広葉樹(白)   
          

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2009年8月 文献タイトル
がん細胞の浸潤を抑制する新しい蛋白質SCAI
肥満の減量手術により女性のがん発症が有意に減少
ウイルスで悪性脳腫瘍治療 がん細胞を死滅 東大が臨床研究
乳がん手術時の月経周期の違いによる予後への影響はない
うま味成分でがん予防? 広島大、貝や酒に含有
アスピリンの定期的服用が胃がんを予防する可能性
前年から一転,健常判定者が1割を切 2008年人間ドック全国集計
乳房生検に新しい技術 短時間で正確な診断が可能
全身・腹部放射線療法が小児がん長期生存者の糖尿病発症と関係
大腸がん診断後のアスピリンの定期的服用が死亡の減少をもたらす
術後対側乳房の定期フォローが重要 第17回日本乳癌学会
ウェブベースの禁煙プログラムが有効

がん細胞の浸潤を抑制する新しい蛋白質SCAI
 ハイデルベルク大学〔独〕のRobert Grosse博士らは,悪性がん細胞では細胞の移動・浸潤を抑制している蛋白質が阻害されていると発表した。同博士らは,これまで知られていなかったがん細胞の浸潤を抑制する因子(suppressor of cancer cell invasion;SCAI)を見出した。がん細胞におけるSCAIの機能が障害されていると健全な組織への浸潤・転移の最初の段階が容易になるという。

 がん細胞は非常に動きやすく,転移に結び付く健常組織への浸潤の"達人"で,絶えず形を変えてそれぞれの組織の特性に適応し,特殊な表層構造(レセプター)の助けを借りて移動しながら,周囲の組織へと付着する。

 それらのレセプターの1つは,転移性乳がんのような多くの腫瘍でしばしばつくられるβ1-インテグリンとして知られている。

 Grosse博士は「SCAIがβ1-インテグリンの形成と機能をコントロールしている。がん細胞中にSCAIがきわめて少ない場合,β1-インテグリンがいわば過活動状態になり,細胞はより急速かつ悪性に変化して,周囲の組織へ浸潤しやすい形態に変化し,転移の準備が整えられる」と説明している。

 同博士らは「今回の研究で,SCAIががん細胞の移動や拡散を阻害することが実験室レベルで突き止められた。また,SCAIの機能を障害すると,がん細胞はヒト組織の性質を模した3次元マトリックス内をより効率よく移動するようになった。この新しい因子は,がんと闘う新しい機序の研究への興味ある出発点になるであろう」と結論している。

Medical Tribune 2009-8-6
肥満の減量手術により女性のがん発症が有意に減少
 肥満に対する減量手術により女性のがん発症が有意に減少すると,スウェーデンのグループが発表した。

 肥満はがんの危険因子の1つであるが,減量ががん発症に保護的に働くかどうかについてはエビデンスが乏しい。同グループは,1987年に開始されたSwedish Obese Subjects(SOS)試験で,がん発症に対する減量手術の影響を検討した。

 対象は,減量手術を受けた肥満患者(BMI:男性34以上,女性38以上)2,010例とマッチさせた通常治療の肥満患者(コントロール群)2,037例。2005年まで中央値で10.9年間追跡し,がんの発症を調べた。

 その結果,コントロール群では約10年間に平均1.3kgの体重増加が見られたが,手術群では平均19.9kgの減量が維持された。登録後に診断された初回のがん症例数はコントロール群の169例に対し,手術群では117例と有意に少なかった。この関係は減量手術を受けた女性でがん発症が有意に少なかったことによるもので(79例対130例),男性では減量手術の影響は見られなかった(38例対39例)。

Medical Tribune 2009-8-6
ウイルスで悪性脳腫瘍治療 がん細胞を死滅 東大が臨床研究
 悪性脳腫瘍の患者に対し、がん細胞にヘルペスウイルスを感染させ、ウイルスが増殖してがん細胞を死滅させる「ウイルス療法」を臨床研究として8月中にも始めると、東京大の藤堂具紀特任教授らが10日、発表した。

 放射線治療や抗がん剤による化学療法と並び、新たな治療の選択肢になるのではないかとしている。

 対象は悪性脳腫瘍の一種で悪性の膠芽腫(グリオブラストーマ)を再発した患者。

 藤堂特任教授らは、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型を利用。3遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖するようにした。このウイルスをがん細胞に感染させると増殖して感染したがん細胞を死滅させ、増殖したウイルスはさらに周囲のがん細胞に感染、次々と死滅させる。正常細胞に感染しても増殖しない。

