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2011年9月 文献タイトル
非メラノーマ性皮膚がん既往を持つ高齢女性 CaとVDの補給でメラノーマ発症リスクが半減
進行期の肝臓がんに新治療…山口大グループ
第17回日本ヘリコバクター学会 除菌後14年でも胃がんが発症
畜産農家で育った人で血液がんリスクが上昇
メラノーマの診断精度が新画像技術で向上
米で肺がん減少着々,禁煙政策実る CDC発表,喫煙率低下から5年後には成果
幼少期のストレス がん,慢性疾患,心疾患の発症リスクが上昇
1日15分の運動が3年も寿命を延ばす 運動療法について台湾からの新たな知見
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟

非メラノーマ性皮膚がん既往を持つ高齢女性
CaとVDの補給でメラノーマ発症リスクが半減
 スタンフォード大学皮膚科のJean Y. Tang博士らは,メラノーマ発症リスクの高い女性の一部では,カルシウム(Ca)とビタミンD(VD)の補給によりこの致死的な皮膚がんの発症リスクが半減する可能性が示唆されたと発表した。

非メラノーマ性皮膚がん既往者にのみ効果

 今回の解析は,大規模臨床試験における既存のデータを用い,非メラノーマ性皮膚がんの既往のある女性に照準を合わせたものである。同がんは通常致死的ではないが,その既往を持つ女性では死亡率の高い皮膚がん,すなわちメラノーマの発症リスクも増大する。解析の結果,非メラノーマ性皮膚がんの既往を持つ女性のうち,CaとVDの補給を受けた女性では,背景が同等で補給されなかった女性と比べ,メラノーマ発症リスクが57%低かった。

 筆頭研究者のTang博士は「非メラノーマ性皮膚がんの既往者は,CaとVDの補給で,致死的なメラノーマリスクを低減できるかもしれない」と述べている。ただし,同博士はその一方で「今回の研究により,1日のCaとVDの摂取量がそれぞれ1,000mgと400IUの場合,全体として皮膚がん予防効果を期待できないことも分かった。また,非メラノーマ性皮膚がんの既往のない女性がこれらのサプリメントを摂取した場合,背景が同等のプラセボ群と比べリスクの低減は認められなかった」としている。

 VDは骨成長との関連がよく知られているが,骨格筋細胞以外にも作用する。VDは皮膚を含む多くの身体部位において細胞の複製速度を調節しているが,がんではこうした複製過程にしばしば異常が起こる。また,VDにより結腸がん,乳がん,前立腺がんなどのリスクが低下することが,さまざまな研究で示唆されている。しかし,米国医学研究所(IOM)は2010年11月,VDとCaに関してさらに研究が必要であると通達した。これは,骨の健康以外の便益を実証するにはエビデンスが不十分であったためである。

 今回の研究は,がんリスクに対するVD補給の効果を検討したランダム化比較試験としては2件目に当たるもので,年齢50〜79歳の女性3万6,000例強を平均7年間追跡した女性健康イニシアチブ(WHI)のデータを解析した。WHIでは登録女性の半数が研究の一環として1日推奨量のCaとVDを摂取し,残り半数はプラセボを摂取した。WHIでのCa+VD併用は,これらの栄養素の補給が大腿骨近位部骨折と大腸がんに与える影響を検討するようにデザインされたものだが,そのほかにも多くの健康上の問題に関するデータが収集された。

がん抑制効果を初めて示す

 Tang博士らは,同試験により収集された大規模長期データセットを活用して,VDには皮膚がんに対する保護作用があるかどうかを検討した。共同研究者で近年同大学を卒業したTeresa Fu博士は「これは,WHIにおけるCa+VD併用試験において,初めて示されたがん抑制効果である」と述べている。

 今回,非メラノーマ性皮膚がんの既往がない女性で保護作用が認められなかったのは,WHI研究におけるVD投与量が原因と考えられる。共同研究者で同大学のDavid Feldman名誉教授(内分泌学)は「WHI研究の対象者が投与されたVD量はわずか400IU/日で,現在の知識に基づけば非常に低用量である」と述べている。さらに,VDに関しては,プラセボ群も個人的にCa+VDを摂取することが認められていた。したがって,今回の試験における両群間の差異は小さかった。同名誉教授は「こうした両群間における僅差を考慮すれば,メラノーマ発症リスクに対する効果が認められたことはやや驚きで,VDの潜在的効果の多くは今回,検出されなかったと考えている」と指摘している。

多方面からの検討を計画中

 WHIには男性は登録されていないため,CaとVD補給のこうした保護作用が,非メラノーマ性皮膚がん既往男性にも当てはまるか否かについては明らかではない。しかし,Tang博士らの2010年の研究(Cancer Causes&Control 2010; 21: 387-391)では,血中VD濃度の高い高齢男性における非メラノーマ性皮膚がん発症リスクが低いことが示されている。

 メラノーマは発症率が低く,WHIのような大規模研究でさえ発症の絶対数は少なかった。対象の3万6,000例強のうち,メラノーマが報告されたのは176例のみだった。WHI運営委員長で今回の研究責任者でもある同大学のMarcia Stefanick教授は「これは,メラノーマのように比較的まれながんをとらえるには,大規模試験が必要であることを強調している」と指摘している。

 Tang博士らは現在,血中VD濃度によりメラノーマの予後を比較する研究や,高用量VDががんリスクの高い患者の皮膚細胞の挙動に与える影響の検討など,VDとがん予防の潜在的関係を検討する複数の研究を計画中である。

Medical Tribune 2011年9月1日

進行期の肝臓がんに新治療…山口大グループ
 抗がん剤が効かない進行期の肝臓がんに対し、がん細胞の増殖に必要な鉄分を除去することで進行を抑えることに、山口大の坂井田功教授らのグループが成功した。

 患者の5割でがんが縮小したり進行しなくなったりしたという。抗がん剤に代わる新たな治療法で、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告した。

 肝臓がんは切除しても再発しやすく、進行すれば抗がん剤の治療効果がなくなる場合も多い。

 グループは、体内の鉄分を尿と一緒に排出する「鉄キレート剤」と呼ばれる薬剤を患者の肝臓動脈に直接投与する臨床研究を実施。末期の肝臓がん患者10人に対し、隔日で平均2か月間注入したところ、2人でがんが縮小し、3人で進行がほぼ止まった。重い副作用も確認されなかった。残り5人には治療効果はみられなかった。

 鉄キレート剤を使った治療は、他の臓器のがんにも応用できると考えられるが、肝臓は鉄分を蓄積する性質があるため、効果が表れやすいとみられるという。

 坂井田教授は「今回の方法は、今後のがん治療の選択肢の一つとして期待できる」と話している。

m3.com 2011年9月3日

第17回日本ヘリコバクター学会
除菌後14年でも胃がんが発症
 Helicobacter pylori除菌で胃がんの発症リスクは3分の1になるとされるが,除菌後長期間経過した後での胃がん発症についての報告はあまりない。順天堂大学消化器内科の永原章仁先任准教授は,東京都内多施設共同調査の結果,除菌後10年以上経過して胃がんと診断された4例を報告。「除菌後長期間経過しても定期的な内視鏡検査を怠ってはならない」と述べた。

内視鏡検査の頻度に課題

 H. pylori陽性者からは年間約0.5%胃がんが発症する。除菌治療により約3分の1に抑制されるが,除菌に成功しても発がんはなくならない。永原先任准教授らが,2008年に都内15施設での除菌から胃がん診断までの期間を調査したところ,平均49±26.7カ月で,中には除菌後11年以上経過してから診断された例もあった。

 そこで,同先任准教授らは「除菌後何年間注意を払えばよいのか」を調べるため,同じく都内15施設での2000年までの除菌総数と,2011年2月までに除菌後10年以上経過して胃がんと診断された症例を調査した。その結果,除菌総数は3,680例,除菌後10年以上で診断された胃がん症例は4例だった。なお,4例中2例は調査対象以外の施設での除菌。

 これら4例の除菌時の年齢は57〜71歳ですべて男性。除菌から発がんまでの期間は10年6カ月〜14年2カ月。胃がん発生部位は,上部(U領域)が2例,中部(M領域),下部(L領域)が各1例。全例が表面陥凹型(1例は表面隆起型を合併)で,大きさは3〜20mm。組織型は管状腺がんの高分化型(tub1)が2例,中分化型(tub2),印環細胞がん(sig)が各1例。4例中3例は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD),未分化型がんの1例は幽門側胃切除術を施行した。

 これらの結果について,同先任准教授は「除菌治療後10年以上経過しても胃がんの発症が見られることから,除菌後長期間経過しても定期的な内視鏡検査を怠ってはならない。今回の4例はいずれも胃粘膜の萎縮は軽度で,陥凹型という共通点は見られたが,組織型も発症部位も異なり,どのタイプに注意すべきとはいえない。除菌により,がんがslow growthになるという説もあるが,検診の間隔をどうするか議論する必要がある」との見解を示した。

