破産法 平成10年度第1問

        問  題

 条件付破産債権を有する者の破産手続における地位について説明せよ。
 

        答  案

一1 条件付破産債権を有する者に
  ついては、その有する債権の成否が将来の
  不確定な事実の到来にかかっているという点で
  条件の付いていない破産債権を有する者とは
  異なっている。
   しかし破産法は、条件付破産債権について
  その成就する蓋然性を問わず、その
  額面額の全額を破産債権の額として
  認めている(現在化、二三条一項)。
   これは、条件成就の蓋然性について判断する
  手間を省き、破産手続による公平平等な
  金銭の分配を迅速に進めようとしたものである。
   したがって、条件付破産債権を有する者も
  その他の破産債権者同様、破産手続において
  比例的平等的取扱いを受けることになる。
 2 しかし条件付破産債権については、停止条件の
  場合には条件が成就するまでは債権が存在
  しないものであり、また、解除条件付破産債権に
  ついては条件成就により権利が消滅するもので
  ある。このように成否が不確定な債権を有する
  者を他の成否が確定した債権を有する者と
  同様に扱うのは公平を失する。そこで、
  条件付破産債権を有する者については、破産
  手続の中において他の破産債権者との間に別異な
  取扱いが以下のように定められている。
  概説すると、停止条件付破産債権者については
  条件成就までは権利を有しない者であるから
  その間は権利行使することができず、ただ、
  条件が成就したときに備え破産管財人が一定の
  措置をとることが要求される。
   これに対し解除条件付破産債権者については
  権利行使は認められるが、条件が成就した
  場合に破産財団が損害を被らないように
  するため、右債権者は一定の措置を採るべき
  ことが要求されている。
二1 配当について
  (一) まず、中間配当については、停止条件付破産
    債権者は条件未成就のうちは配当を受けることが
    できない(二七一条四号)。配当されるべき額は
    寄託され(二七一条四号)、右債権者は条件成就を
    待って寄託額の分配を受けることになる。
     これに対し解除条件付破産債権者は
    条件未成就の間は配当を受けることができる。ただ
    そのためには、条件成就に備えて相当の担保を
    供さなければならない(二六六条)。
  (二) 最後の配当については、停止条件付
    破産債権者は、最後の配当の除斥期間内に
    条件が成就しないと、配当から完全に除斥される
    ことになる(二七五条)。
     これに対し解除条件付破産債権者については、
    最後の配当の除斥期間までに条件が成就しない
    場合には、提供されていた担保が効力を失い、
    寄託されていた配当額について受け取ることができる
    こととなる(二七六条)。
 2 相殺権について
   破産手続内で破産管財人から債務の履行を
  求められた場合、停止条件付破産債権を有する者は
  相殺により自己の債務の履行を免れることはできない
  (一〇〇条)。ただし後日の相殺に備え弁済額の
  寄託を請求できる。
   これに対し解除条件付破産債権を有する者は
  相殺権の行使により弁済を拒絶できる。ただし、相殺額に
  つき担保の提供又は寄託を要する。
 3 債権者集会での議決権
   停止条件付破産債権者については、場合に
  よっては議決権が否定又は額面より
  制限されるという状況に置かれることになる
  (一八二条二項)。
   これに対し解除条件付破産債権を有する者は
  額面どおりの議決権をみとめられる。
三 このように条件付破産債権者は一般の債権者と
 異なる取扱いを受けている。しかし、条件付破産
 債権者も破産手続内で権利行使する者である
 から、破産手続の進行に利害関心を有する。
  そこで、条件付破産債権者は債権調査期日の
 公告についての通知を受けるし(一四三条二項、二三七条)、
 調査期日において意見を述べることができる(二三二条)。

                           以 上


所  感

 昭和46年度第1問のヤキ直しという感じの問題です。
 ただ、今回は(1)「破産債権」ではなく「破産債権を有する者」について聞かれていること、(2)停止条件付のみでなく解除条件付の場合も含まれること、(3)破産手続における地位に限定して聞かれていることが重要な違いだな、と思いました。
 まず、(1)の点については、文の主語を「債権」ではなく「債権者」又は「債権を有する者」として、問題に答える姿勢を示しました。
 次に、(3)の点については、破産手続内のことについて聞かれているのだから破産申立ての場面は除こうと考えました。また、相殺権の行使もそれ自体は破産手続外で行使されるものですから、破産手続と絡めて相殺権が行使される場面を想定して書きました(破産手続において破産管財人が債権の履行を請求してきた場合、それに対抗する形で相殺権が行使されるという場面)。
 (2)の点については、停止条件付の場合と解除条件付の場合両方に触れることを忘れないようにするぐらいですか・・。
 また、個々の項目についていちいち制度趣旨を加えるよりも、総論を設けて概説した方がきれいにまとまると思ったので、多少長めの総論を設けました。「概説すると・・」なんてずいぶんやぼったい表現ですが、加えたことで全体を貫く視点が出せたと思っています。
 でも、「概説すると〜」の部分、きちんと段落分けしなかった(改行はしたが、一文字下げしなかった。)ので、書いていた時は「しまった!」と思いました(一文字下げの記号をつけようかとも思いましたが、特定答案になってしまうと思い、やめました。)。

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