 臨床研究では、腫瘍内にウイルスを投与。用量を変えて21例に実施し、安全性などを評価する。

 膠芽腫は、脳腫瘍の約4分の1を占める神経膠腫(グリオーマ)のうち最も悪性とされ、年間10万人に1人の割合で発症。手術後、放射線治療と化学療法をしても平均余命は診断から1年程度で、特に再発した場合は有効な治療法はなかった。

m3.com 2009-8-11
乳がん手術時の月経周期の違いによる予後への影響はない
 乳がん手術時の月経周期によって予後に差が生じることはないとするデータが,米国のNorth Central Cancer Treatment Group(NCCTG)を中心とする共同研究グループにより発表された。

 乳がん手術は卵胞期より黄体期に行ったほうが予後良好とする報告があるが,月経周期と乳がん手術の予後との関係はメタ解析でも一致する結果は得られていない。同グループは,両者の関係を検討する多施設前向き観察試験を実施した。

 対象は,ステージ I 〜IIの乳がんで手術を受けた18〜55歳の閉経前女性834例。月経歴と手術1日以内に測定した血清ホルモン(エストロゲン,プロゲステロン,黄体形成ホルモン)値から月経周期を決定した。中央値で6.6年追跡し,手術時の月経周期と生存との関係を評価した。

 手術時の月経周期は卵胞期が363例(44%),黄体期が230例(28%),その他の周期が241例(28%)であった。リンパ節転移,エストロゲン受容体,補助放射線および化学療法を含む解析の結果,手術時の月経周期の違いによる予後への影響は認められなかった。卵胞期,黄体期,その他の周期に手術を受けた各群の5年無再発生存率は82.7%,82.1%,79.2%,5年全生存率は91.9%,92.2%,91.8%であった。

Medical Tribune 2009-8-13
うま味成分でがん予防? 広島大、貝や酒に含有
 広島特産のカキや日本酒でがん予防? 貝類や日本酒に含まれるうま味成分の一種、コハク酸にがん細胞の増殖を抑える効果があるとの研究結果を、広島大の加藤範久教授(分子栄養学)らが15日までにまとめた。

 コハク酸はカキや酒かすに含まれるが、機能性についてはあまり注目されていなかった。加藤教授は「貝汁に含まれる程度の濃度でも抑制効果が期待できる。コハク酸を日常の食事で取ることで、がんが予防できるかもしれない」と話している。

 加藤教授は、コハク酸がある環境で大腸がんや胃がん細胞を培養すると、増殖が半分程度に抑えられるのを確認。ラット実験で、がんの増殖を促すとされる血管新生が起きにくくなることも確かめた。

m3.com 2009-8-17
アスピリンの定期的服用が胃がんを予防する可能性
 アスピリンの定期的服用が胃がんの予防に有効であることを示唆するデータが,米ハワイ大学などのグループにより発表された。

 多くの疫学研究で非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用と大腸がんとの負の相関が報告されているが,胃がんとの関係を検討した研究は少ない。同グループは,1993〜2004年にハワイとロサンゼルス在住の多民族を対象とした調査を行い,アスピリンおよび非アスピリン系NSAIDの使用と胃がんとの関係を検討した。期間中に確認された胃がん(腺がん)症例は643例であった。

 解析の結果,アスピリンの定期的服用群は,定期的に服用していなかった群と比較して,胃体部〜幽門部の遠位部胃がんのリスクが有意に低かった。一方,非アスピリン系NSAIDではそうした関係は見られなかった。

 アスピリンの定期的服用による胃がんのリスク低下は分化型の遠位部腺がんにのみ認められ,低分化型の遠位部腺がんではリスク低下は観察されなかった。

Medical Tribune 2009-8-20
前年から一転,健常判定者が1割を切 2008年人間ドック全国集計
 日本人間ドック学会が毎年まとめている全国集計の結果が8月24日都内で発表された。

