広葉樹(白) 
          

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2010年11月 文献タイトル
乳製品以外からのCa摂取にも注意を アジアの食事でも前立腺がんリスク
第69回日本癌学会 術中リンパ節の転移迅速診断にOSNA法を開発
ビタミンB6とメチオニン〜血清濃度が高いと肺がんリスク低い
受動喫煙と聴力低下の有意な相関が明らかに
閉経後女性のエストロゲン単独療法〜肺がん死亡率増加と関連しない
2型糖尿病治療 目標設定の個別化とメトホルミン投与を推奨
依然低い米国女児のHPVワクチン接種率 地域や貧困レベルで格差も
ギリシャ流の地中海料理で皮膚がん予防 紫外線による損傷を低減
男性の死亡リスクは禁煙後10年で大きく改善,20年で非喫煙者と同等に
高い骨密度が前立腺がんと関連
LDL-C値1.0mmol/L低下で主要心血管イベント発症が20%以上減少

乳製品以外からのCa摂取にも注意を
アジアの食事でも前立腺がんリスク
 欧米の研究では乳製品の多量摂取が前立腺がんリスクを上昇させる可能性が示唆され,乳製品に含まれるカル シウム(Ca)がその原因とされている。そこで,コロラド州立大学のLesley M. Butler助教授らは,中国系シンガポール人を対象に研究を実施。「豆腐や野菜など乳製品以外からCaを摂取するアジアの食生活においても,Caが前立 腺がんリスクを上昇させる可能性が示された」と発表した。

アジアでは野菜などが主なCa源

 今回の研究では,乳製品以外の食品による比較的少量のCa摂取と前立腺がんリスクとの関連が初めて示され,Caが前立腺がんの危険因子であるとする考えを支持する結果が示された。

 欧米で行われた以前の研究で,牛乳に含まれるCaが前立腺がんリスクの上昇に関連することが示唆されているが,明らかなエビデンスは得られていない。

 アジアの食生活では乳製品以外の食品,例えば豆腐や穀物,ブロッコリー,ケール,チンゲンサイなどの野菜が主なCa源である。Butler助教授らは,アジアではこのようなCaを豊富に含む食品を摂取している人で前立腺がんリスクが上昇するのではないかと考えた。

 同助教授らは今回,中国系シンガポール人を対象にしたSingapore Chinese Health Studyの被験者のうち,45〜74歳の男性2万7,293例を対象に,食事からのCa摂取と前立腺がんリスクの関係について調べた。同研究は米国立が ん研究所の助成を受けて1993〜98年に行われた住民ベースの前向き研究である。

 同助教授らは,対象者の過去1年間の食事を評価するため,165品目食物頻度アンケートを行った。対象者のうち298例で前立腺がんが発症した。

 なお,体格が小さいとCaの吸収量が大きいとの仮説があることから,ベースライン時の食事評価ではBMIを考慮した。

平均下回るBMIでリスク倍増

 その結果,1日平均211mgのCaを摂取した男性と比べ,同659mgを摂取した男性では前立腺がんリスクが25%上昇した。主なCa源は,野菜 (19.3%),乳製品(17.3%),穀物(14.7%),大豆製品(11.8%),果物(7.3%),魚(6.2%)であった。前立腺がんリスクと特 定の種類の食物との関連は認められなかった。

 また,BMI(中央値22.9)が平均を下回る男性では,前立腺がんリスクが2倍に上昇した。

 Butler助教授らは「これまでに行われた研究のほとんどは,主に乳製品からのCa摂取が多い欧米人を対象に実施されたが,今回の研究からそれらの結果と一致するデータが得られたことは意外であった」と述べている。

Medical Tribune 2010-11-4

第69回日本癌学会
術中リンパ節の転移迅速診断にOSNA法を開発
 がんの外科的治療ではリンパ節転移の評価が不可欠であり,現状では術中に凍結切片による病理組織学的診断 が行われている。座長の松浦教授らは,このプロセスを分子病理学的手法に置き換えて,より迅速簡便に診断できる自動化システムOne Step Nucleic Acid Amplification(OSNA)法を開発。同システムが既に乳がんで保険収載されたことを報告した。

CK19を指標に30分で評価

 術中のリンパ節転移の評価は凍結切片で行うため,ホルマリン固定と比べて組織構築が乱れて病理診断に難渋することに加えて,通常はリンパ節1切片で行う ことから切片にならなかった部分にがん細胞がある場合には見落としとなる。さらにオブザーバーバイアスもあり得る。こうした点が術中診断の感度低下の問題 点となっており,実際,松浦教授らがこれまでの報告を調べたところ,術後に再チェックした場合に比べて,その感度は5〜9割だった。

