ホテル ★★☆
(Hotel)

1967:US
監督:リチャード・クワイン
出演:ロッド・テーラー、カトリーヌ・スパーク、ケビン・マッカーシー、マール・オベロン


<一口プロット解説>
ある豪華ホテルの中で起こる人間模様の描写。
<雷小僧のコメント>
アーサー・ヘイリーの原作に基く映画なのですが、ニューオーリンズにある豪華ホテルの中で繰り広げられる数々のドラマを相互の関連にはあまり気にしないで描くというスタイルを取っています。まあ、オムニバスにしてもいいようなものなのですが、一応ある特定の豪華ホテル内という共通項があるのでオムニバスにはなっていません。似たような映画に「カリフォルニア・スイート」(1978)という映画がありましたが、この映画もあるホテル内で繰り広げられる数々のドラマをコメディタッチで描いています。「カリフォルニア・スイート」の場合には、アラン・アルダ+ジェーン・フォンダ、マイケル・ケイン+マギー・スミス、ウォルター・マッソー+エレン・メイ、リチャード・プライヤー+ビル・コスビーその他というカップル或いはグループがまったく一度も互いに出会うことなく描かれているのでほとんどオムニバスと言ってもいいのですが、それぞれのエピソードを細切れにして交互に配置するという奇妙な構成を取っています。しかも、アルダ+フォンダのエピソードはほとんどシリアス・ドラマ、プライヤー+コスビーのエピソードは完全なスラップスティックというようにエピソード間の気分が全然違うという分裂症的症候群に陥っています。それでも、「カリフォルニア・スイート」にそれ程違和感がないのは、基本的にはこの映画がコメディであると認証されているからかもしれません。それから、こういう構成をむやみやたらに好むのが、監督のロバート・アルトマンです。まあ、実生活においてはどちらかと言うと事象が単線的に進行することはほとんどあり得ないので、こういう映画の方が実生活により近いと言えるのですが、我々は映画というものにリニアな進行を期待するという一種の心理投射を行う故に、こういう映画を見ていると何か焦点がないようで散漫なイメージを持つのが普通なのかもしれません。要するに単線的な物語的な見方というのは、おそらくアプリオリなものではなく獲得されたものであると思いますが、映画を見る時に我々が投射するのはそういうリニアな見方なのでしょう。いずれにしろ、私目はどちらかと言うとこういう映画も好きなのでそれ程散漫であるとは思いませんが、見る人によっては何これ?と思えるかもしれませんね。
ところで、この映画は単線的ではないと言っても、ロッド・テーラーがジェネラルマネージャーを勤めメルビン・ダグラスが所有する豪華ホテルをケビン・マッカーシーが買収しようとするメインプロットがあります。メルビン・ダグラスは、昔ながらのファーストクラスホテルの維持を経営方針としているのですが、時代が変わってどんどん赤字が累積し、いよいよホテルを売却しなければならなくなります。そこへ現れるのが効率機能第一主義で目標は全自動ホテルであるとうそぶくケビン・マッカーシーです。たとえば、エントランスホールではあらゆる無駄な装飾物を排除してキオスクを配置し、単位面積当たりから得られるだけの収益を得ようとするわけですね。ニューオーリンズと言えばアメリカでも伝統を誇る街だと思うのですが、恐らくこの映画が製作された60年代の半ばの世相の変化というのが、まさにメルビン・ダグラス的経営感からケビン・マッカーシー的経営感へのチエンジを通じて伺い知れるような気がします。
それから、こういう映画は、カメオ出演を含めて大勢の有名俳優が出演するのが普通なので、そういう楽しみ方もあります。近年でもロバート・アルトマンの映画では、これでもかこれでもかというような有名俳優のカメオ出演を見ることが出来ますね。この「ホテル」にも、ロッド・テーラーを筆頭に当時のかなり知られた俳優が大勢出演しています。ロッド・テイラーは、オーストラリア出身であり、言ってみればメル・ギブソンやジュディ・デイビスらの偉大なる先輩ということになるのですが、この人が60年代前半にボックスオフィスのトップを維持していたということは今ではほとんど忘れられています(今でもたまに映画出演しているようですね)。彼が出演した映画で最も有名なのは、あのヒッチコックの「鳥」(1963)でしょう。私目は、この人は最も1960年代的な俳優の一人であると思うのですがいかがなものでしょうか。それからフランス女優のカトリーヌ・スパークが出演しています。カメオ出演を除けば、この映画がほとんど彼女が出演した唯一の英語映画なのではないでしょうか。カギ泥棒を演じるのが、丸鼻で有名なカール・マルデンでここでも奇妙な味を出しています。それから、最も注目すべきがマール・オベロンでしょう。この映画がほとんど最後の映画出演になると思うのですが、この映画ではもう60歳近いはずなのにとんでもない魅力を発揮しています。どちらかというと東洋系の顔立ちをしているので、あちらではほとんど神秘的とも評されているような女優さんです。さらに、いかにもセコそうな私立探偵を演じるリチャード・コンテ(フランク・シナトラの映画によく顔を出します)、ロッド・テーラーのホテルを買収しようとするケビン・マッカーシー(声が素晴らしい)、ホテルの実のオーナーを演じるメルビン・ダグラスと味のあるどちらかというと渋目の俳優が次々に登場して楽しませてくれます。
こういう映画は、たとえばアクション映画しか見ないとか、「十二人の怒れる男」(1957)のような緊迫した映画しか見ないという人には、気の抜けたリボンシトロン粉ジュースのように思えるかもしれません。どちらかというと60年代というのは、高度経済成長前あるいはその初期だったのでそれから比べると散漫な時代だったのかもしれませんが(よく考えてみると、アメリにカは高度経済成長はあまり関係ありませんでしたね)、私目はどちらかと言えば散漫な御仁なのでこういう映画も悪くはないなと思います。ただ1つ細かい指摘をさせて頂くと、エレベータのブレーキが故障して下まで落ちてしまい死人が出たというのに、次の日何もなかったように営業が行われているのは、いくら当時のアメリカでもあり得ないのではないでしょうかね。即刻業務停止でしょう。

1999/04/10 by 雷小僧
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp