広葉樹(白)    
          

ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2009年6月


2009年6月 文献タイトル
抗がん薬で指紋が消失? 米入国審査でトラブルの可能性 副作用の手足症候群が原因か
肥満患者は膵がん術後リスクが高い
がん検診を受ける回数が増えるにつれ偽陽性の頻度が上昇
肝細胞がんが30年で3倍増に 1〜5年生存率は大幅改善
血中プロテアソーム高値が肝硬変のがん化マーカーとなる可能性

抗がん薬で指紋が消失? 米入国審査でトラブルの可能性 副作用の手足症候群が原因か
 2004年から米国で入国審査時のセキュリティー強化が始まった。これは米国土安全保障省が定めたテロ対策の一環として行われているもので,米国に入国する外国人は原則として指紋採取と顔写真の撮影が義務付けられている。このシステムが一部のがん患者の頭を悩ませているという。

空港に4時間足止めされたケースも

 経口抗がん薬カペシタビンは,転移性結腸直腸がんや転移後に他の薬剤に反応しなくなった乳がんなどの治療に用いられているが,副作用として脱水症状,心障害,肝障害,黄疸などのほか,皮膚知覚過敏を伴う手足症候群が指摘されている。

 手足症候群は,手足にヒリヒリ感を覚える程度から,水泡などができて強い痛みを伴い,歩行も困難になるほどの重篤なものまでさまざまな症状が発生し,時に指紋がなくなることもある。そのため,カペシタビン服用患者が海外から米国に入国しようとしても,指紋が消失した指ではデータが取れず,疑わしき人物として空港で拘束されるケースが相次いでいるようだ。

 Tan博士らの投書には,既にトラブルに巻き込まれてしまった事例が書き連ねられている。それによると,親戚を訪ねるため渡米した62歳の男性が入国審査に引っかかり,空港で4時間足止めされたこともあった。この男性には,過去3年にわたってカペシタビンが処方されている。しかし,副作用については全く知らず,指紋が消失していたことには気付かなかったという。

 同博士らは,患者がカペシタビンを服用している場合,医師はこの副作用についてきちんと説明するとともに,患者が渡米する際には専門医からの説明書を手渡すべきだと提案している。

Medical Tribune 2009-6-3
肥満患者は膵がん術後リスクが高い
 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJason B. Fleming博士らは,BMI 35超の肥満患者では,膵がん術後にがんがリンパ節に転移する割合が高いうえ,生存率は低く再発率が高いと発表した。

リンパ節転移リスクが12倍

 過去20年間に米国の肥満率は劇的に増加した。肥満患者に焦点を合わせた多くの疫学的研究とコホート研究では,多くの肥満関連疾患と悪性腫瘍の患者において膵がん有病率が増加していることが示唆されている。さらに,肥満は膵腺がん患者の生存率低下と関連しているが,その機序は不明である。

 Fleming博士らは,1999〜2006年に膵がん治療のため膵切除術を受けた連続患者285例を調査。手術,患者のBMIとアウトカムに関するデータは,施設データベースと電子カルテから収集した。

 BMI 35超の肥満患者では,35以下の非肥満患者と比べてリンパ節転移リスクが12倍高かった。肥満患者で,無病生存率と全生存率の推定値は低下し,膵切除術後のがんの再発リスクと死亡リスクは非肥満患者のほぼ2倍であった。がん再発は,BMI 35超の肥満群で20例中19例(95%)であったのに対して,非肥満群では264例中161例(61%)であった。

 これまでの研究により,BMI 35超と膵がんによる死亡リスク増加との間には関連が認められている。同博士らは「今回の知見によって,それらの先行研究の結果は膵がん治療のため手術を行う患者にも当てはまることが判明した。また腫瘍治療に関連した障害とは独立して,肥満は腫瘍に生物学的な影響を及ぼす宿主因子であることが示された」と結論付けている。

Medical Tribune 2009-6-4
がん検診を受ける回数が増えるにつれ偽陽性の頻度が上昇
 複数のがん検診を受けることが推奨されているが,受検回数の増加とともに偽陽性の頻度が上昇し,それに伴って侵襲的な検査を受ける回数も増えると,米国立衛生研究所のグループが発表した。

