やい、聖司君、キミはタテマエとホンネの差が大きすぎるぞ。大体、はじめからそうだった。偶然を装ったって、キミの思惑が渦巻いていたことはミエミエだ。本当に考えていたことを正直に吐きたまえ。
状 態
聖司のホンネ(推定)
実際の行動
最初の遭遇。
聖司、図書館で雫に気付く。
かわいい娘やなー。
むっちゃオレの好みじゃん。
名前、知りてーな。
彼女の名前を探るべく、図書カードをまさぐった。
図書カードの記録から、彼女の名前が月島雫というのもわかる。
雫ちゃんゆうんか。ええ名前やないけ。ますます気に入ってもうたわ。
雫ちゃん、彼氏おるんかな。いやいや、中学生にもなってメルヘン童話読むく らいやから、ぜってぇ彼氏なんかいねーだろうな。
よっしゃ、この娘、オレがモノにしちゃろう。
彼女が読みそうな物語の本を片っ端から借りて、図書カードに自分の名前を書 きまくった。
(既に雫が読んでしまった本は、もはや借りる意味がないんだろうな。キミに とっては。)
○月×日、晴れ。今日も図書館で雫ちゃんと出会う。
雫ちゃーん、オレに気付いてくれよー。
気付いてくれんか。…まぁ、最初はこんなもんだな。ちょっと時間がかかるか も知れんが、それだけオトしがいがあるってもんだぜ。待ってろよ、雫ちゃん。
図書館で何度もすれ違ってみたり、隣の席に座ってみたりした。
(だが、気付かれなかった。)
聖司よ、キミなりに懸命の努力だったんだろうが、ご苦労なこった。まぁ、結 果的にゃ図書カード作戦は効いとったみたいやけど。
それにしても、おんどれ、借りた本ほんまに読んどったんか? カードに名前 書いただけとちゃうんか?
状 態
聖司のホンネ(推定)
実際の行動
夏休みの学校。
聖司、校庭のベンチに座った雫を見かける。
あ、雫ちゃんだ。やっぱり、うちの学校やったんか。私服姿もかわいいな。
赤毛のアンみたいな女もおるぞ。確か、あの女は絹ちゃんの友達やったな。じ ゃあ、雫ちゃんも同じ学年か。ラッキー。声かけちゃろうかなといいつつ接近。
おっ、何かカントリーロードの替え歌を歌っとるぞ。
しかし、声はかけられなかった。
雫、夕子と去る。
あーあ、行っちゃった。声かけたかったのに。
せめて、雫ちゃんが座っていたベンチの感触でも楽しむとするか。
聖司、いそいそとベンチに座る。
聖司、落ちていた本を見つける。
おおーっ、本忘れてんじゃん。
何だこりゃ、このコンクリートロードの歌詞は。すっげー皮肉じゃん。社会派 じゃん。ただの物語大好き少女じゃねえな。ますます気に入ったぜ。
まてよ。もうすぐ雫ちゃんはこの本を探しに戻って来るに違いない。どういう 作戦でオレの印象を植え付けてくれようか。そうだ、偶然を装うことにしよう。 つれなく振る舞っちゃろうか。でも、それで嫌われたらいやだな。
いやいや、あの娘には、「つれない作戦」が一番だろう。よし、この作戦に決 めた。
本を読んでいるフリをして雫を待っていた。
雫
「…その本…。」
やっと戻ってきたか。どこほっつき歩いとってん。
それにしても、雫ちゃん、かわいいな。ミニのワンピース…ううっ、好みだぜ 。
(聖司は、ワンピースの意味が分かっていない。)
あーそうそう、「つれない作戦」で気をひかねば。
聖司
「あーこれあんたのか。ほらよ、月島雫。」
雫
「名前、どうして…。」
しまった、名前を言ってしまった。どうしよう。オレが前から図書館で雫をつ け回していたことがバレてしまう。
いやいや、落ち着け。その本に図書カードがあったではないか。それを見たこ とにするんだ。
聖司
「さて、どうしてでしょう。」
雫
「図書カード…。」
よっしゃあ、よくぞ言った。これで、オレはついさっきお前の名前を知ったこ とになったぞ。
それっ、オレの「つれない作戦第2弾」をくらえっ。
聖司
「おまえさぁ、コンクリートロードはやめた方がいいと思うよ。」
雫
「読んだなー!!」
ふっふっふっ、決まったぜ。
聖司、さりげなく去る。
キミの作戦は、まんまと成功したようだ。おめでとう。
雫ちゃんが偶然地球屋にたどり着き、お昼になったあたりから。
状 態
聖司のホンネ(推定)
実際の行動
雫
「おじいさん、また来ていいですかー。」
じいさん
「図書館は、左に行った方がいいよー。」
あーいい天気だぜ。こういう日は、雫ちゃんとデートしてえな。
しかし、ここんところ雫ちゃんのことばかり考えとるな。それで頭がいっぱい になって、昨夜は眠れんかった位やし。俺としたことが。やっぱ俺も健康的な男 の子かな、なんちって。
さあ、今日もバイオリンの練習に励まねば。いつか雫ちゃんに聴かせてやるの だ。
聖司、自転車に乗って地球屋へ向かっていた。
雫
「きゃー!!」
(聖司の自転車と接触しそうになって驚く。)
うわーっ、雫ちゃんだ!! 何でこんな所におんねん。何ちゅう偶然や。びっく り仰天した〜。
