広葉樹(白) 
          

 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2010年10月


2010年10月 文献タイトル
55〜64歳で1回のS状結腸鏡検査 結腸直腸がん罹患率と死亡率が大幅低下
不健康な四つの習慣の重複で死亡リスク増加
東大キャンパス内に小児入院患者の家族のための滞在施設を建設
ドナルド・マクドナルド・ハウス東大,2011年秋に完成予定
小児がん生存者には2次がんリスク教育と定期検査の継続を
北米最大のCCSS研究で高リスク例の受診率の低さ明らかに
第11回国際統合医学会 〜ビタミンC点滴療法〜安全かつ種々のがん種に適用可能)
第9回日本組織移植学会 子宮自家移植後のサルで排卵と生理を確認
乳がんサバイバー,治療完遂後の妊娠・出産・授乳は可能
欧州臨床腫瘍学会でベルギーからの発表
臨床腫瘍レジデントの約半数がバーンアウト フランス全土の調査,欧州臨床腫瘍学会で報告
英の乳がん死亡率が急減 他の欧州諸国に比べ大きな低下度
小児がん生存者に長期の心機能異常
第46回欧州糖尿病学会 インスリンやIGF-1の機能異常ががん発症の原因に
第46回欧州糖尿病学会 肥満ががん発症と死亡リスクの予知因子に
閉経後女性のホルモン補充療法減少で乳がん発症率が低下
父親の食生活がまだ見ぬ娘を糖尿病に,ラットを用いた研究で判明 環境要因も次世代に“遺伝”する可能性
第57回日本臨床検査医学会 p53抗体は早期大腸がん発見に有用
日本人女性約5万例による前向き研究,緑茶による乳がん予防効果確認できず 国立がん研究センターJPHCコホート研究
低用量アスピリンで大腸がんリスク低下,英メタ解析 数年間の服用で18年間の発生率24%減,死亡率35%減

55〜64歳で1回のS状結腸鏡検査
結腸直腸がん罹患率と死亡率が大幅低下
 インペリアルカレッジ(ロンドン)のWendy S. Atkin教授らは,55〜64歳時に下部結腸と直腸に対するS状結腸鏡検査を1回施行することで,結腸直腸がんの罹患率を約30%,死亡率を43%減らすことが可能だと発表した。

11年の長期フォローアップ成績

 結腸直腸がんは全世界で3番目に多く診断されるがんで,毎年100万人が罹患し,60万人が死亡している。生存率は診断時のステージ(病期)に強く関係 し,限局性の場合,生存率は90%である。現在スクリーニングに用いられる便潜血検査は,早期症例の検出に有効で,死亡率を約15%低下させる。多くの国 が同検査をベースにしたスクリーニングプログラムを導入している。

 結腸直腸がんの大半は腺腫(アデノーマ)から発症する。腺腫は人口の20〜30%に見られ,ほとんどが無症状である。結腸直腸がんと腺腫の3分の2は, 軟性のS状結腸鏡検査で検査可能な直腸と下部(S状)結腸に発症する。Atkin教授らは「55〜64歳時にS状結腸鏡検査を1回施行することは,結腸直 腸がん罹患率と死亡率を低下させる方法として費用効果が高い」としている。同教授らの仮説は「遠位結腸がんを発症する人の大半では60歳までに腺腫が発生 し,S状結腸鏡検査で腺腫を除去することにより,長期的に遠位結腸直腸がんの発症を予防することができる」との観察知見を基にしたものである。

 今回の試験の登録とスクリーニングは,英国の14施設(11施設がイングランド,2施設がウェールズ,1施設がスコットランド)で1994年11月に開 始され,99年3月に完了した。試験開始時のデータは2002年に発表されたものを用い,今回,フォローアップ(中央値11年)の成績が報告された。

永続的な予防効果

 被験者に,S状結腸鏡検査(小さなポリープに対する切除も含む)を施行し,(1)1cm以上の腺腫(2)三つ以上の腺腫(3)腺管絨毛腺腫あるいは絨毛 腺腫(4)重度異形成あるいは悪性疾患の存在(5)遠位直腸の上に20個以上の過形成(良性)ポリープなどの高リスク基準を満たす場合には大腸内視鏡検査 を依頼した。S状結腸鏡検査でポリープが見つからない患者や低リスクポリープ患者は退院させた。

 事前のアンケートでスクリーニングへの参加に同意した男女計17万432例のうち5万7,237例を介入群(S状結腸鏡検査を実施),11万3,195 例を対照群にランダムに割り付けた。主要エンドポイントは,スクリーニング時に発見された症例を含めた結腸直腸がん罹患率とした。

 最終解析対象は,それぞれ5万7,099例と11万2,939例となった。実際にS状結腸鏡検査を受けたのは4万674例(71%)であった。

 スクリーニング期間中と中央値11年のフォローアップ期間中に2,524例(介入群706例,対照群1,818例)が結腸直腸がんと診断され,2万 543例(同6,775例,1万3,768例)が死亡した。そのうち727例(同189例,538例)が結腸直腸がんによる死亡であった。

 Intention-to-treat解析(スクリーニングに割り付けられたが,検査を受けなかった者を含む)では,介入群の結腸直腸がん発症リスクは23%低下し,同死亡リスクは31%低下した。

 スクリーニング検査を受けた人の結腸直腸がん発症リスクは33%低下し,同死亡リスクは43%低下した。遠位結腸がん(直腸と下部結腸)の発症リスクは 50%低下した。結腸直腸がんの発見,または同がんによる死亡を1例予防するのに必要なスクリーニング症例数は試験終了時点でそれぞれ191例,489例 だった。

 Atkin教授らは「さらに,遠位結腸がんを発症した215例中126例(59%)はスクリーニング時に発見され,その後の罹患率は極めて低かった。このことは,スクリーニングに永続的な予防効果があることを意味している」と強調している。