 生活習慣病関連項目の統計では,一昨年(2007年),前年比で初の増加傾向が認められていた健常判定者(いずれの検査項目も異常のないAまたはB判定の人)の割合が今年は一転して減少,10%を切ることが明らかにされた。報告した同学会名誉顧問の笹森典雄氏は,全国平均との比較から,一部の地域で耐糖能異常などの顕著な悪化傾向が認められている点について懸念を示した。

 この要因として,受診者の高齢化の影響が考えられたが,年齢別の検討から全世代で健康人の割合が低下傾向にあることが示された。また,肥満の項目に腹部の計測を導入したことが異常判定者率増加の要因と考えられたが,肥満よりも耐糖能異常や高血圧の増加率のほうが顕著であり,明確な理由は見出されなかったという。笹森氏は「健康に対する国民の関心が高まっているにもかかわらず結果は相反するものだった」と驚きと困惑の意を示した。

 なお,全国平均と比べた地域別の異常頻度をみると,九州・沖縄で耐糖能異常が1.5倍あったほか,同地域では高血圧や高コレステロールの割合もそれぞれ1.4倍,1.3倍程度に上った。東北地方も耐糖能異常が1.4倍,肝機能異常が1.2倍となっており,地域的なばらつきが認められた。肥満の増加が問題視されている都市部では全国平均を上回る傾向が認められなかったことから,笹森氏はこのような地域差について「異常変動」と形容した。

Medical Tribune 2009-8-25
乳房生検に新しい技術 短時間で正確な診断が可能
 ウェスタンオンタリオ大学(カナダ)のAaron Fenster教授らは,乳房生検用の針挿入ガイドシステムを開発した。同法は従来法に比べ短時間ですむだけでなく正確性に優れ,合併症や不快感も少ないという。

 Fenster教授らが開発したシステムは,エコーのプローブに取り付けて使用するもので,針を生検部位まで誘導,ブレーキシステムも備えることから針先の正確な位置確認を可能にし,針先のぶれを最小限に抑えることができる。

 同教授らは今回,ターゲットを埋め込んだファントム実験で,通常のフリーハンドの方法と新しいガイドシステムを比較した。その結果,新しいガイドシステムのほうが生検の成功率が高いことが示された。

 さらに,放射線科医の経験が豊富であるか否かにかかわらず,ガイドシステムを用いたほうが短期間で実施できることがわかった。

 同教授らは「フリーハンドの生検では成功率は91.3%だったが,ガイドシステムを用いた場合は95.9%であった。経験豊富な放射線科医では,ガイドシステムを用いると,手技に要する時間がフリーハンドの場合の約31秒から約10秒に短縮された」と付け加えている。

 また,同教授は「今回のシステムは,乳がんをより早期に正しく診断するのにも役立つと確信している」と述べている。同教授らが今回使用したシステムはプロトタイプで,直ちに臨床応用できるものではないが,ヒトを対象としたこのシステムの試験が今秋にも開始される予定だという。

Medical Tribune 2009-8-27
全身・腹部放射線療法が小児がん長期生存者の糖尿病発症と関係
 全身または腹部放射線療法を受けた小児がん長期生存者は糖尿病を発症するリスクが高いと,米エモリー大学などのグループが発表した。

 小児がん生存者は疾患に罹患しやすく,それによる死亡率も高い。同グループは,このリスクの特徴をより明らかにするため,1970〜86年に小児がんと診断され長期生存している8,599例と,その兄弟姉妹のなかからランダムに選択した2,936例との間で糖尿病の有病率を比較した。

 平均年齢は小児がん生存者が31.5歳(17〜54.1歳),兄弟姉妹が33.4歳(9.6〜58.4歳)で,糖尿病の有病率はそれぞれ2.5%,1.7%であった。BMI,年齢,性,人種・民族,収入などを補正した結果,小児がん生存者は兄弟姉妹と比べ糖尿病発症リスクが1.8倍高く,特に全身放射線療法,腹部放射線療法,頭部放射線療法を受けた生存者はリスクが高かった。

 同グループは「全身または腹部放射線療法を受けた小児がん長期生存者は,BMIや身体活動の不足と関係なく糖尿病のリスクが高い」と結論している。

Medical Tribune 2009-8-27
大腸がん診断後のアスピリンの定期的服用が死亡の減少をもたらす
 大腸がん診断後のアスピリンの定期的服用は死亡リスクの低下と関係し,特にシクロオキシゲナーゼ(COX)-2の過剰発現が見られるがんの場合にメリットが大きいと,米ハーバード大学のグループが発表した。

