「千尋」DVDの発色問題について、管理人の見解
要旨
多くの人が「赤い」と感じているように、私も個人的に「赤い」と思います。
「赤い」とは思いますが、返品・交換を要求するほどの不満は感じません。
私に抗議運動の先頭に立って欲しいという要望も届いていますが、その意志はありません。
私が"ジブリ信者"だから抗議しないのだろうという中傷メールも来ましたが、
"信者"だからジブリに盲従しているのではなく、そもそもDVDに執着心がないだけです。
色合いに不満がある人は返品すれば良いと思います。
ジブリの対応に失望してファンをやめるのも、一つの選択肢でしょう。
ファンのあり方とは何かを問い直すのに良い機会ではないかとも受け止めています。
★2002/7/30最終の追記あり
|
|
2002年7月19日より「千と千尋の神隠し」のビデオおよびDVDが発売されています。しかし、その再生画像が劇場公開時と比べて赤っぽいと感じる人が多く、スタジオジブリや発売元のブエナビスタに多数の問い合わせや苦情が殺到しているそうです。この問題はかなり大きく広がっているようで、なぜか私あてにも「この問題についてどう思うか教えて欲しい」「管理人としての見解を示して欲しい」という要望メールが届いています。私は別に関係者ではありませんし、特に見解を示す立場にもありませんが、この問題が新聞記事にも報じられて大きく波紋が広がっていることもあり、純粋に個人的に感じたことと断った上で、以下に見解を述べさせていただきます。
結論から書きますと、既に購入した人で画質に満足出来なければ返品すれば良いと思います。個別にスタジオジブリやブエナビスタに問い合わせても構わないでしょうが、発売元のブエナビスタホームページで既に「不良ではない」という公式見解が出されています。いかに「不良品」のように思えても、発売元が「不良ではない」と宣言しているなら、それは「不良品」でないということになります。発売元が良品であると言い切るのならば、それは良品なのです。ただし、個人的に不良品だと思うのは自由ですから、商品の画質に満足できないのであれば返品すれば良いと思います。返品は受け付けてくれるようですので、何とか大丈夫でしょう。
次に、ブエナビスタに求められる企業姿勢についてですが、既に出されている公式見解のように、本当に今回のDVDの発色が意図されたものであって、なおかつ普通の消費者が所有する平均的な再生装置で再現される発色も当初の意図通りであるならば、どんなに抗議の声が高まろうとも耳を貸す必要はないでしょう。自らが最善と信じるものを売るのは全く正当なことだからです。反対に、どのような経緯があるにせよ、一般的な環境での色再現性に当初の意図とは異なる問題があると判断するのであれば、既に出された公式見解にとらわれることなく、潔く「不良」と認めて回収・再プレス・交換等の措置を行うべきであると考えます。最も避けなければならないのは、本音では問題点があると認めておきながら、経費がかかる等の理由によって「不良ではない」と言い通すことです。この辺の内部事情についてあれこれ詮索しても仕方ありませんが、現実的には現在出ている公式見解が最終回答になるものと思われます。
さて。
ここからは企業倫理や消費者の立場とは別次元の、極めて個人的な感想になります。
私は、映画は劇場で見てこそ意味があると思っています。手元に映画DVDという「モノ」を所有することよりも、その当時に劇場で見たという記憶、すなわち「思い出」の方を大切にしたいと思っています。DVDは、せいぜい当時の「思い出」を呼び起こすきっかけになればそれで充分だとも考えてます。ですから、私はDVDで(劇場と同じ)画質・音質を追求しようとは思っていませんし、「千尋」DVDは確かに赤いとは思いますが、返品や交換を要求するほどの不満は感じていません。なぜなら、どんなに完璧なDVDに最高級なホームシアターをあつらえても、劇場と同じ環境を再現させることは出来ないですし、私にとってはいま目の前で再現される小さな画面よりも、劇場で上映された大きな画面そして当時の雰囲気を思い出す方が味わい深いと考えているからです。その観点でいえば、DVDよりも当時のチケットの半券の方が、私にとっては大切だったりします。(劇場で見損なった作品はDVDで見るほかありませんが、この場合は劇場とDVDを比較できないので問題にはならないでしょう。)