Medical Tribune 2010-10-7

不健康な四つの習慣の重複で死亡リスク増加
 オスロ大学(ノルウェー)のElisabeth Kvaavik博士らは「喫煙,運動不足,飲酒,偏った食事という四つの不健康な習慣の重複は,死亡リスクの大幅な増加と関連しているようだ」と発表した。

重複がもたらす影響を検証

 Kvaavik博士は,研究の背景情報として「複数の研究から,(1)喫煙(2)運動不足(3)多量飲酒(4)重要度は劣るが野菜や果物の少ない食事 は,心血管疾患(CVD),がん,早死などのリスク増と関連していることがわかっている」と述べている。これら不健康な習慣の影響を調べた研究のほとんど は,各因子の独立した影響を明らかにするため,そのほかの習慣を調整している。

 しかし現実には,複数の不健康なライフスタイル要因が併存している可能性がある。同博士は「このような行動に対する公衆衛生上の影響を理解するには,一つの行動だけでなく,習慣の重複が健康アウトカムに与える影響を調べる必要がある」と指摘している。

 今回の研究では,1984〜85年に18歳以上の参加者4,886例に聞き取り調査を行った。不健康な習慣一つにつき1点を加算して,健康習慣スコアを 算出した。不健康な習慣は,(1)喫煙(2)果物と野菜の摂取が1日3回未満(3)1週間の運動時間が2時間未満(4)1週間の飲酒量が女性の場合は14 単位超(1単位はアルコール8g),男性の場合は21単位超〜とした。

 平均20年間の追跡期間中に1,080例が死亡したが,死因の内訳はCVD(431例),がん(318例),そのほか(331例)であった。

全死亡リスクは12歳年上と同等

 スコアが4点であった者は,0点であった者と比べて,CVDまたはがんで死亡するリスクが約3倍,そのほかの疾患による死亡リスクが4倍で,全死亡リス クは12歳年上の人と同等であった。また,不健康な習慣の数が一つ増えるごとに,全死亡と各疾患による死亡リスクが増加した。

 Kvaavik博士は「ライフスタイルをわずかでも改善できれば,個人と集団において相当の効果が得られることが分かった。今後の公衆衛生政策では,人口全体で健康的な食生活とライフスタイルを向上させるための効率的な方法について考える必要がある」と結論付けている。

Medical Tribune 2010-10-7

東大キャンパス内に小児入院患者の家族のための滞在施設を建設
ドナルド・マクドナルド・ハウス東大,2011年秋に完成予定
 東京大学病院と公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン(DMHC) は,10月7日,同病院に隣接するキャンパス敷地内に,小児入院患者に付き添う家族のための滞在施設を招致することを明らかにした。同施設はホスピタリ ティハウスと呼ばれる施設で,ホテルとは異なり,長期の入院治療を必要とする小児患者に付き添う家族が病院の近くで家庭生活を営むことで患者自身のサポー トを経済的・物理的な負担を軽減しながら行えるなどのメリットがある。今回開設されるのは世界300カ所,日本国内の7カ所で同様の施設を展開するドナル ド・マクドナルド・ハウス(DMH)。2011年秋に完成予定だという。

「わが家のようにくつろげる第2の家」で長期療養中のQOL向上も期待

 DMHは1974年,米フィラデルフィアに初めて設立されたホスピタリティハウスで,運営はボランティアが担当するほか,資金は企業や個人からの募金や 寄付で賄われている。現在世界300カ所で一晩に6,200家族がDMHを利用し,3万2,000人のボランティアが働いているという。

 東京大学病院では2008年に小児医療センターを開設以来,100人の小児入院患者受け入れが可能になった。同センター長で小児医学講座教授の五十嵐隆 氏によると,同センター開設後の2009年の実績では,血液・腫瘍,循環器,神経・筋,新生児・未熟児疾患が小児入院患者全体の72%を占めるという。こ うした疾患では長期間の治療のほか,繰り返しの入院が必要となることも多く,同病院小児科および小児外科に入院する患者の25〜35%は都内および周辺3 県以外の遠隔地から訪れていると同氏。

 また,小児の難治性疾患の一つである小児がんでは,最近の治療の進歩で長期にわたる大量化学療法が可能となり,長期生存率も向上してきた。そうした患者の多くは半年〜1年の間に入院,一時退院を繰り返すことになる。

 DMHC理事長の開原成允氏は,DMHのコンセプトを「わが家のようにくつろげる第2の家(home away from home)」と説明する。生活基盤となる家庭を一時的に病院の近くに持ってくることで,短期外泊の間に家族で食事を取ったり,患者や家族が入院中夜遅くま で一緒に過ごしても夜中の食事や寝る場所を気にせずくつろげたりできるのが,DMHをはじめとするホスピタリティハウスの最大のメリットだという。五十嵐 氏は「こうした施設を利用することで,通院,入院,外泊を繰り返す長期の治療中も院内学級に継続して通えることから,勉強や学校生活を通した患者自身の QOLの向上にもつながる」と期待を寄せる。

 現在,日本国内のDMHは2001年に初めて設立された「DMHせたがや」(国立成育医療センターそば)をはじめ7カ所にあり,東京大学病院は8カ所 目。DMH東大は延べ床面積約970m2,部屋数は12室,キッチンやダイニング,ランドリー,リビングルームなどの共用施設を擁するという。滞在費は1 人当たり1日1,000円で,滞在中の食事や清掃,洗濯などは家族らで行う。

 五十嵐氏は「すでに当病院周囲には,いくつかのケアハウスがあるものの,隣接地に設置されることは小児患者と家族の大変な福音となる。DMH利用の優先 順位の決定は難しいと思うが,長期治療の患者家族だけでなく,救急患者の家族用の空き部屋の確保にも努めたい」と述べている。

