広葉樹(白)      
          

ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2009年11月


2009年11月 文献タイトル
腫瘍マーカーの活用は慎重に
第44回日本アルコール・薬物医学会 生活習慣病へのアルコールの影響に最新知見
健康的な5つのライフスタイル因子が膵がんリスク低下をもたらす
ナノ粒子で前立腺がんの再発リスクを高感度予測
消化器系がんを9割検出 金沢大グループが新技術

腫瘍マーカーの活用は慎重に
 ロートクロイツ病院(独)のWalter Guder教授らは「腫瘍マーカーによるがんスクリーニングは無視できる場合が多い。数少ない例外の1つが前立腺特異抗原(PSA)である」と報告した。

 非特異的症状を訴える患者に対して腫瘍マーカーによるスクリーニングを実施した場合,偽陽性所見によって無用な不安をもたらしたり,高コストで無駄な精密検査が実施されてしまうリスクがある。その典型的な例ががん胎児性抗原(CEA)である。CEAのわずかな上昇から大腸ファイバー検査が指示されることは多いが,検査の結果,大腸疾患の徴候はなかったということも多い。というのも,数本の喫煙後にCEAがわずかに上昇することは少なくないからである。

 同教授らは「腫瘍マーカーを測定する重要な目的は,腫瘍および治療のモニタリングにある」と主張。がんを生じていることが明らかな患者で,治療開始前にマーカーの値を把握しておけば,同マーカーを経過のパラメータとして利用することができ,場合によっては再発の早期発見にもつながる。

 また,どのマーカーによるスクリーニングも不要というわけではない。例えばPSAがよい例で,一般に50歳以上の男性には直腸検査と併せてPSA を測定するよう推奨されている。PSA高値は,特に前立腺肥大患者の場合には悪性化を示唆しており,さらに検査を進める意義がある。

 同教授らは,測定する価値のあるPSA以外の腫瘍マーカーとして,肝硬変または慢性肝炎を有することが確実な患者に対するアルファフェトプロテイン(AFP)を挙げている。この場合,定期的な測定が肝細胞がんの早期発見につながるという。

Medical Tribune 2009-11-5
第44回日本アルコール・薬物医学会 生活習慣病へのアルコールの影響に最新知見
糖尿病や肥満はアルコール性肝硬変の進展因子

 永寿総合病院(東京都)内科・堀江義則部長は,アルコール性肝硬変患者を対象に飲酒量や糖尿病合併率などを調査した結果,「アルコール単独による肝硬変は増加傾向にあり,また糖尿病や肥満はアルコール性肝硬変の進展因子となる可能性がある」と報告した。

女性は男性より肝硬変になりやすい

 わが国における肝硬変の成因に関して,1998年度全国統計ではアルコール性12%,アルコール性+ウイルス性15%であったが,2008年度ではそれぞれ14%,6%で,肝硬変の成因のうちアルコール多飲に起因する割合は依然として2割近くを占めており,また,アルコール単独が増加傾向にある。

 堀江部長らは,日本消化器学会認定施設・関連施設を対象に,2007年4月?08年3月に入院した肝硬変患者について成因などのアンケートを実施。うち飲酒量を調査できた1,141例から肝炎ウイルスマーカー陽性例を除いた908例(男性789例,女性119例)を検討した。

 その結果,男女別の1日平均飲酒量(日本酒換算)は男性5.8合,女性4.3合で,男性の61.5%は1日5合以上であった。常習飲酒期間は男性が38.7年であったのに対し,女性は29.1年で,女性は男性に比べて短期間で肝硬変を発症していた。

 糖尿病合併率は男性45.5%,女性23.5%で,飲酒量5合未満群での糖尿病合併率は男性68.4%に対して女性で23.7%と著明に少なかった。また,肥満(BMI 25以上)合併率は男性35.2%,女性20.2%で,1日平均飲酒量5合未満群では男性56.9%,女性16.3%であった。糖尿病も肥満も合併していない患者は男性35.1%,女性68.9%で,1日平均飲酒量5合未満群での非合併率は男性3.6%,女性73.8%と,男性で有意に少なかった。

 肝細胞がん合併率は男性31.6%,女性19.3%と男性で多く,糖尿病合併群での肝細胞がん合併率は40.1%,肥満合併群では43.0%と,それぞれ非合併群での22.5%,23.4%より有意に高かった。

