広葉樹(白)    
          

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2009年9月 文献タイトル
肝臓がん細胞、9割が正常変化…マウスで成功
欧米文化がアジア系米国人に悪影響 日光浴による皮膚疾患を懸念
4つの健康的ライフスタイルが主要慢性疾患の予防に効果
子宮頸部スクリーニング 50歳でやめるべきではない
CTコロノグラフィー 新しい大腸がん診断ツールとして期待
女性はたばこの発がん物質の影響を受けやすい
メトホルミン使用の2型糖尿病患者はがんの発症が少ない
高CRP値/のちのがん発症リスクやがん死亡率に関連
抗がん薬使用で指紋消失の恐れ 米国入国を拒否された例も
増加が著しいCT検査の反復利用に警告 IAEAが放射線曝露の低減求める
少量検体からがんを検出できる新たな迅速診断法
歯磨きでがんリスク3割減 1日2回以上が効果的

肝臓がん細胞、9割が正常変化…マウスで成功
 肝臓のがん細胞のほとんどを、正常な細胞に変化させることに、米ハーバード大の森口尚史研究員(肝臓医学)らが、マウスの実験で成功した。

 遺伝子と化学物質を使う手法をとった。新たながん治療につながる成果で、2日から米ボストンで開かれる幹細胞シンポジウムで発表する。

 研究チームは、がん細胞の7割近くを正常な細胞に変えられる2種類の化学物質を発見。がん細胞の一部を正常な細胞に変える能力を持つ遺伝子とともに、人のがん細胞を移植したマウスの肝臓に導入した。

 その結果、マウス8匹はすべて8週間生きており、がん細胞の85〜90%は見た目も性質も正常な細胞となっていた。一方、何も導入しなかったマウス8匹は、がんによって3週間以内に死んだ。

 森口研究員は「今後はiPS細胞から作った肝臓の細胞を使って、より副作用が少なく治療効果の高い化学物質の投与量を探りたい」としている。

読売新聞 2009-9-2
欧米文化がアジア系米国人に悪影響 日光浴による皮膚疾患を懸念
 スタンフォード大学皮膚科のEmily Gorell氏らは,欧米文化を進んで取り入れているアジア系米国人では日光浴の機会が多くなるため,肌の健康が損われる可能性があると警鐘を鳴らした。

週末の日光浴に積極的

 白人と比べてアジア系では皮膚がんの発症率が低いことが知られているが,近年のデータではアジア系でも増加傾向にある。

 一方,これまでにアジア人の食習慣の欧米化と心血管疾患,2型糖尿病,乳がんの発症リスク増加との関連性を示す研究が多数発表されている。しかし,健康に影響を及ぼすライフスタイルの欧米化は,食習慣の変化のみではない。Gorell氏らは「食習慣と,日光曝露およびそれに起因する皮膚疾患を単純に比較することはできないが,ともに欧米文化にかかわる問題として興味深い」と述べている。

第2世代以降に日光浴の習慣

 欧米化の進んだアジア系米国人では,積極的な日光浴の習慣が広まっていることが今回の研究で明らかにされた。「日光浴の経験がある」との回答は,第2世代以降のアジア系米国人の60%に見られたのに対し,第1世代では47%にすぎなかった。

 また,米国で生まれ育ったか,ほとんど米国で育った人では59.1%であったのに対し,アジアで生まれ育ったか,ほとんどアジアで育った人では33.7%であった。さらに,自身を「2つの文化に順応している」または「欧米文化を受容している」と評価した人では58%であったのに対し,「よりアジア的である」と評価した人では43.6%であった。

 今回の結果を踏まえて,Gorell氏は「アジア人は色白の肌を,欧米人は健康的な日焼けした容姿を好むという説が広く受け入れられているが,今回の研究は,欧米文化を取り入れたアジア人における日光曝露に対する姿勢や習慣を検証した初めてのものである。欧米文化の受容は日光曝露の機会を増加させると見られ,肌の健康への悪影響が懸念される」と結論付けている。

Medical Tribune 2009-9-3
4つの健康的ライフスタイルが主要慢性疾患の予防に効果
 4つの健康的なライフスタイルを守ることが糖尿病など主要慢性疾患の予防につながると,米疾病管理センター(CDC)とドイツの共同研究グループが発表した。

 この知見は,35〜65歳のドイツ人2万3,153例を対象とした大規模疫学調査から得られたもの。

 4つの健康的ライフスタイルには,喫煙経験なし,BMI30未満,週3.5時間以上の身体活動,野菜・果物,全粒パンを多く取り,肉の摂取が少ない食生活が含まれた。それぞれの因子が健康的であれば1ポイント,不健康であれば0ポイントとして,その合計ポイントと主要慢性疾患(2型糖尿病,心筋梗塞,脳卒中,がん)発症との関係を調べた。