 従来法に代わる迅速診断法として同教授らが開発したOSNA法は,新規遺伝子増幅検出法Realtime Loop-mediated Isothermal Amplification(RT-LAMP)法を用い,リンパ節検体を均一化したサンプルをそのまま,六つのプライマーを用いて増幅,同定を30分で行 うというもの。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法と異なり常温で操作でき,mRNAの抽出も必要としない。検体を均一化する第1段階以降を自 動化した。検出マーカーは上皮系マーカーのサイトケラチン19(CK19)とした。

 2005〜06年に,7施設でリンパ節生検との比較共同試験を実施した結果,特異度は97.1%でおおむね一致。感度も92.9%の一致率と良好な結果 だった。同教授は「細胞骨格蛋白質CK19は,がん細胞の数を忠実に反映していると考えられることから,OSNA法は定量性にも優れる。乳がんに関しては 既に欧州を中心に100施設以上で採用されている。大腸がんと胃がんも同じマーカーを用いており,大腸がんが現在認可待ち,胃がんは多施設試験が進行中 だ」と報告した。

Medical Tribune 2010-11-4

ビタミンB6とメチオニン〜血清濃度が高いと肺がんリスク低い
 国際がん研究機関(IARC,仏リヨン)のPaul Brennan博士らは「現在または過去の喫煙者を含む40万人に及ぶデータを分析した結果,ビタミンB6(VB6)と必須アミノ酸メチオニン(ほとんど の蛋白質中に認められる)の高い血清濃度が肺がんの低リスクに関連することが分かった」と発表した。
 
喫煙の影響は受けない

 これまでの研究では,ビタミンB群の不足はDNA損傷とその後の遺伝子変異を促進する可能性が示唆されている。Brennan博士らは「これらの栄養素 がDNAの完全性と遺伝子発現の維持に関与していることを考慮すると,これらの栄養素は発がんを抑制する上で潜在的に重要な役割を有し,食事を変えること でがんリスクを修正できる可能性をもたらす」と述べ,「多くの西洋人口集団ではビタミンB群の摂取不足が多いことが明らかになっている」と付け加えてい る。

 同博士らは,European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)研究の血清試料を用いてビタミンB群とメチオニンの摂取状況を調査した。EPIC研究には1992〜2000年に欧州10 カ国から51万9,978人が参加し,このうち38万5,747人が血液を提供した。2006年までに899例が肺がんを発症し,1,770人の対照参加 者について個々に国,性,出生日,採血日を一致させた。

 EPIC全体の肺がん発症率を分析してさまざまな因子について調整した結果,VB6の血清濃度の高い参加者で肺がんリスクが低いことが判明した(VB6 濃度の第4四分位と第1四分位を比較)。また,メチオニンでも濃度上昇に伴うリスクの低下が認められた。同博士らは「喫煙歴のない人と過去と現在の喫煙者 において同様かつ一貫したリスク低下が認められ,結果は喫煙という交絡因子の影響を受けていないことが示された。また,リスクの大きさはフォローアップ期 間が延長しても変わらなかったため,関連性は発症前の疾患によって説明されないことが示唆された」と述べている。

両方高濃度でリスクが50%低下

 参加者を血清中のメチオニンとVB6濃度の中央値で分けたところ,いずれも中央値より上の者では全体的に肺がんリスクが低かった。血清中葉酸濃度が高い 場合にも中等度のリスク低下が認められたが,この関連性は過去と現在の喫煙者に限られ,喫煙歴のない人では認められなかった。

 Brennan博士らは「今回の結果は,疾患発症より平均5年前に評価してVB6とメチオニン両方の血清濃度が中央値より上であれば,肺がん発症リスク が少なくとも50%低下することを示している。血清中葉酸濃度に関する付加的関連性も存在し,VB6とメチオニンを組み合わせると肺がんリスクの3分の2 の低下と関連した」と述べている。

 また,血清中メチオニン,VB6,または両方に関する今回の知見の因果関係が解明された場合,将来のがんリスク低減のための最適濃度を同定することが適切だろうとしている。

 同博士らは「肺がんはがんによる死亡の原因として世界で最も多く,近い将来も変わらないだろう。肺がんを予防するためには,因果関係に関する新たなエビデンスが加わっても,基本的に喫煙者の数を減らすことの重要性は変わらない。

 これを念頭に置いて,肺がんの大半は過去の喫煙者で発症しており,たばこの宣伝が特に成功している諸国で大多数を占めていること,また喫煙歴のない人に おいても,特にアジア地域の女性では相当数の肺がん患者が発生していることを認識することが重要である。そのため,肺がんリスクにおけるビタミンB群と関 連代謝産物の役割は,過去の喫煙者と喫煙歴のない人にとって特に重要だと思われる」と結論している。

Medical Tribune 2010-11-11

受動喫煙と聴力低下の有意な相関が明らかに
 米Starkey LaboratoriesのDavid A. Fabry氏らは非喫煙者を抽出して行われた米国民栄養調査(NHANES)データベースによる検討から,受動喫煙と聴力低下に有意な正相関が見られたこ とを報告した。喫煙者を対象とした研究で喫煙と聴力低下が関連するとの報告はあったが,受動喫煙と聴力低下の関連が検討されたのは初めてだという。

一度も喫煙歴がない人でも受動喫煙で聴力低下の可能性

 Fabry氏らはNHANESの1999〜2004年のデータを用いて検討を実施。解析対象は聴力検査を受けており,血中コチニンレベルから受動喫煙があると判断された3,307例。年齢は20〜69歳,調査時点で喫煙していると回答した人は除外された。

 解析の結果,受動喫煙のあった過去の喫煙者における低・中周波数の聴力低下(純音聴力レベル25dB超と定義)の有病率はそれぞれ14.0%,46.6%。一度も喫煙歴のない人では各8.6%,26.6%であった。

 多変量解析の結果,過去に喫煙歴のある人,一度も喫煙歴のない人両者で受動喫煙と低・中周波数の聴力低下の間に有意な正相関が見られた。また,過去の喫煙者では受動喫煙と高周波数の聴力低下における有意な相関も確認された。

 同氏らは過去の報告で喫煙歴のある人において聴力低下が見られるとの知見は得られていたが,全く喫煙したことがない人でも受動喫煙により低・中周波数の聴力低下が起きる可能性が示唆されたと結論。今後,縦断研究などによる追加検証が必要と述べている。

Medical Tribune 2010-11-16

閉経後女性のエストロゲン単独療法〜肺がん死亡率増加と関連しない
 ロサンゼルス生物医学研究所のRowan T. Chlebowski博士らは「子宮摘出術を受けた閉経後女性では,結合型ウマエストロゲンのみを用いたホルモン補充療法(HRT)によって肺がん死亡率は増大しない」と発表した。
 
エストロゲン+プロゲスチン併用のHRTとは異なる結果

 女性健康イニシアチブ(WHI)試験は米国40施設によるランダム化二重盲検プラセボ対照試験で,閉経後女性を対象としたさまざまな研究が行われてい る。これまでに子宮摘出術を受けていない女性では,エストロゲン+プロゲスチン併用のHRTにより肺がん死亡率が有意に上昇することが示されている。しか し,HRTと肺がんに関する先行研究では,リスク低下から上昇までさまざまな結果が出ている。さらに,エストロゲン単独のHRT(以下,ERT)による影 響は不明であった。

 そこでChlebowski博士らは,ERTが肺がん罹患率と関連して肺がん死亡率を増大させるか否かを検討するため,WHI試験のデータを事後解析。 今回の解析ではERT群またはプラセボ治療群のいずれかにランダムに割り付けられた,子宮摘出術を受けている閉経後女性(50〜79歳)1万739例が対 象となった。

 平均7.9年にわたるフォローアップの結果,肺がんの発症率はERT群(61例)とプラセボ群(54例)間で有意差は見られなかった(年間発症率は0.15%対0.13%)。これは肺がん既往者を除外しても変化しなかった。

 また,ERT群における肺がん死亡数(34例)はプラセボ群(33例)より1例多いだけで,子宮摘出術を受けた女性ではERTが肺がん罹患率や肺がん死亡数の上昇と関連していなかった。

 同博士らは今回の解析の限界として標本サイズが小さいことを挙げており,「今後,エストロゲンとプロゲスチンを併用したHRTとERTを比較する試験が 必要となるなど課題はあるが,今回の知見は子宮摘出術後の更年期症状緩和のためにERTを受けている女性を安心させる上で役立つだろう」と述べている。