 以上から,同部長は「肝硬変の成因でアルコール単独によるものは増加傾向にあり,問題飲酒者の断酒指導が重要である。糖尿病や肥満がアルコール性肝硬変の進展因子となる可能性が示唆され,生活習慣全体の改善への取り組みが必要と考えられる」と述べた。また「女性のアルコール性肝硬変は男性に比べて少ない飲酒量かつ短期間で進行するため,女性は,糖尿病,肥満などのアルコール性肝硬変進展促進因子とは独立したアルコール性肝硬変の危険因子であることが示唆され,女性飲酒者への節酒,断酒指導も重要だ。また,肝細胞がんの発がんには男性,肥満,糖尿病が危険因子である可能性が示唆された」と結んだ。

Medical Tribune 2009-11-5
健康的な5つのライフスタイル因子が膵がんリスク低下をもたらす
 米国立衛生研究所(NIH)のLi Jiao,Rachael Stolzenberg-Solomonの両博士らは,大規模前向き研究のデータを解析し,5つのライフスタイル因子(禁煙,飲酒量制限,地中海式食事法,BMI,規則的な身体活動)の合計スコアが膵がんの発症リスクと関連するとの結果を発表した。

高スコアで低リスク

 Jiao博士らは,NIH/米国退職者協会(AARP)食事・健康前向き研究のデータを解析した。対象は50〜71歳の45万416例で,平均7.2年の追跡期間中に1,057例が膵がんを発症した。

 解析の結果,(1)禁煙(2)飲酒量の制限(3)地中海式食事法の遵守(4)BMIが18以上25未満(5)規則的な身体活動―の5つの改善可能なライフスタイル因子の総合スコアが膵がん発症リスクと関連することが示唆された。膵がんの発症リスクは,高スコアになるほど低下し,低スコアになるほど上昇する。同博士らは,この5つの因子をそれぞれ0点(不健康),1点(健康的)で評価し,その合計スコアを求めた。

 同博士らは「総合スコア最高点(5点)では最低点(0点)に比べ,膵がん発症リスクが58%低下した(P<0.001)」と述べている。

 興味深いことに,大多数の疫学的研究では身体活動と膵がんとの間に有意な関連性が認められていないという。今回の研究では,最も一般的な2つの因子(禁煙と飲酒量の制限)に規則的な身体活動を追加することによってリスクがさらに低下した。このことから同博士らは,ライフスタイル因子間で交互作用があるのではないかと推測している。

Medical Tribune 2009-11-5
ナノ粒子で前立腺がんの再発リスクを高感度予測
 ノースウェスタン大学(シカゴ)のChad A. Mirkin教授らは,従来の前立腺特異抗原(PSA)検査に比べて早期に前立腺がんの再発を予測できる検査法を開発した。この検査を用いれば,前立腺摘出術後の再発の徴候を同定することも可能だという。

 同教授らが開発した検査法は金のナノ粒子を用いるもので,今回は18例の男性患者のPSAを検査した。その結果,この検査の感度は,現在上市されているアッセイの300倍近いことが判明した。今回の測定技術を用いれば,現在の測定法では見逃されることが多い低値のPSAを術後の検体から検出することも可能になる。

 同教授らは「この検査法は,前立腺がん摘出術後にがんが再発しない患者と,再発の可能性の高い患者を選別するのに活躍できそうだ」と述べている。また,この検査法は術後化学療法や放射線療法の有効性の指標としても役立つかもしれないとしている。

Medical Tribune 2009-11-19
消化器系がんを9割検出 金沢大グループが新技術
 金沢大学の金子周一教授らの研究グループが血液中の遺伝子の変化から、胃がんや消化器系のがんの有無を判別する技術を、世界で初めて開発したことが20日分かった。

 研究グループの説明では、この技術でがんを検出する確率は約9割で、従来の手法に比べて大幅にアップ。特別な薬剤の投与やエックス線の被ばくなどがなく、安価で短期間で検査できるという。既に特許を申請しており、来年末にも北陸地方の病院で健康診断などに応用する考え。

 研究グループは、消化器系のがん患者の血液分析で、多くの種類の遺伝子の数が増減するなど特有な異常を発見した。

 採取した血液から抽出したリボ核酸(RNA)に蛍光試薬を加え、光を当てて反応や異常を観察、がんの有無を判断する。胃や大腸、膵臓、肝臓など消化器系のがん患者約40人と、健康な人13人の血液で試したところ、約9割についてがんの有無を正しく診断できたという。

 これまでの腫瘍マーカーの検査では的中率が3割程度だった。また2・5ccの採血で診断が可能な上、検査費用も10万円以下で、検査期間も3〜4日と短くて済む。

 金子教授は「健康診断や人間ドックにこの検査を導入し、早期発見や治療につなげたい」と話している。

m3.com 2009-11-20