問題4-1-3 解説

以下, \(\log_{10}\) と \(\log_e\) はそれぞれ \(\log\) と \(\ln\) と表記し, \(N(M)\) は \(N\) などと略記します.

(1) \(E\) の式, \(\log E = 4.8 + 1.5M\) と \(N\) の式, \(\log N = 9.0 - 1.0M\) を指数表示します. \begin{eqnarray*} E & = & 10^{4.8+1.5M} = e^{\ln10(4.8+1.5M)} = e^{4.8\ln10}\times e^{(1.5\ln10)M}, \\ N & = & 10^{9.0-1.0M} = e^{\ln 10(9.0-1.0M)} = e^{9.0\ln10}\times e^{(-1.0\ln10)M}. \end{eqnarray*} \(N\) を \(M\) で微分して絶対値を取ると, \[ \left|\frac{dN}{dM}\right| = 1.0\ln10\,e^{9.0\ln10}\times e^{(-1.0\ln10)M}. \] これに \(E\) を掛けて \(M_1\) から \(M_2\) まで積分すると, \begin{eqnarray*} E_T & = & \int_{M_1}^{M_2}E\left|\frac{dN}{dM}\right|dM, \\ & = & 1.0\ln10\,e^{13.8\ln10}\int_{M_1}^{M_2}e^{(0.5\ln10)M}, \\ & = & \frac{1.0\ln10}{0.5\ln10}e^{13.8\ln10}\left[e^{(0.5\ln10)M}\right]_{M_1}^{M_2}, \\ & = & 2\,e^{13.8\ln10}\left(e^{(0.5\ln10)M_2}-e^{(0.5\ln10)M_1}\right). \end{eqnarray*} \(M_1\) = 5, \(M_2\) = 8.5 とおいて, \[ E_T \approx 2.2\times10^{18}\ \mathrm{J}. \] これを 50 年で割って,地震のエネルギーの年平均値は, \[ 4.4\times10^{16}\ \mathrm{J/yr}, \] となります.地球全体での地震のエネルギーの年平均は水谷・渡部(1978)によると, 1920〜1976 年で 4.5\(\times\)1017 J/yr です.よって,上の計算結果は日本付近の地震のエネルギーが地球全体の約 10% を占めることを示します.

(2) 期間中最大の地震と東北地方太平洋沖地震の1回のエネルギーは次の通りです. \begin{eqnarray*} M_W=8.5:\ & & 10^{4.8+1.5\times 8.5} = 10^{17.55} \approx 3.5\times 10^{17}\ \mathrm{J}, \\ M_W=9.1:\ & & 10^{4.8+1.5\times 9.1} = 10^{18.45} \approx 2.8\times 10^{18}\ \mathrm{J}. \end{eqnarray*} これより \(M_W\) = 8.5 の地震の放出したエネルギーは日本付近の 50 年間の地震のエネルギーの約 16% を占めていることが分かります.そして \(M_W\) = 9.1 の東北地方太平洋沖地震については, 50 年分の地震のエネルギーのおよそ 1.3 倍ものエネルギーを放出したことになります.

(1) の別解

\(n\) と \(E\) の式から計算します.問題4-1-2(2)で導いた \(A\), \(a\), \(b\) の関係, \[ A = a - \log_{10}(b\ln 10), \] より \(a\) を求めると次の \(n\) の式を得ます. \[ \log n = 9.36 - 1.0M. \] よって, \(n\) と \(E\) の指数表示は次の通りです. \begin{eqnarray*} n & = & e^{\ln10(9.36-1.0M)} = e^{9.36\ln10}\times e^{(-1.0\ln10)M}, \\ E & = & e^{\ln10(4.8+1.5M)} = e^{4.8\ln10}\times e^{(1.5\ln10)M}. \end{eqnarray*} 地震のエネルギーの総量 \(E_T\) は \(EndM\) を \(M_1\) から \(M_2\) まで積分して, \begin{eqnarray*} E_T & = & \int_{M_1}^{M_2}E\,n\,dM, \\ & = & e^{14.16\ln10}\int_{M_1}^{M_2}e^{(0.5\ln10)M}dM, \\ & = & \frac{e^{14.16\ln10}}{0.5\ln10}\left(e^{(0.5\ln10)M_2}-e^{(0.5\ln10)M_1}\right). \end{eqnarray*} \(M_1\) = 5, \(M_2\) = 8.5 とおいて, \[ E_T \approx 2.2\times10^{18}\ \mathrm{J}. \]

補足:

この演習問題の計算過程から分かるように,地震の積算エネルギー \(E_T\) の見積もりは積分範囲の \(M_2\) = 8.5 で決まり, \(M_1\) = 5 の寄与はほとんどありません.そのため,問題では \(\log N\) を1本の直線で近似しましたが, \(M\) ≥ 7 の近似が正確ではないために,見積もった \(E_T\) はかなり大きな値となりました.下図のように \(\log N\) を2本の直線で近似すると正確さは多少向上すると思われます.この場合, \(E_T\) は約 1.6\(\times\)1018 J とかなり小さい値になります.

2本の直線で近似したグーテンベルグ-リヒター則のグラフ(日本付近, M≥5, 1961-2010年の50年間)

どちらにしろ,地震のエネルギーと発生頻度の式は経験式ですので,あまり詳細な議論は必要ないと思われます.それよりも,より正確な地震のエネルギーを見積もるためには,地震を種類に分けて(プレート間かプレート内か,浅発地震か深発地震か,など)解析することが考えられます.また,個々の地震の断層モデルから地震モーメントを求めエネルギーに換算するなどの高度な作業も必要と思われます.

参考文献: