広葉樹(白) 
          

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2010年1月 文献タイトル
新技術で臍帯血移植の適合性を改善
急がれる「外科離れ」への対応 4月の診療報酬改定が焦点
大豆食品の摂取で乳がん患者の死亡と再発が減少
携帯電話のリマインダーメールで日焼け止めの使用を奨励
〜子宮頸がんスクリーニング〜液状細胞診はPAP検査を上回らない
アスピリンやNSAIDにより胃食道逆流症状に関連する食道がんのリスクが低下
日焼け用ベッド使用で児童にも発がんリスク
子宮頸がん予防ワクチンに公費助成を 「3回で5万円」がネック,署名活動も開始
洗浄廃液で胃がん発見期待 異常遺伝子を検出
初潮年齢が早いことがCVD発症や死亡と関係
心移植を受けた患者は皮膚がん発症率が高い
脳腫瘍の発生率 携帯電話の使用増加との関連性は発見できず
〜小児急性リンパ性白血病〜進行を予測する新ツールを開発
ACE- I やARBで乳がん再発リスク低下の可能性
アプタマーが薬剤を腫瘍に直接送達 がん薬物治療の有効性を高める可能性
過去10年で5倍に上昇 喫煙者の膀胱がんリスク
〜ホルムアルデヒドへの曝露〜葬儀業従事者で白血病リスクが上昇
ビタミンD不足で大腸がんリスクが40%上昇 経口摂取した場合は関連認められず

新技術で臍帯血移植の適合性を改善
 ライデン大学医療センター(オランダ)免疫血液学・輸血科のJon van Rood博士らは,臍帯血移植のドナーとレシピエントの適合性を評価する新技術により,患者のアウトカムを現在の方法よりも改善させることができるかもしれないと発表した。

 臍帯血幹細胞移植は,血液疾患患者の治療法として一般的なプロトコルになりつつあるが,ドナーの臍帯血のレシピエントに対する適合性を評価する最善の方法はまだ確立されていない。

 従来の方法では免疫機能に関与する細胞表面の遺伝性蛋白質であるHLAが適合性の評価に利用されている。しかし,今回の研究ではヒトの保有する非遺伝母由来抗原(NIMA)に焦点を当てた。これは母親の持つ抗原で,臍帯を通じて子宮内の胎児に曝露されるが,児には遺伝しない。

 同博士らは,血液がんの治療に臍帯血移植を受けた患者1,121例のアウトカムを調査した。その結果,ドナーに対してHLAは不適合だがNIMA は適合する患者で,細胞移植率が高く,移植関連死亡率,全死亡率,治療失敗率が低いことを見出した。

 同博士らは「新生児は誕生前に非遺伝性抗原に対して免疫寛容を生じるため,NIMAにより誘導された寛容が機能した可能性が高い」と報告。「ドナー検索アルゴリズムにNIMA適合を追加すれば,臍帯血移植が改善するだろう」と述べている。

Medical Tribune 2010-1-7
急がれる「外科離れ」への対応 4月の診療報酬改定が焦点
 昨今,医師の総数は増加傾向にあるものの,外科系の医師数,特に29歳以下の若手外科系医師数の減少が顕著であるとされる。この問題は国民が享受できる医療の質の低下にも直結するため,喫緊の課題と言える。東京都で開かれたメディアセミナー(主催=NPO法人「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」)では,同法人の松本晃理事長が,わが国と米国との診療報酬の違いなどを説明することで,わが国の外科医の窮状を訴え,4月の診療報酬改定における手技料の大幅な増額を求める要望書を提出した。

米国との医療費格差は明白

 厚生労働省のさまざまな調査によると,わが国における外科系の医師数は,2006年までの10年間でおよそ8%減の2万6,085人であり,昨今は減少傾向にある。特に29歳以下の若手医師数は,2004年時で2,184人と,1996年時に比べ1,000人以上激減しているという。

 松本理事長は,わが国の外科医が慢性的に不足している要因として,2004年に導入された新医師臨床研修制度を挙げ,同制度によって,研修医が過酷な外科の診療現場や,良好とは言えない待遇を実感することになり,外科離れが促進されてしまうと説明した。

 2006年に日本外科学会が同学会員1,276人を対象に実施したアンケート(複数回答)でも,外科志望者が減少している理由として「賃金が少ないから」との回答が67.1%に達しているという。

 そこで求められるのは,重労働,低賃金,訴訟リスクなどに苦しむ外科医の待遇改善であるが,その観点から考えると,わが国の医療状況は米国などと比べて恵まれているとは言えない。

 同理事長によると,わが国と米国とで国民1人当たりのGDPを比較すると,およそ400万円と500万円で,大きな開きはないという。しかし,年間の国民総医療費となると,わが国が34兆円であるのに対し,米国は220兆円とおよそ6.5倍,国民1人当たりの医療費に関しても,わが国の27万円に対し,米国は73万円とおよそ2.7倍にのぼるとされた。

ドクターフィーの有無も要因

 また,診療報酬についても,わが国と米国では,政治体制や社会体制の違いがあるため,必ずしも同列には論じられないものの,大きな差があると言われる。

 例えば,人口およそ30万人のオハイオ州シンシナティの病院と,わが国の病院における腹腔鏡下胆嚢摘出術に関連する入院費,手技料,麻酔代などの診療報酬を比較すると,前者は160万円,わが国は63万円であるという。また,腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術についても同様に比較すると,それぞれ320 万円,165万円であるという。

 さらに,米国の診療報酬体系にはドクターフィーが含まれているため,例示した手術が米国で行われると,10万?20万円の報酬が別途医師に支払われるのに対して,わが国ではドクターフィーの概念がないことから,該当する報酬が支払われないことも,両国間の診療報酬格差を助長する一因であると指摘した。

 松本理事長は,このようにわが国の医師を取り巻く厳しい環境を概括し,「プライマリバランスの黒字化を達成するために,財政再建路線を維持する政府による医療費抑制方針が,研修医の外科離れにも影響を及ぼしている」と述べ,外科医の待遇の見直しなど,なんらかの対策を講じなければならないと強調した。

 その手始めに,同団体は厚生労働大臣あてに昨年10月29日,要望書を提出し,4月に行われる診療報酬改定において,外科の手技料の大幅な上昇を強く要求した。

 最後に,同理事長は「現在,医療費抑制策によって困窮状態にあるのは外科医だが,この問題を放置しておけば,近い将来その影響は国民にも波及することになり,日本でがんなどの手術が受けられなくなる日も遠くはない」と警鐘を鳴らした。

Medical Tribune 2010-1-7
大豆食品の摂取で乳がん患者の死亡と再発が減少
 乳がん患者の大豆食品摂取が死亡と再発のリスク低下に関係していると,米国と中国の共同研究グループが発表した。

 大豆食品には乳がんのリスク低下に有効と考えられるイソフラボンが豊富に含まれている。しかし,イソフラボンのエストロゲン様作用,タモキシフェンとの相互作用の可能性から,乳がん患者の大豆食品摂取には懸念もある。

 同グループは,2002年3月〜06年4月に乳がんと診断された中国人女性5,042例を2009年6月まで追跡。乳がん診断後の大豆食品摂取と死亡,再発との関係を検討した。

 中央値3.9年の追跡で,乳がんの手術を受けた5,033例中444例が死亡,534例が再発または乳がんに関連して死亡した。解析の結果,大豆蛋白または大豆イソフラボンの摂取として測定した大豆食品の摂取と,死亡および再発との間に負の相関関係(大豆食品の摂取増加で乳がん患者の死亡と再発が減少)が認められた。

Medical Tribune 2010-1-14
携帯電話のリマインダーメールで日焼け止めの使用を奨励
 カリフォルニア大学デービス校保健システムのApril W. Armstrong博士らは6週間にわたる研究を行い,携帯電話のリマインダーメール(注意メール)を毎日受信すれば,日焼け止めの使用率が高まる可能性があると発表した。
 
使用倍増で遵守率は56.1%

 世界ではがん患者の3人に1人を皮膚がんが占めており,米国では毎年新規に皮膚がんと診断される患者が100万人を超える。そして,これらの多くは皮膚を守る衣服の着用や日焼け止めの使用など直射日光を避ける対策を徹底すれば予防することができるという。