もちろん、これは私の個人的な考えに過ぎません。他に色々な考え方があっていいと思います。単に、私はこのように考えているということで理解いただければ幸いです。「千尋」DVDの発色問題は、ことさらヒステリックに問題を大きくするまでもないのではないか、というのが私の個人的な感想であります。(2002/7/23
Y.Mohri)
★追記1(2002/7/24)
毎日新聞に続きの記事が載っています。ブエナビスタは「(赤く見えるのは)消費者が持っている機械の個体差によるもの」という認識を示し、「DVDの色調そのものはスタジオジブリ公認で、原盤に忠実」であるとしています。要するに、ブエナビスタには責任はないということが言いたいようです。
記事によると、「千尋」はフルデジタルで制作された作品なので、DVDへの変換過程での色調の調整が難しかったということが原因の一つではないかと分析しています。つまり、セル画がないために色の規範とするべきお手本がなく、それゆえ業務用のモニターの発色を規範に色彩決定を行わざるを得なかったことが、問題発生の遠因になっているというのです。実際に、ブエナビスタはDVDへの変換にあたって業務用モニターの色を規範にしたと認めています。
ただ、業務用モニターは原信号を忠実に再現するための機器であり、見た目が鮮やかになるように強調が加えられる家庭用のテレビとは見え方が異なります。業務用モニターで「劇場公開時に一番近い色」に調整し、スタジオジブリの公認が得られたとしても、一般的な家庭用テレビで同様の色合いが再現されるとは限りません。モニターは文字通りモニターなのですから、これを規範に一般的な家庭用のテレビできれいに見えるよう再調整して出荷するのがメーカーとしての仕事であるように思います。なぜなら、DVDは家庭での視聴を前提に販売されるものなのですから、家庭用テレビで「劇場公開時に一番近い色」が再現されるように努めるのが筋であると考えられるからです。業務用モニターでだけ「劇場公開時に一番近い色」が見えても仕方がないのです。つまるところ、「原盤に忠実」であるとするブエナビスタの主張は、逆に一般家庭で使われている平均的な視聴環境を考慮せず発売してしまったということを自ら暴露してしまったという印象さえ免れません。
もちろん、消費者の視聴環境には幅があることは事実であり、再生環境によって色合いに差異が生じることも確かではあります。この辺の調整が難しいところであり、毎日新聞が指摘するようにフルデジタル時代特有の現象なのかもしれませんが、少なくとも多数の視聴者に違和感を感じさせてしまうならば再検討の余地があるかもしれません。それでも「問題はない」とするのか、一定の問題点を認めて再プレス・再発売に踏み切るかは、企業としての判断どころであると言えるでしょう。
★追記2(2002/7/25)
私は、「千尋」DVD問題についての個人的見解として「ヒステリックに問題を大きくするまでもないのではないか」と書きましたが、その内容に不満を抱いた人からのものと思われるメール爆弾が届いています。「ジブリ信者はジブリが正しいと言えば正しいと思うんか、ジブリが赤い色で正しいと言えば信じるんか、パヤオが氏ねと言ったら氏ぬのか、ゴルア!」といった感じです。別にジブリの"信者"だから赤いDVDが正しいDVDと思っているつもりはありませんし、ジブリの言うことが全て正しいと信じているつもりもありません。私にとって「千尋」のDVDはそれほど重要なものではありませんから、多少赤くても別に構わないと思っているに過ぎません。
オーケストラはホールでの生演奏を聴くのが一番良いように、映画は映画館で見るのが一番だと私は思っています。最高の条件で録音されたCDを最高のオーディオ機器で再生しても生演奏には及ばないように、最高の条件で録画されたDVDを最高のホームシアターで見たところで映画館には及びません。もちろん、オーディオに凝ったり、ホームシアターに凝ったりする楽しみ方があってもいいと思いますが、私は生演奏を聴く方が好きであり映画館で見る方が好きなだけです。