Medical Tribune 2010-11-18

2型糖尿病治療 目標設定の個別化とメトホルミン投与を推奨
 最近では,糖尿病においても,個別化治療を行う傾向にある。しかし,クワーケンブリュック糖尿病セン ター(独)のStephan Matthaei教授は「目標値に関しては,個々の患者の状態に合わせて設定すべきであるが,2型糖尿病においては,禁忌がなければ,すべての患者にメト ホルミンを投与するのが良い」とドイツ糖尿病学会の第45回年次集会で報告。また,インスリンの過剰投与について注意を促した。
 
メトホルミンでHbA1c値上昇を抑制

 ドイツ糖尿病学会のガイドラインでは,HbA1c値を6.5%以下(国際基準値,以下同;JDS値では6.1%)にするよう推奨されているが,この目標 値は,重篤な低血糖症や大幅な体重増加を伴わずに達成できる場合に限られる。高齢で,心血管系合併症を有していたり,長年,血糖管理が不良な患者で は,HbA1cの目標値が7.0%でも十分な場合があることから,Matthaei教授は,HbA1cの目標値は個々の患者に合わせて決定するよう勧めて いる。

 ただし,同教授は「2型糖尿病では,診断後,直ちにメトホルミン投与を開始すれば,HbA1c値の上昇を年間平均0.14%に抑えることができる」と説 明。最近の前向きコホート試験(Landman GWD, et al. Diabetes Care 2010; 33: 322-326)で,メトホルミンが2型糖尿病患者のがん死亡リスクを低下させる可能性が報告されたことについて言及した。同試験では,メトホルミン非使 用群と比べ使用群では10年以内のがん死亡リスクが約57%低減したという。

 こうしたことから同教授は,2型糖尿病ではどのような患者に対しても(インスリン療法中の患者でも),できる限りメトホルミンを投与するよう勧めたいとした。

 メトホルミンと他の糖尿病治療薬を併用する場合は,低血糖と体重増加リスクを回避するために,スルホニル尿素(SU)薬や速効型インスリン分泌促進薬の 代わりに,ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬,グルカゴン様ペプチド(GLP)-1アナログ製剤,グリタゾン系薬,アカルボースなど低血糖を 起こしにくい薬剤を選択するのが良いという。また,同教授は「数種類の糖尿病治療薬を併用する場合,安全性が確認されていない組み合わせは避けるべきで, 特にインスリン療法中は注意が必要である」と警告した。

Medical Tribune 2010-11-18

依然低い米国女児のHPVワクチン接種率
地域や貧困レベルで格差も
 ワシントン大学(セントルイス)保健行動研究学科のSandi L. Pruitt助教授らは,米国の6州274郡の女児1,709人のデータを解析した結果,「子宮頸がん予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV) ワクチンを接種した女児は約3分の1のみだった」と発表した。この研究では,HPVワクチンの接種率に州や郡の間で格差が存在することや,州・郡・家庭に おける貧困レベルが接種率に影響することも明らかにされた。

全体の接種率は34.4%

 米国がん協会(ACS)とワクチン接種に関する諮問委員会(ACIP)の両組織は成人女性および女児に対するHPVワクチンの予防接種を推奨しているが,今回の研究では,解析対象とした6州の女児(13〜17歳)における接種率が34%にすぎないことが分かった。

 Pruitt助教授は「今回,ワクチン接種率は上昇していることが分かった。この点は評価できる。しかし,34%という数値はワクチンの3回接種プログラムのうち初回ワクチンを受けた比率にすぎない」と接種率に改善の余地があることを指摘している。

 今回,同助教授が解析対象としたのは,デラウエア,ニューヨーク,オクラホマ,ペンシルベニア,テキサス,ウェストバージニアの6州。解析には米疾病管 理センター(CDC)行動危険因子調査システム(BRFSS)および米国勢調査(2000年)によるこれら6州の女児に関するデータを用いた。

 同助教授らは「より多くの州での実態を把握したいが,これら6州は都市部と農村部,富裕層と貧困層の代表として理想的であり,また他の州と近似した人種・民族グループの女児が含まれている」と説明している。

人種的・民族的格差は見られず

 今回の研究では,人種的および民族的背景の違いについてはHPVワクチンの初回接種率への影響が見られず,アフリカ系やヒスパニック系の女児における接種率は白人女児と同等であることが分かった。