Medical Tribune 2010-10-7

小児がん生存者には2次がんリスク教育と定期検査の継続を
北米最大のCCSS研究で高リスク例の受診率の低さ明らかに
 カナダ・Hospital for Sick Children血液腫瘍内科のPaul Craig Nathan氏らが実施した小児がん生存者対象の北米最大規模のコホート研究Childhood Cancer Survivor Study(CCSS)の後ろ向き試験で,発症が危惧される2次がん高リスク例の検査受診率の低さが明らかになった。そのため,同氏らは,2次がんを発症 させないためには2次がんに対する教育のほか,定期検査の継続が重要であることを報告した。

平均的・高リスク別にガイドライン遵守率を評価

 2009年の米国の報告によると,かつて小児がんに罹患し現在も生存している人が32万5,000人いるという。しかし,がん化学療法や放射線治療によ る細胞傷害が2次がんの発症リスクになることから,その後のがん検診システムの重要性が指摘されている。そのため,米国予防医療専門委員会 (USPSTF),カナダ予防医療対策委員会,米国がん学会(ACS)は検診ガイドラインを作成。また,2次がんで悪性度の高い場合の定期検査について は,Children's Oncology Group(COG)などの各機関がサーベイランスガイドラインを作成してきた。

 今回の検討は,CCSSにおける上記ガイドライン遵守率に関する後ろ向き調査である。対象は,1970〜86年に26施設で小児がんと診断された 8,347例(男性4,329例,女性4,018例,小児がん診断からの平均経過年数:男性8.1年,女性7.6年,質問時の平均年齢:男性31.5歳, 女性30.8歳)。

 女性で,小児がん治療が原因の乳がんまたは子宮頸がんなどの2次がん発症リスクが平均的な例には,USPSTF検診ガイドラインの遵守率を,一方,発症 リスクが高い乳がんや,大腸がんまたは皮膚がん例(男女)ではCOGのサーベイランスガイドライン遵守率を,それぞれアンケートにより調査した。

患者が「治療概要」持っていると検診遵守率上がる

 平均的リスク例で,パパニコロー検査受診年齢に達した3,392例のうち,実際に検診を受けていたのは2,743例(81%)であり,マンモグラフィに ついては209例中140例(67.0%)であった。検診の遵守率を生活形態別に評価したところ,既婚者(または事実婚者)の遵守率は未婚・死別・離婚者 に比べて1.15倍高かった。さらに,遵守率は受けた教育課程でも差が見られ,高校またはそれ以下の教育課程を受けた者の遵守率は高卒または大学進学者に 比べて 0.87倍低かった。

 一方,高リスク例では,COGのサーベイランスガイドラインに基づくマンモグラフィ(女性522例)および大腸内視鏡検査(男女794例)の受診率は, それぞれ241例(46.2%),91例(11.5%)と低い結果であった。また,皮膚がん発症のリスクが高い4,850例のうち,皮膚がん検査を受けて いたのは1,290例(26.6%)にすぎなかった。

 高リスク例で,がん治療の概要控えを持っていた者の大腸内視鏡検査の遵守率は持っていなかった者に比べて1.66倍高く,皮膚がん検査では同じく 1.31倍高かった。また,過去2年間にがん専門病院で治療を受けた者は,受けなかった者に比べ1.43倍,皮膚がん検査の遵守率が高く,さらに,罹患し ていた小児がん関係で過去2年間にがん専門病院を受診していなかった者は,受診していた者に比べて0.84倍,皮膚がん検査の遵守率が低かった。

 これまでも高リスク例の定期検査受診率の低さが指摘されてきたが,今回の結果からNathan氏らは,患者と担当医の両者には2次がんリスクに関する教育が必要であり,定期検査の継続を推奨すべきであると指摘した。

Medical Tribune 2010-10-12

第11回国際統合医学会
〜ビタミンC点滴療法〜安全かつ種々のがん種に適用可能)
 高用量のアスコルビン酸を点滴静注するビタミン(V)C点滴療法は,副作用が少ない安全ながん療法とし て,統合医学の領域では広く知られている。東京都で開かれた第11回国際統合医学会の特別講演「VC点滴療法の抗がん効果とその検証」でカンザス大学 (米)医療センターのQi Chen助教授は,最新の研究知見を踏まえながら同療法の効果および作用機序を検証,同療法は安全かつ種々のがん種に適用可能であると報告した。

細胞外液にH2O2を送達

  VC点滴療法は,安全性が高く種々のがん種に適用可能な治療法であり,10カ月間の治療で両側の肺転移が消失した腎がん例や,同療法で9年以上無病生存し ている進行膀胱がん例,2週間の放射線療法との併用で診断後10年生存している第V期B細胞リンパ腫例など,有効性を指摘する報告は多い。前向き臨床試験 のエビデンスが不足していることから,現在は補完・代替療法として用いられているが,近年では,Chen助教授らの研究などから,同療法の作用機序や有効 性を科学的に裏付ける基礎・臨床研究データが蓄積されており,米国では臨床試験も進められている。

 生体は大量のアスコルビン酸を経口摂取しても,血中アスコルビン酸濃度は0.2mM程度で飽和状態となるように厳格に制御されている。しかし同助教授に よると,点滴静注や腹腔内投与ではこの制御は利かず,はるかに高い血中濃度を得ることが可能だという。VCによる腫瘍抑制作用は,そのように高い血中濃度 が達成されて初めて発揮される。

 VC点滴療法では,非常に高濃度のアスコルビン酸が血中を循環し,細胞と血管の間の間質液(細胞外液)に移行してから,(モノデヒドロ)アスコルビン酸ラジカルへと酸化される。血中にはモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素があるため,酸化は進まない。

