広葉樹(白)   
             

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2008年6月-2009年2月
まめな動き、長生きの鍵 厚労省研究班が中高年調査
肥満女性で攻撃的な乳がん
長寿記録、2年連続で更新 女性は世界一の85・99歳 男性3位、79・19歳 07年の日本人平均寿命
75歳以上の前立腺がんスクリーニングは実施すべきでない―米国で勧告
ヘリコバクター・ピロリ菌の根絶は胃癌再発のリスクを低減させる
遺伝子が早期ニコチン依存症に関連
野菜、果物で食道がんの危険半減 飲酒、喫煙習慣あっても効果 厚労省研究班
「毎日コーヒー」で子宮体がん減 1-2杯で効果、発症率4割低く 厚労省調査
緑茶カテキンで再発を予防 大腸ポリープ切除後1年で
肝細胞がん患者が激減、ウイルス感染の予防対策が効果
マウスの肺がん消失 酵素働き抑制、新薬期待
カテキンの抗がん作用増強 京大、酵素で安定化
ブロッコリーは喫煙者の友?
脳腫瘍の家族歴が発症リスクに
医師に欠けるがん患者への共感 コミュニケーション能力の向上が課題
“生きたがん細胞”だけ光らせる技術−東大がマウスで成功
前立腺がん ホルモン療法の減弱化に新たな知見
発がん抑制分子「有効」 予防新薬に道−筑波大、マウスで実証
糖尿病の先在によって癌患者の死亡リスクが上昇する
乳がんの早期発見に新ツール
切除部位を光らせ教える“ICG蛍光法術中ナビゲーション”
喫煙と大腸がんの発症,死亡との関係は明らか
がんの診断以前から糖尿病があった患者は死亡リスクが高い
前立腺がん 遺伝子の活性化状態で診断
コーヒーの摂取が口腔,喉頭,食道がんのリスク低下と関係
巨大タンパクの形見えた 薬剤耐性がんに関係
がん抑制遺伝子の働き阻害 九大、タンパク質を発見
がんやアレルギー、活発にする仕組み特定…大阪大
嗅覚受容体の大量生産に成功 応用広い人工鼻の開発に期待
高い感度と特異度で膀胱がんを検出 尿中の遺伝子コピーがバイオマーカー
H.pylori 感染の新ガイドライン発表 除菌対象者をH.pylori 陽性者すべてに拡大
乳がんのメラトニン仮説に新しいデータ
高齢者の障害や死亡率が低下 積極的な身体活動が関連
アジア人の進行肝細胞がんにソラフェニブが有効
孫の世話で祖母自身の健康管理も向上
食事療法で乳がん再発予防の可能性
大豆食品が閉経後女性の大腸がんリスクを低下させる可能性
ビーチでの日焼け予防行動を分類 皮膚がん予防の介入ターゲット選定に有効
メタボリックシンドロームの発がんへの関与と機序について研究が進む
若年男性のがん既往歴は生殖能に影響しない
国際的な見解も小児の除菌には軒並み慎重姿勢  新疾患概念/“H.pylori 感染症”を追う
生き方語り合う場提供 東京にNPO設立 がん哲学外来
低濃度のビタミンDと高い死亡率に相関
結腸直腸がんのアウトカム 2種の血漿中マーカーで予測
誕生日前後か12月にがん検診の通知を

まめな動き、長生きの鍵 厚労省研究班が中高年調査
 8万人以上の中高年男女を約9年間追跡した厚生労働省研究班の疫学調査の結果、体をまめに動かしている人は、そうでない人に比べ、死亡リスクが30-40%低いことが4日までに分かった。

 仕事か余暇かの別にかかわらず、全体的な身体活動量が多いと死亡リスクが低くなるとの結果だった。研究をまとめた国立がんセンターの井上真奈美がん予防・検診研究センター室長は「自分ができる方法で、よく動く時間を増やすのが早死にの予防につながる」と話している。

 調査は、岩手から沖縄まで10都府県の45-74歳の男女計約8万3000人が対象。1995年以降の追跡期間中に約4500人が死亡した。

 研究班は、筋肉労働やスポーツ、歩いたり立ったりしている時間などをアンケートし、対象者の1日当たりの平均身体活動量を算出。その量に応じて4グループに分け、活動量と死亡との関連を調べた。

 活動量が最多のグループは、最少グループに比べて男性で約30%、女性では約40%、死亡リスクが低かった。

 また疾患別にみると、男性では、最多グループが、がんで死亡するリスクが約20%、心疾患による死亡リスクが約30%低下。女性はがん死亡のリスクが約30%低下していた。

m3.com 2008-6-4

肥満女性で攻撃的な乳がん
 テキサス大学乳房腫瘍学科のMassimo Cristofanilli准教授らは,乳がんに罹患した女性が過体重または肥満の場合,乳がんはより攻撃的で患者の生存率も低いとの知見を発表した。

 Cristofanilli准教授らは「乳がん患者が肥満であるほど疾患はより攻撃的である。われわれは,脂肪組織は炎症を増加させる可能性があり,より攻撃的な疾患を来すことを学びつつある」と述べている。

 同准教授らは,局所進行性乳がんの女性606例をBMIにより正常/低体重(BMI 24.9以下),過体重(同25〜29.9),肥満(同30以上)の3群に分類して検討した。

 その結果,5年生存率は,肥満群56.8%,過体重群56.3%,正常/低体重群67.4%で,10年生存率は,それぞれ42.7%,41.8%,56.5%であった。

 非炎症性乳がんと比べて予後が悪いことがこれまでに実証されている炎症性乳がんの比率は,過体重群の30%と正常/低体重群の15%に対して,肥満群では45%と高かった。

 また,乳がん再発リスクも肥満群または過体重群で高かった。5年以内の再発率は,正常/低体重群の38.5%に対して肥満群では50.8%で,10年以内の再発率は,正常/低体重群の45.4%に対して肥満群では58%であった。

 同准教授は「肥満は,単に容貌や過剰体重を抱えることによる肉体的な負担をはるかに超える問題である。高体重の患者には特別な注意を払うべきである」と指摘している。

Medical Tribune 2008-7-24,31

長寿記録、2年連続で更新 女性は世界一の85・99歳 男性3位、79・19歳 07年の日本人平均寿命
 日本人の2007年の平均寿命は女性が85.99歳、男性79.19歳で、いずれも2年続けて過去最高を更新したことが31日、厚生労働省が公表した「簡易生命表」で分かった。

 女性は23年連続世界一。男性は前年の2位から3位に順位が下がった。

 厚労省は「日本人の三大死因であるがん、心臓病、脳卒中の治療成績向上が平均寿命を延ばす方向に働いた。今後も同様の傾向が続くだろう」と分析している。

 これらの三大死因が克服されれば、平均寿命は男性で8.25年、女性で7.12年それぞれ延びるとみられる。

 厚労省によると、平均寿命は女性が06年より0.18歳、男性は0.19歳、それぞれ延びた。男女差は6.8歳で、前年と比べ0.01歳縮まった。

 国際的な比較では、女性の2位は香港の85.4歳、フランス84.1歳(06年)、スイス84歳(同)と続いた。男性のトップはアイスランドの79.4歳。2位は香港の79.3歳だった。

m3.com 2008-8-1

75歳以上の前立腺がんスクリーニングは実施すべきでない―米国で勧告
 米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は8月5日,75歳以上の男性に対する前立腺がんスクリーニングを「実施すべきでない」との勧告を発表した。同スクリーニングのカットオフ年齢をはっきりと示したのは初めて。なお,75歳未満の男性におけるスクリーニングについては引き続き利益と損害の検討が必要とされている。

 今回の勧告するに当たり,USPSTFは「75歳以上の男性では,前立腺がんスクリーニングの健康面の利益を示すエビデンスはほとんどなく,かえって身体・精神的な不都合が大きい」としている。

 昨年(2007年),米国で前立腺がんと診断された人は21万8,890人にものぼるほか,生涯で前立腺がんと診断される米国人は6人に1人と決してまれながんではない。そのため,75歳未満の男性については,引き続き議論が必要との勧告が採用された。

 75歳以上でのスクリーニングを推奨しないもう1つの理由として,USPSTFは特に感度の高い前立腺特異抗原(PSA)検査で見つかった前立腺がんは,健康を脅かすまでに数年〜10年以上かかる場合も多く,平均的な期待余命とされる10年以内に脳血管,あるいは心疾患で亡くなる確率が高いため,前立腺がんスクリーニングによる寿命の延長効果が期待できないことを挙げている。

Medical Tribune 2008-8-5

ヘリコバクター・ピロリ菌の根絶は胃癌再発のリスクを低減させる
 早期胃癌患者を対象とした日本の研究により、術後のヘリコバクター・ピロリ菌根絶は胃癌再発のリスクを大幅に低減させることが示されている。このことは、ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃癌との因果関係を示した先行研究のデータを後押しするとともに、ヘリコバクター・ピロリ菌根絶による胃癌の予防を裏付けている。

「高リスク地域ではヘリコバクター・ピロリ菌の根絶による胃癌予防を優先事項とすべきである」とメイヨークリニックのNicholas Talley, MD, PhDは述べている。世界的に見て、胃癌による死亡者は大腸癌よりも多く、大腸内視鏡検査によるスクリーニングによって死亡を予防できるというエビデンスよりヘリコバクター・ピロリ菌根絶によって死亡を予防できるとのエビデンスの方が優れているとTalley博士は述べている。

 しかし、これは予め出来上がっていた考え方ではない。胃癌を予防するために感染者をスクリーニングして治療するということは一般には受け入れられていない、とTalley博士はコメントしている。ヘリコバクター・ピロリ菌は世界保健機構(WHO)から胃癌の発癌因子として分類されており、しかも2007年のアジア太平洋コンセンサス会議では地域集団におけるスクリーニングと高リスク集団におけるヘリコバクター・ピロリ菌の抗生物質治療が現在、推奨されると結論されているにも関わらず、このような状況である。

 Talley博士は、こうした状況は変える必要があると述べている。「集団スクリーニングおよび治療は、高リスク集団では行政が努力すべきであり、またWHOが取り組むべきである」とTalley博士は記している。「ヘリコバクター・ピロリ菌の根絶は二次胃腺癌のリスクを低減させるという説得力のあるエビデンスが現在、得られている」

m3.com 2008-8-7

遺伝子が早期ニコチン依存症に関連
 喫煙者または喫煙経験者であれば、初めてのタバコ、それを吸ったときに咳発作を起こしたか、快感が得られたかを覚えているであろう。

 新しい研究は、喫煙に対するその最初の反応とニコチン依存症感受性増大に関連している特異的遺伝子変異との関連を示唆している。

「タバコ会社は、長年にわたって、喫煙は個人の選択であるという話を我々にしてきた」と、長年のニコチン研究者であるミシガン大学のOvide Pomerleau, PhDは語っている。「しかし、一部の人にとっては、そうとも限らないということがますます明らかになっている」。

 Pomerleau博士らは、最初の喫煙経験、現在の喫煙パターン、CHRNA5として知られているニコチン受容体遺伝子の特異的変異の間の関連について報告している。

 研究は、喫煙者および非喫煙者435例を対象として実施された。非喫煙者はすべて、生涯を通じて1本以上(100本未満)のタバコを吸っていたが、常習にはならなかった人であった。習慣的喫煙者は、過去5年以上の間、1日5本以上喫煙していた。

 この研究において、喫煙者は、非喫煙者と比較して、初めてタバコを吸ったときに快感が得られたと報告する可能性が8倍高かった。

 また、喫煙者は、ニコチン依存症感受性増大に関連しているCHRNA5遺伝子の変異を有する可能性がはるかに高かった。

「実に三重の攻撃である」と、Pomerleau博士は述べている。「この遺伝子構造を有する人は、初めてタバコを吸ったときから快感が得られ、依存症になって肺癌を発症する可能性が高い」。

m3.com 2008-8-13

野菜、果物で食道がんの危険半減 飲酒、喫煙習慣あっても効果 厚労省研究班
 野菜と果物を多く食べる男性は、あまり食べない男性に比べ、食道がんになる危険性がほぼ半減することが、厚生労働省研究班の調査で分かった。

 研究班は95年と98年、8県の45-74歳の男性約3万9000人を対象に、食事に関するアンケートを実施し、野菜と果物の1日あたりの摂取量を推計した。04年までに、116人が、食道がんのうち日本人の大半を占める「扁平(へんぺい)上皮がん」と診断された。国内の食道がんの患者は、男性が8割以上とされる。

 分析の結果、野菜と果物の合計摂取量が1日平均544グラムと最も多いグループが食道がんになる危険性は、最も少ない同170グラムのグループの52%にとどまった。また摂取量が1日100グラム増えると、危険性は約10%減った。

 種類別では、キャベツや大根などのアブラナ科の野菜の摂取と、危険性の低下に関連が認められた。

 喫煙、飲酒習慣がある人でも、野菜と果物を多く食べると危険性が減った。喫煙習慣があり、日本酒を1日2合以上飲む人では、多く摂取する人の危険性が、少ない人より6割以上も低かった。

m3.com 2008-8-14

「毎日コーヒー」で子宮体がん減 1-2杯で効果、発症率4割低く 厚労省調査
 コーヒーを毎日1-2杯飲む女性は、週に2日程度しか飲まない人に比べて、子宮体がんの発症率が4割少ないことが、厚生労働省研究班の大規模調査で分かった。飲む量が多いほど、発症率は低い傾向がみられた。

 研究班は、9府県の40-69歳の女性約5万4000人を05年まで追跡調査。約15年間に117人が子宮体がんを発症した。

 コーヒー摂取量と発症率との関係を調べると、コーヒーを毎日1-2杯飲むグループは、週2日以下しか飲まないグループに比べ、子宮体がんの発症率は4割少なかった。毎日3杯以上飲むグループは6割も少なかった。緑茶の摂取量も調べたが、発症率に関連はみられなかった。

m3.com 2008-9-2

緑茶カテキンで再発を予防 大腸ポリープ切除後1年で
 緑茶成分のカテキンを含む錠剤を飲み続けると大腸ポリープの再発が抑えられることを、岐阜大医学部の清水雅仁助教らが臨床試験で確かめた。

 大腸がんのもとになるポリープの再発予防が緑茶錠剤の臨床試験で実証されたのは初めてという。手軽な緑茶錠剤によるがん予防の可能性をうかがわせる成果といえる。

 臨床試験には、岐阜大病院など岐阜県内の4病院が参加した。大腸ポリープを内視鏡で切除した125人のうち60人に緑茶錠剤3錠(計1.5グラム、6杯分)を毎日飲んでもらい、飲まない65人と、1年後に大腸を内視鏡で検査して、ポリープ再発率を比べた。

 再発率は、緑茶錠剤を飲まなかった人では31%だったのに対し、錠剤を飲み続けた人たちでは15%と明らかに低かった。再発したポリープのサイズも、錠剤を飲んだ人で小さい傾向があった。

 緑茶錠剤を飲んでも、1日に緑茶を飲む量が3杯以下と少ない人の再発率は60%と高かった。毎日飲む緑茶が多いほど、ポリープの再発が抑制されることも裏付けた。

m3.com 2008-10-14

肝細胞がん患者が激減、ウイルス感染の予防対策が効果
 C型肝炎ウイルス(HCV)感染が主な原因の「肝細胞がん」を多く発症する60歳代で、この種のがんと診断される人が過去10年で激減していることが、愛知県がんセンター研究所の調査でわかった。

 感染後20〜30年かけて発症する肝細胞がん患者の激減は、ウイルス感染の予防対策が効果を上げたことを示すもので、世界的に珍しい。

 肝臓がんの95%を占める肝細胞がんの75%は、血液を介して感染するHCVが原因。60歳代の男性は、人口10万人当たり255人だった90年代初頭のピーク時に比べ、2003年には92人まで激減していた。

 HCV感染者が少ない50歳代でも、83人から26人に減っていた。全国の人口動態死亡統計でも、肝臓がんで亡くなる人は60歳代でピーク時の4割〜5割にまで減少している。全国的なHCV感染の低下が、がんによる死亡を低く抑えているとみられている。

 国内では、70年代に医療用注射器や注射針の使い捨てが始まり、ウイルスが特定された89年以降は献血時の検査も強化された。こうした対策が、60歳代の感染を減らしたと考えられる。

読売新聞 2008-10-29

マウスの肺がん消失 酵素働き抑制、新薬期待
 肺がん遺伝子が作る酵素の働きを抑える化合物で、マウスの肺がんを消失させることに、自治医科大などの研究チームが成功した。肺がんの新たな治療薬として期待される。

 チームは昨年、肺がん患者から、がん化にかかわる遺伝子「EML4-ALK」を発見。肺がん患者の約5%がこの遺伝子を持っていることが分かっている。この遺伝子が肺がんを起こすことを確かめるため、肺だけで遺伝子が働くようにしたマウスを作ったところ、生後1-2週間で両肺にがんができた。

 この遺伝子が作る酵素の働きを阻害する化合物を作り、肺がんマウス10匹に1日1回経口投与。投与開始から25日ですべてのマウスのがんが消失した。投与しなかった肺がんマウス10匹は、がんが両肺に広がり、9匹が1カ月以内に死んだ。

 肺がんの治療薬としては「イレッサ」があるが、副作用がある上、効く患者が限られる。この化合物は別のタイプの肺がんへの効果が期待できるといい、既に複数の製薬会社が治療薬開発に着手している。副作用はみられないという。

m3.com 2008-11-25

カテキンの抗がん作用増強 京大、酵素で安定化
 緑茶に含まれるカテキン成分を酵素の力で安定化し、がん細胞の増殖を抑える作用を強めることに成功したと、京都大の松村和明特任助教らのチームが発表した。

 カテキン成分に抗がんや抗ウイルス作用があるのは知られているが、化学的に不安定なため体内で分解されやすく、医薬品としての応用に課題があった。

 正常な細胞に対する毒性がほとんどないのも確認。松村特任助教は「将来はカテキンを使って副作用が少ない抗がん剤ができるかもしれない」と話している。

 チームは、カテキンの主成分に酵素を使って脂肪酸をくっつけると、分解されにくく細胞内に取り込まれやすい構造になることを発見。がん細胞を移植したマウスにカテキン成分を投与して1カ月間観察すると、投与しない場合に比べ、がん組織の大きさが10分の1程度に抑えられるのを確かめた。

m3.com 2008-11-27

ブロッコリーは喫煙者の友?
 ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜をたくさん食べる喫煙者と元喫煙者は、そうでない喫煙者より肺癌になりにくいようだ。

 これはロズウェルパークがん研究所(ニューヨーク州)の研究者らが今日、ワシントンD.C.での癌予防に関する米国癌研究会議で報告したニュースである。

「まず初めにすることは禁煙」と研究者のLi Tang博士は話す。なぜならば、肺癌発症の「リスクを下げるためにはやはり禁煙が一番効果的」だからである。

 禁煙に加えて、喫煙者と元喫煙者はブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ケール、かぶら菜、からし菜、コラードグリーンなどのアブラナ科の野菜をたくさん、それも生で食べるとよいとTang博士は言う。

 一方、絶対に肺癌にならない「魔法の野菜はない」とTang博士は注意する。しかし野菜を多く食べて損することはない。

 Tang博士のチームは、948名の肺癌患者と1743名の非肺癌患者に喫煙歴のほか果物、アブラナ科野菜、その他野菜の摂取量について質問した。

 喫煙者でも特に元喫煙者では、アブラナ科の野菜をたくさん食べていることが肺癌リスクの低下に関連していた。

 だからといってアブラナ科の野菜が肺癌を予防したということではない。Tang博士の研究は観察研究で、アブラナ科野菜の肺癌予防効果を直接調べたわけではない。

 しかしアブラナ科の野菜に含まれるイソチオシアン酸という成分に抗癌作用があることが他の研究で分かっている、とTang博士は指摘する。

 Tang博士の研究で最もよく食べられていたアブラナ科の野菜はブロッコリー、キャベツ、カリフラワーであった。加熱によってイソチオシアン酸を活性化するのに必要な酵素が壊れてしまうので、これらの野菜は生で食べるのが一番いい、とTang博士は言う。

 今年の2月、ブロッコリースプラウト抽出物中のイソチオシアン酸にラットの膀胱癌予防を助ける作用があると別の研究者が報告した。

 また7月には、ブロッコリーを週に数回食べる男性は食べない男性より前立腺癌になりにくいことが別の研究で明らかにされている。

m3.com 2008-11-28

脳腫瘍の家族歴が発症リスクに
 テルアビブソウラスキー医療センター(イスラエル)のDeborah T. Blumenthal博士らは,がん性脳腫瘍の家族歴がある人はない人より同タイプの腫瘍を発症するリスクが高いと発表した。

 同博士らは,ユタ州内の原発性脳腫瘍患者1,401例のカルテを調査した。それぞれの患者について,少なくとも3世代にわたる病歴情報の利用が可能であった。被験者は神経膠芽細胞腫または星状細胞腫のいずれかを発症していた。星状細胞腫の一種である神経膠芽細胞腫は,がん性でしかも進行が速く,星状細胞腫は脳あるいは脊髄の腫瘍で,神経膠芽細胞腫より悪性度は低い。

 この研究で神経膠芽細胞腫患者の直系家族は,家族歴のない人に比べて同じタイプの脳腫瘍を発症するリスクが2倍高く,星状細胞腫患者の直系家族も同じタイプの腫瘍を発症するリスクが4倍高いことが証明された。

 同博士らは「われわれの研究は,脳腫瘍の家族歴のある人の主治医はこのことを念頭に置き,他の危険因子についても患者に話すべきである。このような研究が,脳腫瘍の原因遺伝子同定につながることを期待している」と述べている。

Medical Tribune 2008-12-4

医師に欠けるがん患者への共感 コミュニケーション能力の向上が課題
 患者に対して共感的な姿勢を示すことは,良好な医師―患者関係を構築するうえで重要な要素とされる。しかし,ロチェスター大学医療センター(ニューヨーク州)内科のDiane S. Morse博士らによる研究では,多くの場合,医師は肺がん患者の診療時に共感する気持を示す機会を逸している実態が浮き彫りになった。

 Morse博士らは「共感は医師―患者関係の良好なコミュニケーションにおいて重要な要素で,患者の満足度を高め,治療へのコンプライアンスを向上させるためにも不可欠である。受診時に医師と納得のいくコミュニケーションが図れた患者では不安感が和らぎ,精神状態が安定し,病状をより理解しやすくなる」と指摘している。

 同博士らは,9人の医師(腫瘍内科医3人,胸部外科医6人)が肺がん患者(男性,平均年齢65歳)を診察した際の会話を録音した20回分の記録を分析した。

 患者は診察を通して終始,不安の気持を表していたが,医師が共感的な反応を示したケースの半数以上は,診察終了までの最後の3分の1の時間帯に見られた。

 医師が共感の姿勢を示しにくい理由について,Morse博士らは「患者に共感している時間がないと感じているのかもしれない。あるいはほかの仕事で忙しすぎて,共感するチャンスに気が付かない,もしくは共感的な態度を取ることを意識的に避けているのかもしれない。そして,生物医学的な情報が,患者の気休めになると信じている可能性もある」と推察している。

 また,同博士らは「診察のたびに共感的な反応を期待する患者や,特にさまざまな共感の機会を示す可能性のある重篤な患者を診察する際に,折に触れて共感的な姿勢を示すことをわれわれは提案したい」とし,「そのようなコミュニケーション能力を身に付けることによって患者に対する理解が深まり,患者との親密な関係が進展することで信頼関係を強めることができるだろう。幸いなことに,指導があれば共感を表現することは可能であり,こうした共感的な発言は,必ずしも医師の診療スタイルの変更を迫るものではない。また,冗長である必要もなく,率直な言葉でも効果があることが今回の研究でも示されている」と述べている。

Medical Tribune 2008-12-4

“生きたがん細胞”だけ光らせる技術−東大がマウスで成功
 蛍光物質を取り込ませて生きたがん細胞だけを光らせる技術を、東京大学の浦野泰照准教授らが開発した。

 将来は、ミリ単位の小さながん細胞を肉眼で確認しながら、手術することが可能になると期待される。

 がん細胞は、正常な細胞は取り込まない特殊なたんぱく質を、リソソームと呼ばれる、弱酸性の細胞内小器官に運び込む性質がある。浦野准教授らは、この特殊なたんぱく質に、弱酸性に反応して光る有機物質をくっつけて、肺にがんのあるマウスに注射した。

 1日後に、マウスの胸を開くと、肺に1ミリ程度のがんの塊が光っているのが肉眼で確認できた。また、死んだ細胞では光が消えることもわかった。

 浦野准教授は「がんだけが取り込むたんぱく質は複数知られており、様々な種類のがんに応用できる。米国で、臨床試験を計画している」と話している。

m3.com 2008-12-8

前立腺がん ホルモン療法の減弱化に新たな知見
 ロチェスター大学医療センター(ニューヨーク州)のChawnshang Chang所長らは,前立腺がんにおけるアンドロゲン受容体の役割を検討する研究を行い,前立腺がんに対する抗アンドロゲン療法が無効となる理由を検討し、その結果を発表した。