「千尋」DVDは私も赤いと思います。新聞記事によるとDVDの色合いは映画館での色に近づけたものだそうですが、私の環境では映画館で見た色よりもずっと赤いです。確かに赤いのですが、私の性格としてはDVDの画質をチューンすることよりも映画館で見ることの方を好みます。いつも何度でも見られるDVDよりも、いつ上映されるか分からないけれども映画館で見ることの方を好みます。ですから、DVDの発色を映画館での色に近づけようとするこだわりは持っていません。個人的見解として、私はこのように考えています。ご理解いただきたいと思います。
毎日新聞の続報記事
いろいろな情報が錯綜して真相が分かりにくくなっていますが、多くの苦情や問い合わせが殺到していることだけは事実なようです。この問題を報じるメディアも増え、この苦情や問い合わせの処理いかんでブエナビスタあるいはスタジオジブリのイメージが左右されかねないほどの様相を呈し始めています。まさに企業としての危機管理体制が問われており、今後の進展が大いに注目されるところです。(なお、DVDが気に入らない場合の返品についてですが、ブエナビスタが直接返品を受け付けたという情報もありますので、販売店で返品が受け付けてもらえない場合は、直接ブエナビスタに問い合わせて確認するようにして下さい。)
★追記3(2002/7/26)
このたびの「千尋」DVDの件につきまして、いろいろな方からいろいろなメールをいただいています。訳の分からないメールは憂鬱にさせられますが、丁寧に書いて下さる方の方が多いので有り難く思います。ただ、時間的な制約から個別に返信を申し上げることは難しいかもしれません。予めご了承下さいますようお願い申し上げます。
総合しますと、やはり「赤くて見にくい」という方が多いですが、「自分のところでは正常に見えるようだ」という方もいらっしゃいます。DVD自体は同じもののはずですから、再生するプレーヤーの違い、表示するテレビモニターの違い、色合い補正機能の有無、さらには部屋での光加減の違い等による視聴環境の違いで見え方が異なることは確かなようです。これについては、毎日新聞の続報においても触れられています。さらに、それぞれの色彩に関する好みの違い、劇場で見た印象との違いに対する許容度の個人差なども絡み合って、それこそ見た人の数だけ印象が異なるということを実感させられました。
つまるところ、やはり赤いと感じている人が多いことは確かではありますが、自分が赤いと感じたとしても全ての人も同様に赤いと感じているとは限らないということは認識しておかねばなりません。誰もが一致して思えるのは、本編と予告編の色合いが異なるということ位しかなく、本編の方をどのくらい赤く感じるかは条件次第ということになります。
さて、新聞報道によると、その「千尋」DVDの色合いはスタジオジブリの公認であり、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーも自信を持って送り出したものであるということになっています。ただ、問題なのは、ジブリがOKを出した色合いというものを消費者が客観的に確認する手段がないということです。いかにブエナビスタが公式見解として「このDVDは不良ではありません。ジブリ公認の色です」と説明したところで、自宅のテレビで赤く見えている色が本当にジブリ公認の色なのかどうか確認することが出来ないのです。ここに、解くことの出来ない疑問が生まれ、人によっては不信感さえ抱いてしまい、不満をくすぶらせるようになっています。このような状況は、スタジオジブリにとっても、ブエナビスタにとっても、そして消費者にとっても好ましいことではありません。