 平均7.8年の追跡で,2,006例がいずれかの慢性疾患を新規に発症した(発症率:2型糖尿病3.7%,心筋梗塞0.9%,脳卒中0.8%,がん3.8%)。合計ポイント0は4%未満と少なく,ほとんどが1〜3ポイントで,4ポイントは約9%であった。

 年齢,性,学歴,職業を調整した結果,合計ポイントが高いほど慢性疾患の発症が少なく,0ポイント群と比べ4ポイント群では78%のリスク低下が確認された(リスク低下率:2型糖尿病93%,心筋梗塞81%,脳卒中50%,がん36%)。

Medical Tribune 2009-9-3
子宮頸部スクリーニング 50歳でやめるべきではない
 エラスムス医療センター(オランダ・ロッテルダム)のMatejka Rebolj博士らの研究によると,塗抹標本検査で陰性結果が数回続いても,子宮頸がんリスクは若年者と同等であるため,50歳以上の女性のスクリーニングをやめることは推奨されないと結論している。

陰性後の発がん率は同等

 40年以上も前に欧州で初の組織的な子宮頸がんスクリーニングプログラムが開始されて以来,有効なスクリーニングのための上限年齢を巡って議論が続いてきた。

 過去の塗抹標本検査で継続的に正常であった60〜65歳の女性がこの検査を繰り返しても,ほとんど利益がないことを示唆する科学的エビデンスがあることから,一部の研究者は年齢上限を50歳に引き下げるべきだと提唱してきた。そのためRebolj博士らは,塗抹標本検査の結果が過去数回陰性であった女性を対象に,さまざまな年齢層における子宮頸がん発症率を比較した。

 全オランダ病理学データベースの子宮頸がん登録データを用い,塗抹標本検査の結果が3回連続陰性であった45〜54歳の女性21万9,000例(年長群)と30〜44歳の女性44万5,000例(若年群)を抽出した。これらの女性を10年間追跡し,その間の子宮頸がん発症を記録した。

 フォローアップ期間中,両群とも同レベルのスクリーニングを受けた。10年後,子宮頸がんの発症率において両群間に有意差は認められなかった(若年群で10万人当たり41人,年長群で同36人)。

 このことから,十分なスクリーニングを受けてきて異常が認められなかった女性において,子宮頸がん発症リスクは年齢とは無関係であることが示唆された。

 同博士らはこれらの結果に基づき,「スクリーニングの結果が数回連続して陰性でも,子宮頸がんの検出・予防の点から見たスクリーニングの効果は,50歳前後でも若年者と同レベルであることが推測できる」と述べている。

Medical Tribune 2009-9-10
CTコロノグラフィー 新しい大腸がん診断ツールとして期待
国立がんセンター中央病院放射線診断部 飯沼元医長

平坦型病変の検出が鍵

 欧米に比べて大腸内視鏡検査法が進歩したわが国では「CTCでは大腸の早期診断に重要な平坦型(フラット・リージョン)の診断が困難」という厳しい指摘があった。しかし,飯沼医長によると,特に臨床診断で重要な早期浸潤がんの場合,これまでの研究成果から平坦型病変でもCTCで十分に診断可能であることが判明したという。

 また,CTCのデジタル画像データを活用したコンピュータ支援検出(computer-aided detection;CAD) という診断技術も登場。これはCTCの画像データから,大腸内腔面をデジタル形状認識し,大腸ポリープを自動的に検出する方法だ。

精度の高いCAD開発が大腸スクリーニングの決め手

 Sphericityによる画像処理アルゴリズムを用いて,現状のCADによる大腸がん検出能を,同センターの早期大腸がん症例で評価したところ,隆起型早期浸潤がんは100%,平坦・陥凹型でも80%の高い検出率が示された。飯沼医長は平坦型病変の診断について,CTCのCADで検出困難な病変は,内視鏡でも恒常的にチェックするのは困難と考えるようになった。また,大腸内視鏡にはひだの裏や,腸管の屈曲部に必ず盲点が存在し,病変の見落としも問題とされる。

 さらに,(1)大腸内視鏡は検査者の技量に検査の質が大きく依存するため標準化が難しい(2)内視鏡を挿入する際の苦痛が大きく,腸壁に孔が空く危険性もある(3)1人の内視鏡医の検査数に限界があり,検査待ち期間が長い―などから,スクリーニングには向いていないとした。同医長は「便潜血検査による大腸がんスクリーニングが陽性で,がんが疑われながらも大腸内視鏡による精密検査を受けない人が多い」と指摘する。

 また,開発が進むデジタル前処置では,バリウムなどの経口造影剤によって残液・残便を高濃度に標識し,CT画像データから画像処理で消去できる。被検者は前日の軽い食事制限とバリウムの服用,軽い下剤投与で前処置できるため,検査の負担が大きく軽減する。