 前立腺がんに対して他の治療選択肢がなくなりホルモン療法を必要とする時期になると,がんが転移し始めることが多いのはなぜだろうか。

 Chang所長は,この理由の1つとして,そのような状況ではアンドロゲン受容体が過去に考えられていたよりも多くの働きを持つ点を挙げた。同所長によると,ある状況下では受容体分子が増殖を刺激し,別の状況下では増殖を抑制する。進行性前立腺がん患者で抗アンドロゲン療法の効果が見られるのは通常1〜2年で,その後は抑制効果が消失しがんの拡大を招くが,これは抗アンドロゲン療法が前立腺間質細胞の増殖を抑制する一方で,上皮基底細胞を刺激し増殖させる働きを持つためであるという。

 同所長は「アンドロゲン受容体を阻害するとすべてのがん細胞の増殖が抑えられると考えられてきたが,今回この考えは当てはまらないことがわかった。現行の治療法では前立腺内で細胞の持つすべてのアンドロゲン受容体に対して非特異的に作用するため,アンドロゲン受容体の阻害がある面では効果的に働くが,別の面では悪影響を及ぼしてしまう」と述べている。

Medical Tribune 2008-12-11

発がん抑制分子「有効」 予防新薬に道−筑波大、マウスで実証
 がんが発症するのを未然に防ぐ仕組みを、渋谷彰筑波大教授らの研究チームが解明した。がんにかかりにくい体質にする薬の開発につながるという。

 健康な人でも毎日約3000個のがん細胞が発生しているが、がんにならないのは免疫の効果との学説がある。研究チームは、「キラーT細胞」などの免疫細胞の表面にできる分子「DNAM1」が、がん細胞上の別の分子と結合する性質に注目。DNAM1のないマウスを作り、線維肉腫などを起こす発がん物質を接種した。DNAM1なしのマウス十数匹は約5カ月後にすべて線維肉腫を発症したが、同じように発がん物質を接種した通常マウスで約5カ月後に発症していたのは、ほぼ半分だった。

 DNAM1ががん細胞を殺す上で重要な役割を担うことは実験で推測されていたが、生物でその作用があるのかは不明だった。渋谷教授は「DNAM1の働きを高めることで、がん治療だけでなく予防にもつながるのでは」と話す。

m3.com 2008-12-18

糖尿病の先在によって癌患者の死亡リスクが上昇する
 癌診断時に糖尿病が先在する癌患者では、非糖尿病患者に比べて死亡のリスクが高い。メタアナリシスによれば、糖尿病は、あらゆる種類の癌において死亡ハザード比(危険度=HR)上昇(1.41)に関連があった。

 同データの副次的解析では、糖尿病の先在は、子宮内膜癌(HR, 1.76)、乳癌(HR, 1.61)、結腸直腸癌(HR, 1.32)における長期全死亡率上昇と有意に関連することが明らかになった。また、糖尿病と、前立腺癌、胃癌、肝細胞癌、肺癌、膵癌のリスクの上昇(有意ではない)との関連も認められた。

 現時点では、糖尿病が一部の癌における全死亡率と強力に関連する理由を推測することは難しい。「多くの考えられる理由があり、それぞれの癌について理由を特定することは難しい。現在、解明に向けて、それぞれの癌について詳しく調べているところである」と、ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生学部のFrederick L. Brancati一般内科部長は述べた。

 Brancati博士は臨床医に対し、「たとえ糖尿病が存在しても、可能な範囲で最も適切かつ積極的な治療を確実に行うこと。そして、糖尿病コントロールに配慮するため、必ずかかりつけ医が癌治療中および治療後に関与し続けるべきである」ことを推奨している

m3.com 2008-12-24

乳がんの早期発見に新ツール
 トゥルク大学中央病院(フィンランド)のJani Keyrillinen博士らはフィンランド,ドイツ,欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)の研究者と共同で,乳がん早期発見のための新しいX線撮影法を開発した。この方法では空間分解能の高い乳腺の3次元(3D)画像を得ることができ,がんにより生じた組織変化に対する検出能も非常に高くなる。この方法は来年にも医療施設に導入できるようになるかもしれない。もし実現すれば,現在のマンモグラフィよりも正確に腫瘍を検出することが可能になる。

 世界保健機関(WHO)によると,乳がんは先進国の女性に最も多いがんで,早期発見は治療の成功と直接的に関連している。

 現在,放射線診断で最も広く用いられているのはマンモグラフィだが,触診可能な乳がんの約10〜20%は検出することができないという。これは,乳腺の密度が高い若年女性では,乳房撮影で腫瘍が乳腺組織に隠れてしまうことによる。

 CTではより高い精度で乳房全体の3D画像が得られ,乳腺が高密度の場合でも腫瘍を早期の段階で検出できる。しかし,乳房のような放射線の感受性が高い臓器では,撮影のために照射できる放射線量は制限されている。

 今回の新しいCT法はこの問題を克服し,前例のないコントラスト分解能による乳腺検査を臨床的に許容範囲のX線照射量で行うことに成功した。

 物理学者,外科医,放射線科医,病理学者から成る研究チームは,マンモグラフィと同等の照射量であるAnalyzer-Based X線画像撮影(ABI)をin vitroのサンプルに試行した。ABIを用いると,サンプルへのX線照射量が従来方法でCTを行ったときの4分の1相当にもかかわらず,画像の空間分解能は7倍に達するという。

Medical Tribune 2008-12-25

切除部位を光らせ教える“ICG蛍光法術中ナビゲーション”
 東京大学(肝・胆・膵外科)の増田晃一氏と同病理部との研究グループは,社会保険中央総合病院(外科)の石沢武彰氏とともにインドシアニングリーン(ICG:蛍光波長830nm前後)蛍光法を用いた術中ナビゲーションについて研究を行っている。

 増田氏によれば,分化度の高い肝細胞がん(HCC)は胆汁産生性を保持するが,発がんに伴う胆汁排泄障害が存在するという。

 同氏の報告するICG蛍光法の機序は,静脈注射したICGが胆汁中に排泄されるという特徴を利用し,胆汁排泄障害を伴うHCCに残存したICGを近赤外線下で蛍光描出するというものだ。

 同氏は,その機序と手術中の診断における有用性について,(1)肝がん結節の切除標本をICGで観察し,診断能について基礎的な検討,(2)切除前の肝表面をICG蛍光法で観察し,肝細胞がんの描出能を検討―の2つを行った。

 対象は,2007年7月〜08年3月にHCCに対する肝切除を行った37例。手術前に肝機能検査のためにICG 0.5mg/kgを静脈注射し,赤外観察カメラ(PDE,浜松ホトニクス製)により,切除前の肝表面を撮影(20例)。さらに切除標本に対し肉眼観察とPDE撮影を行い(37例),径5mm以上の蛍光領域を病理組織検査した。

 ICG蛍光法によって,病理組織学的に診断されたHCC 63結節の全てが切除標本割面に描出されたが,肉眼診断ではそのうち8結節(13%)が同定不能であった。肉眼診断不能であった8結節の分化度の内訳は,高分化7結節 (そのうち早期HCC 5結節)と中分化1結節であった。蛍光法の偽陽性は5病変が認められた(大再生結節4例,胆管増生1例)。

Medical Tribune 2009-1-6

喫煙と大腸がんの発症,死亡との関係は明らか
 喫煙は大腸がん(結腸・直腸がん)の発症および死亡と有意に関係していると,イタリアのグループが発表した。

 大腸がんは世界で3番目に多いがんであり,がんによる死亡の4位を占めている。喫煙と大腸がんの関係は研究によって結果が異なることから,同グループは喫煙と大腸がんの発症および死亡を検討した研究のメタ解析を行った。

 発症の解析には106件の観察研究が含まれた。喫煙者と非喫煙者の補正ずみ発症推定リスクを算出した26件の研究では,喫煙者の相対リスクは1.18であった。喫煙は10万人年当たり10.8例の発症絶対リスク増加と関係していた。pack-yearと1日の本数が多いほど,大腸がんの発症率が高いという用量関係が認められた。しかし,この関係は喫煙30年後でのみ有意であった。

 死亡の解析には17件のコホート研究が含まれ,非喫煙者と比較した喫煙者の推定相対リスクは1.25であった。喫煙は10万人年当たり6例の死亡絶対リスク増加と関係していた。発症と死亡の両方において,喫煙との関係は結腸がんより直腸がんのほうが強かった。