 細胞外液では,次にアスコルビン酸が酸化される際に生じた還元鉄(Fe2+)が酸素供給源となって活性酸素を生じ,最終的に過酸化水素(H2O2)を産生する。腫瘍細胞の死滅は,このH2O2が腫瘍細胞内に移行して細胞を傷害することで誘導される。

 正常細胞にはカタラーゼなどの分解酵素があるため,細胞内に入ったH2O2は速やかに分解されるが,腫瘍細胞の多くは分解酵素を欠いているた め,H2O2による細胞傷害を受けやすい。つまりVC点滴療法は,正常細胞に影響せずに腫瘍細胞だけを死滅させることが可能であり,実際に同助教授らは in vivo研究で,その現象を確認している。

 アスコルビン酸は生理的濃度では抗酸化作用を発揮するが,VC点滴療法では,血中のアスコルビン酸が生理的濃度をはるかに超える高濃度になることで,逆 に,活性酸素を生成するプロドラッグ(プロオキシダント)として作用し,細胞外液にアスコルビン酸ラジカルとH2O2を送達する。

膵がんなどを有意に抑制

 ヌードマウスに卵巣がん,膵がん,グリア芽腫の細胞を皮下移植して,高用量アスコルビン酸を腹腔内投与したChen助教授らの研究では,いずれの腫瘍においても対照群に比べて明らかな腫瘍増殖抑制,腫瘍重量低下が認められており,グリア芽腫では転移も見られなくなった。

 さらに同助教授らは,膵がんの第一選択薬であるゲムシタビン(GEM)と高用量アスコルビン酸の併用により,膵がん細胞に対するGEMの効果が増大することをin vitro,in vivoの検討で確認するなど,他のがん療法との併用の有用性を示す結果も得ている。

 ヒトの血中アスコルビン酸濃度も動物研究と同等の20〜30mMに上昇できることから,ヒトでも同様の腫瘍抑制効果が期待できる,と同助教授は指摘し た。現在米国では,膵がんなどを対象にした高用量VC点滴療法の第T/U相臨床試験が少なくとも4件実施されており, その結果が待たれている。

Medical Tribune 2010- 10-14

第9回日本組織移植学会
子宮自家移植後のサルで排卵と生理を確認
 東京大学形成外科・美容外科では子宮移植についての研究も開始され,既に子宮動静脈の吻合で子宮が完全生 着することを確認している。同科の三原誠氏は「倫理面など考慮すべき課題の多い分野であるが,先天的疾患の影響や子宮がんによる切除で妊孕性(にんようせ い妊娠する力)機能を失った女性自身が子供を産める可能性を整えるために,研究を進めていきたい」とした。

代理母より移植を望む声も

 形成外科領域では,13-0,12-0という手術針を用いて,1mm以下の血管をつなぐことは決して特殊な技術ではない。三原氏らはこのSuper- microsurgery技術を利用することで,がん切除などで妊孕性機能を失った女性に対する子宮移植の実現が技術的に可能かどうか実験動物を用いて検 討している。

 従来,同様の移植実験を行う上での問題点として,実験動物に用いる霊長類がヒトに比べて非常に小さく,移植モデルの確立が不可能だったことが挙げられる が,Super-microsurgery技術は,今回実験動物として選択したカニクイザル(体重3.5kg)での研究を可能にさせた。

 同氏らは,全身麻酔下に子宮を体外に摘出し,同日に自家再移植を行ったが,子宮動静脈を吻合することで子宮は完全生着し,術後42日の開腹でも,直視下 で子宮の生着を確認できた。なお,この実験では卵巣の摘出は行わなかったが,子宮自家移植後の排卵,生理までは確認できており,現在は,妊娠・出産への耐 用を継続して確認しているという。

 一方,子宮移植を論じる上で,倫理面の解決は不可避の問題である。同氏は今回,助産師志望の女子学生13人を対象に,子宮がんで子宮を失ったと仮定した ときの心情を調査した結果,子供を希望する人は代理母よりも子宮移植を希望した人が多かったと紹介。「子宮移植の是非の問題とは別に,われわれは医療者と してがん治療による子宮摘出後に女性自身が子供を産める可能性をつくることも大切と考え,今後も研究を続けていきたい」と報告した。

Medical Tribune 2010-10-14

乳がんサバイバー,治療完遂後の妊娠・出産・授乳は可能
欧州臨床腫瘍学会でベルギーからの発表
 乳がんは,スクリーニングと治療法の著しい進展により早期発見・早期治療が可能となった。米国では現在, 治療が終了した45歳以下の乳がんサバイバーが40万人に上り,若い乳がんサバイバーにとって出産・育児は大きな関心事となっている。2010年3月の第 7回欧州乳がん会議(EBCC 2010)で「乳がんサバイバーも安全に妊娠可能である」とのメタ解析を報告したJules Bordet Institute(ベルギー)のHatem A. Azim Jr.氏らは,新たに「授乳も可能」との研究を発表した。

産科医,臨床腫瘍医によるカウンセリング提供が必要

 Azim氏らは,European Institute of Oncologyのデータベースを利用して授乳行動について質問紙調査を行った。対象は1988〜2006年に40歳以下で乳がんと診断され,治療完遂後 に妊娠した者とした。登録基準を満たした32人中20人から回答を得た。乳がんと診断された当時の年齢中央値は32歳(27〜37歳),出産時の年齢中央 値は36歳(30〜43歳)であった。

 授乳を行っていたのは回答者の半数の10人であった。そのうち4人は出産後1カ月以内に授乳を中止していたが,授乳に関するカウンセリングを受けていた 6人は出産後7〜17カ月(中央値11カ月)にわたって授乳していた。また,温存手術を含め乳腺切除を受けている場合は授乳期間が短くなる傾向にあり,ボ ディーイメージが授乳行動に影響することも示唆された。