このまま不満がくすぶり続ける場合、消費者が客観的に確認できる方法として、スタジオジブリがOKを出したという色を公表するという落としどころが検討されても良いかもしれません。具体的には、どこかのショールームに確認作業で使った機材を搬入し、「この色がスタジオジブリが自信を持って送り出した色です」という基準色を公表するのです。基準色さえ明らかになれば、「自分のテレビで赤く見えている色は、本当にジブリ公認の色なのか?」という疑問に応えることが出来ますし、たいていの人はそれで納得するでしょう。もっとも、その場合でも、実際にショールームに足を運んで肉眼で確認しないことには意味がなく、ブエナビスタまたはスタジオジブリにそこまでの説明義務があるかどうかといえば議論の余地も残ります。必要だと判断すればそれなりの動きがあるでしょうし、必要ないと判断すれば特に動きはないでしょう。
ともあれ、DVDの色合いは不良ではないことで確定なのですから、消費者としてはこれを受け入れるか、少しでも好みの画質で見られるように環境をチューンアップするか、あるいは返品するかの選択肢しかありません。よほど多数の返品でも殺到すれば、別の色合いで再プレスされて交換出来るという選択肢が生まれるかもしれませんが、現時点での可能性はないでしょう。
いずれにしても、今回の顛末は、「自分にとってジブリ作品とは何なのか?」を改めて問い直してみる良い機会になると思います。それでも納得できないかもしれませんが、「なぜ自分はそこまでして千尋DVDにこだわるのか」を冷静に考え直してみれば、これまで見えてこなかった別の何かが見えてくるかもしれません。この一件で目が覚めて、ジブリの世界を卒業していくのも一つの見識でしょう。いったんジブリの世界を卒業すれば、また別の観点からのジブリファンになれるかもしれません。ジブリファンのあり方として、私はこのように考えていますので、興味を持たれました方は目を通していただけると幸いです。
★最終の追記(20020/7/30 31日に少し修正)★
いまもメールをいただきます。
「映画館で見られなかった人はDVDの(映画館とは)違う色しか見られないが、それを何とも思わないのか?」
「(千尋という名作を)正しい色で後世に伝えたいとは思わないのか?」という質問もいただいています。
個人的な見解は既に述べていますし、ファンを代表してそのような質問に答えるべき立場にもありません。しかし、あえて述べるならば「(正しい色で伝えることは)それこそジブリの人達が一番強く願っていることではないだろか」と答えるでしょう。
ジブリは必ずしもビデオの商売に熱心ではないように思います。
宮崎駿監督は子供に何度もビデオを見せるのを嫌っているそうですし、鈴木敏夫プロデューサーもDVDは10年封印して欲しいと言っているようですから。しかし、それでも、ひとたび出すと決めたのなら最高のクオリティのものを追求するはずです。「正しい」色合いで見て欲しいと一番願っているのは、ほかでもないジブリの人達ではないでしょうか。
もし、「千尋」DVDに問題があるとジブリが判断すれば、抗議があろうとなかろうと修正版を発表するでしょう。逆に、現在の状態で問題はないと判断しているならば、どんなに抗議や疑問が相次ごうとも「修正版」など発表することはないでしょう。そのどちらでもないとしたら何か余程の事情があるということになりますが、憶測で詮索しても仕方ありません。
こう書いても、まだ納得出来ない人がいるかもしれません。
DVDに収録されている色信号のバランスから欠陥説を譲らない人もいる位ですし。
それなら、視点を変えて、また別の考えをしてみたらいかがでしょう?
「千尋」はもともと3時間位で展開される物語だったそうです。しかし、3時間で作ると公開が1年延びるから、無理矢理2時間に圧縮して公開されました。つまり、公開日の都合で3時間の物語が2時間になってしまったのです。この「失われた1時間」に比べたら、DVDの色合いなど大した問題ではないと思いませんか?色合いは好みで調整出来ますが、1時間分のエピソードはもはや想像力で補うほかないのですから。(というか、想像力で補う楽しさに気付いたら、色合いなどますます意味をなさなくなるような気がしないでもありません。)
「それとこれとは別問題だ」といって、まだ頑張る人がいるかもしれません。
でも、私はもうそろそろ終わりにしたいです。悪しからずご了承ください。
何か動きがあればニュースになるはずですから、それを待ちましょう。
数多くの激励・アドバイスのメールをいただきました。ありがとうございます。
|
|