることが証明されたのは重要であり,より安全な治療法の開発につながってゆくと思われる。

Medical Tribune 2010-12-21

大阪大開発のがんワクチン治験へ…製薬2社が来月にも
 大阪大などが開発したがんワクチンについて、大日本住友製薬と中外製薬は12月21日、薬事法に基づいて安全性や効果を確認する治験(臨床試験)を来年1月にも始めると発表した。体の免疫機能を高めてがん細胞を攻撃させる治療法で、体への負担が軽く、副作用も少ないとされている。

 がんワクチンは、杉山治夫・大阪大教授らが開発した「WT1」。がん細胞の表面だけで活性化しているたんぱく質WT1から、免疫細胞が攻撃対象として認識する部分をワクチンとして人工的に合成し、がん患者に注射する。杉山教授らは学内の倫理委員会の承認を得て2001年から臨床研究を実施。白血病や肺がんなどの患者約500人に投与した。

 今回の治験は、病状が進むと白血病になる血液細胞のがん「骨髄異形成症候群」が対象で、数か所の医療機関で約60人にワクチンを投与する。両社は新薬承認を目指しており、「今後は他のがんにも治験の対象を広げたい」としている。

 米国立がん研究所が昨年発表したがんワクチン研究の総合評価では、WT1が75種類の候補物質中第1位となった。

m3.com 2010-12-22

〜再発卵巣がんに対する早期化学療法〜
生存率の延長効果なくQOLを損なう
 マウントバーノンがんセンター(英国)のGordon J. S. Rustin教授らは,完全寛解に至った卵巣がん患者に対して,CA125血液検査によるモニタリングを行った結果,「再発患者に対する化学療法は,一般に考えられるようにCA125値の上昇が見られた時点で早期に開始するのではなく,臨床症状が現れてから開始する方がQOLが良好である」との研究結果を発表した。
 
早期治療で改善なし

 卵巣がんの細胞が産生するCA125蛋白質の血中濃度は,卵巣がん患者が再発の症状・徴候を示す数カ月前から上昇することが多い。CA125検査の定期実施の是非や2次化学療法の開始時期などについては,医師によって見解が大きく異なる。このため,CA125検査や陽性結果を懸念する患者が大きな不安を感じる場合がある。

 英国医学研究評議会(MRC)のOV05試験と欧州がん研究治療組織(EORTC)55955試験では,CA125値の上昇が見られた時点で早期治療を行う方法と,再発の症状が現れるまで治療を行わない方法の有益性を比較した。

 完全寛解に至った卵巣がん患者1,442例が試験に参加し,3カ月間隔で臨床検査とCA125血液検査を受けた。このうち529例を正常値上限の2倍を超えるCA125値が認められた時点で早期化学療法群(265例,治療を直ちに開始)または再発時化学療法群(264例,再発の症状・徴候が認められた時点で開始)のいずれかにランダムに割り付けた。

 56.9カ月間(中央値)の追跡後,総生存率に群間差はなかった。370例が死亡し,うち186例が早期化学療法群,184例が再発時化学療法群であった。

 ランダム化後の生存期間の中央値は,早期化学療法群で25.7カ月,再発時化学療法群で27.1カ月であった。QOLは早期治療群で低下が早く,早期治療により役割,感情,社会活動と疲労の点で有意な悪化が見られた。

モニタリングをしない選択肢も

 Rustin教授らは「CA125値の上昇に基づく早期治療が有益であることを示すエビデンスはなく,化学療法の開始時期を遅らせてもQOLに差がないことを患者に知らせるべきだ。追跡期間中にCA125値が上昇した場合,再発の症状や徴候が現れるまで化学療法の実施を遅らせても安全な治療が行える」と指摘。

 さらに「今後,患者はエビデンスに基づいた忠告を受け,フォローアップについて十分な情報を得た上で治療を選択することができるようになった。今回の結果は,1次治療で完全寛解が得られた場合は日常的なCA125のモニタリングを行わないことも選択肢でありうることを示唆している」と述べている。

Medical Tribune 2010-12-23,30

iPadでがん治療を受けやすく
 ダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)では,患者が治療を快適に受けられるようにiPad貸し出しサービスを行っている。

退屈しのぎに良いツール

 Andrea Casella氏は,肺がん治療のためダナ・ファーバーがん研究所に週1回通院している。治療日は,終日院内で過ごすことになる。同氏は「まず血液検査があって,次に主治医の診察,その後2〜3時間の化学療法を受けると疲労する。この間,本や雑誌が何冊あってもすぐに読み終わってしまう。退屈で眠くなってしまうこともある」と話している。

 このような患者のために,ダナ・ファーバーがん研究所ではiPad貸し出しサービスを開始した。患者IDカードと運転免許証を提示すれば,3時間まで無料で利用できる。貸し出されるiPadでは,ゲームや映画,音楽を楽しめるほか,がん治療に関するビデオ動画,ニュースを視聴できる。

 肝がん治療を受けているJanice Coburn氏は,孫が治療に付いて来たときにiPadがあると重宝すると言い,「孫と一緒にゲームを楽しめるので,退屈しないで済む」と話している。

 ダナ・ファーバーがん研究所コミュニケーション課のSteven R. Singer課長補佐は「iPadは使用方法が比較的簡単で,バッテリーも長持ちすることから評判が良い。また,ラップトップコンピュータに比べて消毒しやすいという利点もある」と述べている。

 ダナ・ファーバーがん研究所が患者と家族を調査したところ,98%がiPadサービスを非常に楽しんでおり,今後も利用したいと回答した。

Medical Tribune 2010-12-23,30

便秘が結腸・直腸がんのリスク低下に作用
 便秘がちな人の方が結腸・直腸がんのリスクが低いとする意外なデータが,オランダのグループにより発表された。

 同グループは,食生活とがんに関するコホート研究に参加した男性5万8,279例のうち,13.3年間(1986〜99年)の追跡で結腸・直腸がんを発症した1,207例と非発症のコントロール1,753例を対象に症例対照研究を実施。排便および便秘の頻度と結腸・直腸がんとの関係,さらに食物繊維の摂取によってこの関係が変わるかどうかを検討した。

 多変量解析の結果,排便回数が1日1回の群と比べ1日1〜2回の群では,結腸・直腸がん全体と直腸がんのリスクが有意に高かった。

 一方,便秘がない群と比べ時々またはしばしば便秘すると報告した群では,結腸・直腸がん全体と直腸がんの有意なリスク低下が認められた。

 近位または遠位結腸がんのリスクとの間には特定の傾向は見られなかった。また,食物繊維摂取の影響は有意ではなかった。

Medical Tribune 2010-12-23,30