Medical Tribune 2009-1-1,8

がんの診断以前から糖尿病があった患者は死亡リスクが高い
 がんと診断される前から糖尿病があった患者は,糖尿病がなかったがん患者と比べてあらゆる原因による死亡率が高いと,米ジョンズホプキンス大学のグループが発表した。

 糖尿病は一部のがんの危険因子である可能性があるが,新規に診断されたがん患者における以前からの糖尿病の存在が死亡に及ぼす影響は明らかではない。同グループは,2008年5月15日までの電子データベースからがん診断前の糖尿病の有無と全生存を検討した研究を検索,メタ解析を行った。

 その結果,23件の研究のランダム効果モデルの解析で,糖尿病があった群は正常血糖値群と比べてすべてのがんによる全死亡率が1.41倍高いことが示された。がんのタイプ別によるサブグループ解析では,糖尿病は子宮内膜(体)がん,乳がん,結腸・直腸がんのリスク上昇と関係し,ハザード(危険)比はそれぞれ1.76,1.61,1.32であった。

Medical Tribune 2009-1-1,8

前立腺がん 遺伝子の活性化状態で診断
 遺伝子工学に基づく新たな診断法により,前立腺がんの疑いのある男性患者に対する腫瘍細胞の探索が改善され,前立腺生検を繰り返し行う必要がなくなりそうだ。

 ドイツがん研究センターのHolger博士らは,ドイツ国立ゲノム研究ネットワークの助成のもとで研究を行い,特定の遺伝子の活性化パターンから確実な診断の手がかりが得られることを突き止めた。

 これまで,全症例の3分の1では,腫瘍が小さすぎたり,細い生検針で腫瘍組織の採取に失敗したりしたために正しく診断が付けられていなかったが,この新しい方法を用いれば,たとえ採取組織標本にがん細胞が含まれていなくとも十分に診断が可能だという。採取した前立腺細胞のなかで,今回同定された5個の遺伝子が活性化しているかどうかが決定的な判断材料となる。

 同博士らは,まずマイクロアレイ技術と文献調査を通じて,がん患者と健康者の正常な前立腺細胞中で活性化状態が異なっている29個の遺伝子を同定した。次に,病理学的検査では腫瘍細胞が認められなかったがん患者の組織標本で調べたところ,腫瘍の大きさや種類,患者の年齢や血中PSA濃度とは関係なく,がん患者の前立腺中により多く見出される5個の遺伝子を同定することができた。

Medical Tribune 2009-1-1,8

コーヒーの摂取が口腔,喉頭,食道がんのリスク低下と関係
 コーヒーの摂取が口腔,喉頭,食道がんのリスク低下と関係することを示す疫学データが,東北大学のグループにより発表された。

 症例対照研究でコーヒー摂取と口腔,喉頭,食道がんのリスクとの逆相関関係が示唆されているが,前向きに検討した研究は乏しい。同グループは,コーヒー摂取とこれらのがんのリスクとの関係を明らかにするため宮城県コホート研究のデータを用いた。

 対象はがんの病歴のない40〜64歳の3万8,679例。コーヒーの摂取に関する情報は,1990年に実施した自記式食物摂取頻度調査票から得た。13.6年間の追跡で157例に口腔,喉頭または食道がんの発症が確認された。

 解析の結果,口腔,喉頭,食道がんのリスクとコーヒー摂取との間に逆相関関係が認められた。コーヒーを飲む習慣がない群と比べ,1日1杯以上摂取する群のこれらのがんの多変量補正ずみハザード比は0.51(95%信頼区間0.33〜0.77)であった。この逆相関関係は性,がんの部位にかかわらず一貫していた。また,この関係は登録時に飲酒や喫煙習慣がなかった群だけでなく,これらのがんのリスクが高いとされる飲酒や喫煙習慣がある群でも認められた。

Medical Tribune 2009-1-15

巨大タンパクの形見えた 薬剤耐性がんに関係
 抗がん剤が効かない薬剤耐性にかかわる巨大タンパク質の詳しい構造を、兵庫県立大の月原冨武特任教授(タンパク質結晶学)らのチームが解明した。

 「ボルト」と呼ばれる生体内で最も大きなタンパク質で、長さ67ナノメートル(ナノは10億分の1)のラグビーボール形。免疫反応に関係するほか、薬剤耐性がん細胞で多くつくられることが知られている。

 月原特任教授は「構造が分かると働きを邪魔する手掛かりになる。がん治療などに将来役立つかもしれない」としている。

 チームは兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」でラットの試料を解析。より小さなタンパク質などがいくつも組み合わさってできており、内側は空洞になっていた。チームはここに抗がん剤を取り込んで細胞外に排出している可能性があるとみている。

m3.com 2009-1-16

がん抑制遺伝子の働き阻害 九大、タンパク質を発見
 がんの増殖を抑える「p53」という遺伝子の働きを、主として胎児期の細胞に多く存在する「CHD8」というタンパク質が阻害することを、九州大生体防御医学研究所の中山敬一教授らのグループが発見した。

 p53はがんなど細胞の急激な増殖に反応して「自殺」(アポトーシス)に追い込む代表的な「がん抑制遺伝子」。その働きが阻害されることで、がん細胞の増殖に歯止めが利かなくなると考えられる。中山教授らは「がん発症のメカニズム解明につなげたい」としている。

 中山教授らは、胎児期には正常な細胞もがんと同じように急激に増殖することに着目。マウスで調べた結果、CHD8と結び付いたp53はアポトーシスを引き起こさなくなることが分かった。CHD8は胎児期の活発な細胞増殖がアポトーシスで妨げられないようにしていると考えられる。

 CHD8は胎児期の後期には減り、アポトーシスも起きるようになるが、何らかの原因で再びCHD8が多くなると、がんになるリスクが高まることになる。中山教授のグループは今後、CHD8が増減する仕組みを研究する方針。中山教授は「CHD8とp53との結合を防ぐ薬剤ができれば新たな抗がん剤になる」と話している。

m3.com 2009-1-19

がんやアレルギー、活発にする仕組み特定…大阪大
 細胞内の不要なたんぱく質の分解にかかわる「ユビキチン」と呼ばれる物質が、がんやアレルギーなどの原因にもなる遺伝子の働きを活発にする仕組みを、大阪大医学系研究科の岩井一宏教授らの研究グループが明らかにした。がんなどの新しい治療薬開発が期待される。

 ユビキチンは、細胞質の中で不要になったたんぱく質に結合し、分解酵素が破壊する目印になることが知られている。免疫反応やDNA修復、細胞の増殖などの指令を細胞内で伝える仕組みにもかかわっている。

 研究グループは、マウスの肝臓細胞の表面に炎症を起こすように刺激を与えた。するとユビキチンが、鉄分を制御するたんぱく質と結びつき、炎症やがん化などに関係する遺伝子の働きが活性化した。

 岩井教授は「がんやアレルギーの炎症反応を抑える薬の開発に役立つかもしれない」と話している。

m3.com 2009-1-20

嗅覚受容体の大量生産に成功 応用広い人工鼻の開発に期待
 マサチューセッツ工科大学(MIT)生物医学工学センターのShuguang Zhang副所長らは,嗅覚受容体を実験室で大量に生産する方法を開発した。

 この知見を受け,いずれは医療や産業の分野での多様な応用が可能な「人工鼻」の開発が期待される。また,嗅覚が無限に近い広範なにおいを識別できる機序の解明も進むものと見られている。

 嗅覚はヒトの感覚のうちで最も複雑で,最も解明が進んでいない感覚の1つである。ヒトは400個近い遺伝子を含む広大な嗅覚系を有しているが,これはその他の感覚機能に対応する遺伝子数よりも多い。イヌやマウスは,嗅覚受容体に対応する機能遺伝子を約1,000個有している。

 今後,同博士らはMITのメディアラボと生物学科をはじめとする各国の研究者と共同研究を進め,多数の異なるにおいを同定できる携帯型マイクロ流体装置の開発に取り組む予定である。

 研究責任者のZhang副所長は「このような装置は,医学の分野では糖尿病,肺がん,膀胱がん,皮膚がんなどの特有の臭気を発する疾患の早期診断にも使用が可能である。これ以外にも,嗅覚ベースのバイオセンシング装置は,幅広い産業用途が考えられる」と述べている。

Medical Tribune 2009-1-22

高い感度と特異度で膀胱がんを検出 尿中の遺伝子コピーがバイオマーカー
 テキサス大学のBogdan Czerniak教授らは,尿標本から収集した細胞内のオーロラAキナーゼ遺伝子(AURKA)のコピー数を定量することで,簡便かつ非侵襲的に膀胱がんを検出できるとの知見を発表した。