 同助教授らは「貧しく教育レベルの低いアフリカ系やヒスパニック系の女性では子宮頸がんの罹患率が高い。また,有色人種,特にヒスパニックの女性やメキ シコとの国境沿いに住んでいる女性では子宮頸がんの罹患率が最も高いため,ワクチン接種に人種的格差がないことは極めて重要である」と述べている。

Medical Tribune 2010-11-18

ギリシャ流の地中海料理で皮膚がん予防 紫外線による損傷を低減
 テルアビブ大学(イスラエル)のNiva Shapira博士は「抗酸化物質とω3脂肪酸の豊富な食事を取る東部地中海諸国では,黒色腫の発症率は極めて低く,このような食生活には皮膚がんの予防 効果がある」と発表した。同博士は,帽子や日よけの上着,スポーツウエアを着て日光を遮るとともに,「ギリシャ流」の食生活,つまりオリーブオイル,魚介 類,ヨーグルト,カラフルな果物と野菜をしっかり取るよう勧めている。

抗酸化物質とω3脂肪酸が豊富

 太陽光線は皮膚を通過し,光酸化を起こすことで皮膚と免疫系に損傷を与え,直接細胞に影響を及ぼすだけでなく生体に備わる修復機能も低下させる。

 以前の研究によると,太陽の紫外線は皮膚組織の分子を励起して酸化させることで皮膚の損傷をもたらす。Shapira博士は「十分量の抗酸化物質を摂取しておけば,紫外線による損傷を低減させることができる」としている。

 同博士とロストック大学(独)のBodo Kuklinski教授は今回,バルト海沿岸の被験者を(1)抗酸化物質を多く含む飲料(2)ソーダなどの飲料 を摂取する2群に分け,両群に1日5〜6時間,日光を浴びる生活を2週間続けさせた。

 その結果,抗酸化物質を多く含む飲料を摂取した群では,2週後の酸化物質の血中濃度が50%低かった。

 またその後の研究で,食品中の抗酸化物質,特にカロチノイド(果物や野菜に含まれる色素で,トマトやスイカの赤色や,ニンジンやカボチャのオレンジ色を つくる)は皮膚に蓄積されて防衛の第一線で働き,紅斑の発現を遅らせることが分かった。紅斑は皮膚がんにつながる恐れもある組織やDNAの初期損傷の徴候 である。

 Shapira博士は「今回の知見は,気候変動が問題視される昨今の状況では特に重要だ」と強調。気温と湿度が上昇するほど太陽の紫外線による影響は大 きくなり,日焼け止めだけでは完全に予防できなくなるとしている。つまり,肌の健康促進には,日よけや日焼け止めを十分に用い,日差しが最も強くなる時間 帯の外出を避けるとともに,食生活の改善も考慮する必要がある。

Medical Tribune 2010-11-18

男性の死亡リスクは禁煙後10年で大きく改善,20年で非喫煙者と同等に
 喫煙が死亡リスクの上昇に寄与することはよく知られているが,禁煙による死亡リスクの減弱効果については まだ十分解明されていない。ブリガムアンドウィメンズ病院のJing Ma氏らの研究グループによる,男性医師を対象にした大規模コホート研究(Physician's Health Study)のデータ解析の結果,男性における死亡リスクの大幅な低減効果が禁煙開始から10年で期待できる可能性が示された。また,20年で非喫煙者と 同等レベルに低下した。ハーバード大学公衆衛生学部博士課程研究生のYin Cao氏が,第138回米国公衆衛生学会年次総会(APHA 2010;11月4〜10日,デンバー)の疫学に関するLate Breakingセッションにおいて発表した。

喫煙者の全死亡リスクは非喫煙者の2.6倍

 これまで女性の場合では禁煙による血管疾患の死亡リスクは禁煙直後から,肺疾患の死亡リスクは禁煙開始から20年の間に低減される可能性がコホート研究により示されている。

 研究グループは,40〜84歳の男性医師を対象にしたPhysician's Health Studyのうち,喫煙ステータスが判明している2万170人の死亡データを1988〜2010年3月に追跡した。追跡開始から3年以内に死亡した448 例を除外した1万9,722例を対象に,喫煙ステータス,年間たばこ消費量,禁煙年数を曝露変数として,全死亡率および死因別死亡率をCox 比例ハザードモデルを用いて解析した。

 禁煙から20年以上経過した人では,前立腺がんを除いて,全死亡および疾患別の死亡リスクは非喫煙者と同等レベルまで低減した。一方で,前立腺がんの死亡リスクが非喫煙者と同レベルまで低下するには,30年以上要することが示唆された。