 今回の研究では6週間にわたり,日焼け止めの使用を思い出させる携帯電話のリマインダーメールを毎日受信させ,その有効性を評価した。対象は70 例(18歳以上)で,日焼け止めを毎日使用するよう指示された。被験者の半数がリマインダーメール受信群にランダムに割り付けられ,残りの半数はリマインダーメールを受信しない対照群とした。リマインダーメールは地域の毎日の詳しい天気情報と,受信者に日焼け止めの使用を思い出させる文章で構成された。被験者の日焼け止めのチューブに,蓋を外すたびに中央局に電子メッセージが送信される電子モニターを取り付けて遵守率を評価した。

 Armstrong博士らは「42日(6週)の研究期間の終了時に,対照群で日焼け止めが使用された日数は平均12.6日で,遵守率は30%であった。それに対して,リマインダーメール受信群では23.6日で,遵守率は56.1%だった」と報告している。リマインダーメール受信群では,24例(69%)が研究終了後もリマインダーメールの受信を続けたいと回答しており,31例(89%)がリマインダーメールシステムを他人にも推奨したいと答えた。遵守の予測因子となる有意な人口統計学的要因はなかった。

 同博士らは「日焼け止めの使用を奨励してきたにもかかわらず,過剰な日光曝露の有害作用に関する患者の知識と,日焼け止めの日常使用との間には依然として大きな隔たりがある。今回の研究結果は,携帯電話のリマインダーメールが,患者の知識と行動のギャップを埋め,低価格で適応性が高く,有効な方法であることを示している。リマインダーメールを使用したプログラムを大規模集団に導入すれば,皮膚がんへの革新的な予防策になるだろう」と結論付けている。

Medical Tribune 2010-1-14
〜子宮頸がんスクリーニング〜液状細胞診はPAP検査を上回らない
 ラドバウド大学ナイメーヘン医療センター(オランダ)のAlbertus G. Siebers氏らは約9万例の女性を組み入れた研究を行い「パパニコロー(PAP)検査に代わる方法として広く用いられている液状細胞診(liquid-based cytology;LBC)は,子宮頸がんおよびその前がん状態を検出するうえでPAP検査よりも優れてはいない」と発表した。
 
LBCの優越性は示されず

 PAP検査は,偽陽性や偽陰性となる可能性から,最適な検査法ではないとされている。研究の背景情報によると,LBCでは従来のサンプリング法で採取された子宮頸部細胞を,スライドガラスに塗布する代わりに,保存液とともにバイアルに注ぐ。数多くの研究にもかかわらず,その診断精度に関しては不確実性が残されていた。

 Siebers氏らは,PAP検査とLBCのスクリーニング精度を比較するために検査陽性率,組織学的検出率,陽性的中率(PPV)について調査した。このランダム化比較試験では,オランダ子宮頸がんスクリーニングプログラムに参加した246の家庭医クリニックの女性患者8万9,784例(30〜60歳)を対象とした。

 同氏らの知見によると,いくつかの細胞学的カットオフ値を用いても,LBCとPAP検査間で調整後陽性的中率に有意差はなかった。

Medical Tribune 2010-1-14
アスピリンやNSAIDにより胃食道逆流症状に関連する食道がんのリスクが低下
 アスピリンや非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用により胃食道逆流(GER)症状に関連する食道がんのリスクが有意に低下すると,オーストラリアのグループが発表した。

 同グループは,GER症状に関連する食道がんのリスクに対する喫煙,NSAID,酸分泌抑制薬の影響を検討する目的で症例対照研究を実施した。症例群には食道腺がんの365例,食道胃接合部腺がんの426例,食道扁平上皮がんの303例が含まれた。コントロール群は1,580例であった。

 頻回(少なくとも毎週)のGER症状は食道腺がん,食道胃接合部腺がん,食道扁平上皮がんの有意なリスク上昇と関係していた(それぞれ6.4倍,4.6 倍,2.2倍)。頻回にGER症状がある患者のうち,ヘビースモーカーは非喫煙者と比べ食道腺がんのリスクが著しく高かった。接合部腺がんと扁平上皮がんでも同様のパターンが観察された。

 頻回にGER症状がある患者におけるアスピリンやNSAIDの定期的使用は,非使用と比べ食道腺がんのリスクが3分の2低いことと関係していた。対照的に,酸分泌抑制薬使用と非使用の食道腺がんのリスクはほぼ同程度であった。

Medical Tribune 2010-1-14
日焼け用ベッド使用で児童にも発がんリスク
 英国がん研究会(ロンドン)のCatherine Thomson氏とリーズ大学(リーズ)リーズ分子医学研究所のChris Twelves教授は,日焼け用ベッドの使用により,イングランドに住む推定25万人の児童において,悪性黒色腫の発症リスクが高まっていることを発表し,警鐘を鳴らした。
 
15〜17歳の女子で高い使用率

 最近報告されたメタアナリシスでは,35歳までの日焼け用ベッド使用と悪性黒色腫発症リスクの増加が関連していることが示されている。

 日焼け用ベッドは,皮膚に深刻な問題を引き起こすため,Thomson氏らは今回,イングランドの児童に同ベッドの使用禁止を呼びかける緊急法の制定を求める予定である。同法は,スコットランドで既に施行されており,ウェールズでも制定が予定されている。

使用を18歳以上に規制する法案を

 日焼け用ベッドの使用に対する規制は緩く,英国全土で児童の23.2%が自宅で使用していた。残りの3分の2は日焼け・美容サロンあるいはジム・レジャーセンターで使用しており,約5人に1人(21.8%)が非監督下であった。また,監督下においても使用に伴うリスクについて説明を受けていた児童は11.4%にとどまった。

 Thomson氏らによると,この高い日焼け用ベッドの使用率が,イングランドの推定25万人超の児童における悪性黒色腫の発症リスクを高めているという。

 同氏らは「皮膚がんリスクから児童を守るために,日焼け用ベッドの使用を18歳以上に規制するとともに,法律を制定し,非監視下およびコイン式の日焼けサロンを閉鎖する必要がある」と提言している。

Medical Tribune 2010-1-14
子宮頸がん予防ワクチンに公費助成を 「3回で5万円」がネック,署名活動も開始
 諸外国に遅れて昨年(2009年)10月,ようやくわが国でも承認された子宮頸がん予防ワクチンの普及と啓発を図る講演会が1月13日,国立がんセンター中央病院院長の土屋了介氏の主催で開かれた。子宮頸がんは,ワクチンで予防可能な唯一のがんであるにもかかわらず,性感染症のイメージが先行し,疾患への正しい理解がなかなか進まない現状がある。講演では,メーカー側と医療側,患者側それぞれから演者が登壇,予防の意義とワクチン接種の公費助成の必要性を訴えた。

ワクチン接種で社会的支出の抑制効果大きい

 子宮頸がんは,わが国で毎年1万5,000人が新規に罹患し,3,500人が死亡していると推計される。発症のピークは35歳で,20歳代〜30 歳代の死因の第1位。新規罹患者の半数が治療により妊娠・出産ができなくなるなどQOLの低下も深刻だ。一方で,12歳時のワクチン接種によって子宮頸がんの発生者数を約73%抑制できることもわかっている。

 予防ワクチンメーカーの1つ,グラクソ・スミスクラインの渉外部マネージャー・中村景子氏は,こうした疫学や同社製ワクチンの組成,諸外国におけるワクチン接種の現状について説明した。

 同氏によると,オーストラリアでは12〜13歳女子を優先接種対象とし,学校での接種を国庫負担で行っている。英国でも同年齢の女子に国庫負担で接種。米国でも11〜12歳女子を優先接種対象として,低所得者層には公費助成を行っている。これに対し,公的助成のない日本では3回のワクチンを受けるのに5万円の費用負担が生じてしまう。

 同氏は,こうした負担に加えて,子宮頸がんと性交渉の関わりがマスコミで取り上げられがちなことがワクチン普及のハードルを上げている,と提起。「女性の80%は生涯に一度はヒトパピローマウイルス(HPV)に感染している。それが持続感染になるかどうかが子宮頸がんの発症にかかわっているのであり,特殊な性行為と子宮頸がんとは全く関係がない」と正しい理解を求めた。

 一方,自治医科大学さいたま医療センター産婦人科教授の今野良氏は,わが国では世界に先駆けて子宮頸がん検診が行われてきたが,近年は30歳代の検診受診率が低下していることを紹介し,「検診の重要性を知っている人が少なく,受診費を補助する自治体も,受診率20%程度にしか予算上の想定していない」と現状を危惧。「ワクチンと検診の組み合わせによって予防効果は飛躍的に上がるし,検診も5年に1度の簡便なテストですむようになる。社会的支出の抑制効果は大きい」として予防の意義を裏づけた。

Medical Tribune 2010-1-15
洗浄廃液で胃がん発見期待 異常遺伝子を検出
 内視鏡検査の前に行う胃洗浄の廃液を調べると、胃がんを早期発見できる可能性のあることが、聖マリアンナ医科大の伊東文生教授らの研究でわかった。

 洗浄の水圧ではがれ落ちる胃全体の粘膜細胞から、胃がんに特有の遺伝子の異常を検出できた。胃がんの2割以上を見落とすという内視鏡検査の弱点解消につながり、患者に負担の少ない診断法としても期待される。

 内視鏡検査では、胃粘膜を覆う粘液が観察の邪魔になるため、内視鏡の先端から水を出して洗い流す。洗浄液は胃から吸引して捨てられるが、伊東教授らは、検査を受けた68人の洗浄液中のDNAを分析した。その結果、検査で早期がんが発見された20人は、胃がん患者に高率で見られるがん抑制遺伝子「MINT25」の異常も見つかった。

 さらに、内視鏡ではがんを確認できなかった48人のうち、2人の洗浄液から、同じ遺伝子の異常が見つかった。検査で見逃されたごく早期のがんがあると見られ、今後、3か月ごとに検査を繰り返す。

m3.com 2010-1-18

初潮年齢が早いことがCVD発症や死亡と関係
 月経開始年齢が早いことが心血管疾患(CVD)の発症や死亡リスクの上昇と関係している可能性があると,英国のグループが発表した。

 初潮年齢とCVDとの関係は不明だが,最近の2件の研究で初潮年齢と死亡との負の相関関係が報告されている。同グループは,1993〜97年の登録時に40〜79歳だった女性1万5,807例を追跡し,2007年3月までのCVD発症と2008年2月までの死亡を調べた。

 追跡期間中に3,888例がCVDを発症〔冠動脈性心疾患(CHD)1,323例,脳卒中602例,その他1,963例〕,1,903例が死亡した(CVD 640例,がん782例,その他481例)。

 解析では年齢,身体活動,喫煙,飲酒,学歴,経口避妊薬の使用,ホルモン補充療法,出産歴,BMI,ウエスト周囲径などを調整した。その結果,初潮年齢が12歳未満であった女性はそれ以外の女性と比べ高血圧の有病率が高く,CVDとCHD発症,全死亡,心血管死,がん死のリスクが高かった。

Medical Tribune 2010-1-21
心移植を受けた患者は皮膚がん発症率が高い
 心移植を受けた患者の生存期間延長に伴って皮膚がんの発症が高い割合で認められると,米メイヨー・クリニックのグループが発表した。

 同グループは,1988〜2006年に自施設で心移植を受けた患者のデータを後ろ向きに解析し,皮膚がんの発症と危険因子を検討した。

 この期間中に心移植を受けた患者は312例。計2,097人年の観察で,1,395個の新規皮膚がん発症が認められた。皮膚がんの数の幅は扁平上皮がんが0〜306個,基底細胞がんが0〜17個であった。心移植後のあらゆる皮膚がんの累積発症率は5年目が20.4%,10年目が37.5%,15年目には46.4%に達した。

 多変量解析では移植後の皮膚がん以外のがん発症,高齢,心不全の病因因子が扁平上皮がんのリスクと,また移植後の単純ヘルペスウイルス感染,高齢,免疫抑制のためのミコフェノール酸モフェチル使用が基底細胞がんのリスクと関係していた。

Medical Tribune 2010-1-28

脳腫瘍の発生率 携帯電話の使用増加との関連性は発見できず
 デンマークがん学会(デンマーク)のIsabelle Deltour博士らは,携帯電話の使用が急増してから5〜10年が経過した後も,成人の脳腫瘍発生率は変化していなかったと発表した。
 
神経膠腫と髄膜腫の発生率を分析

 これまで,携帯電話の使用が脳腫瘍の危険因子であるとされてきたが,その関連性を説明する生物学的機序は不明であった。

 そこで,Deltour博士らは,デンマーク,フィンランド,ノルウェーの成人(20〜79歳)の神経膠腫と髄膜腫の年間発生率を分析。 1974〜2003年にこれらの脳腫瘍の診断を受けた患者6万例を同定した。

 今回の研究によると,この30年間の発生率の推移は,横ばい,減少,あるいは携帯電話導入前から始まった緩やかな増加のいずれかを示した。また,1998から2003年にかけて脳腫瘍の発生傾向に変化は見られなかった。

 同博士らは「今回の結果から,(1)携帯電話の使用が脳腫瘍を誘発するまでの期間は5〜10年よりも長い(2)この母集団におけるリスク増加は検知できないほど小さかった(3)リスク増加は特定の脳腫瘍あるいはある一部の携帯電話使用者のみに起こる(4)リスクは増加しない―などが考えられる」と述べている。

 今回の研究は脳腫瘍の発生率のみについて調査しており,同時期における携帯電話の使用頻度などは調べていない。

 同博士らは「今回の母集団においても,また世界的にも携帯電話を使用する機会が増えていることから,脳腫瘍発生率の経時的な傾向について追跡調査が必要である」と結論している。

Medical Tribune 2010-1-28
〜小児急性リンパ性白血病〜進行を予測する新ツールを開発
 ウプサラ大学分子医学科のAnn-Christine Syv?nen教授らは,急性リンパ性白血病(ALL)の患児から採取した骨髄細胞のDNAを調べ,化学療法にどのように反応するかを予測するツールを開発したと発表した。ALLは小児がんでは最も多い。
 
DNAメチル化が関与

 今回の研究では,DNAメチル化が疾患進行の予測指標として有望であることが示された。DNAメチル化はゲノムの後成的変化とされており,遺伝性突然変異とは対照的に,遺伝子の配列を変化させないゲノムDNAの変化である。

 今回の研究では,北欧諸国のALL患児400例から採取した骨髄細胞におけるDNAのメチル化を分析した。北欧の小児腫瘍医は長い間,患児の詳細な情報を収集し,北欧データベースに蓄積していた。

 Syvnen教授らは,8,000例に及ぶヒト遺伝子の予備分析に基づき選択した400遺伝子でDNAメチル化を分析。このうちわずか40遺伝子のメチル化分析で,現在,日常的に使用されている細胞遺伝学的手法と同等の正確さで白血病細胞の分類が可能であった。同教授らは,ALL患児において DNAメチル化のレベルと,治療に対する反応が相関する遺伝子グループを同定した。

 同教授は「今回の研究結果は,DNAにおける限られた数のメチル化塩基の分析が,白血病治療に反応しない患児を同定するマーカーテストとして利用できることを示している」と述べている。

Medical Tribune 2010-1-28
ACE- I やARBで乳がん再発リスク低下の可能性
 アルバートアインシュタイン医療センターのYoung Kwang Chae博士らは,降圧を目的としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を服用していた乳がん患者で再発率が低かったと第32回サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で報告した。同博士らは,両薬剤が乳がん患者の再発リスクを抑制していると結論付けている。
 
死亡リスクも有意に低下

 Chae博士らは1999〜2005年に同センターでステージIIまたはIIIの乳がんと診断され,治療後無病生存状態に達したと判断された患者の記録を中央値4.4年(最長9.8年)にわたり,後ろ向きに調査した(観察期間は1999〜2008年)。

 無病生存期間中にACE- I あるいはARBを少なくとも6か月間服用した患者707例を解析した。これらの乳がん患者のうち,335例(23.3%)が高血圧を有しており,そのうち 49.0%はACE- I あるいはARBを服用していた。両薬剤の処方には高齢,閉経,糖尿病が有意に相関していた。

 解析の結果,両薬剤を服用していた164例中23例(14%)にがん再発が認められた一方,非服用者541例では125例(23.3%)が再発しており,ACE- I /ARB服用群で再発率が有意に低かった。

Medical Tribune 2010-1-28
アプタマーが薬剤を腫瘍に直接送達 がん薬物治療の有効性を高める可能性

[2010年1月28日(VOL.43 NO.4) p.65]
アプタマーが薬剤を腫瘍に直接送達 がん薬物治療の有効性を高める可能性

 正常組織に悪影響を与えずに腫瘍を検出・治療するのは困難で,最も有効な治療法はしばしば侵襲的でリスクが高い。デューク大学医療センター肝膵胆・腫瘍外科部門のBryan M. Clary部長らは,腫瘍組織に特異的に結合するアプタマーと呼ばれる分子を用いて,適切な薬剤を腫瘍に直接送達させる方法を考案したと発表した。
 
抗体よりも高い安定性

 今回の研究では,齧歯類の肝がんモデルにおいて大規模なアプタマーのふるい分けを行うことで,腫瘍内蛋白質と最も強く結合する分子を発見した。

 Clary部長は「われわれは既にアプタマーに化学物質を結合させる研究に着手しており,次の段階として,アプタマー分子を用いて抗がん薬を必要な部位へ送達させる研究を予定している」と述べている。

 アプタマーは標的分子(通常は蛋白質)に特異的に結合する短いRNAである。また,容易に再生・改変ができるため,蛋白質抗体などの分子に比べ安定性が高い。特に免疫系にはほとんど干渉しないため,腫瘍の診断・治療法の有力候補となっている。

別のアプタマー発見の可能性も

 Clary部長らは当初,ペプチドで行われた初期研究に基づき,肝腫瘍に栄養を供給する血管に発現している蛋白質に対するアプタマーを特定できると予測していた。しかし,代わりに腫瘍細胞内のp68を標的とするアプタマーが発見された。同部長は「p68は貴重な標的だと言える。アプタマーの護送で細胞内まで薬剤を送達できるほうが,腫瘍全体の薬物治療が容易になると考えられるからだ」と述べている。

 さらに「同一の肝腫瘍において選択・増幅の過程を繰り返すことにより,腫瘍組織内のp68以外の蛋白質と強く結合する別のアプタマーを発見できる可能性もある」と付け加えている。今回,最初の試みとしてp68へと護送するアプタマーに焦点を当てたのは,結腸がんでは同蛋白質の過剰発現が知られていたためである。

Medical Tribune 2010-1-28
過去10年で5倍に上昇 喫煙者の膀胱がんリスク
 米国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部門のDalsu Baris博士らは,ニューハンプシャー州などにおける住民研究の結果,同州の喫煙者の膀胱がんリスクは1990年代半ばから上昇し,現在の喫煙者では,2001〜04年当時の非喫煙者と比べて5倍になっていることがわかったと発表した。
 
喫煙年数が影響

 喫煙が膀胱がんリスクとなることはよく知られているが,長期リスクの動向を含め,喫煙歴に関するさまざまな変数の影響は明らかではない。

 今回の研究は,ダートマス医科大学(ニューハンプシャー州)のMargaret Karagas博士らやメーン,ニューハンプシャー,バーモントの各州の保健局が協力し,2001〜04年にこれら3州の大規模住民コホートにおいて,膀胱がんリスクと喫煙習慣の関連を検討した症例対照研究である。喫煙による膀胱がんリスクの長期的な変化を検討するために,1994〜98年と 98〜2001年に同博士らがニューハンプシャー州で実施した2件の症例対照研究と,今回の同州住民の研究データを比較した。

 その結果,非喫煙者と比べた喫煙者の膀胱がんリスクは,過去と現在の喫煙者のいずれにおいても高く,また,非喫煙者との差は,研究時期が後になるほど拡大した。同博士は,こうした経時的なリスク増大の一因として,煙中の発がん因子の経時的な変化,低タール/低ニコチンたばこの発売とその人気の高さを挙げている。低タール/低ニコチン製品に切り替えた喫煙者では,ニコチンに対する欲求を満たすために吸煙の深さと頻度が増したと考えられる。

 Baris博士は「今回観察された喫煙と膀胱がんリスクの関連性は,これまでの研究で報告されていたものよりも強く,喫煙者の膀胱がんリスクは,男女とも喫煙期間の長期化,強度や総喫煙量(pack-years)の増大に伴い有意に上昇した。吸煙率に関する追加モデルでは,喫煙本数が少なく長期間喫煙するほうが,煙への総曝露量が同じでも,本数が多く短期間喫煙するのと比べ,膀胱がんリスクが高いとする,これまでの観察研究を支持する結果が得られた」と述べている。

添加物の影響の同定が課題

 Hollingがんセンターとサウスカロライナ医科大学(サウスカロライナ州チャールストン)生物統計学・疫学のAnthony J. Alberg博士らは,同誌の付随論評(2009; 101: 1523)で「膀胱がんと喫煙の関連を示す多くのエビデンスが存在する状況を考えれば,今回の研究結果における最重要点は,1994〜2004年にかけて両者の関連性が著しく強まったことだ」と指摘。さらに「今後はたばこに含まれる添加物の影響を同定することが,研究のポイントとなるであろう」と述べている。

Medical Tribune 2010-1-28

〜ホルムアルデヒドへの曝露〜葬儀業従事者で白血病リスクが上昇
 米国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部のLaura E. Beane Freeman博士らの研究によると,死体防腐処置に用いるホルムアルデヒド(ホルマリン)への長期間の曝露は骨髄性白血病による死亡リスク増加と関連している。
 
20年を超える曝露でリスク最大

 これまでの研究で,ホルムアルデヒドを扱う可能性のある解剖医,病理学者,葬儀業者においてリンパ造血系悪性腫瘍による死亡率が高いことが示されている。

 今回の研究では,葬儀業者のホルムアルデヒド曝露とがんによる死亡との関連性を調べた。これは1960〜86年に死亡した葬儀業従事者を対象とする症例対照研究で,リンパ造血系悪性腫瘍と脳腫瘍で死亡した人と他の原因で死亡した人を比較した。存命時の業務実践方法とホルムアルデヒド曝露については,近親者と同僚に聞き取り調査を行った。

 その結果,ホルムアルデヒド曝露期間は骨髄性白血病による死亡率の増加と有意に関連し,リスクは20年超,死体防腐処理に携わった人で最大であった。他のリンパ造血系悪性腫瘍との関連性は認められず,脳腫瘍との関連性は不明であった。

 今回の研究は,葬儀業界における雇用期間,業務の実践方法,推定ホルムアルデヒド曝露量とがんリスクとの関連性が確認された初めての疫学調査である。

 Freeman博士らは「今回の研究結果により,これまでのホルムアルデヒド曝露と骨髄性白血病リスクとの関連性を示す疫学的エビデンスが再確認された」と説明。「今後,ホルムアルデヒドが関連するがんリスクを理解するうえで,ホルムアルデヒドに曝露し,白血病リスクの高い他の専門職グループについて調べる研究も重要となる」と述べている。

Medical Tribune 2010-1-28
ビタミンD不足で大腸がんリスクが40%上昇
経口摂取した場合は関連認められず
 大腸がん予防におけるビタミンD摂取の効果は,以前から多数の疫学研究結果が報告されているが,欧州10か国が参加するがん研究プロジェクトのデータを使用した前向きコホート研究でもこの関連が裏づけられた。フランス国際がん研究機関(IARC)のMazda Jenab氏らは,ビタミンDの血中濃度が低いと大腸がんリスクが40%高まるとする研究結果を発表。ただし,ビタミンDを経口摂取した場合にはこの関係が消失したという。

カルシウムの経口摂取とも関連

 ビタミンDのがん予防メカニズムはいまだ解明されていないが,がん細胞の成長やアポトーシスに影響し,さらにがんの成長を支える血管新生を減少させるのではないかと言われている。

 今回の調査は,欧州10か国が共同参画している前向き調査研究フレームワーク,EPIC(European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition)試験の参加者のうち,調査期間中に大腸がんと診断された者(ICD-10による分類)が対象。そのなかから診断以前に血中 ビタミンD を測定されていた1,248例(結腸がん=785例,直腸がん=463例)を抽出し,年齢や性,body mass index(BMI),生活習慣などをマッチさせたEPIC試験参加者1,248例と比較した。

 血中ビタミンD の測定結果を第1群(25.0nmol/L未満),第2群(25.0〜50.0nmol/L未満),第3群(50.0〜75.0nmol/L未満),第4群(75.0〜100nmol/L未満),第5群(100.0nmol/L以上)に分け,第3群と各群を比較したところ,ビタミンD 濃度と大腸がん発症率比が逆相関していることが明らかになった。

 さらに,第1群は第5群に比べて大腸がんリスクが40%上昇することも判明。ただし,このリスク上昇は結腸がんで強く,直腸がんでは同様の傾向が認められなかった。

 ビタミンDを経口摂取した場合は,大腸がんリスクとの関連が消失。一方で,カルシウムの経口摂取では増量による大腸がんリスクの低下が認められた。

 大腸がんによる死亡数は,わが国でも過去30年間ほどで5倍にも増加しており,現在の増加速度では,2015年に他のがんを抜いて1位になることが予想されている。今後,同疾患に対するビタミンDのメカニズムが明らかになり,治療・予防法の確立へとつながることに期待したい。

Medical Tribune 2010-1-28