 同医長は「CTCでデジタル前処置が実用化されれば,大腸の診断学体系そのものを変える可能性がある」と指摘している。

 CTCの検査費用は2万5,000〜3万円程度と予想されている。米国ではCTCを用いた大腸がんスクリーニングのガイドラインも作成され,検査の診療報酬に対する検討がなされている。わが国でも今後,CTCの急速な普及が予想され,近い将来,大腸がんスクリーニングへの応用だけでなく,臨床でも一般的な大腸検査法になると考えられる。

Medical Tribune 2009-9-17
女性はたばこの発がん物質の影響を受けやすい
 ザンクトガレン州立病院(スイス)のMartin Frueh博士らは,女性は男性に比べたばこの発がん物質の影響を受けやすいとする研究結果を発表した。

術後生存期間は女性が長い

 Frueh博士らは,2000〜05年に同院がんセンターに紹介された肺がん患者683例を調査した結果,男性に比べ女性では有意に喫煙量が少ないにもかかわらず,より若年で肺がんを発症する傾向にあることを見出し「女性では発がん物質に対する感受性が高い可能性があることが示唆された」と述べた。

 バルデブロン病院(スペイン)のEnriqueta Felip博士は,今回の結果は,喫煙が男性より女性で大きなリスクになることへの認識の高まりを支持するものと指摘。「1900年代初め,女性の肺がんはまれと報告されていた。しかし60年代以降,次第に発症率が上昇し,米国では今や女性のがん死亡原因の首位を占めるに至った。

 肺がんは男性だけの疾患ではないのに,女性の意識は乳がんなど他のがんに向きがちである。いくつかの症例対照研究では,女性はたばこの発がん物質の影響を男性より受けやすいことを示唆している」と述べた。

Medical Tribune 2009-9-17
メトホルミン使用の2型糖尿病患者はがんの発症が少ない
 メトホルミンで治療されている2型糖尿病患者は他の糖尿病治療薬を使用している患者と比べてがんの発症が少ないと,英国のグループが発表した。

 メトホルミンの抗糖尿病作用には,AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化が関係している。AMPKの活性化により血糖値の低下に加えて腫瘍の形成と細胞の増殖が抑制される可能性があることから,同グループはメトホルミンが2型糖尿病患者のがんリスク低下と関係しているかどうかを検討した。

 その結果,メトホルミン群の7.3%とコントロール群の11.6%ががんと診断され,診断までの期間の中央値はそれぞれ3.5年,2.6年であった(P<0.001)。メトホルミン群は,性,年齢,BMI,HbA1C値,喫煙,他の薬剤使用の補正後で,有意ながん発症リスクの低下が認められた。

 同グループは「メトホルミンのがんへの作用を評価するランダム化試験が必要である」としている。

Medical Tribune 2009-9-17
高CRP値/のちのがん発症リスクやがん死亡率に関連
 コペンハーゲン大学(デンマーク)のKristine H. Allin,Stig E. Bojesenの両博士らは,デンマークの一般人口1万408例を対象に前向き研究を実施。開始時にC反応性蛋白(CRP)値を測定し,その後最長で16年間追跡した結果,高CRP値はすべてのがん,特に肺がんリスクの上昇と関連していることがわかったと発表した。さらに,ベースライン時の高CRP値は結腸直腸がんリスクの上昇と関連する可能性が示されたほか,すべてのがん診断後の早期死亡との関連も認められたという。

 今回の研究では,ベースライン時にがんと診断された患者は除外された。追跡期間中に被験者1万408例中1,624例でがんを発症し,そのうち998例が死亡した。

 米国臨床腫瘍学会のダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)のEric Winger博士は「CRP検査は今後,がんのスクリーニングを頻繁に受けるべき患者を選別する際に補助的に用いられるだろう」とコメントしている。

Medical Tribune 2009-2009-9-17
抗がん薬使用で指紋消失の恐れ 米国入国を拒否された例も
 シンガポール国立がんセンター(シンガポール)腫瘍部の上級顧問医師,Eng-Huat Tan博士は,がん治療薬のカペシタビン使用患者では指紋が消失している可能性があることから,入国時に指紋採取が必要となる国への旅行を予定している患者には,その旨を説明した書面を持たせる必要があるかもしれないと報告した。

 カペシタビンは,頭頸部がん,乳がん,胃がん,結腸直腸がんの治療薬として広く用いられているが,副作用の1つとしては手足症候群がよく知られている。同症候群では,手掌や足の裏に慢性の炎症が生じて皮膚剥離や出血を来し,びらんや水疱が形成される。その結果,空港の係官が本人確認のために行う指紋採取が不可能となる場合がある。