 Cao氏は「喫煙が全死亡および死因別死亡リスクに大きく関与していることは明らかである。禁煙による疾患別の死亡リスクの低減効果は,前立腺がんを除いて,禁煙後速やかに現れることが明らかとなった」と総括した。

Medical Tribune 2010-11-22

高い骨密度が前立腺がんと関連
 前立腺がんと骨密度の関連に注目していたジョンズホプキンス大学泌尿器科のStacy Loeb博士らが縦断的加齢研究のデータを検討したところ,高齢になっても高い骨密度が維持されている男性では前立腺がんを発症するリスクが高い可能性が示唆された。

高リスクがん患者で特に骨密度高い

 Loeb博士らは,骨の特徴が前立腺がんの進展や転移と関連しているのではないかと考え,その検証のために今回の研究を行った。研究にはボルティモア地 域の住民を対象に1958年からさまざまな健康関連情報を追跡した米国立加齢研究所(NIA)によるボルティモア縦断的加齢研究のデータを用いた。同研究 のデータから1973〜84年に測定された519例の男性の骨密度データを収集し,最後の測定から平均で21.1年間(範囲0.2〜35.0年間)追跡し た。

 同博士は「われわれは今回,前立腺がん,特に転移性がんを発症する男性と発症しない男性には,骨になんらかの違いがあるという仮説を立てた」と説明している。

 その結果,追跡期間中に76例が前立腺がんを発症した。これらの男性では,前立腺がんを発症しなかった男性に比べて年齢を重ねても骨密度が高いままで あった。喫煙,BMI,食事によるカルシウムやビタミンDの摂取量など骨密度に影響するライフスタイル因子を考慮に入れても結果は変わらなかった。

 さらに,全身に転移する進行性の高リスク前立腺がんを発症した18例では骨密度が最も高く保たれていることが判明した。

 しかし,同博士らは「症例数が少ないため,今回の研究結果から骨の特徴とがんとの関連について最終的な結論を導くことはできない。骨密度スキャンを前立 腺がんのスクリーニング手段として推奨するレベルのものでもない」としており,「今回の研究の目標は前立腺がんと骨の関連についての理解を深めることに あった」と説明している。

 さらに,同博士は「今回の結果は,性ホルモンや骨の成長因子といった骨密度に影響を与える要因が,他方で前立腺がんの発症と転移を促す可能性もあること を示唆している」と考察。「今後も骨密度と前立腺がんを結び付ける共通要因を探索していきたい。潜在的経路を解明できれば,前立腺がんの発症や転移の予防 戦略が立てられるようになるだろう」と述べている。

Medical Tribune 2010-11-25

LDL-C値1.0mmol/L低下で主要心血管イベント発症が20%以上減少
 LDLコレステロール(LDL-C)値の1.0mmol/L(38.67mg/dL)低下は主要心血管イベントの発症を20%以上減少させることがメタ解析で示され,LDL-C値の厳格な管理の重要性が再確認された。

 今回のメタ解析には,1,000例以上を対象に2年以上の治療を行ったランダム化比較試験26件が含まれた。うち,5件はスタチンの強化療法と通常療法 との比較(3万9,612例,追跡期間中央値5.1年),21件はスタチンとコントロールとの比較(12万9,526例,同4.8年)であった。

 その結果,スタチン間の試験では通常療法群と比べ強化療法群では1年目のLDL-C値が平均0.51mmol/L低く,主要心血管イベントの発症が 15%少なかった。減少率は冠動脈死または非致死的心筋梗塞が13%,冠動脈血行再建術が19%,脳梗塞が16%であった。26試験全体では,LDL-C 値1.0mmol/L低下によってすべての患者グループを通じて主要心血管イベントの20%以上の減少が認められた。

 26試験を通じLDL-C値1.0mmol/L低下により全死亡が10%減少した。これは,冠動脈性心疾患と他の心疾患による死亡の有意な減少によるものであった。一方,脳卒中や他の血管疾患による死亡には有意な減少は見られなかった。

 LDL-C低値でもがんの発症および死亡,また血管以外の原因による死亡への影響は観察されなかった。

 同グループは「コレステロール値の幅に閾値はなく,LDL-C値2.0〜3.0mmol/L低下により主要心血管イベントのリスクが40〜50%低下すると考えられる」としている。

Medical Tribune 2010-11-25