しかし、俺に気付きもせんと行っちゃったよ。あんなに急いで、どこへ行くん かいな。
聖司
「おじいさん、今の娘…。」
じいさん
「おお聖司、いい所に来た。
これを今出ていった女の子に届けておくれ。
図書館へ行くと行っていたから。」
でっけー弁当だなこりゃ。さしずめ、雫の親父さんへの届けもんだろう。ちゅ ーことは、俺のお義父さんは図書館勤めになるってか。それもまたええやないの 。おっと、こうしている場合やない。図書館へ急がんと。
げっ、ムーンめ、荷台に乗っていやがる。急ぐときに限って邪魔するとは、何 ちゅうえげつない猫や。今度しばいちゃる。
いやまてよ、雫ちゃんの目を引く小道具にはいいかもしれん。よっしゃムーン 、そのまま乗っとれ。
聖司、自転車の荷台に猫を乗せて図書館へ急いだ。
聖司、図書館前で雫を発見。
お、いたいた。車にも気付かんと跳ね回って危ねえな。何かいいことあったん かいな。それにしても、昨日の学校といい、今日といい、たて続けに雫ちゃんに 会えるとはツイてるぜ。このチャンスを生かさずにおこうものか。
聖司
「月島〜。月島雫!これお前のだろ。」
雫
「あーっ!」
雫ちゃん、今日は一段とかわいいな。水平にかぶった麦わら帽子がサイコー。 夢に出てきそうだぜ。
しかし、本を忘れ、また弁当を忘れるとは、本当に忘れっぽい娘だな。俺をち ゃんと覚えていてくれとるかな。
聖司
「忘れっぽいんだな。」
雫
「ありがとう。でも、どうして…。」
忘れんように、今日は一段とどぎつい「つれない作戦」を見舞って強烈に印象 づけちゃらんとな。荷台には猫も乗っとるし、はよ気付きなはれ。
聖司
「さて、どうしてでしょう。」
雫
「その猫、きみの?」
予定通り小道具に乗ってきたぞ。やっぱムーンを連れてきて良かったぜ。でも 、ここはわざと話題をずらすのがコツさ。
うりうり、「つれない作戦バージョン2」をくらえっ。
聖司
「お前の弁当、ずいぶんでかいいのな。」
雫
「違うっ!!」
よしよし、熱くなってきたぞ。
ムキになった雫ちゃんもまたかわいー。
ほれ、とどめの一発をかましちゃろう。
聖司
「♪コンクリートロード、どこまでも〜」
雫
「違うのっ、こらーっ!!」
ふっふっふっ、決まったぜ。
聖司、意気揚々と去る。
その後、地球屋で。
じいさん
「聖司、ありがとよ。
ところで、カントリーロードなんて懐かしい曲を練習しているね。」
そろそろ次の作戦を考えているんだよじいさん。「つれない作戦」もこの辺で 潮時やさかい。
雫ちゃんは、地球屋に出入りしてるみたいやし、そのうちまた来るに違いない 。今度雫ちゃんが地球屋に来たら、中に連れ込んでバイオリンを聴かせてやるの だ。俺の華麗な弦さばきで、雫ちゃんをメロメロにしてくれるのだ。
あとは…。うひょひょ。\(^o^)/
聖司
「いや、ちょっと弾きたくなっただけさ。変な思惑なんかないってば。」
ムーンは雫ちゃんを地球屋に誘導したありがたい猫なのダ。感謝しときたまえ 。
しかし、キミの作戦、ちょっと効きすぎやったぞ。おかげで雫ちゃん、図書館 で大声張り上げて恥かいてしまったんじゃけん、罪な男やわ、ほんま。
状 態
聖司のホンネ(推定)
実際の行動
学校の昼休み。
聖司、渡り廊下で雫を発見。
あっ、雫ちゃんだ。
制服姿もかわいいな。
やっぱ、雫ちゃんはセーラー服だよな。
雫ちゃんに気付かないふりをした。
雫、ヤなやつ(聖司)に気付く。
突然、聖司の方に向かって歩き出す。
おっ、雫ちゃん、俺を意識しちょる、意識しちょる。俺の「つれない作戦」は ばっちりと効いとったわけやな。
きりりと表情を引き締めちゃったりして、雫ちゃんも意外と気が強いな。
でも、悪いが雫ちゃん、今日は勘弁や。何せ、俺がイタリア留学を言い出して から、家族ともめてもめて。ちょっと疲れ気味なんよ。
せめて、キミの姿は目に焼き付けておくからさ。
聖司、無関心を装って、そのまま進んだ。
雫、聖司の後ろを歩く紳士に一礼をしてすれ違う。
雫
「何よ、カンペキに無視してくれちゃって。」
雫ちゃんも、俺のことが気になっているようやな。こりゃ脈ありかも。
ああ、イタリア行きと雫ちゃん、両方を同時にゲット出来たらなあ。二つの目 標を同時に手に入れるのは、やはり難しそうやし。
いやいや、確か「二兎を追わずんば二兎を得ず」っちゅうことわざがあったや ないか。よっしゃ、俺は絶対両方とも手に入れて見せるぜ。待ってろよ、雫ちゃ ん。
それにしても、雫ちゃんのセーラー服姿、かわいかったな。
今夜は、眠るのがもったいない夜になりそうだぜ。
聖司、校舎内に消える。
聖司君、惚れた女の前でここまでつれなく出来るとは、ホント、いい根性して るよ。
(注:文中に出てきたことわざは、全くの出鱈目です。気になる方は、ことわ ざ辞典などで確認のほどを。)