 授乳をしない主な理由としては「安全だと知らなかった」,「授乳できないと思っていた」などが挙げられていた。

 今回の調査は授乳と乳がん予後との関連性を示すものではないが,進行例は授乳者と非授乳者それぞれ1人ずつであり,出産後の追跡期間中央値48カ月において回答者20人はすべて生存していた。

 同氏は小社の取材に対し,「がん化学療法中の授乳が安全か否かを検討する臨床試験は倫理的に実施不可能だが,治療終了後であれば薬剤もwash outされている」とし,「乳がんサバイバーの女性も,治療終了後にごく通常の“母親”となることができる。そのためには,医師が十分にカウンセリングを 提供することが重要」と強調した。

Medical Tribune 2010-10-15

臨床腫瘍レジデントの約半数がバーンアウト
フランス全土の調査,欧州臨床腫瘍学会で報告
 バーンアウト(燃え尽き症候群)は職務上の持続的ストレスによって誘発される情緒的疲労や意欲の低下であ る。特に臨床腫瘍医のバーンアウトは,そのままがん治療の質の低下をもたらし問題となるが,56%がバーンアウトを経験しているとのメタ解析結果もある (J Clin Oncol 1991; 9: 1916-1920)。そこでFrench Association of Residents in Oncology(フランス)のAlbiges Laurence氏らは,フランス全土の若い臨床腫瘍医を対象に調査を行い,その約半数がバーンアウト状態にあることを報告した。

「繰り返し訪れる患者の死亡」などがストレッサー,過労なども潜在的要因

 Laurence氏らは,2009年3〜6月にフランスの腫瘍内科医,放射線腫瘍医,血液科医のレジデント全340人へ質問紙を送付した。返信率は60%(放射線腫瘍医87人,腫瘍内科医67人,血液科医50人)であり,平均年齢は28歳,既婚率は65%であった。

 バーンアウトのレベルをバーンアウト尺度(Maslach Burnout Inventory)を用いて評価した結果,情緒的疲労(EE score≧27)が23%(53人),離人感覚(DP score≧10)は35%(72人)であり,いずれかに該当するレジデントは全体の44%(89人)に達していた。

 ストレッサーは大きく五つ,(1)繰り返し訪れる患者の死亡,(2)不透明な立場(先輩医師との不和,自己の将来への不安など),(3)過労,(4)実 存的な疑問(自分を誤りの多い医師だと感じるなど),(5)患者や家族からの過度な要求―であった。また,発症と関連する潜在的要因として,過労,実存的 な疑問,不十分な報酬が確認されている。

 以上から同氏は「臨床腫瘍レジデントのバーンアウト発現率は高く,患者との関係悪化,自身のQOL低下,他科への転向を招く」と結論。小社の取材に対し て「フランスには,バーンアウトのスクリーニング法や予防プログラムがまだ存在しないため,全国で連携して対策をたてていきたい」と述べた。

Medical Tribune 2010-10-15

英の乳がん死亡率が急減
他の欧州諸国に比べ大きな低下度
 国際予防研究所(仏)のPhilippe Autier博士らは「英国における人口ベースでの乳がん死亡率は過去20年間に他の主要欧州諸国と比べて急激に低下した」とする研究結果を発表した。こ の結果は,乳がん発症後の生存率は西欧諸国の中で英国が最悪という主張に対して異議を唱えるものである。

欧州15カ国で乳がん死亡率20%以上低下

 1980年代の後期以降,欧州の多くの国で乳がん死亡率が低下した。この低下には,乳がんスクリーニングなどの早期診断と有効性の高い乳がん治療法との複合効果が大きく寄与している。

 今回の研究でAutier博士らは,1980〜2006年に欧州30カ国の乳がん死亡率の変化を調査した。世界保健機関(WHO)のデータから,全女性について年齢群(50歳未満,50〜69歳,70歳以上)ごとの死亡率を算出した。

 同期間内に,欧州15カ国では乳がん死亡率は20%以上低下した。英国では死亡率が約30%低下し,他の欧州主要諸国と比べて低下度が最も大きかった。

 英国と同様に乳がんスクリーニングや抗がん薬の新規開発に巨費を投じたフランスやフィンランド,スウェーデンでは死亡率の低下は10〜16%だった。中欧諸国では過去20年間に乳がん死亡率は低下せず,上昇した国さえある。

 50歳未満の女性は,乳がんスクリーニングの受検がまれであるにもかかわらず,死亡率の低下は最大であった。同博士らは「この低下は有効な治療の標的設 定が向上したことを反映するものと考えられる。また,多数の国で持続的な乳がん死亡率の低下が確認されていることから,2006年以降も低下し続けている だろう」と述べている。

 同博士らは,欧州全域における乳がん死亡率の変動について理解し,中欧諸国での乳がん死亡を抑制するために,より正確なデータが必要だと指摘している。

信頼度低いがん登録データ

 オックスフォード大学疫学科のValerie Beral教授らは,「これまで,英国の乳がん生存率は低いとされてきたが,それはこの国のがん登録データの信頼度が低かったことによる。一方,英国の死 亡登録データには乳がんによる死亡が正確に記録されており(高齢者を除く),その中の中年層の乳がん死亡率に関するデータは信頼できる」としている。

 同教授らは「英国では中年層の人口ベースでの乳がん死亡率が急速に低下しているというデータは正しい。がん登録データの欠陥を適切に考慮しなかったことが英国のがん治療の有効性は一般的に低いという誤った見解につながった」と結論付けている。

Medical Tribune 2010-10-21

小児がん生存者に長期の心機能異常
 Emma小児病院(アムステルダム)小児腫瘍学のHelena J. van der Pal博士らの研究の結果,小児がん生存者は長期にわたる心機能異常のリスクが高いことが分かった。