 Tan博士は,このようなジレンマを克服するため,カペシタビンを服用している患者が入国に際し指紋照合が必要な米国などへの航空機での旅行を計画する場合,主治医による状況を説明した書面を携行することを勧めている。

Medical Tribune 2009-9-24

増加が著しいCT検査の反復利用に警告 IAEAが放射線曝露の低減求める
 医用画像法の進歩のお陰で,影に潜む疾患の検出が可能となり,医師はこれまで以上に正確な診断が下せるようになった。しかし,放射線の安全性に詳しい国際原子力機関(IAEA)所属の専門家らは,最新の画像診断検査の過剰施行によって,患者が不必要に高いレベルの放射線にさらされる可能性について注意を呼びかけている。

 IAEAは他の国際機関と共同で,患者防護の強化を目的とした一連の方策を展開している。最近の取り組みでは,個人が受ける放射線量を生涯を通じて記録するスマートカードプロジェクトが議論の中心となっている。

繰り返しでがんリスクが増加

 CT検査では,従来のX線撮影(単純X線写真)と比べて患者に照射される放射線量が多くなるため特に懸念される。CT検査1回当たりの平均放射線量は,胸部X線撮影のおよそ500回分に等しいと推測されてきた。特にCT検査が繰り返し行われた場合,がんの生涯リスクが増加する可能性もあるという。

 IAEA放射線安全性・監視部のRenate Czarwinski部長は「医療に応用される電離放射線は,今や人類にとって最も急速に増加している放射線曝露源と言える。もちろん,この新しい技術の偉大なる価値を認識してはいるが,患者の放射線曝露低減もまた重要な問題で,あらゆる検査で適切な施行が保障されなければならない」と述べている。

 専門家らは現在,個人が生涯に受ける放射線量を記録するためのスマートカードを開発すべく製造業者やIT専門家らとともに作業を進めている。これは非常に大がかりな計画である。

 しかし,最新のX線装置では検査項目に合わせて放射線量が提示されるようになっており,また,電子医療記録システムの進歩とも相まって,最終的にはカルテや(先進国の多くで既に使用されている)電子健康カード上にこのデータを含めることが可能になると見ている。

Medical Tribune 2009-9-24
少量検体からがんを検出できる新たな迅速診断法
 ハーバード大学システム生物学科のRalph Weissleder博士らは,現行の最新のがん検査法よりも少量の検体から迅速にがん細胞を鑑別する技術を開発した。

 同博士らによると,このDMR(diagnostic magnetic resonance)と呼ばれる,MRIを利用した新たな診断法を用いれば,手術などの処置中に注射器吸引で比較的容易に採取した検体から,がん細胞を迅速に同定することが可能だという。

 この方法は,がん特異的細胞表面マーカーに結合するようにデザインされた磁気ナノ粒子を用いて,がん細胞を標識するもの。小型MRIスキャナーで検体からナノ粒子が検出されれば,どの部位にどのくらいの量のがん細胞が存在するかが明らかになる。

 同博士らは,今回の方法で生検検体中にあるわずか2個のがん細胞を15分以内に確認することができた。検査結果は迅速に得られるため,病理専門医が手術中に患者から切除すべき組織量を即座に決定することも可能である。また,この方法を用いれば,薬物耐性だけでなく原発がんや転移がんの進行もモニターできることが示唆されている。

Medical Tribune 2009-9-24

歯磨きでがんリスク3割減 1日2回以上が効果的
 1日2回以上歯を磨く人が口の中や食道のがんになる危険性は、1回の人より3割低いとの研究結果を、愛知県がんセンター研究所(名古屋市)がまとめた。全く磨かない人の危険性は、1回の人の1・8倍だった。

 約3800人を対象とした疫学調査の結果で、歯磨き習慣と発がんの関連を示す報告は国内初という。

 同研究所疫学予防部の松尾恵太郎室長は「口やのどには発がん物質とされるアセトアルデヒドを作る細菌がいる。歯磨き
で細菌や発がん物質が洗い流されるので、少なくとも朝と夜に磨けば、がん予防に役立つ」と話している。

 同センターを受診した人の中から、口の中やのどなどの頭頸部がんと食道がんの患者計961人と、がんでない2883人に、歯磨きや喫煙、飲酒などの習慣を聞いた。年齢は20〜79歳で平均は61歳。

 解析した結果、2回以上磨く人は1回の人に比べ、がんになる危険性が約29%低く、全く磨かない人の危険性は2回以上磨く人の2・5倍だった。喫煙や飲酒をする人だけの解析でも同様の結果で、歯磨き習慣がないことが、ほかの危険因子と関係なく、独立したがんの危険因子であることを強く示すものだという。

共同通信 2009-9-27