Medical Tribune 2011年9月8日

畜産農家で育った人で血液がんリスクが上昇
 マッセイ大学(ニュージーランド)公衆衛生研究センターのAndrea't Mannetje博士らは,畜産農家で育った者では成人後の血液がんの発症リスクが増加する可能性があると発表した。

親が養鶏業従事者でリスク3倍

 これまでの研究で,農業の従事者で血液がんリスクが高いことが示唆されていた。その主因は殺虫薬への曝露や家畜との接触による感染症である可能性が示唆されていた。しかし,Mannetje博士らによると,このような研究の大半は成人を対象としており,幼少期の要因に関する情報はほとんどないという。

 同博士らは今回,ニュージーランドで35〜85歳で死亡した11万4,000例以上の死亡記録(1998〜2003年)を分析した。記録の82%(9万4,054例)から,生前従事していた職業と,父親または母親の職業に関する情報を抽出した。そのうち3,119例が血液がんによるもので,残り9万935例は他の死因であった。

 分析の結果,畜産農家で育った者では,それ以外の者に比べて白血病,多発性骨髄腫,非ホジキンリンパ腫などの血液がんリスクが高かった。このような関連は,親が養鶏業に従事していた場合,特に強かった。これに対して親が耕種農業に従事していた場合は血液がんリスクは約20%低かった。

 一方,成人後に自身が耕種農業に従事していた場合,血液がんリスクは約50%上昇していた。これに対し,成人後に畜産業に従事していた者では同リスクは20%低下していた。ただし,畜産業のうち肉牛飼育に従事していた者では同リスクは約3倍高かった。

 これらの結果は,影響を及ぼす可能性のある因子を考慮し,別のさまざまな死因と比較検討した後も変わらなかった。

 同博士らは「このような因果関係の存在に関してはさらなる研究が必要である」と慎重な姿勢を示した上で,「今回の研究から,小児期および成人後の農場での生活が,血液がん発症リスクに対してそれぞれ独立して影響している可能性が示唆された」と述べている。

Medical Tribune 2011年9月15日

メラノーマの診断精度が新画像技術で向上
 デューク大学(ノースカロライナ)化学科のThomas E. Matthews氏らは,メラノーマと良性の母斑を病理組織で識別できる画像診断技術を開発し、その有効性を発表した。同氏らは,今回の知見は不必要な皮膚がん検査を減らすのに役立つ可能性があると期待を寄せている。

メラニン色素の比率で鑑別

 皮膚の母斑,隆起,黒子などが悪性のがんかどうかを見極めるのは難しい。また皮膚がんの中で最も致死率の高いメラノーマの場合,病変の診断を誤ると深刻な結果を招きかねない。さらに,現在の診断技術では偽陽性になることもあり,結果として患者に精神的な苦痛はもとより,不必要な手術や生検を受けさせることになる。

 Matthews氏らは今回,ポンププローブ分光法を用いた新しい方法により,メラノーマで生じる皮膚色素の変化をとらえることに成功した。

 メラニン細胞は皮膚や毛髪の色素メラニンを産生する。メラノーマには,主にユーメラニンとフェオメラニンの2種類の色素が存在し,黒色や褐色のユーメラニンの方が多い。橙赤色のフェオメラニンはしみやそばかすの原因となる。

 今回の研究では,ポンププローブ分光法を用いて,皮膚病変におけるこれら2種類の色素の比率を求めた。この方法により皮膚細胞における色素沈着の変化をとらえることが可能になり,ヒト組織細胞の高解像度3次元画像の描出に成功した。

 得られた画像を分析した結果,良性の母斑と比べてメラノーマでは,ユーメラニンの量が多かった。同氏らは「顕微鏡による従来の皮膚組織検査に今回の診断法を併用することで,メラノーマ診断における偽陽性数を減らすことができた」と述べている。

Medical Tribune 2011年9月15日

米で肺がん減少着々,禁煙政策実る
CDC発表,喫煙率低下から5年後には成果
 米疾病対策センター(CDC)は9月16日発表の週刊疫学情報(MMWR)で,1999〜2008年の10年間の米国の肺がん新規罹患率が男性では全国的に低下,女性では2006年までは上昇していたものの,2006〜08年の3年間を見ると着実に低下していたことを明らかにした。罹患率低下の成果は,喫煙率低下の5年後には始まっていた。

州のたばこ政策が左右

 同リポートでは,6つの州とコロンビア自治区を除く各州の新規肺がん罹患率を分析。1999〜2008年に,男性では44州中35州で罹患率が減少。女性での低下は6州(カリフォルニア,フロリダ,ネバダ,オレゴン,テキサス,ワシントン)にとどまったが,2006〜08年を見ると全国的に低下していた。

 年齢調整後罹患率の相関分析によると,肺がんの減少は男女ともに喫煙率低下の5年後には始まっていたことが分かった。

 なお,男女ともに,肺がん罹患率が低い州は,喫煙率が低く,過去の喫煙者に占める禁煙者の割合も多い西部に集中。女性の肺がん罹患率と喫煙率が高い州の多くが南部の州だった。

 同レポートは,州のたばこ対策への投資が大きく,それが長期的であるほど,喫煙率の低下が大きく,たばこ関連疾患にかかる医療費が削減されていると指摘。高いたばこ価格,強力なメディアキャンペーン,完全無煙政策,禁煙治療へのアクセスの良さなどが成果を挙げているとしている。

Medical Tribune 2011年9月16日

幼少期のストレス
がん,慢性疾患,心疾患の発症リスクが上昇
 幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄)などを受け,強いストレスを経験すると,生涯にわたり精神疾患や心身症だけでなく,がん,慢性疾患,心疾患など身体的疾患も発症しやすくなることがこれまでの神経生物学的研究から示されている。

 その発生機序について,キンツィヒタール病院(ゲンゲンバッハ)心療内科のUlrich T. Egle教授は「幼少期にストレスを受けると,脳がうまく対処しきれないことが多く,ストレスホルモンの増加により脳が損傷された結果,さまざまな身体的障害が生じる」と第6回一般医学アップデートセミナーで説明した。

扁桃体の拡大に至る

 ヒトはストレスを受けると,視床下部からコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が放出される。CRHは脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の放出を促し,最終的に副腎皮質からコルチゾルとカテコールアミンの分泌が促進される。ストレスに対応できる十分な量のコルチゾルが分泌されると,その情報が脳へフィードバックされ,分泌は抑制される。

 しかし,ストレスがあまりにも大きいと,この負のフィードバック機能はうまく働かず,コルチゾルの分泌量が増え続ける。血中の濃度が一定以上になると,重要な脳領域に毒性が発現し,海馬と前頭前野の樹状突起の萎縮や扁桃体の拡大が起こる。

 Egle教授は「特に扁桃体では,この状態はボディービルディングのようなもの」と例えた。拡大した扁桃体は,交感神経をさらに活性化させ,これがさまざまな身体的障害を起こす原因となる。

 さらに,「特にストレス処理能力が未熟な幼少期にストレス要因が働くと,生物学的に悪影響を受け,生涯にわたり易罹患性が高まる」と説明。その中でも,咽頭がん,肺がん,慢性閉塞性肺疾患(COPD),リウマチ性関節炎,2型糖尿病,冠動脈性心疾患,脳卒中を発症しやすくなることが分かってきた。

 こうしたことから,同教授は「幼少期からストレス要因に持続的にさらされたり,ストレスが蓄積されたりすることのないよう,できる限り未然に防ぐ必要がある。また,二次的予防として社会的支援などを活用するのも一案だ」と述べた。

寿命が20年短縮

 複数の先行研究から,ドイツでは,一般医の診療所で治療を受けている患者のうち,30〜60%は精神疾患または心身症に罹患していることが分かっている。加えて,発症してから精神科や心療内科の治療を初めて受けるまでに平均7年が経過していることも示されており,実際の患者数はさらに多いことが見込まれる。

 またこれらの疾患は,欠勤理由としても2番目に多く,早期退職の理由としては最多である。中でもうつ病,心的外傷後ストレス障害,不安障害,身体表現性障害,違法薬物・アルコール乱用には,小児期のストレス経験が深く関与していることが証明されている。

 一方,米国では1万7,000人を対象に(1)身体的虐待(2)絶えず言葉で罵倒する,存在価値を否定するなどの心理的虐待(3)ネグレクトといった小児期のストレス要因に関する疫学調査が実施されている。この調査では,小児期のストレス要因の多くが,平均寿命を約20年短縮させることが示されている。

Medical Tribune 2011年9月29日

1日15分の運動が3年も寿命を延ばす
運動療法について台湾からの新たな知見
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟
研究の背景:現在は「少なくとも週に150分以上」が定着

 小生が研修医のころには,運動療法について「少なくとも30分以上持続させた有酸素運動がよい」と指導されたものだ。しかし,今では「有酸素運動でもレジスタンス運動でもよい。小刻みでもよいから運動を集積させ,少なくとも週に150分以上の運動をすべきである」という概念が定着している。

 今回さらに,この「少なくとも週に150分以上」という概念を覆し,1日15分あるいは週に90分の運動で寿命を延ばせることを示唆する研究が台湾から報告されたのでご紹介したい。

研究のポイント1:台湾の42万人の前向き研究

 今回の研究は,台湾の健診プログラムに参加した41万6,175人を対象とした前向き研究であり,全対象者はベースラインの時点で健康状態や生活習慣についてのアンケートに回答した。

 ベースラインでの身体活動量によって以下の5群が設定された。

(1)不活動群(1週間当たりの身体活動量が3.75エクササイズ※1未満)
(2)低活動群(同3.75〜7.5エクササイズ未満)
(3)中活動群(同7.5〜16.5エクササイズ未満)
(4)高活動群(同16.5〜25.5エクササイズ未満)
(5)超高活動群(同25.5エクササイズ以上)

 この5群の設定は米国の2008年版身体活動ガイドラインに準じたものである〔なお,米国では中活動以上(7.5エクササイズ/週以上)が身体活動として推奨されており,わが国の身体活動ガイドラインの推奨である23エクササイズ/週以上とは異なっている〕。

 観察期間は1996〜2008年の13年間であり,その間の全死亡,すべてのがんによる死亡,心血管疾患による死亡,糖尿病による死亡が台湾の国立死亡記録などによりチェックされた。

研究のポイント2:低活動群ですら不活動群より死亡率が低い

 ベースラインの時点で不活動群と判定された者が22万6,493人と全体の54%を占めており,低活動群9万663人,中活動群5万6,899人,高活動群2万1,730人,超高活動群2万390人と活動量が多くなるほど該当者は少なくなっていた。そして,観察期間中の死亡者は不活動群5,688人,低活動群1,877人,中活動群1,660人,高活動群742人,超高活動群813人であり,身体活動量に応じてすべての死亡リスクが減少することが明らかとなった。

 また,これらのデータを基に1日当たりの身体活動時間と死亡率の関係を検討すると,「運動は○○分以上しなければいけない」とか「運動は○○分未満では意味がない」というような閾値は存在しないことが明らかであった。

 なお,これらのデータを換言して「1日15分,あるいは週に90分の運動が全死亡あるいはすべてのがんによる死亡率を減少させ,個人の寿命を平均で3年延長させることになる」と論文の著者らは述べている。

私の考察:わずかな運動でもよいとするガイドラインの変更に大賛成

 本研究は観察研究であり,13項目の調整項目では調整しきれない交絡因子によって影響を受けている可能性は否定できない。しかし,小生には未調整のもので今回の結果を合理的に説明しうるような因子が思い当たらない。また,ベースラインでの身体活動量のアンケートの信ぴょう性に疑問を持たれる先生もおられると思うが,論文の著者らは2回反復して同じアンケートを取り,信頼性を確認しているという。よって,1日15分あるいは週90分の運動で3年寿命が延びる(これは禁煙プログラムに匹敵する効果だと論文の著者らは指摘している)という今回の結果は,そのまま受容してもよいように思う。

 論文の著者らは,さらに週150分未満の運動でも健康に利益になることを示した12件の研究もappendixに取り上げ,ガイドラインの変更を提唱している。このわずかな運動でもよいとするガイドラインの変更には,小生も大賛成である。

 小生の経験では,糖尿病などの生活習慣病の患者さんに食事に加え運動処方をしようとすると,「何をやればいいですか?」「いつやればいいですか?」「どれくらいやればいいですか?」と聞かれることが多い。これに対して,小生は「何をやってもよい」「いつやってもよい」「やればやるほどよい」と述べてきた。しかし,やればやるほどよいという言い方は莫大な身体活動量を期待しているようにも聞こえる表現であり,患者のやる気を削いでいた可能性がある。1日わずか15分の身体活動が3年も寿命を延長させることを考えると,「いつ,何を,どれくらい」という質問に対する答えは,「さあ今から,何でもいいから,15分でいいから」にするべきなのであろう。

※1 身体活動の強度を安静時の何倍酸素を消費するのかで示した数値がMETs(メッツ)であり,1METsが安静坐位での酸素消費量。普通の歩行で3METsに相当する。その運動強度(METs)に時間(hour)を乗じて身体活動量を示した数値がexercise(エクササイズ)。通常,体重50kgの人が1エクササイズの運動を行うと約50kcal(53kcal)消費するので,体重を利用して消費エネルギーも換算しやすいという利点がある。厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」では1週間当たり23エクササイズの身体活動が推奨されている

Medical Tribune 2011年9月29日