 今回の報告は,がん特異的死亡率に対するがん検診の有効性を検討するランダム化比較試験の検診群のデータに基づくものである。3年間の検診期間中に男女とも最高14回の受検が可能であった。同試験は進行中で,55〜74歳の約6万8,500人が参加している。

 解析の結果,少なくとも1回偽陽性となる累積確率は4回の受検で男性が36.7%,女性が26.2%,最高の14回受検した場合にはそれぞれ60.4%と48.8%に上昇した。

 また,偽陽性のために侵襲的な検査を受ける累積確率は4回の受検で男性が17.2%,女性が12.3%,14回の受検ではそれぞれ28.5%,22.1%であった。

Medical Tribune 2009-6-4
肝細胞がんが30年で3倍増に 1〜5年生存率は大幅改善
 米国立がん研究所(NCI)疫学のSean Altekruse博士らは,NCIのがん登録プログラムを解析し,米国の肝細胞がん(HCC)の罹患率が1975〜2005年の30年間に3倍に増加したと発表した。

C型慢性肝炎の増加が関与

 今回の解析では,罹患率が3倍増になった一方で,1992〜2004年にHCCと診断された患者の1〜5年生存率が大幅に改善したことが初めて示された。高い治療効果が得られる初期のステージで診断される患者が増加したことが,生存率の改善に寄与したと見られている。早期診断が増加した理由として,HCCへの認識が高まり,高リスク患者では限局性肝がんの検査が増加したことが指摘されている。

 Altekruse博士は「今回の研究では,HCC罹患率の増加原因は明らかにできなかったが, 慢性B型肝炎と慢性C型肝炎患者の増加が,HCC罹患率の増加に関与している可能性がある」と推測。「罹患率の増加を抑制するために,増加に関与する要因をさらに追究する必要がある。多量の飲酒,脂肪肝,肥満,糖尿病,鉄蓄積などもHCC罹患率の増加に関与している可能性がある」と指摘している。

 研究結果によると,1975〜2005年に,HCC罹患率は10万人当たり1.6人から4.9人へと3倍に増加した。このうち,後半の1992〜2005年に有意に増加した。

 HCCの1年生存率は,1992〜2005年に25%から47%とほぼ2倍に向上した。しかし,Altekruse博士は「生存率は向上しているが,1年生存率はまだ50%に満たない状況であるため,さらなる改善が必要である」と訴えている。

Medical Tribune 2009-6-11
血中プロテアソーム高値が肝硬変のがん化マーカーとなる可能性
 血中プロテアソーム高値が肝硬変のがん化のマーカーとなる可能性があることを示唆する研究結果が,フランスのグループにより発表された。

 プロテアソームは,細胞内で不要になった蛋白質を分解する酵素複合体。細胞周期の調節に重要な役割を果たしており,血中プロテアソーム値は一部のがんの腫瘍マーカーとなる可能性がある。肝硬変に合併する肝細胞がん(HCC)には感受性の高いマーカーがないことから,同グループは肝硬変患者83例(HCC非合併33例,HCC合併50例)とコントロール40例の血中プロテアソーム値を比較した。

 その結果,HCC合併肝硬変群の血中プロテアソーム値は平均4,841 ng/mLで,HCC非合併肝硬変群(2,077ng/mL)およびコントロール群(2,534ng/mL)と比べ有意に高値であった。HCCの大きさによって3群に分けると,腫瘍が最も小さかった群でも同値は平均3,970ng/mLで,HCC非合併群およびコントロール群との差は有意であった。

 血中プロテアソーム値は肝硬変の原因とは独立し,α-フェトプロテイン(AFP)値との相関は弱かった。血中プロテアソーム値のカットオフ値を2,900ng/mLとすると,HCC診断の感度は72%,特異度は97%で,AFPの結果より優れていた。同値の測定は腫瘍が最も小さかった群のHCC診断にも有効で,感度はAFPの57.1%に対し76.2%であった。

m3.com 2009-6-11