 今回の研究では,AURKAが尿路上皮細胞内に過剰に発現すると,細胞分裂中にエラーが起こることも判明した。エラーが起こると,新たな細胞の染色体が正常の23対より少ないか多くなってしまう。

 研究責任者のCzerniak教授は「染色体数の異常は,ヒトにおいて,がんであることを示す最も基本的な特徴でありサインである。われわれは今回,膀胱がんにおける染色体数の異常においてAURKAが果たす役割をより深く解明することができた」と述べている。

 Czerniak教授らは,蛍光in situ hybridization(FISH)法を用いて,尿標本から採取した膀胱からの尿路上皮細胞中の遺伝子コピー数を定量した。膀胱がん患者23例とがんではない対照7例からの標本を盲検化分析した結果,AURKAバイオマーカーによりがんの23例すべてを同定,また対照7例中6例を膀胱がんではないと正しく判定できた。

 同教授は「尿から分離した細胞に対する,このバイオマーカーの検出力は細胞診より優れているようだ」と指摘。「われわれの次のステップは,米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた市販用試薬を開発することである。そのためには,多施設前向き臨床試験での独立した確認が必要である。承認されれば,新規および再発がんの症例を早期に検出でき,膀胱温存率と生存率が改善されるだろう」と述べている。

Medical Tribune 2009-1-22

H.pylori 感染の新ガイドライン発表 除菌対象者をH.pylori 陽性者すべてに拡大
 日本ヘリコバクター学会は1月23日の記者会見で,「H.pylori 感染症」という新たな疾病概念を打ち出し,すべてのH.pylori 陽性者に対し除菌を推奨する内容の新ガイドライン(「H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版」)を発表した。2000年の初回ガイドラインから2回の改訂を重ね第3版となる。疾病予防に踏み込んだ画期的な内容で,6月25〜26日に東京で開催される第15回日本ヘリコバクター学会学術集会では初の認定医試験も行う予定だ。

 新ガイドラインの大きな目玉は,「H.pylori 感染症」を病名として明確に打ち出し,H.pylori 除菌が胃・十二指腸潰瘍の治癒だけでなく,胃がんをはじめとするH.pylori 関連疾患の治療や予防に役立つことを示した点だ。そのうえで,H.pylori 除菌治療の適応となる疾患として胃・十二指腸潰瘍をはじめ,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病(ITP),早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃,萎縮性胃炎,胃過形成性ポリープ,機能性ディスペプシア,逆流性食道炎などを挙げ,各疾患におけるエビデンスレベルを提示した。

 同学会理事長の浅香正博氏(北海道大学病院病院長)は,「保険適用になっていない疾患に対して,すべて除菌を勧めてよいのかということが議論になったが,標準治療の在り方を明確にするために1年半,非常に長い時間をかけてつくった。初回ガイドラインから8年経過し,大きな副作用も報告されていない。メリット,デメリットを天秤にかけたら,圧倒的にメリットのほうが大きい。今回のガイドラインはわれわれ日本人にとって,非常に優れたものに進化している」と語った。

Medical Tribune 2009-1-26

乳がんのメラトニン仮説に新しいデータ
 メラトニンの分泌抑制がエストロゲンの分泌亢進につながることが,乳がんの発症リスクと関係するという「メラトニン仮説」を支持する新しいデータが,米ハーバード大学などのグループにより発表された。

 同グループは,Nurses' Health Studyの参加者で2006年3月までに乳がんを発症した閉経後女性357例とマッチさせたコントロール533例を対象に,登録時に採取した朝一番尿に含まれるメラトニンの主要代謝物6-スルファトキシンメラトニン(aMT6s)の値を調べた。

 その結果,尿中aMT6s高値は乳がんリスクの有意な低下と関係していた。

Medical Tribune 2009-2-5

高齢者の障害や死亡率が低下 積極的な身体活動が関連
 スタンフォード大 学のEliza F. Chakravarty博士らは21年間にわたる縦断的研究を実施し,中高年期における長期のランニングやそのほかの運動への積極的な取り組みは,その後の障害や死亡率の低下と関連するとの結果を発表した。

 Chakravarty博士らは,健康成人コホートを21年間にわたり前向きにフォローアップした。研究開始時の被験者の平均年齢は59歳,フォローアップ終了時では78歳であった。その結果,すべての時点において対照群に比べランニング群では平均障害レベルが低かっただけでなく,障害の進行速度も遅かった。

 19年時点までにランニング群の15%が死亡したのに対し,対照群では34%であった。共変量を調整後も,ランニング群における延命効果が認められた。

 Chakravarty博士らは当初,対照群ではランニング群と比べて心血管死亡率は高いと予想していた。しかし,心血管アウトカムに限らず「ほとんどすべての死因」についても対照群のほうが高かった。

 例えば,全がん死亡率はランニング群の300/10万人・年に対して,対照群では569/10万人・年であった(P<0.004)。神経学的原因による死亡率は,それぞれ60/10万人・年,194 /10万人・年であった(P<0.007)。

 さらに,感染症による死亡率はランニング群の10/10万人・年であったのに対し,対照群では208/10万人・年(P<0.001)であった。心疾患死亡率は,それぞれ290/10万人・年,597/10万人・年であった(P<0.001)。

Medical Tribune 2009-2-5

アジア人の進行肝細胞がんにソラフェニブが有効
 アジア人の進行肝細胞がんに分子標的薬のソラフェニブが有効であることを示す第III相試験の結果が,中国,韓国,台湾の共同研究グループにより発表された。

 肝細胞がんはアジア人に多いという特徴がある。ソラフェニブは経口のマルチキナーゼ阻害薬で,進行肝細胞がんに対する有効性は欧米のSHARP試験でも確認されている。わが国では,進行腎細胞がんに対する使用が承認ずみである。

 今回の第III相試験では,切除不能または転移を有する進行肝細胞がんで前治療歴のない患者を2005年9月07年1月に登録。6週間を1コースとし,ソラフェニブ400mgを1日2回投与する群(150例)とプラセボ群(76例)に2対1の割合でランダムに割り付けた。

 解析の結果,全生存期間の中央値はプラセボ群の4.2か月に対し,ソラフェニブ群では6.5か月と有意な延長が認められた。また,無増悪期間の中央値はソラフェニブ群が2倍長く,有意に優れていた(2.8か月対1.4か月,HR 0.57,P=0.0005)。

 同グループは「ソラフェニブはアジア人の進行肝細胞がんに有効で,忍容性にも優れている。SHARP試験の結果と合わせ,ソラフェニブは進行肝細胞がんの適切な治療選択肢と考えられる」と結論している。

Medical Tribune 2009-2-5

孫の世話で祖母自身の健康管理も向上
 南カリフォルニア大学のLindsey Baker博士らは,長期にわたる孫の世話により,祖母自身の健康管理に対する意識が高くなると発表した。

 今回の研究では50〜75歳の5,200人超の孫を持つ女性を対象に調査し,(1)孫の世話が2年超の者(2)孫の世話をした期間が2年以内の者(3)孫の世話をしたことがない者に分類して比較した。

 その結果,孫の世話をする祖母では,孫の存在が経済的あるいは感情的に負担になっていない場合でも,最初の2年間で予防医療を受けた割合が低いという実態が明らかになった。

 しかし,孫の世話を始めてから2年経過すると,孫の世話をしていない祖母と比べてインフルエンザ予防接種や毎月の乳房自己診断などの予防的な健康対策を行う割合が高くなった。このことから,当初は健康への負担となっていた孫の世話が,逆に健康上の利益となりうることが示された。同博士らは「長期にわたる孫の世話により,今後に備えて健康的なライフスタイルを維持しようとする気持が高まるようだ。彼女たちが新しい役割を受け入れ,自ら医療サービスを活用しようとする傾向が認められる」と述べている。

Medical Tribune 2009-2-12

食事療法で乳がん再発予防の可能性
 カリフォルニア大学のEllen B. Gold教授らは,閉経後に顔面紅潮(ほてり)のない女性では乳がん再発予防に食事療法が有効である可能性があると発表した。

 ほてりは閉経後の女性で特有に認められるが,顔面紅潮の症状が出ない女性ではエストロゲン値が高いことは既に知られている。また,ほてりのない早期乳がん歴のある患者では,ほてりのある患者と比べ再発率が高く,生存率が低いとの報告もある。