性,薬剤投与量によらない

 小児がんの生存率は1940年代の20%から現在ではおよそ70〜80%に向上している。しかし,van der Pal博士らは「残念ながら,生存率の向上には治療の遅発的な影響が付随する。最も重大な影響は心血管疾患と心臓死である」と指摘。また「人口集団をベー スとしたいくつかの研究で,一般集団と比べて小児がん生存者では心血管疾患による死亡率が6〜8倍になることが認められている」と述べている。

 今回の調査は,心毒性をもたらす可能性の高い治療を受けた小児がんの長期生存者の大規模コホートにおいて,左室機能障害の有病率と決定因子を評価するために設計された。対象は5年以上生存した小児がん生存者601例で,以前の診断と治療について調べた。

 その結果,長期フォローアップ(平均15.4年)中に小児がん生存者の27%に心機能異常が認められた。これは併用療法を受けた患者で最も多かったが,性,シクロホスファミドおよびイホスファミドの高用量投与が,心機能障害の危険因子であるとする証拠は得られなかった。

 同博士らは「小児がん生存者における心機能障害の有病率が27%というのは,若年人口としては驚くほど高い。これらの患者は将来,症候性心不全を発症するリスクが高いと予想される」と述べている。

 さらに「小児がんの遅発的な影響に関する最初の外来診療受診時に,25%超が無症候性(早期,症状がほとんどまたは全くない)心不全を有していた。心毒 性をもたらす可能性のある治療を受けた小児がん生存者すべてを継続的に監視して,早期治療により利益が得られそうな小児がん生存者を識別し,心機能のさら なる低下を回避する必要がある」と付け加えている。

Medical Tribune 2010-10-21

第46回欧州糖尿病学会
インスリンやIGF-1の機能異常ががん発症の原因に
 がんは細胞の遺伝子変異が原因で起こるが,これだけで発症に至るわけではない。細胞の遺伝子変異だけな ら,健康なヒトの健康な組織においても多くの細胞で起こっており,臨床的には問題にならない潜在がんとして存在している。そして,この潜在がんは,健康な ヒトでも加齢とともに増加していく。ブリストル大学(英ブリストル)のJ. Holly氏は,がんの起源についてこのように説明した。

遺伝因子よりも環境因子が重要

 潜在がんのうちのあるものが,あるとき突然進展して臨床がんになるが,その契機となるのは環境因子である。Holly氏は,その例として日本人の前立腺 がんや大腸がん,乳がんの発症率が,日本に住んでいる日本人よりハワイに住んでいる日本人の方が数倍も高いというデータを示した。

 環境因子により影響を受けた潜在がんが臨床がんに進展していく過程で重要な役割を果たしているのは,細胞の栄養と代謝に関する状態であり,これに乱れが あると潜在がんから臨床がんへと進展しやすい。インスリンおよびインスリン様成長因子(IGF)は細胞の代謝や成長の調整因子であり,糖尿病患者はこれら 調整因子の働きに異常があるために,潜在がんから臨床がんへの進展が起こりやすいと考えられる。実際に,血清IGF-1値が高いと,前立腺がんや大腸が ん,乳がんの発症リスクが高まることが報告されている。

効果相反の局面の解決が課題

 現在,前立腺がんや大腸がん,乳がんの治療薬として,IGF-1の活性を抑制する種々の薬剤(IGF-1抗体やIGF-1受容体拮抗薬など)が開発され ており,そのいくつかは,既に臨床試験でがんの縮小効果などが認められている。しかし,これは糖尿病治療の観点から見れば,必ずしも好ましいとは言えな い。

 Holly氏は「これからのがんと糖尿病の治療法には,効果が相反するという局面が考えられるので,それをどのようにして調整,解決していくかが課題と言えよう」と述べた。

Medical Tribune 2010-10-21

第46回欧州糖尿病学会
肥満ががん発症と死亡リスクの予知因子に
 糖尿病に伴う過体重や肥満はがんの発症リスクでもある。現在,過体重や肥満は一般にBMIにより定義されているが,人間栄養学ドイツ研究所(ドイツ)のT. Pischon氏は「がんのリスクの予知因子としての過体重や肥満を評価するためには,BMIよりもウエスト周囲径の方が信頼性は高い」と述べた。

BMIよりウエスト周囲径による肥満の評価を

 欧州10カ国の一般住民50万人以上を対象に,栄養とがんとの関連を検討したEPIC研究によると,BMIで評価した過体重(BMI 25.0〜29.9)と肥満(BMI>30.0)は食道がん,閉経後乳がん,子宮内膜がん,腎がん,大腸がんなどの発症リスクとなることが示されている。

 しかし,BMIに代えてウエスト周囲径またはウエスト/ヒップ比で過体重や肥満を評価すると,さらにがんの発症との関連が鮮明になる。Pischon氏 によると,がんの発症リスクとなるのは,正確には全身脂肪ではなく内臓脂肪の蓄積だが,それを正確に評価しているのはBMIよりもウエスト周囲径やウエス ト/ヒップ比であるという。

 EPIC研究の結果では,ウエスト周囲径が10cm増えると膵がんの発症リスクは13%,5cm増えると進行前立腺がんの発症リスクは6%高まることが示されている。

ウエスト周囲径はがんによる死亡リスクとも正相関

 過体重や肥満はがんによる死亡リスクとも関連する。ただし,EPIC研究の結果では,男性ではBMI 25.3,女性ではBMI 24.3で最もがんによる死亡リスクが低く,BMIがそれ以上でも以下でも死亡リスクは高くなるという,いわゆるJカーブ現象を呈している。しかし,肥満 度をウエスト周囲径で評価し,BMIで補正すると,ウエスト周囲径とがんによる死亡リスクは,ほぼ直線的な関係を示すようになる。Pischon氏は 「BMIが24〜25以下の層でがんの死亡リスクが高まるのは,おそらく筋肉量の低下が反映しているのであろう」と見ている。