 大腸がん診断後のアスピリンの服用が,その後の生存にどのような影響を与えるかは明らかにされていない。同グループは,遠隔転移のない大腸がんと診断された男女医療従事者1,279例を中央値で11.8年間追跡し,大腸がん診断後のアスピリンの定期的服用と大腸がんによる死亡との関係を中心に検討した。

 大腸がん診断後にアスピリンを服用していなかった730例では287例(39%)が死亡し,うち141例(19%)が大腸がんによる死亡であった。一方,診断後にアスピリンを定期的に服用していた549例では193例(35%)が死亡,うち81例(15%)が大腸がんで死亡した。解析の結果,非服用群と比べ定期的服用群では大腸がんによる死亡率が29%低く,すべての原因による死亡率も21%低かった。

 診断前にアスピリンを服用していなかったのは719例で,診断後も服用しなかった群と比べ定期的服用群では大腸がんによる死亡率が47%低下していた。

Medical Tribune 2009-8-27
術後対側乳房の定期フォローが重要 第17回日本乳癌学会
 近年の乳がん発生率の上昇に伴い,両側乳がんも上昇すると予想される。愛媛県立中央病院乳腺甲状腺外科の松岡欣也医長らは,両側乳がん症例を同時性と異時性に分けて臨床病理学的検討を行った結果,「乳がん患者のうち両側乳がんは8.3%で,同時性3.8%,異時性4.5%だった。初診時の対側乳房の検索とともに術後対側乳房のマンモグラフィや超音波検査による定期フォローが重要である」と同学会で述べた。

術後10年以上で第2がんを発見

 2005年1月〜08年12月に同科で手術を受けた乳がん患者313例のうち,原発性両側乳がん患者26例(8.3%)を対象とした。内訳は,同時性12例(3.8%),異時性14例(4.5%)。全例が女性だった。手術時年齢(中央値)は,同時性61歳,異時性第1がん53歳,第2がん65.5歳。異時性症例の手術間隔(中央値)は12年(1.5〜19年)。同時性がんの発見契機は,主要病変は自覚症状と検診で,副病変は検診で同時に発見された2例と術前検査で10例が発見された。異時性がんの発見契機は,第1がんは13例が自覚症状,1例が触診による検診で,第2がんは6例が自覚症状,8例が定期検診だった。

 松岡医長は「乳がん患者のうち3.8%に同時性乳がんが認められたため,初診時に対側乳房の検索は重要である。4.5%に異時性乳がんが認められ,第2がんが発見されるまで10年以上経過している症例が多かったが,定期検診を受けていた症例では8例中7例がStage0または I で発見されていたため,術後対側乳房のマンモグラフィや超音波検査による定期フォローが必要である」と述べた。

Medical Tribune 2009-8-27

ウェブベースの禁煙プログラムが有効
 カリフォルニア大学のSeung-Kwon Myung博士らは,これまでに公表された研究のメタアナリシスを行い,成人が禁煙するにはオンライン,またはコンピュータをベースとする禁煙プログラムの利用が有効であると発表した。

 喫煙は,予防可能な疾患と早死をもたらす独立した最大の原因である。現在推奨されている禁煙戦略は,個人またはグループによるカウンセリング療法,薬物療法,電話による禁煙相談カウンセリングなどがある。

 Myung博士らは,1989〜2008年に発表されたウェブベースとコンピュータベースの禁煙プログラムに関する22件のランダム化比較試験を調査した。計2万9,549例を対象とし,うち1万6,050例をウェブベースまたはコンピュータベースの禁煙プログラム施行群(介入群),1万3,499例を対照群とした。22件中10件の研究はウェブまたはコンピュータベースの禁煙プログラムとともにカウンセリング,クラスレッスン,ニコチンガムまたはパッチ,薬剤,禁煙電話サービスなどの補助的な介入も行っていた。

 これらの試験結果をプールして分析したところ,介入群では,対照群と比べて禁煙を達成する可能性が1.4倍強高かった。禁煙率は,6〜10か月後のフォローアップ時(11.7%対7%)と12か月後のフォローアップ時(9.9%対5.7%)ともに介入群のほうが対照群よりも高かった。これらのプログラムの効果は,カウンセリング療法と同等であった。

Medical Tribune 2009-8-27