 Gold教授らは,今回の「女性の健康的な生活と食事に関する研究(Women's Healthy Living and Eating study)」で,乳がん歴のある2,967例を対象に,食事療法群と,より管理の緩やかな食事摂取群(対照群)にランダム化割り付けした。食事療法群では,果物,野菜,食物繊維を豊富に含み,低脂肪の食事を摂取させた。

 その結果,ほてりのない女性での比較では,がんの種類および抗エストロゲン療法で調整後も,食事療法群における乳がんの再発率は対照群に比べて31%低かった。また,ほてりのない女性に比べてほてりのある女性では有意に再発率が低かった。

 この結果を踏まえ,同教授は「ほてりのない乳がん歴のある女性には,今回の研究で実施された食事療法が有用である可能性がある。今回の結果を追認するため,さらに試験を行う必要がある」と結論付けている。

Medical Tribune 2009-2-12

大豆食品が閉経後女性の大腸がんリスクを低下させる可能性
 大豆食品の摂取により閉経後女性の大腸がんリスクが低下する可能性があると,米バンダービルト大学などのグループが発表した。
 実験的研究で,大豆とその成分の一部(イソフラボンなど)にがん抑制作用があることが示されている。しかし,大豆食品の摂取と大腸がんに関する疫学データは限られ,また一貫性がない。

 同グループは,がんと糖尿病のない40〜70歳の女性6万8,412例を追跡し,大豆食品の摂取と大腸がんリスクとの関係を検討した。登録時(1997〜2000年)に大豆食品の摂取状況を調査。さらに,追跡中(2000〜02年)に面接を実施し,食品摂取頻度質問票により再評価した。無症候性疾患に関係する生活様式の変化を最小限とするため,解析では最初の観察年を除外した。

 平均6.4年の追跡で321例が大腸がんを発症した。可能性のある交絡因子を調整後,大豆食品の総摂取量と大腸がんリスクとの間に負の相関が認められた。乾燥重量で1日に5g(豆腐約28gに相当)の摂取増加は,大腸がんリスクの8%低下と関係した。

Medical Tribune 2009-2-12

ビーチでの日焼け予防行動を分類 皮膚がん予防の介入ターゲット選定に有効
 クイーンズランド大学(オーストラリア)のDavid L. O'Riordan博士らは,ビーチでの日焼け予防行動とリスクの分布プロフィールを調べれば,皮膚がん予防の介入が効果的な人々を判別できると発表した。

 米国では,屋外での紫外線(UV)曝露を原因とする皮膚がんの発症とそれによる死亡がここ30年間で急増している。皮膚がんリスクを低下させるための推奨としては,日光の下で過ごす時間の制限,日焼け止めの使用,防護衣の着用などが挙げられる。特に成人と青年は,休暇中などに一時的に日焼けをしたり,ビーチなど高リスク環境下で日光浴をしたりするので,日光曝露のリスクが高い。

 O'Riordan博士らは,2004年2〜3月にハワイ州ホノルルのビーチで休暇中の88人を対象に,UVへの曝露レベルと日焼け予防行動について調査した。ビーチに出かける前に日光浴に関する習慣について,帰る際にビーチでの日焼け予防行動について調べた。UV量は毎日測定した。

 参加者はビーチで平均3時間を過ごしており,そのほとんどが予防していない白い肌に炎症を起こす量の5倍に匹敵するUV量の曝露を受けていた。参加者の約70%は日焼け目的でビーチに来ていたが,40%は調査時点で既に日焼けしていた。また,およそ23%は過去30日以内に日焼けサロンに通ったことがあった。

 調査結果を踏まえ,同博士らは対象者の特徴と日焼け予防行動により3つのグループに分類した。

 (1)クラス1:無関心かつ低リスク型。日焼け止め使用量が最も少なく,着衣も少ないうえ,日よけの使用頻度も最も少ないが,日焼けには積極的。皮膚がん発症リスクが高いが人数的には最も少なかった

 (2)クラス2:日焼け積極型。日焼けしやすいと答えた人で,日焼け止めを使用する割合が最も高く,着衣は最低限で,日焼けサロンの使用回数が最も多かった

 (3)クラス3:UVに注意を払い,予防を実行しているタイプ。衣服による予防と日よけの使用頻度が最も高く,最も注意深いグループで,日焼けを目的とする人の割合も最も少なかった

 今回の知見は,さまざまな活動を楽しみながら,日焼け予防行動を促進するプログラムを始めるうえで,ビーチが理想的な場所であることを示している。海水浴客にUV被曝の予防を啓発するためには,地方自治体,旅行会社,地元企業などの関係者と協力して,個人の行動の変化だけでなく環境まで視野に入れた幅広い戦略を検討すべきである。

 同博士は「具体的な戦略は,特に繰り返し日焼けすることを目的とするクラス2を対象とし,彼らの特徴と行動パターンを考慮すべきである。常に,公衆の健康利害と地元産業の要求を両立させながら,過度のUV曝露による即時の有害な影響(光線加齢,痛み)と長期の有害な影響(皮膚がん)に焦点を当てたバランスのよいアドバイスを行うべきである」と結論付けている。

Medical Tribune 2009-2-12

メタボリックシンドロームの発がんへの関与と機序について研究が進む
 肥満はメタボリックシンドロームの1要素であり,心血管系疾患の危険因子として知られているが,近年,同シンドロームとがんリスクとの相関が指摘されており,活発な研究が行われている。

インスリンとインスリン様増殖因子が大腸発がんに関与

 肥満と脂質代謝異常との関連性は以前から指摘されており,特にインスリン抵抗性がもたらす影響に注目が集まっている。また近年,肥満や運動不足,西洋風の食事とがんの相関性を示唆する疫学研究が多数発表され,そのメカニズムが注目されている。ハーバード大学公衆衛生学部・栄養および疫学科のEdward Giovannucci教授は,インスリンとインスリン様増殖因子(IGF)-1の上昇が大腸がんリスクを上昇させるとの仮説を提示し,「これまでの動物実験や疫学研究データは,高インスリン血症が大腸発がんに重要な役割を果たすことを示唆している」と述べた。

過体重でさまざまながんリスク上昇

 近年,栄養バランスと発がんとの関連性を示唆する疫学データが多数発表されており,過体重(肥満)はがんリスクの上昇に寄与しているとの報告がある(表)。ドイツがん研究センターがん疫学のRudolf Kaaks教授は,肥満と乳がん,子宮内膜がん,大腸がん,膵がん,腎がんのリスク上昇との関連性を検討した過去の諸研究を紹介。発がんに至る機序についても触れ,「肥満はさまざまながんのリスクを上昇させることは明らかだ」と述べた。

メトホルミンでがんリスク低下

 肥満は糖尿病の危険因子でもあることから,糖尿病も数種類のがんリスク上昇と相関すると言われている。高血糖と高インスリン血症が発症機序に関与しているとされ,EPICスタディでは五分位で血糖値が最も高い群で子宮内膜がんリスクがBMI調整後で1.69倍と報告されている。

 空腹時血糖値とがんリスクとの関係を示した研究はほかにも多数あるが,最近,がん抑制因子としてLKB1が注目されている。

 LKB1は,細胞のエネルギー状態の重要なセンサーであるアデノシン一リン酸(AMP)活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化因子でもあり,糖尿病治療薬のメトホルミンが,AMPKを活性化し乳がん細胞を抑制するとの報告がある。

 また,メトホルミンを使用した2型糖尿病患者でがんリスクが低下したとの知見も発表されている。

Medical Tribune 2009-2-19

若年男性のがん既往歴は生殖能に影響しない
 ルンド大学(スウェーデン)がん専門医のOlof Sthl博士は,がんの既往歴およびその治療歴や体外受精が,その後の生殖能あるいは子供の出生異常には影響しないという調査報告をまとめた。

 Sthl博士によると,がん治療を受けている多くの若年男性から,がんそのものやがん治療が子供の出生異常リスクに影響するのではないかとの質問を頻繁に受けるという。また,そのような危惧から,放射線治療を始める前に精子を冷凍保存する場合もある。
 そこで同博士は,がん治療を受けた男性における生殖能とその子供の出生異常の可能性に関して,1994〜2005年にデンマークとスウェーデンで出生した約180万人の小児を検討した大規模登録研究のデータを調査した。

 その結果,出生児の奇形リスクは,父親ががん罹患歴のある場合または体外受精による出生である場合のいずれも,わずかに高かった(それぞれ3.7%,3.8%)。しかし,一般的に出生児の奇形リスクは3.2%であることから,同博士は「これは無視してよいほどの僅差である」としている。また,体外受精による出生児で認められた奇形リスクのわずかな上昇については 「体外受精の手法そのものの影響ではなく,精子の質が低いことが影響している可能性が高い」としている。

 さらに,父親ががんの既往歴を有し,かつ体外受精で出生した児ではリスクの増大は認められなかった。これらの結果を受け,同博士は「今回の知見は,将来生まれてくる子供の健康を心配するがん既往歴のある患者に朗報である」と述べている。

Medical Tribune 2009-2-19

国際的な見解も小児の除菌には軒並み慎重姿勢  新疾患概念/“H.pylori 感染症”を追う
 日本小児H.pylori 研究会代表の加藤晴一氏(東北大学大学院小児病態学非常勤講師)が胃がん予防としての小児のH.pylori 除菌に慎重な姿勢を示す背景には,H.pylori の研究にたずさわる小児科医として,海外の研究者と議論を重ねてきた実績がある。同氏は,すでに発表された海外の知見をもとに,「無症状のH.pylori 感染症に対する除菌は20歳を過ぎてからでよい」との考えを現時点での結論として示している。

 アジア太平洋消化器病学会が2008年にまとめた小児に関するステートメントによれば,「胃がん予防のための小児のスクリーニング検査は推奨されない。ハイリスクの国,地域でのスクリーニングは胃がんが発生する年齢より10〜20年前でよい」とされている。

 加藤氏は,「このステートメントに沿って解釈すると,健常児にはスクリーニング検査と除菌は必要ない。10〜20年前がどの年齢層を指すのか曖昧であるが,少なくとも20歳過ぎと個人的に解釈している」と述べる。

Medical Tribune 2009-2-23

生き方語り合う場提供 東京にNPO設立 がん哲学外来
 「がんとともにどう生きるか」を患者と家族、医療関係者が語り合う場を提供するNPO法人「がん哲学外来」(東京)が2月24日、設立された。今後、運営に参加する大学教授や看護師らが患者と語り合う「がん哲学外来」を都内で開催するほか、担当者向けの研修やシンポジウムを開く。

 「がん哲学」とは、がんや死というだれもが直面する問題に向き合い、それぞれの生き方を見つける姿勢を指す。樋野興夫・順天堂大教授(病理・腫瘍学)が提唱した。

 がん哲学外来が、順天堂大(東京都文京区)に昨年1-3月に開設されると、全国から希望者が相次ぎ、最終的に55人が受診した。その後、横浜市や東京都東久留米市、千葉県柏市などでも実施した。

 「外来」を掲げているが、医師法が定める治療はしない。NPO理事長に就任した樋野教授は「治療行為を伴わない外来は、従来の医療から見れば『偉大なおせっかい』かもしれないが、がん哲学外来が全国の病院に広がり、患者主体の医療に役立ってほしい」と話す。問い合わせは電子メール(gantetsugaku@gmail.com)。

m3.com 2009-2-25

低濃度のビタミンDと高い死亡率に相関
 アルバートアインシュタイン医科大学のMichal L. Melamed博士らは,一般人口におけるビタミンD濃度と死亡リスクとの関係を探索する横断的多変量解析を実施した結果,ビタミンD濃度の最低四分位(17.8ng/mL未満)と全死亡率との間に独立した相関が認められた」と発表した。

 Melamed博士らは,全米調査から得られた20歳以上の米国成人1万3,331例のデータをもとにビタミンD濃度と全死因死亡,がん死亡,心血管疾患死亡との関連性を検討した。ビタミンD濃度は1988〜94年に測定されたデータを用い,死亡の有無を調べるために2000年までフォローした。

 解析の結果,最低四分位では,全死因死亡率が26%上昇しており,人口寄与リスクは3.1%であった。女性では,ビタミンD低濃度(20ng/mL未満)だけでなく,高濃度(50ng/mL超)も高い全死因死亡率と関連していた。

 一方,心血管疾患死亡とがん死亡に関しては,最低四分位で死亡リスクが上昇することが明らかにされたが,この上昇は統計学的に有意ではなかった。

 Melamed博士らは「最近の複数の研究から,ビタミンD欠乏症は心血管疾患,うっ血性心不全,がん,糖尿病の発現と死亡率に寄与することが示唆されているが,今回の研究でもビタミンD 低濃度が全死因死亡率の上昇と関連していることが明らかにされた。この関連性の機序を解明するためには今後さらなる研究が必要である。また,ビタミンDサプリメントの高用量摂取によってビタミンD 欠乏者の死亡リスクが低減しうるかどうかについても,今後の臨床試験で確認しなければならない」と結論している。

Medical Tribune 2009-2-26

結腸直腸がんのアウトカム 2種の血漿中マーカーで予測
 ハーバード大学の専任講師を務めるBrian Wolpin博士らが行った長期前向き研究の新しいデータによると,がんと診断される前に測定した2つのインスリン関連蛋白質マーカーの血漿濃度で結腸直腸がん患者のアウトカム(結果)が予想できるという。

 今回の研究は長期間の女性看護師保健研究または医療従事者追跡研究の参加者で,1991〜2004年に結腸直腸がんステージ I 〜IIIと診断された373例の診断前記録をもとにした。

 参加者は診断前に,インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)-1とインスリン分泌のマーカーであるCペプチドの血漿濃度を測定された。

 その結果,血漿IGFBP-1濃度が最も高かった者の死亡リスクは52%低く,IGFBP-1は防御効果を持つことが判明した。

 Wolpin博士らはこの結果を受けて,「IGFBP-1は細胞成長因子を阻害するため,がん細胞の増殖が弱まるのかもしれない」と述べている。

 一方,今回の研究ではCペプチド値が高いと,死亡リスクが87%増加することが判明した。同博士は,この原因は不明だが,結腸直腸がんになりやすい人でインスリン値が高いと,心筋梗塞や脳卒中などの他の疾患で死亡する確率が高くなるからではないかと推測している。

 同博士は「結腸直腸がんを手術で切除した患者において,ライフスタイルの選択が再発および死亡リスクに影響を及ぼすというエビデンスは増えつつあり,われわれの結果もこれを裏づけている。さらなる研究で確認する必要があるが,今回の知見は,結腸直腸がん患者において食事,体型,身体活動ががんのアウトカムに及ぼす影響の根元的な生物学的要因を理解する一助となるものである」と述べている。

 今回の結果について,米国がん協会の広報担当者Nicholas Petrelli博士は「これらのデータは,結腸直腸がんの人々は運動を継続し,健康的な体重を達成・維持し,インスリン値を上げすぎない健康的な食事を取るべきとする推奨を支持するものである」としている。

Medical Tribune 2009-2-26

誕生日前後か12月にがん検診の通知を
 ノルウェーがん登録のGeir Hoff教授らは,1年のうちクリスマスや誕生日など記念すべき日の近くにがん検診を勧誘すると検診を受ける人が増える可能性があると発表した。

 結腸直腸がんは,英国では死亡原因の第3位を,欧州と米国では第2位を占める。しかし,これらの国々ではがん検診プログラムが奨励されているにもかかわらず,検診率は概して低い。これまでの研究で,検診の障害となっているのは,(1)不安(2)検査によるリスクと受益に関する知識不足(3)動機付け因子として年齢の影響―が明らかになっている。しかし,検診を勧める時機については検討されたことがなかった。

 そこでHoff教授らは,大腸がん検診の勧誘時機を誕生日,クリスマス,新年など1年のうち何か記念すべき日に合わせることで,検診率を改善できるか否かを調べた。ノルウェー住民登録から男女2万780人(50〜64歳)をランダムに抽出し,期間の異なる検診予約にランダムに割り付け,郵便で通知し,予約の週別・月別検診率を,被験者の誕生日の週/月と比較した。

 その結果,2万3人中1万2,960人が検診を受け,総検診率は64.7%であった。月別比較では12月の検診率が他の月と比べ有意に高かった(72.3%対64.6%)。また誕生日の週に検診勧誘書を受け取ったり,誕生日の1〜2週間後に検診を指定された被験者の検診率も,他の週と比べ有意に高かった(67.9%対64.5%)。年齢,女性,検診法,居住地域も検診の独立予測変数であった。

 同教授らは,誕生日付近または12月に検査の勧誘をすれば検診率が上がり,疾患の予防と早期発見につながると結論。「おそらく誕生日やクリスマス,新年などの行事により年齢を思い出すことが,検診を受けるきっかけとなっているのかもしれない」と述べている。

Medical Tribune 2009-2-26