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2009年7月 文献タイトル
未成年時に受けた虐待で成人後のがん発症リスク上昇
大腸がん高リスク者でもCTコロノグラフィが代替検診法となりうる可能性
長期の交代制勤務で看護師の脳卒中リスク上昇
アルコール1日1杯で女性の発がんリスクが増大
BMI 30〜35の中等度肥満で寿命が3年短縮 喫煙でリスクはさらに3倍に
週3時間の運動で乳がんリスク低下
カロリー制限は霊長類でも疾患の発症遅延と寿命の延長をもたらす

未成年時に受けた虐待で成人後のがん発症リスク上昇
 子供のころに受けた虐待は,成人した後の健康にも悪影響を与えるようだ。トロント大学のEsme Fuller-Thomson准教授らは,未成年時に虐待を受けた人は,そうでない人に比べて成人後にがんと診断される確率が47%高いことを明らかにした。

がん発症率は虐待経験群で1.49倍

 未成年時に受けた虐待が与える将来的な影響は,これまで心理面での研究が主であった。しかし,精神と身体のつながり(精神心理学) の解明が進むにつれ,子供のころに受けた精神的ダメージが与える身体面への長期的な作用に対する関心も高まっている。

 Fuller-Thomson氏らは今回,カナダのサスカチュワン州とマニトバ州の住人を対象として2005年に実施されたCanadian Community Health Survey(対象者数1万3,092人,地域内人口回答率84%)の調査結果を分析した。

 その結果,7.4%が子供のころに家族など身近な人物から肉体的虐待を受けたことがあり,5.7%ががんと診断されたことがあると回答。年齢,性,人種で補正すると,虐待経験群のがん発症率は非経験群よりも1.49倍高いことがわかった。

 さらに,未成年時のストレス要因,成人後の健康状態,社会経済的階層で補正しても,虐待経験群のがん発症率は非経験群の1.47倍(同1.05?1.99)と,高いままだった。

Medical Tribune 2009-7-1
大腸がん高リスク者でもCTコロノグラフィが代替検診法となりうる可能性
 CTコロノグラフィ(バーチャル大腸内視鏡検査)は,大腸がん高リスク者(進行大腸腺腫または大腸がんの家族歴あるいは自身に大腸腺腫歴がある人)においても大腸内視鏡検査に代わるスクリーニング法となりうることを示唆するデータが,イタリアとベルギーの共同研究グループにより発表された。

 CTコロノグラフィは平均的なリスク者では大腸がんの代替スクリーニング法になると考えられているが,高リスク者については情報が少ない。同グループは,無症候性の大腸がん高リスク者を対象に,大腸内視鏡検査の結果を対照としてCTコロノグラフィの進行大腸腺腫と大腸がんの診断精度を検討した。

 2004年12月〜07年5月に,第一度近親者に進行大腸腺腫または大腸がんの家族歴がある,自身に大腸腺腫歴がある,または便潜血検査陽性の1,103例を登録。同じ日にCTコロノグラフィと大腸内視鏡検査を施行し,6mm以上の腺腫とがんを検出する感度および特異度を評価した。

 最終解析には937例(家族歴あり373例,自身に腺腫歴あり343例,便潜血検査陽性221例)が含まれた。CTコロノグラフィは,内視鏡検査で陽性が確認された177例中151例を陽性と診断(感度85.3%),陰性が確認された760例中667例を陰性と診断した(特異度87.8%)。

Medical Tribune 2009-7-2
長期の交代制勤務で看護師の脳卒中リスク上昇
 ミシガン大学のDevin L. Brown博士らが女性看護師保健研究の参加者を対象に行った研究から,深夜勤務を含む長期間の交代制勤務と脳梗塞が関連することが明らかになった。

 交代制勤務の労働者ではメラトニン分泌が減少するため,冠疾患,乳がん,大腸がんリスクが上昇することが知られていた。今回の研究では,深夜勤務を含む交代制勤務で15年超働いている看護師では脳卒中リスクが上昇することがわかった。リスク上昇は,他の危険因子で調整した後でも見られた。

5年ごとにリスクが4%上昇

 解析対象者(8万108例)のうち,交代制勤務に1年以上従事していたのは60%であった。これらの対象者で発生した非致死的脳卒中は1,512件,致死的脳卒中は148件であった。脳卒中発生時の平均年齢は69歳であった。

 Brown博士は「この新たな危険因子がなぜ交代制勤務者でのみ同定され,夜勤のみの看護師では同定されなかったのかという疑問の答が,交絡因子として挙げられる。今回の知見を検証し,脳卒中の危険因子の発生機序を調べるために,さらなる研究が必要である」と述べた。

 交代制勤務がサーカディアンリズムを狂わせ,冠動脈性心疾患リスクを上昇させることは知られていた。同博士は「今回の知見を警察官や工場労働者などの他の交代制勤務者に当てはめるのは,現時点では難しい」と付言した。

Medical Tribune 2009-7-9
アルコール1日1杯で女性の発がんリスクが増大
 オックスフォード大学のNaomi E. Allen博士らは,女性ではたとえ1日1杯のアルコール摂取でも,がんリスクを増大させるとの大規模研究の結果を発表した。

酒の種類に関係なくリスク増大

 Allen博士らは,1996〜2001年に英国の乳がんスクリーニング・クリニックで検査を受けた女性128万296人(45〜75歳)の記録を調査した。この数字は,この年齢群の英国人女性の約4人に1人が対象となっていることを意味する。

 平均7年間のフォローアップ期間中に発症したがんの情報は英国がん登録から収集した。同期間中に6万8,775人が,がんと診断された。

 検討の結果,1日1杯(アルコール10g相当)の飲酒は1,000人当たり年間11例の乳がん増加と関連することが認められた。口腔がんと咽頭がん,直腸がんは,1日1杯の飲酒では1例,食道がん,肝がん,喉頭がんでは0.7例の増加だった。

 また,飲酒が1杯以上の場合は,さらに多くのがんが発症することも明らかになった。飲酒量が1杯増えるごとに追加で発症するがんの数は1,000人当たり15例増えた。また,観察されたリスク上昇は,摂取するアルコールの種類とは無関係だった。

 米国立心肺血液研究所のMichael S. Lauer,Paul Sorlieの両博士は「飲酒は量に関係なく女性にとって安全ではない」と厳しい態度を表明している。

Medical Tribune 2009-7-16
BMI 30〜35の中等度肥満で寿命が3年短縮 喫煙でリスクはさらに3倍に
 オックスフォード大学の疫学者Gary Whitlock博士らは,世界中の約90万人を対象に,死亡率に対する肥満の影響に関するこれまでで最大規模の調査を行った結果,肥満が平均余命を短縮させることがわかったと発表した。

BMI 22.5〜25で死亡率最低

 今回の解析対象となったデータは,大半が欧州または北米に拠点を置く57の長期調査研究のデータであった。平均10〜15年の追跡期間中,10万人が死亡した。BMIは完ぺきな指標とは言えないまでも,肥満が不健康を引き起こす程度の評価には有用である。

 解析の結果,全死因による死亡率が最も低かったのは男女ともにBMI 22.5〜25の群であった。また,この群よりもBMIが高い群では,BMIの増加(+5)が全死因による死亡率の増加(平均で約30%増),血管性疾患による死亡率の増加(同約40%増)などのほか,糖尿病,腎臓病,肝疾患による死亡率の増加(同60〜120%増)などと関連していることもわかった。

 研究リーダーのWhitlock博士は,この結果について「英国や米国では適正体重の3割増しの体重によって寿命が約3年縮まる。大半の人にとって適正体重の3割増しの体重とは,20?30kgの余分な体重を意味する。過体重や肥満になりつつあるなら,それ以上に体重を増やさないことが寿命の延長をもたらす」と述べている。

喫煙の継続は体重倍増と同等の死亡リスク

 一方,研究の統計主任を務めた同大学のSir Richard Peto教授は「今回の研究では,肥満と喫煙のそれぞれの影響を比較したところ,喫煙を続けることは体重を倍増させるのと同等の死亡リスクとなり,かつ中等度肥満(BMI 30〜35)の3倍の死亡リスクに等しいことが示された。食生活を変えても喫煙を続けていては,寿命は延ばせない」と述べている。

 さらに,このような中等度肥満群では平均余命が約3年短縮していた。一方,高度肥満群(BMI 40〜45)では約10年の短縮が見られ,これは生涯喫煙の影響と同等であった。中等度肥満の寿命への影響は,喫煙の3分の1にすぎないことになる。高度肥満は欧州に比べ米国で多いが,いずれの地域でも中等度肥満と比べると少ない。

Medical Tribune 2009-7-16
週3時間の運動で乳がんリスク低下
 聖ヨゼフ病院(独)産婦人科のJoachim Kern博士は「週3〜5時間の運動によって乳がんリスクは大幅に低下し,運動を早い時期に開始すればするほど,より大きな恩恵が得られる」と報告した。

 全く運動を行わない生活(リスク比1)に比べると,毎週わずか数時間の運動をするだけでリスク比は0.63に,競技スポーツをすれば0.48にまで低下する。運動によるこうした効果は,過去20年間に発表された多くの研究により繰り返し確認されている。

 乳がんの3分の2を占めるエストロゲン/プロゲステロン陽性がんの発症リスクは,運動によって明らかに低下する。同博士は「運動ががん予防に効果的である理由として,性ホルモン,エネルギー代謝および体重の調節,体内の脂肪分布の変化への好影響が挙げられている。運動による抗酸化作用,DNA修復機序の最適化,精神面,さらには免疫系への好影響もがんの予防に役立っている」と述べた。

Medical Tribune 2009-7-16
カロリー制限は霊長類でも疾患の発症遅延と寿命の延長をもたらす
 カロリー制限により霊長類でも加齢が関係する疾患の発症が遅れ,寿命が延びることが確認されたと,米ウィスコンシン大学などのグループが発表した。

 栄養不良を来さない程度のカロリー制限は,多様な種で加齢を遅らせ寿命を延長する。しかし,霊長類におけるカロリー制限の疾患への抵抗性や死亡への影響は完全には確立されていない。同グループは,大人に達したアカゲザル(飼育下の平均寿命27歳)を30%カロリー制限群と非制限群に分けて飼育,疾患や死亡への影響を検討した。

 その結果,20年経過した今回の報告時点の生存率はカロリー非制限群の50%に対し,制限群では80%と高かった。また,カロリー制限は加齢関連疾患の発症を遅らせ,特に糖尿病,がん,心血管疾患,脳萎縮の発症を減らした。

 同グループは「これらのデータはカロリー制限が霊長類の加齢を遅らせ,寿命を延長することを示すものである」としている。

Medical Tribune 2009-7-23,30