 「肥満によるがんの発症および死亡のリスクを評価する際には,できるだけウエスト周囲径またはウエスト/ヒップ比を用いるようにしたい」と同氏は締めくくった。

Medical Tribune 2010-10-21

閉経後女性のホルモン補充療法減少で乳がん発症率が低下
 ホルモン補充療法(HRT)を行う閉経後女性が減少したことにより乳がん発症率が明らかに低下していると,カナダのグループが発表した。

 2002年に,閉経後女性のエストロゲン+プロゲスチン併用HRTでは長期リスクがベネフィットを上回ることを示すWomen's Health Initiative試験の結果が報告された。同グループは,1996〜2006年の全国薬局調剤処方登録とがん登録のデータから,カナダにおけるHRT の処方動向と乳がん発症率との関係を検討した。

 その結果,HRT施行頻度の減少は2002年以降のHRT処方の減少に反映されていた。50〜69歳の閉経後女性におけるエストロゲン+プロゲスチン併 用HRTの施行頻度は,2002〜04年に12.7%から4.9%へと大きく減少した。この減少は,同時期の乳がん発症率の9.6%低下につながっていた (10万人当たりの発症率は2002年の296.3に対し,2004年は268.0)。

 一方,2002〜04年のマンモグラフィ受検率は72%で安定していた。

Medical Tribune 2010-10-21

父親の食生活がまだ見ぬ娘を糖尿病に,ラットを用いた研究で判明
環境要因も次世代に“遺伝”する可能性
 10月21日付けのNature(2010; 467: 963-966)に掲載された論文によれば,高カロリー食を与えられた雄性ラットを父に持つ雌性ラットは,生まれながらにして糖尿病の初期症状を呈したと いう。これまでも,妊娠中の女性の食生活が生まれてくる児の体質に影響を及ぼすことは知られていたが,今回の結果は,母親からの影響に比べれば微弱ではあ るものの,純粋な環境要因である父親の食生活の影響も将来生まれてくるであろう次世代に伝わることを示している。

HFDラットの娘は先天的に糖尿病初期症状を有す

 著者であるオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のSheau-Fang Ng氏らは,通常より脂肪分を40%多く含む高カロリー食を与えて典型的な肥満,糖尿病症状を呈した雄性ラット(HFDラット)を,通常食で育てた雌性 ラットと交配。その仔ラットを,通常食で育った雄性ラットの仔と比較した。

 両群の同腹産仔数や性比は同等で,生後の体重変化,カロリー消費量,空腹時血糖,血中インスリンにも目立った違いは認められなかった。しかし,生後6週 齢で行われた糖負荷試験において,HFDラットを父に持つ雌性ラットは対照群と比べて有意な血糖の上昇(最大値245.05±5.41mg/dL vs. 221.62±7.21mg/dL)とインスリン分泌の減少(最大値1.4±0.3ng/mL vs. 2.7±0.4ng/mL)が認められ,その傾向は生後12週齢でさらに顕著になった。ただし,インスリン抵抗性には差が認められなかった。

 これらの所見から,HFDラットを父に持つ雌性ラットは,生まれながらに糖尿病初期の症状を呈していると考えられた。同様の兆候はHFDラットを父に持つ雄性ラットにも認められたが,その度合いは雌性仔ラットと比べてかなり低かった。

娘ラットの糖尿病初期症状は膵β細胞の増殖抑制が原因

 次に,膵の形態を比較したところ,HFDラットを父に持つ雌性ラットでは膵島のβ細胞が減少しており,β細胞の増殖が抑制されていることが示唆された。 この減少したβ細胞のせいで,空腹時の血糖やインスリンは維持できるものの,グルコース刺激によるインスリンの産生や食後高血糖の抑制には十分な機能を果 たせないと考えられた。

 そこで,このβ細胞の増殖阻害の原因を探るため,単離された膵島に対して遺伝子解析が行われた。

 その結果,2,492個の遺伝子が,HFD雄性親ラットの影響を受けて発現量が有意に変化していることが明らかとなった。これらの遺伝子を解析したとこ ろ,インスリンおよび糖代謝にかかわるシグナル伝達経路に属する遺伝子や,細胞増殖にかかわる遺伝子が多く含まれていることが分かった。

 今回の論文は,父親が曝露された高カロリー食などの環境要因によって,仔の血糖調節機能が影響を受けることを初めて直接的に証明した論文である。それと 同時に,そのメカニズムの一つとして,仔のゲノムDNAのメチル化という後天的DNA修飾(エピジェネティック修飾)の変化が関与している可能性を示唆し ており,この変化がどのようにもたらされたのかの解明が今後の焦点となろう。Ng氏らは,エピジェネティック修飾の変化が父親の精子を介して次世代に伝え られたと考えており,その直接的な証明が期待される。

Medical Tribune 2010-10-27

第57回日本臨床検査医学会
p53抗体は早期大腸がん発見に有用
 血清抗p53抗体(p53抗体)は,早期のがんに対して従来の腫瘍マーカーよりも比較的高い陽性率を示す として注目されている。東京女子医科大学東医療センター検査科の小松祐己氏らは大腸がんに対する有用性の検討から,早期大腸がんでp53抗体ががん胎児性 抗原(CEA)といった既存の腫瘍マーカーよりも高い陽性率であったことなどを報告した。

CEAとの併用で診断感度上昇

 対象は,2009年1月〜10年1月にp53抗体の測定を行った患者279例。まず,大腸がん症例(70例)と腺腫症例(67例)で比較したとこ ろ,p53の平均抗体価はそれぞれ57.7U/mL,0.64U/mL,抗体陽性率は43%,6%で,いずれも大腸がん症例の方が有意に高値を示した。

 続いて,便潜血反応検査(FOBT)陽性例(57例)を対象にp53抗体と大腸がんの関連を検討。大腸がんと診断されたのは20例で,うち9例がp53 抗体陽性であったため,陽性率は45%となった。一方,非大腸がん37例でp53抗体が陽性だったのは4例のみだった(陽性率11%)。

 次は,大腸がん症例において各腫瘍マーカーの検出力を比較した。陽性率は,p53抗体で43%,CEAで46%,がん関連糖鎖抗原(CA)19-9で 29%。感度と特異度は,p53抗体で43%,83%,CEAで46%,81%,CA 19-9で29%,95%と,p53と既存腫瘍マーカーで同程度であった。

 さらに,病期で分けて各腫瘍マーカーの陽性率を検討。早期がん症例(13例)での陽性率は,p53抗体で38%,CEAで15%,CA19-9で 7.6%と,p53抗体が比較的高い陽性率を示すことが分かった。進行がん症例(43例)での陽性率は,p53抗体で35%,CEAで 53%,CA19-9で35%。術後再発例(14例)での陽性率は,p53抗体71%,CEA 50%,CA19-9 29%と,やはりp53抗体で高かった。

 大腸がん全症例を対象に,各腫瘍マーカーの組み合わせで陽性率を見たところ,p53抗体+CEAで76%,p53抗体+CA19-9で64%,CEA+CA19-9で57%となり,p53抗体とCEAの組み合わせが最も高い陽性率を示すことが明らかとなった。

 小松氏は「p53抗体は,従来困難と考えられていた早期がん発見の腫瘍マーカーとして期待されるとともに,術後再発のモニタリングとしても有用性が示唆される」と結んだ。

Medical Tribune 2010-10-28

日本人女性約5万例による前向き研究,緑茶による乳がん予防効果確認できず
国立がん研究センターJPHCコホート研究
 国立がん研究センター予防研究部室長の岩崎基氏らは,40〜69歳の日本人女性約5万4,000例を10 年以上追跡した前向きコホート研究(多目的コホート研究:JPHC)の結果,1日に摂取する緑茶の量と乳がんの発症リスクに関連が見られなかったことを 10月28日のBreast Cancer Researchに報告した。同氏らによると,in vitroや動物による実験では緑茶による乳がん予防効果が示唆されていたものの,疫学研究では統一した結果が得られていなかったという。

緑茶の種類,摂取量の幅を拡大しても有意な関連見られず

 今回対象とされたのは1990〜94年のベースライン調査に参加した女性5万3,793例。ベースライン時と研究開始5年時点(1995〜98年)の中間調査での緑茶の摂取習慣に関するアンケートの結果を用い,二つの検討が行われた。

 ベースライン調査対象者5万3,793例のうち,約13.6年の追跡期間に581例が乳がんと新規に診断された。1週間の緑茶摂取量別に乳がんリスクと の関連を調査したところ,週1杯未満の群(全体の12%)を1とした場合の乳がんリスクは1日5杯以上緑茶を飲んでいる群(全体の27%)で 1.12と有意な関連が見られなかった。

 岩崎氏は今回のJPHCコホートにおける前向き研究について,「思い出しバイアス」を排除し,乳がん発症前にさかのぼった緑茶の摂取状況との関連を検討 することができたと評価。緑茶飲料がどんなタイプであれ,どれだけ摂取しようと乳がんのリスクは減ることはないようだと結論付けている。

Medical Tribune 2010-10-28

低用量アスピリンで大腸がんリスク低下,英メタ解析
数年間の服用で18年間の発生率24%減,死亡率35%減
 胃がん,前立腺がん,乳がんなどさまざまながんの予防効果が指摘されているア スピリン。大腸がんの予防に関してはこれまで高用量の服用が必要とされてきたが,英オックスフォード大学のPeter M. Rothwell氏らは,低用量でも大腸がんリスクを低下させることをメタ解析で明らかにし,Lancet10月22日オンライン版に発表した。1日当た り75〜300mgを数年間服用することで,約18年間の大腸がん発生率が24%,大腸がんによる死亡率が35%それぞれ低下したという。

5年以上投与で近位結腸がんリスクが約70%低下

 Rothwell氏らは,1980〜90年代に英国,スウェーデン,オランダで実施されたアスピリンが対象の五つのランダム化比較試験を対象に,メタ解 析を実施。1日の服用量を75〜300mgと500〜1,200mgで分け,がんの部位別(近位結腸,遠位結腸,直腸)でも検討した。各試験の治療期間は 中央値で2.7〜6.9年で,追跡期間は中央値18.3年間,大腸がん発生率は2.8%(391例/1万4,033例)となっている。

 その結果,75〜300mg/日群の大腸がん発生率は対照群に比べて24%少なく,大腸がんによる死亡率は35%少なかった。この傾向は近位結腸がんにおいて顕著で,遠位結腸がんでは有意差が認められなかった。

 直腸がんでも有意差が認められなかったが,治療期間5年以上に限定すると発生率,死亡率ともに有意に減少。5年以上投与例では,近位結腸がんリスクもさらに低下した。

 以上のことから,同氏らは「75mg/日以上のアスピリンを数年間服用することで,長期にわたって大腸がんの発生率と死亡率を低下させた」と結論。解析 した比較試験の対象者すべてが試験に先行して内視鏡検査を実施していたため,アスピリンの絶対的な有益性を多少損なうとしつつ,アスピリンによる近位結腸 がん予防の重要性を強調している。

Medical Tribune 2010-10-28